魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
「た、助かったッス……」
檻から解放された大量のプリニーが、口々に安堵の言葉と礼を言う。その数はゆうに100を超えている。
そんなプリニーたちを見て、ヴァルバトーゼは言った。
「安心するのはまだ早いぞ。政腐は、お前たちの処分を決定した」
「えええええッス!」
プリニーたちが驚きの声を上げる。
「……で、でも、閣下が助けてくれるんスよね?」
1匹のプリニーがおどおどと言うと、周りのプリニーが歓声をあげる。
「……情けない。自分の力でどうにかしようとは思わんのか」
それ見たラハールが呆れたように大きなため息をついた。
「な、なんスかあんた!」
「俺たちプリニーが政腐相手に戦っても勝ち目がないことなんてわかりきってることッス!」
「そうッス! ちょっとカッコイイマフラーをつけてて、ちょっと触覚が生えてて他と違うからって、プリニーが調子に乗ったらいけないッス!」
自分たちの身分をわきまえているプリニーが、同じくプリニーの姿をしたラハールに対して口々に叫ぶ。当然だ。プリニーは自他ともに認める魔界最弱の悪魔。
その戦力差は人間とライオンの比ではない。
だが、勝てない相手だからと尻尾を巻いて逃げるのはラハールの生き方に反することだった。
「やかましい!! 俺様をただのプリニーと侮るな!!」
その声量にプリニーたちの動きが止まる。静寂の中、マフラーをなびかせてラハールが高々に宣言する。
「聞いて驚くな! この姿は世を忍ぶ仮の姿……その正体は、かつて人間共を恐怖のズンドコに陥れたこの超超超超最強魔王ラハール様だ!!」
ハァーッハッハッハッハッ!と、高笑いを放つものの、ラハールの名を知らない彼らの反応はない。
「殿下、ズンドコじゃなくてどん底ですってば」
エトナが訂正するが、ラハールは気にするなと耳を貸さない。
「……魔王だと?」
プリニーたちがたわごとだと聞き流す中、人を疑うことを知らぬヴァルバトーゼと常にあらゆる可能性を模索しているフェンリッヒがその言葉に反応を示した。
(確かに、あの凄まじく、そして禍々しい魔力を見て一瞬脳裏をよぎったが……)
値踏みするようなフェンリッヒに気が付いたエトナがくすくすと笑いながら得意げに言った。
「あー。そいや言ってなかったね。あたしらは別魔界から来た悪魔。ちょっとあって殿下がこんなんになっちゃったもんで元に戻る手がかりを求めてこの魔界に来たってわけ」
「エトナ……主人をこんなん呼ばわりとはどういうことだ!」
「えーっ……だって~」
「そうです! ラハールさんをこんなん呼ばわりなんてひどいですよエトナさん!」
「フロンちゃんまで……」
「今のラハールさん。とってもぷにぷにしていて気持ちいいですよ~……うへ、うへへへ……」
「お、おい! 触るなフロン! 離れろ、おい!!」
「……本当に魔王なのか?」
小娘にいいようにされるその様はプリニーそのものだ。だが、アバドンを蹴散らしたあの魔力は確かにただのプリニーとは思えない底知れなさがあった。
「うむ。疑うわけではないが、死んだ悪魔がプリニーに転生するなど聞いたことがない。プリニー教育係として、そこは断言しよう」
呟いたヴァルバトーゼにフロンが視線を向ける。
「ラハールさんのお母様は人間なんですよ」
「……何? 悪魔と人間のハーフなのか。聞いたことがないな」
ようやくフロンを引きはがしたラハールがヴァルバトーゼに指をさして叫んだ。
「おい! そこのお前!」
「なんだ。プリニー」
「プリニーと言うな!!」
「む、すまん」
謝るヴァルバトーゼに、ラハールは面食らってあんぐりと口をあけた。
「こ、こんなに素直に謝る悪魔は初めてだ……お前、本当に悪魔なのか?」
「そこが、我が主の素晴らしいところだ」
フェンリッヒがラハールに鋭い視線を向けて言う。その視線に含まれる敵意に、思わずラハールも応戦しようと魔力を集める。だが、これでは話が進まないと判断したエトナがラハールのマフラーを引っ張って黙らせる。
「ぐおっ!?」
「ね~ぇ。プリニー教育係ならプリニーに詳しいんでしょ? あたしは別にどっちでもいいんだけど、殿下がどぉ~しても戻りたいっていうから、なんか知っていたら教えてくれない?」
「罪の分だけ金をためるか善行を積めば転生はできるだろう」
「転生ではない! 俺様は元の姿に戻りたいのだ!」
マフラーを振り回し、エトナを振りほどいたラハールが怒鳴る。
「心当たりがないな。すまんが他を当たってくれ」
「なんだと……? ならば俺様はこの魔界に無駄足を運んだということか?」
「わざわざ別魔界から俺を訪ねてきた客人だ。もてなしたいところだが俺にはやることができた」
「やることだと?」
「そう。俺はこれから腐りきった政腐を……魔界大統領の性根を叩きなおさねばならんのだ!!」
ヴァルバトーゼが宣言する。それを聞いたエミーゼルが叫ぶ。
「バッカじゃねえの!? お前みたいな奴にそんなことできるわけないだろ!!」
当然の反応だ。プリニー教育係は魔界でも最底辺の職。最下級の悪魔が就くと言われるそんなド底辺がいきなり魔界のトップの首を取ろうなんて言うのだから、夢物語だと笑われても仕方がない。
魔界の階級は強さが全て。立場が上のものほど力が強く、弱いものほど底辺に行く。故に、魔界では下剋上などあり得ないと言っても過言ではない。
「貴様、我が主を愚弄するか」
ヴァルバトーゼを貶されたと見たフェンリッヒが、殺気をむき出しにしてエミーゼルを睨む。フェンリッヒの鋭い殺気におされたエミーゼルが、口をつぐんで視線を逸らす。
「たとえ夢物語と笑われても、自らの怠惰を棚に上げ、問題の根本を解決しようとせずにプリニーの数を減らしてその場しのぎの策を取る腐りきった政腐にこの魔界を任せてはおけん!!!」
そもそも、プリニーが増えすぎたのも魔界政腐が人間を恐怖をもって戒めるという悪魔の役目を怠った故に起きたことだ。政腐の怠惰が原因で人間が謙虚に生きるということを忘れ、悪人が増えた。だというのに、増えたプリニーを処分してその場しのぎを取ったとしても問題は何ら解決しない。少し考えればわかることなのだ。
「フン。俺様の魔界では問題なんて一切ない。情けない魔界だ」
「殿下は自分の魔界の問題を見てすらいないから問題を知らないだけですってば」
「だから、俺がそんな政腐の性根を叩きなおしてやらねばならんのだッ!!」
天へ高々と宣言するヴァルバトーゼを見て、ラハールは笑った。
「……面白い」
「俺様も俺様に喧嘩を売った愚かな大統領に会いたくなった。ついでだ。手を貸してやる」
「げっ。マジですか、殿下?」
帰ろうよ。という視線を送るエトナだがラハールは全く気にしない。
「当然だ。俺様が嘘をついたことがあるか?」
「いっぱいあると思いますけど」
「ぐっ……」
思い当たる節が多すぎるラハールは何も言い返せず、話を逸らそうとヴァルバトーゼを睨んだ。
「だ、だがあくまで手を貸すだけだ! お前にその力がないと判断すれば、俺様はお前を見捨てて帰るからな!!」
「気持ちは嬉しいがこれは俺の……そしてこの魔界の戦いだ。別魔界の魔王を巻き込むわけにはいかん」
「気にするな。もう巻き込まれた。だが、覚悟しろ。お前が相応しくないと判断すれば、俺様はお前を殺してしまうかもしれんぞ」
「貴様ッ……」
聞き捨てならないとフェンリッヒが爪を出すが、ヴァルバトーゼはそれを遮って笑い放った。
「面白い。俺を試すというのか?」
「フン。自信がないか?」
「いいだろう。約束しよう! 必ずお前に俺という存在を認めさせてみせる!!」
ヴァルバトーゼの約束という単語を聞いたフェンリッヒが、こめかみを押さえながらため息を漏らした。
「俺たちも閣下の忠実なしもべとしてついていくッス~!」
大量のプリニーたちがわらわらと叫ぶ。
(予定とは大分違うが……これはこれでいいのか……?)
フェンリッヒは1人呟いた。