Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、千歳戒人です。ギャンブル、特にポーカーみたいな読み合いが必要になるのは得意不得意が分かれやすいし、どんな時でも動じない心が必要になるから、結構大変だよな」
政実「そうだね。ポーカーフェイスも得意ではないから、いざやるとなったらどうにかブラフを使って乗り切るやり方がベストになりそうかな」
戒人「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、Epilogue.2をどうぞ」
「よし……この書類はこれで良いかな。そして次が――うん、これだね」
とある世界にある1つの港町での事、その町の町長――ランスロット・キーオンは、少しのんびりとした様子で目の前の机に載っている様々な書類を前にそう独り言ちた。彼の目の前にある書類には、会議で出た政治面や福祉面などについての提案や意見、そして町民達から寄せられた声が書かれており、ランスロットはそれにしっかりと目を通しながら左手で次々と捲り、それに対しての回答を右手側にある紙束へと書くという形で処理を行っていた。そして目の前の書類の束の処理が終わり、ランスロットが少し離れたところに置いていたティーカップに手を伸ばした時、ティーカップの中に何も入っていない事に気付き、ランスロットは一人で苦笑いを浮かべた。
「あはは……そういえば、さっき飲み干したんだっけ。それじゃあまずは、給湯室に行こうかな」
ランスロットは椅子から静かに立ち上がり、そのまま給湯室へと向かった。本来ならば、誰かに頼むという事も出来るのだが、ランスロットは他の職員達の作業を中断させたくないという思いとランスロット自身が紅茶を淹れる事が好きだという理由から、ランスロットが町長に就任した際にそういう形へと変えたのだった。そして給湯室に着いた後、手慣れた様子で自分が飲む分の紅茶を淹れていた時、ふと何かを思い出したように「……そうだ」と言いながらクルリと振り返った。
「君はどうす――って、あれ……?」
ランスロットは誰もいない給湯室を静かに見回した後、不思議そうに小首を傾げた。
「まただ……また
ランスロットは淹れ立ての紅茶を一口飲んだ後、件の夢の内容を思い出した。夢の中での彼は、友人と共に海原を往く一隻の客船に乗っており、その友人の顔はいつも逆行などで見えないのだが、その夢の中の友人はいつも朗らかに笑っているのが何故かランスロットには分かった。そして夢の中ではいつも数日過ごした後、日の出が昇る中の甲板へと突然移動し、友人が何事か喋ったかと思った瞬間、夢が終わってしまうため、その友人が誰なのかすらまったく分からずにいた。しかし、ランスロット自信は覚えていないものの、この夢の中の出来事は実際に起きている事だった。ランスロットが豪華客船クイーンマリー号に乗っていた時、近くには【Cheat Breakers】の一員である千歳戒人が姿を変えた存在――
夢の内容を思い出した後、ランスロットは再び紅茶を一口飲み、思案顔で天井を見上げながら記憶を探るようにポツリポツリと言葉を口にした。
「客船といえば、5年前に乗ったクイーンマリー号ぐらいしか覚えが無いけど、あの時に誰かと一緒に乗ってた覚えは全くないんだよね……。でも、不思議な事にクイーンマリー号から降りた時には、何だか心が軽くなってた気がするし、自分の運の良さについての嫌悪感も無くなっていた。僕的にはまったく覚えは無いけど、たぶんこの夢の中の友人のおかげで嫌悪感を無くす事が出来たんだろうから、もし会えるなら是非お礼を言いたいんだけど、顔も名前も知らないとなると、探偵に頼んで捜し出す事も出来ないしなぁ……」
その事について非常に残念そうな様子を見せていた時、ランスロットは不意にある事を思い出した。
「……
頑張れ、か……。あれが誰なのかは分からないけど、夢を見た後はスゴく元気が湧いてくるし、まだこれはこれで良い事にしても良い事にしよう。そして彼を捜せる手掛かりが見つかった時には、探偵にでも頼んで捜し出してもらう事にしよう」
そう結論づけた後、ランスロットは少しだけ冷めた紅茶を飲み干し、心の奥から漲ってくるやる気に口元を綻ばせた。
「さて……もう一杯淹れたら、また仕事に戻ろう。まだ見ぬ友人に恥ずかしくない自分になるためにも、もっと頑張らないといけないからね」
給湯室のシンクに映る自分の顔に対してニコリと笑いかけた後、ランスロットは楽しそうな様子で再び紅茶を淹れ始めた。
それから数日が経った頃の朝、ランスロットがいつものように執務室で一人作業に没頭していた時、執務室のドアをコンコンと叩く音が聞こえ、「どうぞ」と言いながらドアの方へと視線を移した。すると入ってきたのは、少し困った表情を浮かべた秘書の女性――シャルロット・オルコットだった。
「おや、シャルロットさん。どうかしましたか?」
「はい、町長……実は、是非お目にかかりたいと言う方がいらっしゃっているのですが、どうにも怪しい風貌なので一度町長にご相談を、と思いまして」
「僕に会いたいと言う怪しい人物か……分かりました、とりあえずその人を応接室にご案内して下さい。そして念のため君や他の職員も同席しておいてくれますか?」
「畏まりました」
シャルロットは少し安心した様子で恭しく一礼をすると、ランスロットからの優しい笑みを背に、そのまま執務室を後にした。そしてシャルロットが出ていった後、ランスロットは少々顔を曇らせながら静かに執務室の天井を見上げた。
「……怪しい風貌の人物、か。今朝起きた瞬間に感じた嫌な予感が当たらないと良いんだけど……」
ランスロットの口から出た不安げな言葉に答える者は無く、ただ執務室の中に静かに響くだけだった。
それから数分後、ランスロットは応接室のドアノブに手を掛けながら心の準備を終え、ドアをゆっくりと開けた。そしてそのまま応接室へ入ったその時、薄汚れた帽子とボロボロの服を纏った人物が目に入ると、その人物は嫌らしい笑みを浮かべながらランスロットに話し掛けた。
「よぉ、ラッキー。元気そうじゃないか?」
「……その呼び方をするという事は、まさか――」
「そうだ、俺だよ。あの町でお前と仲良くやってたデリック・タイラーだよ。いやぁ……本当に会いたかったぜ?」
「……僕はもう君達には会いたくなかったけどね。それで、用件は何かな?」
デリックの向かい側の椅子に座りながらランスロットが問い掛けると、デリックは嫌らしい笑みを浮かべたままそれに答えた。
「まあまあ、そうカリカリしなさんな。せっかく友達が会いに来たんだ、少しは喜べよ」
「僕は君を含めてあの町の人々の事を友や親しい人物だとは思っていない。僕もここにいる皆も忙しいから、用件が無いなら早々にお引き取り願えるかな?」
「まあ、待て。そう話を急ごうとするなよ、ラッキー」
「……僕の事をそう呼ばないでもらえるかな? 僕はもうあの時のような愚かな未熟なランスロットじゃないんだ」
ランスロットの声に明らかな怒気が混じり始めた時、デリックはそれに対して楽しそうな声を上げた。
「あははっ、そうかいそうかい! まあ、俺が来た本当の理由を聞いたら、お前はもっと怒るだろうけどなぁ」
「本当の理由……」
「そうだ。俺は今、ちょっとした組織に属しているんだが、そこのトップがこの町にある物を作りたいと言い始めてねぇ、俺はその事についてお伺いを立てに来たのさ」
「組織……それで、一体何を作ろうと言うんだ?」
「賭博場だよ。俺の属する組織は、あの町に賭博場を作った組織と同じとこなのさ」
その言葉を聞いた瞬間、ランスロットの口から静かな怒りを孕んだ声が漏れた。
「……帰ってくれ。僕はこの町に賭博場を作る気は無い。あの町のように愚かな最期を遂げるような真似をさせたくないんだ!」
「……言っておくが、ウチの組織はそんな理由じゃあ止められねぇぜ? お前やそこの姉ちゃん達からも賭博場に反対する意志は見られるが、やろうと思えばどんな手を使ってもウチの組織は賭博場を作るだろうよ。なにせ、この国の議員の何人かにも顔が利くらしいからなぁ……」
「そうやって僕達の事を脅したつもりか?」
「良いや、そんなつもりはねぇ。ただ、賭博場を作るのを止める方法は一つだけならある」
「……念のため、聞いておこうか」
「ラッキー――いや、ランスロット。お前がウチのトップとのギャンブルに勝ちゃあ良い。あの時のようにお前のイカサマ師よりも強ぇ運があれば、そんなの余裕だろ?」
「……ふざけるなよ。そのイカサマ師の言葉に踊らされ、僕だけを悪者にした奴がよくそんな事を言えたな!」
「おいおい、そうカッカするなよ。あの時はそう疑われても仕方が無かっただろ? あんなに勝ちまくってりゃあ、誰だってそう思うさ。そうだろ?
そう言いながらデリックがニヤニヤと笑う中、ランスロットは再び怒りを孕んだ声を上げた。
「そう呼ぶなと言ったはずだ! 話はもう終わりだ、デリック。そしてお前の組織のトップとやらに言っておけ、この町に賭博場を作る気は無いし、作らせる気も無いと!」
「……おお、怖い。それじゃあ、
デリックは意味深な笑みを浮かべると、そのまま職員と一緒に大人しく応接室を出ていき、それと同時にランスロットは緊張が解けた様子で大きく息を吐くと、残っていたシャルロットが心配そうにランスロットへ話し掛けた。
「町長、大丈夫ですか……?」
「ええ……大丈夫です。けれど、とても厄介な事になったな。この町に賭博場なんて作ったら、あの町のようになる可能性は大いにある」
「そうですね……町長が就任した際のスピーチで、生まれつき備わっている豪運とそれとギャンブルによって引き起こされた悲劇についてお話はしていましたが、賭け事にのめり込む可能性があるのは、人の業のような物ですからね」
「はい。最初は渋っていても、一度やり始めた際にハマってしまえば、その先に待っているのは欲望の底なし沼です。だから、どうにかして賭博場を作られないように策を練るしかないが……シャルロットさん、今日は確か昼頃から会議がありましたよね?」
「はい、町の福祉施設と介護施設の老朽化についての対策などを話し合う予定の会議があります」
「その話し合いの後に、この事についても話をしないといけないので、皆さんへの連絡と使用する資料の作成をお願いします。この案件は、この町の存亡にも関わりますから」
「畏まりました」
シャルロットは恭しく一礼をすると、静かに応接室を出ていき、応接室に一人残ったランスロットはデリックが座っていた椅子に冷たい視線を向けた。
「……あんな事になってもまだ賭博に酔うというなら、僕は本気でデリック自身と組織を壊滅――いや、破滅させるしかないかもしれないな」
そう小さく呟くランスロットの目には、優しさや温かさなどは一切無く、自分自身と町の住民の敵の命を奪う事も躊躇わないと感じさせるほどの冷酷さが宿っており、纏う雰囲気や声にもランスロットが本来持っている慈悲や博愛などは感じられなかった。そして、ランスロットはその様子のまま冷たい笑みを浮かべた。
「そうだ……賭博に毒された者、そしていかさま師はこの世からいなくなるべきなんだ。たとえ、この『幸運』で奴らが命を絶つ事になっても、それはあくまでも
そう独り言ち、ランスロットがスクッと立ち上がったその時、ランスロットは心の奥に何か引っかかる物を感じたが、「……気のせいだな」と一言で片付けると、そのまま応接室を出ていった。
それから一週間が過ぎ、町中でも賭博場の建設を反対する声が飛び交い始めた頃、ランスロットが執務室で仕事をこなしていた時、執務室のドアが2回ほど強くノックされ、「どうぞ」とランスロットが呼び掛けると同時に一人の男性が顔面蒼白の様子で執務室へと入ってきた。
「……ファリスさん、どうかなされたんですか?」
ランスロットが心底驚いた様子で問い掛けると、男性――ファリス・サトクリフは今にも泣き出しそうな様子でそれに答えた。
「ランスロットさん……例の奴ら、賭博場を作ろうとしている奴らにやられたんだ……!」
「やられたって……ファリスさんはこの町随一の資産家じゃないですか」
「そうなんだが、実は別の町に住んでいるウチのバカ息子が、ソイツらに旨い儲け話があると言われて、ウチの土地の半分を騙し取られてしまったと言うんだ!」
「騙し取られた……そういえば、どんな手でも使うと言っていたが、まさかそんな手に出るとは……!」
ランスロットが拳を強く握りながら悔しそうな声を上げていると、ファリスは絶望感に溢れた表情を浮かべながら話を続けた。
「息子はすぐに土地を返すように要求したんだが、ソイツらのボスとのギャンブルに勝たないと返せないと言われたらしくて、ウチの家族は全員がもう諦め気味なんだ……。そんな奴らとのギャンブルなんて、公正な物であるはずが無い。やってしまったら最後、ウチの土地だけじゃなく他の物まで奪われてしまうよ……」
「ファリスさん……」
ファリスの沈んだその様子に、ランスロットは決意を固めた様子で静かに頷くと、そのままファリスへと話し掛けた。
「ファリスさん、私がその勝負を受けます」
「……だ、だが……ランスロットさんはギャンブルで酷い目に遭ったんだろ……?」
「確かにそうです。ですが、それとこれは話が別です。私は町長として、この町の人達の平和のために動く必要があります。それに、私にはまだあの時のような運はあるはずなので、心配はいりませんよ」
「ランスロットさん、本当にありがとう……!」
「さあ、行きましょう。早々に勝負を受ける旨を伝えに行かなくてはなりませんからね」
「あ、ああ……! よろしく頼むよ、ランスロットさん!」
「はい!」
ランスロットは大きく返事をした後、ファリスと共に奪われた土地へと赴き、そこで待ち構えていた組織のメンバーへ勝負を受ける旨を伝えた。そしてサトクリフ一家から涙ながらに勝負に勝って欲しいと伝えられた後、ランスロットは一人役場へ向かって町の中を歩き始め、役場のすぐ近くへ差し掛かった時、ランスロットはとても冷たい声で独り言ちた。
「ファリスさん達のあの哀しみよう……やはり、壊滅じゃあ生温そうだな。一応、法的措置が可能かは確かめるとしても、町の人を苦しめたその罪はそれを遙かに超える苦しみで償ってもらうとしようか」
そしてランスロットが冷酷な笑みを浮かべながら役場のドアを開けた瞬間、「……彼には申し訳ないけど」という声が口から漏れたが、ランスロット自身はそれには気付かない様子でそのまま役場の中へと入っていった。
3日後、件の組織から送られてきた手紙に従い、ランスロットはサトクリフ一家が奪われた土地へと再び赴いた。すると、そこにはランスロットにとっては忌まわしい物があり、それが視界へと入った瞬間にランスロットの表情には嫌悪の色が浮かんだ。
「ギャンブル用の簡易テント……デリックめ、どこまで舐めた真似をする気なんだ……!」
ランスロットは怒りに満ちた声を上げた後、そのままテントの中へと入った。テントの中には、サトクリフ一家とデリック達組織のメンバーの姿、そしてポーカー用のテーブルが一台あり、ランスロットが無言で歩を進めると、組織のボスと思われるサングラスを掛けた屈強そうな男が余裕げな様子で声を掛けてきた。
「ほう……アンタが幸運の女神に愛された男か。もっと場慣れした感じの奴だとおも――」
「御託は良いのでさっさと勝負を始めましょう。僕は貴方達のような奴らの顔を見ることすら嫌なんです」
「……良いだろう。さあ、楽しいショータイムを始めようか」
その言葉と同時に、ランスロットは無言でテーブルへと近づき、それを見たボスは面白そうな様子で同じくもう片方へと近付いた。そして二人の視線がテーブル状でぶつかり、ディーラー役の男が新品のカードを取り出しシャッフルする中、ボスは静かに口を開いた。
「ルールは簡単だ。ファイブドローポーカーを行い、手持ちのチップが無くなった瞬間、無くなった方は負け。俺が負ければ、土地は素直に返してやる。だが、お前が負けた時は、土地は永遠に俺達の物になる。どうだ、簡単だろ?」
「そうですが……勝負の前に一つだけ良いですか?」
「……何だ?」
「このギャンブル――掛ける対象を更に増やす事は可能ですか?」
ランスロットの口からその言葉が出た瞬間、ボスの表情には歓喜の色が浮かび、この状況を心から楽しんでいる様子でそれに答えた。
「もちろんだ。ギャンブルはそうこなくちゃ面白くねぇからなぁ」
「……それなら、当然賭けられますよね?
ランスロットが冷たい笑みを浮かべながら言った瞬間、ボスは流石にランスロットの言葉に疑問を覚えた様子で眉をひそめながら答えた。
「……てめぇ、俺が言うのもアレだが、自分で何を言っているのか分かってんのか?」
「分かっています。貴方達は、
「……良いだろう。それなら、俺はこれからの人生も賭けてやるよ。だが、アンタも同じ条件でやってもらうぜ?」
「もちろん。だが――」
ランスロットはそこで一度言葉を切った後、何の感情も浮かんでいない表情でボスを見ながら言葉を続けた。
「後で後悔するなよ?」
「へっ、てめぇもな」
そして、そのボスの言葉と同時に、ディーラーは静かにカードを配り始め、配り終えた瞬間にボスはニヤリと笑いながら静かに口を開いた。
「さあ……ゲームを始めようぜ? 愚かな町長さんよぉ」
「…………」
無言のままジッと自分を見つめ続けるランスロットに気味悪さを覚えながらも、「……へっ、だんまりか」と、余裕そうな笑みを浮かべながらボスが独り言ちた後、あまりにも大きな賭けは静かに幕を開けた。
「……う、嘘だろ……!?」
ゲームが始まってから十数分後、ボスは額から滝のような汗を流しながら震える声でそう独り言ち、テーブルの上に視線を向けた。テーブルの上に置かれたボスの手札と場札を合わせた役はツーペアだったのに対し、ランスロットの役はフォーオブアカインド――いわゆるフォーカードというツーペアよりも明らかに強い役だったため、ボスがベットしたチップはランスロットの元へと行き、ボスが参加料を除いて賭けられるチップは残り一枚になっていた。
「バカな……こんな事があるわけ無い……!」
「あるんだよ。これが僕の『幸運』、誰にも負けない無敵の力だ」
「ふ、ふざけるな……! この俺が負けるはず――」
「
「なっ……!? 何故その事を――」
ランスロットの言葉に、ボスが思わず驚きの声を上げた瞬間、テント内は騒然となり、ボスが「し、しまった……!」と、自分自身のミスを悔いる声を上げる中、ランスロットは妖しくクスリと笑った。
「やっぱり……ね」
「て、てめぇ……まさかカマを掛けやがったのか……!?」
「良いや、『運良く』イカサマには気付いていたよ。
「く、くそぉっ……!」
ボスが上げた心底悔しそうな声がテント中に響く中、ランスロットの口から出た声には抑揚が一切無かった。
「……あははっ、本当に
「……てめぇ、本当に何もんだ……!」
「最初に貴方が言っていた通り、ただの幸運の女神に愛された男だよ。普通のイカサマぐらいじゃあ太刀打ちできない、ね。
さて……それじゃあそろそろ最後の勝負と行こうか。この後もまだ勝負をしないといけないからね」
「……この後、だと? てめぇ、何を言ってやがる……? 」
「何って……言葉通りだよ。ここには、
ランスロットが冷たい笑みを浮かべながらデリック達組織のメンバー達を見ると、彼らの表情は恐怖に染まり、ボスは慌てた様子でランスロットに話し掛けた。
「ま、待て! お前の相手は俺だけのはずだ!」
「……何を言ってる? 君達のようなつまらないいかさま師は、ここで全て根絶やしにしないといけないんだよ。そうじゃないと、他のところでも迷惑を掛けてしまうだろうからね」
「や、止めろ……!! アイツらには手を出すんじゃねぇ!!」
「止めろ……? 何故止めないといけない? 一応、今日までに君達が犯してきた犯罪の証拠は集めて警察へと送っておいたけど、本当の意味で『更生』させるには、ここで圧倒的な恐怖を与えておく必要があるんだよ。
「く、狂ってやがる……!」
「狂ってはいないさ、僕は君達のようないかさま師とギャンブルを心から恨んでいるだけだからね。
さあ……そろそろ始めようか、君の
そう楽しげに笑うランスロットの顔に、ボスは言葉に出来ないほどの恐怖を覚えたが、体をブルブルと震わせながらもディーラーにカードを配るように合図を送った。そしてディーラーもビクビクとしながら震える手でカードをシャッフルし、ランスロット達に手札となる5枚を配り終え、残りを山札としてテーブルへ置くと、ランスロットは楽しそうにクスクスと笑い出した。
「さて……さっきも言ったけど、これが最後の勝負になると思う。そんな中で、ロイヤルストレートフラッシュが来たら、最高に盛り上がるよね?」
「ロイヤルストレートフラッシュ、だと……そんな役がお前に揃えられるはず――」
「揃えられる――いや、『揃ってくれる』はずさ。何故なら、僕は『幸運』だからね」
そう言いながらランスロットが手札を確認しようとしたその時――。
「……っ!? な、何だ……頭が、いた……い!?」
突然襲ってきた謎の頭痛に、ランスロットは苦しそうな表情を浮かべながら頭を抑えたが、頭痛は静まる様子が無く、内部をハンマーで殴られているような痛みをランスロットは感じ続けた。
「ぐっ……あぐっ!」
「お、おい……お前、一体――」
「う、煩い……! その声ですら苦痛に感じるんだよ……!」
わけが分からないといった様子のボスの言葉に対して、イライラとしながらそう言い放つと、ランスロットを襲っている頭痛は更にその痛みを増した。
「ぐぅ……治まれ、治まれよ……! 治まらないと、アイツらを本当の意味で倒す事が――」
その時、ランスロットの脳内にとある声が響き渡った。
『違う。お前がしようとしているのは、明らかな間違いだ』
「ぐ……だ、誰だ……?」
『誰かなんて、お前が一番よく分かっているだろ? なあ、『
「……あれ、この声……どこかで聞いた事が……?」
ランスロットの表情に徐々に安らぎの色が見え始めると同時に、襲っていた頭痛が静かに治まっていくと、先程まで殺意や憎しみに満ちていたランスロットの心は、波紋一つ立たない水面のように静まっていった。
「……不思議だ。この声を聞いていると、懐かしさと安心感が強くなっていく……」
『……まあ、懐かしさはあるかもしれないな。何せ、あの日――甲板でのお前とのコイントスからだいぶ日が経っているからさ』
「甲板……コイントス……」
その言葉を繰り返した瞬間、ランスロットの脳内にある名前が浮かび、高まってくる懐かしさと安心感からランスロットの目には涙が浮かんだ。
「……そうか、僕はまた君に助けられたんだね……」
『……正確にはちょっと違うけどな。さて……ランスロット、お前が本当にやらないといけない事はもう分かるよな?』
「……うん、僕のやるべき事はしっかりと定まったからね。もう……二度と見失わないよ」
『……そっか。頑張れよ、ランスロット』
「うん……ありがとう、戒人」
そして声が聞こえなくなった後、ランスロットはしっかりとした眼差しでボスの事を再び見つめ、ニッと笑いながら声を掛けた。
「さあ……勝負を再開しましょうか」
「あ、ああ……」
ボスはますますわけが分からないといった様子で答えると、自分の手札を確認し、ランスロットもそれに続いて自分の手札を確認した。そしてゆっくり目を閉じると、ボスはその様子を見ながら静かに口を開いた。
「俺はチェンジはせずに残ったチップをベットする。アンタはどうする?」
「……僕はチェンジはしません。そして、持っているチップを全てレイズします」
その瞬間、サトクリフ一家からは響めきが、そして組織のメンバーからは失笑や馬鹿にしたような笑い声が上がったが、ボスはそれを無視しながらランスロットに声を掛けた。
「……本当に良いんだな?」
「……ええ、僕は自分の運を信じていますから」
「そうか」
ランスロットの言葉に静かに頷きながら言った後、ボスはディーラーに対して再び合図を送った。
「……ショーダウン」
ディーラーのその言葉と同時に、両者の手札が明らかになった瞬間、ランスロットは安心感から深く息をついた。
「……僕がスペードのロイヤルストレートフラッシュ、そして貴方は役無し。よって、この勝負は……」
「……ああ、お前の勝ちだ。この勝負も結果的にもな」
ボスが静かに目を閉じながらそう言うと、一瞬の静寂の後、サトクリフ一家から大きな歓喜の声が上がった。
「や、やった……! ランスロットさんが勝ってくれた……!」
「これで、土地も無事に戻ってくるんだ……!」
「ランスロットさん、本当にありがとうございます!」
その声を聞きながらランスロットは完全に緊張が解けた様子で深く息をついた後、仕方ないといった表情を浮かべているボスに対して静かに問い掛けた。
「……何故、あのまま勝負をしようと思ったんですか? カードを交換すれば、まだ何かの役くらいなら出来たかもしれないのに……」
「……ギャンブラーたる者、引き際はしっかりと見定めなきゃねぇんだよ。さっきのアンタに何があったかは知らねぇが、アンタの目は心から自分の運を信じている真っ直ぐな目だった。だから、フォールドせずにそのままショーダウンをする事にした。イカサマを仕掛けはしたが、負けだと思った時は、しっかりと負けくらいは認めるさ」
「……そう、ですか……」
「さて、約束は果たさねぇとな。おい! 土地の権利書を返してやれ!」
そのボスの言葉にデリックは納得がいかない様子だったが、ボスが睨みをきかせると、渋々ファリスへと土地の権利書を手渡した。そしてその瞬間、外の方からけたたましい程のサイレンの音が聞こえ、ボスは「……来たか」と小さく呟いた。
「……どうやら、アンタが呼んだお迎えが来ちまったようだな。もう一つの勝負の対象――俺の人生をアンタにやれるのはもう少し先の話になりそうだ」
「……そうですね。けど、一つだけ言わせて下さい」
「……何だ?」
「貴方が罪を償って出所した際は、貴方にピッタリな役職を設けられるようにしますので、絶対に罪を償って戻ってきて下さい。これは
「……ああ、約束する」
ボスは小さく笑いながら答えた後、組織のメンバーへ向かって「行くぞ」と、大きな声で呼び掛け、全員でテントの外へ向かって歩いていった。そしてサトクリフ一家が嬉しそうに駆け寄ってくるのを見ながらランスロットはニコリと微笑みかけていると、ランスロットの口から小さな声が漏れた。
「……やっぱり、戒人にだけは勝てそうも無いね。助けてくれてありがとう、僕の大事な親友」
ランスロット自身はそれには気付いていない様子だったが、喜ぶサトクリフ一家を迎えるランスロットの心は、とても満ち足りた物だった。
政実「Epilogue.2、いかがでしたでしょうか」
戒人「今回はランスロット回だったな。ところで、前回の皆藤の時もそうだったけど、アイツらに俺の声が聞こえたり姿が映し出されるのは、あくまでもアイツらの中に残っていた影響や微かな記憶がそれを作り出したからっていう解釈で良いよな?」
政実「そうだね。だから、本人達は結局その事を覚えてはいないけど、心の奥底では戒人との思い出なんかは蘇り、それがこれからの彼らの心の支えの一つになる形だね」
戒人「分かった。それで、次回の投稿予定はいつも通りで良いのか?」
政実「うん、そうだね」
戒人「了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「ああ」
政実・戒人「それでは、また次回」