成り代わりチチさんの離婚計画   作:ミカヅキ

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お待たせしました!成り代わりチチさん第2話です。
何となく、ドラゴンボールZを観返していて、良く離婚しなかったな、とふと思い付いて投稿してみたのですが、意外と高評価のようで嬉しかったです。
評価&お気に入り登録&感想どうもありがとうございます!

さて、今回のテーマは“こじらせチチさん”と“お前、愛してるならちゃんと言えよ系男子孫悟空”でした(笑)
次回、過去編入る予定です(本来、これが過去編の筈でしたが、前ふりが意外と長くなったから分けたなんて言えない…!!)。


すれ違う想い

「…っ、これで良いべ……!」

 いつものようにカプセルコーポレーションに遊びに行った次男を迎えに行く為に呼び出した筋斗雲(きんとうん)。それに飛び乗り、西の都へと飛び立ってから数分。

 眼下に広がる景色から、自宅から充分に離れた事を確信した途端に(せき)を切ったように涙が溢れ出した。

 愛していた。心から。

 いや、今でも変わらずに彼だけを愛している。その想いはむしろ若い頃よりも強くなっているかもしれない。

 振り返ってみれば、穏やかに暮らせていたのはほんのわずかな時間だった。しかし、心から幸せだと思える数10年だった。

 可愛い息子たちにも恵まれた。望み通り、彼の傍に居続ける事が出来た。

 ただ1つだけ悔いが残ると言うならば、それは彼の“1番”になる事が出来なかった事だけ。

 ……彼なりに自分たちを“家族”として愛してくれていた事は分かっている。

 ただ、“女”としての1番にはなれなかった。

「っ、いっつも、っブルマさには…!敵わなかったもんなぁっ……!!!」

 彼も彼女も、お互いに異性として見ていない事は勿論理解出来る。しかし、何かあればすぐに相談し合い、信頼し合っているのだと傍目にも見て分かるその関係性がずっとずっと(うらや)ましかった。

 彼にとって初めて逢った女性、という事も大きいのか彼‐孫悟空は誰が見ても分かる程に彼女‐ブルマを特別視していたから。

 男女の情愛では無く、純粋な友情と仲間意識であると分かってはいるが、彼にとって、いつだって“特別”な彼女が、本当は誰よりも憎かった。

「嫌な奴だべっ……!こんな風にしか考えられねぇ…、おら、“嫌な女”だべっ……!!」

 (みにく)い。何て(みにく)い、嫌な女だろうか。

 ………こんな“嫌な女”、いくら彼が優しく広い心の持ち主でも嫌になるに決まっている。

 だから、いつもいつも置いてきぼりだった。当然だ。当然の報いと分かっていても、心が悲鳴を上げる。

 ボロボロと止めどない涙を(こぼ)しながら、チチは今のうちに、思う存分に泣こうと決めた。

 ………迎えに行く次男に涙は見せたくなかったから。筋斗雲(きんとうん)に速度を落としてもらう。

 後5分、後5分したらもう泣くのは止める。“女”としての自分から普段通りの“母”に戻る。―――――そう心に決めて、チチは声を上げて泣いた。

 誰もいない、誰も見ていない上空で独り。

 物言わぬ瑞雲(ずいうん)だけが、チチの心を理解しているかのように、殊更(ことさら)ゆっくりとスピードを落とし、限界ギリギリまで高度を上げた。

 涙に暮れる彼女の姿を、誰の目からも隠すように………。

 

 

 パタン、と軽い音を立てて閉まったドアに、悟空は動けなかった。

 頭の中で、妻に言われた言葉がグルグルと回り、思考が(まと)まらない。

「っチチ…!」

 妻の“気”が遠ざかるのを感じ、慌てて立ち上がるが、自分らしくも無くバランスを崩してしまう。

 ドッタン!ガタゴトッ……!!!

「っ!(いち)ちちちちちち…………。」

 食卓や椅子ごとひっくり返ってしまい、頭を(したた)かに打ち付けた挙句(あげく)にその下敷きとなる。

 サイヤ人である悟空や、その血を引く息子たちの旺盛(おうせい)過ぎる食欲を満たす為に、一般家庭にあるものよりも大きく重厚(じゅうこう)な食卓とそれに合わせた椅子が一気に頭の上に落ちてくると、いくら頑丈さに定評があるサイヤ人でも、痛いものは痛い。

 倒れた食卓と椅子を壊さないように慎重に元に戻しているうちに、妻の“気”は自宅から遠くへ離れてしまった。勿論、悟空ならばすぐに舞空術(ぶくうじゅつ)で追い付ける距離であり、悟空には瞬間移動もある。今すぐにでも妻の所へ行く事は可能だったが、妻の“気”が乱れているのを感じ取って動揺する。

「っチチ…?おめぇ、泣いてるんか………?」

 1度だけ、いつも笑顔だった妻が自分の前で泣いた事がある。自分が初めて死んで、生き返って再会した後の事だ。

 ベジータとの激戦の後、倒れ込んで動けない悟空の元にチチが駆け寄ってきた。ボロボロと、大粒の涙を流す黒曜石のような瞳に、一瞬状況も忘れて、柄にも無く綺麗だと思ったのを昨日の事のように覚えている。

 悟空と、愛息子が生きている事を確かめた後で息子を固く抱き締め、ただただ泣いていた。

 後にも先にも、妻が泣いていたのはその時限りだった。

 いや、自分が気が付かなかっただけで、隠れて泣いていたのかもしれない。

 家を空ける事の多い自分では、心配させた事も数え切れない。帰る度に妻に怒られたが、泣かれた事は無かった。それは、もしかして自分に気を使っていたのかもしれない。

 そう。今思い返せば、感情豊かでクルクルと見ていて楽しいくらいに表情の変わる妻が涙を1度きりしか見せない、というのもおかしい。

「おらが、我慢させてたんか…?チチっ………!!」

 ガッ…!!!

 思わず床を殴り付けようとして、寸でのところで思い留まり、代わりに自分の顔を殴り付ける。

 ジンジンとした痛みが、わずかに悟空を冷静にさせた。

 今までも、ずっと感情を抑えつけてきたのだろうか。

 そう思ったら堪らなかった。

 彼女の笑顔に癒されていた。彼女の笑顔が救いだった。

 ――――――――――その笑顔を守りたいと思った。心から。

 自分が“守りたい”と初めて思い、絶対に“守る”と誓ったのは彼女‐チチだった。

 彼女のお陰で“守りたいもの”が増えた。

 セルが地球諸共(もろとも)自爆しようとした時にも、真っ先に思ったのはチチの事だった。息子の事すら、その時ばかりは二の次だったのだから。

 彼女に、チチに息子‐悟飯を必ず生きて返すと誓ったから。その為に死ぬのならば後悔は無かった。

 後に遺される事になる彼女と、自分の最期を目の当たりにする事になる息子の事は少し心配だったけれど。息子がいれば彼女は立ち直れると、息子にならば彼女を任せられると信じていた。

 そして、それから数年して思いもかけずに再び生き返って現世に戻れる事になって、本当に嬉しかった。最愛の妻と、彼女との間に生まれた息子たちと再び暮らせるようになったのだから。

 しかし、彼女にとってはそうでは無かったのだろうか。

 自分が彼女の事を愛していない、とずっと本気でそう思って、この5年共に暮らしていたのだろうか。

 グルグルと思考が回って定まらない。

「チチ……。」

 悟空の呟きが、居間に響いて、消えた。

 




追記:成り代わりチチさんと、原作チチさんは似通ったところがありつつも別人なので、成り代わりチチさんは原作程異様な教育ママではなく、ベジータ戦後の悟空への態度もやや柔らかめ()です。ヒステリックな言動も、原作チチさんに比べれば大人しめ(ヒステリックかそうじゃないかと言われればヒステリックですが)となっております。
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