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カーテンの隙間から外の状態を覗けば、そこには抗うことのできない天敵がうじゃうじゃと動き回っている。生き残るためにも今は身を潜める。まさに命がけのかくれんぼ。見つかれば最後灰と化して死ぬ。そのことに恐怖を覚えながらも外の状態を随時監視する。
脳をフルに使い、見つかった場合を考慮してこの地域周辺の地形や建造物を思い出す。完全ではないがある程度は頭に叩き込んでいるので、その脳内マップから推測する。敵の数は10あたりで窓から見える数は4体。
住宅街のため家の並びは規則正しい。家の後ろ側はコンクリートの坂。それも少し急で高さもややあるので、もし登ったら即刻堕ちるだろう。
かといって反対方向へ向かうとなると時間がかかるため、やられる可能性がある。
結論。無理。
時間が経てばノイズは勝手に消滅すると政府から情報開示されているので、もうこれはタイムアップを狙うしかない。
月華は考えるのをやめた、というよりノイズの恐怖でもうこれ以上考える力が切れかかった。
できる限りのことを尽くしてはいるが、月華もただの人間。最善な行動をとっているがものの、死とは恐ろしいものだ。
「響ちゃ―――――
響にこれからの予定を伝えようと振り向くと、彼女は体育座りで俯いていた。その雰囲気は暗い。よく見ると震えているようにもみえる。当たり前といえば当たり前のことだ。とりあえずは難を逃れたもののまだ助かっているわけではない。ノイズはまだ壁の向こうにいるのだ。それで平然といられないのが普通であろう。
「・・・。」
「・・・怖い?」
「・・・うん。」
「・・・そうだよね。」
(・・・この状態で逃げ回るのは難しいかな。)
何か話すべきだろうと考えたが何を話せばいいのか思いつかないし、そもそも考える気力が残っていない。むしろ彼女の恐怖を煽ることになるかもしれないと思い何も言わずにいた。
このまま何事のないよう祈るしかないその状況に少しもどかしさを覚えた。
◆
トラウマ。
響は怯えている。だがその原因はノイズからの死の恐怖が主ではない。
―――――また奪われるかもしれないという恐怖。
ノイズによって人生を大きく狂わされた。そしてそれは今回も同様かもしれない。せっかく自分を理解してくれる人が現れたというのに、もし目の前で失ったら?という自分が死ぬことよりも生きている絶望。また放浪生活戻って誰も理解されぬまま一生を終えたらという未来。そんな悪寒が響を襲う。
(また一人になるのは・・・やだ・・・・。)
響の視界に現れるのは唯一理解しようと歩み寄ってくれた一人の少年。その瞳はまるで苦しむ我が子を憐れむような、悲しそうな目をしていた。
「・・・怖い?」
「・・・うん。」
そうだよねと月華は言葉を紡ぐ。
「今から逃げ切るのは少し難しいだろうから、とりあえずはノイズが消滅するタイムアップまでここで雲隠れするよ。すぐそこにノイズがいるしね。とりあえず静かに、おとなしくね。」
「・・・うん。」
そう言葉を紡ぎながら響の隣に壁に寄りかかりながら脱力するかのように座り込む。
チクタクと時計の針が動く音が辺りに響く。最後に会話した時からいったいどのくらいたったのかとふと時計を見ているとまだ5分も経っていなかった。体感的にはもう1時間だと思っていたが、時間を意識してしまうのはやはり落ち着かないからだろう。
かつての戦争時代、空爆から地下に避難している人々はこんな気分を日常的に味わっていたのあろうか。そんなことを考えていると、響の肩に物理的な重みを感じた。
「すぅ・・・。」
「・・・。」
どうやら月華はノイズに襲われる前に疲れて睡魔に襲われたようだ。死ぬかもしれないというのに疲れたからと言って寝れるだろうか。少なくとも自分はいろいろ怖くて寝れない。
(・・・どうしてこの人は。)
川島月華。彼は赤の他人である自分を助けてくれた。今までもそうだけど今回もそう。あの時彼はノイズに殺されるかもしれないという死の恐怖の前でも自分を助けてくれた。人が窮地に立つとその人の本性が出るもの。今までの人ならきっとすぐに自分を見捨てるだろう。にもかかわらず自分を助けてくれた。
昔似たような女の子と良く遊んだ記憶がある。
(・・・?だれだっけ・・・。)
なぜその子を思い浮かべたのかはわからない。小さいころからずっと一緒にいたはず。でも思い出せない。
(まあいいや。)
思い出せないということはたいして大事なことではないという事。その人ももう自分のことを忘れているだろうし深く考えているのをやめた。
その月華の寝顔をずっと見ていたからだろうか。不思議と震えが止まった。どこか心に余裕ができたように感じる。
(これからどうしよう・・・。)
これからとは、今の現状についてではなくこの災害を乗り切った後の生活についてだ。最初は信用してないのもあって早くどこかへ行こうと考えていた。でも、彼との生活はどこか居心地がよかった。このままあそこに居たい。
(けどもし、私のことがばれてこの人にまで巻き込んじゃったら・・・。)
そうしたらどうなるのだろうか。彼も敵に回るのだろうか。それとも守ってくれるのだろうか。
(さっき助けたことも考えてその時でも一緒にいてくれると思うけど・・・でも。)
そうなるとは断言できない自分がいる。放浪し続けて見つけた温かい場所が実は罠だったなんてもう目も当てられない。ずっと裏切られて奪われていたからどうしても完全に信用できない自分がいる。
(・・・最低だ・・・私。)
そんなことを考えている自分に嫌気を感じた。
(でも・・・もう少しだけ・・・いてもいいよね・・・?)
温かな気持ちになったのは事実。その温もりにもう少し当たっても罰は当たらないだろう。
だが現実はいつも非常だ。
そんな願いを持っている少女すら、慈悲もなく災厄が響の視界に映った。月華がさっきまで見ていたカーテンの隙間からごちゃごちゃした色の頭部らしき天敵がこちらをじっと見ていた。その事実に恐怖で顔を青ざめる。
「起きて!!」
「っ!?・・・ノイズっ!?」
響の声で目覚めた月華はそんなと声を零す。次々とこの部屋に窓を文字通り、通り抜けて侵入するノイズ。そのことを理解した月華は、条件反射で響の手を掴み玄関へと走る。さっさと廊下あたりにいるべきだったと後悔しながら家を飛び出した。
とにかく住宅街を出る。住宅街ゆえの規則的な道で周りには家か公園しかない。単調な行動しかできないし、隠れる場所もない。まさに絶体絶命だ。
「どうすれば・・・っ!」
曲がり角にあるミラーを見ると、一体のノイズの形状がねじれるように変わる。突進攻撃だ。標準は月華ではなく響。響を抱きしめながら横に飛び込んで緊急回避をする。
「ぐっ!?」
間一髪助かったが、着地の際に足をひねってしまった。その激痛に思わず顔をゆがめる。そして最悪の要素はそれだけではない。すぐに逃れられない絶望が月華たちの目の前に現れた。
その正体はノイズ。数は4匹。
一匹ならわずかながら可能性はあった。その方法はさっきやったように突進攻撃を誘い、横に緊急回避をして進むという方法だ。足を痛めているが、それでも可能性はあった。だがそれも複数いるのなら話は別。響をかばうように月華は前に立つ。
この道路はそこまで広くない。道の横は最悪なことにブロックでできた塀。住宅の入り口すら近くにない。
それでも、一人だけ助かるであろう方法は―――――ひとつだけある。
「響ちゃん・・・。」
「・・・何?」
「僕に張り付いて台になるから、塀を上って向こうに逃げるんだ。」
「っ!?」
その内容は1人が塀を超え、もう一人はおとりになるという方法だった。それならほんのわずかなものではあるが生きている可能性はある。
でもそれは。
「・・・できないよ・・・そんなの。」
「お願いだ・・・行ってくれ。」
「いやだ・・・。」
響にとってはすごくつらい方法で、仮に生き延びたとしても響自身それからどうするか。おそらくは想像に難くはない。でも現実は非常で、月華はもう生き残ることはできない状態にある。だからせめて彼女だけでもと救おうとする。
「足手まといがいる中じゃ君もやられちゃう。」
「いやだ。」
それでも、おいて逃げないと頑なに響はその方法に応じない。
「このままだと君も消されちゃうんだよ!!だから―――――」
諦めかけている月華の様子に響の思いは―――――沸騰する。
「できないよッ!?そんなこと!!」
「っ!!」
響の大きな声に驚き思わず月華は振り向いた。今まで彼女が見せていない悲しみの顔で響は泣きながら胸の内にある思いを吐きだした。
「つらかったッ!!お父さんもお母さんもおばあちゃんもいなくなってッ!!住む家も無くなってッ!!何もかもなくなってッ!!」
あの日をきっかけに、すべてが反転するように世界が変わって。楽園から地獄に変わって。自分のせいで家族がいなくなって。みんな自分から離れてしまって。なにもかも奪われてしまって。
「でもッ!!それでもッ!!助けてもらって嬉しかったッ!!うどん美味しかったッ!!おばちゃんが作ったお好み焼き美味しかったッ!!いつも私の心配をしてくれて嬉しかったッ!!」
守ってくれた。一人だった自分を月華は見捨てやしなかった。居心地がよかった。温かかった。その優しさに少しづつ惹かれて。こんな時間が続けばいいのにと願い続けて。
「だからッ!!だからッ!!一緒に逃げるんだッ!!一緒に生きて帰るんだッ!!」
呪われているってそう思ってた。
―――――・・・・・うん・・あ、起きたんだね。・・・よかった。
出会ったあの時は大雨だった。
―――――ボクの名前は川島月華って言うんだ。よろしくね。
彼がわたしを拾ってくれなければ今のわたしはいない。
―――――けが人はおとなしく休んでいなよ。それに行く宛てはないんだろう?
彼は最初からわたしを信じてくれた。
―――――盗んだりするの?
どんな思いがあっても、助けたことに、支えてくれたことに感謝してる。
―――――それに、あの時と同じだしね・・・・・・。
もういいだろう。立ち止まるのは。怯えるのは。彼は出会った時から私を待ってくれてる。
―――――ゆっくりでいいから、待っているからね。
進もう。前へ。私が歩む道を。
助けたい。一緒に帰りたいという願いを胸に秘めて。
そしてその願いは力へと変わる。歌とともに。
―――――Balwisyall Nescell Gungnir tron...
胸を中心に『火』が灯る。