グレビッキーと家族になりました。   作:sinkeylow

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今年は40度超えるかな。

また繁忙期にはいったため投稿が間隔伸びます


同族

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は・・・・はあ・・・・はっ・・・・・!」

 

 

逃げる、逃げる。

 

夕暮れに染まる街を小さな手を握り締めて少女は走る。鳴り響くノイズ警報。小学生の自分より年下な男の子を連れての逃亡。周りには両親どころか人一人いない。あるのは宙に舞い続ける()。その災害はすでに人を灰に変えた。

 

 

「・・・ッ」

 

「うぅ・・・おかーさぁん・・・」

 

 

怖い。油断すれば、この子を置いて逃げてしまいそうで。十代にも満たない小さな子供に兵士のような覚悟をいきなり持て、というのが無理な話。

 

 

(――――ダメッ!)

 

 

絶対にダメだと、首を振り回す。そんなことをして果たして自分は今後胸を張って生きていられるのか。生き残ったと本気で安心して平凡な日常を過ごせるのか。そんなことをしたら、自分は人殺しとして一生苦しんで生きていくことになるだろう。

 

 

「だいじょーぶ、こわくない」

 

「おねーちゃん?」

 

 

震える声で安心させる。強く手を握る。

 

 

「――――ぁ」

 

 

涙をボロボロ零す男の子。見れば、こっちをじぃっと見つめるノイズの群れ。引き返そうにも、道をふさぐように別の群れが降ってきた。前もノイズ、後ろもノイズ。わき道は見えず、逃げ場はない。どう見ても十以上はいるノイズ達。飛び掛られれば、一溜まりもないだろう。

 

 

(――――やっぱり、無理だったのかな)

 

 

しがみついてくる男の子を抱き返して、少女は思う。年上とかしっかりしないととかもうそんな思いは死という恐怖の前では砂の城のごとくボロボロに崩れ去る。

 

 

「・・・・ぁ・・・・・ゃ、だ・・・・!」

 

 

とうとう我慢の限界を迎えた恐怖が、溢れそうになってーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――道を開けろォォォォォ!!

 

 

遠くから聞こえた少女の叫び。

 

 

―――――はあああぁぁぁぁぁ!!

 

 

いや、それは憤怒の雄叫び。

 

 

そこから一筋の槍がその場にいたすべてのノイズを蹴散らした。

 

ヘッドギアを頭につけ両腕にガンドレットを装着し、足にはブーツ型のユニットがついている。深夜の夏風が彼女が巻いているマフラーを静かにたなびかせ、まるでナイフのような鋭い目つきであたりを見渡す。

 

10代の少女が絶対にしないであろう顔に思わず二人は恐怖する。

 

 

「ヒィッ」

 

 

標的が存在しないことを確認したオレンジの少女は二人のほうに振り向き、近づく。殺される。脳裏にそう過った。

 

ゆっくり手を二人に向け―――――

 

 

「・・・え?」

 

 

―――――温かい手のひらでそっと頭を撫でる。

 

 

「よく頑張ったね・・・」

 

 

そして。

 

まるで聖母のように、笑いかけてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは8月下旬のこと。オレンジの少女、立花響が装者となってから1ヵ月以上の時が過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノイズの進撃は終わった。被害者がわずかに出たものの、それでも世界という広い範囲で見れば最小限だ。これが他国だったらもっと被害が出ていただろう。聖遺物の技術研究が世界で最も進んでいるからこそ被害が()()で済んだのだ。

 

それは大変喜ばしいこと。しかし、それでも素直に喜ばずに被害ゼロを目指そうとすることは日本人としての性か。それとも日本の地位を高めるためか。

 

本部からの通信ですべてのノイズを排除したと報告を受けて胸の奥から湧き上がっていた闘志(さつい)が鎮まる。

 

その後、事後処理班が現場に到着。その様子を見てようやく響はシンフォギアを解く。先ほどのバトルスーツは粒子化され、私服姿へと変わる。

 

響は煤となったノイズを掃除機のような特殊兵器で吸い取り、どんどん処理している様子を眺める。

 

 

この光景もいったい何度見たのか。ノイズが出現しては倒して出現しては倒してを繰り返し、その数十回以上。

 

シンフォギアを心臓に宿し、纏うことができて憎きノイズを倒すことができた。

 

しかしそれだけだ。その先には行けない。生体。居場所。それらがいまだ未定。根絶させるための手掛かりがない。

 

なぜ、これほどまでに東京都内にノイズが頻繁に出現するのか、いまだ謎のまま。

 

 

(・・・今日は星がきれい。)

 

 

大きな力を手にしたというのに、天から見下ろしている雲一つない星をこうして見上げるだけ。そこにいるのに、ロケットを打ち上げるほどの大掛かりなものがないと宇宙(未知なる領域)には行けない。

 

 

(・・・関係ない。)

 

 

どちらにせよノイズは人間の世界にやってくるのだ。ならばこのまま倒していけばいずれ全滅する。何年経とうとかまわない。怒りに身を任せてただ殺すだけ。

 

それが、それこそが響の悲願。死してでも成し遂げる。響の生きる意味。

 

 

―――――違う。

 

 

それはどうも違うように感じる。満たされないのだ。響の胸にぽっかり穴が開いたような感覚がずっと続いている。殺しても殺しても満たされない。それがどうももどかしい。

 

 

―――――早く、次のノイズが現れないのだろうか。

 

 

「っ!?」

 

 

自分の世界に入り込んでいると、頬に冷たい何かが触れ、現実に戻される。

 

 

「よっ!お疲れ様。」

 

 

振り向くと、近くで買った缶のみかんジュースを持った、響と同じガングニールの少女・天羽奏がいた。

 

 

「・・・ありがとうございます。」

 

「どうした?深刻そうなをして。」

 

「いえ・・・なんにも。」

 

 

なんでわざわざそこの自販機からみかんジュースを買ったのか、疑問に思いながら口にする。蒸し暑い空気とは相反した温度が胃の中に入っているのがよくわかる。

 

 

「響ってさ―――――」

 

 

響の隣に座り、同じジュースを口にした。言葉を紡ぐ。

 

 

「―――――昔の私と同じ目をしてるよな。」

 

「・・・え?」

 

 

その言葉に目を見開いた。同じ目をしていた?昔の奏さんと私が?

 

 

「あたしもノイズが憎い。ノイズに家族を殺されたんだからな。」

 

 

缶ジュースを凹ませる手を見てその怒りを実感する。

 

 

「奏さんも・・・ノイズに・・・。」

 

 

それは意外な言葉だった。初めて会った時もその後を見てもノイズを憎んでいる割には自分と比べて怒りが少し小さいのだ。自分のようにもっと狂気的といえるほどの苛烈にはなっていない。

 

 

「・・・何があったんですか?」

 

 

こういうのは触れないのがマナーというべきだろうが、同じ復讐者(どうぞく)であるからだろうか自然とそう口にしてしまった。

 

 

「ああ、話そうか。」

 

「・・・いいんですか?」

 

「どうせ誰かが語るさ。」

 

 

糧手で軽く投げた空き缶はきれいな放物線を描き、カランとゴミ箱に入った。

 

 

「きっかけは・・・両親と長野の宮上山に旅行にいた時。そこで偶然ノイズに襲われた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長野県宮上山で起きたノイズの襲撃。そこには奏の一家がいた。両親は仕事。奏はその付き添いで来た。奏にとっては旅行の気分だった。そしてノイズによって奏の日常は壊された。

 

煤が舞う山の麓に倒れているところを特異災害対策機動部二課に保護され、目が覚めた時には見知らぬ地下施設の椅子に拘束されていた。

 

手負いの獣。当時の奏を表現するならそれだ。

 

力が欲しい。ノイズを倒すための力が。人間の天敵。奏の家族を奪った憎き奴らを倒したい。

 

 

―――――それは、君が地獄に落ちることになってもか?

 

 

―――――やつらを皆殺せるのなら・・・あたしは望んで地獄に落ちるッ!!

 

 

適合率がない奏がシンフォギアを手にする唯一の方法。それは長い薬物投与による生活を乗り切るしかなかった。薬を体内に流しては吐血する毎日。いったい何度気を失ったか。死にかけたか。

 

 

―――――ここまでしても適合ならずか・・・。

 

―――――ここまでだなんてかたいこと言うなよ。パーティ再開と行こうぜ?了子さん。

 

 

ノイズに復讐を果たせないのなら死んでもいい。舞台に立つか死ぬかの選択しかない。ゆえに自分から薬物の過剰投与をするのに迷いも戸惑いもなかった。

 

 

―――――え?適合係数大幅上昇・・・ッ!?

 

 

その思いが実ったのか、突如飛躍的に適合係数が上昇。内に溜まったエネルギーは周りに衝撃波として研究員達を吹き飛ばす。

 

湧き上がる闘争心(さつい)。祈り続けた願望(ひがん)。払い続けた対価(じんせい)。奏の持つすべてを舞台に上がるための架け橋となる。

 

 

そして奏は・・・歌った。

 

 

―――――Croitzal ronzell Gungnir zizzl

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏自ら語った拭い難い過去。日常を失い、力を手にするまでの過程を響は聞いた。内容は想像を絶するものだった。死線を潜り抜ける程の執念。奏が口にする言葉一言一言に重みを感じた。

 

 

「薬物投与の日々は本当に地獄だったよ。」

 

「・・・やめたいとは思わなかったんですか?」

 

「全然。ここであきらめてしまったら・・・両親の仇をとれなくなるから。あたしの心は止まらなかった。」

 

 

ノイズという形ある死を目の前にすると普通なら足がすくむもの。しかし強い意志があった。戦地に行くまでの強い意志(さつい)が奏にはあった。

 

自分とは違う。たまたまシンフォギアを手にしたが、もし奏と同じ状況だったら死線をくぐってまで手にしようとするのだろうか。それほどまでの狂気をその身に宿せるだろうか。

 

 

自分は―――――わからない。

 

 

怒りよりも上回ったもの。それは悲しみだった。いつもの日常が崩壊して、消え失せて、泣いた。すべてを奪ったノイズに対して、シンフォギアを手にしたきっかけがあったからこそ怒りが上回ったに過ぎない。

 

()()()()()()宿()()()()()()()()()なのにこうも違うのか。

 

 

―――――あれ?

 

 

響の脳裏になにかがひっかかった。

 

 

(・・・あれ?・・・なんか私は違うような?()()()()()()()()()()って・・・。)

 

 

「響・・・?」

 

「あ・・・なんでもありません。」

 

 

続けてくださいと響の言葉に奏は言葉を紡ぐ。

 

 

「それからは響と一緒だ。」

 

 

特異災害対策機動二課とともに憎しみのままノイズを殺す。そのために歌った。相棒となった翼と戦地に向かって、瓦礫の足場を翔ける。時には天も翔ける。それが終われば相棒とともに訓練。人間とは思えない()()()()()()()()()()()()()()

 

 

―――――へ?

 

 

「へ・・・?司令に?」

 

「ああ・・・てそうか。そういえば響はまだ旦那と戦ったことがなかったな。地ならしをしたり、パンチ一発で吹っ飛ばされたり、空高く飛んだりできる。」

 

 

確かシンフォギア含め聖遺物を取り扱えるのは装者である響達3名のみだったはずだが。まさか聖遺物なしでシンフォギア装者を圧倒したというのか。

 

 

「圧倒したんだよ。旦那は強いから。」

 

「うそですよね・・・?」

 

「マジ。日本が核を持たない理由なんて言われているよ。」

 

「・・・まあそれは置いといて、そのあとはどうなったんですか?」

 

 

まあそのおかげか戦闘未経験からかなり早い段階で戦闘に参加できた。そしてある日。ノイズの襲撃にいつも通り翼とノイズ排除。それが終わった後のことだ。

 

瓦礫に埋まっていた1課の兵士が他の2課の実働部隊に救助された際にあることを言われた。

 

 

『ありがとう。』

 

『え?』

 

『瓦礫に埋まっている中、あきらめかけた時に歌が聞こえたんだ。生きる希望がある。そう思ったら不思議と頑張れたんだ。こうして生き残った。』

 

 

もう一度ありがとうと言って彼は運ばれて行った。

 

 

―――――ありがとう

 

 

ただその言葉が胸に響いた。憎悪と憤怒をもってしてノイズを殺した。自分のためだ。しかし、ありがとうという感謝の礼を受けたとき、初めて自分がしていることを自覚した。

 

 

「私がやっていくことは、周りから見たら()()()()()()()()()()()ように見えたんだって。」

 

「誰かのために・・・。」

 

 

さっき見た怒りに満ちた表情とは違って温かく優しい印象になる。うれしかった。彼のその一言が奏を復讐者から人類を守護する救世主へと変えた。

 

心の穴にピースが埋まった。そんな感じがしたのだ。そして自覚した。これがいつもの自分、天羽奏だ。

 

 

「だから・・・ノイズが憎いのがわかるさ。けど忘れないでほしい。響がやっていることは、りっぱな人助けでもあるんだってこと。」

 

「・・・っ!」

 

 

人助け。静かな夜に、その言葉が胸の奥に響いた気がした。

 

 

「あ!お姉ちゃんだ!!」

 

 

すたすたとこちらに走ってくるのは今回響が助けた少年と少女。きらきらと無邪気な目をこちらに向けていた。

 

 

「「助けてくれてありがとう!!」」

 

「!!」

 

 

心が満たされた気がした。頬に温かい雫が伝う。

 

 

「お姉ちゃん?」

 

「泣いてるの?」

 

「・・・ううん。大丈夫だよ。」

 

 

人助け。それは響の行動原理であり、響にとっての代名詞。ようやく見つけた欠け落ちていたピースがカチャリと、嵌った。

 

 

(・・・そうだ、どうしてこんなことを忘れてたんだろう。)

 

 

涙をぬぐい、幸せそうに微笑む。

 

 

「どういたしまして。」

 

 

そうだ。これだ。これが私なんだ。

 

 

「奏さん・・・。」

 

「うん?」

 

「ありがとうございます。」

 

 

もらい泣きならぬもらい幸せ。響の表情に奏もはにかんだ。

 

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「じゃあね、お姉ちゃん!」」

 

 

そう子供たちは親に手を引かれてその場を後にした。丁度事後処理が終わり、響と奏もその場を後にする。明るく微笑んだ表情で車に乗り込む響を見て安心する。

 

同時に脳裏にあの時の出来事が浮かんだ。思い出すのは初めて響と月華が本部に招き入れられた翌日に、月華が響を除く奏達に言った言葉。

 

 

『響ちゃんが本来怒りを向けるべき相手は・・・()()です。』

 

 

なぜなら響の家族を殺したのは他ならぬ人間なのだから。それをわかっているのに怒りをノイズに向けているのは、彼女の優しさのおかげだ。ノイズが人を殺す。ノイズが現れなければあの惨劇は起きなかったことなのだ。

 

しかしそれはきっかけに過ぎない。直接手をかけたのは人間だ。

 

彼女の優しさが無意識に()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『だから、そうならないように注意をしてください。でないと響ちゃんは―――――

 

 

それがもし、もう一度崩れてしまったら。

 

目の前で歪んでしまったら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――響ちゃんは・・・()()()()()()()()()()()。』

 

 

(・・・させないっ!!そんなこと絶対に・・・っ!!)

 

 

自分たちの不手際で不幸にされた少女をこれ以上堕とさせたりはしない。

 

今度は必ず救う。

 

そう奏は己の撃槍に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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