Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、千歳戒人です。旅か……資金と時間さえあれば、旅行には行きたいと思うもんだけど、そういうのじゃない奴だろ?」
政実「そう。あてのない旅……とまではいかないけど、観光名所を巡るとか何かの見学とかじゃなく、どこかへ行って自分の力だけで穴場とか隠れた名所を探すみたいな感じのをいつかやってみたいかな」
戒人「まあ、分からなくはないけど、まずは色々な準備からだな。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、第8話をどうぞ」
豪華客船クイーンマリー号での船旅が6日目を迎えた頃、俺は夜に自室で今回のターゲットである『
「……この船旅も明日で最後。となると、勝負を決めるなら明日の朝しか無いよな……」
座っている椅子の背もたれにゆっくりと体を預けながら俺はぼそっと独り言ちた。カジノに行った4日目の夜、俺はランスロットに備わっている力を目の当たりにし、改めてランスロット――『幸運』を狩る事を決意した。そして勝負をするなら能力バトルではなく、相手の土俵である運の良さで決める事にしたが、初日の夜に白羽からこの船旅が終わるまで拠点には戻れない旨を伝えられたため、勝負内容を決めた4日目以降もこの『
「『
カジノに行ったあの日、いかさま師の話題を出した時やいかさま師の正体を暴いた時にランスロットは普段のニコニコとした穏やかな雰囲気とは真逆の冷たく何かを
……一応、今回の脚本の九割は完成してる。後はその過去の事についての情報があれば――。
そんな事を考えていたその時、部屋のドアが軽く2回ほどノックされた。
ん……? こんな時間に来客……?
「……はいはい、ちょっと待って下さいねーっと……」
疑問に思いながらも俺はドアの方まで歩いていき、ゆっくりと静かにドアを開けた。するとそこにいたのは――。
「ん、ランスロットじゃないか。どうかしたのか?」
「……あはは、ちょっとね」
来客――ランスロットは俺の問い掛けに小さく笑いながら答えた後、ニコリと微笑みながら言葉を続けた。
「明日は船を下りる日だろ? だから、ちょっと最後の夜の散歩でもしようと思って、君の事を誘いに来たんだよ」
「……そっか。分かった、ちょっとだけ待っててくれるか?」
「うん、もちろんだよ」
「ありがとう」
ランスロットに礼を言った後、俺はドアをゆっくりと閉めた。そしてそのまま机の上にあるランスロットについて書かれたノートや財布などを手に持ち、もう片方の手でポケットの中にある
「物体縮小、対象はランスロットについて書かれたノート」
そしてノートが手のひらサイズまで縮んだ事を確認した後、俺はそれらをポケットへとしまった。
ランスロットが何かを考えて俺を夜の散歩に誘ったとは思えない。だから、言葉符は本当なら必要ない。けど、いかさま師が乗っていた事から考えると、他にも色々な奴が乗っている可能性はそこそこあり、人が多い日中よりも夜中に活動をしている可能性は高い。だから何かあったその時は、この言葉符や他の能力達に大人しく頼る事にしよう。
そう考えながらコクンと頷いた後、俺は再びドアの方まで歩いていき、ドアを押し開けながらランスロットに話し掛けた。
「お待たせ。それじゃあ行こうか、ランスロット」
「うん」
そして俺達は、他愛ない会話を交わしながらそのまま夜中の船内散歩へと繰り出した。
夜中の船内散歩中、俺達はそこそこ大きな声で話をしながら歩いていたが、他の船客はおろか客船のスタッフにすら会う事は無かった。恐らくこれはランスロットが能力を使っていたからなのだろう。しかし――。
この状況は俺からすれば好都合だけど、ランスロットがそれを望む理由が見当たらない……。これは少しだけ警戒しておいたほうが良いかもしれないな。
ランスロットの様子を警戒しながら心の中でそう決めた。そして時刻がおよそ午前4時を回った頃、俺はランスロットの提案でクイーンマリー号の甲板へと出て来た。早朝だけあって甲板には誰もおらず、空はまだ星が見えていたものの、徐々に白み始めており、水平線の向こうは日の出のオレンジ色が海の青色に映っていた事で、まるで絵画のような光景が広がっていた。
日の出か……そういえば、元の世界に別れを告げた日もこんな時間に起きたんだっけな……。
水平線の向こうをボンヤリと眺めながらそんな事を考えていると、ランスロットがクスクスと笑いながら話し掛けてきた。
「何だか、郁人ってこういう風景にピッタリだよね」
「え、そうか?」
「うん。一緒にいるのが僕じゃなく、どこかのご令嬢とか絶世の美女だったら何かの芝居の一場面みたいになってたと思うよ」
「あはは、そりゃどうも。だけど、そんな人達とお近づきになる機会なんて無いし、女性の知り合いなんて全然いないから、そういった事なんて今のところあり得ないかな」
「あ、そうなんだ。郁人って何だか友達が多そうだし、恋人もいそうだと思ってたんだけど、実際はそうだったんだね」
「……まあな」
ランスロットの言葉にフッと笑いながら答えつつ、俺は過去の事を何となく思い出した。進んで友達を作ろうとしなかった小学生の時や様々な理由で心を荒ませていた高校時代はもちろんの事、演劇部に所属していた中学時代ですら俺は女子生徒との関わりはあまりにも薄かった。授業などで仕方なく話す事はあっても、自分から話し掛けることはまず無かった。もちろん、演劇部には女子部員もいたので、ソイツらとは色々な事を話しはしたが、どちらかと言えば演劇部に誘ってくれた男友達と話す事の方が多かったので、実に女っ気のない学生時代だったと言っても良い。
それに今身近な女子といえば、拠点にいる
自分が今置かれている状況を思い返しながら一人でうんうんと頷いた後、今度はランスロットに同じ事を訊いてみる事にした。
「そう言うランスロットはどうなんだ? お前だって顔は整ってるわけだし、故郷の方で好きだった女性とか声を掛けてきた女性くらいいるんじゃないのか?」
「……お生憎、僕もそういう経験は乏しくてね。いつも男友達と一緒にいたから、そういう関係の女性は一人としていないよ」
「そっか」
ランスロットの答えに相槌を打った瞬間、爽やかな潮風が俺達の間を静かに吹き抜け、俺達の髪や服の裾を揺らしていった。そしてそれが合図となったのか、突然ランスロットが俺に話し掛けてきた。
「ねえ、郁人。郁人は船を下りた後はどうするつもり?」
「そうだな……ぶらぶらと予定も決めずに色々なところを見て回る、そんな自由な旅をするつもりだよ」
「……そっか」
「でも、どうしてそんな事を訊いてきたんだ?」
「何とな――いや、ちょっとした理由があるんだけど、その前にもう一つだけ訊いても良いかな?」
「別に良いけど……何だ?」
そう小さく首を傾げながら訊いた後、ランスロットの口から出てきた言葉に俺は驚く事となった。
「郁人。君は……一体何者なんだい?」
「……え? 何者って……ただの日本人観光きゃ――」
「……一昨日のカジノに行った時、いかさま師が倒れて袖口からコピートランプが出てきたけど、あれは君がやったんだよね?」
「…………」
その問い掛けに俺が黙り込むと、ランスロットはやっぱりと言うかのようにふうと息をつき、水平線の向こうへ視線を向けながら静かに口を開いた。
「あの時、僕はいかさま師を目の前にしながら心の中で願ってたんだよ。この状況を切り抜けたい、とね。そしたら、郁人がギャラリーの中にいるのがふと目に入ったから、助けを求めるために声を掛けようとしたんだ。でもその時、郁人はいかさま師の方を見ながらぼそりと何かを呟くように口を動かしていた。その時は郁人が何をしてるのかは分からなかったけど、それからすぐにいかさま師の様子がおかしくなって、いきなり倒れ込んだかと思うと、袖口からコピートランプがバラバラと出て来た」
「…………」
「恐らく見てたのは僕だけだけど、これを偶然と片付けるにはあまりにも不自然過ぎる。そしてこれを君がやったとするなら、君は僕の『運の良さ』みたいな何かを持っている事になる。そうだよね?」
「……さてな。でも、だとしたら……どうする?」
俺はランスロットに問い掛けながらポケットの中の言葉符に手を伸ばした。すると、ランスロットはニコリと笑いながらそれに答えた。
「どうもしないよ。でも、やっぱり気にはなるかな?」
「そう――」
「だから僕と勝負をしてよ、郁人。敗者に勝者の願いを叶えさせる権利を賭けて、ね」
ランスロットは妖しい笑顔を浮かべながら言うと、ポケットの中に手を伸ばした。そして中から出てきたのは、何の変哲も無い1枚のコインだった。
「コイン……つまり、コイントスで勝負をしようという事か?」
「その通りだよ、郁人。このコインの裏表を当てるだけの一回勝負。簡単だろう?」
「……まあな」
笑顔で訊いてくるランスロットに対して、俺は警戒心を解かずに頷いた。確かに他のギャンブルに比べれば、コイントスはあまりにも簡単な物だ。だけど、このコイントスは『俺には不利なギャンブル』だ。コイントスは1枚のコインを上に弾き、落ちてきたコインをキャッチし、その裏表を当てるだけだ。けど、このギャンブルには、俺の能力が全て通用しない。『召喚を司る能力』は言わずもがな『逆転を司る能力』は逆転させたい物を視界に捉えていないといけないため、手で隠れているコインには通用しない。そして『事象の流れを司る』は、現在起きている事にしか効果を発揮出来ない能力であり、キャッチしたコインは既に『動きを止めている』ため効果を発揮出来ない。なので、唯一使えるとすれば『言葉を司る能力』だけだが、これは声に出す必要があるため、ランスロットに気づかれやすい上、声に出す際のタイムラグの間に結果を出されては意味が無い。よって、このギャンブルは言ってみればランスロットの勝利がほぼ確定している事になる。でも――。
……負けがほぼ確定してるからと言って、逃げ出すなんてやっぱり男じゃないよな。たとえ1%でも可能性があるなら、俺はそれに賭ける。そして絶対にこの勝負に勝ってみせる……!
そう覚悟を決めた後、俺は真っ正面からランスロットの事を見つめながら大きな声を上げた。
「その勝負、受けて立つぜ、ランスロット! そして俺は、お前に絶対に勝ってみせる!」
「……ふふ、良い目をしてるね。それじゃあ、行くよ……!」
ランスロットは楽しそうな笑みを浮かべると、コインの表を上に向けた状態で指の上へと載せ、そのまま強く上へと弾いた。コインはピーンという音を響かせながら宙を舞い、やがてそのまま落ちてくると、ランスロットはそれを左手の甲と右手で覆うようにしてキャッチし、自信満々な様子で俺の目の前へと運びながら話し掛けてきた。
「さあ、表と裏、郁人はどっちを選ぶ?」
「……そうだな……」
目の前にある見えない運命を前に、俺の心臓は早鐘のように鳴り出した。表か裏、その二択のどちらかを決めるだけであり、悩んだところで結果が変化するわけで無いのは分かっていたが、その選択が自分の運命を決めるため、俺はすぐにはそれを決める事が出来ずにいた。
……どっちだ。一体どっちが正解なんだ……? コインを弾く前の状態から推理を――いや、正直ランスロットが能力を使っている可能性が高い以上、そういった情報は一切あてにならない。つまり、どんな推理をしたところで、コインの結果は当てようが無い。でも、ここで当てないと俺は白羽達のところには……!
本当にどうしたら良いのか分からなくなり、思わず目を強く瞑ってしまったその時――。
『……ふふっ、隠れている本当の君を出せば、自ずと答えは出るかも知れないね』
そんな言葉がふと頭を過ぎった。
……これって、確か役の演じ方に迷ってた時、演劇部の顧問が俺に掛けてくれた言葉……だったっけ。
この緊迫した雰囲気の中、俺は中学時代の恩師の言葉に少しだけ懐かしさを覚え、徐々に気持ちが落ち着いてくるのを感じた。
……確かあの時は、俺とはまったく真逆の性格の主役をやる事になって、その性格が裏表のない明るい物だったから、中々その役に入り込めずにいたんだっけ……。それである時、皆が来る前に一人で部室で練習してたら、いきなり先生が入ってきて、何をしてるのか訊かれたから役に入り込めない事を話したらさっきの言葉を――。
その時、俺の頭の中でさっきまでの俺なら思いつかないであろうある可能性が浮かんできた。
……ここは一か八か、その可能性に掛けてみるか。自分で決められない以上、俺はあの時の先生の言葉が示してくれた可能性に従ってみるのも良いのかもしれないしな。
そう決めた後、俺が静かにフッと笑っていると、ランスロットが不思議そうな表情を浮かべながら小さく首を傾げた。
「どうしたの、郁人?」
「……いや、ちょっとある事を思い出しただけだよ。さて……コイントスの結果の予想、だったよな?」
「うん、そうだよ。さあ、郁人は表と裏のどっちを選ぶ?」
「俺が選ぶ答え、それは――」
水平線の向こうから太陽が上がってくる中、俺は右手を静かに上に掲げた後、ゆっくりと下ろしながら『ある場所』を指差した。
「表でも裏でも無い。そしてコインは手の中じゃなく、お前の右袖の中だ」
「……本当にそれで良いんだね、郁人?」
「ああ。何度訊かれても、俺の答えは変わらないぜ、ランスロット」
俺が頷きながら答えると、ランスロットはしばらく真剣な眼差しを俺へと向けていたが、やがて諦めたような表情を浮かべながらふうと息をつくと、覆っていた右手をゆっくりと退けた。するとそこには、俺の予想通りコインは無く、ランスロットが左手を右袖の中に入れ、何かを掴むような動作をした後にゆっくりと引き出すと、その手には1枚のコインが掴まれていた。
「お見事。君の勝ちだよ、郁人」
「……ああ、そうだな」
俺が静かに返事をすると、ランスロットは空を見上げながら少し悔しそうな様子で声を上げた。
「あーあ……まさかこんなにピタリと当てられるなんて、本当に思ってもみなかったなぁ……」
そうは言うものの、ランスロットの表情はとても穏やかな物であり、悔しさよりも嬉しさの方が勝っているようにみえた。
……何とか勝つ事は出来た。けど、このランスロットの表情、何か引っかかるな……。
ランスロットの様子に疑問を覚えた俺は、やりきったような表情を浮かべるランスロットに声を掛けた。
「ランスロット、一つ訊いても良いか?」
「……何?」
「お前……能力は使わなかったのか? 能力を使えば、お前は負ける事なんて――」
「……もちろん、使ったよ」
「……え?」
俺の言葉に被せながら言ったランスロットの言葉に疑問の声を上げると、ランスロットは満面の笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「使った結果がコレなんだよ、郁人。だから、この勝負は僕の完敗。文句なしの、ね」
「…………」
ランスロットの笑顔に俺が何も言えずにいると、ランスロットはクスリと笑いながら静かに口を開いた。
「この勝負を持ちかけた時、僕は心の底から勝つ気でしかいなかったし、僕の願いを絶対に叶えるつもりでいた。君が持っている力みたいな物が、声に出す事が条件のようだったから、郁人がそれを使えないのは分かっていたしね。でも、コイントスをする前の郁人の目を見た時、僕は心の中で思わず迷ってしまったんだ。僕の願いはそんな方法で叶えてしまって良い物なのか、とね。その結果、僕は君には内緒でコイントスの他にもう一つの賭けをする事にしたんだ」
「もう一つの賭け……」
「そう。君が僕の能力に勝てるかどうかという賭け、それが僕が僕の欲望に対して持ちかけたもう一つの賭け。そしてコインが落ちてきた時、僕は一応しっかりと取るつもりだったけど、コインは僕の右袖へと吸い込まれるようにして入った。その瞬間、僕はもう一つの賭けの負けを確信したよ。コイントスは基本的に表と裏のどちらかを選ぶ物、なのに3つ目の答えなんて物があったら、絶対に答えられるわけが無いからね。でも、君は見事にその答えを導き出して僕との賭けに勝ち、僕は僕の欲望に持ちかけた賭けに勝った。つまり僕は、諦めたつもりでいたけど、本当は君の勝ちを心から願っていたのかもしれないね」
ランスロットが笑顔でそう言葉を締め括ると、それと同時に朝を告げる太陽の光が俺達へと射し込み、俺は太陽の光とランスロットの笑顔の明るさに思わず目を細めた。
……でも、ランスロットがこの賭けの報酬にしてまで叶えたい願いって一体何なんだ……?
そう疑問に思った俺は、その事についてランスロットに話し掛けた。
「ランスロット。お前が叶えたかった願いって一体何だったんだ?」
「……僕が叶えたかった願い、それはね――」
ランスロットは少し寂しそうな笑顔を浮かべた後、ニコリと微笑みながら言葉を続けた。
「君ともう少しだけ旅をする事、だよ」
「俺との旅……?」
「うん。賭けを持ちかける前、僕は君に船を下りた後にどうするつもりなのかを訊いただろ? 本当はあの時に郁人に船を下りた後も一緒に旅をしないかと話を持ちかけるつもりだったんだ。でも、それを断られる事を僕は知らず知らずの内に恐れていた。そしてその結果、こんな郁人にとって本当に不利な賭けを持ちかけ、それで勝って無理やり君との旅を続けようとしたんだ。……本当、自分の子供っぽさにはほとほと呆れるよ。この1週間がいくら楽しい物だったからといっても、君の行動を僕が決めていい理由にはならないのにね」
「ランスロット……」
「ははっ……結局、僕も『彼ら』と同じだったって事か……」
ランスロットは水平線の向こうへ視線を向けると、自嘲気味にポツリと呟いた。
彼ら……?
その言葉に疑問を覚え、俺は水平線の向こうを見つめるランスロットに声を掛けた。
「ランスロット、彼らって……?」
「……故郷にいた頃に友人だった奴らだよ」
「友人だった……?」
「うん。まあ、今はもう違うんだけどね……」
ランスロットは再び哀しそうに微笑みながら答えた後、自分の過去の出来事について静かに語り始めた。
「僕の故郷はイギリスの田舎町でね、都会の方ほど賑わってはいなかったけど、町人同士の関係性も深くてとても温かい雰囲気の町だった。そして僕の父さんはそこの町長を務めていて、町長だからといって威張るような事はしなく、自ら率先して町の掃除をしたり町人の相談にのってたりしたから、周囲からとても慕われる良い町長だった。そのお陰で、僕も町長の子供だからといってイジメを受けたり陰口を言われる事も無かったし、僕自身も威張り散らす気も無かったから、皆とは仲良くしていけた。だから、僕は本当に幸せな毎日を過ごしていたんだ。あの時が来るまでは、ね……」
「あの時……?」
「そう。僕が12歳になった頃、町にはある話が持ち上がっていた。その話というのが、町にカジノを作ろうという話でね、その話をするために町には連日色々な人が訪れた。でも、父さんを含め町の人達は、それにはあまり乗り気じゃなかった。町にはそんな物が無くても充分暮らしていけたし、それを作る必要がまったく見られなかったからね。そんな中、父さんと町の主立った人達が出掛けることになり、3日くらい町を留守にしていた。そして父さん達が帰ってきた途端、その話が急に本決まりになって、その翌日からカジノを作るための工事が始まった。僕は、その理由を知るために父さんの事を問い詰めたよ。何でカジノなんて作ろうとしているのか、と。
その結果、父さんから返ってきたのは、『町の発展のため』という答えとカジノを作る事で得られる巨額の金に目が眩んだ父さんの冷たい視線だった。その瞬間、僕は悟ったんだ。父さんはもう僕の知っている父さんではない、皆に慕われた町長の父さんは死んだんだ、とね……」
「……そんな事があったのか」
「うん。でも、残念ながら話はそこで終わらない。カジノ建設が僕にもたらしたのは、それだけじゃなかったんだよ……!」
そう言うとランスロットは、哀しさと悔しさが入り交じったような表情を浮かべた。その表情からは、カジノの建設によって起きてしまった故郷の変化が、ランスロットの心を深く傷つけてしまった事が見て取れた。そしてランスロットは、一度深く息を吐いて気持ちを落ち着けた後、再び過去の出来事について話を始めた。
「……カジノの建設が始まってから3年後、無事にカジノは完成したけど、建設予定地にあった自然は跡形も無くなった。なのに、町の皆は最初からそんな物が無かったかのようにカジノの完成を喜び、
「……え? でも、カジノって入場にも年齢制限があったんじゃあ……」
「うん、当然あるよ。だから僕も不思議に思ってその事について訊いたみたら、どうやらカジノの隣にその時の僕達でも楽しめるように簡単なゲームが出来るテントを立てていたみたいなんだ。もっとも、その時の僕はカジノに一切興味を向けてなかったから、その事についてはまったく知らなかったんだけどね。それで、何で僕が行かないといけないのかを訊いてみたんだけど、そのテントには余所の街から来た自称元ディーラーがいたらしくて、皆ソイツに負けてしまって持ち金の大半を取られたから、僕にリベンジをして欲しいって事だったんだ。僕に備わってるこの『運の良さ』は、正直そんなに使いたい物でも無かったから、僕はその時にしっかりと断ったんだ。いくら友達の頼みとはいえ、そういう事はしたくない、ってね。僕があまりその『運の良さ』を乱用する事が好きじゃないってその友達は知ってるから、その時の僕はこう言えば友達もすんなり諦めてくれると思ったんだ。そして予想通り、友達は渋々だけど何とか諦めてくれて、軽く別の話をした後、そのまま帰っていった。だからその時の僕は、少し可哀想だったけど、それは仕方がない事だと思って、その事について忘れる事にした。でもその考えが甘かった事、そしてカジノが町の皆に与えていた影響が僕の予想を超えていた事、それを僕はこの後に思い知らされる事になったんだ」
「…………」
「その翌日、僕が部屋で勉強をしていると、友達がまた僕を訪ねてきたんだけど、全員が顔面蒼白で今にも倒れるんじゃないかと思うくらいだった。それで僕は慌てて何があったのかを訊いたんだけど、その内容というのが、前の日と同じく僕にその元ディーラーと戦って、取られたお金を取り戻して欲しいという物だった。僕はまたかと思って、同じような断り方をしたんだ。でも、その時は友達も中々引き下がらなくてね、何度も問答を繰り返す内に僕も段々疲れてきたから、仕方なくその日だけは友達の頼みを聞く事にした。そして件のテントに着いた後、僕はささっと終わらせようと思って、すぐにその元ディーラーとの勝負を始めた。元ディーラーというだけあって、中々表情を読む事は出来なかったけど、この『運の良さ』に助けられながらも僕は友達が取られた分を何とか取り戻した。そして役目を果たしたからそのまま帰ろうとしたその時、元ディーラーの男が突然僕の事をいかさま師だと言ってきたんだ」
「……まあ、カジノの時みたいにお前の事情を知らない奴からすれば、そう見えるだろうからな」
「うん。だからその時の僕は、友達に何とかその事を説明してもらおうと思って、友達の方に視線を向けた。でもその僕の願いと期待は脆くも崩れ去った。友達の何人かは関わり合いになりたくないという風に目を逸らし、残りの友達は僕に疑惑の視線を向けてきた。それを見た瞬間、僕は心の底からショックを受けたよ。どうにかして欲しいって言われて来たのに、自分のピンチが何とかなれば僕の事はどうだって良いとでも言うかのような反応を見せてきたからね。そしてその様子にショックを受ける僕に対して、元ディーラーの男は怒声を上げ、他の人達からも疑惑や軽蔑の視線を向け、段々僕だけが悪いような雰囲気になっていった。そんな押し潰されそうな気持ちの中、僕はふとある事を思ったんだ。
『こんな奴ら、全員酷い目に遭えば良い』ってね。すると突然、どこからか何かが焦げているような臭いがしてきたんだ。その時、近くにいた人は誰も火なんて使ってなかったし、いきなりそんな臭いがするなんて明らかに変だから、僕はその正体を知るために視線だけをキョロキョロと動かした。そしてその正体――テントの隅っこにいた人が手に持っていた火の付いた煙草に気付いた瞬間、その人が煙草を取り落として、何故か足元に置いてあった紙束へとそのまま落ち、紙束が勢い良く燃え上がると、テントの中はてんやわんやの大騒ぎになった。そしてテントにいた誰もが入り口へ向かって走り出したけど、押し合いへし合いを繰り返すだけで中々外へと出られずにいた。そんな中、火はどんどん燃え広がり、それを見て僕が死を覚悟したその時、ポケットの中に護身用のナイフを入れていた事を思い出し、僕は急いで燃えている箇所とは反対の方へと走った。そしてそこに着いた後、僕はテントの生地にナイフを突き立て、力を込めながら縦に切り裂いて、人が一人出られる程の穴が空いた事を確認してから僕は外へと出ようとした。でもその時、僕は突然横に突き飛ばされ、その場をゴロゴロと転がった。そして何事かと思いながら僕がいた方を見ると、そこにはあの元ディーラーの男がいて、僕の事を冷たい目でジッと見つめながら、突き飛ばされた時に落としたナイフを僕に向けていたんだ」
ランスロットはそこで一度話を区切ると、その時の自分の心境を思い出したらしく、怯えたような表情を浮かべた。しかしすぐに元の表情に戻ると、再び話を始めた。
「僕はナイフが自分に向いている事に恐怖を抱きつつも、どうにかその男を退かして脱出する方法を考え始めた。でもその時、その男は怒りを露わにしながら僕にこう言ったんだ。
『イカサマで上手く稼いでたのに、お前のせいで全てがパーになった。お前だけは絶対に許さない、お前はここで死ぬのがお似合いだ』ってね。それを聞いた瞬間、僕は心からの殺意を覚えたよ。いかさま師の分際で人の事をいかさま師呼ばわりした挙げ句、許さないだのここで死ぬのがお似合いだのと
「……つまり、お前にとっては『運良く』その男にナイフが突き刺さった事になるわけか」
「うん……そして僕は、その男が倒れている所に駆け寄ったけど、男の顔には苦悶と苦痛の色が浮かび、まったく息をしていなかった事から、僕はその男の死体を放置して、そのまま急いでテントの外へと出た。その瞬間、テント全体に火が燃え広がり、急いで消防が駆けつけた頃にはもうテントは焦げた骨組みを残して全焼、入り口付近やテントの中には逃げ遅れた人の焼死体が無残に転がっているというあまりにも凄惨な光景が広がっていた。そしてその後、僕は警察からナイフの件も含めて話を訊かれたけど、あの男がナイフを拾って僕に向けていた様子や独りでに倒れ込んでそのまま死んでいった様子を見たという証言が次々と出た事から僕は『運良く』無罪放免。けど、町長以下主立った人達は、遊戯場の管理不足などを町人達から口々に言われて職を辞任、その後町人達のカジノ熱もあの日の炎みたいにすっかり消えた事で潰れ、今は廃墟みたいになっているらしいよ。そしてその事件以降、僕の『運の良さ』は周囲から気味悪がられるようになり、両親とも不仲になったから、そのまま別の町にいる伯父さんの家に移り住む事になった。伯父さん達は、僕の事情を知りながらも快く迎え入れてくれたから、僕はその町で幸せな日々を過ごしたよ。そして成人して仕事にも就いて、丁度長期の休暇を貰えた時にこのクイーンマリー号の話を聞いて、元々計画していた日本観光のついでに乗ってみようと思って、今に至る感じかな」
「……そうだったのか」
ランスロットの過去に起きた様々な出来事を聞き、俺は少しだけランスロットとの出会いが、白羽に仕組まれた物なんじゃないかと思い始めていた。皆藤の時とは違って自分から求めたわけじゃない能力に翻弄された挙げ句、親しかった人達からは気味悪がられ、住み慣れた町を去る事になった。そんな強すぎた能力が招いたそんな悪夢のような出来事に何とか耐え、今の幸せな日々を勝ち取ったランスロット。対して昔から両親の仲が悪く、友達のとの字も無い小学生時代を過ごし、中学に上がって気の置けない仲間と出会えた。しかし高校では、
……あくまでも、これは俺の予想に過ぎない。けど、初日に船旅が終わるまで拠点には戻さないと言った事や船旅を楽しむように言ってきた事を考えると、そういう可能性も無くはないかもしれないな。
そんな事を考えた後、俺はランスロットに話の中で気になった事について訊いた。
「ランスロット、故郷の町はその後どうなったんだ?」
「……今はもう無いみたいだよ。カジノ熱は冷めたけど、町人達のお金への執着は全く無くならず、色々な犯罪が横行するようになった結果、町人達が次々といなくなり、町としての機能を失って、今は町というかは廃墟群みたいになってるっていう話だよ。因みに両親は、その犯罪に巻き込まれて、数年前に亡くなったよ」
「……すまない。そんな話をさせてしまって」
「ははっ、別に良いよ。僕にとってはもう過ぎた事だからね……」
そう寂しげに笑うランスロットの声からは悲哀感のような物が感じられ、そこからランスロット自身が心から両親の死を悼んでいる事がハッキリと分かった。その様子に俺が何とも言えずにいると、ランスロットはニコリと笑いながら俺に話し掛けてきた。
「さて……それじゃあそろそろ郁人の願いを聞かせてもらおうかな? 僕に出来る事なら出来る限り頑張って叶えるつもりだから、遠慮無く言ってくれて構わないよ」
「……分かった。それなら――」
そう言いながら俺はポケットの中から
「『幸運』ランスロット・キーオン。お前の能力を回収させてもらうよ」
「『幸運』……能力の回収……? 君は本当に一体――」
疑問の声を上げるランスロットをもう片方の手で制した後、俺は静かに口を開いた。
「ランスロット、俺は出会った時からお前に幾つかの嘘を付いていた。そしてこの姿も本当の俺の姿ではない。だから、今度は俺がお前に話をする番だ。聞いてくれるか、ランスロット?」
「……うん、もちろんだよ」
ランスロットのニコリと笑いながら答える様子に頷いた後、俺は自分の名前や経歴、過去にあった出来事など様々な事を話した。そして話を終えると、ランスロットは心から驚いた様子を見せたが、すぐに笑顔に戻ると、クスリと笑いながら俺に話し掛けてきた。
「……そっか。郁人……いや、戒人もそんな過去があって、今の人生があるんだね」
「ああ。『仕事』のためとはいえ、嘘を付いていたのは本当に悪かったと思ってる。ランスロット、本当にすまなかったな」
「ううん、君が謝る必要は無いよ、戒人。今だからその話もすんなりと受け入れられるけど、旅の最中だったらたぶん受け入れられずに『運の良さ』――幸運の能力を暴走させてしまっただろうからね。それだけ君との旅は楽しかったから尚更ね」
「俺も楽しかったよ、ランスロット。最初はこれはあくまでも『仕事』だからって思ってたし、白羽から言われたからにはどうにか楽しもうと思っていた。けど、お前と過ごす内に少しずつ楽しさの方が勝るようになって、今となってはお前とのこの一週間は掛け替えのない思い出の1つみたいに思えるようになったよ」
「ふふっ、そっか」
俺の言葉にランスロットは小さく笑った後、すっかり明るくなった青空を見上げ、空へ向かって哀しい笑みを浮かべながらポツリと呟いた。
「……もし、僕の願いが叶うとしたら、君や君が出会ったという人達と一緒にあの頃を過ごしたかったなぁ……。時には共に笑ったり喧嘩したり、時には悲しみの涙を流し合ったり一緒に何かを楽しみ合ったり。そんな何でもない日常を君達と一緒に過ごしてみたかったよ……」
「……そうだな。元の世界で、もし皆藤やお前と出会っていたら、俺達はきっと普通の友達として過ごせていただろうからな」
「……ふふ、そうだね。でも、いくら悔やんだり願ったりしたところで、過去はもう変えられない。たとえ、『事象の流れを司る能力』や幸運の能力があったとしても、僕達が過ごしてきた時間を変えられないし出来たとしてもけして許されない。僕達は過去を背負って今を生き、これから来る未来へ向かって歩くだけの永遠の旅人だからね」
「……だな」
白羽に頼めば、俺達の時間を巻き戻して過去を今よりも良い物に変える事が出来るのかもしれない。でも、今の俺達がいるのは、良くも悪くも過去の様々な出来事があったからだ。辛い事や哀しい事、怒りたい事などのマイナスの出来事もあったが、楽しかった事や嬉しかった事、幸せだった事などのプラスの出来事だって当然あったし、こんな生活をしている今でもそんな出来事達に助けられる時もある。だからどんなに辛くとも、今までの出来事を全て受け入れながら俺達は生きていくしかない。それが俺達の『
……演劇部の皆、そして先生。俺の事を助けてくれて、本当にありがとう。そしてこれからもよろしく。
今は距離が遠くなってしまった皆に対して、心の中で礼を言っていると、ランスロットが俺に視線を移し、ニコリと笑った。
「さて……それじゃあそろそろ君の『仕事』に付き合う事にしようか。いつまでもこうやって一緒に話したり旅をしていたい気持ちはあるけど、君にはまだまだ行かなければ場所があるからね」
「……ああ、そうだな」
ランスロットの言葉に頷きながら答えた後、俺は吸力珠をランスロットへと翳した。するとランスロットの体から小さな光が次々と飛び出し、吸力珠へと静かに吸い込まれていくと同時に吸力珠は徐々に金色に染まっていった。そして吸力珠が完全に金色に染まった時、ランスロットの体から出ていた光は見えなくなり、ランスロットの体がグラリと揺れた。
「ランスロット!」
そう大きな声を上げつつ俺は吸力珠を急いでポケットにしまいながらランスロットに向かって手を伸ばした。そしてどうにかランスロットの手を掴むと、ランスロットはどうにか倒れ込まずに済み、ランスロットは少し疲れた様子でクスリと笑った。
「……戒人、君は本当に良い人なんだね。太陽のように暖かく誰かを想える反面、月のように静かに状況を見定める事も出来る。けれど、性格自体は裏表が無い明るい人。それが本当の君なんだね」
「……さてな」
あの日、先生が言っていた『本当の君』という言葉。あの時はしっかりとそれを理解して主人公を
……いつか、その『本当の俺』って奴をしっかりと見つけ、受け入れられる日が来るのかな……。
そんな事を思いながら陽の光を浴びて静かに揺れる青い海を見ていたその時、ポケットに入れていた携帯が突然ブルブルと震えだした。
……白羽からだな。
俺はふうと息をついてから携帯を取り出し、画面の表示を確認してから電話へと出た。
「……もしもし」
『あ、もしもし、戒人?』
「……俺以外にこの携帯に出る可能性があるのか?」
『あははっ、言われてみれば確かにないね。いやー、最近うっかりとか物忘れが多くなってこま――』
「用件は何だ?」
『えっとね、戒人が無事に回収し終えたみたいだから、そろそろ戻したげようと思ってね』
「……そうか。だが、少しだけ待ってくれるか?」
『うん、もちろん良いよ。それじゃあ準備が出来たら、声を掛けてね』
「わかった」
白羽の言葉にそう答えた後、俺はランスロットの方へと向き、少し寂しさを感じながらもランスロットに話し掛けた。
「……という事で、俺はそろそろ戻るよ、ランスロット」
「……そっか。まだまだ話をしたいけど、そういう事なら仕方ないよね。君には僕みたいな能力者をどうにかする使命があり、それを助けてくれる人や能力が存在する。それなら、それを笑って見送るのが僕の役目だ」
「ランスロット……ありがとうな」
「こちらこそありがとう、戒人。君に出会えて、友達になる事が出来て本当に良かったよ」
「……ああ、俺もだよ」
そう言って俺達は固く握手を交わした。ランスロットの手から伝わる仄かな温かさは、ランスロットからの信頼などを表しているかのように俺の中へと静かに染みこんでいった。
幸運の女神に愛された男は、旅の中で自分にとっての本当の幸福に出会い、自分自身の本当願いを見つけた後、それを抱いたまま新たな旅へと出るのでした、なんてな。
そんな事を思いながらフッと笑った後、俺はニッと笑いながらランスロットに話し掛けた。
「それじゃあ元気でな、ランスロット」
「うん。元気でね、戒人」
ランスロットの言葉に頷いて答えた後、俺は電話の向こうの白羽に声を掛けた。
「白羽、やってくれ」
『アイアイサー♪』
そんな白羽の楽しそうな声が聞こえたかと思った瞬間、俺の意識は静かに失われていった。
「……帰ってきた、か」
意識が戻ったことを確認し、ゆっくり目を開けると、俺の視界に入ってきたのは、俺達の拠点の中にある玄関ホールの光景だった。そしてそのまま『笛木郁人』から『千歳戒人』へと姿が戻っている事を確認していたその時――。
「お帰り、戒人」
「お帰りなさいませ、戒人様」
そんな声が背後から聞こえたため、クルリと後ろを振り向くとそこには声の主である白羽と月夜の姿があった。俺はその様子に安心感を覚えた後、フッと笑いながらそれに答えた。
「ただいま、白羽、月夜」
そして白羽達に向かって近付きながら吸力珠をポケットから出し、白羽に声を掛けながら吸力珠を手渡した。
「ほら、今回の吸力珠だ」
「うん、しっかり受け取ったよ。今回もお疲れ様だったね、戒人」
「ああ、ありがとうな、白羽。ところで、もう向こうの世界の『処理』は終わったのか?」
「ふふっ、バッチリ終わってるよ、戒人。……そうだ、せっかくだしターゲットのその後でも
「……そうだな、見せてくれるか」
「オッケオッケー♪」
白羽は弾んだ声で答えると、俺達の目の前に様々な世界の様子を見られる水晶――視水晶を出現させ、俺がさっきまでいた世界の様子を映し出した。そしてそれを見た瞬間――。
「……ふふ。アイツ、幸せそうみたいだな」
俺は思わずクスリと笑いながらそんな言葉を漏らした。そこに映っていたのは、町長として他の人と共に町の発展に努める傍ら、家では良い父親として家族と仲睦まじく過ごしているランスロットの姿だった。
「あの船旅の後、自分の父親みたいに町長にも父親にもなったんだな……」
「吸力珠で回収したといえ、普通の人よりは運が良いままではあったからね。住んでる町に帰った後、宝くじみたいなのに当たって、それを資金にして町長選に出馬。そして無事に当選した後、偶然町に来ていた他の町の富豪の娘さんと出会い、そのまま結婚までして、子宝にも恵まれながら町長としての職務を全う中。因みに自分の運の良さについては、一応周囲の人には言っているし、それを利用しようとする人ももう近くにはいない。戯曲としては中々良いエンディングなんじゃないかな?」
「……そうだな」
白羽の言葉に頷きながら答えた後、俺は幸せそうに微笑むランスロットの様子に思わず口元を綻ばせた。
「……良かったな、ランスロット。お前にとって良い友人や家族と巡り会えて……」
俺がそんな言葉を口にしていると、白羽はニカッと笑いながら俺に話し掛けてきた。
「今回の戯曲の題目は『旅の果てに見つけた本当の幸福』ってところかな?」
「……良いんじゃないか? ランスロットにとっては、ピッタリなタイトルだと思うしさ」
「ううん、君にとってもピッタリだと思うよ、戒人。旅をする中で元『怪力』に次いで元『幸運』という友達を見つけた上、今では過去になってしまった友達や先生との思い出も再発見出来たんだからさ」
「……そうかもな」
白羽の言葉にフッと笑いながら答えた後、俺は皆藤やランスロット、そして演劇部の仲間や先生達の事を頭の中に思い浮かべた。白羽の言う通り、皆と出会った事実はもう消えている。けれど、皆藤やランスロットの中に俺と出会った事で受けた影響が残っているように、俺の中にもそういった影響や思い出がしっかりと残っている。そしてそれは時に俺の武器にもなり癒しにもなる。だから――。
「白羽。俺が『笛木郁人』として手に入れた金とか物ってどうなってる?」
「え? もちろん、全部回収してあるよ。それと『春日璃乃』だった頃のも全部回収済みだけど、欲しいなら後で部屋に置いとこうか?」
「……別に欲しいわけじゃないけど、一応頼む。それで、金の方は全部合わせると大体どのくらいになる?」
「そうだね……流石に家を買うとかまではいかないけど、そこそこ色々な事に使える程度はあるんじゃないかな?」
「……そうか。それなら、それを半々にして匿名で皆藤が住んでる街とランスロットの町にある福祉施設とか児童養護施設にでも寄付しておいてくれ」
「それくらい別に良いけど……何か思うところでもあったの? 戒人にしてはいやに優しいけど……」
不思議そうに訊く白羽の事を見ながら俺はクスリと笑いながら答えた。
「ちょっと気が向いただけだよ。それじゃあ俺は部屋に戻るけど、この件はしっかりと頼むぞ、白羽」
「うん、バッチリ任されたよ、戒人」
優しげに微笑む白羽の言葉に頷いて答えた後、俺は一人部屋へ向かって歩き始めた。
白羽の『処理』が行われている以上、どっちにしても直接渡す事は出来ないし、ランスロットの方はこれが原因で職を追われる可能性もある。だからちょっと変わった形にはなるけど、俺はここから願うとしよう。親愛なる友人達に贈るちょっとした『
政実「第8話、いかがでしたでしょうか」
戒人「これで第2章も終わりか。ところで、今回のターゲットとの勝負は、能力バトルじゃなかったな」
政実「うん。能力バトルにしても良かったけど、ちょっと丁度良い理由や動機が無かったし、ターゲットが『幸運』だからギャンブルでの決着っていうのもありかなと思ったから、今回は能力バトルじゃなくした感じだね」
戒人「なるほどな。さて、次回の投稿予定はいつも通りで良いのか?」
政実「うん、大丈夫だよ」
戒人「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「よし……それじゃあそろそろ締めようか」
戒人「ああ」
政実・戒人「それでは、また次回」