Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、千歳戒人です。宝くじはまだしも、懸賞ってそこそこ当たるもんだと思うけどな……?」
政実「うーん……やっぱり目立つような工夫とかジンクスみたいなのが必要になるのかな……?」
戒人「かもな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、第7話をどうぞ」
豪華客船クイーンマリー号での船旅も4日目に差し掛かった頃、俺は朝食を取った後に自室で今回のターゲットである『
「……ふう、とりあえずこんなもんかな」
俺は机の上にある書き上げたばかりの『幸運』についての情報が纏められたノートを見ながらそう独り言ちた。初日からターゲットに接触出来た事で、俺は『幸運』とお互いの事を名前で呼ぶ仲にまでなり、船上生活の大半をランスロットと過ごすようになっていた。俺からすれば、ランスロットは『
「……やっぱり、ランスロット自身に危険なところは無いみたいだな」
俺は椅子の背もたれに体重を預けつつ、部屋の天井をボーッと見上げながらポツリと独り言ちた。皆藤の時は、過去の経験から少しずつ自分の中の思いが変化し、それによって皆藤の中のヒーローとしての思想がダークヒーローの方へとねじ曲がっていた。ところが、ランスロットに関しては自分の能力を過信したり悪用したりする様子が見られず、自慢する様子すら見られなかったため、ランスロットに俺の事やランスロットの能力の事についての話をするきっかけを見つけられずにいた。
「皆藤の時は、あの時の俺――『春日璃乃』に惚れてる状況というアドバンテージがあったからそれを利用できた。でも、今回のランスロットに関しては、話し合いで何とか出来ると思うけど、その話を切り出す良いきっかけみたいなのが無い……。さて、どんな風にランスロットと対峙したもんかな……?」
上手い具合に今回の『仕事』の段取り――白羽に言わせれば『戯曲』の内容が決まらない上、『幸運』の能力でランスロットが『運良く』俺の正体を知る可能性が出てくる。その事実が俺に重くのし掛かり、徐々に焦りを生み始めていた。
焦ったところで良い脚本が書けるわけじゃないし、焦って事をし損じてはそれこそ本末転倒という物だ。だけど、このまま手を
「はあ……本当にどうしたもんかな……」
今回の流れがまったく決まらない事について、途方に暮れ始めたその時、部屋のドアが軽く二回ほどノックされた。
ん……もしかしなくても、ランスロットかな?
そんな事を思いながら俺は『千歳戒人』から『笛木郁人』に戻り、ドアの向こうへと声を掛けた。
「どなたですか?」
「あ、僕だよ。郁人」
「やっぱりランスロットだったか。その様子だと、また船の中を見て回ろうと誘いに来たのか?」
「ふふ、大正解。こんなに良い天気なのに、外に出ないのは何だか損した気分になるからね」
「……そうだな。分かった、今出るからそのまま待っててくれ」
「うん、分かった」
ランスロットの返事を聞いた後、俺は情報を纏めたノートを鞄の中へとしまった。そして護身用の
「待たせたな、ランスロット」
「ううん、そんなに待ってないから気にしなくて良いよ。さて、今日はどんな風に船内を歩こうか?」
「そうだな……昨日は店を中心に見て回ったから、今日はシアターとかトレーニングセンターみたいな施設を中心に見て回るのはどうだ?」
「あ、それは良いかもね。その辺はまだあまり見てなかったから、色々と新しい発見があるかもしれないし」
「だな。よし、それじゃあ早速出発するか」
「うん!」
ランスロットの返事に静かに頷いた後、俺達は他愛ない話をしながら船内を歩き始めた。ランスロットとの船内散策は、2日目の朝にランスロットから誘われて始めた事で、最初はランスロットの情報を手に入れる良い機会だと思ってその誘いに乗ったのだが、ランスロットと一緒に様々な物を見ていくにつれて徐々に楽しさのような物を感じ始め、今となっては情報の収集よりも楽しさの方が勝っていた。
……そういえば、こんな風に友達とどこかに行く事を楽しいと思うのはいつぶりだろう……?
ランスロットと一緒に歩いている内に俺は元の世界での出来事を何となく思い出していた。俺は小学校の頃から友達といえる奴が殆どおらず、誰かの家に遊びに行く事など全くなかった。というのも、小学生の頃から親だった奴らはかなり仲が悪く、家の中には物がぶつかって出来た傷なども多かった。そのため、誰かの家に行こう物なら、そんな自分の家の状況と他の家の状況とを見比べる事になるため、俺はそもそも友達なんて物を作る気すら無くなっていたからだ。そして、家庭訪問などの時だけ仲が良いフリをする親だった奴らの事が心底嫌いだった事もあり、俺はいつしか家の中では『無関心の仮面』を被り、自分自身の感情という物を心の奥底へと沈めるようになった。そんな風に日々を過ごしていたある日、中学生になった俺が出会ったのが、今の俺の一番の武器といえる『演劇』だった。最初は偶然隣の席になった奴から誘われた事、そして日々を演技で過ごしている俺にはピッタリな部活だと卑屈な考えで始めたが、徐々にその奥深さや楽しさのような物に気づき始め、それと同時にピアノ曲などの音楽への興味も湧き、誘ってくれた奴を始めとした演劇部員達とも仲良くなっていった。しかし、中学卒業と同時に高校が別々になってしまい、少しだけ残念な気持ちを感じていた時にあの出来事が起きてしまった。そしてその時の俺は、現在の俺の状況を言いたくなかったため、ソイツらの携帯に一切連絡を入れなかった。その後、我慢の限界だった俺はあの計画を実行しようとし、その途中で白羽と出会って今に至るため、結局俺はソイツらと一度も会う事は無かった。
……白羽の『処理』とやらで俺は元の世界に元々存在しない事になったから、俺とアイツらの思い出もそもそも無かった事になった。けど、あの時に誘われた事で出会えた『演劇』が今の俺の一番の武器になってるのは間違いないから、アイツらには本当に感謝している。何せ――。
「……皆藤とかランスロットを除けば、唯一の友達と呼べる奴らだったからな」
思わずスッと立ち止まりながらそんな事をポツリと独り言ちていると、ランスロットが不思議そうな様子で話し掛けてきた。
「郁人、何か言ったかい?」
「ん……いや、昔の友達の事をちょっと思い出してな」
「郁人の友達か……ふふ、その郁人の様子を見るにその友達は本当に良い人達ばかりなんだね」
「そうだけど……ランスロット、俺の様子って……?」
「ふふっ、郁人自身には見えてないだろうけど、今スゴく良い笑顔をしているよ。一言で言えば、とても安らいでる感じだね」
「……そっか」
ランスロットの言葉に答えながら俺はフッと笑った。ランスロットの言う通り、アイツらは本当に良い奴らばかりだった。だから、俺が変な意地を張らずに連絡を取っていれば、今頃別の未来があったのかもしれない。けど、俺は今の【Cheat Breakers】の一員としての道を選び、今もこうして『演劇』という武器を使いながらターゲットと一緒に行動している。それは俺自身が選んだ道なのは間違いないし、正直後悔はしていない。
だから、俺は今やるべき事――『仕事』を自分の武器を駆使して精いっぱい頑張ろう。それがターゲットと友達になれた俺――『千歳戒人』だから出来る事なのだから。
そう決意を新たにした後、俺は前を見据えながらランスロットに話し掛けた。
「さて、そろそろ船内散策を再開しようか、ランスロット」
「うん」
ランスロットの返事に頷いて答えた後、俺は再びランスロットの様子をこっそりと観察しながら船内を一緒に歩き始めた。
その日の夕食後、俺はランスロットと一緒にカジノへと来ていた。2日目にもカジノには来ていたが、その時はカジノという施設の様子見も兼ねていたため、特にギャンブルに興じたり『幸運』の力の観察などはしていなかった。なので、今夜はちょっとした実験と『幸運』の力の観察などをするためにカジノへと足を運んでいた。
一応白羽から『幸運』の力がもたらす周囲への不幸については来る前に聞いたけど、やっぱりどんな物かっていうのは、実際に見てみないと何とも言えないからな。それに――
「『俺の能力』が『幸運』とか実際の運にどこまで通用するかも知りたいところだったし、丁度良いよな」
ポツリとそんな事を独り言ちていると、ランスロットが目をキラキラとカジノを見回しながら楽しそうな声を上げた。
「あははっ……! 一昨日も思ったけど、やっぱり豪華客船のカジノともなると、雰囲気もゴージャスだなぁ……!」
「確かにそうだけど、そんなにはしゃいでると素人から巻き上げようとする奴らとかいかさま師から狙われるぞ?」
俺が半ば呆れ気味に言った瞬間、ランスロットから笑顔が消え、抑揚の無い暗い声がランスロットの口から漏れた。
「……大丈夫だよ、郁人。僕だってそう簡単には負けはしないから」
「……そうだな」
俺が返事をすると、ランスロットは何事も無かったかのように笑顔を浮かべ、弾んだ声で話し掛けてきた。
「行こう、郁人! 大金が僕達を待ってるよ!」
「はいはい」
ランスロットと一緒に歩き始めながら、俺はさっきのランスロットの様子の変化について考えを巡らせた。ここ数日間でランスロットの笑顔が消えたのは、今が初めてだった。つまり、今の俺の発言がランスロットの過去に関する何かを思い起こさせた事になり、さっきのような反応を示させたのだろう。
……皆藤の時もそうだったけど、強すぎる能力はやっぱりその人や周囲の人間の性格や人生を狂わせる原因になるみたいだな。そしてランスロットの過去に何があったかは分からないけど、いざとなったらその過去もつつく必要は出て来たかな……。
その可能性を考え、俺が少しだけ罪悪感を覚えていると、ランスロットがワクワクした様子で話し掛けてきた。
「さて、郁人。まずは何からやろっか?」
「そうだな……」
軽くカジノ内を見回してみた時、少し離れたところにあるルーレットがふと目に入ってきた。
ルーレット……これなら読み合いとかも関係ないし、最初からそこそこ稼げる自信もあるから、コレにしてみるかな 。
そう決めた後、俺はルーレットの方を見ながらランスロットに話し掛けた。
「俺はルーレットにしてみるよ。ランスロットはどうする?」
「そうだね……せっかくだし、僕は少し見て回りながら決めることにするよ」
「分かった。それじゃあまた後でな」
「うん、また後で」
そう言ってランスロットと別れた後、俺はルーレットの方へと歩き始めた。ランスロットが見て回ると言った以上、俺も同行した方が本当は良いのだが、俺の行動を白羽が見ているのは確実であり、ランスロットと合流した後に何かをやるなら、チップを多めに持っておいた方が良い。よって、とりあえず白羽に楽しんでいる様子を見せながらルーレットでそこそこ稼がせてもらい、そのついでに能力がどの程度通用するかを確認する。そしてその後にランスロットと合流してから、『幸運』の能力の観察をさせてもらう事にした。
まあ、普通にやる中で時々能力を行使するようにすれば、周囲からあまり怪しまれないだろうし、色々と試させてもらうかな。
そんなあくどい考えを抱きながら俺はルーレットの前に立ち、とりあえずルーレットの観察を始めた。
……0と00があるって事は、これはアメリカンルーレットって奴か。つまり、もう一つの00がないルーレット――ヨーロピアンルーレットよりも当たりの確率が低いルーレットになるわけだけど、俺にはあまり関係ないかもしれないな。
そんな事を考えながら持っていたチップの内の半分近くをディーラーに渡し、ルーレット用のチップに引き換えた。そして目の色を金色に変えた他の客達が次々と賭けていく中、俺は自分のカンに従って賭ける事にしたため、特に考えずにある数の一点狙いでシート上にチップを置いた。
その後、ディーラーがウィールと呼ばれる回転盤の中にある玉を指で弾くと、玉はカラカラカラという軽い音を立てつつ客達の欲望に満ちた視線を受けながらウィールの中を回り始めた。そしてその間、他の客達は更に賭けるチップの増減を行っていたが、俺は何もせずにウィールの中で回り続ける玉の動きを眺めていた。
「……No more Bet」
ディーラーのその声によってベットが締め切られると、他の客達は声を出すことなく真剣な眼差しをルーレットに向けた。そして、コトンという音を立てて玉がある数が書かれた窪みへとはまりその動きを止めると、ディーラーを含めた俺以外の全員が息を呑んだ。
「……バ、バカな……」
「00のストレートアップ、だと……?」
他の客が声を震わせながらそう言う中、ディーラーは少しだけ手を震わせながらピックと呼ばれる物をシート上の当たり番号の所へ置き、ハズレた番号の上に置かれたチップを回収した。そしてその後に配当が当たり番号である00の上に置かれ、ピックが引き上げられてから俺は何でも無い様子で配当を手にした。
まあ、別に能力を使ってないから、完全にマグレなんだけどな。さてと――。
俺は他の客達が再び賭け始める中、持っているチップの半分をシート上の適当な所へと置き、もう半分をその隣へと置いた。
そろそろ始めるとしようか、楽しい楽しい実験タイムって奴を……。
そしてある能力を静かに行使した後、俺は徐々に込み上げてくる楽しさを感じながらニヤリと笑った。
「……実験完了、と」
それから約30分後、元の約2倍近くに増やしたチップをカジノのチップに戻した後、俺は未だルーレットに集中している客達をよそにその場から離れた。
それにしても……まさか初っぱなからストレートアップが出るなんてな……。
俺はカジノ内を歩きながら小さく苦笑いを浮かべた。あの後、俺は時々実験を行いながらルーレットをやり続けていたが、ストレートアップのような大当たりは流石に連続で出すわけにも行かず、小さな当たりを重ねるにとどめ、そこそこ楽しみながらチップを増やし続けていた。
……実験をしたかったからとはいえ、流石にあの客達に対しての罪悪感はあるし、今度からこういう事をする時は、相手が『幸運』の能力みたいな物を持ってる時だけにしておくか。
そんな事を考えながら俺はさっき行った実験の内容を思い起こした。今回行った実験のテーマは、『果たして『事象の流れを司る能力』は運の流れも本当に司れるのか』だった。そもそも『事象の流れを司る能力』は、現在進行形の事象――例を挙げるなら、河川の流れや物を押す際の力の流れといった様々な『流れ』を司る能力であり、皆藤戦の際は俺に向かってくる拳の『流れ』を俺から逸らした事で皆藤は急な動きに反応できずにそのまますっころんだ。つまり、この能力を行使する事で、飛んでくる弾丸や殴り掛かってきた拳といった物理的な物から魔法や能力で生み出された攻撃などの超常的な物を相手へと跳ね返したり向きを逸らして相手の仲間へ飛ばしたりといった『反射』、風や水の流れを変えたり物の落下する向きを細かく変えたりといった『操作』などが可能になる。しかし、この能力は一度に5つの事象までしか司る事が出来ないため、別の物をどうにかしたい場合は既に司っている物を一度放棄する必要がある。そして、今回の実験では概念的な物である『運』を事象の一つとして捉える事が出来るかという事を試してみたが、結果として俺はチップの量を増やす事が出来たものの、それは『運』を事象の一つとして捉えたからというよりは、数ある確率の中で『俺が当たり番号を当てられた』という事象へ流れを変えられたから、というのが正しいようだった。
……まあ、『幸運』とは違って『俺がハズレた』という事象にも操作出来るみたいだし、『運の流れ』を司ったと言っても良い気はするけど、正確には違うような気もするし……やれやれ、この能力もまだまだ研究が必要そうだな……。
『事象の流れを司る能力』について色々と考えながら歩いていたその時、ポーカーのテーブルの方が何やらざわめているのに気づいた。
……まさか、ランスロットが何か大きな役でも決めたのか……?
疑問に思った俺はそのままポーカーのテーブルの方へと向かった。すると、俺の視界に入ってきたのは、スペードのロイヤルストレートフラッシュを決め、満面の笑みを浮かべているランスロットの姿だった。
……やれやれ、やっぱりそうだったのか。
『幸運』の力を目の当たりにしながら小さく肩をすくめていたその時、ランスロットの隣に座っていた男性が肩をプルプルと震わせ始めた。そして我慢ならないといった様子で勢い良く立ち上がると、ランスロットを指差しながら怒号を飛ばした。
「お前! さてはいかさま師だな!!」
「いかさま師だなんて……僕は普通にやっていただけで――」
「とぼけるな! フォーカードの次にストレートフラッシュ、更にはロイヤルストレートフラッシュだぞ……!? そんなに役が揃うわけがないだろ!!?」
「そ、そう言われても……」
ランスロットが少し怯えた様子を見せると、男性は今度はディーラーへと食ってかかった。
「それともアレか、ディーラーまでグルなのか!?」
「……そんな事はありえません。私達はイカサマに加担する事など一切ありませんので――」
「そんなの分からないだろ!? イカサマに加担してないって言うなら、どうしてコイツにだけ高い役ばかりが揃うんだ!?」
「そ、それは……」
ディーラーはそれが何故かは自分にも分かっていないため、男性の問いに心底困っている様子を見せた。その様子を横目に俺は近くにいた初老の男性に話し掛けた。
「あの、何かあったんですか? 何やらイカサマとかグルとか聞こえましたけど……」
「……ああ。さっきまではあの男の方が勝ち続けていたんだが、突然あのロイヤルストレートフラッシュを揃えた彼が急に役を揃え始めてね、あの男が言うようにそれは次第にどんどんと高い役高い役へと変わっていったんだ。そしてそれをイカサマだと思ったあの男がああやって騒いでるというわけさ。……まあ、彼の方はイカサマではなく、あの男の方がイカサマを働いたと思っているけどね」
「というと……?」
「……既に足は洗ったが、私はいかさま師として色々な賭博場に出向いていたんだ。だが、次第にそれに虚しさを感じ始めて、遙か昔に足を洗ったんだよ」
「……そうだったんですか」
元いかさま師の男性の話を聞いた後、再びランスロット達の方に視線を戻すと、男性は未だに怒りをぶつけていた。
……能力の説明をしたところで信じてもらえるわけも無いし、最悪更に酷い展開にすらなり得る。さて、どうやったらこの問題を解決できるもんかな……?
目の前で起きている問題を見ながらその解決策について考え始めたその時、怒号を上げる男性の左の袖口から何やら白い物が見えている事に気づいた。それはシャツのような布地の物ではなく、加工をされた紙のように見え、俺は小さく首を傾げた。
……加工をされた紙、そして元いかさま師の目……。なるほど、なら俺がやるべき事はコレだな。
俺は小さく頷いた後、袖口からはみ出ている白い物に集中しながら『言葉を司る能力』を行使した。
「……重量増加、対象は男性の袖口からはみ出ている物」
すると、突然男性の左腕がガクンと下がり、男性は声を上げずにそのまま倒れ込見始めた瞬間に俺は『重量増加』を解除した。そして男性が
「これは……トランプ? それもAとかJばかりだ……」
「あっ……そ、それはっ……!」
男性が慌ててそれを隠そうとしたものの、他の客達がそれを阻止しながらそれらを拾い始め、完全に拾い終えた後にこぞっていつの間にか片付けられていたテーブルの上へと置いた。
「ディーラーさん。コレはこのカジノで用意したカードではないよな?」
「ええ。カードは既に全てしまい終えていますし、枚数も確認したので間違いありません」
「……という事は……!」
そして全員の視線が男性へと注がれると、男性は顔を真っ青にしながらどうにか逃げ道を探そうとキョロキョロし始めた。
……結局、コイツは本物のいかさま師だったわけか。
ふうと息をつきながら俺は男性からランスロットへと視線を移した。すると、ランスロットの表情には一切の感情が浮かんでおらず、俺はそれを見てカジノの入り口で見たランスロットの様子を想起した。
……後で白羽に連絡を取るか。
船の乗務員達がいかさま師の男を連れて行き、周囲がガヤガヤとする中、俺は未だに無表情のままであるランスロットを見ながら静かにコクンと頷いた。
『あははっ、アレは中々面白かったよね』
「……全然面白がる事じゃないだろ、白羽」
白羽の楽しそうな声に俺は少しだけ苛立ちを感じながら答えた。あの後、俺は事情聴取を終えたランスロットと一緒にカジノを後にした。そして少し歩きながら話をしていると、ランスロットの表情も徐々に和らぎ、部屋の前で別れた頃にはすっかりいつもの調子へと戻っていた。その後、部屋に入った俺は白羽に連絡を取るべく、連絡用端末を使って今に至る。
……白羽からすれば面白いかもしれないけど、こっちからすればターゲットの事をどうやって助けたものか頭を悩ませていたわけだから、少しはその辺を考えて欲しいよな……。
本日何度目かのため息をつくと、電話の向こうの白羽はクスリと笑ってから先程の俺の言葉に返事をした。
『だって、いかさま師だと疑われていたターゲットが本物のいかさま師のミスによって『運良く』難を逃れたんだよ? 話の流れとしては中々面白い方じゃない?』
「……『運良く』か。つまり、アレは幸運の力によるものと考えて良いんだな?」
『そうなるかな。イカサマを疑われたのは能力が働いていなかったからだけど、その後の戒人がコピートランプを見つけた事や戒人が能力を行使していかさま師の不正を暴いた事なんかは『幸運』自身の能力が働いた結果と見て良いと思うよ』
「……そうか」
『まあ、これで戒人も理解したでしょ? 僕が拠点で言った言葉の意味を』
「……まあな」
白羽が指している言葉、それは『行き過ぎた幸運は周囲の人間に苦痛の悪夢をもたらす』という言葉の事だろう。今回は結果としていかさま師の摘発という形になったが、ランスロットの言葉も合わせて考えるなら、『ランスロット自身が望めばどんな相手にも不幸な結末を迎えさせられる』という事になる。小さな不幸から不幸が連鎖し、やがて破滅の未来へと引きずり込まれる。それが白羽が言いたい『幸運』の本当の恐ろしさというものなのだろう。
……今のところ、ランスロット自身はそんな事は考えていないはず。だけど、人は小さなきっかけでもその性格を豹変させてしまうものだ。だからこそ――。
「何としても幸運の能力は回収しないといけないな」
『うん。そうじゃないと、最悪『幸運』が行く先々で死人が続出しかねないからね』
「そうだな。とりあえず、時間はまだ少しあるから、『事象の流れを司る能力』も駆使しながら最高の結末を迎えられるようにシナリオを考えてみるさ」
『ふふ、楽しみにしてるよ。それじゃあ、お休み、戒人』
「ああ、お休み、白羽」
そう挨拶をして電話を切った後、俺は携帯を机の上へと置き、そのままベッドへと寝転がった。そしてリモコン操作で部屋の電気を消し、目をゆっくりと閉じた後、今回の『幸運』相手のシナリオについて思考を巡らせた。
……皆藤の時みたいな能力バトルを挑んでも、周囲に被害が及ぶ可能性が高い。そしてそれは船上でも降りた後の港でも同じ。となると、ベストなのは――。
「……相手の土俵で戦う事、か……」
そう独り言ちた瞬間、俺の意識は静かに薄れていき、眠りの渦の中へと呑まれていった。
政実「第7話、いかがでしたでしょうか?」
戒人「次回で『幸運』編もラストか。少し気が早い気はするけど、次の章はどうするのかは決まってるのか?」
政実「一応は決まってるよ。一応は、ね」
戒人「……そっか。それで次回の投稿予定はいつも通りで良いのか?」
政実「うん」
戒人「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「ああ」
政実・戒人「それでは、また次回」