グレビッキーと家族になりました。   作:sinkeylow

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季節の変わり目はほんとに体調を崩しやすい。
だが、頑張って投稿するぞ~と思ったら体がだるすぎてやる気が出なかった。そして評価バーが少し落ちたことに追い打ちを食らう。

まあ、文章能力を上げるために最後まで頑張るけどね。

ちょくちょくランキングに載るようになりましたありがとうございます。

それではどうぞ。


前進

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月華といったん別れた後、響はおばちゃん家に上がらせてもらい風呂に入っていた。風呂とはいってもややぬるま湯ではあるが、その温度がまたちょうどよく気持ちがいい。おばちゃんに聞いたところ月華の家はここから近くにあるらしく、すぐに戻って来るだろうと言っていた。

 

身も心もぬるま湯で十分にリラックスしたところで、頭や身体を洗い出す。シャンプーやボディーソープの使用はおばちゃんに許可をもらっているのでお言葉に甘えて使用することにした。せっかくだから使っていいよとのことだ。

 

身体を十分に清潔にした後にもう一度ぬるま湯に浸かり、リラックス。この状態になると頭の中も空っぽになる。ふと鏡を見ると中央にフォルテシモ上の瘡蓋が映った。

 

がツヴァイウィングの惨劇という地獄の象徴。

 

なにかしらのことを認識すると常に脳裏にチラつくのだ。あの二つの惨劇を。

 

 

―――――胸の奥が疼いた気がした。

 

 

 

 

 

「響ちゃん。」

 

「っ!!」

 

 

この身に刺さった十字架のことを少し思い出していると、おばちゃんが洗面所に入ってきたようだ。

 

 

「・・・・・・なんですか?」

 

「月華君が代わりの着替え持ってきたから置いておくね。」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

 

月華が家から持ってきた服を置きに来たようだ。となると月華はもう戻ってきたのだろう。彼には責務も義務もないし、ましてやこちらから恩返しもすることができない。それなのに承知の上で助けてくれた彼には本当に頭が上がらない。

 

 

「いいってことよ。じゃあ、待っているからね。」

 

「待っている?・・・なんでですか?」

 

 

もしかしておばちゃんも風呂に入るのだろうか?いや、そんなことはない。まだ営業中のはずだ。そういえば仕事中なのに迷惑をかけたなと申し訳ない気持ちになる。そんな疑問をおばちゃんは優しく答弁する。

 

 

「月華君が響ちゃんを待っているのよ。一緒にお好み焼きが食べたいそうなの。」

 

「・・・別に構わず先に食べていいのに・・・。」

 

「まあ、それほど響ちゃんのことを想っているってことだよ。」

 

「想っている・・・ですか?」

 

「きっと少しでも響ちゃんのことを支えたいのよ。今もそうなんだろう?」

 

「え・・・?」

 

「月華君が響ちゃんの服を取りに行ったということは、今は彼のもとでお世話になっているんだろう?どういう経由で今の状態になったかは知らないけど、ゆっくりでいい。気持ちが落ち着いたら少しずつ前に進むといいよ。」

 

響には訳有りだということはもう既に分かっている口振り。彼が話したのだろうかと一瞬思ったが、それはないだろうと直感でわかった。彼も響と似たような苦しみを背負っているからだ。となるとおばちゃんも彼と同じ、責務や義務とかじゃなくてただ、したいからしている、そういう人だろうと響は推測する。

 

ぼやけたガラス越しとはいえ、おばちゃんがどんな表情をしているのかは声だけで容易に想像できる。初めて見たおばちゃんの顔はそれほどまぶしい笑顔だったからだ。

 

 

「・・・・・・ありがとうございます。」

 

 

それじゃあ後でね、と言いおばちゃんは洗面所を後にする。そういえばお腹がすいていたのだった。考え事をしていたのですっかり忘れていた。彼に世話になってから、こういうことが少し増えている気がする。

 

 

「あの・・・。」

 

「うん?どうかしたかい?」

 

 

ちょうどいいと思い、響は先ほどの疑問を聞こうとしたが・・・やめた。

 

 

「・・・いえ、なんでもありません。」

 

「あら、そう?じゃあ気にしないで、ゆっくりしてね。」

 

 

おばちゃんはそういい洗面所を後にする。

なぜこの疑念を問うことをやめたのかというと、分かったからだ。どうして聞いてこないのか。ふらわーのおばちゃんからは自分がよく知る人に雰囲気が似ているからだ。その似た雰囲気の持ち主を響は思い出した。

 

 

(―――――この人は私のおばあちゃんによく似ている。)

 

 

生々しい胸のフォルテシモの瘡蓋を残している、ただの怪我では説明のできないものだ。それなのに、おばちゃんも月華も聞こうとはしなかった。大体の人はこちらの心情を察して聞かなかったと思うだろう。しかし響はそうは思わない。

 

決して向こうから、こちらに踏み込もうとはしない。まるでこちらが動くのを待っているかのように。

 

響の脳裏に懐かしい記憶が蘇える。

 

ふらわーのおばちゃんはホームレス時代前のいつも一緒にいたおばあちゃんによく似ている。雰囲気もあり方も。おばあちゃんはいつもどんな時も前向きだったお父さんや、辛い思いや悲しい思いをした時に一緒に立ち向かってくれるお母さんとは違う。

 

倒れそうなときには支えてくれるし、相談に乗ってくれる。普通なら気になって聞いて来るであろう辛い過去のことも、自分から話してくれるまで待ってくれる。そして話すと一緒に悩んでくれる。一緒に考えたりはするが答えはあまり出したりしない。

 

おそらくそれはおばちゃんにとっての教育の一環なのだろう。たとえ大人になって困難にぶつかったとしても、自分で解決出来るようにするためだと考えてのことだろう。でもまだ子供だから一緒に悩んでくれたのあろう。

 

ふらわーのおばちゃんも待っている。彼も待っている。響が踏む出すのを。

 

 

だが、まだそれはできない。

一年以上もの積み重なった迫害や罵倒によってついた傷が、それを止めるのだ。身体中の神経に恐怖という形で危険信号を送る。

 

 

(でも、それでも・・・・・・。)

 

 

自分もあんな笑顔をしたい。幸せな日常だったあの頃に戻りたい。

 

月華は言ってくれた。ゆっくりでいいと。待ってくれると。ようやく、自分の味方になってくれそうな人に出会ったのだ。逃げてばかりじゃあ結局何も変わらないのは分かっているのだ。本当は分かっているのだ。

 

逃げ場なんてないし、もう居場所もない。

 

だから―――――

 

 

(少しでいいから・・・向き合おう・・・・・・かな。)

 

 

風呂場の鏡に映る顔は昨日の時とは違い、少し明るくなっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・人がいないね。」

 

「まあ、ここは隠れた名店みたいなもんだし、まだ夕食には時間が少し早いしね。」

 

 

風呂を上がり、月華が持ってきてくれた服を着て、表に既に席をとっていた月華のところに座る。月華や響以外にも大人二人と子供が一人座っていたが、響がちょうど座ったころに食べ終えたらしく、勘定をして帰った。店の中には月華と響、ふらわーのおばちゃんの3人しかいない。がら~んという効果音が鳴った気がする。

 

 

「じゃあ、食べようか。」

 

「うん。」

 

「何食べる?あ、値段は気にしなくていいから。ボクが払うし。」

 

「いいの?」

 

「うん。遠慮しないで。」

 

「・・・。」

 

 

月華からメニュー表を受け取る。バリエーションはそれほど多くはない。だが隠れた名店と言ったので味が好評なのだろう。もし味に評判がなかったらいったい何が好評なのか。どれもうまそうだが、とりあえずおすすめと書いてあるものを選んだ。

 

 

「それでいいの?」

 

「うん。」

 

「おばちゃ~ん。注文決まったよ~。」

 

「は~い♪今いくよ♪」

 

 

月華の呼び声を上機嫌に返して、おばちゃんは勘定科目とペンを持ってやってくる。

 

 

「どれにするんだい?」

 

「僕はいつものやつで、響ちゃんはこのお勧めのやつね。ぼくは自分でやるから材料だけでいいや。響ちゃんはどうする?」

 

「え・・・?自分で作れるの?」

 

「うん。そのための鉄板だし。」

 

 

てっきりおばちゃんが焼くのかと思ったら、この鉄板はそういう事なのかと思ったが、そういえば、お好み焼き屋にはそういう店があるというのを聞いたことがあった。どうしようかと、少し悩んだが、作り方がわからないので安全ルートを選ぶ。

 

 

「いい。」

 

「はぃよ♪すぐにできるからちょっとまってね♪」

 

 

勘定科目をテーブルに置いて、厨房に戻る。そんな背中を見ながら月華は響に話しかける。

 

 

「響ちゃん、少しは心に余裕が持てた?」

 

「・・・・・・うん。」

 

「そうかい・・・。」

 

 

 

 

何があったのかは知らないが、風呂から上がってきた響は少しすっきりしたような顔だったため、何か変化が起きたのではないかと思い問いかける。その返事も不思議と明るくなっているような気がする。少なくとも初めて話した時とは段違いだということは確かだ。

 

 

「ゆっくりでいいから、待っているからね。」

 

「・・・ありがと。」

 

 

少し照れながらもお礼をする。何も聞かなかったし、言う事も無かった。でもそれが、嬉しいと同時に物足りなくも感じた。だれかの温もりを感じるのは久しぶりだ。その感じはどこかくすぐったい。

 

そんなやり取りをしているとおばちゃんが材料をおぼんに乗せて戻ってきた。

 

 

「は~い。お待ちどう様♪」

 

「ありがとうございます。」

 

 

準備ができ、調理を始める。手馴れているのであろう。手際が良く、作業がスムーズに進んでいる。響はそんな料理風景を静かに眺めていると、月華は金属ベラを両手に持つ。出来上がったお好み焼きをお皿に移すそうだ。

 

 

「見ててね。」

 

 

え?という呟きが零れた。いったい何をするのだろうか?とりあえず、彼の言う通りこれから起こる一部始終をしっかり見る。

 

左右から金属ベラと共にその手をお好み焼きの下、その奥まで入れ込み、その勢いに乗って思い切り上へと腕を上げる。それを滑走路にする様にお好み焼きも高く宙を舞った。

 

 

・・・・・・ブオン、ブオンと空中回転を決めるお好み焼きを尻目に月華が用意した大きな皿を持ち上げる。月華がお好み焼きの落ちる方向に合わせて皿の端を持った為揺らぐが、すぐにバランスを戻す。

 

・・・・・・ドス!とお好み焼きは勢いよく皿の上に着陸し、その衝撃に僅かながら皿が揺れ、響は目をつむってしまう。

 

・・・・・・皿を安全圏に下ろし、目を開けるとそこには、とても素人が作ったとは思えない程キレイにできたお好み焼きがそこにあった。

 

 

「・・・すごい。」

 

 

ただその言葉が思わず零れた。驚愕。鮮やかで芸術的。それはまさに職人技のようだった。頬を少し赤めて月華は満面の笑みで照れる。

 

 

「ふふ、ありがとう。」

 

 

その呟きが聞こえたのか月華はお礼をする。そういえば彼は常連だった事を思い出す。何度も練習したからこそできたのんだろう。だが、それを月華はそれとは真逆のことを言った。

 

 

「実はね、今回初めて成功したんだ。」

 

「え?」

 

「いつもは失敗ばかりでね。響ちゃんに出会う少し前が一番ひどかったかな?顔面にべちゃって降ってきたよ。ちょっと手先が器用じゃないから、失敗するたびにおばちゃんに迷惑をかけてね。正直それを最後に諦めようと思っていたんだ。」

 

「・・・じゃあ、なんでやったの?」

 

 

成功の見込みがないのならやる必要がない。ましてや、今回は響もいるのだ。もしかしたら響の方に向かい、火傷するかも知れない。できたら確かにすごいが、リスクの方が大きいはずだ。そこまでする理由は月華には一つしかなかった。

 

 

「それはね、響ちゃんも少しずつ一歩踏み出そうとしたからだね。僕も一歩踏み出そうとしたんだよ。」

 

 

――――― 一緒に悩み、苦しみ、前に進みたい。

 

 

自分が一歩踏み出すことができたのだから、響ちゃんも一歩踏み出すきっかけになるのでは?と思い、失敗覚悟で挑戦した。

 

両親と妹が死んで、心に深い傷を負って一人ぼっちとなっていた月華はふらわーのおばちゃんにお世話になっていた。すぐに立ち直ることができず、何をしても興味を示さなかった。それでもおばちゃんは何とかしようと月華に見せてくれたのがふらわーのおばちゃん命名"スーパーお好み焼きキャッチ"だ。

 

当時はその鮮やかさに目を丸くした。自分もやりたいと、それが初めて一歩を踏み出した瞬間だった。毎回毎回食べたくなったらここに来て、なけなしのお金を払い、たくさん失敗してそれを口に運ぶ。そんなことがしばらく続いた。

 

やり損じが続くが、それからはおばちゃんとは親子と言っていいほどに仲良くなった。おばちゃんがもし病気などで倒れたら、月華の方が看病したり、店の手伝いをしたりいていた。そのたびにコツとかを聞いていた。そして今日、ようやく辛くも成功した。

 

当時は今の響のようにただすごいとしか思わなかった。少しだが年を重ねた今の自分が当時を振り返ると、それはおばちゃんからのメッセージだったのだろうと思う。

 

 

――――― 一人で抱えることはないと。

 

――――― 自分は一人ではないと。

 

 

ただそのことをおばちゃんは伝えたかったのだろう。

だから月華も同じことを響にした。

 

 

「いや~、ひやひやしたけどできてよかった♪ありがとね。」

 

「うん。」

 

 

その思いが響に伝わったかどうかはわからない。だが彼女の顔には少し光が宿っていたことは確かだ。

 

 

「・・・がんばるから・・・。」

 

「うん、頑張れ。」

 

 

頑張るという言葉を響が口にしたことに心の中でガッツポーズをする。また一歩前進したようだ。そんなやり取りをしているとおばちゃんがお好み焼きを持ってきた。

 

 

「はぁ~い、『お好みお玉』1丁!ゆっくりしていってね♪」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

「さ、食べようか。」

 

 

彼に出会ってから、自分の何かが変わった。それは温かくて、家族一団で笑顔で楽しく過ごしている時を思い出す。もうあの頃には戻れない。でも時間はそんなこと関係なく進み続ける。そんなことは分かっている。心残りがないと言えばウソになるが当時にも思い出はたくさんあった。それを壊された絶望は大きく、響の心を蝕んだ。

 

だが今は、奇妙な偶然によって始まった出会いにより生まれた新しい幸せがその闇を払ってくれている。徐々に光が灯り始める。

 

 

―――――ずっと自分の心配をし一緒にいてくれる彼に

 

―――――身の上を知らない自分に風呂を貸してくれたおばちゃんに

 

―――――感謝をするかのように姿勢を正し、手を合わせて言った。

 

『いただきます。』

 

 

その笑顔には確かに小さな幸福が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




感想・評価お待ちしております。

それでは次の機会に。
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