Cheat Breakers~欠陥チートを以てチートを制す~ 作:九戸政景
戒人「どうも、千歳戒人です。悪役キャラか、確かに悪役キャラの中にも色々なのがいるから、時には主人公並みの人気を誇る奴もいるよな」
政実「うん。憎めない系のキャラから完全な悪役までその幅はとっても広いからね。そういった悪役達にも目を向けてアニメや小説を読むのも楽しいんだよね」
戒人「それに関しては同意だな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・戒人「それでは、第5話をどうぞ」
翌日の朝、俺は洗面所の鏡に映る『今の』自分――『
……今回のターゲットである『
「……正直、気はかなり重いけど、主演女優兼演出家兼脚本家として、この舞台に立つ他の役者達のアドリブや起きうる可能性のあるハプニングにはしっかりと対処していこう。演目自体がしっかりと終わり、
そう独り言ちていると、後ろからソル爺さんが近付いてきているのが見え、俺はゆっくりと振り返った。すると、ソル爺さんはいつになく真剣な表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「……いよいよ『怪力』との決着をつける日となったが、お前の調子の方はどうかの?」
「バッチリだよ、ソル爺さん。後は……考えている脚本通りに流れが進むように俺が持っていくだけだ。それに――」
「昨日来た『アイツ』からのメールも上手く利用させてもらうつもりだよ」
「……そうか」
俺の答えにソル爺さんが満足そうに頷いた後、俺は小さく首を傾げながらソル爺さんに話し掛けた。
「それにしても……そんな事を訊くためだけにわざわざ来てくれたのか?」
「うむ。儂もお前によって召喚をされとる身じゃからな、それならば主君の身くらい心配して当然じゃろ?」
「主君って……俺はソル爺さんや『召喚を司る能力』で呼び出した奴らの事は、部下とか手下みたいに見てないから、それはちょっと違うくないか?」
「ほう……ならば、お前にとって儂らは何だというのじゃ?」
「え、そうだな……強いて言えば、友達のような物かな?」
「……なるほど、友達のような物か。しかし、まさかお前からそのような言葉が出てくるとは思っておらんかったのぅ……」
「……あ、言われてみれば……」
確かにそうだ。俺はあの日以来、友達なんて物はいらないと思ってたし、これからも作る気は一切無かった。だけど、俺は今のようにソル爺さんや『召喚を司る能力』で呼び出した奴らの事を友達のような物だと答えた。もしかしてこれは、アイツらと過ごした事で生じた心境の変化って奴なのかな……?
腕を軽く組みながらそんな事を考えていたその時、突然手の中にある携帯がブルブルと震えだした。
……通話、『アイツ』からだな。
俺はふぅと息をついてから携帯を操作してそのまま電話に出た。
「……もしもし?」
『あ、もしもし? もう準備は出来た?』
「うん、バッチリだよ。あれ、もしかして……もう家の前にいるの?」
『うん、そうだよー。と言っても、今来たばっかりだけどね』
「そうなんだ……分かった、それじゃあそろそろ出るから、そのまま待っててもらっても良い?」
『うん、分かったー』
そうのんびりとした声で答えると、『アイツ』――
……これで良いな。
そう思った後、俺がソル爺さんに向かってコクンと頷くと、ソル爺さんはそれに応えるように頷き返しながら静かに姿を消していった。
さて……それじゃあそろそろ開演するとしようか。一時も目を離す事が出来ない今日限りの公演って奴を……。
演劇部時代に舞台に立っていた時と同じように体の奥底から沸き立ってくる昂揚感と緊張感を覚えながら、俺は静かに洗面所を後にした。
「さてと、戸締まりは万全だし、そろそろ出ようかな」
家の中の戸締まりを確認した後、俺は『千歳戒人』から『春日璃乃』へと気持ちを切り替え、筆記用具や教科書が入った鞄を肩に掛けた。そして、静かに玄関のドアを開けると、そこにはニコニコと笑う晶の姿があった。
「おはよう、晶。待たせちゃってゴメンね?」
「ううん、大丈夫だよ、璃乃。それじゃあ行こっか」
「うん」
晶の言葉にニコリと微笑みながら答えた後、俺は玄関の鍵を掛けてから晶と一緒に学校に向けて歩き始めた。そして、歩きながらそれとなく澄み切った青空を見上げていると、晶が不意に何かを思い出したように声を上げた。
「あ、そうだ……ねえ、璃乃。お昼を食べた後、ちょっと体育館の方で話したい事があるんだけど、良いかな?」
「うん、別に良いよ。でも、話したい事って一体何?」
「それは内緒♪ お昼のお楽しみにしておいてよ」
「……うん、分かった」
晶の言葉に微笑みながら答えた後、ポケットから事前に用意してた便箋をこっそりと取りだし、晶に聞こえない程度の声でぼそっと呟いた。
「……執筆、皆藤力宛の恋文」
すると、『言葉を司る能力』によって便箋にじわじわと文字が浮き上がり、程なく皆藤力宛のラブレターが出来上がった。そして、速読で文面の確認をした後、俺は『影』に向かって声を掛けた。
「……シェイド、これを皆藤の下駄箱に潜ませておいてくれ」
「……承知」
事前に『召喚を司る能力』で呼び出し、影に潜ませていた闇の精霊――シェイドは静かに返事をすると、俺から便箋を受け取りながら再び影に溶けていった。そして、俺の影から素早く離れると、電柱や塀の影を伝いながら学校の方へと走っていった。
……第一段階は
そう思いながらこっそりと頷いた後、俺は今日の授業の事やクラスの事などについて話すために晶に声を掛けた。そして、話をしながら晶の様子を怪しまれない程度に観察しつつそのまま学校へ向けて歩いた。
昼休み、弁当を食べ終えた俺達は、約束通り体育館の方へと向かうために教室を出た。そして晶に付いて歩く事約数分、体育館の裏辺りに着いた時、陰の方から何人もの男子生徒が姿を現した。そして俺の顔を見た瞬間、男子生徒達は嫌らしい笑みを浮かべながらまるで品定めをするかのようにジロジロと俺の事を見始めた。
……やっぱりそういう事だったか。まあ、ここまでは予想通りだし、そろそろ演じていくとするか……。
気づかれないようにしながら気持ちを落ち着けた後、俺は不安そうな表情を装いつつ、恐る恐る晶に話し掛けた。
「ね、ねぇ……晶? この人達って一体誰……?」
「……ああ、まだ話してなかったよね。コイツらは私のダチでね、璃乃と話をしてみたいって言うから、ちょっと来てもらったんだよ。ねぇ、皆?」
その晶の言葉に男子生徒達はニヤニヤと笑いながら静かに頷いた。その笑みはとても醜悪な物で、仲良くなるために集まったとは到底思えない程、見ていて気分が悪くなる物だった。
ちっ……コイツら、あの時の不良達よりもかなりタチが悪い上、こういう事をやり慣れてる感じがする……。これは少しだけ脚本を変えてでもコイツらの事をどうにかした方が良いか……?
『不安そうな表情を浮かべる春日璃乃』を演じ続けながら周囲の様子を探ろうとしていると、男子生徒の内の一人がゆっくりと俺へ近付いてきた。
「あれ~? 近くで見たら更に可愛いじゃ~ん?」
「え……あの、その……」
「へへっ……なあ、午後の授業サボって俺達と遊ぼうぜ? 俺達、色んな奴とつるんでっから、滅多に出来ねぇ体験をさせてやれるからさぁ……?」
吐き気がする気持ちが悪い声を出しながら男子生徒が俺の方に手を置いたその瞬間、
「い、嫌っ……!」
俺は本気で嫌がりながらその手を強く払いのけてしまった。
あ、やべ……。
想定をしていなかった自分のその行動に俺が嫌な予感を覚えていると、手を払いのけられた男子生徒の顔が見る見るうちに怒りの色に染まっていき、それと同時に他の男子生徒達の顔もイラッとした物へと変わった。
やっちまった……はあ、ここからどうやって軌道修正していこう……。
怯えたような表情を浮かべながら次の手について考え始めようとしたその時、手を払いのけられた男子生徒がガンを飛ばしながら怒りに満ちた声で話し掛けてきた。
「てめぇ……! 女だからと思って調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「そ、そんな……調子になんて乗ってないよ……!」
「うるせぇ! 弱っちぃくせに口答えしてんじゃねぇ!」
そう怒鳴るように声を上げる男子生徒の目には怒りと憎しみ、そしてこれから俺の事を自分の好きにしてやろうという穢れた欲望の色が浮かんでいたため、俺はさっきまでの感情とは打って変わって苛立ちを感じ始めていた。
……くそっ、相手が自分よりも弱そうと見れば、強気な態度と言葉で威圧してくるパターンなんて元の世界で見飽きたと思ったが、やっぱりイラッとくる……!
自分達の心の弱さなどを棚に上げ、数の暴力や陰口に走る奴らは、元の世界でも当然のようにいた。そして、そういう奴らは決まって同じような眼をしていた。相手の事を心の底から見下し、自分の事を何よりも上に置こうとするそんなヘドロのように淀んだ暗い眼を。そんな眼をした奴らから元の世界で様々な目に遭わされてきたせいか、俺はその眼を見るだけでも強い苛立ちを感じるようになってしまっていたため、正直な事を言えば、コイツらの事を今すぐにでも倒し、この場を立ち去りたかった。しかし――
……ダメだ、そんな事をしたところで、本当の目的は達成できない。それどころか、目的の達成すら遠のいてしまう恐れすらある。だからここは、ひたすら『待つ』しかない。そろそろ『アイツ』が来る場面のはずだからな。
そう思いながら気持ちを落ち着けた後、俺は怯えた表情を続けながら晶の方へと顔を向けた。
「ね、ねぇ……晶。どうしよう……!?」
「あー、そうだねー……。怒らせちゃったのは璃乃なんだし、謝るしか無いんじゃない? もっとも、謝って許してもらえるかは別だけどねぇ」
そう楽しげに答える晶の顔には、『春日璃乃』への憎しみや恨み、そしてこれから『春日璃乃』の身に起きる出来事への期待や嬉しさといった人間の中の汚い部分を寄せ集めたような印象を受けた。
……分かっていた事とはいえ、しっかりとこの眼で見るとなると、だいぶ心が傷つくな……。
表面上は友達だ何だと言っておいて、自分にとって邪魔な存在になれば、どんな手を使ってでも排除したり無関心であろうとする考え方。たとえ、ソイツがどんなに酷い目に遭おうとも気にせず、自分の得だけを考えるという身勝手で子供っぽい考え方。それは大多数の人間が持っている考え方であり、それは仕方がない事ではある。でも、本当ならその考え方は変えていけるはずなんだ。聖人君子になるわけじゃなく、ちょっとした気づきさえあれば、いくらだって自分を変えていけるし、それを他人にも伝播する事も出来る。だが、晶はその事すら考えている様子はなく、憎々しげな表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「アンタさぁ……何であんなに皆藤に好かれてんの……? 皆藤に興味ないとか言っておいて、本当は裏で皆藤に媚びでも売ってたんじゃないの……!?」
「そ、そんな事……!」
「それともアレなの? そのいかにも誰かに守って欲しいですーみたいな顔で皆藤だけじゃなく、他の男子とかにも好かれようとしてんの? 自分は弱いです、誰かに守ってもらわないとどうにもならないですみたいな雰囲気を醸し出しちゃってさ!」
「あ、晶……」
晶は俺の言葉にまったく耳を貸す素振りを見せず、憎しみが籠もった突き刺すような視線を向けるだけだった。そしてそこには、『春日璃乃』への友情などは微塵も感じられず、明らかに敵として認識しているのがひしひしと感じられた。
やれやれ……これは本当にもう一人の主役が来るのを待つしかなさそうだな。でも、あまり長くは待ってられなそうだし、いざとなったら誰かに頼んで――
そう思った瞬間、誰かがこちらへ向かって走ってくる足音が聞こえた。そして、その音の方へ全員が視線を向けると、程なく一人の人物が姿を現した。
「はぁっ、はぁっ……ふぅ、何とか間に合っ……え?」
その人物――『怪力・皆藤力』はいつものように爽やかな笑顔でこちらを見た瞬間、目の前の光景に対して困惑の表情を浮かべ、晶は皆藤がここに来た事に対して驚愕の表情を浮かべた。
「え……ど、どうして皆藤がここに……!?」
「いや……俺は春日さんに手紙で呼ばれて来ただけなんだけど……?」
「璃乃からの手紙……!?」
皆藤の言葉を聞き、弾かれたように俺の方へ顔を戻した。
……ようやく来たか。まあ、ある意味ナイスタイミングだったし、そこは良いとするか。そして、役者も揃ったことだし、そろそろ次の幕と行くかな。
心の中で静かに微笑んだ後、俺は心の底から助けを求めるようにしながら皆藤に向かって大きな声で呼び掛けた。
「た、助けて! 皆藤君! 晶とこの人達に襲われてるの!!」
「は!? ちょっ、璃乃!? アンタ、何を言って……!?」
俺の声に晶は明らかに狼狽した様子を見せると、皆藤はゆっくりと晶と男子生徒達の事を見回し、静かに怒りの籠もった声を上げた。
「……一人の女子を複数人で取り囲んでたのか……!!」
「ち、違うの、皆藤!! 璃乃は嘘を
晶がこの場をどうにかしようと必死に誤魔化そうとしたが、皆藤は怒りに満ちた表情を浮かべながら俺の事を指差した。
「……彼女、泣いてるじゃないかっ……!!」
「……え?」
皆藤の言葉に晶が俺の方へ視線を向けると、晶は更に驚いた様子で大きな声を上げた。
「は……嘘、アンタ何で泣いて……!?」
晶の視界に入った物、それは涙を浮かべながら顔を恐怖の色に染めた俺――春日璃乃の姿だった。そう、晶が皆藤と話すため俺から視線を外している内に、俺は演劇部時代に培った泣きの演技の技術を応用して、こっそり目元に涙を浮かべていた。そして皆藤もその時には状況確認のために俺から一度視線を外しており、男子生徒は俺の後ろ姿しか見ていない。なので、俺からすれば皆藤の歪んだヒーロー思想に火をつける絶好のチャンスと言えた。
……複数人に囲まれて泣いている愛しの女子生徒を助けるヒーローの図、皆藤にとってはまたとない理想のシチュエーションで『春日璃乃』を助けられる事になるから、俺の言葉や状況にしか目を向けない。やれやれ……これでとりあえず、邪魔者の男子達はどうにか出来るかな。
肩を震わせながらポロポロと涙を流しつつ心の中で静かに安心していると、今まで声を出さずに俺達の様子を見ていた男子生徒達が次々と皆藤に向かって歩き始めた。そしてその様子に晶がわけが分からないといった様子で男子生徒達に話し掛けた。
「ちょ、ちょっと!? アンタ達、何やってんのよ!?」
「うるせぇなぁ……せっかく、あのいけ好かねぇ野郎を俺達で叩き潰せるチャンスなんだ、邪魔すんじゃねぇよ」
「そうだ。前々からあの皆藤の奴は気に入らなかったからな、これを機に全員で痛めつけてやるぜ……!」
そう口々に言うと、男子生徒達は眼をギラギラとさせながら皆藤の事を取り囲むようにしながら陣形を取り始めた。昨日の不良達の言葉から皆藤があらゆる男子生徒達から疎まれ嫌われているのは分かっていた。その理由はもちろん、皆藤が様々な女子生徒からモテている上、その事を一切鼻に掛ける様子が無いからだ。皆藤がスポーツや成績で優れていたり生徒会長とかで頑張っていたりなど、誰の目に見えるような頑張りを見せていればまだここまで疎まれたりはしなかっただろう。しかし、皆藤はそういった目立った活躍をしていないし、助けていたのも女子生徒ばかりだったため、こういう男子生徒達からすれば、『モテる要素が顔しかないのに女子に好かれてるすかしたいけ好かない奴』という印象を受ける。そして、思春期真っ盛りの男子高校生は、基本的に自分から努力しないくせにモテたいという安い欲望に支配されており、皆藤のような奴に対して明らかな嫌悪感と嫉妬心を抱く。だからこそ、ここに皆藤をわざわざ呼び寄せる事で、その嫌悪感と嫉妬心を爆発させて、俺から皆藤へと意識を簡単に移す事が出来たわけだ。
……男子高校生の大多数は、努力するよりも適当に過ごしながら遊んでいたいという幼稚な考えや思春期特有の異性への興味、特に性欲に関する興味で頭がいっぱいだからな。そこに皆藤のような存在が来れば、必然的にソイツに対しての憎しみが生まれる。だから、それと皆藤が目指す歪んだヒーロー思想がぶつかるようにすれば、楽に男子生徒達と晶の協力関係を崩すことが出来、こうやって自由の身になれるわけだけど、まさかここまで上手く行こうとはな……。
男子生徒達のあまりの単純さに少々呆れていると、皆藤は自分を取り囲む男子生徒達を見ながら静かに口を開いた。
「……一つだけ訊いておく。こんな事をして後悔はしないな?」
「後悔……? 何言ってんだお前?」
「お前は一人で、こっちは複数だ。明らかに分が悪ぃのはそっちなんだぜ?」
「……だからどうした? 分が悪かろうが何だろうが、俺がお前達を倒す、ただそれだけの事だ」
「……ちっ、本当にいけ好かねぇ野郎だなぁ!」
「ああ……その浅はかな考え、改めさせてやるよ!」
皆藤の言葉に男子生徒達は怒りを爆発させると、皆藤へ向かって次々と殴り掛かった。すると、皆藤は男子生徒達の攻撃をゆらりゆらりと交わしながら男子生徒達の動きを静かに見始め、その内の一人の攻撃が空ぶった瞬間、ソイツの腕を片手で掴み、そのまま強い力で握りだした。
「くっ……ぐあぁっ……!!」
皆藤の怪力による痛みで男子生徒が苦悶の表情を浮かべる中、皆藤は無表情で男子生徒を振り回すと、勢いをつけて離れた方へと投げ飛ばした。
「ぐうっ……!?」
男子生徒は背中から地面に落ちると、自分が投げ飛ばされたという事実を受け止められていない様子で痛みと驚きが入り交じったような表情を浮かべた後、静かに気を失った。そしてそれを見ていた他の男子生徒達は、皆藤が自分達が思っていたよりもヤバい存在である事を悟り、警戒した様子で少しずつ距離を取り始めた。それを見た皆藤は無表情のままで男子生徒達に声を掛けた。
「……何だ、あんな大口を叩いておいて、その程度なのか?」
「う、うるせぇ! てめぇみてぇなバケもんと真っ向からぶつかるわけ――」
その男子生徒の言葉を聞いた瞬間、皆藤の身体がピクリと動き、皆藤の雰囲気がとても張り詰めた物へと変わった。
……ん、今の言葉ってもしかして皆藤にとっては地雷だったのかな……?
皆藤の雰囲気の変わり様から少し警戒をしながら様子見を続けていると、皆藤は肩をブルブルと震わせながら静かに口を開いた。
「俺は……化け物なんかじゃ、ない……!」
「は……?」
「俺はヒーローだ! 化け物なんかじゃない!!」
そう咆哮を上げるかのような大声で言うと、皆藤は近くにいた男子生徒へ向かって走り出し、拳を大きく振りかぶると、男子生徒の顔へ目がけてそのまま強く殴りつけた。
「ぐぶっ……!?」
殴られた男子生徒は驚愕の表情を浮かべながら吹き飛び、近くにあった木に強くぶつかると、顔から血を流しながらそのまま意識を失った。
あ……これはかなりマズい奴だ。
その様子に俺がポケットから言葉符を一枚取り出した時、男子生徒達と晶が怯えた表情を浮かべながら大きな悲鳴を上げた。
「ひっ、ひいぃーっ!」
「あ、ああぁーっ!!」
「い、嫌ぁっー!」
そして、そのままここから逃げ去ろうとしていたため、俺は直ぐさま取り出した言葉符を構えた。
「……気絶、対象はこの学校にいる俺と皆藤以外の全員」
ポツリと呟いた瞬間、男子生徒達と晶の身体がグラリと揺れ、そのままその場へバタリと倒れ込んだ。
ふぅ……危ない危ない。あのまま逃がしてたら、絶対に教師とかを呼ばれて面倒な事になっただろうから、何とか間に合って本当に良かった。
そう思いながら皆藤の様子を窺うと、皆藤はいきなり全員が倒れ込んだ事に警戒している様子で、キョロキョロと周囲を注意深く見回していた。その様子に注意しながら俺はもう一枚の言葉符を取り出し、再び静かに構えた。
「治癒、対象は怪我をしている男子生徒」
そう呟いた瞬間、木にもたれて気絶していた男子生徒の傷が見る見るうちに治っていくと同時に流血も止まったようで、男子生徒の顔から苦しみの色が自然に消えていった。
……これで良い。さて、それじゃあそろそろ次の幕と行こうかな。
未だに警戒を続ける皆藤に向かって近づき、俺は『春日璃乃』のままで皆藤に話し掛けた。
「ダメだよ、皆藤君。怒りに身を任せたままじゃ、いつか本当に人を殺しちゃうよ?」
「……春日、さん……?」
俺のあまりの落ち着きように皆藤は不思議そうな表情を浮かべたが、直ぐにハッとした表情に変わると、とても心配そうな様子で話し掛けてきた。
「春日さん! 怪我は無い?」
「うん、もちろん」
「そっか……良かったぁ……!」
「……ふふ、ありがとう、皆藤君。皆藤君が来てくれた時、本当に助かったよ」
「ううん、別に良いさ。それにしても……春日さんからの手紙に呼ばれてきたら、まさか春日さんがあんな奴らに襲われているところに出くわすなんてな……」
皆藤は不思議そうな表情を浮かべながら再び男子生徒達と晶の事を見回した後、何かに気付いた様子で俺の方へ視線を戻した。
「……春日さん。まさかとは思うけど、コイツらを気絶させたのは……」
「うん、私だよ。あのままじゃ本当に取り返しの付かない事になりそうだったからね」
「そうだったんだ……本当にありがとう、春日さん」
「ふふっ……どういたしまして」
小さく笑いながら皆藤の言葉に答えると、皆藤は突然何かを思い出したように声を上げた。
「あ……そういえば、手紙には伝えたい事があるって書いてたよね?」
「……うん」
ポツリと呟くように答えながら、俺は少しだけ頬を赤く染めながら軽く俯いた。すると、皆藤の方から息を呑むような音が聞こえ、皆藤が上手い具合に勘違いしてくれてる事がしっかりと分かった。
さて……そろそろ良いか。
適当な間を置いた後、俺は静かに顔を上げ、ニコリと笑いながら皆藤に話し掛けた。
「皆藤君」
「う、うん……!」
「君は……転生者、なんだよね?」
「う……えっ?」
まったく予想もしていなかった言葉に皆藤は目を白黒させている様子を見ながら、俺は再び皆藤に話し掛けた。
「実は……昨日のお昼休み、私も屋上にいたんだ。それで事の一部始終をこっそりと見てたの」
「そ、そうだったんだ……」
「うん。だから今のは、あくまでも確認。昨日今日の皆藤君の行動や独り言で大体の事は察せるからね」
「け、けど……どうして今そんな事を――」
その瞬間、皆藤はハッとした表情を浮かべると、探るような声で俺に話し掛けてきた。
「……もしかして、春日さんも……転生者っていう事なのか?」
「まあ、似たようなモノ……かな」
「そうだったんだ……! あ、もしかして……伝えたい事って、同じ転生者としてこれから協力し合おうって――」
「ううん、違うよ」
皆藤の嬉しそうな声に被せるようにしながら答えた後、俺は言葉符を構えながら言葉を続けた。
「正解は……『危険な転生者である君を狩らせてもらうけど、悪く思わないでね』だよ」
「……え?」
皆藤が俺の言葉に耳を疑う中、俺は皆藤から距離を取りながら迷わず『言葉を司る能力』を行使した。
「……
すると、俺の傍らに宙に浮いたバスケットボールほどの大きさの氷が幾つも出現し、そのまま皆藤へ向けて勢い良く突進していった。
「え……ちょっ!?」
皆藤はいきなり飛んできた氷塊に慌てながらも自分の怪力を利用して次々と氷塊を拳で砕き始めた。そして全てを砕き終えると、粉々に砕けた氷の粒が陽の光を浴びてキラキラと輝きながら皆藤の周囲へと散らばった。
へぇ……これぐらいは流石にどうにか出来るか。なら、今度は……!
皆藤の実力の一端を目にし、俺が少しだけ気分を高揚させながら別の言葉符を取りだそうとしたその時、皆藤が息を切らしながら俺に話し掛けてきた。
「春日さん……! 急にどうしたんだよっ!?」
「どうしたも何も……今言ったとおりだよ? 私は危険な能力を持つ転生者や能力者を狩る存在、言ってみれば貴方の敵だね」
「転生者や能力者を狩る存在……!?」
「そう、私は貴方のような危険な存在を狩るという依頼を受けてこの世界に来たの。だから、貴方に今攻撃を仕掛けた。別に不思議では無いでしょ?」
「そ、そんな……!」
今にも泣き出しそうな顔をしている皆藤を見ながら俺はフッと笑いつつ静かに口を開いた。
「……まあ、狩るとは言ったけど、依頼の内容は貴方の抹殺か能力自体の弱体化だったし、今みたいに戦う以外にも話し合って解決する方法はあったよ。でも……」
「でも……?」
「貴方の歪んだヒーロー思想にその『怪力』の能力の組み合わせは明らかに危険だった。だから私は、話し合うよりも先に戦うことを決めたの。そうじゃないと落ち着いて話なんて出来ないからね。それに――」
俺はもう一つの理由を口にしようと思ったが、今は話す必要がない事に気付いたため、その事についてはとりあえず口を噤むことにした。
「……まあ、そういう事だから私は皆藤君と戦わないといけないんだよ。本当は話し合いで解決したかったけど、貴方はあまりにも危険だったからね」
「で、でも……君と戦わないといけないなんて……!」
皆藤が悲壮感溢れる表情を浮かべる中、俺はまた別の言葉符を構えた。
「さて……それじゃあそろそろ再開しようか。
……雷撃、対象は皆藤力」
その言葉と同時に言葉符が雷を纏い始め、俺が言葉符を皆藤へ向けると、バチバチッという大きな音を立てながら雷撃が皆藤へ向けて飛んだ。
「くぅっ……!」
皆藤は雷撃を横に跳んで間一髪で避けると、哀しそうな表情を浮かべながら俺に話し掛けてきた。
「止めてくれ、春日さん! 俺は君と戦いたくないんだ!」
「……それは無理だよ、皆藤君。さっきも言ったように、私は貴方と戦う必要があるからね。だから、貴方も早く私と戦おうとしてよ」
「嫌だ……! 君の事を殴ったり蹴ったりなんて、僕には出来ないっ……!」
そう強く訴える皆藤の表情からは、本当に俺――『春日璃乃』と戦いたくないと考えている事がハッキリと感じ取れた。
……今の皆藤となら、たぶん話し合いで解決する事は出来る。けど、それじゃあダメなんだ。だから――
「……これで試してみるか」
小さくポツリと呟いた後、俺はこっそりと喉の調整を行った。そして、自分の思っているような状態になったと感じた後、俺は静かに口を開いた。
「……やれやれ、転生者とあろう奴が、そんな甘ちゃんで良いのかねぇ……」
「え……春日さん、その声は……?」
「春日……ああ、この体の名前は春日璃乃って言ったっけなぁ……」
怪しくニヤリと笑いながらそう言った後、俺は言葉符を二枚ほど構えた。そう、俺はあえて『春日璃乃』という役を捨て、『千歳戒人』として皆藤と向き合う事にしたのだ。コイツが『春日璃乃』を大切に想っているのは明白、だったらいっそのこと全てを明らかにして、俺が悪役――ヒールに回った方がこの状況を良い方へ変えられる気がしたため、俺はこの考えで勝負に出る事にした。
……まあ、成功するまでは分からないけど、こうすると決めた以上、最後までこの路線でやってみよう。
そう決意した後、俺は未だ困惑した表情を浮かべている皆藤に向かって、ニヤニヤと笑いながら言葉を続けた。
「残念ながら、お前が大好きな『春日璃乃』という女子高生は、本当は存在しないんだよ」
「春日さんが……存在しない……? じゃあ君は一体誰なんだ……!?」
「俺か? 俺は千歳戒人、『春日璃乃』は、あくまでも俺が演じる事となった役みたいな物で、中身は最初から俺だったんだよ」
「……演じる事となった役……だと? つまり、最初から俺の事を騙していたのか!!」
「まあ、そうなる……かな? ただ、悪かったとは思ってるんだぜ? ラブレターでホイホイ呼び出された上、ちょっと頬を染めて俯いたくらいで、告白されるなんて思う程、純な奴だなんて思ってなかったからさぁ?」
「くっ、お前っ……!」
「ははっ、悔しいか? そりゃあ、悔しいよなぁ……? 歪んだ物とはいえ、お前にはヒーロー思想みたいな物があるから、俺みたいな悪役に騙されたとなれば、考えが浅かった自分や騙していた俺の事が許せないはずだからなぁ……?」
「くぅっ……!!」
怒りと悔しさで顔を徐々に真っ赤に染め、拳を強く握りながら今にも殴り掛かってきそうな程、俺の事を睨んでいる皆藤の様子に、俺は少々申し訳なさを感じていた。
……仕方ないとはいえ、こういうタイプの悪役を演じたりこんな煽るような事を言うのは、やっぱり辛い物があるな……。けど、こうでもしないと、皆藤は戦おうとしないだろうし、ここまで来たら覚悟を決めるとしよう。
そう思いながら軽く頷いた後、俺は言葉符を構えたままで皆藤に話し掛けた。
「ほら、早く掛かってこいよ、皆藤。まあ、俺が怖くて掛かって来れないというなら、それでも良いけど?」
「……お前が怖い? そんなわけないだろ!」
「ふーん……なら、ゴタゴタ言ってないで早く掛かって来いよ。このまま待ってるのも暇だからさ」
「……ああ、そこまで言うなら良いぜ。だが……後で後悔するなよ!」
皆藤は飛び出すようにしながら走り出し、直ぐに俺との距離を詰めると、強く握っていた拳を俺に向かって振るってきた。しかし、皆藤の拳は俺に当たる寸前で急に向きを変えたため、皆藤は体を捻りながらその場に倒れ込んだ。
「ぐっ!? な、何で……!?」
「さあ……何でだろうな?」
皆藤の疑問に対してのんびりとした声で答えた後、俺は皆藤から再び距離を取りながら静かに口を開いた。
「巨石落下、対象は皆藤力」
すると、何も無かったはずの遙か上空に突然巨石が出現し、どうにか起きあがろうとしている皆藤へ向けて勢い良く落下していった。
「な、何っ!?」
突然出現した巨石に皆藤は驚愕したが、すぐに立ち上がってその場から飛び退くと、皆藤がさっきまでいた所に軽車両程の大きさの巨石が大きな音を立てて落下した。すると、その落下の衝撃によって強い風が生じ、思わず砂埃から目を守るために手を顔の前へと翳したその時、握っていた言葉符の内の一枚――『巨石落下』が俺の手から離れ、皆藤の足元へと飛んでいった。そして、皆藤はそれを拾うと、ニヤリと笑いながら俺に話し掛けてきた。
「……そういえば、お前は雷を飛ばす時もこの巨石を落とす時もこの札を構えていたよな?」
「……そうだが、それがどうかしたのか……」
俺が少々焦った様子で答えると、皆藤はニヤリと笑ったまま更に話し掛けてきた。
「つまり、この札にはそういった魔法みたいな物を使える力があり、お前はそれを利用して俺に攻撃を仕掛けていた。そうだろ!」
「……ああ、そうだよ。くそっ、流石にそれぐらいは気づくか……!」
俺が心底悔しそうな表情を浮かべながら答えると、皆藤は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「あははっ、やっぱりそうだったのか……! なら、今度はお前の方がこれで苦しむ番だな!」
そして、天高く『巨石落下』の言葉符を掲げると、大きな声を上げた。
「巨石落下! 対象は千歳戒人!」
しかし、いくら待ってもさっきのように上空に巨石が出現する事が無かったため、皆藤は上空を見上げながら狼狽した様子を見せた。
「な、何でだ!? さっきは巨石が出て来たのに!」
「……残念だったな、皆藤。お前にそれは使えないんだよ」
「は!? だって、お前はさっきこれに魔法みたいな力が宿っているって……!」
「……あれ、嘘だよ」
俺が静かにそう告げると、皆藤は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情を浮かべた。
「……は?」
「つまり、それ――言葉符に魔法みたいな力が備わってるわけじゃないって事だ。そしてそろそろ『そっち』は返してもらうぜ?
……位置交換、対象は皆藤が持つ『巨石落下』とポケットの中の『起爆』」
その言葉と同時に皆藤が持つ言葉符は一度静かに姿を消した後、再び静かに姿を現した。そして、それを確認した後、俺は再び静かに口を開いた。
「起爆、対象は皆藤が持つ『起爆』の言葉符」
すると、『起爆』の言葉符は徐々に光を放ちだし、それを見た皆藤が慌てた様子で大きな声を上げた。
「き、起爆って……まさか!?」
「That's Right。そんな事より早く手放さないと爆発に巻き込まれるぞ?」
「わ、分かって――」
そう皆藤が答えた瞬間、『起爆』の言葉符は眩いほどの光を放ちながら大きな音を立ててその場で爆発すると、その衝撃波によって大きな砂埃が舞ったため、俺は直ぐさま『事象の流れを司る能力』を行使し、砂埃が俺へと来ないように操作した。
……うわ、思ったより爆発の威力が大きいけど、皆藤は大丈夫なのかな、これ……。
そんな事を思いながら砂埃が晴れるのを待っていたその時、砂埃の向こうから何かが走ってくる影が見えた。
え……マズっ――
その影の走る向きを変えるべく『事象の流れを司る能力』を行使しようしたが、勢い良く伸ばされた腕に首を掴まれた事でそれを阻止された。
「ぐっ……あぐぅっ……!!」
「……ようやく捕まえたぞ、千歳戒人……!」
俺の首を掴んでいる人物――皆藤がニヤリと笑いながら俺にそう言った。皆藤の顔や腕には爆発の熱で受けた火傷や砂埃と一緒に飛んでいた砂利で出来た擦り傷などが目立ち、制服は爆発の衝撃でボロボロ、と怪力の能力があったとしても本当なら俺の首を掴む事が出来ないほどに傷ついていた。
おいおいっ……! 何でこんな状態で動けるんだよ、こんなの無茶苦茶だろっ……!
苦しさに顔を歪めながら皆藤の顔を見ていると、皆藤は痛みに耐えながらも俺の首を絞めつつ勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「……お前の魔法みたいな能力は、どうやら言葉を声に出さないと使えないみたいだからな……! このまま絞め殺させてもらうぞ、千歳戒人ぉっ……!!」
「ぐ……! や、止めろ……! そんな状態で俺を殺そうとするのは、流石に無茶だ……!!」
「無茶でも構わないっ……! 俺はヒーローなんだ、お前みたいな悪役を倒すために命を失うなら、それも本望だ……!!」
「ぐっ……ふざけんなぁっ……!!」
違う、ヒーローは決して悪役を倒すために命を賭す物なんかでは無い。ましてや、悪役だからといって、簡単に相手を殺そうとする物でも無いんだ。
そう皆藤に対して言いたかったが、ミシミシという音を立てながら徐々に絞まっていく首の痛みと苦しみで上手く言葉を紡ぐことが出来なかった。そして、徐々に視界がぼやけ始め、意識が遠のいていくのを感じた。
……ダメ、だ。このままアイツの事をどうにかしない内に死ぬなんて、出来ない……!!
そう強く思った後、俺は最後の力を振り絞って『召喚を司る能力』を行使した。
「しょう……かん、ソル……爺さんっ……!!」
すると、俺のすぐ隣に魔法陣が現れ、ソル爺さんの姿が徐々に浮かび上がってきた。そして、完全に姿を現すと、ソル爺さんは俺の姿にやれやれといった様子で静かに首を振った。
「……戒人、何という醜態を晒しておるんじゃ?」
「う……うるさい、なぁっ……!! ちょっと、首を……絞められてる、だけだよっ……!!」
「首を絞められているのは、ちょっとには入らんと思うがのぅ……」
ソル爺さんは呆れた様子でそう言った後、俺の首を絞め続けている皆藤の方へ顔を向けた。
「……さて、怪力の能力者よ。今すぐその手を離すならば、手荒な真似はせんがどうする?」
「手荒な真似……ははっ、アンタみたいな爺さんに一体何が出来るって言うんだ……!?」
「……そうじゃのぅ、例えば……」
まるで天気の話でもするかのようなのんびりとした声で答えた後、ソル爺さんが二言三言何かを呟くと、
「……ぐっ、うぐぅっ……!?」
突然皆藤が苦しみだし、苦悶の表情を浮かべながら俺から手を離した後、その場にうずくまった。そしてそれと同時に俺はその場へと倒れ込んだ。
「はぁっ、はぁっ……し、死ぬかと思った……」
荒く息をしながらそう独り言ちていると、ソル爺さんの静かな声が上から聞こえてきた。
「いや、あのままでは本当に死んでおったぞ?」
「……だよな」
どうにか息を落ち着けながら答えた後、俺はゆっくりとその場に立ち上がった。すると、さっきまで苦しそうにしていた皆藤の顔が徐々に安らいでいき、程なく皆藤もその場に立ち上がったが、皆藤の顔にはさっきまで俺達に向けていた殺気や敵意のような物は無く、自分の身に起きた事に対して心の底から不思議に思っている事がハッキリと見て取れた。
「……今のは一体……?」
「今のは対象が感じているダメージを別の対象に同期させる魔術じゃよ。まあ、挨拶代わりならこれぐらいが丁度良いじゃろ」
「これで挨拶代わり、なのか……」
ソル爺さんの言葉に皆藤は心底驚いた表情を浮かべた後、チラッと俺の方へと視線を移した。そして、俺が静かに頷くと、皆藤は半ば自嘲気味に笑みを浮かべた。
「……これが、能力者狩り達の力、か……。こんなの勝てるわけ無い、よな……」
「そんな事は無いさ。今回は俺の運が良かっただけだよ」
「いや……運も実力の内、そんな言葉だってあるんだ。もしそうだとしても、俺の負けなのは変わらないよ」
哀しそうな表情でそう答えた後、皆藤は静かに空を見上げながら言葉を続けた。
「それに、今だからハッキリと分かるよ、俺には『怪力』とは違った力が足りなかった。だから、お前達には勝てなかったんだよ」
「……そっか」
皆藤の言葉に相槌を打った後、俺はポケットの中から『治癒』と『修復』の言葉符を取りだした。
「治癒、対象は皆藤力。修復、対象は皆藤力の制服」
その言葉と同時に皆藤の体にあった傷が見る見るうちに治っていき、皆藤の制服も裂けていた箇所が光に包まれながら徐々に直っていった。そして完全に治ると、皆藤はからかうような笑みを浮かべながら俺に話し掛けてきた。
「良いのか? 俺を回復させたら、お前を攻撃するかもしれないぜ?」
「いや、それは無いよ。たとえそうだったとしても、俺的には目的を達成したから、お好きにどうぞってところだしな」
「目的……そういえば、俺と戦わなきゃいけないって言ってたもう一つの理由をまだ聞いてなかったよな」
「ん……確かにそうだったな。まあ……今のお前になら話しても良いか」
そう前置いた後、俺はあの時話さなかったもう一つの理由について話し始めた。
「一言で言えば、お前にしっかりとした敗北って物を体験してもらうためだったんだよ」
「しっかりとした敗北……?」
「ああ。あの時の俺――『春日璃乃』が転生者みたいな物だと知った時のお前の反応を見るに、お前が知る限りだと転生者みたいな奴はお前だけだったんじゃないか?」
「まあ……そうだな」
「やっぱりな。だから、お前は今まで学業以外――特にこういう荒事では負けた事が無かったし、あまり抵抗を感じていなかったんだと思う。実際、昨日も今日も同じ男子生徒相手でも臆することなく向かって行ってたしな」
「……その通りだ。俺はこの世界に転生してから、今日まで力と力の勝負では負けた事は無かったよ。まあ、ここでの勝負っていうのは、もちろん力比べとかだけどさ」
皆藤は小さく笑いながらそう言った後、 過去の出来事を懐かしむような様子で言葉を続けた。
「お前も知ってる通り、俺はモテモテのヒーローライフを目指してこの姿と能力を持ってこの世界に転生した。そしてそれは簡単に叶える事が出来たし、小学生の頃から俺は男女関係無しに慕われる存在――子供番組に出てくるヒーローみたいな存在になる事が出来た。普段はちょっとズレてる所があったり誰かと小さな喧嘩をしたりはするけど、ピンチの時にはしっかりと助けられるそんな存在にな。だけど、中学生になった頃、ある出来事を境に俺は誰かを傷つける事に対しての抵抗が無くなり、力を使って皆を守る正義のヒーローから力に飲まれた挙げ句暴走をして誰かを傷つけるようなダークヒーローに変わっていったんだよ」
「ある出来事……?」
「ああ。中学二年の秋頃、街を歩いてる時に運悪く不良にぶつかってさ、俺はすぐに謝ったんだけど、不良達はそのまま絡んできた上、俺からカツアゲをしようと思ったのか、人通りの殆ど無い路地裏に連れて行こうとしたんだ。そして、俺がそれに対して必死に抵抗したら、不良の一人が俺を黙らせるために一発だけ殴ってきて、その痛みに対してプチッときた瞬間、俺はふと思ったんだよ。
『コイツら、本気で殺してやろうか』
……ってな。そしたら、思わず不良に対して『怪力』の能力を使って殴り返してたんだよ。それで、殴られた不良は、さっき俺が殴った男子生徒みたいに近くにあった壁にぶつかって、そのまま顔から血を流して気絶してさ、それを見た他の不良達は悲鳴を上げると、ソイツを引きずりながら走り去っていったんだ。その辺の物に躓いたりぶつかったりしながらだったから、その姿は物凄く惨めな物に見えたよ」
「……」
「そして、ソイツらが走り去った後、不良を殴った拳を見てたら、殴った時の骨の感触とか拳を振り抜いた時の風の感じとかが頭の中に浮かんできて、それがたまらなく気持ちよくて楽しかったんだよ。そしてそれは、段々俺の力で不良――街の人を苦しめる悪を倒したんだ、俺の力は誰にも負けないんだっていう風に変わって、いつしか誰かを守るために力を振るうんじゃなく、自分が悪だと感じた奴を倒す又は殺すため、そして女子にモテるためだけに力を使うようになっていったんだ……!」
そう言葉を締め括る皆藤の表情には悔しさが滲んでおり、その頃から今までの自分に対して不甲斐なさなどを感じているのがハッキリと見て取れた。俺の場合はソル爺さんとか『召喚を司る能力』で仲間になってくれた奴ら、そして俺に能力をくれた白羽や食事などの世話をしてくれてる月夜の事があるから、たぶん『力の誘惑』に負ける事はなかった。だけど、俺が皆藤と同じような立場にいたとしたら、必ずしもその限りじゃない。物理的にしろ権力的にしろ『力』を持った奴というのは、大多数がそれを振るって何かをしたいと思う物なんだ。だから、皆藤の件は決して他人事なんかじゃない。色々な条件や事情が違っただけで、俺も皆藤のようになり得たのだから。
……『力』は簡単に人の性格や生き方を変えてしまう。同じように『力』を持っている以上、この事はしっかりと肝に銘じておく必要があるな。
皆藤の姿を見ながらこの事を心に強く刻んだ後、俺は本来の目的を達成するために皆藤に話し掛けた。
「……皆藤、そろそろ俺達の本来の目的を達成させてもらっても良いか?」
「お前の本来の目的……俺の抹殺か俺の力の弱体化、だったか……」
「ああ。今のお前なら別に放っておいても良いと思うけど、俺には待っててくれてる奴らがいるからな」
「……そっか。そういう事なら遠慮なくやってくれて良いぞ、千歳戒人。俺にお前の邪魔をする理由なんて無いからな」
「……分かった」
皆藤の返事を聞いた後、俺はポケットから
「皆藤!」
俺が慌てて皆藤の手を取った事で、皆藤は何とか倒れ込まずに済み、俺はホッと胸を撫で下ろした。すると、その様子を見た皆藤がクスリと笑いながら話し掛けてきた。
「……千歳戒人。お前、本当はスゴく良い奴だろ」
「……さてな。それと……俺の事は戒人で良いぞ、皆藤。一々フルネームで呼ぶのも面倒だろ?」
「そうだな。それじゃあ……戒人、ありがとうな」
「どういたしまして」
爽やかな笑みを浮かべる皆藤に対して、俺はフッと笑いながら答えた。俺達の間にはもうさっきまでのわだかまりは無く、皆藤に対して俺は微かな友情すら感じ始めていた。
……こう思うのもアレだけど、こんな出会い方じゃなかったら、俺は皆藤と普通に友達になれたかもしれないな……。
そんな事をしみじみと思っていたその時、
「……おい、戒人」
ソル爺さんがいつになく真剣な声で話し掛けてきた。
「ん、どうした、ソル爺さん?」
「どうした、ではない。今の衝撃で吸力珠が落っこちとるぞ」
「……へ?」
そんな変な声を出しながら足元を見てみると、ソル爺さんの言葉通り吸力珠が少し離れたところに転がってしまっていた。
あ、やべ……とりあえず『言葉を司る能力』で回収しとくか。
そう思いながら『言葉を司る能力』を行使しようとしたその時、何かが吸力珠へ向かって飛び込ち、そのまま吸力珠を手の中に握り込んだ。
……え? な、何で……!
俺の視界に入ってきたもの、それは皆藤との勝負の前に気絶させたはずの松野晶の姿だった。晶は吸力珠を手で強く握ると、勝ち誇ったような笑みを浮かべながら大きな声を上げた。
「残念だったわね、この化け物共! そこにいる腕力バカの力とやらは私が頂くわ!」
「……吸力珠から手を離せ、晶。それはお前なんかに扱えるものじゃない」
「はぁ!? 私に指図しようっての!?」
「指図じゃない、警告だ。もし、お前がそれを離さないというのなら――」
俺はポケットから言葉符を何枚か取り出しながら言葉を続けた。
「こっちにも考えがあるぞ」
「あははっ!! やれるもんならやってみなさいよ!! まあ、もしやろうとしたら、その瞬間にこれは地面に叩きつけるけどね!!」
「……そうか」
俺達の事を蔑視する晶の言葉に対して俺は静かに答えた後、目を瞑りながら言葉符の内の一枚の文字を読み上げた。
「閃光、対象は閃光の言葉符!」
その瞬間、目の奥で光を感じ、『閃光』の言葉符が強い光を放っている事が確認できた。
「く……目が、見えない……!!」
そして、晶の声から大体の位置を把握した後、俺は目を瞑ったまま再び『言葉を司る能力』を行使した。
「転送、対象は松野晶の手の中の吸力珠、そして転送先は俺の制服のポケットの中! 並びに睡眠、対象は松野晶!」
そう口にした瞬間、制服のポケットに微かな重みを感じ、目の前からドサッという音が聞こえた。そして、目の奥に感じていた光が消えた事を確認してから目を開けると、そこには地面に倒れながら寝息を立てている晶の姿があった。
……やれやれ、『春日璃乃』の事を罠に嵌めようとした時点でだいぶアレな奴だと思ってたけど、まさか吸力珠に手を出そうとするとはな……。
「……変われる物がある反面、変われない物もあるって事か……」
晶の姿を見ながらそうポツリと呟いていると、皆藤が恐る恐る話し掛けてきた。
「……戒人、彼女は眠っているだけ……なんだよな?」
「ああ。吸力珠に手を出そうとしたのは、かなり許しがたいけど、炎で燃やしたり雷を落としたりする程の相手でもないからな。まあ、皆藤は変わる事が出来たけど、コイツは変わる事が出来なかったって事だな」
「そっか……でも、それって何だか哀しいよな」
「……そうだな」
皆藤の哀しそうな声に答えていたその時、ポケットに入れていた携帯電話が突如ブルブルと震えだした。
携帯……一体誰からだ?
不思議に思いながら俺は携帯を取りだし、画面の表示を確認した。すると――
「……白羽から?」
そこには、神だか悪魔だか正直判断できない存在である白羽の名前が表示されていたため、俺はその事を不思議に思いながらもとりあえず電話に出る事にした。
「……もしもし?」
『あ、もしもし? 戒人?』
「そうだけど……何かあったのか?」
『いや、無事に仕事を終わらせられたみたいだから、ささっとこっちに戻してあげようかと思ってね。ほら、今みたいに吸力珠を奪われてもいけないしさ』
「確かにそうだけど……もしかしなくてもそっちでこちら側の様子を見てるよな?」
『うん、バッチリね。だから、戒人のドジっ子なところもバッチリ見させてもらったよ♪』
「ドジっ子って……まあ、その点に関してはとりあえず置いておくとして、そっちに戻る前に少しだけ待ってもらっても良いか?」
『うん、もちろん良いよ。とりあえず電話は繋ぎっぱなしにしとくから、良さそうだったら言ってね』
「分かった」
白羽の言葉に返事をした後、俺は皆藤の方へと顔を向けた。
「そういうわけで、俺はそろそろ行かせてもらうな、皆藤」
「……ああ。もう、お前とは会えないのかな?」
「……恐らくそうなるだろうな」
「そっか……はは、何だか変な感じだな。さっきまで殺そうとまで思ってたはずの相手なのに、今はお前との別れがスゴく寂しく思えるよ」
「皆藤……」
「でも……お前にはやらなきゃいけない事があるもんな。俺みたいに『力』に飲まれてたり悪用してたりする奴をどうにかするっていう、本当のヒーローみたいな仕事がさ。だから、ここは大人しくお前の事を見送る事にするよ」
皆藤はニコリと笑いながら優しい口調でそう言った。皆藤が醸し出していた雰囲気は、とても柔らかく暖かな物で、戦っていた時のダークヒーローのような雰囲気は彼方へと消え去ったようだった。
自分の力と向き合い、力の存在をしっかりと受け入れたダークヒーローは、いつしか元のヒーローへと戻っていたのでした、なんてな。
そんな事を考えながらフッと笑った後、俺はソル爺さんの方へ視線を向けてから、静かにコクンと頷いた。すると、ソル爺さんはそれに応えるように頷き返し、そのまま姿を消していった。
さて……それじゃあそろそろ行くかな。
そう思った後、俺は再び皆藤に話し掛けた。
「それじゃ、元気でな、皆藤」
「ああ。お前も元気でな、戒人」
そう言いながら皆藤と握手を交わした後、俺は電話の向こうの白羽に向かって声を掛けた。
「……白羽、やってくれ」
『アイアイサー♪』
そんな白羽の気の抜けるような声が聞こえた瞬間、俺の意識はスーッと遠のいていった。
「ん……」
意識が戻り、静かに目を開けると、そこはさっきまでいた体育館裏ではなく、俺が出発した拠点の玄関ホールだった。そして自分の様子を確認してみると、さっきまでの『春日璃乃』としての姿ではなく、出発する前の俺――『千歳戒人』としての姿だった。
……つまり、本当に戻ってきたんだな、俺は。
少しボンヤリとした頭でそんな事を考えていたその時、コツコツコツという足音が後ろから聞こえ、俺はゆっくりと振り返った。するとそこには、ニコニコとした笑顔を浮かべる白羽と静かに微笑む月夜の姿があり、その姿に俺は何故か安心感を覚え、
「……ただいま、白羽、月夜」
思わずそんな言葉を口にすると、白羽と月夜は笑みを浮かべたままそれに答えてくれた。
「お帰り、戒人」
「お帰りなさいませ、戒人様」
ただいま、そしておかえり。普通なら様々な場所で当たり前に交わされているその言葉だが、俺の場合は家庭の事情の件もあり、そういう言葉を交わす機会が全くなかった上、交わそうという気すら起きなかった。しかし、今こうしてこの言葉が自然に出たという事、これはつまり俺がこの場所を『自分の家または居場所』であると認識している証拠なのだろう。
……これもやっぱり、俺が『召喚を司る能力』で呼び出した奴らの事を友達みたいな物と思ってるのと同じで、白羽達の事を仲間だと思ってるからなのかもしれないな……。
そんな事を思った後、俺はポケットの中の吸力珠を取り出し、白羽へと手渡した。
「『怪力』の能力、ちゃんと回収してきたぞ」
「うん、お疲れ様。それじゃあこれは、しっかりと預かるね」
「ああ。ところで、この吸力珠で回収した後の能力の強さってどの程度になるんだ?」
「そうだね……大体半分くらいの強さになるかな。今回の『怪力』の場合だと、フルパワーで1トントラックくらいなら持ち上げられたはずだから、今の場合だと500kgまでなら持ち上げられるはずだよ」
「……それでも充分スゴい気がするけどな」
「あははっ、まあそうだね。あ、因みに戒人を転送し終えた後、向こうの世界には色々な処理を施しておいたから、そこは安心してね」
「色々な処理……?」
「そう。今回の戒人の役である『春日璃乃』に関わった人達から今回の件についての記憶を消したり、存在していた痕跡を消したりとか、本当に色々だね」
「……そっか」
つまり、俺と皆藤が交わした会話とか笑い合った事とかも全部無かった事に――
そう考えていたその時、俺はある違和感に気づき、その事についての疑問を口にした。
「あれ……白羽、それだと皆藤がまた同じ事を繰り返すんじゃないのか?」
「ふっふっふ、そう思うよね? それでは、こちらをご覧下さーい♪」
白羽のその言葉と同時に俺達の目の前に透明な水晶玉のような物が現れた。大きさは一般的に占い師が使っているような物と同じくらいで傷や曇りなどは一つも無いとても綺麗な物だった。
「白羽、この水晶玉は?」
「これは
「へー、つまりさっきもこれで俺達の事を見てたって事か?」
「大正解。それじゃあ、早速見ていこうか」
そう言うと、視水晶を持つ白羽の手がボンヤリと白く光り、その光が視水晶へと注ぎ込まれると、透明だった視水晶に何かが映し出され始めた。そして、それを見た瞬間、俺は思わず小さな笑い声を上げてしまった。
「……ははっ、なんだ楽しそうじゃん、アイツ」
そこに映し出されていた物、それは女子だけではなく、屋上で助けていた眼鏡の男子生徒や体育館裏で殴り合いをした男子生徒達とも仲良く学校生活を送る皆藤の姿だった。皆藤の周囲にいる生徒達の表情には怯えや恐れといった感情は一切浮かんでいない事から、皆藤がしっかりと『自分自身の力』で仲良くなった事がハッキリと分かった。
……良かった、アイツが幸せそうな生活を送れてるようで……。
視水晶に映る皆藤の姿を見ながらホッと胸を撫で下ろしていると、白羽がクスクスと笑いながら話し掛けてきた。
「当然、『春日璃乃』と『千歳戒人』についての記憶は消えてるよ。でも、ターゲット達に与えた影響とか心境の変化とかは微かにでも心のどこかに残るみたいなんだ。良い意味でも悪い意味でも、ね。だから、戒人がやった事は決して無駄にはならないんだよ」
「そっか……」
ターゲット達に与えた影響とか心境の変化とかは良い意味でも悪い意味でも心のどこかに残る、か……。何だか少しだけ嬉しいかもな。
そんな事を考えていると、白羽は小さく笑いながら再び話し掛けてきた。
「ふふっ……今回の戯曲のタイトルは、さしずめ『悪夢から目覚めたヒーロー』ってところかな。闇に染まっていたヒーローが、少しお人好しな別のヒーローとの触れ合いで光を取り戻す、みたいなね」
「……何だよ、その週末のヒーロー番組みたいな内容は? それに戯曲って……」
「あっれ~? 戒人だって『仕事』をまるで演劇作品のようにやってなかった~?」
「……まあ、確かにそうだけどさ」
「それに、そういうタイトル付けるのも何だか楽しいしね」
「……そうですか」
半ば諦め気味にため息をつきながら答えると、白羽は楽しそうな様子でうんうんと頷いた。
「それにしても……戒人を【Cheat Breakers】に引き入れたのは本当に正解だったね」
「【Cheat Breakers】……?」
「うん。僕が命名した戒人達のチームの名前だよ。もっとも、まだ戒人は他のメンバー達とは会ってないから、チームって言われてもピンとこないと思うけどね」
「まあな。それにしても……中々物々しいチーム名だよな、これ」
「危険な能力者狩りが仕事のチームだからね、そこは仕方ないよ」
「……まあ、それもそうか。それで、俺を引き入れて良かったって何でだ?」
「それなんだけどさ……実は、ここまでの平和な解決が出来たのは、戒人が初めてなんだよ。他のメンバーは、【Cheat Breakers】という名前通りに能力者をコテンパンにした上で能力を回収してくるんだけど、やっぱりこれだとターゲットのその後の生活が少し可哀想な事になりがちなんだよね。でも、戒人はターゲットの中にある悪い部分や危険性だけを壊した上で能力を回収して来れた。そして、能力を回収した後のターゲットは幸せそうな生活を送れてる。だから、戒人の存在が【Cheat Breakers】のメンバーにとっても良い刺激になるかもしれないんだよ」
「俺の存在が【Cheat Breakers】のメンバーにとっての良い刺激になるかもしれない……ねぇ。けど、必ずしもそう出来るわけじゃないぞ? 俺は他のメンバーと積極的に絡む気は無いわけだし」
「それでも良いよ。でも、戒人が他のメンバーと組む時は必ず来るから、その時はなるべく協力してね。少しでも協力すれば、他のメンバーにも何かしらの影響はあるだろうからね」
「……分かった。善処するよ」
「うん、ありがとう。そして――」
白羽はニコリと笑いながら俺に右手を差し出しつつ言葉を続けた。
「これからもよろしくね、戒人」
「……はいはい。こちらこそ、よろしくな」
俺はフッと笑いながらその手を取り、白羽と握手を交わした。
……俺の初仕事は何とか無事に終わったわけだけど、これからも今回みたいなターゲットとのバトルやらふれあいやらが絶対に存在する。まあ……正直、まだこの『仕事』をやっていける自信がついたわけじゃないけど、とりあえず俺らしく色々とやってみるとするかな。
いつもとは違ったそんな穏やかな気持ちの中、俺は白羽と握手を交わしながら心の中でそう決意した。
政実「第5話、いかがでしたでしょうか」
戒人「今回は軽いバトルをした回だったけど、これから先の話だともっと激しいバトルとかもあるんだよな?」
政実「そうだね。時にはそういうバトルがない章もあると思うけど、大体は能力バトルみたいになるかな」
戒人「了解。さてと、次回の投稿予定は未定で良いのか?」
政実「うん、そうなるかな」
戒人「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
戒人「そうだな」
政実・戒人「それでは、また次回」