魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~   作:あららどろ

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#14 恋愛女の子

(あたしは死んでない……! これは夢! あたしの夢なの……!)

 フーカは走っていた。燃え滾るマグマと闇が蠢く地獄の底をただひたすらに走り続けた。

 理由のわからない涙が目から絶え間なく流れ出て、前が見えない。

 

(そう、そうよ……! あたしは死んでない! これは夢なんだから。地獄なんてあるはずが……)

 

「きゃん!?」

 

 フーカは、何か固いものにぶつかってしりもちをついた。

 

「あいたた……何よ、もう!」

 

 涙をぬぐい、自分がぶつかったものを見る。

 石造りの化け物が、牙を剥いてフーカを睨みつけていた。

 

「え……?」

 

 見れば、周りには空を飛ぶ巨大な蛾のような悪魔や、人の顔に見える樹の悪魔、動く死体など、凶悪な面をした悪魔たちが獲物を歓迎するような笑みを浮かべ、フーカを見下ろしていた。

 

「ひっ……」

 

 ガーゴイルが腕を振り上げる。その爪先には、何か赤いものがこびりついていた。その正体を理解したフーカが思わず悲鳴を上げる。

 

「きゃーーーっ!」

 

 その悲鳴を合図に、ガーゴイルがフーカへ爪を振り下ろす。

 

 だが、その爪はフーカに届くことは無かった。燃え盛る炎のようなマフラーがフーカを庇うように覆い、ガーゴイルの爪を受け止めていたのだ。

 

「な、何者だ!?」

 

 ガーゴイルがマフラーの主へ視線を向ける。役目を終えたマフラーがフーカを離れ、縮んでいく。それと同時に、その主が姿を見せた。

 

 プリニーだ。予想を裏切るその姿に、ガーゴイルを含めた悪魔共が笑い声をあげる。

 プリニーは魔界でも最弱にして最下級の悪魔。彼らの反応は当然だった。

 

「俺様を知らんとはモグリの悪魔か? ならば教えてやろう」

 

 そのプリニーは大量の悪魔を恐れる様子も見せず、悠々と近付いてくる。

 

「俺様は史上最強の超究極魔王!! 大魔王ラハール様だ!!」

 

 高々に宣言すると、悪魔たちがより一層笑いを強めた。プリニーは彼らの様子を気にする素振りも見せず、ガーゴイルを睨みつけた。

 

「その娘は俺様の獲物だ。貴様らのような下級悪魔にはやらん」

 

 下級悪魔、という言葉を聞いた悪魔たちの笑いが止まる。プリニーとは最弱にして最下級の悪魔。魔界の最底辺である悪魔に下級悪魔呼ばわりされるのは許しがたいことだった。

 

「プリニー風情が……そんなにこの女が大事か?」

「勘違いするな。その娘はこの俺様の顔に泥を塗ったのだ。俺様が直接手を下さねば気が済まん。それだけだ……」

「そうか……くっくっくっ」

 

 ガーゴイルが嫌らしい笑みを浮かべ、眼前で腰を抜かしているフーカを見下ろす。

 

「えっ……ちょ、ちょっと……!」

「プリニー如きに面子もプライドもあるものかっ!!」

 

 ガーゴイルの爪がフーカへ迫る。刹那、フーカの身体を何かやわらかいものが包み込み、勢いよく引っ張られた。ほぼ同時に、激しい金属音が響いて閃光が散る。

 

「聞こえなかったか? こいつは俺様の獲物だ」

 

 マフラーとその小さな腕を使ってフーカを抱きかかえたラハールが、ガーゴイルの爪を魔王剣で受け止めていた。

 

 ガーゴイルはその剣を力で押し込もうとするが、爪と交差したその剣はびくともしない。否、それどころか少しずつこちらに近付いてきている。

 

 プリニー如きに力負けをしていることを認められないガーゴイルはラハールめがけて口から火炎球を放った。

 

 それをファイアの魔法で撃ち落としたラハールが、魔王剣を振ってガーゴイルの爪をはね上げる。がら空きになったガーゴイルの胴を、返しの刃が切り裂いた。

 

 ラハールとガーゴイルが死闘を繰り広げている中、フーカはラハールのマフラーの中で1人別のことを考えていた。その視線はラハールへ注がれている。

 不思議なことに、その顔はペンギンのぬいぐるみのような情けない姿を見つめるには不適当なほどに情熱がこもっており、頬は見て取れるほどに紅潮していた。

 

――確かに、あたしはピンチの時、白馬の王子様が助けてくれるようなロマンティックで乙女ティックな夢を望んでいた。だけど助けに来てくれたのはぬいぐるみのようなプリニー。

 

 理解した。

 このプリニーは呪いによってプリニーの姿になってしまった王子様なのだ。この王子様の呪いを解き、真の姿となった王子様と愛しあうことがあたしの夢のエンディングなのだ。

 

 フーカの頭の中で、呪いが解け真実の姿に戻ったラハールが描き出される。すらりと伸びた脚。さわやかな笑顔。現実のラハールとはまるでかけ離れたその姿は、どこか中ボスに似ていた。

 

 妄想にふけっていたフーカだったが、激しい衝撃により現実に引き戻された。ラハールがフーカを抱えたまま大きく飛び退ったのだ。

 

 身を襲った衝撃にフーカは乙女とは思えぬような悲鳴を上げた。

 そこへ、追いついてきたヴァルバトーゼらが合流する。

 

「あれ~!? 殿下、その子助けたんですか!?」

「んまっ! ラハールさんもついに愛に目覚めたのですね!」

「んなっ!? か、勘違いするなよ! 俺様は他の悪魔にこいつをとられたくなかっただけで……!」

「いや~ん。殿下ったらダ・イ・タ・ン。何もこんな公衆の面前で愛の告白をしなくても……」

「ラ、ラハールさんって意外と積極的なんですね……知りませんでした」

「ちっがーーーーーーう!!」

 

 フーカを投げ捨てたラハールがエトナとフロンに向かって怒鳴り散らす。そんな3人の様子をやや呆れた様子で見ていたヴァルバトーゼが剣を抜いて言う。

 

「じゃれるのはそこまでにしろ。まずはあの悪魔たちを追い払うぞ」

 

「つーか、なんなんですか、あの悪魔は? 殿下、またなんかやらかしたんですか?」

「知らん。追いついたらそこのアホが囲まれていた」

「で、助けたと」

「成り行きでな。だが、勘違いするなよ。俺様は……」

「あー、はいはいはいはいわかりましたって。「勘違いするなー」なんてツンデレヒロインのテンプレみたいなセリフを連呼されるとマジで勘違いされま――」

 

 エトナのセリフを遮るように耳障りな高笑いが響いた。あたりが暗くなり、スポットライトが悪魔たちの背後の高台を照らす。

 

「ふっふっふっ……お前たちの旅もこれまでだ!!」

 

 高台でスポットライトに照らされていたのはアクターレだ。人差し指を天に向け、突き出した腰に手を当てた特徴的なポーズは見間違えるはずもない。アクターレは白きコートをなびかせながらヴァルバトーゼを指差した。

 

「地獄の囚人どもを解放した! ここの囚人どもは札付きの極悪人共だ! お前たちの勝ち目はゼロパーセント! 今すぐ俺様に降伏をしろ!」

 

「アクターレ……!? 馬鹿な、貴様は死んだはずでは……!」

 

 ヴァルバトーゼは全く的外れな驚き方をしていた。予想だにしない反応に、思わずアクターレは足を滑らせて体勢を崩してしまった。

 

「勝手に殺すな! ……まあいい。地獄の囚人どもにはお前らを倒せば恩赦がもらえると伝えてある。ただでさえ血の気の多い囚人どもは長い獄中生活で爆発寸前……どうだ? 恐ろしいだろ?」

「アクターレ獄長を騙る偽物め! 何が目的だ!」

「誰が偽物だ! こんな絶世の美男子がこの世に2人もいてたまるか!」

「流石閣下。アクターレが実は生きていたなんて夢にも思わないとは」

 

 相変わらず的外れなことを言うヴァルバトーゼに、フェンリッヒを除く全員が若干呆れ気味だ。

 とはいえ、それを口に出すと狼男がうるさいので、誰も口には出さなかった。

 

「ふん! まあいい! 聞き分けのない悪い子は痛めつけるに限る! おい、お前たち! そこのバカ共をけちょんけちょんにしてしまいなさい!」

 

 アクターレが言うと、囚人たちが歓声を上げた。

 

「恩赦だ恩赦!」

「あんな弱そうな奴らを殺すだけで自由だ自由だ!」

「ぶっ殺せ……! 八つ裂きだッ!」

 

「フン。流石極悪人と言うだけのことはある。口だけは達者のようだな」

 

 ラハールがどこからともなく取り出した魔王剣を構える。それを見たゴーストが笑い声を上げる。

 

「けっけっけっ。プリニー1匹殺すだけで恩赦とはちょろいぜ」

「おいおい、お前だけずるしようなんてずるいぜ」

「きききっ。関係ない。皆殺しだ」

 

 ゾンビは歯を慣らし、モスマンは羽を羽ばたかせて猛毒の鱗粉を飛ばして威嚇をする。

 

「かつての戦友と戦うのは心苦しいが、こうなれば仕方がないか!」

 ヴァルバトーゼが剣を構える。それに合わせるようにフェンリッヒが、エトナが、フロンが、フーカがそれぞれの武器を手に戦闘態勢を取る。

 

「大統領に逆らおうなどと愚かな考えを持つから、こんな情けないバッドエンドを迎えることになるんだ! 自分たちの愚かさを公開するがいい!」

 

 アクターレが両腕を広げて言うと、それを合図に悪魔たちが怒声を上げてヴァルバトーゼらに襲い掛かる。

 

「かつての戦友だろうと関係ない! 完膚なきまでに叩きのめし、ボッコボコのギッタギタのけちょんけちょんに叩きのめしてやる!!」

 

 ヴァルバトーゼは剣を構え、悪魔の軍勢へと飛翔した。

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