Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、主人公の千歳戒人です。このまだまだ未熟者な作者と共に頑張っていくつもりなので、これからよろしくお願いします」
政実「あはは……最初から痛いところを突いてくるね、戒人」
戒人「事実なんだから、しょうがないと思うけど。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、第1話をどうぞ」
第1話 絶望と再出発
雲一つない澄み渡るような青空の下、俺は一人で学校に向かって歩いていた。
……ちっ、何でこんな日に限って快晴なんだよ……。
頭上に広がる青空に対して苛立ちを感じながら侮蔑の視線をくれてやった後、俺は自分の気分とは真逆の空の様子に
……ふん、もしいたとしたら、そいつはよっぽどの勉強バカかただのバカに違いない。もっとも、そんな奴が偶然すれ違って、挨拶をしてきたところで、俺は一切返す気は無いし、して欲しくもない。今の俺にとって、そういう奴は心の底から嫌いだし、視界に入ってきた途端、思わず殴り掛かってしまいそうになるだろうしな。
その様を想像して静かに鼻を鳴らした後、俺は学校へ向かって進む足を速めた。頭の中にある自分自身の計画を速やかに実行へ移すために。
学校に着いた後、俺は下駄箱を確認した。俺の下駄箱──いや、下駄箱だったものには俺に対しての侮蔑の言葉やら下手な落書きやらが所狭しと描かれており、下駄箱の中にあった上履きには様々なゴミや虫の死骸などが詰め込まれていた。
……さて、さっさと上履きだけどうにかするか。
もはや、この下駄箱や上履きの惨状には何の感想も抱かなくなっていたため、俺は上履きを下駄箱だったものから取りだした後、中に入っているもの達を
てんで役にも立たない教師達がいつものさばっている職員室や頭がすっからかんの校長が適当に仕事をこなす校長室をこっそりと抜けながら次々と階段を上っていき、屋上に繋がる階段の一段目に足を掛けた後、俺はチラリと自分の教室だった場所がある方へと視線を向けた。
……良かったな、お前ら。これでお前達はこれからはあんな無駄な事をする事無く、汚い笑い声を辺りに垂れ流したりお前らにとって意味も無い勉強に精を出したり出来るぜ?
鏡を見なくとも分かる程の嫌な笑みを浮かべながら心の中で語り掛けた後、俺は目的地である屋上の方へと体を向け、屋上への階段を上り始めた。そして、屋上のドアの前に着いた後、俺はさっきので再び浮かんできてしまったやり場の無い怒りと憎しみ、恨みや哀しみといったマイナスの感情を込めつつ、ドアを静かに押し開けた。ドアが古くなっているせいか、ギギギという耳障りな音を立てながら開くと、その向こうには俺の最期の目的地である屋上と忌々しい程の青空が広がっていた。
……さて、そろそろ行くか。
これから行う事への決意を固めた後、俺はドアを潜って屋上へと出た。当然の事だが、屋上には俺以外の誰かの気配は無く、ムカつく程に晴れ渡った青空が広がる下で
……まあそんな
そんな事を思いつつ、俺は誰もいない屋上を歩き、人が落ちないように設けられた高校生男子の胸くらいの高さの白い鉄柵の前で立ち止まった。
……ここが引き返すための最後のチャンスになるわけか。
そんな事を思っていた時、ふと
……ダメだ、今更アイツらに頼るなんて真似はしたくない。それに、今の俺に引き返す気なんてのは全く無い。今引き返したりなんてしたら、今日までの決意や準備が全て無駄になるからな。
そして俺は、手に持っていた外靴を足下に置き、鉄柵に手を置きながら周囲を見回した。時間のせいもあってか、通学路や校庭などには人っ子一人おらず、計画を実行するなら今が絶好のタイミングだと言えた。
……さて、それじゃあそろそろやるか。
俺は決意を秘めながらコクンと頷いた後、制服のポケットに入れていた白い封筒を取り出し、風で飛ばされないように先程置いた外靴の中にそっと入れた。
……よし、これで良い。後は俺がここから飛び降りるだけだ。
俺は再び柵の外へ視線を向け、風を感じながら鉄柵に足を掛けた。その一段目に足が掛かったその瞬間、役立たずの両親の顔が浮かんだ。両親は俺が小さい頃からとても仲が悪く、常に殴り合いや物の投げ合いといった争いを繰り返し、お互いに対しての暴言などを俺にも吐き続けてきた。そして、今朝も俺が早い時間に学校に行く準備をしている事に何の疑問も抱かず、お互いの暴言などを口にしながら取るに足らない争いを続けていた。
……まあ、あんな連中は俺がいなくなろうともどうでも──いや、意外とせいせいするかもな。授業参観はおろか、三者面談や卒業式なんかに出るのも渋るような連中だし。
そんな両親の顔を彼方へと追い払った後、俺はもう片方の足を次の段へと掛けた。そしてその瞬間、今度はクラスのいじめっ子達の顔が浮かんだ。
……まあ、あんな奴らに負けを認めたような形に見せなきゃないのは、少々──いや、かなり残念だ。けど、俺の
真っ青になったソイツらの顔を想像し、俺は再び嫌な笑みを浮かべた後、手摺に片足を置いた。そしてその瞬間、今度はクラスの他の連中、そして使い物にならない担任の顔が浮かんだ。いつもは友達や教師としての仮面を被っているくせに、いざという時には無関心や敵対心の仮面を被り始めるどうしようもない連中、アイツらはそんな奴らなのだ。
……無関心ってだけならまだ良い。けどアイツらは、いじめっ子連中の行いを面白そうに、そして楽しそうに見ていた。元から大して期待していなかったとはいえ、ここまでの屑ばかりが揃ってるなら、やっぱり一度あの仕掛けで全員が痛い目にあった方が良いだろうな。
俺の仕掛けによって、ソイツらが慌てふためく様子を想像した後、俺はもう片方の足も手摺へと掛けようとした。しかし──。
「……ねぇ、そこで何してるの?」
突然、後ろから不思議そうな声が聞こえ、俺は上げていた足をピタリと止めた。
……ちっ、あと一歩だったのに。
俺は心の中で舌打ちをした後、渋々足をさっきの位置へと戻してから声がした方へ振り向いた。するとそこには、ブレザーを着た同い年くらいの男子生徒が不思議そうな表情を浮かべながら立っていた。
ブレザー……だと? ウチの制服は学ランだから、コイツは他校の奴なんだろうが、だとしたらどうして他校の奴がこんな時間にここにいるんだ……?
疑問に思った俺は、両足をしっかりと屋上の床へ戻した後、手摺に体を預けながらソイツに話し掛けた。
「……お前、他校の奴だろ? 何で他校の奴がこんな時間にここにいるんだ?」
「他校……?」
ソイツは更に不思議そうな表情を浮かべた後、俺の服装を見て何か気付いたような様子を見せた。
「あ、なるほど……そういう事かぁ」
「そういう事かって……まさか、今の今まで気付かなかったのか?」
「うん、まったく」
ソイツのニコニコとしながら答える様子に、俺は大きなため息をついた。
……最悪だ。何でこんな時にこんなヘンな奴に絡まれなきゃないんだ……。
心の中で頭を抱えつつ、現実で大きなため息をついた後、俺はソイツに再び話し掛けた。
「……それで? 結局のところ、お前は誰なんだ?」
「僕? そうだね……うーん、何て言ったら良いかなぁ……」
「何て言ったらって……」
……ダメだ。こんなおかしい奴に関わってたら、絶対に計画を実行出来なくなる。コイツが考え込んでる内に、さっさとここから飛び降りてしまおう。
そして、再び手摺の方へ体を向けた時、後ろからソイツが声を掛けてきた。
「……ねぇ」
「……んだよ、今俺はやらなきゃない事が……」
返事をしながら、再び柵に足を掛けようとしたが、コイツの口から出た次の言葉に、俺は
「まあまあ。所詮親からストレスの捌け口にされたり、いじめられっ子を助けた結果、今度は自分がターゲットになったり、クラスの奴とか担任とか助けたはずの奴とかから裏切られたりしたから、ここから飛び降りて死ぬくらいのことでしょ? だったら、僕と話してた方が何倍も──」
「……おい、待てよ」
「ん、どったの?」
ソイツは少し不思議そうにただ首を傾げていたが、俺にとってはソイツの姿が何か得体の知れない物のように見え始めていた。
……コイツ、何でそこまで詳細に知ってるんだ……!? たとえ、コイツが他校の奴だろうと転校生だろうと、そこまで詳細に知ってるはずが──。
「何でって……まあ、それは僕だから、だね」
そしてソイツは、まるで俺の思考を読んだかのようにそんな事を言い始めた。
……いや、実際に
俺が警戒しながらソイツの事を見始めると、ソイツは人畜無害そうな笑顔を浮かべながら穏やかに話し掛けてきた。
「まあまあ、そんなに警戒しないでよ。僕は君に良い話を持ってきただけだし、時間もたっぷりあるんだから、少しは僕に心を開いて話を聞いてくれないかな?」
「良い話……? それに時間もたっぷりって……俺には時間が限られて……!?」
その瞬間、周囲の様子に俺はある違和感を覚えていた。
「音が……聞こえない? それに……雲が全く動いていない……!?」
そう、先程まで聞こえていたはずの鳥の囀りや道路を通る車の音がまったく聞こえなくなった上、本来止まるわけの無い雲が全く動いていなかったのだ。
コイツ……本当は得体の知れない何かどころの話じゃないんじゃあ……!?
ソイツの存在その物に恐怖を抱き、俺は静かに
……嫌だ、死にたくない……!
さっきまで飛び降りようとしていた筈なのに、今の俺の心の中には生きたいという気持ちがふつふつと沸き始めていた。
「く、来るなよ……!? お、お前なんかに……殺されてたまるか……!」
支離滅裂。その言葉がぴったり合う程、俺の口から出た言葉は恐怖と生きたいという気持ちで訳が分からない物になっていた。けれど、ソイツはそれにも関わらずニコニコとしながら俺へとゆっくりと近付き、静かに声を掛けてきた。
「安心してよ。別に僕は君の命なんて欲しくは……まあ、ある意味
「う、うるさい!! 見ず知らずの得体の知れない奴の言う事なんか聞くわけがないだろ?!」
「うーん……まあ、そうだね。でも、さ……」
ソイツはピタッとその場で止まると、首を傾げながら不思議そうな声を上げた。
「今の膠着状態とか今の君が生きている状況とかよりは素晴らしい世界へ君を招待できる自信はあるよ?」
「す、素晴らしい世界……?」
俺が疑問の声を上げると、ソイツは子供のようにあどけない笑顔を浮かべながら大きな声を上げた。
「あっ、もしかして興味を持ってくれた!?
ねぇねぇ、話に興味を持ってくれたよね!?」
「う、うるさい! 別に興味を持ったわけじゃあ──」
嘘だ。俺は本当は興味を……いや、コイツの言葉に救いを感じてしまっていた。
今のようなつまらなく、どうしようもない世界から解放され、その素晴らしい世界とやらに本当に行けるなら、俺はコイツについて行くだろう。だが、どう考えてもこの得体の知れないコイツに着いていくのは、得策のようには思えなかった。
『知らない人には着いていってはいけない』
そんな小学生が言われるような言葉が、俺が一歩踏み出すのを邪魔しているように思え、それによってコイツに対して本当の気持ちを言い出せずにいた。
……ははっ、さっきまで死のうとしていたってのに、いざとなったら死にたくないとか言うし、目の前に見えている新しい可能性に手を伸ばそうともしないし、俺って本当にどうしようもないな……。
自分自身に対してそんな自虐的な感想を抱きつつ、静かに俯いていたその時、「うーん……そうかなぁ?」とソイツは首を傾げると、俺に顔を近付けながら言葉を続けた。
「僕には君がどうしてもどうしようもない人物に見えないんだけどなぁ……」
「……いや、どうしようもねぇよ、俺は」
「ううん、どうしようもなくないよ。だってさ、君はいじめられっ子を助けた結果、虐めの対象になった。もしかしたらそれは、ただの気紛れだったかもしれないし、本当に助けたいと思ったからかもしれない。でも、それよりも大事なのは、他の生徒が見て見ぬふりをしている中で君だけはその生徒を助けたという事実なんだ」
「助けたという、事実……」
「そう。だから、そんな君がどうしようもない人間なわけが無いよ。まあ、君が死んだ後、君が録音していた虐めの音声やカバンに仕込んでいた隠しカメラで撮っていた証拠写真なんかが、教育委員会とか世間とかに出回るように仕掛けたのは中々エグいけどね」
「……はは、そこまでお見通しなんだな」
「うん。何せ僕は君の言う通り、神のような悪魔のような得体の知れない存在だからね」
「神のような悪魔のような得体の知れない存在……」
その言葉で胡散臭さは更に増したが、正直そんな事はどうでも良かった。
「……って事は、この周囲の状況もやっぱりお前がやったのか?」
「うん。簡単に言えば、僕と君がいるこの屋上以外の時間を止めた感じかな?」
「時間を止めた……ははっ、ますますわけ分かんねぇや。でも……」
俺は顔を静かに上げた後、ニコニコとしているソイツに話し掛けた。
「俺の事をその素晴らしい世界とやらに連れて行く。それは本当なんだよな?」
「もっちろん。……まあ、その場合はこの世界にはもう戻れないし、この世界に君がいたという事実は消させてもらうけどね」
それを聞いた瞬間、再び
「大丈夫だよ。君がいた事実が無くなるという事は、この世界の人達から君に関しての記憶は元から無かったことになるって事だから。だから、今更誰かの心配をする必要なんて無いってわけ」
「……そうか。そういう事なら、こんな所に戻る気も無いし、『俺』という存在がない方が良さそうな気がするからな」
「そう、それなら良いけどね。後は……一つだけ話しておかないといけない事があるかな」
「……何だよ」
「僕についてきてもらった場合、君にはやってもらわないといけない事が出来るけど、それでも良いの?」
「……何だって良い。ここからいなくなれるなら、何だって良い」
俺がそう答えると、ソイツはニコッと笑いながら右手を上へと掲げた。すると、その手から突然眩いほどの光が溢れ出し、俺の視界を白く覆い隠した。
「なっ、何だよ、これ……!?」
「あははっ、大丈夫大丈夫。すぐに……どうに、か……」
途切れ途切れに聞こえてくる声を聞いている内に、俺の意識はどんどん遠退いていき、やがて白かった視界は黒く染まっていった。
「う……」
意識が戻り、声を上げながら目をゆっくりと開けると、そこには──。
「……豪邸? それにここは……?」
大きな黒い門、そしてその後ろに
そして周囲を見回してみると、辺りには綺麗な花々が咲き乱れる野原が広がっており、俺がいた場所どころか普通の場所ではないのが明らかだった。
「……あれ、そういえばアイツがいない……?」
俺をここへと連れてきた張本人、自称神のような悪魔のような得体の知れない存在の姿が無かったため、俺は周囲を見回した。すると、「うんうん、何とか来られたみたいだね」と突然後ろからそんな声が聞こえたため、俺は弾かれたように後ろを振り向いた。そして、そこにはさっきまで一緒にいた自称神のような悪魔のような得体の知れない存在が立っていた。
「……何いきなり現れてんだよ、ビックリするだろ!?」
「あははっ、だよねぇ~♪ まあ、君を驚かせようとしてたから、僕としては大成功だけどね~」
「はぁ……本当に意味分かんねぇ奴だな」
「まあまあ、そう言わないでよ。あ……後、僕の事は
「……そうだな」
うん、ここはもう諦めよう。コイツのマイペースさに本気で立ち向かおうとしたら、絶対に疲れるからな……。
大きなため息をつきながらそんな事を考えていたその時、白羽は体をグーッと上へ伸ばしながら声を上げた。
「うーん……それにしても、やっぱり
「処理って……俺がいたっていう事実を消すとか言ってた奴か?」
「その通りだよ。さっきはあんな風に軽く言ったけどね、その実情は中々エグい物だよ?」
「エグいって……?」
「そうだねぇ……君の場合は、君が絶対に生まれないように色々と手を尽くした感じかな。もっとも、流石にここでは言えないような凄惨な物だから、あえて言わないけどね」
「……分かった」
その凄惨な物とやらは少々気になるが、コイツがそこまで言うならあえて聞かないことにしよう。その事についてそう結論付けた後、俺は周囲の状況や目の前の豪邸について白羽に訊いてみることにした。
「白羽、ここは一体どこなんだ?」
「ここはね、あらゆる次元の境目みたいなとこだよ」
「あらゆる次元の境目……?」
「うん。まあ、とりあえず中に入ろうよ。
話なら中でゆっくりとしてあげるからさ」
「……分かった」
俺はコクンと頷いた後、白羽と共に件の豪邸へ向かって歩き始めた。そして、黒く大きな門を潜ると、そこにはとても広い庭園や噴水、そして東屋のような物などがあった。
「白羽……ここってまさか、お前の家なのか?」
「うん。というか、これからは君の家でもあるんだよ」
「ここが、俺の家……ははっ、そう言われてもまったく実感が湧かない な……」
「ははっ、そうだろうね。
でも大丈夫、すぐに実感が湧くしここでの生活にも慣れるからさ」
「……だと良いけどな」
白羽とそんな事を話している内に、俺達は豪邸のドアの前に立っていた。そして、白羽が手慣れた様子でドアをゆっくりと開けた後、一緒に中に入っていった。
「……何だ、これ……?」
「ふふっ、中々スゴいでしょ?」
そこに広がっていたのは、外から見たよりも絶対に広いと言えるエントランスの光景だった。
壁際に置かれた多くの台には調度品のような物が置かれ、天井にはシャンデリアが、そして目の前には二階へと繋がる大きな階段があり、今みたいな状況ではなかったら、夢か何かかと勘違いをしてしまいそうだった。
「白羽……本当にスゴいとこだな、ここ……」
「でしょ? 何せ、住み良くするために色々と頑張ったからねぇ……」
「色々とって……これはもう、そういうレベルじゃ無い気が……」
そう言いながら目の前の光景に茫然としていると、通路の内の一つから誰かの足音が聞こえてきた。
……あれ、他にも誰かいるのか?
不思議に思いながら足音の主を待っていると、通路の向こうから人のような影が歩いてくるのが見えた。そして、その影が近づいてきた時、俺の視界に飛び込んできたのは、メイド服を着た同い年くらいの女子だった。ソイツは、黒く長い髪をしており、満月を模ったペンダントのような物を首から掛けている他、目つきはそこそこ鋭く、顔付きはいわゆるキレイ系と言われるような見た目だった。
コイツもこの家の住人なのか……?
不思議に思いながらソイツのことを見ていると、ソイツはスタスタとこっちに向かって歩いてきた後、白羽の目の前で止まると恭しく一礼をした。
「白羽様、お帰りなさいませ」
「うん、ただいま、
「はい。どなたもお務めの最中のようで、お戻りになった方はおりません」
「そっかそっか。せっかく新しい仲間を連れて来たから、紹介したかったんだけど……まあ、それならそれでも良いや」
白羽は少し寂しげに笑った後、俺の顔を見ながら月夜の事を紹介し始めた。
「この子は
「そうか。えっと……よろしくな、月夜」
「はい、よろしくお願い致します。ところで……貴方のお名前は何と仰るのですか?」
「あ……俺の名前、は……」
正直な事を言えば、心の底から言いたくない。別に自己紹介をしたくないわけじゃないんだが、やっぱりあの両親が付けた名前なんて俺にとっては本当にいらない物であり、これを機に捨ててしまいたいからだ。
でも、自己紹介をしないわけにもいかないし、本当にどうしたもんかな……。
俺が名前の件について悩んでいたその時、白羽が突然月夜に話し掛けた。
「彼の名前は、
「分かりました。では、改めまして……これからよろしくお願い致します、戒人様」
「え、あー……うん。よろしくな、月夜」
「はい」
月夜が恭しく一礼をしながら答えると、白羽はニコッと笑いながら月夜に再び話し掛けた。
「さて、月夜。とりあえず今日の所は、彼に説明をするだけだから、君にはご飯の準備とかをお願いしても良いかな?」
「畏まりました」
月夜は静かな声で答えると、俺達に向かって一礼をしてから通路の内の一つへ向かって歩いていった。
竹林月夜……ねぇ。何だかかぐや姫を思わせるような名前だな……。
そんな事を考えつつ、月夜が通路の向こうへ消えていくのを眺めていると、白羽がクスクスと笑いながら話し掛けてきた。
「ふふ、そんなに月夜の事が気になったの? 戒人」
「……別にそういうんじゃないって。まあでも……何だかかぐや姫みたいな名前だなとは思ったけどさ」
「ははっ、鋭いね。やっぱり僕が名前を付けた者同士、何か分かり合う物でもあるのかな?」
「名前を付けた者同士って……もしかしてアイツも俺と同じようにしてここへ来た奴なのか?」
「うーん……まあ、そんなところかな。ただ、今のところはそれについて触れないであげて欲しいんだ。ちょっとその理由までは、まだ話せないけど、ね……」
その白羽の言い方が少し気になったものの、俺はその白羽の表情から今はそっとしておいた方が良いと悟った。
「……分かった。本人が話してくれるまでその事については何も訊かないよ」
「うん、ありがとう、戒人」
俺の答えに白羽はニコッと笑いながらお礼を言った。
……あ、名前と言えば……。
「こっちこそ、さっきはありがとな、白羽」
「あ、もしかして……名前の件?」
「ああ。正直さっきはかなり困ってたからさ、白羽がああ言ってくれて本当に助かったよ」
「ふふ、どういたしまして。いきなり付けてみたから、かなり不安だったんだけど、その様子だと気に入ってくれたみたいだね」
「ああ、それもかなりな」
「ふふっ、それなら良かったよ」
白羽は少し安心したように笑った後、少しだけ真剣な表情を浮かべた。
「さて、と……それじゃそろそろここの事とか戒人にこれからやってもらわないといけない事を説明するね」
「ああ、分かった」
「まず、ここなんだけど……ここはさっきもチラッと言った通り、あらゆる次元の境目のような所で、ここからなら君がいた世界は勿論のこと、様々な世界へと行く事が出来るんだ」
「へぇ……様々な世界か」
「うん。それでここが僕達の家兼、僕達の拠点だね。
ここには僕達の他に後四人ほど住んでるんだけど、最近ここには寝に帰ってる感じだから、タイミングが合わなきゃ中々会えないかもしれないね」
「……まあ、それはそれで良いけどな。さっきの月夜はしょうがないとして、今のところはあまり他の奴とも馴れ合う気は無いからな」
「そうだろうね。まあそれでも、偶然会った時とかは挨拶くらいはしてあげて欲しいかな」
「……分かった、善処する」
「うん、ありがとう。そして次なんだけど、ここはそういう場所であるため、時間っていう概念とかが無いから、いつまでも今の姿で過ごす形になるし、何かを食べたりする必要も無いから、寿命とかで死ぬ事は一切無いよ。でも、そういう時間の概念は仕事の際に必要になるから、そのために時計を置いてたり、朝食とか夕食なんかも時間を決めて摂るようにしてるかな」
「一応、死みたいな概念はあるんだな」
「うーん……死というよりは、存在の消滅かな? まあこれは、これから戒人にやってもらう仕事に関連してるから、その時に説明するよ。因みにそんな感じだけど、食堂やらお風呂やらは完備してるし、各自の部屋もあるから住み心地は抜群だと思うから安心してね」
「分かった」
「それで、これから戒人にやってもらいたい事について何だけど……」
白羽は少し不安そうな表情を浮かべながら言葉を続けた。
「戒人は、『チート』って知ってる?」
「チート……ああ、たしか騙すとかって意味の英語? だっけ?」
「あ……そっちなんだね。まあ、そっちもあるけど、僕が言ってるのは……ゲームとかのチートとかの方だね。ほら、最初からあり得ないステータスで始めたりとか自分達だけ攻撃を受けないようにしてストーリーを進めたりとか……色々あるでしょ?」
「あ、そっちか。まあ、一応知ってはいるけど……そのチートがどうかしたのか?」
「実は……それってゲームとかに限らなくてね、そういうチート的な能力を持った人間っていうのがたまにいるんだよ。もっとも、何かしらのきっかけで偶然発現するのもあれば、『転生』っていう形でチートな能力を持って生まれてくる人もいるんだ」
「転生……いわゆる神様転生って奴か」
「そう。まあ、大抵の転生者はその能力を良い事に使うんだけど、中にはその能力を使って悪事を働いたり、世界自体を掌握しようとしたりする人、後は知らず知らずの内に世界の崩壊の引き金になっている人とかもいるんだよ」
「へぇ……けど、神様転生ってなら、その神様がちゃんとこれなら大丈夫だって分かって転生させてる奴なはずだろ?」
「うん、大体はそう。ただね……中には人の良い神様を騙してチートな転生特典をもらう人とか他の邪神とかから無理やり送り込まれた悪人、果ては予想を遥かに超えて強大になってしまったものまで、様々なパターンがあるんだ」
「……何というか、人も神様も似たようなもんだな」
「あはは……本当にね。そして、僕達がやるべき事なんだけど、それがそういったチート転生者や邪悪な転生者、または力の制御をしきれない人とかを他の神様からの依頼に基づいて処理していくことなんだ」
「他の神様からの依頼……ねぇ。まあ、それは良いとして……どうやってそんな奴らに立ち向かえば良いんだ?」
「それなんだけどね……戒人は、『毒をもって毒を制す』って言葉は知ってる?」
「ああ、たしか……悪を取り除くために他の悪を利用する事……」
その時、俺は白羽が言わんとしている事、そして俺の目の前に待ち受けている事態に気付いた。
「……まさか、俺もそのチートな能力を持って、ソイツらの処理をするって事か?」
「その通り。ではあるけど……ちょっと待っててね」
そう言うと、白羽は両手を上へ向けて広げた。
すると、白羽の両手に小さな光が幾つか現れ、スーッと浮かび上がったかと思うと、俺の方へと静かに飛んできて、そのまま俺の中へと入り込んでいった。
……今のは、一体……?
「白羽、今のは何なんだ?」
「今のは……『力の源』。その人の中に入り込む事で、その人に合った能力へと姿を変えるものだよ。まあ、他の神様とかだとオーブだったり光の粒子だったりするんだけどね」
「へぇ……そうなのか……!?」
白羽に対してそう答えていたその時、俺の体が突然熱くなってきた様な気がした。
な、何だ……これ……! 体が……スゴく、熱い……?!
体が感じた熱は俺の中で更に大きくなり、まるで俺の体を焼き尽くそうとしているかのようにも思えた。
ぐ……! だが……こんなのに負けてられるかよ……!!
俺が必死になってその熱に耐えていたその時、俺の頭の中に幾つかの光景が浮かび始めた。
それは何もかもが『逆さま』な世界であったり『言葉』が宙を舞っているような世界であったり、または『様々な生き物』が生活する世界だったり、と統一感が無かったが、何故だかその様々な世界達に安心感を覚えていた。
……つまり、これが俺の能力……。
様々な世界──俺の能力のイメージの光景に浸っていると、突然視界が暗くなっていき、程なくして目の前の光景が全て見えなくなってしまった。
……え、これは一体……?
その事に俺が戸惑いを隠せずにいたその時、俺の近く──耳元から突然声が聞こえた。
『……自分自身を、そして世界の流れを信じろ。
そうすれば、自ずとお前には大切な物が見え、大切な仲間が増えていくから』
自分自身を……そして世界の流れを信じる……?
俺がその言葉の意味を考えようとしたその時、暗かった視界が一気に開け、目の前には心配そうに俺の事を見ている白羽の姿があった。
「し、らは……?」
「あっ……! 意識が戻ったんだね……!」
「……まあな。ただ、能力はしっかりと受け取れたみたいだから、その辺は安心してくれ」
「うん、どうやらそうみたいだね。えっと……戒人の中に生まれた能力が……」
そう言うと、白羽は自分の目を赤く変化させながら俺の事をジッと見始めた。
そして、白羽の目が青に戻ると、白羽は少し驚いた様子で声を上げた。
「おぉ……これはスゴいね……!『逆転を司る能力』に『言葉を司る能力』、それに『召喚を司る能力』に『事象の流れを司る能力』なんて……!」
「え、それって……」
白羽が発した言葉、それはさっきの俺の頭の中に浮かんでいた光景達、そして耳元で聞こえた言葉に関連したものばかりだった。
……やっぱり、さっきのはそういう奴だったんだな……。
「白羽、その能力達ってスゴいのか?」
「うん。ただ、その能力達には欠陥のような物はあるんだけどね」
「欠陥?」
「うん。でも、それは自分で使ってる内に自然に分かるものだし、特に危険な欠陥では無いみたいだから、ここでは説明しないけどね」
「……分かった」
白羽の言葉にそう答えた後、俺は自分の中に生まれた能力に意識を向けた。
俺だけの能力……名前から何となく察せる物からちょっとまだ分からないものまであるけど、こうなった以上、精一杯やってみるか。
俺の中に生まれた能力、そしていわゆる魔力みたいな物の鼓動を感じつつ、俺は心の中でそう決意していると、白羽がニコッと笑いながら話し掛けてきた。
「とりあえず、今日は説明だけの予定だから、こんなところかな。戒人、明日からよろしく頼むね?」
「ああ、分かった」
そう答えながら、俺は白羽と握手を交わした。
白羽に月夜、そしてこの世界。まだまだよく分からない事ばかりだけど、コイツらとならたぶん何とかなる気がする。
その確信にも似た予感に、俺は静かに口元を綻ばせた。
「さて……ここが俺の部屋か」
白羽達との夕食や入浴を済ませた後、俺は白羽から案内された俺の部屋の中にいた。部屋の中は一人部屋とは思えない程広く、ベッドなどの寝具からタンスなどの家具まで色々な物がしっかりと揃えられており、見たところホコリなどは一つも無いほどに綺麗に掃除されていた。
……もしかして、月夜が全部の部屋を掃除してたりするのかな……?だとしたらちょっと申し訳ないし、出来る限り俺も掃除するようにしようかな。
そう思いながら俺はベッドへと近付き、そのまま倒れ込むようにしてベッドへと寝転がった。
疲れたなぁ……まあ、今日は色々とあったし、しょうがないのか……。
今朝の出来事や白羽との出会い、そしてこのよく分からない世界や自分のこれからの仕事。そんな様々な出来事を思い返している内に、俺は徐々に
……眠いな。明日から頑張らないといけないらしいし、今日はもう眠るか……。
久しぶりの安眠への期待を感じつつ、俺はそのまま意識を手放した。
政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
戒人「今回は簡単な世界観の説明、そして俺達の簡単な説明回だったな」
政実「うん。ただ、戒人の他の仲間達はもう少し先にならないと出て来ないけどね」
戒人「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「ああ」
政実「それでは、また次回」