Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、千歳戒人です」
政実「ここでは、各章の後日談――ターゲット達やその周囲のその後について書いていきます」
戒人「つまり、白羽の『処理』が行われた後の世界の話って事か」
政実「そういう事だね。各章の最終話でも簡単には触れてるけど、【Cheat Breakers】が訪れた後の世界の様子がどんな感じになるか、そこについて少しだけ深く触れるのも面白いかなと思ってね」
戒人「なるほどな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、Epilogue.1をどうぞ」
「ふあぁ……やっぱ、昼は眠くなるなぁ……」
ある世界での事、高校の屋上に寝転びながら銀髪の男子生徒――
「おいおい、力。眠いのは分かるけど、本当に寝ちまったら、中々起きないんだからそのまま寝ないでくれよ?」
「そうそう。それにお前は腕力と寝起きの悪さがピカイチなんだから、あまり起こしたくないんだよ」
「だよなぁ……この前の朝だって、寝ぼけながら電信柱に拳を振るったら、デカい穴が空いてたもんな……。流石にアレはどうかと思うぜ、力?」
「あはは……ゴメンゴメン」
力は小さく笑いながら起きあがると、頭を掻きながら男子生徒達に謝った。そして不意に空を見上げると、懐かしむような表情を浮かべながらポツリと独り言ちた。
「それにしても……あの日からもう2か月も経つんだな。お前達との『果たし合い』をして、友達になれたあの日から、さ……」
2か月前、力は自分の下駄箱に入っていた男子生徒達からの果たし状を読み、体育館裏へと来たと思っているが、実際は異なっている。本来あった出来事、それは現在はこの世界にいない存在――【Cheat Breakers】の『千歳戒人』が演じていた『
そして力がぼんやりと空を見上げ続ける中、男子生徒達も懐かしむような表情を浮かべながらそれに答えた。
「あー……そういえばそうだな」
「あの時は、本当に力に対してイライラッとしてたけど、何だかんだで友達になれたわけだし、やっぱ話し合いって重要なんだな」
「だなぁ……いけ好かねぇ奴だと思ってた力が、実はこんなに愉快な奴だったなんて思わなかったもんな……」
「あははっ、そうは言うけど、お前達だって負けない程愉快だと思うぜ?」
『お前が言うな!』
力の言葉に男子生徒達が声を揃えて反応をすると、力は少しだけぽかーんとした後、男子生徒達と共に楽しそうに笑い合った。そして屋上に笑い声が響き渡る中、屋上のドアが静かに開き、ドアの影からまた別の男子生徒がひょこっと姿を現すと、力達に向かってニコリと笑いながら声を掛けた。
「皆、お待たせ」
「おっ、
「頼んでたもんは買えたか?」
「うん、バッチリだよ」
眼鏡を掛けた黒い短髪の男子生徒――
「えーと……力君がコッペパンとジャムパンに紙パックのコーヒーで、英一君が焼きそばパンとコロッケパンにペットボトルのお茶、
「ああ、そうだな」
「何かすまねぇな、才二」
「ううん、購買から一番近いのが僕の教室だし、事前にお金は受け取ってたからそれは気にしないで」
才二はニコリと笑いながら男子生徒――
「はい、どうぞ」
「うん、ありがとな」
「サンキュー、才二」
「ありがとな、才二」
「サンキューな」
「ふふ……どういたしまして。それじゃあ食べよっか」
「だな。それじゃあ――」
『いただきます』
声を揃えて食事の挨拶をした後、力達は楽しそうに話をしながら昼食を食べ始めた。そしてそれから数分後、才二は何かを思い出したような表情を浮かべてからから、自分用として買ってきていた菓子パンをゴクンと飲み込むと、屋上のドアの方をチラリと見ながらこそっとした声で力達に話し掛けた。
「……そういえば、屋上の近くにまた松野さんが来てたみたいだよ」
「あー……またいたのか、アイツ」
「アイツ、結構熱心に力の事を追ってるよなぁ……」
「もういっその事、アイツと素直に付き合うかスッパリ断っちまったらどうだ?」
「そうだなぁ……そう出来れば良いんだけど、いざ松野さんを目の前にすると、何か怖くてな……」
「怖いって……目とか顔とかがって事か?」
「うーん……まあ、そんなところだな。別に普通にしてるはずなんだけど、何だか時々目の光が無い状態で微笑んでるように見えてさ」
「あ……それは確かに怖いよね」
「だな。松野は可愛い方なんだろうけど、流石にそこまで重い愛され方はパスだわ」
「全くだな」
力を除いた全員が同時に頷く中、力は紙パックに差したストローを加えながら物思いに耽るようにボーッと空を見上げた。そしてその様子に才二は疑問を覚え、首を軽く傾げながら力に話し掛けた。
「力君、どうかしたの?」
「あ、いや……最近見てる夢の事を思い出してたんだ」
「夢?」
「ああ、夢の中の俺は何だか哀しそうな顔をしながら誰かを見てるんだけど、その誰かの顔が全く分からなくてな」
「分からないって……因みにどんな奴なんだ?」
「お札みたいな物を構えてるウチの学校の制服を着た黒いセミロングヘアの女子なんだけど、その後ろに同じような物を構えた学ランを着た黒い短髪の男子の姿がぼんやりと見えるんだ。そしてその男子の姿が、まるで陽炎みたいにゆらゆらと揺れてて、顔が分からないはずなのにどっちもちょっと怖い雰囲気を醸し出してて、それを見てるとスゴく胸がきゅーっと締め付けられるような感じになるんだ……」
「ウチの学校の制服を着た女子と学ランを着た男子か……ここは学ランじゃなくブレザーだから、少なくとも男子はウチの学校の奴では無いし、女子生徒の方も全く覚えが無いな」
「だな……それで、夢はそこで終わりなのか?」
「いや、その後に札が急に太陽みたいな眩しい光を放って、それに驚いたのかいきなり夢の中の俺が仰向けに倒れ込んで、そして光が止んだと思ったら、その2人が並んで俺に手を差し伸べてるんだ。顔は相変わらず分からないんだけど、さっきまでと違ってとても優しい雰囲気で、2人は何も喋っていないのに何だか『大丈夫か?』って言われてる気がして、何だか寂しいような嬉しいような気持ちになるんだ」
「ふーん……寂しいのに嬉しいって何だか不思議な感じだな」
「……ああ、それに顔も分からない2人組のはずなのに、2人の姿を見てると何だか心がポカポカとしてくるんだ。本当に不思議だよな……」
力がとても穏やかな表情を浮かべながらポツリと呟く中、英一達は興味深そうな様子で力の顔を眺めていたが、やがて才二が静かにクスリと笑った。
「夢ってその人の記憶を元に構成されるって聞くし、力君が覚えていないだけで本当はかなり縁深い人達なのかもしれないね」
「……かもな。もしそうだとしたら、いつか――いつになるかは分からないけど、あの2人に会える日が来るのかな……」
「もしかしたら来るんじゃないか? お前の様子を見る限り、だいぶ大切な2人みたいだから、何かあれば向こうから来るかもしれないしさ」
「……そっか。うん、そうだと良いな……」
「だな。そのためにも……これからも頑張っていこうぜ? 俺達の『力持ちなヒーロー』さん?」
「……ああ、そうだな。ソイツらに会えた時、恥ずかしくない俺でいたいからな!」
力がとても嬉しそうにニカッと笑うと、英一達はそれに応えるようにニッと笑いながら頷き、力達は揃って笑みを浮かべたまま快晴の青空を見上げた。
放課後、力が鞄に教科書やノートをしまっていると、先に準備を終えていた英一達が力の机の周りに集まり、楽しそうな笑みを浮かべながら力へと話し掛けた。
「りーきっ、がっこも終わった事だし、さっさと帰ろうぜ?」
「ん……ちょっと待っててくれ。後はこの参考書と本をしまうだけだからさ」
そう言いながら力は机の中にあった物達を鞄へとしまうと、満足げに頷いてから静かに立ち上がり、鞄の肩紐を肩に掛けながら英一達に声を掛けた。
「お待たせ、それじゃあ帰ろうか」
「おう! テスト前だから部活も基本的には休みだし、どっか寄りながら帰ろうぜ!」
「どっかって……具体的にはどこだ?」
「そうだな……ここは大人しくファミレスで勉強でもするか。最近、近くの高校の不良達がこの辺のゲーセンとかカラオケにいるって噂あるし、ソイツらにあまり絡まれたくないからな」
「あー……まあ、そうだな。別に俺達だけなら不良相手でも問題ねぇけど、才二が絡まれる事を考えるとな……」
「だな。アイツ、頭も良くて足も速ぇけど、腕っ節となるとアレだからなぁ……。相手が同じくれぇなら守りながら不良達の相手をできっけど、仲間呼ばれる可能性を考えると、流石に相手にはしたくねぇしな」
「ああ。それに守るための戦いではあるけど、戦わなくて済むならそれに越した事は無いし、ここは大人しく勉強会でもしてた方が絶対に良いな。この前だって小テストの点数が悪かったばかりだし……」
「あははっ、力は才二と違って運動と腕力には秀でてるのに勉強はからっきしだからな」
「……最近、部活――演劇部の仲間達にもそれを言われたよ。はあ……何で全然成績が上がらないんだろう……」
力が暗い表情で溜息をついていると、英一は不思議そうな様子で力へと話し掛けた。
「にしても……何で演劇部なんだ? お前なら俺達みたいに運動部でも普通にやってけるだろ?」
「そうなんだけど……何だか急に演劇に興味が出てきて、それで気付いたら演劇部に入部届を出してた感じかな? まあ、演劇部はこの腕力を活かせる部活動だし、他の部員達とも仲良くやれてるから別に不満は無いけどな」
「ふーん……それならそれで良いけどな。さてと、それじゃあそろそろ才二の事を――」
そう言いながら
「お前は……才二のクラスメート、だよな……? 何か俺達に用か?」
「う、うん……実は――」
生徒――才二のクラスメートの口から飛び出した言葉に、力達は驚きのあまり大きな声を上げてしまった。
『才二が……不良に捕まった!?』
「うん……ついさっき、僕達が外のゴミ捨て場にゴミを捨てに行こうとした時、校門の前に知らない人達が立っているのが見えて、僕達はその事を不思議に思いながらもそのままゴミ捨て場に行こうとしたんだ。そして校門の近くを通った時、その人達の1人が僕達に『皆藤力って奴を知らないか?』って声を掛けてきたから、才二君が思わず知ってるって答えちゃったんだ。そうしたら、その人達が急に才二君の事を取り囲んで、そのまま無理やり連れて行ったんだ。『コイツを返して欲しければ、皆藤力を近くの廃工場まで連れて来い』って言い残してね…… 」
「近くの廃工場……恐らくあそこだな。けど、力を連れて来いって言ってきた辺り、力と何か因縁のある奴らって事になるな……」
「力、何か心当たりはあるか?」
「心当たり……いや、他校の奴らのケンカをした事は一度も――」
力が少し困ったような表情で答えていたその時、突然何かを思い出したように「あ……」と声を上げると、そのままハッとした表情を浮かべながら静かに話し始めた。
「そういえば3日ほど前、街中を歩いていたら、ちょうど他校の奴に絡まれてるウチの高校の生徒を見つけて、助け出した事はあったな……。もちろん、その時にケンカまではしてないけど、いざとなれば殴り合いにも応じるみたいな事は言った覚えがあるかも……」
「て事は……今回の犯人はソイツらの可能性が高そうだな」
「ああ、恐らくソイツらは力に対して相当イラついてて、力がここに通ってるのをどうにか探り出して今日ここまで来たって所だな」
「つまり、才二を助け出すには多少の殴り合いは覚悟しなきゃいけない事になるな」
「殴り合い……本音を言えばあまりやりたくは無いけど、今回は才二を助け出すためだし、どうにか力をセーブしながらやるしかないな……」
「そうだな。うし……そうと決まれば早速行こうぜ」
『おう!』
数分後、力達はある廃工場の前に立っていた。廃工場となってから長い年月が経っているのか、壁や屋根の塗装は大部分が剥げた上にサビが目立ち、窓ガラスは全て無残に割れ、周囲は雑草が生い茂っていた。
「……ここが件の廃工場だな」
「ああ、ここは基本的に誰も近寄らないし、不良達がたまり場にするには絶好のスポットと言える。そう考えれば、今回力がここに呼び出されたのも納得だな」
「……そうだな。連れ去った連中も才二にはまだ手を出してはいないだろうけど、あまり悠長な事も言ってられないし、さっさと助けて帰るとしよう」
「ああ、そうだな。さあ……行くぞ!」
『おう!』
そして力達は廃工場の中へ入りそのまま中を一言も発さずに進んだ。するとそこには、十数人の不良の姿と縄で柱に縛り付けられた才二の姿があり、力は静かに込み上げてくる怒りをどうにか抑え込みながら才二へ声を掛けた。
「才二! 怪我はしてないか!」
「う、うん……怪我はしてないよ。ただ、この縄が中々固くて全然解けないんだ……」
「そっか……才二、すぐに助けるからそこで待っててくれ」
「力君……うん、分かった……!」
才二が覚悟を決めた様子で頷きながら答えると、力はそれに対して頷き返し、次に不良達の方へと顔を向けた。すると不良達はニヤニヤと笑いながら力達の事を取り囲み始め、その内の1人がとてもいやらしい笑みを浮かべながら力に話し掛けた。
「ようこそ、皆藤力。お前のそのいけ好かねぇツラをボコれる日が来るのをずっと楽しみにしてたぜ……?」
「……そうか。だけど、そんな事は本当にどうでも良い。俺達はただ、才二の事を助けに来たただけに過ぎないからな」
「へえ、ヒーロー様は俺達みたいな端役には興味すらねぇってか……まあ、良いさ。お前達がどんな奴らだって関係ねぇ、全員まとめてボコしちまえば何だって良いからなぁ……!」
その言葉が合図となり、不良達は次々と力達に殴り掛かったが、力達は不良達の拳を難なく避け、手分けをして不良達の相手を始めた。
「……っと、へっ――そんなハエの止まりそうな拳が俺に当たるかよっ!」
「ぐぅっ……!?」
英一が余裕げに近くにいた不良の顔へ勢い良く拳を振るうと、不良はその衝撃で後ろに倒れ込み、それを見た数人の不良が一斉に英一へと飛びかかった。しかし、英一はそれに対して焦る事は無く、「力! 頼んだ!」と別の不良を相手にしていた力に対して大声で呼び掛け、力は「ああ、任せろ!」と同じく大きな声で答えながら相手にしていた不良を『怪力』の能力を使わずに殴りつけ、すぐに英一の加勢に向かった。そして力が飛びかかった内の1人の腕を掴み、その不良の相手をする中、それを見た英一はニヤリと笑いながら飛びかかってきた他の不良達へと回し蹴りを見舞い、回し蹴りを受けた不良が倒れ込むと同時に力が相手をしていた不良はその上に気絶をしながら倒れ込んだ。
「ふう……これでなんぼか倒したな」
「ああ、けど……」
少しだけ息を切らしながら力と英一が周囲を見ますと、そこには陽人と猛が相手をしている他にもまだ多くの不良の姿があり、その誰もが力達をギラギラとした目で見ていた。力と英一はその様子にコクンと頷きあった後、お互いの背中を合わせるようにして立ち、周囲の状況に注意を向けながら話を始めた。
「マズいな……こっちは4人に対して向こうはまだ十数人もいる状況、どう考えても明らかにこっちが不利だ」
「ああ、ここは俺とお前のどっちかがささっと才二を助けて、急いで逃げるのが得策だろうけど、この感じだと流石にそんな手は使わせてくれなそうだよな……」
「みたいだな……仕方ない、ここは早めに全員を倒して、才二を早く助けた方が――」
話をしながら力と英一が才二の方へチラリと視線を向けたその時、不良の1人が才二の首元に小型のナイフを突きつけているのが目に入り、力達は思わず怒りの声を上げていた。
「な……!? お前、才二に何をするつもりだ!!」
「てめぇ……そのナイフで才二に傷を付けようもんなら、本当に容赦しねぇからな!」
「ははっ! そうかよ! だが、今コイツの生死を握ってるのは、俺だっていう事を忘れんじゃねぇぞ!? お前達が一歩でも動こうものなら、コイツの首にこのナイフが入り、最悪コイツは死んじまうぜ?」
「くっ……この卑怯者!」
「卑怯……? はっ、卑怯だろうと何だろうと、勝っちまえば関係ねぇんだよ! 勝利した奴が全て、勝利した奴が『正義』なんだよ!」
その時、不良が放った言葉に力はピクリと体を震わせると、とても暗く怒りが籠もった声で不良に話し掛けた。
「……勝利した奴が、『正義』……? 本気でそんな事を思ってるのか……?」
「ああ、そうだ! お前達がどんなに強かろうと、最後に勝った奴こそが真の勝者! 真の『正義』なんだよ!」
「……ふざけるな」
「あん?」
「『正義』という言葉を軽々しく使うな! この外道がぁっ!」
力はまるで吼えるような声で不良に対してそう言い放ったが、不良はそれに対して一切怯える様子も無く、ニヤニヤと笑いながら力に話し掛けた。
「ははっ、やっぱりヒーロー様からすれば、『正義』って言葉は相当大事みてぇだな? だが、俺達からすればお前なんてヒーローじゃなく、ただの『力のおかしい化け物』に――」
「……今、何て言った?」
「……は?」
「『化け物』……今、お前は俺の事をそう言ったか?」
「は? それが一体何だって……」
不良が不思議そうな様子でそう口にしたその時、力は体の奥から何かが静かに沸き立ち、頭に勢い良く血が上ってくるのを感じ、両手の拳に自身の『怪力』の能力を込め始めた。そして一言も発さずにそのまま不良へ向かって一歩ずつ歩を進めると、英一は豹変した力の様子に少々怯えながらも声を掛けた。
「お、おい……力?」
「…………」
力は英一の言葉に答えず、そのまま一歩ずつ歩を進めていった。そして力が纏うただならぬ雰囲気に、不良は静かに恐怖を覚え、歯をガチガチと鳴らしながらも震えた声で力へと呼び掛けた。
「く、来るな……お前が来たら、コイツの命が――」
「うるせぇ……」
「な……!?」
「お前のようなどうにもならねぇ悪党の声なんて聞きたくねぇんだよ!」
力は大きな声を上げながら『怪力』の能力を使って不良を殴りつけると、不良は明らかに人間に殴られたとは思えない程の衝撃を受け、廃工場の壁へと強く叩きつけられた。そして不良の手から離れたナイフがカランという音を立てて床に落ちる中、壁に叩きつけられた不良はそのままガクッと崩れ落ち、それを見た不良達は恐怖の色を浮かべながら大きな悲鳴を上げた。
「ひ、ひいっ……!」
「化け物……化け物だぁっ!!」
そして不良達は気絶している仲間を背負って次々と逃げ出すと、廃工場の中は怒りに震える力とそれを静かに見つめる英一達だけになり、陽人と猛がハッとした表情を浮かべて才二の縄を解きに行く中、英一は警戒した様子でソッと力へと近付いた。
「り、力……? だいじょ――」
次の瞬間、英一は自身の中に鳴り響く警報に気付き、スッと素早く後退った。すると英一の目に入ってきたのは、すんでのところで空を切った『怪力』の能力が籠もった拳と目をギラギラとさせる力の姿だった。力が怒りと憎しみが混ざり合った視線を英一へ向けると、英一はその力の様子に恐怖を覚えながらも勇気を振り絞って力へと声を掛けた。
「お、おい……落ち着けって……! 不良達はもう逃げたし、才二だって無事――」
「……俺は化け物じゃない……」
「え……?」
自身の言葉を遮るようにして発せられた力の言葉に、英一が疑問の声を上げた瞬間、力は廃工場に響き渡るほどの声量で怒りと哀しみが籠もった声を上げた。
「違う! 俺は化け物なんかじゃない……俺は『ヒーロー』なんだ!!」
「り、力……」
かつて『怪力』の力に囚われていた時と同じ力の様子に、英一はその時の記憶はすっかり無かったにもかかわらず、恐怖で足を震わせ始めた。怖い、今すぐにでも逃げたい。そんな思いが英一の中を駆け巡る中、力は再び『怪力』の力を込めながら右の拳をゆっくりと振りかぶった。そしてその動きがピタリと止まり、英一へ向かって力の拳が振るわれようとしたその時――。
「ダメだよ! 力君!」
その才二の声によって力の拳は英一の目の前で止まり、力はその体勢のままで才二へと視線を向けると、ポツリと呟くような声で才二の名前を口にした。
「……さい、じ……」
「もう止めてよ、力君……力君はそんな人じゃないはずだよ!」
「そ、そうだぜ、力! お前は怒りに任せて誰かを殴るような奴じゃねぇ!」
「お前は本当の強さを知ってるはずだぞ、力!」
「本当の……つよ、さ……」
才二達の言葉に力がボーッとした声を上げる中、英一は恐怖をどうにか抑え込みながら自身も力へと声を掛けた。
「力、お前は『化け物』なんかじゃねぇ……お前は俺達の『優しく強いヒーロー』であり、誰かを『護る』ため、そして『支える』ためにその力を使える奴だ!」
「『優しく強いヒーロー』……『護り支える』……」
英一の言葉を繰り返していた時、力の頭の中にある人物の姿が浮かび、その人物――黒のセミロングヘアの女子生徒と黒い短髪の男子生徒は優しく微笑みながら静かに口を開いた。
『皆藤、今のお前ならその力の意味を知っているはずだ。その誰かを護る事が出来る力を無駄にするなよ?』
「……かい、と……」
その名前を口にすると、2人の人物は微笑みながら静かに頷き、そのままスーッと姿を消した。そして力の頭の中から完全に姿を消した瞬間、力の中にあった怒りや憎しみといった感情も同時に消え、力は軽い脱力感を覚えながらその場に座り込むと、英一達はとても心配そうな表情を浮かべながら急いで力へと駆け寄った。
「力!」
「おい、大丈夫か!?」
「力、しっかりしろ!」
「力君! 大丈夫!?」
「あ、ああ……大丈夫だ。ちょっと体の力が抜けただけだから、全く平気だよ」
力が微笑みながら答えると、英一達は心からホッとした様子でふうと息をついた。そしてその中で才二は少しだけ不思議そうな表情を浮かべると、小さく首を傾げながら力へと声を掛けた。
「そういえば……さっき力君が口にしていた名前って、誰のことなの?」
「え、あー……分からないな……」
「分からないって……本当に覚えが無いのか?」
「ああ、お前達の声を聞いてたら急に頭の中にあの夢の中の2人の姿が浮かんできて、それでスッと名前が出てきただけだから……」
「そっか……つまり、その2人にお前は救われたわけだな、力?」
「……そうなるな」
力は静かにフッと笑いながら答え、頭の中に浮かんだ人物――『春日璃乃』と『千歳戒人』の姿を再び思い浮かべた瞬間、力の口から言葉が漏れた。
「……また俺を救ってくれてありがとうな、俺の『ヒーロー』」
「え、何か言った?」
「……いや、何も言ってないぜ……?」
「そ、そう?」
「ああ」
才二の言葉に力が静かに答える中、周囲の様子を探っていた英一達はコクンと頷きあうと、力達の方を向いた。
「さあ、こんな所はさっさと出て、学校に帰ろうぜ」
「才二の荷物もそうだけど、俺達の鞄も取りに行かないといけないからな」
「んで、その後はファミレスで楽しい楽しい勉強会だ」
「そうだな。それじゃあ行こうか、皆」
『おう!』
「うん!」
そして揃って廃工場から出ようとしたその時――。
『頑張れよ、皆藤』
そんな声が聞こえた気がし、力は立ち止まりふと後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった。しかし力は誰もいない空間に向けてそれに答えるようにニカッと笑いながら親指を立て、「ありがとう」と言葉を口にした後、先を行く英一達へ向かって走り出した。胸に新たな決意の光をしっかりと抱きながら。
政実「Epilogue.1、いかがでしたでしょうか」
戒人「皆藤の様子を見る限り、やっぱりターゲット達の心の奥底には、多かれ少なかれ『仕事』の影響や【Cheat Breakers】についての記憶は残ってるんだな」
政実「そうなるね。そして今回みたいにそれが助けになる時もある感じかな。因みにこっちの方も、これから本編と平行して書いていくよ」
戒人「ん、了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「ああ」
政実・戒人「それでは、また次回」