たぶん、そのうちに過去編においての成り代わりチチさんの心境とかも明らかになっていく筈……!
「悟空さ、ちょっと座ってけれ。」
「ん?何だよチチ、オラこれから修行に行こうと…。」
心尽くしの妻の手料理をたらふく食べ、さて午後の修行に行こう、と腰を上げかけた悟空だったが、それを
「すぐ済むだよ。5分もかからねぇだ。」
「…それなら、まぁ…。」
ふわり、と柔らかく微笑まれ再度
「これにサインして欲しいだよ。そったらオラの用事は終わるだ。」
「サイン?」
ペンと共に差し出された書類に目を落とす。何気無く見た
「チ、チチ…?」
「何だべ?」
恐る恐る妻に目を向ける悟空だったが、柔らかな表情でいっそ不思議そうに見返すその姿からは、怒りや悲しみといった感情は読み取れない。
しかし…、
「お、おめぇ怒ってるんか…?」
自分も見抜けない程に綺麗に怒りを隠している可能性も捨て切れない、とおずおずと悟空が尋ねるが、
「?何かオラが怒るような事でもしたのけ?」
全く普段通りの様子で聞き返された。
「い、いやだってこれ…。“離婚届”って、離婚する時に書くヤツだろ…?オラでも分かるぞ。」
声が震えないように意識を最大限に注意して尋ね返した悟空に、相対するチチはああ、と納得したような様子を見せる。
「怒ってる訳じゃねぇだよ。そんなにびっくりしただか?」
不思議そうな様子で言い放つ妻の姿に、悟空は一瞬訳が分からなくなった。
「だって、おめぇ…。じゃ、じゃあオラの事が嫌いになったんか?!」
「?そったら事ある訳ねぇだ。オラの気持ちは昔から変わらねぇだよ。悟空さの事が一等好きだ。もちろん、悟飯ちゃんや悟天ちゃんもな。」
ニコニコと微笑む姿はいつもの妻と何ら変わり無い。
しかし、だとしたら何故こんなものを持ち出すのか。
自分でも顔に出ていると分かる程の悟空の困惑を正確に読み取り、チチが微笑みを浮かべたまま切り出す。
「オラは悟空さが好きだ。それはこっからも変わんねぇ。でも、もう大丈夫だよ。」
「チチ…?」
大丈夫、とは一体何の事だと悟空が首を傾げる。
「悟飯ちゃんもすっかり立派になって無事にビーデルさと結婚したし、もう1人前だ。悟天ちゃんももう12歳。オラと悟空さが初めて会った時の年になっただ。だから、悟空さ…。おめぇさももう自由に生きていいだよ。」
「へ…?」
困惑する悟空をよそに、チチが続ける。
「おめぇさは本当だったら、家庭に収まるような小さい男じゃねぇもんな…。それを小せぇ頃の“約束”を盾にするような真似しちまって…。今まで悪かっただよ。でも、嬉しかっただ。小せぇ頃からの夢を叶えてもらって、可愛い息子も2人も授かって…。本当にオラは幸せもんだ。」
柔らかな、本当に幸せそうに微笑む妻の姿と、言っている内容が上手く悟空の中で合致してくれない。
自分だって妻を愛している。そりゃあ、最初は“約束”を果たす為の義務のようなものだったが、それでも一緒に暮らしていくうちに彼女の存在に安らぎを覚えるようになった。
かつて祖父と暮らしていた時のような、それよりも温かく優しい気持ちになれる。
「オラだって、おめぇが好きだぞ?」
だから、ストレートに口に出してみた。このままだと取返しの付かない事になる、という確信の元に。
「…嬉しいだよ。」
先程までとも違う、本当に嬉しそうな顔でふわり、とチチが微笑み、悟空の顔も明るくなる。
「だったら、」
「でも。」
しかし、妻が続けた。
「オラの“好き”と、悟空さの“好き”は違うだよ。」
「違うって…。」
彼女の言葉に、悟空も一瞬言葉に詰まる。
「悟空さの“好き”はブルマさやクリリンさと同じ“好き”だべ?オラの“好き”とは違うだ。」
「っ、そんな事ねぇ!」
嬉しそうな笑顔から一転、切なそうに微笑むチチを何とか明るい笑顔に戻したくて悟空が叫ぶ。
「そんな事あるだよ。…だって、悟空さ、オラと会えなくても平気だべ?」
「平気って…。」
「おめぇさは家庭に縛られるような小せぇ男じゃねぇもの。もちろん、悟飯や悟天の事を可愛がってくれてんのも分かるだ。でも、1番じゃねぇだろ?」
切なそうに微笑んだまま告げられたチチの言葉に、咄嗟に悟空は反論出来なかった。
「どんな時でも、強ぇヤツが現れたらそいつを倒す事しか考えられなくなる…。おめぇさが悪い訳じゃねぇ。たぶん、サイヤ人の
一瞬、本当に一瞬だけだが。
悟空はその提案に魅力を感じてしまった。
誰にも邪魔をされる事無く、朝から晩まで修行に集中出来る。それは、悟空にとってはとても嬉しい事だった。
……チチもそれを感じ取ったのだろう。
「…ほら、な?」
最後に1つ微笑むと、ガタリと席を立つ。
はっと、その音で悟空が妻に意識を戻すと彼女は既に部屋を出て行こうとしていた。
「っチチ…!」
「……悟天ちゃんを迎えに行ってくるだよ。ちゃんとあの子にも話さなきゃなんねぇし、今日で最後だからな、とっておきのご馳走作るから買い物もして来るだ。
そう言い置いて出て行く妻を、悟空は引き留める事が出来なかった。