Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、千歳戒人です。そよ風か……確かに強風とか暴風よりはそよ風くらいがちょうど良い気はするな」
政実「それもあるけど、何というか……風が吹いてる時の音を聞くのが好きなんだけど、そよ風の音が1番好きだからっていうのもあるかな」
戒人「なるほどな。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、第10話をどうぞ」
今回のターゲット――『
『ふう……やっとあそこにも慣れてきたけど、やっぱりここが1番だなぁ……』
「だろうな。温度や湿度もちょうど良いし、基本的にグァン達以外は誰も来ないから、うるさくないもんな」
『あははっ、確かにね。賑やかなのは嫌いじゃないけど、僕的には騒がしいよりは静かな方が良いもん』
「同感だな。俺の場合、誰かと話す事は嫌いじゃないが、お前やグァン達と話したり読書をしたりしている方が正直落ち着くからな」
『ふふっ、どうか、ん……だね……』
俺の言葉にゴドウィンは楽しそうに笑った後、午前の訓練の疲れが出たのか眠そうにコクリコクリと船を漕ぎ始めた。
……まあ、ゴドウィンは元々この時間帯に昼寝をしてるから、入団から一週間が経ったとは言っても、まだあの環境には慣れたわけじゃないよな。
ゴドウィンの様子にクスリと笑った後、俺は名前の通りエメラルドのような輝きを放つ鱗の上からゴドウィンの体を撫でながら声を掛けた。
「ゴドウィン、眠いなら寝てても良いぜ? 行かなきゃいけない時間になったら起こしてやるからさ」
『う……うん、あり……が、とう……』
スゴく眠そうな声で答えた後、ゴドウィンは小さな寝息を立てながら翼で顔を覆いつつそのまま眠り始めた。そしてそれを確認した後、俺は連絡用端末のアラームをセットしてから『召喚を司る能力』を声を潜めながら行使した。
「……召喚、ソル爺さん、シェイド」
そして俺の目の前の地面に2つの魔法陣が独りでに描かれると、魔法陣からローブを着た人物と小さな黒い靄のようなモノが徐々に浮かび上がり、程なくしてそれらは完全に姿を現した。
「何か用だったか、戒人よ」
「……指令ならば遠慮せずに言ってみろ」
「うん。ソル爺さんにはちょっと相談相手になって欲しくて、そしてシェイドはこの洞窟に魔物以外が近付いてこないか見張ってて欲しくてな」
「ふむ、相談相手か。まあ、別に儂は構わんぞ、戒人」
「同じく」
「ん、ありがとうな」
俺が小さく微笑みながら礼を言うと、シェイドはコクンと頷いてから静かに影へと溶け込んでいき、そのまま辺りにある陰を伝って洞窟の入り口へと走っていった。そしてソル爺さんはそれを見届けると、自分の魔術で茶器や敷物を出現させ、俺の隣に敷物を敷いたり湯を沸かす準備をしたりと自分が好きな緑茶を飲む準備を静かに始めた。ソル爺さんは名前も見た目も明らかに外国人なのだが、意外にも和風な物の方が好きなのだ。そのため、暇があればどこから調達しているのか分からない緑茶と大福を食べながらのんびりとしており、ベージュ色のローブやその外見を抜きにすれば、どこからどう見ても余生を穏やかに過ごしている老人にしか見えない。
……最初は『召喚を司る能力』においての最大の欠陥としか見てなかったけど、色々な魔術が使える所や時々底知れない魔力の気配を漂わせている所を見せられたりソル爺さんからの助言に助けられたりした今となっては、とても心強い味方みたいな感じかな……。
そんな事を思いながらソル爺さんの動きをボーッと眺めていたその時――。
「……戒人よ」
湯が沸くのを見ていたソル爺さんが、突然静かな声で話し掛けてきたため、俺は少しだけ驚きながらもそれに答えた。
「……どうかしたのか、ソル爺さん?」
「お前の相談事、恐らくはそこの竜などについてなのだろう?」
「そうだけど……どうして分かったんだ?」
そう訊くと、ソル爺さんは呆れたようにため息を付いてからその理由を口にした。
「まだ仔竜であるからか、そこの竜からは常に『風』の魔力が漏れ出ておる。しかし近くから親竜の気配がしない事から、何か理由があってその竜をお前が世話をしているのは明白。そしてお前のお人好しな性格も合わせて考えた結果、その竜がどうすれば己の力を上手く引き出せるかについて儂に相談をしたいと考えるのが自然じゃろう?」
「……あ、それもそうか」
言われてみれば確かにそうだ。何でそこまで気付かなかったんだろう……?
ソル爺さんからの指摘に俺が納得しながらも小さく首を傾げていると、ソル爺さんは更に呆れた様子を見せた。
「やれやれ……お前は役を演じている時には抜け目なく行動できるが、素の状態では本当に抜けておるのう……」
「あはは……全くそんなつもりは無いんだけどな」
「……それだけ素の状態でも気を抜いていられるようになったんじゃろうな。まあ、それが良いとは言い切れんが、常に気を張っているよりはずっとマシじゃし、今はそのままで問題なかろう。さて――」
ソル爺さんは1度立ち上がると同時にゴドウィンの方を向くと、ゴドウィンの姿をジーッと見つめ始めた。そして何かに納得した様子で1度頷くと、再び敷物の上に座り込みながら静かに口を開いた。
「……どうやら
「『力の蓋』……?」
「さよう。儂らを含めた生きとし生ける物は、お前の演技力や儂の魔力のように誰もが何かしらの力や才能を秘めており、ちょっとしたきっかけが1つでもあればその力は開花する物なのじゃ。よく物語などでもおるじゃろ? いつもは様々な方面で落ちこぼれているのに、何かの競技や出来事に関わった結果、周囲の誰もが驚くような成果を上げるという奴が」
「言われてみれば、確かにそういう展開って多いかもしれないな……」
「うむ。そして、そういった出会いが力の開花――眠れる力が収まっている入れ物のような物の蓋を開けるきっかけになり、その方面で大きな活躍を見せる物を生み出す事になると言った所じゃな」
「……つまり、ゴドウィンも何かの出会いとか事件みたいなきっかけがあれば、力――『風の魔力』を開花させる事が出来るって事か?」
「それでも良いが、其奴――ゴドウィンにゴドウィン自身が持つ力を説明してやったり同じような力を間近で見せたりするのも手じゃな。儂が見たところ、ゴドウィンは争い事などが苦手のようじゃから、力について説明をする際も侵略や争い事のように他者を傷付ける事には触れず、救助や助力といった人助けなどにも使える事に触れながらの方が良いかもしれんのう」
「なるほどな……」
ソル爺さんの返答に俺は静かに納得しながらゴドウィンへと視線を移した。ソル爺さんが言う通り、ゴドウィンは優しく大人しい性格で争い事が苦手なため、戦闘訓練の成績はお世辞にも良いとは言えない。それに加えて、力を使うという事を戦い以外の事に中々結び付けられないのもあり、他の訓練での成績もあまり
……使い方次第だけど、俺自身風属性は他の属性よりも様々な事に応用できる属性な気はしている。だからここは、ソル爺さんが言うように戦い以外に使える可能性を示しながらゴドウィン自身が持つ真の力とやらを一緒に引き出してやるのが1番かもしれないな……。
穏やかな寝顔で眠り続けるゴドウィンを見ながらそんな事を考えていたその時――。
「主よ」
後ろからシェイドに声を掛けられたため、俺は後ろを振り返りながらシェイドの声に答えた。
「どうかしたのか、シェイド?」
「この洞窟の入り口付近にて、怪しげな男と竜を発見した」
「怪しげな男と竜……?」
「先程、我が入り口を見張っていた際、眼鏡を掛けた黒髪の男と青い体躯の竜が洞窟の前に降り立ち、しばらく入り口をジーッと見つめていた。しかしそれ以外に何をするでもなく、そのまま竜に乗って去っていった」
「眼鏡を掛けた黒髪の男に青い竜って……もしかしたら、リント竜騎士団の副騎士団長――ユスティン・ティッテルさんとフィーラかな……?」
でもだとしたら、どうしてユスティン副騎士団長達がこの洞窟に来たんだ? この洞窟には俺達とグァン達以外は来ないはずなのに……。
ユスティン副騎士団長らしき人物が洞窟を訪れた理由は明らかに謎であり、正直かなり気にはなった。しかし――。
「……まあ、今考えたって仕方ないか。とりあえずユスティン副騎士団長にも監視をつける事にして、今は『風神』候補が他にいないかを確認する事にしようかな」
ユスティン副騎士団長の件についてそう結論づけていたその時、セットしていたアラームの音が連絡用端末から鳴り出したため、俺は瞬時に『千歳戒人』から『ファルコ・シュミット』へ意識を切り替えた。
「……さてと、それじゃあまた何かあったら呼ぶから、その時はよろしくな、2人とも」
「うむ、ではな、戒人」
「さらばだ、我が主よ」
「うん」
ソル爺さん達の声に頷きながら答えると、ソル爺さん達の姿が徐々に消えていき、やがてそこには何も無くなった。そしてそれを確認した後、俺はアラームを止めながらゴドウィンに声を掛けた。
「ほら、ゴドウィン。そろそろ起きないと訓練に遅れるぞ」
『う……うん、わかっ……た、よ』
まだ眠そうな声を上げながら体をゆっくりと動かすゴドウィンに苦笑いを浮かべながら、俺はこっそりと
「……式神創造、対象は『式神』の言葉符、そして創造対象は『鷹』と『虎』と『雀』」
すると手の中にあった言葉符が独りでに動き出し、徐々に形を変えながら小さな光を放ち始めた。そして光が止んだ頃には手のひらサイズの『鷹』と『虎』と『雀』が俺の手の上に乗っていた。俺が式神達に対してコクンと頷くと、式神達はそれに応えるように頷き返し、一斉に俺の手から飛び出していくと、そのまま洞窟の入り口の方へと消えていった。
これで良し。後は式神達がどんな情報を持ってきてくれるかによるし、式神達を待ちながら『ファルコ・シュミット』としての生活を続けるとしよう。
式神達が消えていったのを見送った後、俺は再びゴドウィンの方へと顔を向け、ニッと笑いながら話し掛けた。
「ほら、しゃきっとしていこうぜ、ゴドウィン! 早くしないと本当に訓練に遅れちまうからさ!」
『うん、そうだね。訓練は大変だけど、コレも大切な事だから、精一杯頑張っていかないとね』
「だな。さあ、行こうぜ、ゴドウィン!」
『うん!』
ゴドウィンの返事を聞いた後、俺はゴドウィンと一緒に洞窟の入り口へ向けて歩き始めた。そして洞窟を出た後、俺はユスティン副騎士団長らしき人物がいないかを軽く確認したが、それらしい人物の姿が無かったため、そのままゴドウィンの背に乗ってリント王国へ向けて飛んでいった。
その日の訓練が終わった夕方頃、俺がゴドウィンと訓練の反省会を行いながら訓練場内を歩いていた時――。
「ファルコ・シュミット、少しだけ良いか?」
「……え?」
不意に声を掛けられたため、疑問の声を上げながら振り向くと、そこにいたのはユスティン副騎士団長と相棒の竜――氷竜のフィーラだった。ユスティン副騎士団長はとても落ち着いた様子だったが、フィーラは少しだけ訝しげな様子で俺達に視線を向けていたため、俺は少しだけ警戒をしながらユスティン副騎士団長に答えた。
「何かご用ですか、ユスティン副騎士団長」
「用……と言うよりは、少し話したい事があるだけだ」
「話したい事……ですか?」
「ああ。お前達さえよければだが、どうだ?」
そのユスティン副騎士団長の言葉に俺達は1度顔を見合わせた。シェイドの報告の件を考えると、ここでユスティン副騎士団長の誘いに乗るのが正解な気はする。けれど、それにゴドウィンを巻き込む事になるのはちょっと気が引けるし、万が一の事が発生すれば、ゴドウィンに危険が及ぶ事になる。そう考えると、ユスティン副騎士団長の誘いに簡単に乗るのは、やはり早計な気もする。
……ここはゴドウィンに判断を委ねてみるのもアリか。
そう思った後、俺は傍らに立っているゴドウィンに声を掛けた。
「ゴドウィン、俺は別に良いんだけど、お前はどうしたい? もし、訓練で疲れてるなら、俺が話を聞いておくけど」
『ううん、僕も大丈夫だよ、ファルコ。確かに訓練で疲れてはいるけど、ユスティン副騎士団長さんの話を聞く元気はあるし、どんな話なのか僕も気になるからね』
「……分かった」
ゴドウィンの返事を聞いた後、俺はユスティン副騎士団長達の方へと顔を向けた。
「俺達は大丈夫です、ユスティン副騎士団長」
「……分かった。それでは、ちょっと付いてきてくれ」
「『はい』」
そして俺達は、ユスティン副騎士団長に連れられて歩き出した。その最中、ユスティン副騎士団長は一言も話さずに周囲を注意しながら歩いていたが、フィーラはゴドウィンの事を少し気にするような素振りを見せながらユスティン副騎士団長の横を歩き続けた。
この様子から見るに、ユスティン副騎士団長達がゴドウィンの事について話をしたいのは、何となく察する事が出来る。でも、それがゴドウィンにとって良い話なのか悪い話なのかが分からない以上、あまり油断は出来ないな……。
警戒を微かに強めながらユスティン副騎士団長達と歩き続ける事数分、入団試験の際に訪れた広場へ着くと、ユスティン副騎士団長達はピタリと足を止めた。そしてクルリと振り返ると、ユスティン副騎士団長達は再び周囲を注意を向けるように見回し始め、俺達以外に誰の気配も無いと悟ると、ふうと息をついてから静かに口を開いた。
「……これで良いな。これからの話は極力内密にしたい物であり、他の誰かがいては困るところだったからな」
「内密にしたい話、ですか……?」
「ああ、その通りだ」
ユスティン副騎士団長は静かに頷きながら答えた後、ゴドウィンの方へと顔を向け、しばらくゴドウィンの姿を眺めてから再び口を開いた。
「この宝石竜――ゴドウィンは、あの試験の際に偶然出会ったところを相棒にした、と言っていたな?」
「はい、そうですけど……それがどうかしま――」
「アレは……嘘、なんだろう?」
「え……?」
そのユスティン副騎士団長の言葉に疑問の声を上げていると、ユスティン副騎士団長は俺達に冷たい視線を向けた。
「本来、宝石竜は山の奥深くにある宝石竜のみが棲む里のような場所にいるもの。しかし最近、そこの1つの近くで宝石竜を狙うハンター共が発見されたとの報告があり、そこに棲んでいた宝石竜は散らばって逃げ出したとの事だった。ファルコ・シュミット、ゴドウィンは逃げる事が出来た内の1体なのだろう?」
「…………」
「……ならば、その沈黙は肯定と見なそう。さて、次の話に移るが……ファルコ・シュミット、お前はゴドウィンと共に昼食後にどこかへ行っているようだが、アレは外れにある洞窟へと行っているのだろう?」
「……ええ」
ユスティン副騎士団長の言葉に返事をしながら、俺はこっそりと言葉符を取りだす準備を始めた。しかし――。
「……やはり、そうだったか」
ユスティン副騎士団長は、俺の答えに少し安心した様子を見せると、さっきまで向けていた冷たい視線を少しだけ和らげた。俺はその様子に疑問を抱きながらも、言葉符を取りだす準備を止めずにユスティン副騎士団長に話し掛けた。
「つまり、あの時洞窟の入り口にいたのは、本当にユスティン副騎士団長だったわけですね……?」
「……ほう、気付いていたのか?」
「この際だから正直に言いますが、俺にはちょっとした仲間がいるので、ゴドウィンがあそこで昼寝をしている間にその仲間に見張っていてもらったんです。あの洞窟は逃げてきたゴドウィンが、住み処兼友達との遊び場にしている場所ですから」
「……なるほどな。つまり、本当はあの洞窟でゴドウィンに出会い、話をした上で仲間にしたという事か」
「はい。ゴドウィン達――宝石竜の事は知っていましたし、ゴドウィンの友達やゴドウィンと話した事でゴドウィンが争い事を好かない事は分かっていましたから、竜騎士の相棒になるという事がどういう事かはしっかりと話をしました。けれど、ゴドウィン自身は自分が竜騎士の相棒として活躍する事で、今もどこかに隠れている里の仲間達が安心してくれると考えて、俺の相棒になってくれると言ってくれたんです」
「……なるほど、里の仲間を安心させるため、か……」
俺の答えを聞き、ユスティン副騎士団長は顎に手を当てながら呟くような声でそう言った後、再び俺達の事を静かに見つめ始めた。そして心から安心した様子を見せると、警戒や敵意が完全に消えた視線を向けながら再び口を開いた。
「……ファルコ・シュミット、お前の事を信用するとしよう。すまなかったな、ここまで信用できると分かるまでは、少々話し辛い事があったのでな」
「話し辛い事……ですか?」
「ああ。そしてその話し辛い事というのが、ゴドウィン達宝石竜についてだ」
ユスティン副騎士団長はゴドウィンの方へ視線を向けると、小さく微笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「まだ小さかった頃、俺には宝石竜の友達がいた。ゴドウィンは翠玉型のようだが、俺の友達だった奴は
その瞬間、ユスティン副騎士団長は心から悔しさを感じている様子を見せた後、拳を固く握りながら話を続けた。
「ある日、ロート達が棲んでいた宝石竜の里は、宝石竜を狙うハンター達に襲われ、ロートを含めた里の宝石竜達は全員が殺された。そしてそれを俺や故郷の実力者達が知ったのは、ハンター達がまんまと逃げ果せてからだったため、誰1人捕らえる事は出来なかった……!」
「そんな事が……」
「その日から、俺の心にはロートの鱗のような紅い怒りの炎が灯り、いつか宝石竜を狙うあの悪党共を全て捕らえてやろうという目標が出来た。そして叶える一環として、俺はこのリント王国にある竜騎士団の門を叩き、竜騎士になると同時にこのフィーラと出会ったんだ」
「つまり……ユスティン副騎士団長も入団試験を受けた時にフィーラと出会ったという事ですか?」
「いや、俺達の時は剣術や槍術などの武術や簡単な魔術の力を見る実技試験や筆記試験だった上、フィーラは元々リント竜騎士団が育てていた氷竜だ。そしてあの試験を執り行ったのは、今回が初めてなんだ」
「……え、そうなんですか?」
「ああ。なので、あの時は俺も少々面食らったが、お前がゴドウィンを連れ帰った時のダーフィット騎士団長の様子を見て、今回の試験を執り行った理由が分かった気がする」
「……その理由、とは……?」
「それは――」
ユスティン副騎士団長が理由を話そうとしたその時、周囲から突然何者かの気配がし、俺とユスティン副騎士団長は注意深く辺りを見回した。
……なるほど、そういう事か。
ユスティン副騎士団長が話す前にその理由を何となく察していると、ユスティン副騎士団長はこそっとした声で話し掛けてきた。
「……宝石竜は他の竜とは違って生まれつき強い力を持つため、生まれてからすぐに話をする事が出来る。つまり、ハンター共は宝石竜の鱗を装飾品としてだけではなく、鱗に宿る魔力も利用するために狙っている。お前ならば問題は無いだろうが、注意だけは払っておけ。特にダーフィット騎士団長や俺を除いたリント竜騎士団に前から所属していた団員にはな」
「……分かりました」
俺が頷きながら答えると、ユスティン副騎士団長はそれに応えるように頷き返し、そのままフィーラと一緒に広場を去っていった。するとゴドウィンがとても不安そうな表情を浮かべながら、震えた声で話し掛けてきた。
『ファルコ……僕、ちょっと怖いな……』
「大丈夫だよ、ゴドウィン。さっきも言ったけど、俺にはちょっとした仲間がいるから、とりあえず今日の所はソイツらにお前の事を見守ってもらう事にするよ」
『う、うん……分かった』
「よし……それじゃあそろそろ行こうぜ、ゴドウィン。早くしないと夕飯に遅れちまうからな」
『……うん、そうだね』
ゴドウィンはニコリと笑いながら答えたが、その表情にはまだ怯えや恐怖といった感情が静かに浮かんでいた。その様子を見ながら俺はさっきのユスティン副騎士団長の言葉を思い出していた。
……ダーフィット騎士団長に気をつけろ、か。ユスティン副騎士団長の事はどうやら信用出来るみたいだけど、ダーフィット騎士団長が『風神』の候補である以上、俺から近付く事とかちょっとした仕掛けも考えておいた方が良さそうだな。
そんな事を考えながら俺はゴドウィンと一緒に広場を後にした。
その日の夜、俺は自室で式神達の報告を聞いた後、式神達にゴドウィンの警護を頼み、1人でここからの動きについて頭の中で軽くおさらいをしていた。
式神達の報告とここまでの情報から誰が『風神』なのかは分かったし、今回の戯曲の脚本も軽くは完成した。だから後は、ベストエンディングを迎えるためにやる事をやるだけだ。そしてたぶんそれは――。
その時、俺の部屋のドアが軽く2回ほどノックされ、俺は1人でニヤリと笑った。
……どうやら、お呼びが掛かったみたいだ。なら、俺はその前にやるべき事をやっておくかな。
俺は言葉符を2枚取り出しながらドアの向こうに声を掛けた。
「はい、ちょっと待ってて下さいね」
そしてドアへ向かって歩きながら俺は『言葉を司る能力』を行使した。
「集音機創造、対象は『集音』の言葉符。そして放送塔創造、対象は『放送』の言葉符」
すると、その言葉と同時に2枚の言葉符は光に包まれ、1枚はそのまま消える中、もう1枚は小さな集音機へと変わると、俺の服の裏に独りでに貼り付いた。
……さあ、始めようか。1人の竜騎士が魅せる最高の舞台という物を……。
そう語りかけるように心の中で呟きながら『ファルコ・シュミット』から『千歳戒人』へと意識を切り替えた後、俺はドアを静かに押し開けた。するとそこには誰もおらず、俺は不思議そうな様子を装いながら1歩前へと踏み出した。その時――。
「……ぐっ!?」
バチリという音が聞こえたかと思うと、首筋に鈍い痛みが走り、俺の体はグラリと揺れながらその場に倒れ込んだ。
……はは、なるほど。そういう形で連れて行くのか。なら、来てくれた奴を……タクシーみたいに考えて、連れていってもらう……とする、か……。
周囲に何人もの気配を感じる中、俺の意識は静かに沈んでいった。
政実「第10話、いかがでしたでしょうか」
戒人「今回は珍しく襲われて終わったわけだけど、この展開を見るに次回で『風神』編は終わりみたいだな」
政実「そうだね。そして今回は『幸運』の時と違って、能力バトルになる予定だよ」
戒人「そっか。ただ、次回の投稿予定はいつも通りなんだろ?」
政実「そうなるね」
戒人「了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「ああ」
政実・戒人「それでは、また次回」