Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~   作:九戸政景

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政実「どうも、好きな宝石はエメラルド、片倉政実です」
戒人「どうも、千歳戒人です。エメラルドか……好きな理由は何なんだ?」
政実「緑色が好きなのもあるけど、エメラルドの石言葉も好きな理由かな。幸運とか希望みたいに明るい言葉が多いからね」
戒人「なるほどな。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、第9話をどうぞ」


第3章 『風神』
第9話 竜騎士団と宝石竜


 

幸運(グッドラック)』との豪華客船での船旅を終えた翌日、一般的な男子高校生のような見た目の不可思議な存在――白羽(しらは)とメイド服を着た礼儀正しい長い黒髪の少女――竹林月夜(たけばなしつくよ)との朝食会の最中、俺――千歳戒人(ちとせかいと)は美味そうに朝食のトーストに齧(かぶ)り付いてる白羽の様子を見ながら静かにコーヒーを飲んでいた。豪華客船で取っていた食事と比べれば、豪華さにはかなりの差はあるが、月夜が作ってくれる料理はどれも美味であり、衣食住が完全である今の状況はわりと恵まれた物なんじゃないかと、最近になってそう思うようになってきた。

ついこの前まで、荒れた家庭環境とどうしようもない学校生活を送っていた事を考えると、やっぱりこの『拠点』での生活と様々な世界を巡る『仕事』をしている今の方が恵まれている気がするよな……。まあ、ここ2回の『仕事』の最中の生活も悪くはなかったけど、ここはここで何となく落ち着くようになってきたし、段々俺もここの住人としての気持ちが出来てきたのかもしれないな。

目の前のコーヒーからゆるりと立ち上る湯気と白羽の予を見ながらそんな事を考えていると、トーストをゴクリと飲み込んだ白羽が何かを思い出したように不意に声を上げた。

「あ、そうだ……戒人、君って昔はどんな漫画を読んでた?」

「どんなって……特にコレといったのは無かったな。どちらかと言えば小説派だったし、漫画は目に付いたのを適当に読んでたくらいかな」

「そっか。まあ、戒人らしいと言えば戒人らしいかな?」

「でも、何でそんな話になったんだ?」

「ふっふっふ……実はだね、戒人君。君にはそろそろご褒美をあげようと思うのだよ……」

無理やり何かの組織のボスのような雰囲気を出しながら言う白羽に対し、俺はあまり興味を惹かれないままそれに答えた。

「……で? そのご褒美ってのは何なんだ? 俺は特にそういうのはいらないんだけど?」

「それはね……君の能力の強化だよ!」

ばばーんっ、という効果音が聞こえそうな程、白羽は意気込んで言った。しかし――。

「……へえー」

俺は対して興味は惹かれなかったため、気のない返事をした。能力達は色々な欠陥――制約こそあるが、まだ本当に困るような自体には陥っていないため、正直強化なんてまだまだ必要ないような気がしていた。

そもそも元から強いのに、強化なんてしても意味が無いだろ……。

そんな事を思いながら白羽の様子を眺めていると、白羽は心底驚いた様子で大声を上げた。

「え!? 何でそんなに興味なさげなの!?」

「いや……強化とか言われてもあまりピンと来ないし、今の強さでも充分満足だし……」

「強化イベントだよ!? 少年漫画とかRPG系のゲームだとかなり熱い展開の奴だよ!?」

「白羽的にはそうなんだろうけどさ、俺はそういうのよりも推理小説とか日常物の話の方が好きだったから、そう言われてもあまり燃えないんだよ」

「ぐぅ……! せっかく、それらしい雰囲気を出してみたのに、まさかそんな理由でそれが無駄になろうとはぁ……!」

俺の答えに白羽は心底悔しそうな様子を見せ、ガクッとそのままその場に崩れ落ちるようにテーブルの上へと倒れ込んだ。その様子を見て、俺はこの拠点に来た翌日の白羽の姿を思い出した。

……そういえば、あの時は月夜に先に言いたい事を言われて落ち込んでたっけな。俺的にはそんなにショックを受ける事でも無い気はするけど、白羽からすればこういう出来事は本当に楽しい事なのかもしれないな……。

白羽の様子からそんな事を考えていると、白羽は突然ガバッと起きあがり、ニッと笑いながら楽しそうに話し掛けてきた。

「まあ、落ち込んでたってしょうがないよね。こういう時こそポジティブシンキングでいかないと、だからね!」

「……そうだな」

白羽の気持ちの切り替えの早さに俺は苦笑を浮かべながら答えた後、件の強化イベントの話をしてみる事にした。

「……で? 強化とは言うけど、どんな風に強化するつもりなんだ? 流石に4つ全てを強化するんじゃないんだろ?」

「ふっふっふ……まあ、そうだね。一度に4つ全てを強化するのは流石にどうかと思うし、1つずつ強化していけばそれだけワクワク感もあるからね」

「ワクワク感は置いとくとして……その強化って本当に必要な物なんだよな?」

「もちのろんだよ。ただでさえ、戒人達には欠陥チート能力で頑張ってもらってるからね。必要の無い強化なんてするはずが無いよ」

「……分かった。因みにその強化って――」

俺が強化のタイミングについて尋ねようとしたその時、突然頭の中に何匹もの動物の姿が浮かび、それと同時に能力を得た時と同じような熱さが体の中へと広がっていった。

「ぐぅっ……!? また……体の中が、熱く……!?」

相変わらず体の中を焼き尽くされるようなその熱さと痛みを感じながら俺はそれを必死に耐えた。そして熱と痛みの二重苦が続く中、視界が徐々に暗くなっていくのを感じたその時、突然動物達が一斉に鳴き声を上げ、それによって生じた音圧が俺の事を襲った。熱と痛みと音圧、その苦痛の三重奏に俺が何とか耐えていたその時、徐々に視界が開けニコニコ顔で俺の事を見つめている白羽の顔が見え始めた。そして完全に視界が開けた瞬間、俺は軽い疲労感と脱力感に襲われたため、ポケットの中にある言葉符(げんようふ)を1枚取り出し、『言葉を司る能力』を行使した。

「……除去、対象は俺の疲労感と脱力感」

その瞬間、俺の疲労感と脱力感がスーッと消えていき、それに安心感を覚えながら俺は深く息をついた。そして気持ちがすっかり落ち着いた事を確認した後、俺は未だにニコニコ顔で俺の事を見ている白羽に話し掛けた。

「……白羽、もしかして今のが強化って奴か?」

「うん、そうだよ」

「やっぱりか……でも、強化の度にこうなるのは何とかならないのか?」

「うーん……そう言われてもねぇ。元々、力を得るためにはそれ相応の苦痛や試練を乗り越える必要があったから、戒人の身に降りかかった痛みなんかは、言ってみれば仕方ないことなんだよ。もちろん、他の神々なんかだとそういうのは無しでやる事もあるけど、やっぱり『力の重み』をしっかりと受け止めるためには、こういう体験をしてもらった方が僕は良いと思うんだよね」

「『力の重み』か……」

その白羽の言葉を繰り返しながら俺は自分の中の能力や皆藤達が持っている能力の事を思い返した。どんな能力であろうと、それは使い方1つで誰かの命を助ける事も奪う事も出来る。それはここまでの『仕事』でも見てきた事であり、能力者として忘れてはいけない事だ。だからこそ、白羽が言うような『力の重み』――『力を持つという事の責任や覚悟』という物を常に意識しておかないといけない。

……もっとも、そういう意識が足りていない奴らとか分かっていながらも暴走しそうな奴らをどうにかするのが俺達――【Cheat Breakers】の『仕事』なわけだし、これからも頑張っていかないといけないな。

自分達の『仕事』の大切さを改めて認識していた時、俺はふとある事を思い出した。

そういえば……今回の強化で何の能力が強くなったんだろう……? 能力に関係する物が頭の中に浮かぶと考えると、たぶん動物に関する事なんだろうけど……。

いくら考えても分からなかったため、俺は大人しく白羽に詳細を訊く事にした。

「白羽、今回の強化で何の能力が強くなったんだ?」

「んーとね……『言葉を司る能力』だよ」

「『言葉を司る能力』と動物……?」

その組み合わせに小さく首を傾げたその時、俺はその答えらしき物が分かったような気がし、答え合わせをするために白羽に恐る恐る話し掛けた。

「……白羽、まさかとは思うけど、『動物達の言葉を解せるようになった』とか言わないよな……?」

「うん、その通り。因みに正しく言うなら、『全ての生物との会話や数多(あまた)の世界に存在する全ての文字や言葉の読解を可能にする』かな。」

「……これまた強いは強いけど、使いどころが難しいのが来たな。まあ、考古学者とか動物学者なら大喜びだろうけどさ」

「あははっ、まあそうだね。でも、コレもちゃんとオンオフはしっかりしないと、一度に大量の情報が頭の中に入ってきて、頭がパンクするしれないから、そこは気をつけてね」

「ん、了解」

白羽に返事をした後、自分の中に新たに備わった能力の気配を感じながら、俺は能力の使い方について考え始めた。

全ての生物との会話が可能って事は、一般的な動植物はもちろんの事、異世界に棲んでいる魔獣から悪魔、果ては天使や神獣なんかとも会話が出来る事になる。つまり、『召喚を司る能力』とは別に情報を得る手段が増えたと考えて良いのかもしれない。そして数多の世界に存在する全ての文字や言葉の読解を可能にするという事は、言ってみればどんな異世界に行く事になったとしても、様々な点において安全が確保されたのと同じ事になる。今までに行った異世界は、全てが俺が元いた世界と同じような世界だったが、次からも必ずそうなるとは限らず、最悪本当に聞いた事が無い文化や言葉が主体の世界に行く事だって無いわけではない。その場合、言葉が通じなければターゲットからの能力の回収はおろか、生きていくことさえままならなくなる。なので、こういった一見使い道が無さそうな能力でも、考え方1つで値千金の能力へと変わるのだ。

この他にも用途は考えられそうだし、時間を見て色々と試してみる必要はありそうだな。

新たな能力のまだ見ぬ可能性にワクワク感を覚えながらも、俺は次の『仕事』への英気を養うために再び朝食を食べ始めた。

 

 

 

 

朝食後、俺は次の『仕事』へ向かうべく、白羽と一緒に拠点内にある玄関ホールヘと来ていた。

……さてさて、今回はどんな世界に行って、どんな奴が相手になるのかな。

そんな事を思いながら気持ちの準備をしていると、白羽がとても楽しそうな様子で話し掛けてきた。

「さーてとっ! 戒人、今回のターゲットの大発表会を……はっじめるよー!」

「大発表会って程でも無いだろ、白羽……。それで、今回はどんな奴の所に行けば良いんだ?」

「ふっふっふ……今回のターゲットはね、『風神(エアマスター)』だよ!」

「『風神』……今度はなんかスゴそうな名前の奴が来たな」

「ははっ、まあね。戒人もそろそろ慣れてきた頃だろうと思って、ちょっと面白そうなのを選んでみたんだ」

「はあ……お前くらいなもんだよ。コードネームに『神』って付いてる奴相手に面白そうなんて言えるのは……」

白羽の言葉に対してため息交じりに返事をしたものの、今回のターゲットである『風神』がどんな奴なのかは気になるため、とりあえず『仕事』へ向けて気持ちを引き締める事にした。

相手がどんな奴であろうと、逃げずに立ち向かうしか無いわけだし、今回も能力に助けられながら精一杯頑張ってみるかな。

そして完全に気持ちが固まった後、俺は白羽に声を掛けた。

「白羽、準備は出来てるからそろそろ『風神』がいる世界への扉を出してくれて良いぜ? 」

「うん、了解。それじゃあ早速……!」

その言葉と同時に白羽が指をパチンと鳴らすと、俺達の目の前に異世界へと繋がっている白い扉が現れた。そして俺はその扉の前に立ち、これから訪れる異世界へのワクワク感と少しの不安を胸に抱きながらドアに手を掛けた。そして視線だけ白羽に向けた後、微笑みながら俺の事を見ている白羽に声を掛けた。

「それじゃあ行ってくるな、白羽」

「うん、行ってらっしゃい、戒人」

その白羽の言葉に頷いて答えた後、俺がドアを押し開けていくと、視界が徐々に白い光に包まれ、やがて俺の意識は白い光の中へと静かに消えていった。

 

 

 

 

「んぅ……?」

頬を撫でるような穏やかな風の感触とサワサワサワという葉っぱが揺れるような音、そして目の奥に感じる陽の光と背中に伝わってくるゴツゴツとした感触に、俺は疑問を含んだ声を上げながら目をゆっくりと開け、そのまま周囲を見回した。近くには色とりどりの花々が咲き誇る花畑や見るからに高さのある切り立った崖に広大な山々、そして若干の暗さに疑問を覚え上を見上げると、そこでは青々とした枝葉が風に揺れており、それによって出来た日陰がその動きに合わせてゆらゆらと形を変え続けていた。

……へえ、今回のスタート地点は屋外なのか。それにしても……ここは何だか風も気持ちいいし、景色も綺麗だからどこかに遊びに来たような気になるなぁ……。

ここには『風神』から能力を回収するために来た事は分かっているが、豪華客船に乗っていた時とはまた違った自然の美しさと気候などの快適さを感じ、俺は自分の心が洗われていくような気がした。

……無理なのは分かってるけど、ここで皆藤達や白羽達、そして演劇部の仲間達とピクニックでも出来たらスゴく楽しいだろうなぁ……。

そんな事をボンヤリとした頭で考えていた時、俺が着ている服が不意に目に入り、ここに来た目的や『仕事』の内容といった様々なモノが頭の中へ次々と浮かび始め、俺はふうと息をつきながら気持ちを『仕事』用へと切り替えた。

……さて、まずは今回の俺の役柄のチェックから行くか。

そしてスッと立ち上がった後、俺は『言葉を司る能力』を行使した。

「姿見、出現場所は俺の目の前」

その言葉と同時に俺の目の前に宙にふわふわと浮かぶ中くらいの姿見が現れた後、俺はその鏡面に映る『俺』の姿に注目した。映っていたのは、クリーム色に近い金髪をウルフカットと呼ばれるヘアスタイルにした色白青眼の若い男性であり、顔付きなどから年齢はおよそ18歳頃、小さな胸ポケットが付いた動きやすそうな布製の青い衣服と同じ素材で出来た足首まですっぽりと隠れた黒みがかった青いズボンに動物の皮製の茶色のブーツという服装だった。そして背中には鞘に収まった細身の剣を差し、近くには色々な荷物が入っていると思われるリュックが置かれており、この様子から『俺』は旅人である事が見て取れた。

……それにしても、今回は中々ファンタジー染みた格好だよな。まるで今からどこかのダンジョンにでも臨もうとしてるかのような感じだし、今回は『召喚を司る能力』が活躍しそうだな。

自分の格好などから様々な予測を立てていると、リュックの中から突然携帯電話の音が聞こえてきた。

ファンタジー世界に携帯電話……まあ、仕方ないとは言え、中々異色な組み合わせだな……。

そんな事を思いながら鳴り続ける音を頼りに傍にあるリュックの中を探り、いつもの携帯電話を取りだした後、俺は画面の表示を確認してから電話に出た。

「もしもし」

『あ、戒人。お疲れ様ー』

「……まだ大して疲れてないって。それで、今回の俺の設定はどんな感じなんだ?」

『それに関しては後でメールで送るから、少し待っててね。それにしても、中々綺麗な場所にいるみたいだし、月夜も誘ってピクニックでもする?』

「したいのはやまやまだけど、ここには『仕事』で来てるわけだから、その話はまた今度な」

『はーい。それじゃあそろそろ今回の設定を送るから、しっかりと目を通しておいてね』

「分かった。それじゃあな、白羽」

『うん』

電話の向こうの白羽の返事を聞いた後、電話を切り設定が記されたメールが来るのを待った。そしてメールが来た後、俺は直ぐさま今回の設定に目を通し始めた。

 

 

 

 

「……っと、ようやく着いたみたいだな」

俺――『ファルコ・シュミット』は『召喚を司る能力』で呼び出した神鳥――ガルーダの背から降り、ガルーダに帰ってもらった後、目の前にある城下町――リムールを見てそう独り言ちた。ここはヴァルラという名前が付いた世界であり、この世界には人間の他にも様々な種族が生活をしているらしく、今の俺のように巨鳥や竜に乗って旅をするのも珍しくないのだという。そして俺がここに来たのは、このリムールの街に置かれているリント国立騎士団――リント竜騎士団に用事があるからであり、その用事というのが――。

「……しかし、女子学生に豪華客船の旅客と来て、今度は竜騎士団の入団志願者とはな。色々な役をやれて楽しいとは思うけど、それだけ気持ち作りとか世界観を頭の中に叩き込むのは中々大変なんだよな……」

演劇部の頃からそうだったが、俺に振られる配役はその戯曲においての主役やその友達が多く、その分役作りには意外と苦労していた。でも――。

「今だからこう思えるのかもしれないけど、そうやって苦労しながら何かをやったり誰かと協力しながらやったりする時間ってかなり貴重なんだよな……」

いざ終わってみればあっと言う間ではあるけど、何かに夢中になっている時間っていうのは、目の前の物事に対して真剣に向き合えている時間だと言える。そして俺の持論に過ぎないが、そうやって何かに真剣になっている間、人は自分が思っている事や感じている事を表に出しやすい気がする。だから、そういう時に議論を戦わせる事で、ただ議論しあうよりも良い案へと発展する時も少なからずあった。

「だからこそ、心を見せ合いながら話を詰めていく事の大切さ、忘れないようにしないとな……」

拳を軽く握りながらそう独り言ちていたその時――。

「……うん? そこにいるのは誰だ?」

不意に後ろから声を掛けられ、スッと後ろを振り返ると、そこにいたのは一人の若い男性と一大きな竜だった。男性は長い茶髪に色白の整った容姿をしている他、身に纏っている銀色の鎧には小さな勲章のような物が付いており、背中には鞘に収まった大きめの剣を差していた。そして竜は青みがかった黒い鱗に覆われた大きな体をしている他、足には白く大きな爪を備え、見る者に恐怖を感じさせるような威圧的な顔付きをしていた。

……この人、恐らくはリント竜騎士団の人間だな。となると、ここで悪印象を与えるわけにもいかないか。

俺は『ファルコ・シュミット』としての気持ちを作り直した後、入団試験を控えて少し緊張している様子を装いながら男性に話し掛けた。

「あ、貴方は……?」

「私はダーフィット・ティアム、リント竜騎士団の騎士団長を務めている者だ。そしてこっちは相棒の竜でラルゴだ。君は……竜騎士団の入団試験の希望者かな?」

「は、はい……! 別の地方から来たファルコ・シュミットと申します!」

「そうか。ならば、一緒に行くとしよう。ここで会ったのも何かの縁だと思うからな」

「は、はい! よろしくお願い致します!」

「……ふふ、そんなに緊張しなくても良いさ。さあ、行こう」

「はい!」

男性――ダーフィット騎士団長の言葉に返事をした後、俺は一緒にリムールの街の中へと入っていった。そしてダーフィット騎士団長とラルゴに連れられて街の中を歩いていると、道行く人達はその誰もが騎士団長へ親しげに話し掛けるが、騎士団長はいやな顔1つせずにそれに答えていた。

へえ……この人、街の住人達からかなり慕われているんだな。まあ、騎士団長ともなればそれも当然なのかな。

そんな事を思いながら歩いていた時、ちょうど通り掛かった店の中から店主らしき男性が顔を出し、騎士団長へ向かって声を掛けてきた。

「おっ、『疾風の竜騎士(シルフィード・ドラゴンナイト)』さんじゃないか。今から騎士団の詰め所に戻るところかい?」

「ええ、今からこちらの彼も含めて入団試験を行うところなのです」

「はははっ、そうかそうか! まあ、良い新人が入るように祈ってるよ」

「ありがとうございます。それでは」

「おう!」

店主の男性に揃ってペコリと頭を下げた後、俺は騎士団長に続いて再び歩き始めた。そして少し歩いた所で俺はさっきの店主の男性の言葉について訊いてみる事にした。

「ダーフィット団長、先程の方が仰っていた『疾風の竜騎士』というのは……?」

「アレは私の異名だよ。私が風の魔術を操りながら戦いを行う様子を騎士の一人がそう呼び始めたのがきっかけで、この街の人達にも広まったんだ」

「そうだったんですね……」

『……竜騎士団に入団したいと言う割に、その事すら知らんとは妙な奴だな、お前は』

「あはは……すいませ――」

そう返事をしようとした時、俺はその声が騎士団長とは別の声である事に気づき、恐る恐るラルゴの方へと視線を向けた。

「……もしかして、今の声って……」

『うむ、私の声だ。竜が話したところで、不思議では無かろう?』

「ま、まあ……そうですけど、突然だったもので……」

「ふふ、そうだろうね。ラルゴは竜の中でも強い力を持っているから、こうして人の言葉も解し操る事も出来るんだよ。ファルコ君も我らが竜騎士団に加わった際には、相棒となる竜と共に職務に励んでもらう事になる。その時、隣にいるのはこのラルゴのような力の強い竜であるかもしれないし、少しずつでも慣れていった方が良いかもしれないね」

「そうですね。どんな竜が相棒になってくれるかはまだ分かりませんが、精一杯頑張ってみようと思っています」

「うん、その意気だ」

俺の言葉に騎士団長がニコリと笑いながら答えてくれた時、少し先の方に大きな建物や小屋のような物が建っているのが目に入り、俺達は一度立ち止まった。

「ダーフィット団長、もしかしてアレがリント竜騎士団の……」

「ああ、リント竜騎士団の詰め所や訓練場、そして竜舎や私達の宿舎だ。さあ、試験もそろそろ始まるし、急いで行くとしよう」

「はい!」

『うむ』

騎士団長の言葉に返事をした後、俺達は目的地へ向かって歩き出した。そして数分足らずで目的地へ着いた後、俺は1度宿舎に顔を出すと言うダーフィット団長達と別れ、入団試験を行う前の簡単な手続きをするために騎士団の詰め所に向かった。手続きには名前や出身地の記入も必要だったが、白羽が送ってくれたメールにしっかりと記載されていたため、俺は『ファルコ・シュミット』の設定に従って手続きを終えた。その後、手続きを終えた他の志望者と共に俺は大きな広場へと集められた。広場に集まった参加者達は他の参加者と話をしたり周囲の様子の観察をしたりしながら時間が来るのを待っており、俺はその様子をボンヤリと眺めながらポケットの中に仕込んである言葉符などを手で確認した。

……どうやら色々な奴がいるみたいだけど、試験の内容如何(いかん)では、コイツらと戦う事にもなるだろうしまだどんな奴がいるかは分からない。油断はしないようにしとかないとな。

ポケットの中の言葉符を軽く握りながら周囲への注意と警戒を強めていたその時、ダーフィット団長と副団長と思われる男性が宿舎の方から歩いてくるのが見えた。そしてその瞬間、広場が水を打ったようになり、それと同時に雰囲気がピリピリとした物へと変わった。

……へえ、和気藹々(わきあいあい)と話してたり適当に周囲の様子を探るフリしたりしてると思ってたけど、コイツら結構良いピリピリ感を出せるんじゃないか。だけど、この程度ならまだまだ余裕だな。

そんな事を思っていた時、ダーフィット団長達は俺達の目の前でピタリと足を止め、凛とした雰囲気を醸し出しながら静かに口を開いた。

「諸君、我らがリント竜騎士団の入団試験に来てくれた事、心より感謝する。我らの国、リント王国は実に平和であるが、他国からの侵略並びに近隣に生息する魔物の脅威も無いわけではない。なので、諸君らのような将来有望な若者達がこのリント竜騎士団の門を叩いてくれた事は誠に嬉しく思っている。さて……これから諸君らには、このリント竜騎士団に入団するための試験を受けてもらう。試験の内容自体は至って単純だが、油断などせずに試験に臨んで欲しい。それでは諸君、頑張ってくれたまえ」

ダーフィット団長はそう言葉を締め括ると、静かに一礼をしてから一歩後ろへと下がった。すると今度は、隣に立っていた短い黒髪の眼鏡の男性が静かに口を開いた。

「それでは、試験の内容を発表する。試験の内容は、日没までに自身の相棒となる竜を見つけ出し、ここへと戻ってくる事だ」

その試験内容に他の参加者達はざわつき始めたが、男性はそれに対して何の反応もせずにそのまま話を続けた。

「このリント王国には、様々な種の竜が生息しており、私達の相棒たる竜達もこのリント王国に生息していたモノ達だ。よって、諸君らにも同じようにこのリント王国に生息する竜を見つけ出し、戦うなりどうにか絆を深めるなりして日没までにこの場へ共に戻って来てもらう。尚、それが果たせなかった者は、残念ながら失格とさせてもらう。それでは、諸君らの健闘を祈る」

その言葉と同時に他の参加者達は慌てた様子で広場から走り去り、程なく広場には俺を含めた一部の参加者と騎士団長達だけが残った。

さて……それじゃあ俺も行きますかね。

他の参加者と違って焦る必要が無いため、俺はのんびりとした調子で言葉符を取り出し、こっそりと『言葉を司る能力』を行使した。

「占術、占う対象は竜の住み処」

その瞬間、俺の頭の中に竜が棲んでいると思われる洞窟の様子とそこへの正確なルートが浮かび、俺はふうと息をついた。

それにしても竜を連れてこい、か……。竜騎士団らしいと言えばらしいけど、中々骨が折れそうな試験内容だよな。まあ、戦闘になったとしても俺なら勝てるはずだし、まずはその竜とやらに会いに行ってみるか。

そんなのんびりとした気持ちのまま、俺は『占術』の言葉符で探知した洞窟へ向けて歩き始めた。

 

 

 

 

「……うーん、思ったよりも暗いな、この洞窟……」

出発してから数分後、再びガルーダの力を借りて件の洞窟の前に着いた瞬間、俺は思わずそんな言葉を漏らした。外から見る限り、洞窟の中は想定していたよりも暗く深そうに見えたため、その様子に思わずため息をついてしまった。

「……まあ、どうにかしてこの洞窟内を進むとするか。そうじゃないと、リント竜騎士団に入れ無いだけじゃなく、『風神』候補であるダーフィット騎士団長の情報収集が少しやりづらくなりそうだし」

そう独り言ちた後、俺はガルーダに帰ってもらってから洞窟内へと足を踏み入れ、ポケットの中の言葉符を1枚取り出した。

「松明、出現場所は俺の手の中」

そして出現した松明を手に持ちながら洞窟内を進み始めたその時、周囲から突然幾つもの気配のようなものを感じた。

……人、じゃないな。つまり、コレは魔物の気配って事になるけど、ここではあまり戦いたくないし、気づかなかったフリをして――。

気づかなかったフリをしてそのまま進もうとしたその瞬間、暗がりから俺に向かって何かが飛んできた。しかし、俺はそれには動じずに飛んできたモノに対して『事象の流れを司る能力』を行使し、飛んできた方へとそのまま跳ね返した。すると、ガツンという音が聞こえたかと思うと、涙交じりの声が聞こえてきた。

「うぅ……痛い、痛いよぉ……」

「お、おい、大丈夫か!?」

「うわぁ……たんこぶ出来てるぞ、お前……」

「は、早く君の粘液でどうにかしてよ……!」

「いやいや、僕の粘液が掛かったら溶けちゃうから……」

そんな緊張感があるんだか無いんだか分からない声を聞き、俺は呆れながらため息をついた後、言葉符を1枚取り出した。

「光明、対象範囲は俺の周囲全体」

その瞬間、俺の周りが強い光で照らされると、洞窟内の様子と声の主達の姿が明らかになった。

「……えーと、これはどうすれば良いんだろう……」

視界に入ってきた物を見た瞬間、俺は思わずそんな言葉を漏らしてしまった。そこには頭に大きなたんこぶが出来ているハーピーの子供とそれをどうにかしようしているゴブリンの子供、そして何か手が無いかと考え続けるウェアウルフの子供に話し合いをしているアルケニーの子供とスライムの子供の姿があり、それを見ている内に徐々に罪悪感のような物を覚え始めた。

「はあ……とりあえずどうにかしてやるか」

ため息をつきながら『治癒』の言葉符を取り出し、俺は『言葉を司る能力』を行使した。

「治癒、対象はハーピー」

すると、みるみる内にハーピーの頭に出来ていたたんこぶが縮んでいき、園まで霧のようになって消えていくと、ハーピーは目をぱちくりとさせながらキョロキョロと周囲を見回し始めた。

「……痛くない。ねえ、もう痛くないよ!」

「ほ、本当か!」

「たんこぶが消えた瞬間に痛みまで消えるなんて……」

「魔法ってやっぱりスゴいんだね」

「うん、そうだね」

魔物の子供達は嬉しそうに話し合った後、一斉に俺の方へ視線を向けると、少し警戒した様子で俺の事を見始めた。

……まあ、仕方ないと言えば仕方ないか。

俺はそんな事を思いながらふうと息をついた後、魔物の子供達を刺激しないようにしながら声を掛けた。

「あー……別に警戒はしなくて良いぞ? 俺はお前達に危害を加える気は一切無いからな」

「……信じて良いの?」

「ああ。もし嘘だったら、俺の事を煮るなり焼くなり食うなり好きにして良い。俺はこの先に進みたいだけだからな」

「この先って……一体何の用なんだよ……?」

「この先に竜がいるみたいだから、ちょっと会いに行きたいだけだよ」

そう口にした瞬間、魔物の子供達の顔がとても緊張した物や心配そうな物へと変わった。どうやら竜がこの先にいるのは本当のようだが、この様子を見る限り魔物の子供達は竜の事を怖がっているわけでは無く、むしろ守ろうとしているように見えた。

魔物達に守られる竜か……本当なら逆な気はするけど、ここまで魔物達から慕われる竜ってのも気になるし、どうにかここを進ませてもらう手段を考え――。

魔物の子供達を見ながら手段を考え始めたその時、ウェアウルフの子供が恐る恐る俺に話し掛けてきた。

「……人間、お前はここの竜に何の用なんだ……?」

「俺はリント竜騎士団の入団希望者なんだが、入団試験の内容が相棒になってくれる竜を見つけ出し、ある場所まで連れてくることなんだ。そこで、ここの竜に相棒になってもらおうと思っているんだが……どうかな?」

「アイツが竜騎士の相棒に……? いや、無理だろ」

「無理は言いすぎだよ。でも……絶対に怖がるよね」

「うん、あの子は怖がりだしね」

「そう……なのか?」

その問い掛けに魔物の子供達が一斉に頷いた瞬間、俺は小さくため息をついた。

ここまで言われる竜って本当にどんな奴なんだよ……。まあ、一口に竜と言っても色んなのがいるけど、『召喚を司る能力』で前に呼び出した奴らはもっと勇敢だったり厳格だったりしたせいか、怖がりな竜って全然イメージが湧かないな……。

その怖がりな竜とやらに対してのイメージをどうにか頭の中に作り上げようとしていた時、ウェアウルフの子供が俺の事をジーッと見ながら話し掛けてきた。

「……そんなに気になるなら、会ってみるか?」

「え、良いのか?」

「ああ。お前ならアイツの事を怖がらせたり傷つけたりしないと思うからな。それに俺達から仕掛けたのにコイツ――ウィンの事を癒してくれた恩もあるからな」

「そっか。でも、他の奴らはそれで良いのか?」

俺がハーピーの子供――ウィンや他の魔物の子供達に問い掛けると、他の奴らはニコリと笑いながらコクンと頷いた。俺はそれに頷いて答えた後、ウェアウルフの子供に声を掛けた。

「それじゃあ頼むぞ、ウェアウルフ」

「グァン」

「え?」

「俺の名前だ。せっかくだから名前で呼んでくれ、人間」

「……分かったよ、グァン。それと俺にもファルコ・シュミットっていう名前があるから、人間って呼ぶよりも名前で呼んでくれた方が良いかな」

「分かった。それじゃあついてきてくれ、ファルコ」

「ああ」

ウェアウルフの子供――グァンの後に続いて、俺は他の魔物の子供達とも自己紹介をしながら洞窟の中を進み始めた。そしてそれから数分が経った頃、突然ある事が気になった。

「なあ、皆。スゴく今更な事なんだけどさ、俺とお前達が会話できてる事に違和感とかって無いのか?」

「んー……そんなに無いな」

「そうだね。ルジェ以外は人型の魔物だから普通に人間の言葉が分かるのもあるけど、ルジェ達スライム族も人間と話が出来る個体もいるから、そんなに違和感は無いかな?」

「ふーん……そんなもんか。そういえば、お前達って種族は違うのに、スゴく仲が良いみたいだな」

「ああ、まあな。最初こそお互いの文化とか種族の特徴なんかで衝突はしたが、何だかんだで仲良くなって、今はこうして遊ぶようになったんだ」

「因みにこれから会いに行くドラゴンも私達の友達なんだけど、あの子はリント王国の出身じゃないみたいなのよね」

「ん、そうなのか?」

「うん。ちょっと前にどこからか飛んできて――」

スライムの子供――ルジェが話し始めたその時、ウィンの耳が突然ピクリと動くと、ウィンはその場に立ち止まった。

「ウィン、どうかしたのか?」

「……うん、ちょっとね」

ウィンは呟くような声で答えた後、耳を欹(そばだ)てながら静かに目を閉じた。そして再び耳がピクリと動いた瞬間、ウィンは静かに目を開いた後、ニコリと笑いながら俺達に話し掛けてきた。

「あの子、また眠ってるみたいだから、起こさないように静かに行こっか。せっかく眠ってるのに起こしちゃうのは可哀想だしね」

「……ああ。アイツが落ち着いて寝られるのは、どうやらここだけらしいからな」

「うん。あの子の所に着くのはもう少しだし、それまではゆっくり寝ててもらおっか」

「うん、そうだね」

「それが良いかもな」

ウィンの言葉にグァン達が頷きながら答える中、俺だけは何が何だか分からないままだったため、俺は近くにいたアルケニーの子供――アニィに静かな声で話し掛けた。

「アニィ、今話してたのって、もしかして今から会いに行く竜の話か?」

「うん。あの子はお昼寝が大好きだから、お昼ご飯を食べた後は決まってお昼寝をしてるのよ」

「んで、俺達が遊びに行けるのは大体この時間だから、こういうのも慣れっこってわけだ」

「なるほどな」

昼寝が大好きで怖がりな竜か……竜騎士団の竜向きでは無いかもしれないけど、どんな奴なのかますます気になってきたな。

ゴブリンの子供――クランの言葉に相槌を打ちながらそんな事を思った後、俺は再び皆と一緒に先へと進み始めた。そして歩く事数分、俺達は大きく開けた広場のような場所へ着いた。

「へー……この洞窟にこんな場所があるんだな……」

「ああ。ここはアイツの寝床でもあるが、俺達の遊び場でもあるんだ」

「広いから走り回っても平気だし、疲れたら皆でお昼寝も出来るからスゴく快適なんだよ?」

「そうだろうな。何だか温度もちょうど良いみたいだし、ここを寝床とか遊び場にしたくなるのも分かる気がするよ」

ニコリと笑いながらグァン達に返事をしていると、クラン達が一緒に緑色の岩みたいな物の所へと走っていった。そして声を揃えて緑色の岩に向かって話し掛けた。

「「「おーい、ゴドウィーン!!」」」

『……んむぅ?』

そんな眠そうな声を出しながら緑色の岩が静かに動き出したかと思うと、緑色の岩は徐々に形が変わり、やがてまるで宝石のような輝きを放つ緑色の鱗や爪を備えた竜の姿に変わった。

「す、スゲぇ……! コイツがお前達の友達、なのか……!」

「うん、そうだよ」

「コイツの名前はゴドウィン、宝石竜(ジェムドラゴン)・翠玉型(エメラルドタイプ)って奴だよ」

「宝石竜……確か、鱗や爪が宝石のような輝きを放つ事や宝石の涙を流す事などから『大空を舞う宝石』と称される竜、だったよな?」

「そうだよ。まあ、そんな異名が付いてるせいで、宝石竜は人間のハンターとか悪人に狙われてるんだけどね」

「宝石竜の鱗を装飾品にしようとする奴とかゴドウィンみたいに気弱な宝石竜を捕まえて宝石の涙を無理やり採ろうとする奴もいるから、俺達がこうやってゴドウィンの事を守ってやってるんだよ」

「……そっか」

ウィン達の言葉に返事をしながら俺は宝石竜――ゴドウィンヘと近づき、そのままゴドウィンの事を見上げた。

まさかコイツらの友達が宝石竜だとはな……こうなるとコイツを俺の相棒として誘うのは止めておいたほうが良さそうだな。

そう思いながら半ば諦め気味にふうと息をついていると、ゴドウィンが首をゆっくり俺の方へと伸ばし、不思議そうな目で俺の事を見始めた。そして俺が人間である事を理解すると、ゴドウィンは怯えたような表情を浮かべながら首を急いで引き戻した。

『ひっ……に、人間……!?』

「あー……うん、人間だな。確かに俺はまごう事無き人間だけど、一応コイツらからお前に会う許可はもらってるぜ?」

『え、そうなの……?』

ゴドウィンが怯えた表情のままグァン達にそう訊くと、グァン達は一斉に頷いた。するとその様子にゴドウィンは少し驚いた表情を浮かべたが、それはすぐにホッとした表情ヘと変わった。

『……良かった。グァン君達が脅されたり人質に取られたりしたんじゃないかと思って、ちょっと怖かったんだよね……』

「まあ、コイツらも魔物とはいえ、まだ子供だからな。そう考えてしまうのもおかしくないさ。それに、お前にとっては大事な友達なんだもんな」

『うん。いきなりここに飛んできた僕の事をすぐに受け入れてくれた上、毎日遊びに来てくれたり何か食べ物を持ってきてくれたりするんだ。僕みたいな宝石竜に関わってたら、皆だって危険なのに……』

「まあ、宝石竜を狙う奴は多いって聞くからな。でも、俺は別にお前の事を狙ってきたわけじゃないから安心してくれ」

『うん、分かった。でも、だとしたらどうしてここに……?』

「あー……それなんだけどさ……」

俺は少し話しづらさを感じながらここに来た理由や俺の名前などをゴドウィンへ話した。そして話し終えると、ゴドウィンは意外にも興味深そうな反応を見せた。

『リント竜騎士団所属の竜騎士の相棒、か……』

「ん、興味があるのか?」

『興味……というか、ちょっとした考えがあってね』

「考え?」

『うん……僕は元々宝石竜の里から飛んできたんだけど、少し前から宝石竜の里の近くで人間のハンターの姿がよく見られるようになっていたんだ。それで他の宝石竜達も一時的に里から別の所へ飛んでいったんだけど、それ以降全く里の皆と会ってなくてね。それで、僕が竜騎士の相棒になって、名前が知られるようになれば、里の皆も安心するんじゃないかと思うんだ』

「なるほどな。でも、竜騎士の相棒になるという事は、お前が苦手とする争いの中に身を投じる事にもなる。それでも良いのか?」

『……うん。僕が頑張る事でひっそりと身を隠している里の皆が少しでも安心してくれるなら、僕は喜んで竜騎士――君の相棒になるよ、ファルコ。ただ――』

ゴドウィンは少し暗い表情を浮かべた後、グァン達に不安そうな視線を向けながら言葉を続けた。

『僕が竜騎士の相棒になると、皆と会える時間が減っちゃうのがちょっと心残りなんだよね……』

「確かにそうだな……訓練や任務の合間とか休暇の際に会いに来る事は出来るけど、それも確実じゃないからな……」

『やっぱりそうだよね……』

不安そうな視線をグァン達に向けたまま、ゴドウィンが困ったような表情を浮かべていたその時、グァンは何かを決意したような表情でゴドウィンに話し掛けた。

「行ってこいよ、ゴドウィン」

『グァン君……?』

「お前の事は心配だしお前と会える時間が減るのは俺達としても残念だ。でも、お前が何かをやりたいって自分から言い出したのは初めてだ。だから、俺はそれを応援したい。お前の友達として」

『グァン君……』

「……お前達も同じ気持ちだよな?」

ウィン達の方を見ながらグァンがそう問い掛けると、ウィン達はニコリと笑いながら一斉に頷いた。そしてその様子にゴドウィンは嬉しさと驚きが入り交じったような表情を浮かべた。

『皆……』

「……ふふ、良かったな、ゴドウィン」

『……うん! ファルコ、これからよろしくね』

「ああ、こちらこそ」

そう言って俺はゴドウィンと握手を交わした後、これからの事についてゴドウィン達と話しながら洞窟内を戻り、グァン達に見送られながらゴドウィンの背に乗ってリント王国へと戻った。

 

 

 

 

「ふう……これでとりあえずは何とかなったかな」

その日の夜、俺は騎士団宿舎の自室にてそう独り言ちた。ゴドウィンに乗って洞窟から広場に戻ると、そこには騎士団長と副団長の他、俺と同様に竜を連れた入団希望者達が何組か既に戻ってきていた。そして俺がゴドウィンに乗って戻ってきた事を知ると、他の希望者達からは大きなざわめきが起こり、副団長が明らかに驚いた表情を見せる中、騎士団長は目を輝かせながらどこでゴドウィンを見つけたのかを俺に訊いてきた。しかし話す義理も無い上、その騎士団長の様子が少々怪しかったため、俺は偶然空を飛んでいるのを見かけたという事にして、その場をどうにか収めた。そしてそれから他の希望者達が戻ってくる事なく日没を迎えたため、俺と他の数組の希望者達だけが無事に入団試験を突破でき、その日の内に俺達は自室を宛がわれ、ゴドウィン達相棒の竜は竜舎へと入る事になった。

「……今のところ、『風神』候補は騎士団長だけ。ただ、他の新入り達の情報がそれほど手に入ってないから、まだ何とも言えない。それにゴドウィンの事を守ってやる必要もあるし……」

ベッドに寝転がりながら考えなければならない事を口に出していた時、不意に眠気が襲ってきた。

「……とりあえず今日は寝るか。眠い頭で何かを考えた所で良いアイデアなんて浮かばないしな」

そう独り言ちた後、俺はゆっくりと目を閉じ、穏やかな眠りの中へと静かに意識を沈めていった。




政実「第9話、いかがでしたでしょうか」
戒人「今回は『風神』か……名前を聞く限りだと中々強そうだし、今回は能力バトルになりそうだな」
政実「まあ、そこは後々のお楽しみという事で」
戒人「そうだな。それで、次回の投稿予定はいつも通りで良いのか?」
政実「うん、大丈夫だよ」
戒人「分かった。そして最後に、この作品について感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「ああ」
政実・戒人「それでは、また次回」
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