Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、千歳戒人です。希望か……まあ、確かに言い言葉ではあるけど、何か理由はあるのか?」
政実「そうだね……強いて言えば、希望は聞いていて気持ちが明るくなる言葉の一つだからかな」
戒人「なるほど。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、Epilogue.3をどうぞ」
『んー……今日も良い風が吹いてるなぁ……』
様々な種族が住まう世界――ヴァルラの空を一体の竜――ゴドウィンが吹き抜ける風を感じながら気持ち良さそうに飛んでいた。ゴドウィンは、この世界に住む竜の中の
『ふふ……ユスティンさんやフィーラ達にもこの風を感じてほしいけど、ユスティンさんは騎士団長としての事務仕事が忙しいみたいだし、フィーラは子供達のお世話がまだあるみたいだから、それはまた今度になるかな。後はグァン達だけど……彼らも最近は人魔混成軍の方が忙しいって言っていたし、さすがに無理だよね……』
ゴドウィンは自分の相棒や家族、そして友達について淋しそうな様子でポツリと呟いた後、ふとある事を思い出した。
『子供達……そういえば、子供達の名前を付けた時にフィーラ達からなんでその名前にしたのかって訊かれたけど、何故か答えられなかったんだよね……。答えられない理由なんて特に無いのに、どうしてあの時は答えられなかったんだろう……? それに、あの子達――ファルとチトセの名前を聞く度に、何だか懐かしい気持ちになるし、最近こんな風に誰かと一緒に飛んでいる夢を見るし……何だか色々と不思議な事が多いなぁ』
ゴドウィンは空を飛びながら不思議そうに首を傾げたが、いくら考えてもその答えは一向に出て来なかった。ゴドウィンが不思議に感じている疑問や夢、これらは彼の過去に実際に起きた出来事が元になっており、それには別の次元に住む集団――【Cheat Breakers】の一員である千歳戒人が姿を変えた存在であるファルコ・シュミットが関係しているが、【Cheat Breakers】の仲間である謎の存在の白羽の『処理』によって、その存在自体が
『……ユスティンさん達の事も気になるし、
しかし、ゴドウィンの背には誰もおらず、ゴドウィンは再び不思議そうに首を傾げた。
『……あれ? 何で誰もいないのに、僕は話し掛けていたんだろう……? それに、さっき僕達って言っていたし……うーん、本当に何なんだろう……?』
しかし、その疑問に答える者はいなかったため、ゴドウィンは心にモヤモヤとした物を抱えながらも、自身が住まうリント王国へ向かって風を切りながら飛んでいった。
それから数日後、ゴドウィンは相棒であるリント国立竜騎士団の騎士団長――ユスティン・ティッテルと共に王宮へと呼び出されていた。そして、揃って国王の前に立つと、国王は暗い表情で話を始めた。
「竜騎士団騎士団長ユスティン・ティッテル、そしてそのパートナーである騎士竜ゴドウィンよ、よくぞ来てくれた」
「いえ、国王の命とあらば、我々リント国立竜騎士団一同、地の果てにいようとも国王の元へ馳せ参じる心積もりです」
「うむ、そなたらにそう言ってくれるのはとても心強いぞ。さて……お主らを呼んだ理由なのだが、実はここより遙か遠くの地にて、『魔王』と呼ばれる存在が現れたという話はお主らも聞いた事があると思う」
『はい、数々の魔物を従え、多くの国々をその支配下に置いている存在だという事は聞いております』
「その通りだ。そしてその魔王なのだが、最近この近くで目撃したという声が民や兵士達から上がっている。ただ、その真偽は未だ明らかになっていないが、我が国は人間と魔物の混成軍を持っている身だ。このままでは、近隣諸国から魔王との関与を疑われかねず、最悪の場合魔王と近隣諸国からの攻撃を受ける恐れがある。そこで、お主らにはこの国の警備の強化と魔王の探索を頼みたい。確証が無い話ではあるのだが、何かが起きてしまってからではやはり遅いからな……」
国王が暗い表情で言う中、ユスティンはとても落ち着いた様子でそれに答えた。
「畏まりました。我ら竜騎士団一同、この命に代えても必ずやその務めを果たしてみせます」
「……うむ、頼んだぞ。お主らがこの務めを果たした暁には、望む物を褒美として与えよう」
『はい、ありがとうございます』
「よい、いつもお主らには世話を掛けているからな。それでは頼んだぞ」
「『はい』」
ゴドウィン達は揃って返事をした後、そのまま王宮を後にし、リント王国城下町――リムールに着いた瞬間、ゴドウィンは緊張が解けた様子で大きく息をついた。
『はあ……やっぱり王宮の中は、スゴく緊張するなぁ……』
「仕方ないだろう、王宮とはそういう物だからな」
『そうですね。それにしても……魔王がこの近くにいるとなると、団員達にも注意喚起をしておいたほうが良いですよね?』
「そうだな。魔王がどのような者かは分からないが、多くの国々を支配下に置いている事、そしてそれを実現させるだけの力があるのは事実だ。そのため、団員達には目撃してもまずは戦わずに即座に報せてくれるように言う必要があるな。ゴドウィン、お前はフィーラと仔竜達の身にも注意を払えよ?」
『はい、もちろんです。ですが、ユスティンさんも気をつけて下さいね?』
「ああ、分かっている。我々はそう簡単に命を落とすわけにはいかないからな」
真剣な表情で答えるユスティンに対し、ゴドウィンが小さく頷いていたその時――。
『ゴドウィン、お前の力を信じてるぞ』
そんな声が聞こえ、ゴドウィンが笑みを浮かべながら「うん!」と大きな声で思わず返事をすると、ユスティンは目を丸くしながら立ち止まり、不思議そうにゴドウィンに話し掛けた。
「……ゴドウィン、いきなりどうしたんだ?」
『……え? あれ――さっき僕は誰に返事をしたんだろう……?』
「……何だか分からないが、やる気と元気がある事は良い事だ。その調子で国王より賜った務めを果たすぞ」
『はい!』
ユスティンの言葉に返事をした後、ゴドウィンはユスティンと共に竜騎士団の詰め所へ向かって再び歩き始めたが、その心中は先程の出来事についての疑問で満ちていた。
『……今の声、どこかで聞いた事ある気がするけど、どこで聞いたんだろう……? 何だか聞いていて安心する声だったし、たぶんあの声の主は僕にとって大切な存在だったんだろうけど……やっぱりまったく覚えが無いなぁ……』
呟くような声で声の主について独り言ちていたが、やはりいくら考えても分かる様子が無かったため、ゴドウィンはその事については一度保留し、考える事を近くに迫る危険――魔王ヘと変えながら詰め所に向けて歩いていった。
それから一週間が過ぎた頃、ゴドウィンはユスティンを背に乗せながら魔王やその配下と思われる者達を捜すべく、リント王国の周辺を静かに飛び回っていた。
『……今のところ、怪しい人物や魔物の姿は無さそうですね』
「そうだな……だが、油断をしていては足元を掬われる可能性がある。他の団員達には陸から捜させているが、俺達はこのまま空から捜すぞ」
『分かりました』
そして再び上空を飛び回りながら周囲を捜索していたその時、ゴドウィンの目にある物が映った。
『……あれ? ユスティンさん、あそこに誰かいませんか?』
「む……どこだ?」
『えーと……あの川に沿って植えられている木の陰です。たぶんフードを被った人間だと思うんですけど……』
「……ああ、あれか」
ゴドウィンとユスティンの視線の先にいるモノ――フードが付いた黒いローブを着た人物は、ただ静かに川の傍を歩いているだけだったため、傍目からはただの旅人のようにしか見えなかった。しかし、そのモノがゴドウィン達へ顔を向けた瞬間、彼らは背筋がゾッとするようなプレッシャーと恐怖を感じ、いつでも戦闘が行えるように心の準備をした。そして、無言で頷き合った後、ゴドウィン達はそれの近くへ向かって降りていき、警戒心を持ったままそれへと近付いた。
「そこのお前、少し良いか?」
「……何だ?」
「最近、魔王と呼ばれる存在が各地に被害をもたらしており、この近くでもその魔王と思われる何者かの姿がリント王国の国民や兵士によって目撃されている」
「ほう……それはまた物騒な話だな。それで、このような服装で歩く私が怪しいと考え、話を聞きに来たというところか?」
「そういう事だ。すまないが、そのフードを取ってもらえ――」
その時、フードの人物の手が静かに動くのが見え、ゴドウィン達が即座に距離を取ると、フードの人物は感心した様子で「ほう」と、小さな声を漏らした。
「……どうやら、それなりの使い手ではあるようだな」
「当然だ。我々はリント王国の竜騎士団の団長とそのパートナーだ。この程度が出来なくては、国王より賜った務めを果たす事は出来ぬからな」
「……ふむ、竜騎士団の団長とその相棒か。つまり、貴様達を屠ればこの国を支配下に置く事は容易いという事だな」
『……その言い方、どうやら貴方が魔王という事で間違いないようですね……!』
「その通りだ。配下の魔物がこの国に人間と魔物の混成軍があるという話を聞いたものでな。それがどのような物か少々気になったので、こうして私自らが出向いたというわけだ」
フードの人物――魔王はフードを静かに取ると、怪しい笑みを浮かべながら虚空から禍々しい輝きを放つ長剣を取り出した。そして、それを見たユスティンは持っているハルバードを構え、ゴドウィンはいつでも動けるように戦闘の態勢を取ると、魔王の動きに注意を払いながら再び話し掛けた。
『魔王、貴方はどうして様々な国を支配下に置こうとしているんですか……?』
「愚問だな。王たる者、
「ふざけるな……お前のその自分勝手な思想を押し付けようとするな!」
「自分勝手な思想……か。貴様はそう思うのだろうが、果たして貴様らの王はどう考えているだろうな」
『……どういう意味ですか?』
「言葉の通りだ。国を治める中で平和を守るだけならば、ただの騎士団や自警団を置くだけで問題は無い。しかし実際は、貴様らのような竜騎士団や人魔混成軍という二つの強力な軍を有し、私を警戒するためと言いながら周辺を見回らせている。どうだ、おかしいとは思わないか?」
「そんな事は無い! 国王は人間と竜や魔物の絆の可能性を信じ、竜騎士団と人魔混成軍を作ったのだ! そこに、他国の侵略などの思惑があるわけは無い!」
『そうです! 国王は悪い人なんかじゃありません!』
「……そうか。まあ、私から言った事であるが、そのような些末事はどうでも良い。今、私が興味を持っているのは、お前達の実力だけだからな」
その瞬間、魔王の体から魔力が立ち上り、魔王は楽しげに笑いながら言葉を続けた。
「私が
「ふん……上等だ。最初は一度報告のために王宮へと向かうつもりだったが、お前のその姿を見て気が変わった。全身全霊を以て、お前をここで撃退する!」
『僕達の力、甘く見ないで下さい!』
「……ふっ、威勢は良し。さあ、愉しい宴を始めるとしよう……!」
そして、魔王は妖しい笑みを浮かべながら一瞬でゴドウィン達との距離を詰めると、右手で持っていた剣の刀身を煌めかせながらユスティンへと斬り掛かった。しかし、ユスティンは魔王の動きに瞬時に反応すると、ハルバードの斧部で長剣を受け止め、ゴドウィンは風の魔力で作り上げた複数の槍を周囲に出現させた。
『くらえ! 『
ゴドウィンの声と同時に、複数の風の槍は魔王へ向かって次々と降っていったが、魔王は再び虚空へ手を伸ばすと、そこから取りだした紫色の盾を左手で構えながらそれらを難なく防ぎきり、余裕そうに笑みを浮かべた。
「なるほど、片方が攻撃を受けている間にもう片方が追撃を行う、か……。よく考えられているが、力が足りなくては話にならんな」
「くっ……! ゴドウィンの技を防ぎきるとは、魔王の名は伊達では無いということか……!」
「くく……私の実力を目の当たりにして、流石に怖じ気づいたか?」
「バカな事を言うな! この程度で怖じ気づくなどありえん!」
『ユスティンさんの言う通りです! リント王国を守るためにも、ここで逃げるなんて事は絶対にあり得ません!』
「……そうか。ならば、少しだけ趣向を変えるとしよう」
魔王はニヤリと笑いながら左手を地面へ向けると、左手へと自身の魔力を集中させた。
「さあ、己が力を存分に解き放つが良い。宝石竜! 『
すると、突如ゴドウィンの足下に暗い紫色の煙のような物が現れ、『な、何……!?』とゴドウィンが困惑した表情を浮かべている内に、紫色の煙は瞬時にゴドウィンの体を包み込んだ。そして――。
『ぐ……ぐあぁーっ!!』
ゴドウィンは苦しそうな声を上げると、それから逃れようとするかのように大きく体を揺らし始めた。ユスティンはその震動に耐えながらゴドウィンの背に必死にしがみつきつつ「おい、しっかりしろ!」とゴドウィンへ声を掛けたが、ゴドウィンは苦しそうな声を上げながらユスティンを振り落とそうとするかのように身をよじらせ続けた。そして程なく、『う……うわああぁーっ!! 』というゴドウィンの声と共に体が大きく揺れ、ユスティンは遂にゴドウィンから振り落とされた。
「ぐうっ……!」
「ははっ、流石に無理があったようだな、人間」
「くっ……! 魔王、貴様……ゴドウィンに何をした!」
「なに、この宝石竜の中にある魔力と破壊衝動を無理やり解放しただけだ。この『滅心解放』は対象がより穏和な性質を持つ程、その効力を増す。もっとも、凶暴な物を更に凶暴にする術もあるが、此奴には必要無さそうだな」
「ゴドウィンの魔力と破壊衝動の解放、だと……!? そんな事をしては、この一帯が再び暴風に襲われる事になるぞ!?」
「……ああ、そういえば過去にもそのような事があったのだったな。だが……それならばそれで愉快だとは思わんかね?」
「……愉快だと? 貴様、ふざけた事を言うなぁーっ!!」
ユスティンは奥底から湧き上がる怒りを声に出しながらハルバードを手に取ると、魔王へ向かって槍部を勢い良く突き出した。しかし――。
『……アアァーッ!!』
完全に心が破壊衝動に染まったゴドウィンが周囲へ放った魔力の衝撃波によって、ユスティンは「ぐうっ……!?」という声を上げながら大きく吹き飛ばされ、怒りに満ちた一撃はあと一歩のところで魔王へと届かずに終わった。そして、ユスティンはそれによって負ったダメージで息を荒くしながらゴドウィンへと視線を向けた。しかし、そこにいたのは常に平和を願う優しき騎士竜では無く、かつて二組の竜騎士達を死へと追いやり、リント王国を壊滅へと導きかけたモノ――『
「ゴド……ウィ、ン……」
ユスティンは変わり果ててしまった相棒へと弱々しく声を掛けながら震える手をゆっくりと伸ばしたが、度重なるダメージと疲労からユスティンの意識は失われ、その体はガクッと崩れ落ちた。魔王は興味なさげにそれを一瞥した後、すぐにゴドウィンへと視線を向け、ゴドウィンの魔力の波を体全体で浴びながら大きな笑い声を上げた。
「はっはっはっ! 見事な魔力だ、宝石竜よ! これがあれば、この一帯の者共を全て葬る事すら容易いだろう!」
『グ……スベテ、ホウ……ム、ル……?』
「くく……そうだ。お前のその力で、そこの男やお前の国の者共に永遠の安寧を与えるのだ」
『エイエンノ……アン、ネイ……アタエ、ル……』
ゴドウィンは途切れ途切れに魔王の言葉を繰り返すと、その身に宿った魔力で大きな竜巻を周囲に作り出しながらリント王国がある方へと体を向けた。すると、ゴドウィンの魔力の影響により、晴れ渡った青空は厚い雲で隠され、竜巻によって生じた風圧によって、周囲の木々は激しく揺れながらまるで悲鳴を上げるかのように大きな音を立て始めた。そしてその音や光景に、魔王が楽しげな笑みを浮かべる中、ゴドウィンは無表情で魔力を高め続け、やがてゴドウィンの姿は大きな竜巻の中へと消えた。
「さあ……やるのだ、宝石竜。これが貴様の新たな一歩となるのだからなぁ!」
『ヤル……ミンナ、ボクノカゼデ……ホウムル』
ゴドウィンの声と同時に、周囲の竜巻が動き始めたその時――。
『ゴドウィン! もう止めて!』
「ゴドウィン! 目を覚ませ!」
「そんな事をするなんて、ゴドウィンらしくないわ!」
突如複数の声が空から聞こえたかと思うと、多くの影を背に乗せた水色の鱗の竜がゴドウィンの目の前へと急降下した。そして竜――フィーラは、背に乗せていた魔物達――ウェアウルフのグァン達を下ろすと、今にも泣き出しそうな表情でゴドウィンへと声を掛けた。
『あの時と同じ空の様子だったから、まさかとは思ったけれど……ゴドウィン、貴方はどうしてまたこんな事をしているのよ!?』
「ゴドウィン……お前、あの時の事を忘れたわけじゃないだろう!?」
「今止めないと、またあの時みたいに皆が苦しむ事に――」
アルケニー――アニィが必死な表情で声を上げた時、魔王は静かに笑みを浮かべながらフィーラ達に話し掛けた。
「貴様らはこの宝石竜の仲間か?」
『……正式には、私はゴドウィンの妻で、グァン達は友達だけれど……ところで、貴方は誰なのよ?』
「私か? 私は魔王、この地を我が支配下に置こうとしている者だ」
「魔王……まさか、お前がゴドウィンに無理やりこんな事をさせているのか!」
「無理やりではない。私はただ、この宝石竜が持つ魔力と破壊衝動を解放しただけだ」
「そんな……! そんな事をしたら、あの時みたいに皆が哀しみ苦しむ事になるだけよ!」
「……どうやら、そのようだな。だが、私がこの地を支配下に置くには、お前達のような存在が明らかに邪魔であり、その方が私には好都合と言えよう」
「人や魔物が死ぬのが好都合だと……! お前のような奴にこのリント王国を支配下におかれてたまるか!」
「ふん……まあ、お前達のような者達には理解できないだろうな。私が統べる世界の素晴らしさ、そして人間などという低俗な者達と関わる事の愚かさは」
『人間と関わる事は愚かなんかじゃないわ! 人間と私達は、手を取り合う事で無限大の可能性を――』
「黙れ」
フィーラの言葉を氷のように冷たい声で制すると、魔王は静かに佇むゴドウィンへ向かって声を掛けた。
「さあ……今度こそやってしまえ、宝石竜。お前の家族や友人、そして相棒もろともあの世へと送るのだ!」
『ミンナ、アノヨ……ヘ』
そしてゴドウィンが再び竜巻を操ろうとした時、フィーラ達は必死にゴドウィンへと呼び掛けた。
『止めて! ゴドウィン!』
「ゴドウィン! 目を覚ましてくれ!」
「いつもの貴方に戻りなさいよ!」
「ゴドウィンはそんな事をする奴じゃない!」
「皆に優しいゴドウィンに戻ってよ!」
「ゴドウィン! 戻ってこい!」
その様子に、魔王は忌々しい表情を浮かべながら右手に魔力を溜め始め、右手にテニスボール大の黒球が現れると、魔王は右手をフィーラ達へと向けた。
「……やはり、コイツらは邪魔だな。貴様らには黙っていてもらおう、『
その声と同時に黒球は魔王の右手から放たれると、フィーラ達の目の前で突如巨大化し、そのままフィーラ達を内部へと取り込んだ。
『な、何よ……これ!?』
「ぐ……何も、見えない……!」
「『影闇牢獄』は闇の力であらゆる物を閉じ込めておく術だ。お前達程度の力では、私が解くか他の者が破壊しない限り、そこから出る事は永遠に叶わないだろう」
「そ、そんな……!」
「まあ、そこで大人しくしているが良い。お前達の存在は、明らかな邪魔でしか無いのだからな」
フィーラ達へ冷たくそう言い放つと、魔王は再び楽しげな笑みを浮かべながらゴドウィンへと声を掛けた。
「やれ、宝石竜」
『……ヤル、スベテヲ……コワス』
そして、ゴドウィンが一歩踏み出したその時――。
『グ……!? アタマガ……ムネノ、アタリガ……イタ、イ……!?』
ゴドウィンは突如襲ってきた痛みに苦しみの声を上げ、その様子に魔王の表情が一瞬歪んだ。
「宝石竜、何をしている。早く全てをあの世へ――」
『い……やだ、やりたく……な、い……!』
「……何だと?」
『ス……ベテヲ、コワ――ちがう……ぼく、は……そんなことを、やりたくない……!』
「……まさか、己の破壊衝動にコイツ自身が逆らっていると言うのか……!? バカな、私の術に抗える者などいるはずがない!」
あまりの事に魔王の表情が困惑に満ちていたその時、ゴドウィンの脳内にある光景が映像のような形で浮かんだ。
『……楽しそうな、皆の笑顔……』
『そうだよ、ゴドウィン。今日までお前が護ろうと頑張ってきた物だ』
『この声……聞いた事が――ううん、
『そうだな。お前と過ごせた期間は短かったけど、俺達はいつも一緒にいたからな』
『うん……君に出会えたおかげで、僕は変わる事が出来た。君が励ましてくれたおかげで、僕は皆を護る騎士竜としての勇気を得た。そして――あの時に君達が止めてくれたおかげで、僕は今ここにいる。だから、今度は僕が皆の笑顔を取り戻す番。そうだよね、戒人』
『ああ、そうだ。さあ、お前の力を見せてやれ、ゴドウィン!』
『……うん!』
脳内に響く声――戒人の声に返事をした後、ゴドウィンの姿を隠していた竜巻と体に纏わり付いていた術は消え、ゴドウィンは元の騎士竜へと戻った。そして、ゴドウィンはフィーラ達を捉えている術――『影闇牢獄』へ視線を向けると、ゴドウィンの周囲に佇む竜巻達を次々とそれへぶつけた。すると、ゴドウィンが持つ膨大な魔力によって、『影闇牢獄』に徐々にヒビが入り始め、やがて『影闇牢獄』は粉々に砕け散ると、不思議そうに辺りを見回すフィーラ達が姿を現した。
『良かった……皆、無事みたいだ……』
そのフィーラ達の様子に、ゴドウィンは心から安心した様子でそう独り言ちると、急いでフィーラ達へと駆け寄った。
『皆! 大丈夫!?』
『……ゴド、ウィン……?』
「その様子……お前、元に戻ったんだな……!」
『うん! 皆……心配掛けてゴメン。でも、僕はもう大丈夫だから』
ゴドウィンがニコリと笑いかけると、フィーラは目に涙を溜めながらゴドウィンへと抱き付いた。
『フィーラ……』
『……バカ、スゴく心配したのよ……』
『うん、ゴメン。皆を守るはずが、あの時みたいに皆に迷惑を掛けちゃったよね……』
『ううん……良いの。貴方が元に戻ってくれたなら、それだけで私は十分だから……』
『……ありがとう、フィーラ。グァン達もありがとう、皆だって忙しいのにこうして来てくれたのは、スゴく嬉しいよ』
「ふふ、当然だろ?」
「ゴドウィンは私達の大切な友達だからね」
「友達が間違っていたら正すのは当然の事だよ」
「そうそう」
「だから、気にしなくて良いぜ、ゴドウィン」
『皆……うん、ありがとう』
グァン達に対して微笑みながら礼を言った後、ゴドウィンは『さて……』と言いながら再び魔王の方へと体を向けた。
『魔王、僕はもう貴方の思い通りにはならない。リント王国を護る騎士竜として、そして皆の平和を守る竜として貴方の事を倒してみせる!』
「……ふん、そうか。それならば、その望み通りに――と、言いたいところだが、今回は止めておくとしよう」
『え……ど、どうして……!』
「……興が削がれた。そして、お前のような不思議な気配を漂わせる者を今葬ってしまっては、後からの楽しみが無くなってしまうからな」
『不思議な気配……』
「……ああ、強いて言うならば……この世界とはまた
ではな、勇敢なる宝石竜。次に会う時を楽しみにしているぞ」
そして、魔王の姿は突如現れた闇の中へと消えると、空を覆っていた厚い雲や辺りに吹き続けていた暴風は消え去り、辺りは静けさに包まれた。
『……これで、全部大丈夫……だよね?』
『ええ、もちろん』
『そっか……』
フィーラの言葉にゴドウィンが笑みを浮かべていた時、「うぅ……」という声を上げながらユスティンが目を覚まし、元に戻った相棒の姿に安心した様子を見せた。
「ゴドウィン……どうやら、元に戻ってくれたみたいだな」
『ユスティンさん……! 目が覚めたんですね!』
「ああ、何とかな。……魔王はどこだ?」
『帰っていきましたよ。だけど、また会う事にはなりそうです……』
「そうか……だが、俺もやられっぱなしでいる気は無い。次に会った時こそ、アイツを倒す時だ」
『そうですね。リント王国――そして、この世界の平和を守るためにもあの人は絶対に倒しましょう!』
「ああ」
ユスティンが静かに笑みを浮かべながら答えると、それを見ていたフィーラがクスリと笑いながらゴドウィンへ話し掛けた。
『頑張ってね、騎士様――ううん、私の素敵な旦那様?』
『うん! ありがとう、フィーラ!』
その2体の仲睦まじい様子を周囲が微笑ましそうに見る中、ゴドウィンは不意に空を仰ぎながら穏やかな笑みを浮かべた。
『これからも見守っていてね、僕の最高の相棒』
誰にも聞こえないほどの小さな声が、ゴドウィンの口から漏れた後、ゴドウィンはそれには気付いていない様子で、ユスティンやフィーラ達と共に笑顔を浮かべながらリント王国へと戻っていった。
政実「Epilogue.3、いかがでしたでしょうか」
戒人「今回は『風神』編のエピローグだったけど、今回も元ターゲットは闇落ちしてたな」
政実「そうだね。まあ、闇落ち以外のパターンになる元ターゲットもこれからは作っていくつもりだけどね」
戒人「了解。それで、次回の投稿予定はいつも通りで良いのか?」
政実「そうだね」
戒人「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「ああ」
政実・戒人「それでは、また次回」