Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、千歳戒人です。風景写真か、確かに風景写真って見てるだけで色々な所に行った気になれるし、見てると何だか落ち着く気はするよな」
政実「そうだね。そしていつかは、その風景がある所まで自分の足で行ってみたいんだよね」
戒人「まあ、その気持ちは分かるかな。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん 」
政実・戒人「それでは、第12話をどうぞ」
第12話 真の姿と自然に愛された少女
ターゲットである『
さて……今度は、どんなターゲットの世界に行くのかな……。
そんな事を思いながら朝食を口に運んでいた時、さっきまで美味そうに朝食を食べていた白羽が不意に話し掛けてきた。
「戒人、ちょっと良いかな?」
「ん、何だ?」
「昨日約束したから、朝ご飯の後に今回のターゲットについて紹介してあげるけど、それとは別に1つだけ約束して欲しいことがあるんだ」
「別に構わないけど……何だ?」
「今回の『仕事』が終わったら、最低でも1日は休暇を取って欲しい。休暇と言っても、この屋敷――『|天上屋敷』で過ごしてもらう事になるけど、ここには娯楽室とか音楽室なんかもあるから、退屈はしないと思うよ」
「……まあ、それくらいなら良いけど。お前にとっては、ターゲットをささっとどうにかした方が良いんじゃないのか? あくまでもこれは、他の神々からの依頼に基づいた物なんだし……」
「そうだけど、向こうは向こうでダメ元で頼んできてるところはあるみたいだから、実はそんなに急がなくても良いんだよ。もっとも、本当に急を要するターゲットはいるけど、それは他の皆が行ってくれてるから、戒人は心配しなくても大丈夫だよ」
「……分かった」
いつものように穏やかな口調だったが、やけに真剣な様子が感じられる白羽の言葉に俺は静かに頷きながら答えた。白羽は本当にわけが分からなく、自由奔放でただただ自分の考えたとおりに動く奴だが、自称神みたいな悪魔みたいな存在なのだというから、きっと何か事情があってこんな事を言い出したんだろうと俺は結論づけた。
……まあ、俺もここの施設とか各部屋の様子をじっくりと見た事は無かったし、これも良い機会だと思う事にするか。
そんな事を思いながらうんうんと頷いていると、白羽は心底安心した様子でホッと一息ついた後、再び朝食を食べ始めた。
さて……と、それじゃあ俺も食べてしまおうか。腹が減っては戦は出来ぬ、なんて言葉もあるくらいだし、栄養補給はしっかりとしないといけないからな。
そう思った後、俺は再び目の前にある表面がカリカリのバタートーストや新鮮な野菜で彩られた3色のサラダに手を付け始めた。
朝食後、俺は次の『仕事』に向かうべく、白羽と一緒に拠点のエントランスに立っていた。
そういえば、ターゲットのコードネームはここまで『
そんな事を思いながら服のポケットの中にある
「レディースアンドジェルトルメーン! これより『仕事』のターゲットの名前を発表しちゃいまーす!」
「ここ――エントランスには、今俺とお前しかいないだろうに……。それで、今回のターゲットはどんな奴なんだ?」
「ふっふっふ……それはだね、『
「『自然』……今回も中々スケールがデカそうな相手だな」
「あははっ、まあね。でも、『風神』の件もあるし、必ずしも危険な相手とは限らないから、そこは戒人の立ち回り次第かな?」
「まあ、そうだな。ゴドウィンの時も上手くいけば、話し合いで何とかなりそうだったわけだし、まずはその『自然』とやらの身辺調査から始めないとな」
「ふふっ、だね。さて――」
白羽はそこで1度言葉を止めた後、朝食会の時のような真剣な表情を浮かべながら再び話し始めた。
「さっきの約束、忘れてないよね?」
「ああ、この『仕事』が終わったら、1日でも休暇を取るっていう奴だろ? もちろん、覚えてるって」
「……それなら良いや。僕もそろそろ良い歳だから、色々な事が気になっちゃうんだよね。いやー……歳は取りたくないもんだね」
「……年齢不詳な奴が何を言うんだか。とりあえず、準備は出来てるから、いつでも出発できるぞ?」
「うん、りょーかいりょーかい! そいじゃあいつものアレ、ちゃちゃっと出しちゃおう!」
いつになく明るい調子で白羽がそう言いながらパチンと指を鳴らすと、俺の目の前に様々な世界へと繋がる白い扉が出現した。そして俺は、いつものようにこれから向かう世界へのワクワク感や緊張といった物を静かに感じながら扉に手を掛け、ふうと息をついてから視線だけ白羽に向けた。
「それじゃあ、行ってくるな、白羽」
「うん、行ってらっしゃーい」
その白羽の声に頷いて答えた後、俺は扉に掛けている手に力を加え、そのままゆっくりと押し開けていった。そしてその瞬間、俺の視界は徐々に白い光に包まれ、意識はすぐに白い光の中へと消えていった。
「ん……」
意識が戻った後、俺は背中に感じる柔らかな感触とうっすらと射し込んできている陽の光を感じながら静かに目を開けた。すると最初に視界に入ってきたのは、ベージュ色の天井と薄型のシーリングライトだった。そしてゆっくりと体を起こしながら周囲を見回すと、白い壁紙や学校の制服などが掛かった黒いクローゼット、茶色の勉強机や綺麗に整った本棚などが目に入ってきた。
……これは、『怪力』――皆藤の時になった『
そんな事を思いながら体を上の方へグーッと伸ばした後、俺は今回の姿を確認するために『言葉を司る能力』を行使した。
「姿見、設置場所は箪笥の横」
そしていつもの姿見が出現したのを確認した後、俺はベッドから体を出し、そのまま自分の姿を姿見に映した。すると――。
「……え? お、俺……?」
そこに映っていたのは、いつも通りの俺――『千歳戒人』の姿であり、いくら見返してみても服装以外は拠点にいた時とまるきり同じだった。
え、え……? たしか、『仕事』の最中はその世界で動くのに相応しい姿になるんだよな……? なのに、いつも通りの姿ってどういう事なんだ……?
突然の事に俺が酷く困惑していたその時、勉強机の上に置かれていた連絡用端末から突然着信音が聞こえてきた。
……仕方ない。とりあえず、白羽からの電話に出よう。そして白羽から話を聞いてみよう。
この状況についてそう結論づけた後、俺は姿見の前から勉強机の傍へと歩き、そのまま連絡用端末を手に取った。そして画面に表示されている白羽の名前を確認し、俺は白羽からの電話に出た。
「……もしもし?」
『もしもーし、戒人ー?』
「……そうだよ。世界を移動したはずなのに、姿がまるきり同じな千歳戒人だよ」
『あははっ、やっぱりそうだったんだね。いやー、今
「……それで? これは一体どういう事なんだ? まさか今回は、『千歳戒人』のままが1番って事なのか?」
『いぐざくとりー♪ たまにだけど、そのままの姿で行くパターンもあるんだよ。つまり、今回は偶然そのパターンに当たったわけだね』
「なるほど……言ってみれば、今回は『本人役』って事だな」
『ふふ、そうなるね。まあ、細かい設定以外はいつも通りの戒人で良いわけだし、今までよりは
「まあ、俺としてはそうだけど、実際のところはけっこう難しいと思うぞ?」
よくドラマなんかでその人がちょっと設定が変わっている本人役を演じているところを観た事があるけど、ああいうのは
……まあ、実際のところはどうか分からないけど、俺的にはそんな印象を受けるんだよな。
そんな事を思っていた時、電話の向こうから白羽がクスリと笑う声が聞こえてきた。
『流石は元演劇部、目の付け所がやっぱり違うね』
「お褒め頂き光栄ですよ……っと。まあ、そんなわけだから、今回はそれなりにやらせてもらうよ。もっとも、今回用の『千歳戒人』の設定をしっかりと読み込んだ上でな」
『うん、分かった。それじゃあ、今回も設定はメールで送るから、学校に遅れないようにしながら読むようにしてね』
「ああ、もちろんだ。と言っても、まだ午前6時頃みたいだし、そこそこ時間には余裕があるんだけどな」
『あははっ、それなら安心だね。それじゃあ、今回も頑張ってねー』
「ああ」
そう答えた後、白羽からの電話が静かに切れ、それからすぐに今回用の『千歳戒人』役の設定がメールで送られてきたため、俺は速読をするように目を通した。
ふむふむ……やっぱり違う点が幾つか有るな。まあ、今回も両親や兄弟がいないのはスゴく助かるし、性格設定も大して変わらないみたいだから、そこは安心して演れそうだな。
そして『千歳戒人』役の設定を自分の中へと叩き込んだ後、学校へ行く準備をするべく、連絡用端末を持ったまま自分の部屋を出た。
「……よし、それじゃあ行くとしますかね」
午後7時頃、学校へ行く準備を終えた俺は、家の戸締まりなどをしっかりと確認し、そのまま外へと出た。外は快晴だったため、鍵を閉めてそのまま道路へと出た瞬間、眩しいほどの日差しが俺へと降り注いできたが、俺はさほど嫌な気持ちにはならなかった。
……そういえば、白羽と出会ったあの日、俺はこういう快晴の空すら嫌になってたっけ……。
白羽達拠点にいる仲間達や今まで出会った元ターゲット達との出会いを経て、俺は少しずつ心が穏やかになり、絆や信頼という言葉が好きになってきたが、あの時はそういった言葉が綺麗事のようにしか感じず、心の底から毛嫌いしていた節があった。もちろん、元々の環境――ろくでなしの両親だった奴らや高校の連中がとことん嫌だったのはあるが、あの時の俺――中学の時の友人達にすら連絡を取ろうとせずに自分の殻に閉じこもっていた自分すら嫌いだった。辛い事をただ辛いと言うだけでそれを誰かに相談するでもなく、1人で周囲をひたすら憎み、そうする事で自分の辛さを正当化しようとするだけの存在だった自分がたまらなく嫌だった。けれど、白羽達と出会って元ターゲット達と出会った事で、俺が少しずつ自分という物が好きになってきているのを静かに感じ、絆や信頼という物を信じて良いんだという気持ちになってきているのがとても嬉しかった。
演劇は演者と裏方の全員で作り上げる物だ。演技にはもちろん演技力や役への入り込みなんかが重要になってくるけど、それと同時に演者間の信頼や演者と裏方との間の信頼も必要になってくる。裏方の皆がしっかりと背景を作り、照明や音響の調整をしてくれるから演者が安心して役を演じられるのであり、そこを忘れてしまうよう程度の奴であれば、その演者はただただ『役に演じられる』だけになり、観客を楽しませる事は出来なくなってしまう。だからこそ、こういった集団で行う事というのは、お互いを尊重し合いお互いを高め合う意識というのが必要になるんだ。
「……あの日の俺は、こんな大事な事すら忘れていた。だからこれからは、絶対に忘れないようにきっちりと胸に刻み込もう。今は無くなってしまったアイツらとの思い出と一緒に……な」
過去の事を思い出して少しだけセンチメンタルな気持ちになったが、俺はすぐに気持ちを切り替えてそのまま通学路を歩き始めた。その時、ふと隣の家の表札に目が行き、俺はそこに書かれていた苗字に思わずほうという声を漏らした。
「『
その苗字の珍しさや白羽からの情報に俺が少しだけ興味をそそられていると、天雨家のドアがゆっくりと開き、中から学生鞄を手に持ちセーラー服を着た長い黒髪の色白の少女が出てきた。見た目だけなら拠点にいる少女――月夜にどことなく似ているような気がしたが、顔付きはどちらかと言えばカワイイ系の方であり、月夜から感じる真面目だが柔らかな雰囲気とは違い、少女からはとても穏やかで少し天然そうな雰囲気を感じた。
へえ……この子、演劇で主演かヒロインをやらせたらスゴく映えそうな感じがするな。まあ、興味があるかは別だけど。
そんな事を考えながら少女の事を何となく見ていた時、家の中から両親らしき男女が歩いてくるのが見えたため、俺は怪しまれないように連絡用端末で時間を確認するフリをしながら様子を窺った。
「
「地花は少し……いや、かなりポワンとしたところがあるから、周囲の物には気をつけながら行くんだよ?」
「ふふっ、大丈夫だよ。私なら平気だから、お母さんもお父さんも安心してて」
「……うん、分かった」
「それじゃあ――」
「「行ってらっしゃい、地花」」
「うん、行ってきまーす」
少女――地花は両親へ明るく言葉を返すと、にこにことした顔で道路の方へと出てきた。
……さてと、これ以上ここにいるのもアレだし、そろそろ俺も行かないと――。
そう思いながら再び歩き始めようとしたその時、地花の口から信じられない言葉が飛び出した。
「えーと……学校はどっちだっけ?」
いや、何でだよ! と言いたいのをすんでの所でどうにか堪え、俺はその代わりにはあと溜息をついた。どうやら地花は、両親が心配していたようにかなりの天然らしく、このままでは不正解の道をずんずん突き進んでいきそうな気がしたので、俺は仕方なく地花へと話し掛けることにした。
「あの――」
「あ……風さん、風さん。
「……え?」
地花の口から再び飛び出した信じられない言葉に俺は思わず固まり、そして自分の耳を疑った。
風さん……? え、流石にあの吹いてる風、じゃないよな……? でも、携帯を持ってる様子は無いし、昨日引っ越してきたばかりの奴にこの辺に住んでる友達がいるわけがないし……。
あまりに突然の事に俺が困惑していたその時、地花の顔が急にこちらを向き、人懐こそうな笑みを浮かべながら俺へと近付いてきた。
「すみません、四方木高校ってどこにあるか分かりますか?」
「……え? ああ、分かるけど……俺も今から四方木高校に行くとこだったし」
「え、そうなんですか!? わあ、やっぱり風さんの言う通りにして良かったぁ……!」
「えっと……その風さん、っていうのは……?」
「あはは、風さんは風さんですよ。ほら、今も吹きながら私達の事を見てるみたいですよ?」
地花がクスリと笑いながら言ったその瞬間、地花の言葉通り風が吹き、それによって桜の
えーと……つまり、風さんっていうのは、人の名前じゃなく本当に自然現象の風って事……か? でも、風と話せるなんて――。
そんな事を思った瞬間、俺はある事を思い出し、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
……って、俺も動植物と話せるようになったんだから、似たようなもんだっけ。ヴァルラでは特に使ってなかったからあまり意識してなかったけど、この能力も中々どうして奇妙な能力だよな……。
そんな事を考えていた時、地花は少しシュンとした様子を見せた。
「……やっぱり、そういう事言うのって変、ですよね……?」
「あ、いや……変ではないよ。似たような人がいてちょっと驚いてたって言うか……」
「似たような人って……もしかして、貴方も風さんや土さんと話が出来るんですか?」
「風や土じゃないけど、動物や植物とは話が出来る……かな? まだそんなに話した事は無いから、何とも言えないけど」
すると地花は花が咲いたような笑顔を浮かべながら少し興奮気味に話し掛けてきた。
「そうなんですね! わあ……羨ましいなぁ……!」
「あはは……初めて言われたよ、そんな事。まあ、まだ誰にも話した事はないから、この事は内緒にしてもらっても良いかな?」
「はい、もちろんです! その代わりと言ったらなんですけど、時々動物や植物と話をしてる所を見せてもらっても良いですか?」
「もちろん良いよ。そのくらいならお安いご用だからさ」
「ふふっ、ありがとうございます。えーと……」
地花が少し迷ったような様子を見せた時、まだお互いに自己紹介をしていない事を思い出したため、俺は自分から自己紹介をする事にした。
「俺は千歳戒人。親は仕事の都合で今はいないから、一人暮らしをしてるんだ」
「千歳戒人君ですね。私は
「うん、よろしく。さてと……それじゃあ学校に行こうか」
「はい!」
こうして俺は、地花と一緒に学校へ向かって歩き始めた。そして朗らかに笑いながら色々な事を話す地花の様子を見ながら、俺は地花の事について考えを巡らせていた。
地花の能力――風や土と話す事が出来る能力から、地花が今回のターゲット――『自然』であるのは確定的で、話す様子や所作などから地花自身がそんなに危険じゃないのも分かる。だから『風神』――ゴドウィンの時みたいにとりあえずそこそこ仲良くなっておいて、適当なタイミングで俺の正体を明かしていけば、たぶん今回は済むんだと思う。ただ――。
地花の能力、その存在が俺の行動を制限しているのは明らかだった。風や土、そして砂や泥などの自然の物は、どこにでもある物であるため、『言葉を司る能力』で察知されないようにしない限りは、いくらこっそり能力を使おうともそれはすぐにバレてしまう上、部屋を閉め切って式神や『召喚を司る能力』で呼び出した仲間の力を借りようとしても、結局は外に出す際に『風』が関わってくるため、自分からバラす事と同義なのだ。つまり、今回に限っては能力にほとんど頼らずに地花の情報を得なければならないという事になる。
……本当に地花が危険な奴じゃなくて助かったな。これで好戦的な奴とか見つかった時点でアウトな奴とかだったら、目も当てられな――。
その時、背後から誰かの視線と突き刺すような殺気を感じ、俺は弾かれたように振り返った。しかし背後には誰の姿も無く、雀などの眠そうな囀りが聞こえるだけだった。
気のせい……か? それにしては、妙な感じがするけど……。
そう思いながら気配を探ろうとしたその時、地花が不思議そうに声を掛けてきた。
「どうかしたんですか?」
「……いや、何でもないよ。さて、お互いに初日から遅刻するわけにも行かないし、さっさと行く事にしよう」
「はい!」
そして再び歩き始めた後、俺は先程の視線と殺気の主について考え始めた。
……まさか他にも能力者か転生者がいるのか? けど、隠れて俺達の様子を窺う理由なんて無いはずだよな。でも、さっきの感じからするに俺か地花の事を狙ってるようだったし……。
件の存在について色々と考えた結果、今は情報量があまりにも少なく、確実な答えを出せない事に気付いたため、俺はやむを得ずこっそり『言葉を司る能力』を行使する事にした。
「……召喚、シェイド」
そして闇の精霊――シェイドが俺の影に潜んだ事を感じ取った後、俺は横目でシェイドにアイコンタクトを送り、シェイドが影を伝って姿を消していくのを見送りながら地花と一緒に学校へ向かって歩いていった。
学校に着いた後、転校生であるため1度職員室へと向かう地花と別れ、俺は昇降口に貼られていたクラス表に書いてあった教室へと1人で向かった。そして教室のドアを開けた時、ドアの近くで話していた4人の生徒が一斉に俺の方を向いた。
「あっ、戒人も同じだったんだね。おはよう」
「おはようさん、戒人」
「おはようございます、戒人君」
「おはよ、戒人」
「ああ、おはよう。
俺はこの世界においての友達である
纏め役なんて本当はやった事が無いし、そういう立ち位置にいながら家は少し離れてるようだけど、まあ何とかなるよな。
そんな事を思いながら静かに微笑んでいた時、美虎が面白そうな様子で俺に話し掛けてきた。
「そういえば、先程あまりこの辺りでは見掛けない女生徒と話しながら歩いているのを見掛けましたけど、もしかしてあの方は戒人君の彼女さんですか?」
「あ、そう言われれば僕も見た気がする。スゴく仲良く話してたから、てっきり僕も戒人の彼女なのかと思ったよ」
「あー……アイツは――」
俺が地花について説明しようとしたその時、龍斗が心底驚いた様子で大声を上げた。
「何!? 戒人に彼女だと!?」
「いや……別に彼女とかじゃ……」
「戒人! 高校生で異性交遊なんて、お父さん許さないぞ!」
「誰がお前の息子だ! というか、アイツは彼女とかじゃないっての!」
「……え、そうなのか?」
「ああ。アイツ――地花は、昨日俺の家の隣に引っ越してきたみたいで、学校の場所が分からなかったみたいだから、一緒に登校してただけだよ……」
俺が溜息をつきながら説明を終えると、龍斗は安心した様子で大きく息をついた。
「なんだよー……スッゲぇビックリしたじゃねぇか……」
「勝手に話を進めてたのはそっちだろ? そして美虎と和亀、龍斗が
「ふふ……分かりました」
「はーい」
美虎と和亀が和やかに笑いながら答える中、龍斗は俺の言葉に納得がいかない様子で再び声を上げた。
「いや、待て! 俺が狼狽する姿が面白いって何だよ!?」
「ん? 面白いのは間違ってないだろ?」
「大間違いだっての! それに俺よりも和亀の方が絶対――」
その瞬間、和亀の笑みに少しだけ冷たい物が混じり、それと同じくらいの冷たさを含んだ声で和亀が龍斗に話し掛けた。
「龍斗、何か言った?」
「イ、イエ……ナンデモアリマセン……」
和亀の和やかな冷笑に龍斗が声を震わせながら答えると、それを聞いた雀と美虎がクスクスと笑い出した。そしてその様子に俺は不思議と安心感を覚えた結果、思わずクスリと笑っており、それと同時に中学の時の出来事が想起された。楽しかった思い出に溢れるあの時の状況とは、明らかに似つかない状況である上、コイツらの中にある俺との思い出は、『仕事』を有利に進めるために作られた『偽り』の思い出だ。けれど、仲が良い物同士にのみ生まれるこの暖かな雰囲気や小さな安心感は『本物』だと断言できる。
「……やっぱり仲間って良いもんだな」
そんな言葉がポロッと溢れた時、雀達の不思議そうな視線が一斉に俺へと集中したが、4人ともすぐにニコリと笑いながら同時にコクンと頷いた。そしてそれに対して俺も頷き返していたその時、
「よーし。皆、さっさと席に着けー」
出席簿を抱えた若い男性教師が、俺達に声を掛けながら教室へと入り、俺達が席に着いた事を確認した後、出席簿を教卓へ静かに置いた。
「えー……皆、今日は待ちに待った始業式なんだが、その前に転校生を紹介する」
その言葉に教室中がざわざわとし始めたが、男性教師の大きな咳払いでそれはピタリと止み、男性教師は再び話を始めた。
「転校生と聞いて気になるのは分かるが、とりあえず静かに頼むな。さて……それじゃあそろそろ入ってきてもらおうか。天雨、入ってきてくれ」
「はい!」
その弾んだ声と苗字にうっすらとした嫌な予感を覚えていたその時、さっきまで一緒にいた少女――天雨地花がニコニコとしながら教室へと入ってきた。
……おいおい、ターゲットがお隣さん兼クラスメートって、どんなラブコメなんだよ……。
心の中で深く溜息をついていた時、俺と美虎と和亀を除いた全員からわあっという歓声が上がった。
……まあ、地花は美少女の類いにはあたるから、こうなるのも当然か。ただ……俺からしたらだいぶ気が重いんだけど……。
そんな事を思っていた時、地花の簡単な自己紹介がいつの間にか終わっており、何故か地花がこちらへ向かって歩いてきていた。そして地花は、1つだけ空いていた俺の隣の席にトスンと座ると、ニコッと笑いながら声を掛けてきた。
「改めてこれからよろしくね、戒人」
「……こちらこそよろしく、地花」
はあ……いつの間にか呼び方まで変わってるし……。でもまあ、こうなった以上は文句を言ってもしょうがないし、ここは全力で演る方が1番だな。
仕方なさを感じながらも俺は今回の『仕事』への決意を新たにし、地花に向かって静かに微笑んだ。
『あははっ、今回も中々愉快な事になってるね!』
「俺からすれば、全然愉快でも何でも無いけどな……」
その日の夜、俺は定期連絡と称した白羽からの電話を受け、電話の向こうから聞こえる白羽の言葉に対して溜息交じりに答えた。数時間前の放課後、今日は始業式だけだったが、担任教師が教室から出ていった瞬間、俺と地花はクラスメート達から質問攻めに遭っていた。もっとも、俺は巻き込まれただけに過ぎなかったのだが、美少女転校生の隣の席という別に望んでいないポジションと転校初日から親密そうに見えた事から男女関係無く質問攻めに遭った上、羨みと嫉妬が入り交じった視線を龍斗と和亀以外の男子から向けられ、俺は正直なところ閉口していた。しかし雀達がどうにか助け船を出してくれた事でそれも何とかなり、ようやく解放されたと心から安堵した次の瞬間、今度は地花との下校という役目を仰せつかり、俺は雀達の視線を背にしながら地花と一緒にそのまま下校したのだった。
はあ……何で初日からこんなに疲れないといけないんだろう……。
『でも、そういうラブコメイベントのお陰でターゲットとは距離が縮まった上、ターゲットの両親とも接点が出来たんだから、今回は上々の滑り出しなんじゃない?』
「それはそうなんだけどさ、ただでさえ『異世界バトル』みたいなのに、このままだと『異世界学園ラブコメバトル』なんていうジャンルの渋滞みたいな物になりそうなんだよ……」
『えー、良いと思うけどなぁー。僕は好きだよ、そういうゴチャゴチャとした感じ』
「……さいですか。まあ、それはそれとして――」
その瞬間、俺はさっきまでグダッとしていた気持ちを切り替え、今朝の謎の存在へと話題を変えた。
「一応、シェイドには探ってもらったんだけど……結局、途中で気配を探れなくなったみたいなんだよな」
『うーん……でも、その世界には『自然』以外に依頼を受けてる相手はいないはずだよ? だから、考えられるのは元々そこにいた能力者か偶然その世界に転生させられた誰かが、急に力を付けて他の能力者を狩り始めようとしてる可能性、それかその世界に『能力開発』をしてる組織があって、そこが戒人達に興味を持って調査を始めた可能性くらいかな』
「なるほどな……そうなると、地花だけじゃなく雀達にも危害が及ぶ事になるし、暫くは式神達やシェイド達に身辺調査と警護を頼む事になるな。本当は地花に気付かれたくないから、あまり能力は使いたくないけど……」
『まあ、しょうがないと思うよ? 正体不明の第三勢力がいるとなると、こっちとしても色々と困るし』
「そうだな。とりあえず、当面の目標は全てを短期決戦で終わらせて、ささっと能力を回収して帰還する事にするよ。長期戦になると、中々厄介な気がするからさ」
『うん、分かった。戒人、無理しない程度に頑張ってね』
「ああ。それじゃあ、お休み」
『うん、お休みー』
そして白羽からの電話を切った後、俺は連絡用端末を机の上に置き、そのままベッドの上へと寝転んだ。その瞬間、日中の疲れとベッドの柔らかさから強い眠気が俺を襲い、徐々に
……色々気になる事はあるけど、とりあえず今日はもう寝よう。そして明日から、本格的に『仕事』に向けて頑張ろう……。
そして俺の意識はそのまま薄れていった。
政実「第12話、いかがでしたでしょうか」
戒人「今回から新章なわけだけど、今回のターゲットは、ある意味強敵だよな……」
政実「あはは……まあ、そうだね。尚、作中で戒人が言ってたような『異世界学園ラブコメバトル』みたいな感じにはこれからなっていく予定だよ」
戒人「……了解。因みに次回の投稿予定はいつも通りで良いのか?」
政実「そうだね」
戒人「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「ああ」
政実・戒人「それでは、また次回」