カリオストロとクラリスがどっちが可愛いかを料理で争う内容です
ギャグ100%

アストレイ・アルケミストの前に書いたものです

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おろしがねの錬金術師

 普段は組むことのない二人の仲を、世界の均衡を守るジ・オーダー・グランデの加護の編成により、崩されることとなった。

 

「オレ様が世界一かわいいに決まってんだろ?」

「クラリスちゃん最カワっ☆」

 

 勝ち名乗りを上げたあと、二人の目線の間で激しく火花が散った。

 

「世界一ってのはなぁ、二人いちゃいけねえんだ。同列一位なんてオレ様は認めねぇ!」

「最カワを名乗れるのはこのクラリスちゃんだけだって宇宙創成から決まってるんだよっ☆ いぇいっ☆」

「なんならどっちがかわいいのか決めようじゃねえか!」

「のぞむところっ! いいよね、グラン?」

「……まあいいんだけど。まだ敵残ってるんだよな」

 

 グランサイファーに戻ったあと、三人で夕食を食べる。普段、一緒に食事をすることはないのだけれど、カリオストロに「話とかがある」と言われたのだ。とかってなんだ。

 

「グランはオレ様と小娘のどっちがかわいいと思うんだ?」

「可愛いって言っても好みは人それぞれだし。まあ僕はジータが一番可愛いと思うけど」

「ああ?」

「カリオストロが一番かわいいですからウロボロス出さないで!」

 

 夕食を食べている僕が危うくウロボロスの夕食になるところだった。食物連鎖。

 

「こんな野蛮な女はかわいくないよね。というわけでウチの勝ちっ☆ 審査員クラリスちゃんによりは最カワはクラリスちゃんで決まりっ☆」

「なんだとコラ!」

 

 食卓は賑やかな方がご飯はおいしいというが、賑やかすぎると味を感じなくなるんだなと思った。

 

「というかさ、勝負して決めるんじゃないのか?」

 

 このままでは二人の言い合いが終わらない。

 

「ああそうだな。片方の存在が消えれば必然的にもう片方が一番かわいいってことになるよな」

「そういうガチな勝負じゃないんだけど」

 

 というより、世界中の女を殺せば一番かわいくなれるという理論は間違ってないけど、一番ブサイクでもあるような。

 

「穏便に勝負してくれよ」

「といっても何で勝負すりゃいいんだよ。グランサイファーのやつらに聞いて回って多数決か?」

「いや、グランサイファーの内部で決めても世界一かわいいってことにはならない」

 

 というのは建前だ。過去にグランサイファー杯かわいいコンテストをやった結果、女装させられたヴァイト君が優勝した。今回もそうなれば話がややこしい方向に向かうので避けたかった。

 

「じゃあどーするの? やっぱり不戦勝でラリスちゃんが一番かわいいってことにする?」

 

 不戦勝の意味わかってるのか?

 

「うーん。料理勝負なんてどうだ?」

「料理だぁ?」「料理ー?」

 

 二人は異口同音に聞き返す。

 

「ああ。かわいさっていうのは外見的なものじゃない。人それぞれ好みが違いすぎるからな。けど、料理をする女の子をかわいく思うってのは男なら万国共通、年齢貧富種族関係なくみんな感じることだと思うんだ。どうだ?」

 

「料理か……。作ったことねぇけど最強の錬金術師のオレ様に不可能はない」

「どっかーん☆ってやればいいんでしょ? らくしょーらくしょー」

 

 料理と錬金術はどちらも作るという作業のせいか、二人は納得した。

 

「で、オレ様の手料理を食える幸せな審査員はどうするんだ?」

「それが候補がいなくてな」

「ああ? この挺にゃ料理詳しいやつがたくさんいんじゃねーか」

「それがダメなんだ」

 

 グランは悩ましげに首を振った。

 

「ローアインは?」

「惚れ薬使えばキャタリナさんが俺にメロメロスイカメロンじゃね? とか言ってガンダゴウザに薬入りのご飯をつまみ食いされてた」

 

「ヴィーラは?」

「私ったら砂糖と青酸カリを間違えてしまいましたわって言ってた」

 

「イッパツは?」

「ラーメン以外は口にする気が起きないらしい」

 

「チャーハンのヤイアは?」

「キッズ舌だし」

 

「煎餅のロジーナばあさんは?」

「入れ歯洗浄中」

 

「食べることなら大得意のルリアは?」

「つよばはっておいしいのかなって言ってた」

 

「カタリナは……聞くまでもねえか」

「だから候補がいないんだよ」

 

 今度はカリオストロが頭を抱えた。

 

「あああ、この挺にはまともなやつがオレ様しかいねえのか!」

「君、よく人のこととやかく言えるね」

「ああ?」

「なんでもないです今日もいい天気ですね」

 

 カリオストロはやれやれとばかりに椅子に深く腰掛けた。

 

「ま、この際だからグランでいいんじゃねーの」

「僕は料理のこと詳しくないし」

「平気だろ。お前、アサシンとか賢者とかレスラーとかスーパースターとかガンスリンガーとかひよこ鑑定士とかやってんだから、コックとか栄養士とかやるんじゃねーの」

「ひよこ鑑定士はやってないぞ……」

「とにかくやれ! 団長命令だ!」

「団長は僕だ!」

 

 しょうがない。一人だと責任重大だからジータとビィを呼んで道連れを増やそう。

 

 グランサイファーのキッチンは広い。というのも、大人数の食事を作るからなのだけれど、最近は人数が増えすぎてザンクティンゼルの人口を超えた。

 

「よっし、錬金術の神髄見せてやるぜ!」

「クラリスちゃんのハイパー錬金術をとくとご覧あれっ☆」

 

 グランはテーブルに肘枕をついていた。

 

「……あのさあクラリス、前から思ってたんだけど。君が探してる錬金術師の開祖って隣にいるカリオストロじゃないのか?」

「違うよ」

「なんでだ?」

「だって、錬金術師の開祖って白いあごひげとか生やしてローブ目深にかぶってフォフォフォとか笑いそうな人だし。イメージ的に!」

「いや、開祖はオレ様なんだが」

「アレーディアって名乗ってるおじーさんが怪しいと思ってるんだよねー。フォフォフォとか笑いそうだし! イメージ的に!」

「いや、開祖はオレ様」

「はー。早く見つけないと実家に怒られちゃうなー」

「人の話聞けよ!」

 

 グランが割って入ってたしなめる。

 

「まあまあ。とりあえず始めよう。終わらないし」

 

~十分後~

 

 着替えてきた二人が現れた。

 

「そんじゃ美少女錬金術師の名はダテじゃないってところを見せてやるぜ!」

「……。それはいいんだけど。…………なんで裸エプロンなんだ?」

「だって~料理は愛情っていうもんっ☆ おいしくなーれって愛の魔法を使うにはね、かわいい恰好かじゃないといけないんだよぉ☆ オレ様の綺麗なケツに見とれちまうだろ? カリオストロったらかわいすぎてこまっちゃう~☆」

「キャラ作るのか作らないのか統一してくれ」

 

 料理する時に油や熱湯が跳ねることもあるって知らないのではないか。本人がいいならいいか。

 

 対するクラリスはきちんとエプロンをつけている。包丁を二刀流しているのは見なかったことにしておこう。

 

 カリオストロとクラリスはお互いの恰好を見て、勝ったなという確信に満ちた表情をしていた。普通の人から見たら裸エプロンも二刀流も料理をする時の装備ではない。

 

「よし、やるぞ!」

 

 カリオストロは自分に気合を入れるかのように声を張り上げた。

 そしてはぁッ! という掛け声とともに、食材を宙に放り投げた。

 

 ……さすがは錬金術師の開祖。何かを作ることに関しては超一流ということか!

 カリオストロが右手に構えて包丁が一閃し──銀色の軌跡が風を切る。

 逆手に持った包丁が意思を持ったかのように照明を反射して鈍く光った。

 

 そして……

 

 食材が無傷のままぼとり、ぼとりと地面に落ちる。

 

「…………」

「…………」

「おい、カリオストロ」

「おかしいな。本だとこれでいいはずなんだがな。本が間違ってるのか?」

 

 自分が間違ってるという発想はないらしい。

 何の本を読んだのかは察してあげよう。伝説の料理人が旅をするとか料理で世界を救うとかそういう類のやつだ。

 

 これはクラリスに分があるかもしれない。

 

 クラリスが作るのはどうやら魚料理らしく、板の上に魚が乗っている。それを見たカリオストロが野次を飛ばす。

 

「なんだぁ。その材料は? 死んだ魚のような眼をしてるじゃねぇか!」

 

 そりゃ死んだ魚だからなぁ……。

 

「そっちだって! 植物や動物の死骸を使ってなにしようっていうのさ!」

 

 料理は死骸の寄せ集めとも言えるけど、もうちょっと言い方があるだろうに。

 

 クラリスはかたわらに料理の本を開いていた。カリオストロとは違って参考書物がまともだ。これなら案外いいものができたりするかもしれない。期待に胸が膨らむ。

 

「……包丁ってなんだっけ?」

 

 そこからかい! 普通に生活していれば多少は料理できるようになるだろうに、一体どういう人生を送ってきたんだ。

 

 ほどなくして錬金料理が完成した。グランの両脇に審査員のジータとビィがいる。

 

「わたし、審査員なんて自信ないよぅ……」

「オイラは海原雄山!」

 

 グラン達三人の前には完成した料理と衝立がある。この衝立は主にカリオストロが視線で脅しをかけないようにとクラリスが設置したものだ。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

 一つずつ料理を口にしていく。無難な味とでも表現すればいいだろうか。まずくはないけれどおいしいわけでもない。甲乙つけがたい。

 

 しかし、ある料理を食べたところで目が覚めるような感覚があった。

 

「う、うまい」

 

 ジータもそれを口にする。

 

「こ、これは薄味でありながらいくら食べても飽きのこない深みがあり、まるで家庭料理の極みとでも言うべきでしょうか。食べたことがないはずなのに故郷を思わせる味……さらに見た目も素晴らしく、色彩鮮やかで目を楽しませることも忘れておらず、色とりどりの花を思わせるセンス。そして、あたかも川のせせらぎのように舌から喉へ落ちていく食感……すばらしい」

 

 ジータちゃん、自信ないって言ってなかったっけ?

 続いてビィ。

 

「わかりやすく言うと、リンゴ作って七十年のシュヴァイツァー・フォン・田中さんが作った最高傑作のリンゴであるエデンより少し劣るくらいにうめーな!」

 

 どこがわかりやすいんだ。

 僕も二人に負けないくらい、凝った評価をしなくてはならない流れだ。ここはひとつ、カッコイイところを見せてやろう。

 

「うん、これは…………うまいな」

 

 それしか思いつかなかった。語彙の貧弱さが恨めしい。

 カリオストロはオレ様の料理の味がわかるなんていい舌してるじゃねぇかと言わんばかりと笑みを浮かべており、勝利を確信していた。

 

 対するクラリスはなぜかあまり興味なさそうによそ見をしていた。

 

「で、聞くまでなくオレ様のだろうけどよ、その料理はなんだ?」

「んーと。汁にご飯が浸してあって……雑炊?」

「あ?」

「よくわからないけど米を使ってるやつだな」

「あん? そんなもんオレ様は作ってねぇぞ」

「天才頭脳明晰美少女錬金術師クラリスちゃんも違うもーん☆」

「え」

 

 グランとカリオストロとクラリスが異口同音に言った。

 

「じゃあ誰?」(グ)

「誰ンだよ」(カ)

「どっかーん☆」(ク)

 

 そこへすっと現れた一つの影。

 

「アタシよ」

 

 三人(一人は爆発の擬音だが)の疑問に答えたその人は……ファスティバだった。

 

「面白そうなことしてるから参加してみたのよ。漢女のたしなみとして料理の一つや二つできないとできなくっちゃダメよね。グラン君が食べたのはお茶漬けっていう料理で、別の空域にあるジャパンという島のものらしいわ」

 

「なんでそんなマイナーなの知ってるんだ?」

 

「ふふっ、漢女たるもの旦那となる殿方においしいご飯を作ってあげなくっちゃ。一日三回食べるからレパートリーを増やして色んな味を楽しめるようにして、しかも栄養面も充分という風にしないといい奥さんにはなれないわよね」

 

 ジータちゃんが家庭的と評したのはそういうファスティバのこだわりから生まれたのかもしれない。

 ともかく、審査員全員、満場一致で勝者が決定した。

 

「一番かわいいのはファスティバに決定!」

 

 カリオストロが叫んだ。

 

「ちょっと待てやぁぁぁっ!!」

「なんだ?」

「なんだも何もないだろが! なんでファスティバが一番かわいいんだよ、納得するわけねぇだろそんなもん!」

「だって優勝したし……」

 

 そこへクラリスが割って入った。

 

「はーい、ハイパー最カワれんきんじゅちゅしのクラリスちゃんが意見言いまーす☆」

 

 噛んでることには追及しないで、その意見とやらを聞くことにした。

 クラリスが続ける。

 

「グランサイファーでの料理担当はローアイン。料理できるとかわいい。ローアインはかわいくない。これがどういうことかわっかるかなー☆」

「……料理とかわいさは無関係?」

「うーん、ちょっと違うかなー。まず最カワ美少女というベースがあって、それに料理の上手さがあるとベースを引き立てる効果があるわけで、外見がイマイチだと別にかわいくともなんともないってわけだね☆」

「つまり、ベースを競い合うべきだったってことか」

 

 クラリスがあまり興味ないような態度を取っていたのはそれに気づいていたからか。

 

「それでねー、だから人材豊富なグランサイファーを世界の縮図として普通にかわいいのは誰か投票をすれば良かったんだよね。ヴァイト君は殿堂入りでね」

 

 種族年齢が多種多様に至るグランサイファーは確かに小さな世界と言えるかもしれない。その中で競えば全世界の人に聞いて回るのと同じ結果が得られるということだ。

 

「つまりこの料理勝負は無意味だったと。頑張りは空回りだったと」

 

 一番躍起になっていたカリオストロはがくりと膝をついた。翼をもがれ、地を這うように。

 こうして一騒動の幕は下りた。

 

 空はどこまでも広く、そして蒼かった。

 

「このオレ様がこんな……ありえねぇ。修行の旅に出ることにする」

「もう出てる」

 



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