球磨川禊は実力至上主義の世界で何を思うのか。   作:しゅうや

5 / 5
第四敗『好きなだけですよ』

ぼくは今、茶柱先生に放送で呼ばれて職員室に

来ている。ぐるっと見回すが茶柱先生の姿は見え

ない。仕方ないので鏡で自分の顔をチェックしている

先生に声をかけよう。

 

「『あのー、茶柱先生いますか?』」

 

「え? サエちゃん? えっと、さっきまでは

いたんだけど…」

 

振り返った先生はセミロングでウェーブのかかった

髪型の今時の大人って感じの人だ。親しそうに茶柱

先生のことをちゃん付けで呼んでいるのが気になる。

 

「『今いなさそうなので、廊下で待ってます』」

 

ぼくは廊下で待っていると、若い先生がひょっこり

廊下に出てきた。

 

「私はBクラスの担任の星之宮知恵っていうの。

佐枝とは、高校の時からの親友でね…。

サエちゃんって呼び合う仲なのよ~」

 

高校の時からの親友か… だからあんなに親しそうに

接していたのか。それにしても…

 

「ねえ、サエちゃんにどういう理由で呼び出された

の? ねえねえ、どうして?」

 

何なんだこの軽いノリの先生は、茶柱先生とは

真逆の性格だ。 本当に親友だったのか…?

 

「何やってるんだ、星之宮」

 

突然、現れた茶柱先生が星之宮先生の頭を

しばいた。痛そうに頭を押さえて蹲る星之宮先生。

 

「いったぁ。何するの!」

 

「うちの生徒に絡んでるからだろ」

 

「サエちゃんに会いに来たっていうから、

不在の間相手してただけじゃない」

 

「放っとけばいいだろ。待たせたな球磨川。

ここじゃなんだ、生活指導室まで来て貰おうか」

 

「『そんな密室地帯に連れ込んで一体なにを…

はっ! まさかぼくに愛の告白ですか?

安心してください先生、あなたみたいな美人の

告白を断るつもりなん───』」

 

「いいから黙ってついてこい」

 

ぼくの言葉を途中で遮り、歩きだした。つれないな。

一緒に歩きだすと、ぼくの横に並び笑顔の星之宮先生

もついてきた。それに気付き、茶柱先生は鬼の形相で

振り返る。

「お前はついてくるな」

 

「冷たいこと言わないでよ~。聞いても減るもん

じゃないでしょ? だってサエちゃんって個別の

指導とかはしないタイプでしょ? なのに新入生

の子をいきなり呼び出すなんて何か狙いがあるの

かなぁ? って」

 

「もしかしてサエちゃん、下克上でも狙ってる

んじゃないのぉ?」

 

「『下克上? なんですかそれ?』」

 

今までの騒動と照らし合わせると、気になったので

聞いてみた。

 

「バカを言うな。そんなこと無理に決まってる。

いいから早く行くぞ、それと星之宮、お前は

ついてくるな、これはDクラスの問題だ」

 

そう強く言ったら星之宮先生はついてこなくなった。

てか下克上のことについては…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『それで…どうしたんですか?

こんな密室でぼくに襲われても文句は

言えませんよ』」

 

「安心しろ、プールで泳いでたら溺れて意識を

失う奴に負けるつもりはない」

 

そう言うとぼくの腕を持っていきなり

 

「余計なことはするな。黙ってここ入ってろ。

いいか、私が出てきて良いと言うまでここで

物音を立てずに静かにしてるんだ。破ったら

即退学とする」

 

「『え、ちょ、まっ────』」

 

説明を受けることもできず、給湯室のドアが閉めら

れた。 一応言われた通り静かに待っていると程なく

して指導室のドアが開く音がした。

 

「まあ入ってくれ。それで、私に話とはなんだ?

堀北」

 

指導室を訪ねて来たのは鈴音ちゃんか。この時点で

ぼくと鈴音ちゃんを鉢合わせさせようとしたのが

分かる。意味のないことをするタイプには見えない

からね…。

 

「率直にお聞きします。なぜ私が、Dクラスに

配属されたのでしょうか」

 

「本当に率直だな」

 

「先生は本日、クラスは優秀な人間から順に

Aクラスに選ばれたと仰いました。そして

Dクラスは学校の落ちこぼれが集まる最後の

砦だと」

 

「私が言ったことは事実だ。どうやらお前は

自分が優秀な人間だと思ってるようだな」

 

「入学試験の問題は殆ど解けたと自負しています

し、面接でも大きなミスをした記憶はありませ

ん。少なくともDクラスになるとは思えないん

です。」

 

「入学試験は殆ど解けた、か。本来なら入学問題の

結果など個人に見せないが、お前には特別に

見せてやろう。そう、偶然ここにお前の答案の

用紙がある」

「随分と用意周到ですね。……まるで私が抗議に

来ると分かっていたようです」

 

「これでも教師だ。生徒の性格はある程度理解

しているつもりなんでな。堀北鈴音。お前の

入試結果は自分の見立て通り、今年の1年の

中では同率で3位の成績を収めている。一位

二位とも僅差。十分すぎる出来だな。面接も

注意視される問題点は見つかっていない。

むしろ高評価だったと思われる」

 

「ありがとうございます。では──何故?」

 

「その前に、お前はどうしてDクラスで

あることが不服なんだ?」

 

「正当に評価されていない状況を喜ぶ者など

いません。ましてこの学校はクラスの差に

よって将来が大きく左右されます。

当然のことです」

 

「正当な評価? おいおい、お前は随分と自己評価が

高いんだな」

 

茶柱先生は失笑、あるいは単純な笑いなのか、を

鈴音ちゃんに対して浴びせる。

 

「お前の学力が高いのは認めよう。確かにお前は

頭がいい。だけどな、学力に優れた者が優秀な

クラスに入れると誰が決めた? そんなことを

我々は一度も言っていない」

 

「それは───世の中の、常識の話をしているん

です。」

 

「常識? その常識とやらが今のダメな日本を

作ったんじゃないのか? ただテストの点数だけ

で人間を評価し、優劣を決めたいた。その結果

無能な人間が上で幅を利かせて本当に優劣な

人間を蹴落とそうと躍起になる。結局最後に

行きつくのは世襲性だ」

 

「確かに勉強が出来るのは1つのステータスだ。

それを否定するつもりはない。しかし、この

学校は本当の意味で優秀な人間を生み出す為の

学校だ。それだけで上のクラスに属されると

思ったら大間違いだ。この学校に入学した者には

それを一番最初に説明しているはずだがな。

それに冷静になって考えてみろ。仮に学力だけで

優劣を決めていたのなら、球磨川や須藤たちが

入学できたと思うのか?」

 

「っ……」

 

この学校は日本屈指の進学校にも関わらず、勉強

以外で入学できている生徒がいる。 事実ぼくは

入試テストで歴代最低点数を取ったものの、

入学できたからねっ!

 

「私がDクラスに配属されたのが事実かどうか、

採点基準が間違ってないか再度確認をお願い

できませんか?」

「残念だがそれに関してのミスはない。お前は

Dクラスになるべくしてなった。それだけの

ことだ。それと堀北、Aクラスに上がらないと

ダメな特別な理由でもあるのか?」

 

「それは…今日の所はこれで失礼します。

ですが私が納得していないことだけは

覚えておいてください。」

 

「分かった、覚えておこう」

 

どうやら話し合いは終わったようだ。

「あぁそうだった。もう一人指導室に呼んでいた

んだった。お前にも関係のある人物だぞ」

 

「関係のある人物……? まさか兄さ──」

「出てこい球磨川」

 

「『いつまで待たせるんですか、あそこ狭いし

暑いから死ぬかと思いましたよ、あ、

やっほー鈴音ちゃん! さっきぶり。』」

 

突然のぼくの登場に鈴音ちゃんは驚き戸惑っている。

 

「私の話を……聞いていたの?」

 

「『ぼくは嘘が嫌いだからね、何を話してるか

分からなかったよ、以外と壁が厚いんだね』」

 

「早速嘘をついたな球磨川。給湯室はこの部屋の

声が良く通るぞ?」

 

どうやら茶柱先生はぼくをこの土俵に引きずり

出したいらしい。

 

「先生……何故このようなことを?」

 

「必要なことと判断したからだ。

さて球磨川、お前を指導室に呼んだワケを

話そう。」

 

「私はこれで失礼します……」

 

「待て堀北。最後まで聞いておいた方がお前の

為にもなる。それがAクラスに上がるための

ヒントになるかもしれないぞ」

 

「手短にお願いします」

 

「さて球磨川、率直に聞こう。

お前、何者なんだ?」

 

「『それ前も鈴音ちゃんに聞かれましたよ?

質問が漠然とし過ぎて意味がわからない

ですよ』」

 

哲学か何かかな? でもそういう本読んだこと

ないからわかんないんだけどね。

 

「では質問を変えよう、お前はどこの中学校に

通っていたんだ?」

 

「先生…それは入試の時の資料か何かで

絞り出せるんじゃないんですか?」

 

「実はこいつの過去に関するありとあらゆる

データがなかったことになっているんだ。」

 

その言葉に鈴音ちゃんが驚きこちらを見る。

 

「『仮にそういうことにしましょう、でもそれに

ついてぼくは答える義務もないし義理もない

でしょ?』」

 

ここまでは日常茶飯事、ぼくは負け戦なら百戦錬磨

だからね。

 

「そうか…あくまで教えるつもりはないと。

まぁいい、そこまでは予想していた」

 

あれ、けっこうあっさり引くんだね、もっと

粘ってる来ると思ったのに。

「だが、これだけは聞きたい、お前はこの学校に

来て何をするつもりだ?」

 

わお、これもぶっ飛んだ質問だね…まるでぼくが

この学校にいつでも制裁を加えれる、そう思わせる

ような質問だ。

 

「『何を……ねぇ。 その前に1つだけ。

星之宮先生が言っていた下克上について

教えてもらってもいいですか?』」

 

「言葉通りだ、DクラスがAクラスに上がる。

それを私が狙っていると思ってたんだろ。

あいつは。」

 

「『なるほど、大方ぼくの予想通りだ。

茶柱先生…1つだけ聞きますよ』」

 

「『あなた、下克上を本気で狙ってるんじゃ

ないんですか?』」

 

ぼくがいつもの雰囲気を変え、そう聞くと先生は

一瞬驚いた顔になり微笑んだ。

 

「仮に、仮に私が下克上を狙ってるとしよう、

そうだったらどうするんだ?」

 

「『茶柱先生は言いましたよね、Dクラスは

落ちこぼれが集まる最後の砦だと』」

 

「『その時点で彼らにぼくは味方します、

ぼくはいつでも善悪を問わず弱い子の

味方をするって決めてるので』」

 

「なにを言いたいんだお前は」

 

「『Aクラスを目指すのに協力しましょう。

丁度鈴音ちゃんもAクラスに興味がある

みたいだしね』」

 

そう言うと茶柱先生が笑いだした。

 

「お前は本当に面白いな。Dクラスは今まで

Aクラスどころか、Cクラスに上がったことさえ

一度もないんだぞ。できるのか?お前に」

 

「『ぼくはただ好きなだけですよ、スリルと

リスクで神経を削る、分の悪い賭けって

奴がね』」

 

そう言って、ぼくは生活指導室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、そうか、少しだけ付き合ってみるか。

あいつのすがりつきたくなるような嘘に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後堀北空気すぎた…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。