魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~   作:あららどろ

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第2章 プリニー戦記
#12 襲撃女の子


「なんだと!?」

「ハイッス!! 現在、プリニー部隊が襲撃者と交戦中ッス!」

 

 プリニーは目を丸くして、パタパタと両手を動かしている。遥か彼方で、爆発音が聞こえた。

 

「このタイミング……政腐の連中め、思ったよりも手が速いな。いかがいたしますか、閣下」

「全面戦争だと……そんな愚かなことをこの地獄で許すわけにもいくまい! 行くぞ、フェンリッヒよ!」

 

 ヴァルバトーゼがマントを翻す。それを見たフェンリッヒが主の出陣を見送る騎士のように頭を垂れる。

 

 その様子を物陰から除く1人の少女がいた。

 

 少女の名はフーカ。地獄に全面戦争を仕掛けた張本人にして「プリニーの出来損ない」の中学3年生だ。

 

「むぐぐぐ……何よ、あのプリニー……! あれが、皮付きのプリニーの待遇だっていうの?」

 

 ハンカチを力いっぱい噛みながら、恨めし気に睨む彼女の視線の先にいるのは1匹のプリニーだ。1対の触覚のようなものを携えたプリニーは襲撃を受けている真っ最中だというのに働く素振りすら見せない。

 だというのに、周りの悪魔たちはそれを注意しようともしない。

 もしも自分があんなことをしたら、今すぐ働けと叱咤された上に1日分の給料の没収は免れないだろう。いや、それで済めばいいものだ。

 下手をすれば最前線に飛ばされかねない。実質の死刑宣告だ。

 

 皮有りのプリニーの待遇はいいと聞いていたが、まさに聞いていた通りだ。

 不遜な態度で腕を組んでいるそのプリニーを見ていると、腹の奥からムカムカと燃え盛るような怒りのマグマが湧き上がってくる。

 皮無し組の待遇を改善すべしという想いが確固たるものへと変わっていく。

 

 フーカの怒りが頂点に達し、プリニーめがけて飛び出そうとした刹那――1人の少女が振り向いてフーカを睨みつけた。

 

 年はフーカとそう変わらないだろう。目を背けたくなるようなほど露出の多い挑発的な格好と、その服装とミスマッチした貧相な体。揺れる深紅の髪からのぞく紅の瞳が、フーカをしっかり見据えている。

 

 

「殺気っつーより怨気な気もするけど……何、さっきから喧嘩売ってんの?」

 

 杖がわりにしていた槍をフーカへ向け、エトナが八重歯を見せて笑う。

 

「……見たことない顔だな。侵入者か?」

 それに続くようにフェンリッヒが、そしてヴァルバトーゼとラハールがフーカへ向く。

 隠れていても仕方がないと判断したフーカは胸を精一杯張りながら手にした木製のバットをエトナに突きつけた。

 

「フ、フン! よく気付けたわね! 褒めてあげるわ!」

「何その恰好、プリニーのコスプレ?」

 

 エトナがフーカの被った帽子を見て、何とも言えない笑いをこぼす。

 

「ムキーッ! それもこれも、あんたらがプリニー撲滅運動に協力しないからよ、この反政腐組織!!」

「小娘……それはどういうことだ?」

「ふん! プリニーが増えすぎたせいで、プリニーの皮が足りなくなっちゃったのよ! だから、あたしたちみたい皮無し組ができちゃったわけ! 皮無し組の待遇はひどいったらありゃしない! あたしたちプリニー殲滅部隊は皮有りプリニーを殲滅して、高待遇の皮有りプリニーとして優雅な日々を送るのよ!」

 

「プリニーにすらなれないとは哀れな……しかし、そんなことはプリニー教育係である俺も知らんぞ」

 ヴァルバトーゼが首を傾げる。フェンリッヒもそこが引っかかったのか、顎に手をあてて何かを考えている。

 

「と・に・か・く! あんたらもプリニーもまとめてこの風祭フーカ様がぶったおしてあげるから覚悟しなさい!」

「確かに、プリニー候補とプリニーが潰し合えばどちらが勝ってもプリニーが減る……腐りきった政腐らしいあくどいやり方だ」

 

 ラハールが笑いながら前に出る。エトナはそんなラハールの後ろから覆いかぶさるように抱き着いて、その頬をつついた。

 

「それじゃ、プリニー代表としてあの出来損ないのプリニーちゃんと戦ってあげてくださいね~。殿下」

「誰がプリニー代表だ!!」

 

 ラハールが短い両腕を振り回しながら、ラハールの頭に肘をつくエトナを振りほどこうとする。だが、エトナはにやにやとした笑みを浮かべながらラハールの身体に腕をからませていく。

 

「まあまあ、ここは1つ皮無しのガキんちょに皮有りとの格の違いって奴を見せつけてあげてくださいよ~」

「ま、待て、エトナ……何をするつもりだ……?」

 ラハールの背に冷たい汗が走る。慌ててエトナの腕を振りほどこうとするも、振りほどくより早くエトナがラハールを持ち上げた。

「そりゃ勿論、プリニーにしかできない、プリニーの十八番ですよ!」

「待て待て待て待て待て待て!!」

「秘儀! プリニー爆弾!」

 

 エトナがどりゃああああああ、と雄たけびを上げたかと思うと、ラハールをフーカめがけてぶん投げた。

 

 プリニー爆弾。投げると爆発するというプリニーの特性を最大限に活かした悪魔らしい鬼畜な戦法である。

 

「うごおおおおおおおおっ!?」

「ほわああああっ!?」

 

 投げられたラハールは慌てて空中でマフラーを広げてブレーキをかける。両腕を顔の前でクロスさせたフーカとあわや接触という直前でマフラーを大きく羽ばたかせて急上昇し、すんでのところで衝突を避ける。

 

 未だどくどくと激しく脈打つ鼓動を感じながら、全身をびっしょりと濡らしたラハールはエトナに叫んだ。

 

「俺様を殺す気かーーーーーーーーーっ!!!」

「チッ……殿下! それより下下! チャンスですって!」

「ん?」

 

 ラハールが視線を下に向けると、マフラーによって起こされた暴風でひっくり返ったフーカがいた。

 フーカはその純白のパンツを天に向ける形で倒れている。

 

 それを見ていたフロンただ1人が「んまっ!」と頬を僅かに赤く染めてラハールを非難した。

 

「よ、よくも、乙女の純潔を……!」

 起き上がったフーカが、怒りに体を震わせながらバットを強く握りなおす。この怒りをラハールにぶつけようとしたものの、宙に浮かぶラハールには届かない。

 

「こらーーーーっ! 卑怯者ーーーーっ! おりてこーーーい!」

「そ、空も飛べないのに勝てるつもりでいたのか……」

 

 ややあきれ顔でラハールが降り立つ。その動作はまるで隙だらけだ。当然と言えば当然だろう。フーカの魔力はほぼ人間同然。ラハールにしてみれば眠りながらだって勝てる相手だ。

 

「ほら、降りたぞ」

 そう言ってラハールは、大きなあくびをした。完全に舐めきっているラハールはもうフーカの方を向いてすらいない。

 

「か、皮があるからって馬鹿にして……このぉ、思い知れーーーーっ!!」

 

 フーカが吼えて、ラハールに殴りかかる。想像以上のスピードに、完全に消化試合だと高を括っていたラハールは対応できずバットのフルスイングをまともに喰らった。

 

 地面をごろごろ転がりながら、虚空から魔王剣を取り出して追撃を受け流す。

 

「こいつ、人間か!?」

「これが! プリニーの憎しみの分!」

「うごっ!」

 

 ラハールのみぞおちにフーカの拳が炸裂する。

 

「これがっ! 奪われたあたしの安らぎの分!」

「どはっ!」

 

 大きくのけぞったラハールの顎を、フーカの蹴りが的確にとらえる。

 

「これはあたしの分! これもあたしの分! こいつもあたしの分!」

「ぐはっ! どふっ! ぶはっ!」

 仰向けに倒れたラハールの上に覆いかぶさったフーカが、その顔めがけて何度も拳を振り下ろす。

 

「そしてこいつが、あたしの分だーーーーーーーーーーーっ!!」

「うがあああーーーっ!!」

 

 振りぬかれた拳がラハールを空高く舞い上げる。そのままラハールは頭から地面に落ちた。うつ伏せのまま立ち上がらないラハールを見たフーカが、拳を天に掲げて勝ちを名乗る。

 

 

 

「あらら~……ラハールさん、負けちゃいましたね」

「なっさけな~。殿下、どうか安らかに眠ってください」

「異世界の魔王よ……短い間だったがお前と過ごした日々は忘れん……どうか……安らかに……」

「勝手に殺すな!!」

 ラハールが飛び起き、叫ぶ。

 ちなみに、この瞬間にラハールの「わざと喰らっていた体で誤魔化す」作戦は失敗した。

 

 が、それを見てもフーカは動じない。むしろ、余裕しゃくしゃくという態度だ。

「あれを喰らってよく立ち上がれたわね! 褒めてあげるわ! でも、何度やっても同じよ! あたしの夢の中であたしが負けるはずないんだから!」

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