成り代わりチチさんの離婚計画   作:ミカヅキ

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お待たせしました!成り代わりチチさん更新です。
今回は、2人の馴れ初め(になっているかは微妙なところですが)です。
そして、すみません。過去編終わりませんでした……(汗)。
じ、次回こそは必ず過去編終わらせるので……!



“孫悟空”という男

 ――――――――エイジ753年5月9日。その日、世界が絶望で包まれた。

 “ピッコロ大魔王”と名乗る謎の男によって首都・キングキャッスルが占拠され、国王が王の座を追われたのである。街を1つ、容易く消滅させて見せたその男により、わずか数時間で世界中が混乱の渦の中に突き落とされた。

 しかし、それに立ち向かった者たちがいたのだ。

 そのうちの1人こそ、“チチ”の夫となり得る男‐孫悟空だったのである。

 ニュースで放送された、“ピッコロ大魔王”に立ち向かった少年。時間にしてほんの数秒、望遠カメラからの映像であった為に、恐らく他の者には分からなかっただろう。

 だが、“チチ”にははっきりと分かった。あの少年は、孫悟空だと。“チチ”が恋した、無二の存在であると。

 ()()に気が付いた時、チチは“チチ”の記憶だけでなく、改めて未来の夫に恋をしたのだ。

 “以前”の記憶が戻ってから約3年。それまでは、孫悟空への恋情が本当に自分自身のものなのか、それとも“チチ”というキャラクターに刷り込まれたものなのかが分からずにモヤモヤとしていた。

 そんな中での出来事。“ピッコロ大魔王”の強さは、テレビを通してでも震えが来る程だった。それに(おく)する事無く立ち向かった彼に、世界を救って見せた彼に、もう1度恋をした。

 そこからは、日々の修行にも熱が入った。

 世界を救った彼に、相応しい妻になる為に。

 彼に振る舞う日を夢見て料理を勉強し、彼の服を仕立てる事に憧れて裁縫を学んだ。新居で暮らす事を夢想して掃除の仕方も1から(さら)い、少しでも体に良いものを食べて欲しくて畑仕事も勉強して…。そして、彼が少しでも安らげるようにと、その心を癒す事が出来たらと二胡(にこ)を習った。

 幼い頃に出逢った彼は、嘘を()くような人では無かったから。きっといつの日か自分を迎えに来てくれると信じて。

 しかし、それから3年間何の音沙汰も無く、徐々に不安が(つの)っていった。季節が巡る度に、孫悟空はいつ迎えに来てくれるのかと勝手に期待して裏切られる。

 美しく成長したチチは、父である牛魔王が持つ財産も合わさって近隣の男たちから数多(あまた)の求婚を受けていた。その度に将来を誓った相手がいる、と断りながら、本当に迎えに来てくれるのかと自分でも疑う日々。

 また、口では言うものの、一向にチチの前に姿を見せないその“婚約者”の存在を男たちが疑うのは当然だった。中には、牛魔王の城に仕えていた使用人に金を握らせ、深夜にチチの寝所(しんじょ)まで手引きさせる者までいた程。当然、すぐさま撃退した上でその都度警察に引き渡し、手引きした使用人もまたすぐに解雇(かいこ)したが。

 そんな日々は、牛魔王の1言で変わった。

 間も無く、武道の祭典“天下一武道会”が開かれると。そこに、孫悟空が現れるかもしれないと。

 それで決めた。ただ待つのでは無く、自分から逢いに行こうと。

 

 ―――――――――――エイジ756年5月7日、パパイヤ島。

 第23回“天下一武道会”の開催される日、チチは()()にいた。孫悟空と再会出来る事を期待して。

 そして予選会場で、チチは見付けたのだ。未来の夫を。

 記憶にあるよりも背も伸びて、ずっと逞しくなっていた彼の姿を目にした瞬間、頬が赤くなったのが自分でも分かる。

 相手はまだ自分に気付いてはいない。友人らしき男たちと一緒に談笑していた彼に我慢出来ず、後ろからそっと近付く。

 彼は何と言うだろうか、自分に気付くだろうか、“約束”を、覚えてくれているだろうか…。

 期待と不安に胸を高鳴らせながら、彼の肩を叩いた。

「え?」

 振り向いた彼に、高鳴る胸を抑えて微笑む。

「孫悟空…。」

「「へっ!?」」

 そんな自分に気の抜けたような声を出したのは、それまで彼と話していた、揃いの道着を着た顔に傷がある男と剃髪(ていはつ)している男。

 彼自身と言えば、チチの顔を不思議そうにじっと見ていた。

 もしや分からないのだろうか、不安が強くなった時、それが現実となった。

「誰だ?おめぇ。」

「えっ……!?」

 本当に心当たりが無い、とでも言いたそうな彼の1言に咄嗟(とっさ)に言葉が出なかった。

「オラの事知ってるんか?」

「お、覚えて無いだか……?」

「?どっかで会った事あったか?」

 (すが)るように問いかけたチチの想いも(むな)しく、彼が重ねてチチに尋ねる。

「っ……バカッ…………!!!」

 その1言に、思わず涙が零れた。

 そして、それ以上の醜態(しゅうたい)を晒す前に、とその場から走り去る。

「お、おい!あの()泣いてたぞ?!」

「知り合いか?!っていうか、追いかけなくて良いのかよ?!」

 傷の男と剃髪(ていはつ)の男が彼を問い(ただ)す声が聞こえるが、それ以上彼から否定する言葉を聞きたく無くて、足を止めなかった。

(誰だって言われた…。オラの事、覚えて無かった……!!)

 不安だった事が現実になった事に、自分でも驚く程にショックを受けていた。

 いや、もしかしたら最後に逢った時より自分が成長していて気が付かなかっただけかもしれない、そう思い直そうとするも、自分は1目見て分かったのに、という身勝手な想いが頭から離れなかった。

『選手の皆さま、お待たせしました。ただいまより予選を行いますので、中央にお集まりください。』

(駄目だ駄目だ、こんな事くれぇで泣いてるなんて…。忘れられちまったなら、思い出してもらえば良いだけだべ……!)

 パンッ、と音を立てて両手で自身の頬を挟み込み、気合を入れる。

 そう、この程度の事でメソメソするなんて、彼の妻として相応しく無いではないか。まずは予選を突破する事が最優先だと意識を切り替える。

 幼い頃でさえ、“強さ”というものにあれだけ興味を抱いていた彼の事だ。武道家としての強さを見せれば自分に興味を持ってくれるかもしれない。そうすれば、“約束”も思い出してくれるかもしれないではないか。

 ――――そんな淡い期待を胸に、チチは予選を突破し、本選への出場権を手に入れた。

 そして、厳正なるクジ引きの結果。

 第1試合、桃白白(タオパイパイ)VS匿名希望(とくめいきぼう)(チチ)。

 第2試合、孫悟空VS天津飯。

 第3試合、マジュニアVSクリリン。

 第4試合、シェンVSヤムチャ。

 以上の組み合わせとなった。

(悟空さは第2試合け…。)

 さっき、予選会場でチラッと見たが、自分の対戦相手である桃白白(タオパイパイ)は何やら悟空たちと因縁ある相手のようだ。出来れば悟空が自分から思い出してはくれないかと本名では無く“匿名希望(とくめいきぼう)”で登録したが、今のところそんな様子は無い。

 やっぱり淡い期待だったかと溜息を()いていた時だった。

「おい、おめぇ…。」

「えっ?」

 突然、悟空がチチの元へと歩み寄ってきた。

 もしや思い出してくれたのか、とわずかにチチが顔を明るくさせるが、直後にそうでは無いと知る。

「“匿名希望(とくめいきぼう)”っておめぇだろ?第1試合、気を付けろよ。アイツは生半可(なまはんか)な実力じゃ勝てねぇぞ。無理だと思ったらすぐに棄権(きけん)しろ。」

「心配してくれてるのけ………?」

 思い出してくれた訳では無いのは残念だが、自分の事を心配して声をかけに来てくれた、という事がどうしようも無く嬉しい。顔が嬉しさで(ほころ)ぶのが分かる。

「?おお、まぁな。」

「心配無いべ。オラだってそう簡単にはやられねぇだ。……でも、引き際は心得てるつもりだ。」

 にっこり、と悟空へ微笑んだところで審判によって“天下一武道会”の開始が宣言される。

「じゃ、行って来るだよ。」

「?おう、頑張れよ!!」

(悟空さがオラを心配してくれてるだ…!)

 嬉しい。今なら何でも出来そうだ。

 意識していないと(ほころ)ぶ顔を何とか引き締め、武舞台(ぶぶたい)へと足を進める。

 

『第1試合は桃白白(タオパイパイ)選手と“匿名希望(とくめいきぼう)”選手の対決です!!では両選手、どうぞ―――――っ!!』

 チチと、対戦相手である桃白白(タオパイパイ)武舞台(ぶぶたい)の中心へと進み出る。

『両選手とも、今回が初出場となりました。桃白白(タオパイパイ)選手は同姓同名などではありません、かつて世界一の殺し屋と恐れられた伝説の殺し屋その人であります!!また、女性でありながら堂々と予選を勝ち抜いた“匿名希望(とくめいきぼう)”選手は訳あって本名を明かせないそうなのでこう呼ばせていただいております!!』

「安心しろ。殺しはせん…。殺せば失格になってしまうからな。だが、仮にも女…。余計な傷を付けられたくなければ、とっとと棄権(きけん)した方が身の為だぞ。」

 審判による選手紹介の中、桃白白(タオパイパイ)がチチに(ささや)く。

「必要ねぇだ。こうして相対してはっきり分かっただよ。おめぇさはオラには勝てねぇ。」

「小娘が…。素直に引けば良いものを…!」

 きっぱりと言い切ったチチに桃白白(タオパイパイ)が苛立った瞬間、試合開始が宣言された。

『では第1試合、始めてください!!』

 

「しゃあっ!!!!」

 ドンッ!

 開始宣言とほぼ同時に、桃白白(タオパイパイ)が勢い良く武舞台(ぶぶたい)を踏み切り、チチへと迫る。

 なるほど、確かに速い。世界一の殺し屋の称号は伊達では無かったらしい。

 だが、自分の敵では無かった。

「せあっ!!!」

 ドゴォッ…!!!

 桃白白(タオパイパイ)の拳を、わずかに身を()らせる事で(かわ)し、間髪を容れずに右膝にオーラを集中させて桃白白(タオパイパイ)の腹部へと叩き込んだ。

「ぐはっ……?!」

 反動でくの字に身をおり、そのままの勢いで桃白白(タオパイパイ)は3m程上空へ跳ばされる。

 シャッ…!

 そして、その瞬間にチチ自身も上に跳び、桃白白(タオパイパイ)も後頭部目がけ、祈るように組んだ両手にオーラを集中させて叩き落す。

 ガォンッ!

「ガッ………!!!!!?」

 ダンッ!!!!

 防御する暇すら与えない猛攻に、桃白白(タオパイパイ)()(すべ)無く武舞台(ぶぶたい)へと叩き付けられる。

 シィ………ン…

 時間にしてわずか5秒足らず。

『あ、あ…。カ、カウントを取ります……!!!1、2、3、4…!!!』

 あまりの事態に硬直していた審判がハッ、と意識を取り戻し自身の職務を全うする。

桃白白(タオパイパイ)様をわずか数秒で……?!」

「やるなぁ、アイツ…!」

 三つ目の男と、悟空が感嘆している声が聞こえる。

(悟空さが()めてくれた…!)

 審判のカウントを聞きながら、思わず頬が緩んでしまう。

『…8、9、10!!!と、“匿名希望(とくめいきぼう)”選手、準決勝進出決定です!!!』

 ワァアアアアアア――――――――――!!!!

 伝説の殺し屋を倒し、試合を制した年若い少女に割れんばかりの歓声が贈られた。

 

 次の第2試合で勝ち上がった者が、準決勝でチチと対戦する。

(間違い無く悟空さが勝つべ。それまで、オラの事思い出してくれると良いだが……。)

 天津飯という武道家もかなり強い。チチもまだ勝てないだろう。だが、それ以上に悟空の方が強いと断言出来た。オーラの密度がまるで違う。

 あの強さには、同じ武道家として畏れすら感じる。

 だが、それ以上に悟空と同じ時間を共有出来ている事が嬉しかった。

 願わくば、悟空が速くチチの事を思い出してくれると嬉しいのだが…。

 望みは薄いと理解しつつも、淡い期待を捨て切れない自分に苦笑しつつ、第2試合の2人と入れ違いで武舞台(ぶぶたい)から下がる。

 何よりも今は、想い人の雄姿を間近で見たかった。

 

 




※脱字修正しました。ご報告ありがとうございます。
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