Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、戒人です。嵐の日の音ねぇ……色々な物が揺れ動く上、色々な音が一斉に聞こえるから好きって言う人はあまりいなそうだけどな」
政実「だろうね。でも、そういう音だけじゃなく、自然が奏でる強風と強い雨音の二重奏みたいな物を楽しもうと思えば、けっこう良いもんだよ。もっとも、色々と大変なのは変わらないから、あまり楽しめないけどね」
戒人「だろうな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、第11話をどうぞ」
「……ん」
背中に感じる固さと仄かな冷たさで意識が戻った後、俺はゆっくりと目を開けた。すると視界に入ってきたのは、簡素な石の天井だったため、俺は今いる場所がどこなのかを知るために体を起こそうとした。しかしさっき受けた不意討ちの影響なのか、首元が微かにヒリヒリとし、心なしか体も少しだけ痺れていたため、中々体を起こせずにいた。
……ちっ、このままだと何かあった時に不利だし、とっとと治しとくか。
心の中で小さく舌打ちをした後、俺は呟くような声で『言葉を司る能力』を行使した。
「……治癒、対象は俺」
すると首元のヒリヒリとした微かな痛みや体の痺れがスッと引いたため、俺は何とか体を起こす事が出来た。
「ふう……これで何とかなったな。それにしても――」
周囲を見回してみると、視界に入ってきたのは天井と同じように石で出来た簡素な壁や銀色の鉄格子だけだったため、ここが牢屋なのは間違いなかった。しかし――。
「……牢屋なんかどこにあったんだ? それに俺をわざわざ牢屋に入れた理由は一体何だ……?」
俺を襲った連中の狙いは、間違いなく
頭の中に次々浮かぶ謎について考えていたその時、コツコツコツという足音とチャリンチャリンという高い音がこちらへ向かって近付いてくるのが聞こえ、俺は考えるのを1度止めた。
足音……それとたぶん鍵の音だな。つまり――。
「……今度こそ『あの人』のところに行くのか。やれやれ、それなら別に最初から運んでくれても良かったのに……」
そんな事を独り言ちた後、俺は足音の主が目の前に来るのを静かに待ちながら何の気なしに服のポケットに手を入れた。するといつもそこに入れているはずの
……え、マジか。うわ……だいぶ面倒くさいな、それ……。
言葉符はそれ自体に力があるわけでは無く、あくまでもフェイクやカンペなどとして利用してる物のため、『言葉を司る能力』が無ければ本当にただの紙でしかない。しかし今のようにこの場に無いとなると、そういった手段に用いる事が出来ないため、『言葉を司る能力』を使う際に少々面倒くさいことになるのは間違いない。
『言葉を司る能力』は、声の大小は関係なく、その言葉を口に出していれば成立する能力だ。けれど、それがバレた瞬間に相手はすぐにでもそれを阻止しようと何かしらの手段を以て俺の口を塞ぎに来る。だからこそ、言葉符の存在は『言葉を司る能力』を使う上で必要不可欠と言えるんだが、1枚も無いって事は『あの人』はそれに気付いているという可能性があるな。
「……まさかとは思うけど、式神達がやられたのか……? アイツら、あんなに小さいなりしてるけど、1体で成人男性3人くらいなら相手に出来る力はあるはずなのに……」
式神達はとても小さいが、その体にはそれなりの力を秘めており、普段は偵察や諜報に専念してもらっている。しかし、それを邪魔する奴に対しては、その容姿に対応した術を用いて抵抗をする用に設定されている。そしてその力の強さなどは式神の大きさによるが、大きくするにはそれ相応の力を込める必要があり任せられる仕事も減ってしまうため、基本的には手のひらサイズにしている。
……ゴドウィンの事を任せたのは3体、つまり本当に強い相手じゃなければ、9人までなら相手を出来るはず。なのに、アイツらが負けたとすれば――。
「……この竜騎士団の団員数は、確か約20人程度。つまり、最低でもその半分近くは俺の敵であり、『言葉を司る能力』をあまり使えない状態でソイツらを相手取らないといけない、と……」
決して無理では無いけど、かなりキツい戦いになりそうだな。まあ、これくらいならまだ脚本を少し変えるだけで済みそうだし、大した事では無いんだけど、問題はゴドウィンの状況だよな……。
「……いっその事、今の内にゴドウィンのとこにでも――」
『言葉を司る能力』を用いてゴドウィンがいるであろう場所へと飛ぼうとしたその時、件の足音がすぐ近くまで来ていることに気付き、俺は直ぐに口を噤んだ。そしてそれから程なくして、謎の人物の影が徐々に見え始め、やがてその正体が明らかになった瞬間、俺は気持ちを落ち着けながらその人物に声を掛けた。
「……まさか、貴方自らが来てくれるとは思いませんでしたよ、『ダーフィッド騎士団長』」
「ははっ、そうかい? まあ、こういう事はしっかりとしないといけないから、こうして私自ら君に会いに来たんだよ、ファルコ」
ダーフィッド騎士団長の表情はとても穏やかだったが、その目は一切笑っておらず、とてもピリピリとした殺気を放っていた。
……返答次第では、俺の命を奪ってでもゴドウィンの事をどうにかするつもりみたいだな。まあ、答えなんて初めから決まってるけど、とりあえず今は『ファルコ・シュミット』としての反応を示しとくか。
そう考えた後、俺は『ファルコ・シュミット』という役に徹する事にし、ダーフィッド騎士団長の目を真正面から見つめ返しながら返事をした。
「こういう事、というのは……ゴドウィンの事ですよね?」
「まあね。だが、その話をするのはここでは無い。他にも客を待たせているから、まずはそちらに移動するとしよう」
「……分かりました」
俺が静かに答えると、ダーフィッド騎士団長は腰に付けていた鍵束から一本を外し、それを使って俺の牢屋の鍵を開けた。俺は警戒をしながら牢屋を出たが、ダーフィッド騎士団長は俺に一切手出しをしてこなかったため、少しだけ警戒を解きつつダーフィッド騎士団長の隣に立った。そしてそのままダーフィッド騎士団長の後に続いて、俺は階段をゆっくりと上がっていった。
それにしても……本当にどうして俺を1度牢屋に入れたんだ……?
その事がふと気になっていると、ダーフィッド騎士団長はニヤリと笑いながら俺に話し掛けてきた。
「君の事を牢屋に入れた理由、そんなに気になるのかい?」
「……ええ、まあ」
「簡単なことだよ。君の事を牢屋に入れておかないと、非常に危険だからだ」
「へえ……一応、俺が危険な奴だという風には思ってるんですね」
「ははっ、まあね。あの宝石竜――ゴドウィンにあんな奇妙な護衛を付けられる辺り、妙な術を会得しているのはハッキリと分かる。だから、あの護衛を倒した後に残った紙と同じ物を君が持っていないかを探り、それを回収した上で君の事を牢屋に入れたんだ。もっとも、理由は他にもあるがね」
「他の理由……ですか?」
「ああ。君を隔離してその情報を流す事で、ある人物を罠に誘い込みたかったんだよ。そしてそれはまんまと成功した上、君からは妙な術の元になる紙は回収している。これで私の事を止められる者はこの場には1人もいない」
「……そうかもしれませんね」
自分の企みが上手く行っている事でダーフィッド騎士団長が悦に入っている中、俺は暗い気持ちでいる様を演じながら静かに答えた。
……確かに『ここ』にはいないかもしれないな。
そんな事を思いながらダーフィッド騎士団長の後に続いて歩き、長かった階段を上がり終えた瞬間、目に入ってきた光景に俺は思わず驚きの声を上げた。
「ここって……宿舎のエントランスか……?」
「その通りだ。君が入っていた牢屋は、今のリント王国の国王がまだ1人の騎士だった頃に出来た物でね、ここも元はただの騎士団宿舎だったのだよ」
「国王が元は1人の騎士だった……?」
「ああ。どうやら国王は、その時の姫君と身分違いの恋に落ちていたらしいんだが、その武勇と人徳の甲斐もあって当時の国王を始めとした様々な者達から祝福された結果、今に至るみたいだ」
「そんな事が……」
「ああ。……それにあの人は、国王となった今でも訓練を欠かさずに続けているのだという。こんな事をしておいてなんだが、国王には本当に頭が下がる思いだよ」
「そうですね……」
そっか……国王にはそんな過去があったのか。正直、その武勇とやらをお目に掛かりたいとこだけど、それは他の演者次第になるかな……。
そんな事を考えていた時、俺はふとある事に気付いた。
「……そういえば、宿舎内がやけに静かですよね?」
「ああ、ここにいるのは私達だけだからね。私の『部下』達は、皆が件の客と一緒にいるし、他の騎士達には遠征を兼ねた訓練の指示を出しているから、私の計画を邪魔できる者はまずいない」
「……因みにその『部下』というのは、何人くらいなんですか?」
「君と件の客、それと新しく入った騎士を除いた全員だよ。つまり、この騎士団の8割程度は私の『部下』という事になる」
「……やっぱりか」
つまり、ユスティン副騎士団長の考えは当たってた事になるな。やれやれ……ますます面倒くさい事になったもんだな……。
そう思いながらこっそり溜息をついていた時、外の方から誰かが走ってくる音が聞こえ、俺達は同時にそちらへ視線を向けた。そしてそれから程なくして、1人の騎士が宿舎内へと入り、ダーフィッド騎士団長の目の前でピタッと止まると、真剣な表情を浮かべながら話し掛けた。
「団長、城下町に何やら不思議な物が建っているとの報告がありました」
「不思議な物……?」
「はい。ぱっと見は鉄で出来た塔のような物なのですが、頂上には丸い物が2つほど付いているという奇っ怪な形をしておりまして、竜の炎を浴びせてみたのですが、全く壊れる様子が無いのです」
「そうか……王宮の方はどうだ?」
「あの奇っ怪な物の正体が分からないため、手を拱いている状態です。ですが、国王が興味を持っているようで、すぐに自ら調査に赴く物と思われます」
「……厄介だな。まあ良い、とりあえずそれについては調査を続けろ」
「畏まりました」
騎士はビシッとした敬礼をしながら答えた後、急いで宿舎を出ていった。そしてそれからすぐにダーフィッド騎士団長が俺に話し掛けてきた。
「ファルコ、これは君の仕業かね?」
「さあ……どうでしょう? まあ、たとえ俺の仕業だとしても、件の物体自体は貴方の『部下』や城下町の人達、王宮の人達が見ている状態ですし、俺はこの通り魔術以外の術を使えない状態にある。だったら今は、その事を変に考えるよりも、俺やゴドウィンの事について考えた方が得策だと思いますよ?」
「……そうだな。だが、変な真似をしようものなら、あの宝石竜の命は無い物と思えよ?」
「分かっています」
俺が頷きながら答えると、ダーフィッド騎士団長は少しだけ不審そうな視線を向けていたが、すぐに宿舎の外へと視線を移し、そのまま静かに歩き始めた。そして俺は、それに続いて歩きながらこっそり『言葉を司る能力』を行使した。
「集音機並びに放送塔起動。集音機は集音範囲を最大にして放送塔へ送信、放送塔は放送音量を大にして放送」
それを言い終えた後、俺はこれから始まる次の場面へと気持ちを切り替えるべく、ルーティンである深呼吸を行った。そして『千歳戒人』から『ファルコ・シュミット』ヘと気持ちが切り替わった事を確認していると、ダーフィッド騎士団長は『ある場所』でピタリと足を止めた。するとそこにいたある人物が、弾かれたように俺達の方へと向き、大きな声を上げた。
「ファルコ・シュミット! 無事だったのか!」
「ええ、何とか無事ですよ、ユスティン副騎士団長」
縄で縛られたままのその人物――ユスティン副騎士団長は、俺の返事にとても安心した様子でふうと息をついた。そして今度は、ダーフィッド騎士団長の方へ視線を向けると、怒りで声を震わせながらダーフィッド騎士団長に話し掛けた。
「騎士団長……貴方は自分が何をしているのか分かっているのですか……!」
「分かっているよ、ユスティン。私の部下の力を借りて、宝石竜・翠玉型を狩ろうとしている。ただそれだけの話だが?」
「ただそれだけの話……だと!? 誇り高きリント王国の竜騎士団の騎士団長たる者が、宝石竜を狩るなど言語道断だろう!?」
「そうかね? 君も知っての通り、宝石竜の鱗などは鎧や兜の良い素材となる。だから私は、それをただ採ろうとしているだけなんだよ。あそこまで素晴らしい輝きを放つ鱗を備えた宝石竜は、中々お目に掛かれないからねぇ……」
「……ふざけた事を言うなぁっ!!」
ユスティン副騎士団長は、怒りを露わにしながら立ち上がり、どうにか縄を解こうとしたが、結び目が思っていたよりも固かったためか、すぐに解ける様子が無かった。そしてその様子を見て、ダーフィッド騎士団長は虫唾が走るほどとても嫌らしい笑みを浮かべながらユスティン副騎士団長に声を掛けた。
「おやおや……どうやら力が上手く入らないみたいだなぁ? まあ無理もない、ここに連れてくるまで結構苦労させられたものなぁ……?」
「ぐっ……!」
「流石に
その言葉を聞いた瞬間、ユスティン副騎士団長はハッとした表情を浮かべながら怒りに満ちた視線をダーフィッド騎士団長へと向けた。
「貴様……まさか……!」
「お察しの通りだとも。君を気絶させて捕らえた後、フィーラの相手は2組の竜騎士達に任せてきた。まあ、すぐにはフィーラも負けはしないだろう。ただし……彼女はゴドウィンを守りながら戦っているから、そう長くは保たないと思うがね?」
「ダーフィッド……! 貴様という奴はぁっ!!」
ユスティン副騎士団長は、残った力を振り絞りながら再び縄を解こうとしたが、縄が解ける様子は無く、ユスティン副騎士団長は悔しさを滲ませながらその場に崩れ落ちるような形で座り込んだ。
……マズいな、ゴドウィンは非常に繊細な奴だ。もし、フィーラが死ぬような事があったら、間違いなく俺以外の手には負えなくなる。これは予定を変更してでも早くゴドウィンのところに――。
そう思いながらこっそり『言葉を司る能力』を行使しようとしたその時、ダーフィッド騎士団長はニヤニヤと笑いながら俺に話し掛けてきた。
「さて、ファルコ。ここで君に質問がある」
「……何でしょうか?」
「見ての通り、今の状況は明らかに私達の方が有利だ。たとえ君がユスティンの縄をどうにか解いたところで、結局は私達に倒され、君の命とあの宝石竜を失う事になる。だが、もしあの宝石竜を私に差し出すと言うのなら、君の命だけは助けてやろうと思うが、いかがかね?」
「……つまり、命が惜しければゴドウィンを犠牲にしろ、と?」
「そういう事だ。自分の命と他者の命、どちらが大事なのかは言うまでもないだろう?」
ダーフィッド騎士団長が妖しい笑みを浮かべる中、ユスティン副騎士団長は必死な様子で俺に話し掛けてきた。
「ファルコ! ダーフィッドの言葉に耳を貸すな! 俺の事は良いから、ゴドウィンのところに行け!」
「ユスティン副騎士団長……」
……まあ、それも1つの手だし、とりあえずそれに1度従ってみるか。
そう思いながらこっそり後退ろうとしたその時、後ろから静かな殺気を感じると同時に声の主が俺に話し掛けてきた。
『……逃がすと思ったのか?』
「……ラルゴ、か」
声の主――炎竜のラルゴの方へ振り向くと、ラルゴはいつになく冷たい視線を俺に向けながら、いつでも俺に襲いかかれるように身構えていた。
まさに前門の虎後門の狼ってとこか。まあ、あくまでも出来るならやりたかった事っていうだけだったし、ここは脚本通りにこの舞台を進めていくか。
ふうと息をつきながら次の場面へ向けての気持ちを作った後、俺は再びダーフィッド騎士団長の方へと顔を向けた。
「ダーフィッド騎士団長、俺の気持ちはもう決まってますよ」
「ほう……では聞こう。ファルコ、君はどちらの道を選ぶ?」
「俺は――」
俺はそこで1度言葉を切った後、早口でこっそりと『言葉を司る能力』を行使した。
「……防音、範囲はリント竜騎士団宿舎並びに広場。そして放送塔、放送音量を最大に変更」
そしてそれが終わった後、あたかも重大な決断だったために1度言葉を切ったかのような表情を浮かべながら言葉を続けた。
「俺はゴドウィンを助ける。貴方達全員を倒し、ユスティン副騎士団長を助けた上で」
「……その決断に後悔はしないんだな?」
「後悔? ははっ、するわけ無いでしょう? 何せ――」
俺はここで『ファルコ・シュミット』から元の『千歳戒人』へ気持ちを変えるため、1度深呼吸をしてからニヤリと笑った。
「自分達にちょっと有利な状況が出来ただけで調子に乗る騎士団長とその相棒やら長いものに巻かれるだけの腰抜け騎士達に俺が負けるわけがないので」
「……何だと?」
『貴様……!』
俺の言葉にダーフィッド騎士団長を始めとした敵達が殺気立つ中、俺は余裕綽々な様子を演じながら再び『台詞』を口にした。
「あれ……怒りました? まあ、そうでしょうねぇ……まるっきり事実な上、自分達よりも弱いと考えている奴からそんな事を言われては腹も立ちますよねぇ……? もっとも、こんなお山の大将如きに従ってるようじゃ、その実力もたかが知れますけどね」
クスクスと笑いながら更に『台詞』を口にすると、周囲から感じていた殺気が更に高まり、空気は一触即発の状態へと変わった。
さて……そろそろ大丈夫そうだし、最後にこの台詞でも言っとくか。
周囲の状況からそう判断した後、俺は次の場面へと繋がる『台詞』を口にした。
「そんなに悔しいならどうぞ掛かってきて下さい。まあ、俺に勝てるという自信があるならですけどね?」
「き、貴様ぁっ……!!」
「てめぇ……いい加減にしやがれ……!!」
怒りを孕んだ声を上げながら何人かの騎士が俺に向かって歩いてきたが、
「……下がってろ、お前達」
ダーフィッド騎士団長は凛とした声でそれを制止した。すると騎士達は俺に向かって殺意が籠もった視線を向けながらもその言葉に従い、元いた場所へと静かに戻った。そしてそれを確認した後、ダーフィッド騎士団長は俺の後ろにいるラルゴに声を掛けた。
「ラルゴ、出番だ」
『うむ』
ラルゴは落ち着いた声で答えると、俺の横をスッとすり抜け、そのままダーフィッド騎士団長の横へと立った後、ダーフィッド騎士団長はラルゴの背に乗った。
……ここまでは計画通りだな。後は、ダーフィッド騎士団長達と戦うだけだし、頃合いを見てユスティン副騎士団長を縛ってる縄を切って、ゴドウィンのところに行かないとな。
そして今の場面に気持ちを集中させていると、ダーフィッド騎士団長達がとても冷たい声で話し掛けてきた。
「ファルコ・シュミット……ここまで私達を愚弄した事、今に後悔させてやる……!」
『騎士見習い風情が調子に乗った事、それがどれだけ愚かな事なのかをその身に教え込んでくれる……!』
「……さいですか。まあ、貴方達程度の相手なら武器も要らないですし、特に動く必要もないので、勝手に掛かってきて下さい」
「そうか……ならば、その言葉に甘えさせてもらうぞっ……!!」
そう言うと、ダーフィッド騎士団長達は怒りを露わにしながら俺に向かって走り掛かってきた。
……さて、使える能力もそこそこ限られてるし、『あの能力』だけで戦うとしますかね。見方を変えれば俺の能力の中でも最強の部類を誇るアレ、で。
そして俺は、向かってくるダーフィッド騎士団長達をしっかりと視界に捉えながら『とある能力』を行使した。すると――。
「……ぐっ!?」
『……あぐっ!?』
ダーフィッド騎士団長達は急に苦しそうな声を上げ、ラルゴが勢い良く転ぶと同時にダーフィッド騎士団長は強く地面へと叩きつけられた。
あー、ありゃあ本当ならかなり痛いよなぁ……。 鎧を着てるからまだマシだろうけど……。
そんな事を思いながらボーッとしていると、ダーフィッド騎士団長は頭を抑えながらヨロヨロと立ち上がった。
「う……今のは一体……?」
「あははっ、無様ですねぇ……。さっきまでの威勢はどうしたんですかぁ……?」
「……ファルコ、貴様の仕業かぁ……!!」
「それ以外にあります? まあ、貴方達が俺に立ち向かってくる限り、貴方達は俺に勝てませんけどね?」
「ふ、ふざけるなぁ……!!」
冷静さを失ったダーフィッド騎士団長は、俺の挑発にまんまと乗り、怒りを孕んだ声を上げながら手に持った槍を縦に構えた。
「風の魔力よ……雄々しく荒れ狂い、我らが仇敵に罰を与えよ……!! 『
そして槍の穂先を俺に向けた途端、幾つもの風の刃が俺に向けて放たれ、それと同時にダーフィッド騎士団長は、槍を俺に向かって構えながら再び俺に向かって走り出した。
やれやれ……中々面白い攻め方だとは思うけど、今の俺に対してそれは愚策なんだよなぁ……。
俺は向かってくる風の刃を視界に捉えながら、『逆転を司る能力』を行使した。すると風の刃達は、急に跳ぶ方向を変えたかと思うと、そのままダーフィッド騎士団長へ向かって飛んでいった。
「なっ!?」
その様子にダーフィッド騎士団長は、信じられないといった様子で声を上げたが、すぐに手に持った槍で次々と風の刃を薙ぎ払った。しかし、魔力を無駄に消費した事、そして風の刃を薙ぎ払うために体力を消費した事でダーフィッド騎士団長は槍を手に持ちながら息を切らし始めた。
へえ……反応速度はやっぱり早いみたいだな。
「お見事。流石は『
息を切らしながら俺の事を真正面から見つめるダーフィッド騎士団長に対して、軽く拍手をしながらそう声を掛けると、ダーフィッド騎士団長はギラギラとした目で俺に話し掛けてきた。
「貴様……あの紙が無ければ、妙な術が使えないんじゃなかったのか……!?」
「あはは、確かに言いましたね。ただし、今使っているのはアレを使う必要がないものです。なので、こうやって殆ど動かずにあなた方の相手が出来るというわけです」
「くっ……
「姑息……ねぇ。まあ、初見じゃあ見破れない辺り、そう言われても仕方ないのかな?」
とても怒りと悔しさを含んだ声を上げるダーフィッド騎士団長に対し、俺はニヤリと笑いながらそう独り言ちた。俺が使っているのは、『逆転を司る能力』という能力であり、この能力は他の能力に比べて汎用性は劣るものの、能力自体は実に強力だ。この能力はその名の通り、様々な物を『逆転』させる事が出来、その範囲は生物の腕力や頭脳といった身体的な能力、物体が持つ温度の変化や沸騰や冷却などの化学変化、果ては
まあ、相手はかなり選ぶけど、今みたいにしっかりとハマればほぼ最強と言える能力なんだよな。相手が冷静さを欠き、常に真正面から攻めてくるというこの状況なら……な。
そう思いながら俺はダーフィッド騎士団長達に対してニヤリと笑った。
その頃、リント竜騎士団竜舎付近では、副騎士団長ユスティンの相棒――氷竜のフィーラが、宝石竜・翠玉型のゴドウィンを守りつつ騎士団長であるダーフィッドの『部下』達を相手に善戦していた。
『はぁっ、はぁっ……くっ、やっぱり相手の数が多すぎる……!』
『フィーラさん、もう逃げた方が良いよ……! 必死になって逃げれば、ファルコ達の所に行けるはず。だから――』
『いえ、たぶん無理よ……。ファルコはもちろん、ユスティンさんも捕まってるから、今すぐに合流しようものならきっと一網打尽にされてしまうわ……!』
『そ、そんな……』
悲観的なフィーラの表情にゴドウィンが哀しみを孕んだ声を上げると、ダーフィッドの『部下』達はそれぞれの竜の背に乗ったままニヤニヤと笑いながらフィーラ達へジリジリと近付いた。
「もう諦めちまえよ、お前達」
「そうだ、あっちには団長とラルゴに加えて、他の団員達だっている。いくらユスティン副騎士団長が強くとも、この状況じゃあどうにもならねぇよ」
『くっ……でも、私は諦めるわけにはいかないのよ……! ユスティンさんに約束した以上、この命を賭してでもゴドウィンの事は絶対に守ってみせるわ……!』
『おーおー、威勢だけは良いなぁ、フィーラ』
『だが、お前だってもう満身創痍な上、ゴドウィンは自分の魔力すら満足に操れない落ちこぼれだ』
「そんな状況で勝とうなんて無理だよ、無理」
「さっさと諦めて、ゴドウィンを俺達に渡した方が身のためだぜ?」
『部下』達はフィーラの心を折ろうと様々な言葉を掛け、その言葉はフィーラの頭の中をグルグルと回り始めた。しかし――。
『……ふざけないで、私は決して諦めない。どんなに辛い状況が降りかかろうと、どんなに言葉を掛けられようと、私の決意は決して揺るがないわ!』
フィーラは己の中に残る氷の魔力を振り絞りながら大きな声を上げ、後ろにいるゴドウィンを必死に守るべく、詠唱を開始した。
『……数多を凍てつかせる
しかし、それよりも先に『部下』達が動き出し、一斉にフィーラヘと己の得物を振り翳した。
「そぉーらよっ!!」
『ぐぅっ……!』
「詠唱なんざさせねぇよっ!」
『あぐっ……!』
『あははっ! 無残に散れよ、愚か者!』
『うぅっ……!!』
『バイバーイ、残念な氷竜さんっ!』
『あぁっ……!!』
フィーラに次々と襲いかかる槍や爪の一撃、そしてかつての仲間達から掛けられる非情な言葉。それらはフィーラの心身を酷く傷つけていったが、フィーラはそれには一切屈せず、ひたすらゴドウィンを守るために立ち続けた。しかし当のゴドウィンは、フィーラが傷つきながら様々な言葉をぶつけられる様に酷く心を痛め、目に涙を溜めながらかつての仲間達に声を掛けた。
『もう止めてよ、皆……!! 何で皆が傷つけ合わないといけないの……!?』
「うるせえな、落ちこぼれ風情がよぉ……!」
「元はと言えば、お前のせいなんだぜ?」
『……え』
『あー……そういえばそうかも。お前が宝石竜だったから、ダーフィッド騎士団長がお前を奪うために行動を起こしたわけだしな』
『そうそう。ダーフィッド騎士団長は、元から宝石竜を狙うハンターと繋がっていたけど、宝石竜が近くにいなかったら、絶対に行動を起こさなかっただろうし』
その言葉は、決して嘘ではなかったが、確証はない言葉だった。しかし――。
『僕が……宝石竜だったから、皆がこんなに傷ついたり傷つけ合ったりしている……? 僕が、僕なんかがここにいるから……?』
精神が弱っていたゴドウィンには、その言葉は鋭い刃のように突き刺さり、徐々にゴドウィンの中では自分――宝石竜の存在に対しての嫌悪感のような物が渦巻き始めた。
『……それじゃあ、僕がいなくなれば、皆は争わなくて済むんだ……』
「ああ、そうだ。お前が早く俺達に従えば、これ以上フィーラが傷つかなくて済むし、お前の相棒だって自由の身になるんだ」
『僕が……従えば……』
「だから早く俺達と一緒に来い、素材」
『僕は……素材……? 竜の形をした……ただの……そざ、い……?』
ゴドウィンの精神は、仲間達の争いやフィーラの傷付いた姿などによって、今にも壊れそうになっていた。そのため、それをどうにか出来ると言える手段――己の犠牲という最後の手段が目の前にある事が、非情に魅力的であり、徐々にそれこそが本当に正しい選択なのだという気持ちになっていた。
『行かな……きゃ、ボク……が、行けば……みんなが、笑顔に……』
そして輝きを失った眼差しをかつての仲間達に向けながら徐々に歩き出したその時だった――。
『……ふざけないでよ!!』
そのフィーラの一喝にゴドウィンは歩みを止め、クルリと振り返った。
『フィー……ラ……?』
『貴方が素材? 貴方が従えば皆が助かる? そんなわけないでしょ!?』
『……うう、ん……助かる、よ……?』
『ゴドウィン、目を覚まして! 貴方は決して素材なんかじゃない! 貴方は宝石竜・翠玉型のゴドウィン! どこかにいる仲間達に安心してもらうために勇気を出して竜騎士の相棒になった立派な宝石竜なのよ……!』
涙交じりに心からの言葉をぶつけるフィーラに対し、ゴドウィンは小さく首を傾げた。
『フィーラ……泣いてる、の……?』
『当たり前じゃない! 貴方は私達の大切な仲間なのよ!』
『なか……ま? 素材じゃなくて……仲間……?』
『そうよ! だから……目を覚ましてよ、ゴドウィン……!!』
『フィー……ラ』
フィーラの口から出た魂の籠もった言葉に、ゴドウィンの目に微かに輝きが戻ったその時、竜騎士達は忌々しそうな様子でフィーラヘと視線を向けた。
「ちっ……死に損ないの氷竜が……!」
「これはとどめを刺してやらないといけないみたいだなぁ……!」
そして己の竜に乗って竜騎士達が静かに距離を詰め始めた時、ゴドウィンは彼らに向かって必死に声を掛けた。
『や、止めてよ……! 何でも従うから、フィーラをこれ以上――』
「うるせぇ!」
『ひうっ!?』
「コイツはなぁ……とどめを刺さねぇといけねぇ奴なんだよ」
「てめぇみたいな魔力も満足に使えねぇ奴は、ブルブル震えながらそのまま引っ込んでろ!」
『そ、そんな……』
恐怖、不安、そして罪悪感。これらの感情は、ゴドウィンの中でグルグルと渦巻き、現在の状況を変えられない自分自身を責める言葉へと姿を変え、弱り切っていたゴドウィンの精神を更に傷つけていった。
『役立たずの
『ち、違う……!』
『臆病なろくでなし』
『違う……僕はそんな奴になったつもりは……!』
頭の中に反響する自分を
『何も出来ない無力なガキ』
その言葉が頭の中に響いた瞬間、ゴドウィンの中に眠っていた『何か』がドクンと脈打った。そして『それ』が発した脈動は徐々に大きくなり、完全に目覚めた瞬間、ゴドウィンの感情に反応しながらゴドウィンの中を巡り始めた。
『……チガウ』
「……あ?」
ゴドウィンから発せられた感情の無い言葉に竜騎士の1人は声を上げながら静かに振り向いた。そしてその瞬間、ゴドウィンは怒りや憎しみ、拒絶や殺意といった様々な感情が混ざり合った視線を向けた。
『オマエタチナンカニ、ボクハ……マケナイ』
「は……? お前、何を言っ――」
『ボクハ、ツヨイ……ヨワクナンカ、ナイ……!』
ゴドウィンがそう言葉を発したその時、ゴドウィンの周囲に強大な風の魔力が発生し、それは徐々に大きくなりながらゴドウィンを中心に渦巻き始めると、やがてゴドウィンの姿は巨大な竜巻の中へと消えていった。
「おいおい……何なんだよ、これ……!」
「分からない……けど、とりあえず団長達に連絡を――」
突然出現した竜巻に、竜騎士達が1度撤退をするべく踵を返そうとしたその時、突如竜巻の中から低く冷たい声が発せられた。
『ニガサナイ』
その瞬間、竜騎士達の周囲に突如風の魔力が発生すると、竜騎士達を囲い込むような形でグルグルと回り始めた。
「……ちっ、マズいな」
『ああ、これはもう上に飛んで逃げるしかねぇだろ』
「そうだな」
『それじゃあ、さっそ――』
そして竜騎士達が飛翔をし始めようとした次の瞬間、竜騎士達の周囲を回っていた風の魔力はその速さと強さを徐々に増していくと、やがてそれは大きな竜巻へと姿を変え、竜騎士達の事を覆いながら風の刃で襲いかかった。
「ぐ……ぐあぁっ!!」
「うぐぅっ!!?」
『ぐぎゃあぁーーっ!!』
『がっ……?!!』
竜騎士達を襲う風の刃は、その真剣のような鋭さで彼らの事を次々斬りつけ、その鋭さは徐々に増していった。そしてそれと同時に、竜騎士達の傷は瞬く間に増えていき、やがてその息も荒くなっていった。
「はぁっ、はぁっ……!」
「も、もう止めてく、れ……!!」
『これい、じょうはっ……!』
『さすが、に……死んじゃうって……!!』
竜騎士達は終わる事の無い風の刃の乱舞を受けながら、必死な様子でゴドウィンへ声を掛けた。しかし――。
『……ナラ、ソノママシンジャエバイイ。フィーラタチ、キズツケルヤツラニイキルカチナンテナイ』
ゴドウィンから返ってきたのは、竜騎士達の心を折るには充分過ぎるほど絶望的な言葉と風の刃の更なる猛撃だった。
「そ、そん……な……!」
「嫌……だ……!」
『まだ……死にたく……ない……!!』
『た、助け――』
その竜騎士の涙交じりの言葉も空しく、非情なる風の刃達は竜騎士達の首へ襲いかかると、獰猛な獣の牙を思わせるほど鋭い一撃を見舞うと、彼らの首からは多量の血が噴き出し、そのまま彼らは目に涙を溜めたまま、崩れ落ちるようにしながら事切れ、それと同時に彼らを覆っていた竜巻は徐々に姿を消していった。
『そ、そんな……』
一部始終を目撃していたフィーラは、あまりのショックと竜騎士達によって付けられた傷の痛みで上手く言葉を発せずにいた。そして竜巻の中からゴドウィンに視線を向けられた瞬間、フィーラは恐怖と疲れなどから気絶したが、ゴドウィンはそんなフィーラの事を傷付けるような事はせず、己の風の魔力を用いてフィーラを覆い隠すような形の簡易的な防壁を作り上げた。
『ダイジョウブダヨ、フィーラ。ボクガゼッタイニマモッテミセルカラ』
ゴドウィン――『
『モウダレニモキミノコトヲキズツケサセナイカラ……!!』
そして『風神』はそう言い放った後、己の風の魔力を巨大なドーム状に広げると、そのままリント王国全体を覆い始めた。
『ソシテ……ボクノチカラデワルイヤツラハミンナコワシテヤル……!!』
その『風神』の言葉と同時に、リント王国を覆っていた風の魔力は各地で大きな竜巻や局地的な嵐を発生させると、その場にある全てのモノに襲いかかり始めた。
「ちっ……! 当たれ! 当たれと言っているだろう!?」
『くそっ……ちょこまかと躱すんじゃない……!!』
「あははっ、そう言われて当たる奴がいるわけ無いでしょう?」
『逆転を司る能力』を使い始める事約十数分、俺はダーフィッド騎士団長とラルゴを相手に能力を駆使しながらひたすら攻撃を躱したり、挟撃を利用した同士討ちを仕掛けたりしていた。
……さて、そろそろゴドウィンのところに行きたいけど、まだ情報を引き出しきれてない気がするし、もう少しだけ言葉で煽ってみるか。
そう思った後、俺は服のポケットに手を入れながらダーフィッド騎士団長に声を掛けた。
「騎士団長にラルゴ、本気出して下さいよー? 正直、友達の魔物達の方がまだ強い気がしますよー?」
「魔物……だと? 魔物風情と私達を一緒にするなぁー!!」
『あの程度の奴らと私達を一緒にするなど……万死に値するぞ、ファルコ!!』
俺の言葉に対するダーフィッド騎士団長達の反応が、思っていたよりも怒りに満ちていたものだったため、俺は少し掘り下げるべく更に言葉を掛けた。
「あれ? 魔物はお嫌いでした?」
「当たり前だ! あの
『魔物なぞ私達ドラゴンに比べれば、取るに足らない下等な存在だ。そんな物と私達を比べるのは、私達に対する明らかな
「ふむ……そういう事か」
「国王はあの魔物達と人間の混成部隊を計画していらっしゃるようだが、あのようなモノ達と人間の混成部隊などあまりにも酔狂な考え過ぎる……! ああ、まったくもって嘆かわしい……!」
「人間と魔物の混成部隊……」
何それ、スゴく興味ある。……って、俺も似たようなもんだったか。
そんな事を思いながら小さく苦笑いを浮かべた後、俺は真剣な表情を浮かべながらラルゴの方へと顔を向けた。
「ラルゴ、スゴい今更なんだけど……同じ竜であるゴドウィンを狩る事に対して、気は引けないのか?」
『……私は、強いモノと戦えるならばそれで良い。ダーフィッドについていく事で、私は数多の戦場を駆ける事が出来る上、宝石竜を巡る戦にも参加が出来、幾人もの強者と戦う事が出来る。そのためならば、同じドラゴンの命を取る事になる事すら
「……そっか」
……まあ、これくらい話が聞けたら充分だな。後は適当に相手をしながら時が来るのを待つだけだけど……。
そう思いながら周囲の様子を探っていたその時、ふと背後から何者かの気配を感じ、俺は静かに振り返った。すると少し離れたところから誰かが走ってくるのが見え、俺はニヤリと笑った。
ふふ……やっぱり脚本通り事が運ぶのってスゴく気持ちが良いな。さぁて……それでは、そろそろ次の場面へと移ろうかな……!
そして俺は、考えているクライマックスへ向けてはやる気持ちを抑えながら『言葉を司る能力』を行使した。
「防音解除。そして回収、対象は言葉符」
すると――。
「なっ……! 何だこれは……!?」
突然ダーフィッド騎士団長が驚きの声を上げたため、俺はクルリと振り返った。そして目に入ってきたのは、俺から奪ったはずの言葉符が突如出現し、整列をしながら独りでに宙に浮いてる光景だった。
えーと、ひぃふぅみぃよぉ……うん、全部あるみたいだし、ちゃちゃっと帰ってきて貰うか。
言葉符の数をしっかりと数え終えた後、右手を前へと伸ばし、人差し指だけをピンと伸ばした。そして伸ばした人差し指をこちら側へ曲げると、言葉符達はそのまま俺の方へ向かって飛び、次々と俺の服のポケットへと入っていった。
「な……何なんだ、今のは……!?」
「バカな……あの紙は回収した後に私の部屋へと置いていたはずなのに……!?」
『言葉を司る能力』を目の当たりにし、ユスティン副騎士団長やダーフィッド騎士団長達がざわめく中、後ろから近付いてきていた騎士は俺の横をすり抜けると、ダーフィッド騎士団長の目の前でピタリと足を止め、息を切らしながら話を始めた。
「騎士団長……大変です……!」
「何だ! 今、それどころでは……!」
「あの謎の物体を調査していたところ、突如騎士団長達の声が頭上から聞こえ、その騎士団長の発言に怒りを覚えた民達、そして国王の私設部隊がここへと攻め寄ってきています……!」
「何だと!? 国王の私設部隊といえば、部隊に属する一人一人が他国の部隊1つを相手に出来ると言われている猛者揃いではないか!?」
「は、はい……! どうやら、国王もそれを聞いていたらしく、すぐに私設部隊の投入を決めたようです……!」
「何故だ……何故、私の声が聞こえるなど――」
心底追い詰められた様子でダーフィッド騎士団長がブツブツと言葉を発していたその時、突如ハッとした表情を浮かべたかと思うと、憎しみに満ちた目を俺へと向けてきた。
「まさか……お前の仕業か、ファルコ・シュミットッ……!!」
「That's right.あれは、俺の服の裏に付けている集音機が拾った音をそのまま流してくれる放送塔です。ほら……置いた場所から少し離れていますけど、放送音量は最大にしてるので耳を澄ませば聞こえてくるはずですよ? 放送塔が流してくれてる俺の声やここに向かっている人達の怒りの声とこれから貴方達に待っている裁きの足音が」
「ぐっ……! ま、まだだ! ユスティンを人質にすれば、アイツらも迂闊には――」
「ああ……その事ですけど、もう無理ですよ?」
「何だと……?」
ダーフィッド騎士団長が疑問の声を上げる中、俺はポケットの中から2枚の言葉符――『回復』と『切断』を取りだした。
「何故なら、俺には『これ』がありますからね。だから、ユスティン副騎士団長の疲れを完全に癒した上で縛っている縄を解く事も容易です。つまり、あの放送塔がある事を知った時点で俺の事をしっかりと疑い、その上であの放送塔を撤去させなかった貴方の完敗なんですよ。ダーフィッド騎士団長」
「ぐぐぅっ……!」
にやっと笑いながら言う俺の言葉にダーフィッド騎士団長は悔しさと憎らしさが入り交じった表情を浮かべる中、ラルゴは諦観した様子でふうと息をつき、『部下』達は完全に諦めきった様子で哀しげに項垂れた。
さて……これでこっちは良いけど、問題は『あっち』だよな……。
そう思いながら『あっち』――ゴドウィン達がいる竜舎の方に意識を向けたその時、ふと周辺の風がピタリと止んだ。しかし、それからすぐに空が厚い雲で覆われると同時に強風が吹き荒れ、俺達は問答無用でその風圧に耐える事になった。
「ぐっ……何なんだ、この風は……!」
「く……あまりにも、強すぎて……目を、開けていられない……!」
『バカな……ダーフィッドを超える風の魔力の持ち主などこの国にいるはずがない……!』
ダーフィッド騎士団長達は、吹き荒れる風に顔を顰めながら話をしていたが、俺は『事象の流れを司る能力』を行使しながら竜舎がある方を見つめた。するとそこには、巨大な竜巻が発生しており、この異常事態を引き起こしている存在――『風神』がそこにいる事を示していた。
……やっぱりアイツ――ゴドウィンが『風神』だったのか。こうなった以上、ゴドウィンとの戦闘は避けられないみたいだし、ささっと行ってやるのが相棒の務めだよな。
『風神』であるゴドウィンとの戦いの決意を固めた後、俺は手に持っていた言葉符を構えながら『言葉を司る能力』を行使した。
「回復、対象はユスティン副騎士団長の傷や疲労。そして切断、対象はユスティン副騎士団長を縛る縄」
そして横目でユスティン副騎士団長の傷が癒え、縄がバラバラになった事を確認した後、俺は『瞬間移動』の言葉符を手にしながらユスティン副騎士団長に声を掛けた。
「副騎士団長、後は頼みます」
「ファルコ……お前は本当に一体何者なんだ……?」
「……内緒です。とりあえず、貴方はこの国の人達をお願いします。俺は――相棒を止めに行ってきますので」
「……分かった。任せたぞ、ファルコ・シュミット」
「はい」
そして俺は、荒れ狂う嵐の中で『言葉を司る能力』を行使した。
「瞬間移動、移動位置はリント竜騎士団敷地内の竜舎」
そう言い終えると、俺の視界は一瞬暗闇に包まれたが、視界はすぐに開けた。そして目に飛び込んできたのは、風の防壁の中で眠る傷だらけのフィーラと血の海の中にある首を無残に切り裂かれたダーフィッド騎士団長の『部下』達とその相棒の竜達の死体、ゴドウィンが作り出したと思われる巨大な竜巻だった。
うーん……これはかなり厄介だな。恐らく、ゴドウィンはこの竜巻の中にいるんだろうし、死体がある事からアイツは自分の力に呑まれてるのは確定だからな……。この状態で無闇矢鱈に声を掛けても答えてくれるかすら怪しいところだし、とりあえずこの竜巻を何とかするところから始めるか……!
俺は数枚の言葉符を取り出した後、『言葉を司る能力』を巨大な竜巻へ向けて行使した。
「まずは雷撃、対象は眼前の竜巻! 続けて暴風、対象は眼前の竜巻! 更に火炎、対象は眼前の竜巻!」
その言葉と同時に『雷撃』の言葉符から放たれた雷が、ゴドウィンを覆い隠す竜巻と混ざり合う中、それを背後から追う形で暴風が吹き荒れながら竜巻へと強くぶつかり、『火炎』の言葉符から放たれた火炎が雷撃と同様に竜巻と混ざり合った。そして雷撃と火炎の力が、竜巻を構成する風の魔力とぶつかり合うと、竜巻はその表面で激しく火花を散らしながら大きく揺らぎ始めた。
……ちょっと――いや、かなり力業ではあるけど、とりあえず竜巻をどうにかしないといけないわけだし、ゴドウィンには悪いけどこれくらいは我慢してもらおう。
竜巻の中にいると思われるゴドウィンに対して、そんな事を思いながら竜巻の様子を観察していたその時、三位一体の攻撃を受け続けていた竜巻が突如大きな破裂音を立てながら消滅し、中から翼で体を隠したゴドウィンが姿を現した。
やれやれ……ようやく出てきたな、この引きこもりめ……。
そして俺は、そんな事を思いながらゴドウィンを引きずり出せた事による安心感を覚えつつゴドウィンへと声を掛けた。
「おーい、ゴドウィーン。大丈夫かー?」
『……コ、エ……?』
「俺だよ、俺。お前の相棒のファルコ・シュミットだよ」
『ファ……ル、コ……?』
ゴドウィンは抑揚のない声で俺の名前を口にすると、ゆっくりと翼を開きながら焦点の定まっていない暗い眼で俺の事を見つめ始めた。
ふう……後はゴドウィンが本当に我に返ってくれれば今回の『仕事』は完遂出来――。
迫るクライマックスへ向けて次の『台詞』を口にしようとしたその時、ゴドウィンの口からポツリと言葉が漏れた。
『……チガウ』
「……え?」
『ファルコハマダツカマッテル。ココニイルワケナイ』
「いやいやいや、俺は本物だって。よく見ろよ、ゴドウィ――」
『ウルサイ。ボクハタスケナイトイケナイ、ボクノタイセツナナカマタチヲ。ソレヲジャマスルナラ、イマスグキエロ』
俺に向かってそう言い放つと、ゴドウィンの周囲に幾つもの風の刃が出現し、ゴドウィンの咆哮を合図として俺に向かって飛んできた。
「……ちっ、こうなったら本気でやらないといけないみたいだな……!」
俺は風の刃を視界に収めた後、『逆転を司る能力』を行使してゴドウィンの方へと飛ばし返した。するとゴドウィンは、それに対して一切臆すること無く、再び翼を大きく広げた。そして翼の中に人のこぶし程の風の弾を出現させると、それを風の刃へ向けて放ち、その全てを相殺した。
……なるほど、ただ攻撃を返すだけじゃダメって事か。ならここは……!
俺はゴドウィンに対してニヤリと笑った後、味方となる存在を呼ぶために『召喚を司る能力』を行使した。
「召喚、シルフ!」
そして俺の隣に小さな魔法陣が刻まれると、その中から風の精霊であるシルフが姿を現した。
「あら……だいぶ久し振りね、戒人」
「ああ。さて……来てもらって早々悪いんだが、コイツの目を覚ますために少し手を貸してくれ」
「ええ、もちろんよ。私としても風の魔力を持った奴にこれ以上無駄な暴走をされるのは、あまり気分の良い物では無いもの」
シルフはゴドウィンの事を見ながら真剣な様子でそう言った後、両手に風の魔力を溜め始めた。
「けど……まずは、この子の実力をしかと見させてもらうわよ?」
「ああ、もちろんだ。だが、コイツはさっき『風神』として覚醒したとは思えない程の戦闘のセンスを持ってる。油断するなよ、シルフ」
「ふふ……戒人こそ、簡単にやられちゃわないでよね?」
「ははっ、万が一にもそんな事はあり得ねぇよ。さあ、やるぞ……シルフ!」
「了解!」
そしてシルフが風の魔力を更に溜める中、俺はゴドウィンの様子を観察しながら何枚もの言葉符を構えた。
「
するとゴドウィンの足下から突如青々とした太い蔓が地面を持ち上げながら伸びだし、瞬く間にゴドウィンの事を囲い込んだ。そしてそこへ向かって『雷球』の言葉符から放たれたバスケットボール程の大きさの雷の球と俺の背後から放たれたピストルの弾丸のような形をした水の弾が飛び、次々とゴドウィンの体へと命中していった。
『グ、グウゥ……』
「ゴドウィン! 目を覚ませ! お前が今からやろうとしてるのは、お前が嫌う破壊行動なんだぞ!」
『ウルサイ……! ボクガタオレタラ、フィーラタチヲマモルヒトガイナクナルンダ……! ダカラ、ダレニモボクノジャマハサセナイ!』
「フィーラ達を……守る……」
その言葉を繰り返しながら風の防壁の中で眠るフィーラへと視線を向けたその時、ゴドウィンの方から強大な風の魔力を感じ、俺はすぐに視線を戻した。するとゴドウィンが蔓の檻の中で翼を広げながら幾つもの風の塊を作り出し、俺へと狙いを定めているのが眼に入ってきた。
マズい……あの魔力だと蔓の檻どころか周囲にまで被害が出る……!
俺はすぐさま言葉符を構えようとしたが、ゴドウィンの攻撃の挙動の方が微かに早かったため、言葉符を構え終えた頃には俺のすぐ目の前へと迫っていた。しかし――。
「『
シルフが唱えた術によってゴドウィンの攻撃は、全て風の檻の中へと閉じ込められ、そのまま縮んでいく風の檻と一緒に消滅した。
ふう……危ない危ない。
「シルフ、ありがとうな」
「どういたしまして。けど、同じだけ力を溜めるには、少しだけ時間が掛かるわよ?」
「いや、たぶんこの戦いを終わらせる方法は見つかったから、後はゴドウィンの攻撃を撃ち落とすだけで良いはずだ」
「へえ……? それで、その方法って何なのよ?」
「フィーラの事を起こして、説得してもらう。これ以外に道はないと思うんだ」
未だに眠り続けるお姫様の事を見ながら言うと、シルフは半信半疑な様子でそれに答えた。
「フィーラって、あのドラゴンの事よね? 本当に大丈夫なの?」
「恐らくだけど、今ゴドウィン自身の意識は少し薄れていて、俺やフィーラを守る事を目的として無意識で動いてる形なんだと思う。だから、フィーラに元気になってもらった上で説得を試みる事でゴドウィンの目的を果たさせ、同時に戦う理由を無くさせる。そうすれば、ゴドウィンはちゃんと目を覚ますと思うんだ」
「……なるほどね。でも、あの風の防壁の中にいる氷竜の事をどうやって起こすのよ?」
「とりあえず、『言葉を司る能力』で傷を治した上で気付けを行う。『言葉を司る能力』は、本当に強い力で作られた結界の中以外なら、効果範囲に含められるはずだからな」
「……本当にとんでもない力よね、それ。けど、それしか道がないと言うなら、私はそれをサポートするだけよ」
「すまないな。よし……それじゃあ早速……!」
俺はポケットの中から『治癒』と『除去』、そして『覚醒』と『解除』の言葉符を取り出し、大きな声を張り上げながら『言葉を司る能力』を行使した。
「治癒、対象はフィーラ! 次に除去、対象はフィーラのダメージと疲労感! 更に覚醒、対象はフィーラの意識! 最後に解除、対象はフィーラの周囲にある風の防壁!」
すると、風の防壁の中で眠るフィーラの傷がみるみる内に癒えていき、フィーラの顔色も徐々に良くなっていった。
よし……後はこのまま起きてさえくれれば――。
そう思っていたその時だった。
「おーいっ、ファルコー!」
「ファルコー! 大丈夫ー!?」
そんな声が突如聞こえ、俺は弾かれたようにその声の方を向いた。するとそこにいたのは――。
「グァン……それにウィン達まで……!?」
俺は友達である魔物の子供達――グァン達の姿がここにある事に驚愕した。しかし、このままではゴドウィンの攻撃の対象にされかねないため、俺はすぐさま言葉符を取りだした。
「瞬間移動! 対象はグァン、ウィン、ルジェ、アニィ、クラン!」
その俺の声と同時にグァン達の姿がパッと消えたかと思うと、即座に俺の隣に揃って出現した。そして不思議そうな様子で周囲を見回すグァン達に対し、俺は思わず大きな声を上げてしまった。
「お前達、何でここにいるんだ! 危ないだろ!」
「う……す、すまん……」
「皆で洞窟に行こうとしたら、スゴく良い天気だったのが急に悪くなったから、ファルコとゴドウィンの事が心配になったのよ……」
「それで、人間の目を盗みながらここまでどうにか入ってきて……」
「ちょうど、ファルコの姿が見えたから声を掛けたの……」
「危険なのはもちろん分かってたんだけどさ……」
「お前達……」
グァン達の気持ちはとても嬉しかった。けれど――。
「お前達の他人を思いやれるところはスゴく良いと思うし、お前達の気持ちはスゴく嬉しいよ。でも、危険なところへは無闇矢鱈に近付こうとしないでくれ。もしそうなったら、お前達の親御さんが心配するし、俺も悲しいからさ」
俺は優しい言葉を掛けながらグァン達に微笑みかけた。俺にとっては、グァン達も皆藤達やゴドウィンと同じくらい大切な友達だ。だからこそ、俺はしっかりとした言葉でグァン達に自分の気持ちを伝えた。種の違いとか年の差とかなんて一切関係ない。お互いが笑い合える程に心を見せ合えていれば、それはもう歴とした友達なんだ。
……本当、俺もずいぶん丸くなったもんだな。
そんな事を思いながら順番にグァン達の頭を撫でていた時、グァン達はシュンとした様子で一斉に口を開いた。
『……ゴメン、ファルコ』
「ううん、分かってくれたんなら良いよ。俺だっていきなり大声出しちゃったから、お相子だしな」
グァン達に向かって微笑みかけながら言葉を掛けていたその時、シルフが少し呆れた様子で話し掛けてきた。
「……戒人、そんな保父さんみたいな事してる暇なんて無いでしょ? 早くあのドラゴンを止めないと、その子達にだって被害が出るわよ?」
「分かってるさ。それにグァン達が来てくれたのは、かなりラッキーなんだぜ?」
「ラッキーって……まさか、その子達にも手伝わせるつもり?」
「ご名答。コイツらは元々、ゴドウィンの友達だったんだ。だったら、フィーラと一緒にゴドウィンの説得に回ってもらうには最適だろ?」
「確かにそうだけど……」
「それに、今必要なのは絶対的な力なんかじゃない。心を見せ合い繋げ合ったモノ達にのみ生じる『思いの力』なんだ」
時には武力行使だって必要になるのは分かる。けれど、お互いがお互いを思い合える関係性だからこそ生み出せる『思いの力』というのは、時には本当にスゴい奇跡を起こす事もある。だからこそ、俺はそれに賭けようと決心した。
過去――特に中学卒業後の俺だったら、絶対にこんな事は思いつかなかっただろうな。けど、こうして信じられる存在が近くにいてくれる今なら、この方法が正しいと声を大にして言える。
そう思いながらゴドウィンの方へ視線を向けていると、グァン達は不安そうな様子で同じくゴドウィンの方へと視線を向けた。
「あれが……ゴドウィン、なんだな……」
「本当のことを言えば、スゴく怖いよね……」
「……うん。でも、ゴドウィンの事を止める手助けが、僕達に出来るって言うなら……」
「そうだね。大切な友達を止めるために、私達が全力を出さないといけないよね……!」
「ああ。よし……俺達の力でアイツの目を覚ましてやろうぜ、皆!」
『おー!』
ゴドウィンの事を止めるため、グァン達が声を揃えてその決心を固めていたその時、
『……私も手伝うわ』
近くから凛とした声が聞こえたため、俺達は一斉にそちらへ顔を向けた。するとそこには、覚悟を決めた様子で俺達の事をジッと見つめるフィーラの姿があった。そしてどうやら『言葉を司る能力』での治療の効果はしっかりと出ていたらしく、体にあった傷は全て消えており、眼には決意の炎がメラメラと燃え上がっていた。
「……体の方はもう良いみたいだな」
『ええ、おかげさまでね。それより、さっきも言ったようにゴドウィンの事を止めるというなら、私も手伝わせてもらうわ。ゴドウィンがこうなってしまったのは、私にも原因があるもの』
「ああ、もちろんだ。皆が力を合わせれば、絶対にゴドウィンは目を覚ましてくれるはずだからな。皆、最後の最後まで気を抜くなよ!」
『了解!』
皆が声を揃えて返事をした後、俺とシルフは念のために説得係であるフィーラとグァン達に攻撃が当たらないようにするべくゴドウィンの動きに注意し、フィーラ達はゴドウィンの目の前に立って必死に声を掛け始めた。
「ゴドウィン! もう止めろ!」
「ファルコもフィーラさんも無事だから、もう頑張らなくて良いのよ!」
「早く目を覚まして、僕達と一緒に遊ぼうよ! ゴドウィン!」
「元の優しいゴドウィンに戻って!」
「お前の力はそんな事に使うためにあるんじゃないだろ!」
『ゴドウィン……お願い、目を覚まして!』
皆からのその必死な呼び掛けが功を奏したのか、ゴドウィンは唸り声を上げながらフィーラ達の方へ視線を向けた。そしてしばらくフィーラ達の事を見ていたかと思った次の瞬間、ゴドウィンは唸り声を上げるのを止めた。
『み、んな……? それに……フィー、ラ……も?』
「そうだぜ、ゴドウィン。皆、お前の事を思って必死になってくれたんだよ」
『ファル……コ? え……どうしてここに……?』
「自慢の術でちょちょいとやってきたんだよ。因みにフィーラの傷は、俺の術で完全に治したから本当に問題ないぜ?」
『……そっ、か……。本当に……よかっ、た……』
安心しきった様子で呟くようにそう言うと、ゴドウィンは力なくその場に座り込んだ。その目にはうっすら涙が浮かんでいた上、空を覆っていた厚い雲や吹き荒れていた風は完全になりを潜めていた事から、ゴドウィンの中に眠っていた強大な風の魔力が静まっている事は明らかだった。
まあ……だいぶ魔力を使ってたからな。恐らく、今のゴドウィンでも抑えられる程に魔力量が減ってる上、魔力が漏れ出さないようにゴドウィン自身が無意識に抑えてるんだろうな。
そんな予測を立てながらゴドウィンの事を見ていると、ゴドウィンは死体がある方をチラリと見た後、とても哀しそうな表情を浮かべた。
『……やっぱり、僕は殺してしまったんだね』
「そう……だな」
『……いくら力に呑まれていたりフィーラやファルコの事を守ろうと思っていたりしていても、誰かの事を殺してしまうのは絶対にやってはいけない事だもんね……。でも、僕はそれをやってしまった。本当に取り返しの付かない事をしてしまったよね……』
その事実を改めて目の当たりにし、ゴドウィンはとても辛そうな表情を浮かべた。ゴドウィンの表情からは、自分の力を抑えきれなかった事への後悔や殺してしまった事への罪悪感などが浮かんでおり、その事実はゴドウィンの心を酷く傷つけ、哀しみの色に染め上げる理由となっていた。
確かにアイツらは敵だったけど、本当に殺す必要があったかと言われるとまた別だ。つまり、言ってみればゴドウィンは自分の暴走で必要の無い殺生を行ってしまったと言え、その責任は明らかに大きい。けど――。
「ゴドウィン、1つ良いか?」
『な、何……?』
「お前がコイツらを殺し、俺達の知らないところで罪も無い王国民を傷付けてしまったかも知れないのは確かな事実だ」
『…………』
「言ってみれば、お前のその未熟さが原因となり、これからお前はその罪を背負いながら生きていくという罰を受ける事になる」
「お、おい……」
「ゴドウィンだって反省してるのにそんな言い方って――」
『良いよ、グァン、ウィン。それは事実なんだから、僕がしっかりと受け止めないといけないと……ね』
哀しそうな表情を浮かべながらグァン達にそう言った後、ゴドウィンは俺に対してコクンと頷いたため、俺は頷き返してから話を続けた。
「ゴドウィンの言う通りだな。そして今回のリント竜騎士団の不祥事もあるから、王国民からの竜や竜騎士というものへの評価は絶対に下がっているし、理由があったにせよリント竜騎士団に所属するゴドウィンがあの嵐を起こした事を知られたら、最悪評価は下降の一途を辿る事になり、そのままリント竜騎士団の解体なんて事もあり得る」
『……そう、だよね……』
「だけどな、ゴドウィン。そんな酷い状況だからこそ、精一杯頑張る必要があるんだ。どんなに罵声を浴びせられてもどんなに辛い状況に陥っても、ひたすらこの国の人達のために頑張る。そうする事できっとそれを分かってくれる人は出てくるし、また応援してくれる人だって出てきてくれる」
『ファルコ……』
「今回の件が原因で、ダーフィット騎士団長を始めとした多くの騎士が騎士団から除名されるのは間違いないし、そうなるとユスティン副騎士団長がそのまま騎士団長になり、俺達の同期の誰かが副騎士団長になるという少数精鋭で頑張っていく事になる。ゴドウィン、お前はそういった状況でも頑張っていく覚悟はあるか?」
『僕は……』
ゴドウィンはポツリと呟きながら俯いたが、すぐに覚悟を決めたような表情を浮かべながら静かに顔を上げた。
『僕は……今回の件で自分の中にあった力と僕自身の力不足を思い知った。僕の中にあったのは、誰かの命を簡単に奪えるほど強い力であり、今回みたいに力に呑まれてしまったらまた多くの人を傷付けることになる。でも、それは僕の頑張り次第で幾らでも変えていけるんだ。力の使い方は、自分の気持ち1つなんだ。そうだよね、ファルコ?』
「その通りだ。どんな力であろうと、それは使い方次第で誰かに対しての薬にも毒にも変わる。だから、お前はこれからその力を本当の意味で自分の力とし、お前の元々の目的――他の宝石竜達に自分の安否を報せるという目的と合わせて、この国の人達のために頑張っていけば良いんだ」
『うん、そうだね。だから、これからユスティンさんとフィーラ、そして他の竜騎士達と一緒に精一杯頑張っていくよ。もちろん、ファルコともね』
ファルコがニコリと微笑みながら言う中、俺は心の底からの申し訳なさを感じながら静かに口を開いた。
「……すまん、ゴドウィン。俺もそうしたいところだけど、俺はお前と一緒に頑張る事は出来ないかもしれない」
『え、どうかし――まさか、ファルコが何か罪に問われてるとか……!?』
「いや、そういうのじゃないよ。……実はな――」
俺はゴドウィン達に自分自身の正体やこの世界に来た目的を全て話した。そして話を終えると、ゴドウィン達は心底驚いた様子で口を開いた。
『ファルコが……僕の力を回収するために別の世界から来た人間……』
『……確かに、それなら色々納得できるけれど、まさか別の世界なんて物が本当にあるなんて……』
「皆、本当にゴメンな。理由があったとは言え、今までこの事を黙ってて……」
『ううん、それは別に良いよ。……でも、ファルコ――いや、戒人と本当にお別れしないと行けないのは、本当に辛いよ……』
「ゴドウィン……」
ゴドウィンの目には涙が浮かんでおり、その事から俺との別れを心から哀しんでくれているのはしっかりと感じられた。
……いけない事なのは分かるけど、どうにか白羽に頼んでもう少しだけこの世界にいられるように出来ないかな……。俺自身、ゴドウィン達の事をどうにかしてやりたい気持ちはあるし……。
そう思っていたその時、服のポケットの中から連絡用端末の着信音が聞こえてきた。
……え、連絡用端末は確か部屋の中にあるはずだよな……?
不思議に思いながら服のポケットの中に手を入れると、手に何か硬い物が触れたため、俺はそれを手に取りそのまま取り出した。するとそこにあったのは、まごう事無き俺の連絡用端末だった。
……まさかとは思うけど、連絡用端末には俺の力に反応してワープする機能でも付いてるんじゃないのかな……?
連絡用端末について謎が深まる中、俺は連絡用端末を操作して電話に出た。
「……もしもし?」
『やっほー、戒人。【Cheat Breakers】のアイドル、白羽君だよー』
「……お前が【Cheat Breakers】のアイドルだったとは世も末だな。それで、この電話はそろそろ帰ってこいという催促か何かなのか?」
『いやいや、僕から催促する事はまず無いよ。催促したってどうにもならないからね』
「それじゃあ、何なんだ?」
『戒人、『風神』達の手伝いをしてからこっちに帰りたいって思ってるよね?』
「まあな」
『だったら、それを終わらせてから帰ってきても良いよ? 『風神』からの能力の回収は別に急ぐ事でも無いし、能力の回収が出来るのは確定してるみたいだからね』
「それは嬉しいけど……本当に良いのか? あくまでもこれは『仕事』なわけで、他の世界にも色々なターゲットがいるんだろ?」
『まあ、それはそうだけどね』
「だったら――」
俺が白羽との通話を続けていたその時、後ろからゴドウィンが声を掛けてきた。
『……戒人、僕達の事は気にせずに行っても良いよ』
「ゴドウィン……でも、俺だってリント竜騎士団の一員だ。なのに、今の状況を放り出していくわけには……」
『話を聞く限り、君には他にもやらなきゃいけない事が、僕みたいな人達を止めるという『仕事』があるんでしょ? だったら、それを優先しなきゃ』
「確かにそうだ。けど――」
『戒人。さっきも言ったけど、君とのお別れは本当に辛いし、君が別世界の人じゃなかったら、君の隣で一生相棒として頑張りたいと思うよ。でも、僕の気持ちやこの世界の事で君の事を縛るのは絶対にやっちゃいけない事なんだ。他の世界にだってダーフィット騎士団長みたいな人や僕みたいな人がいる中、それをどうにか出来る君を必要以上に留めておくわけには……いかないんだよ……!』
「ゴドウィン……」
ゴドウィンの目からは、ボロボロと涙がこぼれ、その雫は地面へ落ちていく途中で綺麗なエメラルドへと変わり、次々と地面の上に積み重なっていった。そんな中、ゴドウィンは涙で目を赤くしながらもニコリと微笑み、大丈夫そうな様子を装いながら言葉を続けた。
『僕達なら大丈夫。だから戒人は、僕達みたいな人を助けたり正したりする事を頑張って。僕はそれに着いていく事は出来ないけど、ここでずっと応援してるからさ』
「……分かった。本当にありがとうな、ゴドウィン。お前と出会えて、本当に良かったよ」
「こちらこそありがとう、戒人。君と出会えた事は、僕にとって永遠の宝物だよ」
「ああ、俺もだよ」
俺達はそう言って笑い合いながら固く握手を交わした。ゴドウィンの目にはまだ涙が浮かんでいたが、その目の輝きや表情から俺はゴドウィン自身の決意や覚悟、そして勇気やこれからへの希望といった物を感じた。
……そういえば、エメラルドの石言葉には『希望』とか『幸福』、後は『安定』なんてのもあったっけ。そういう意味では、今のゴドウィンに本当に相応しい石言葉ばかりだよな……。
ゴドウィンの笑顔を見ながらそんな事を思った後、俺は服のポケットにもう片方の手を入れた。するとそこには、予想していた通り『
案の定、だったな。まあ、今から取りに行ったり『言葉を司る能力』で取り寄せるよりは楽で良いけど。
そして俺は、『吸力珠』をゴドウィンの目の前に差し出しながら話し掛けた。
「ゴドウィン、これに触れてくれるか?」
『うん、もちろんだよ』
ゴドウィンは大きく頷きながら答えた後、『吸力珠』へ片方の前足を軽く乗せた。するとゴドウィンの体から小さな光が次々と飛び出し、そのまま『吸力珠』ヘと吸い込まれていった。そしてそれから程なくして、『吸力珠』が綺麗なエメラルドグリーンに染まった瞬間、ゴドウィンの体から出ていた光は徐々に消えていき、完全に消えさった頃、ゴドウィンの体がグラリと揺れた。
「ゴドウィン!」
そう言いながらすぐにゴドウィンの前足を取ろうとしたその時、ゴドウィンの体が揺れた先にいたフィーラが、自分の体を使って支えた事でゴドウィンは何とか倒れ込まずにすんだ。
『あはは……フィーラ、ありがとね』
『ふふ、どういたしまして。勇敢で優しい騎士竜さん?』
そう言いながらゴドウィンとフィーラが笑い合う中、俺は『吸力珠』をゆっくりしまいながら2体の様子を静かに眺めた。
その優しさから暴走した竜は、仲間達の献身によって無事に優しく頼もしい竜へと戻り、その希望に満ちた光を以て、仲間達と一緒に決意を新たにするのでした、なんてな。
そんな事を思いながらフッと笑っていた時、さっきまで静かにしていたシルフがクスリと笑いながらこっそり話し掛けてきた。
「それじゃあ、私は戻るわね」
「ああ、本当にありがとうな、シルフ」
「どういたしまして。それじゃ、またね」
「おう」
そしてシルフが再び現れた魔法陣の中へ消えていった後、俺は電話の向こうにいる白羽に声を掛けた。
「白羽、転送してくれて良いぞ」
『うん、りょーかーい♪』
その声を聞いた後、俺は気持ちを整えながら皆に声を掛けた。
「それじゃあ、元気でな、皆」
『うん! 元気でね、戒人!』
『戒人、本当にありがとうね!』
『向こうでも元気でやれよ!』
『戒人の事、絶対に忘れないよ!』
『戒人、楽しい思い出をありがとう!』
『私達も戒人の事をずっと応援してるからね!』
『戒人、元気でなー!』
皆の声に頷いて答えていた時、俺の意識がスーッと薄れ、そのまま暗闇へと消えていった。
「……今回も無事に帰還、っと……」
意識が戻った瞬間、俺は視界に入ってきた拠点のエントランスを見ながらポツリと独り言ちた。すると――。
「お帰りー、戒人」
「お帰りなさいませ、戒人様」
背後からそんな声が聞こえたため、俺は静かに振り返った。そしてそこにいた白羽と
「うん、ただいま、2人とも」
そう言いながら気持ちを『ファルコ・シュミット』から『千歳戒人』へとしっかり切り替えた後、俺はポケットの中にある『吸力珠』を取り出し、そのまま白羽へと渡した。
「ほら、今回の『吸力珠』だ」
「うん、ありがとう。それにしても……今回は中々スリリングな戯曲だったねぇ……」
「竜探しに始まりなんやかんやで騎士団の闇に迫ったと思ったら、今度は相棒の暴走を止めなきゃ無かったからな」
「あははっ、そうだね。さて……今回も『処理』は終わってるから、ターゲットのその後を
「ああ、見せてくれるか、白羽」
「あいあいさー♪」
白羽はとても楽しそうな声で答えた後、俺達の目の前に様々な世界の様子を見られる水晶――視水晶を出現させ、俺がさっきまでいた世界――ヴァルラの様子を映し出した。そしてそれを見ていた時――。
「……ふふ、ゴドウィンもスゴく頑張ってるみたいだな」
俺の口から思わずそんな言葉が漏れた。視水晶に映っていたのは、俺の予想通り騎士団長となったユスティンさんの相棒としてや例の人魔混成軍の部隊長として日々訓練や任務に励む他、フィーラとの間に出来たと思われる何匹もの仔竜と仲良く暮らす様子や成長したグァン達とも仲良くしているゴドウィンの姿だった。
「そっか……ゴドウィンとフィーラは、あの後夫婦になったんだな」
「そうだね。因みにあの悪徳騎士団長とその相棒の竜は、国王の命令で辺境の地に追放されて、部下だった人達は半分近くがまだあの竜騎士団にいるみたいだよ」
「へえ……そうなのか」
「……まあ、戒人がいなくなった後、魔王みたいなのが魔物の中から現れて、人魔混成軍と魔王直属の軍の争いなんかも起きるみたいだけどね」
「……そうなのか?」
「うん。でも、戒人が信用した人達ならきっと大丈夫でしょ」
「……そうかもな」
俺は白羽の話に出てきた新しい戦いの事がスゴく気になったが、白羽の言う通りな気がしたため、その事について考えるのは止め、視水晶に映るゴドウィンの姿に再び視線を移しながらポツリと独り言ちた。
「それにしても……アイツらから俺の事は忘れないって言ってもらえたのは嬉しかったけど、結局『処理』によって俺についての記憶は消されるから、何とも言えない感じだよな……」
「あ……その事なんだけど、実はちょっと気になる点があるんだ」
「気になる点?」
「そう。さっき、元『風神』と氷竜の間に生まれた仔竜がいたでしょ?」
「ああ、いたな。ゴドウィンと同じ宝石竜・翠玉型とフィーラと同じ氷竜の仔竜が。でも、それがどうかしたのか?」
「えっとね……『処理』を終えた後、何となく元『風神』の生活をちょこっと覗いてみたんだけど、その仔竜の名前が『ファル』と『チトセ』っていうみたいなんだよね」
「……え?」
仔竜に付けられたその名前に俺は思わず驚きの声を上げてしまった。『ファル』と『チトセ』という2つの名前、偶然なのかもしれないが、1つは俺が名乗っていた『ファルコ・シュミット』を思わせる物で、もう1つは今の俺自身の名前である『千歳戒人』を思わせる物だったからだ。
「でも……どうしてそんな事が……?」
「うーんとさ……『
「ああ、覚えてるけど……?」
「これもたぶん、それの1つなんだと思うんだ。確かに『処理』を行った事で、この世界――ヴァルラには君がいた痕跡なんかは全て消えたし、持ち物も全て回収したよ。けど、ターゲットと君との間に出来た絆は、とても深く確かな物だった。だからこそ、名前や顔なんかは分からないものの、記憶の奥底には『ファルコ・シュミット』と『千歳戒人』という人物の事は残り、その人物の事を大切に想う気持ちが無意識の内にこういった行動を取るきっかけとなった。これがこの現象の正体だと思うよ」
「……そっか」
白羽が語る仮説に返事をしながら、俺は視水晶に映るゴドウィンの姿に対し静かに微笑んだ。
……ゴドウィン、これからも皆と一緒に仲良くしながら頑張っていけよ。
心の中でゴドウィンにそう呼び掛けていると、白羽がニコリと笑いながら静かに話し掛けてきた。
「今回の戯曲にタイトルを付けるなら、『輝く騎士竜の英雄譚』ってところかな。優しく気が弱かった一体の竜が、友人や仲間達との出会いを経て、最後には皆を引っ張る英雄となる、みたいなね」
「そうかもな。アイツの未来は栄光や幸せに満ちた物になるのは確定してるし、アイツならきっと皆を幸せにする道を切り開いて行けるだろうからな」
……そして、俺も負けないようにこれからも頑張っていかないとな。
そう思いながら白羽に視線を移した後、俺はそのまま白羽に話し掛けた。
「白羽、次のターゲットの情報をくれるか?」
「それはもちろんあげるけど、いきなりどうしたの?」
「……これから出会うターゲットの中には、今回のゴドウィンみたいな奴は絶対にいる。だから、そういった奴のためにもどんどん『仕事』をこなしていきたいんだ。そういった奴の事を救えるなら、すぐにでも救ってやりたいんだよ」
「……なるほどね。けど――」
白羽はいつになく真剣な表情を浮かべると、首を横に振りながら言葉を続けた。
「今はあげられないよ。あげるのは明日になってから」
「……何でだよ?」
「『言葉を司る能力』を使えば、疲れや空腹なんかを無くせるから、戒人的にはそのまま次へ向かえると思う。でも、しっかりと休息を取る事を自分の中で習慣付けないと後で絶対に後悔する。だから、今日のところはもう終わり。いつもみたいに翌日の朝ご飯の後になら紹介してあげるから、今日のところは休んだ方が良いよ」
「……分かった。白羽の言いたい事は分かるつもりだし、今日のところはそうさせてもらうよ」
「うん、ありがとう。それじゃあご飯の時間になったら、僕か月夜が呼びに行くからね」
「分かった。それじゃあ、また後でな」
「うん」
「承知致しました」
白羽と月夜の声を背に、俺は自分の部屋に向けて歩き始めた後、俺はふとエメラルドの石言葉を再び思い出した。エメラルドの石言葉には『希望』や『幸運』以外にも『夫婦愛』があり、他にも『愛の成就』という意味もあり、エメラルドを身につけていると、人間として成長が見込まれるだけでなく、知恵や忍耐力が付くと信じられているのだという。
……今のゴドウィンには、本当にピッタリな言葉や意味ばかりだよな。もっとも、アイツの場合は身につけるどころか、身に纏っているんだけど。
そんな事を思いながらクスリと笑った後、俺はこの先に待つ希望の未来に向かっていくゴドウィン達へ『強い追い風』が吹いてくれる事を願い、そのまま部屋に向けて歩き続けた。
政実「第11話、いかがでしたでしょうか」
戒人「これで、風神編も終わりなわけだけど、最後の方の白羽の反応がちょっと気になるところだな」
政実「まあ、それに関しては次の章以降で分かるから、それまでのお楽しみという事で」
戒人「了解。因みに次回の投稿予定は、いつも通りで良いんだよな?」
政実「だね」
戒人「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてさて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「ああ」
政実・戒人「それでは、また次回」