魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
「一文字スラッシュ!」
ヴァルバトーゼがすれ違いざまに剣を振りぬく。3体並んだゾンビが一斉に血しぶきをあげて倒れた。
「う、狼狽えるな! 全員でかかれ!」
リーダー格のゾンビの指示で、悪魔たちが隊列を組む。迎え撃とうとするヴァルバトーゼを押しのけて、ラハールが悪魔たちの前に立った。
「おい、大将は譲ってやる。ここは俺様が片付けてやろう」
ラハールは顎でアクターレを指し、ここから離れるように促す。
「む、すまん。感謝するぞ、異次元の魔王よ」
「フン。あんな小物、倒したところで面白くもない」
ヴァルバトーゼが去ったのを見てから、ラハールは呟いた。
「おいおい、ずいぶんとなめられたもんだな」
「プリニーごときが、俺たちを片付けるだって?」
下種な笑いを浮かべながら、悪魔たちがラハールを笑い飛ばす。ラハールは軽く鼻で笑うと、腕を組んだまま大きく高笑いした。
「ハァーッハッハッハッ!! お前たちがどれだけの極悪だろうと、魔王である俺様とは悪の格が違うわ!!」
「ほざけぇ!」
モスマンが羽ばたき、風と共に毒の鱗粉がラハールを襲う。ラハールは上空へと飛んでそれを回避すると、魔王剣を取り出して天空へ掲げた。
禍々しい地獄の業火を反射した剣が、妖しく輝く。その様は、太陽の神の降臨を思わせる。
「フン……身の程を知れ……! 飛天……」
魔王剣に、魔力を集めていく。その膨大な魔力に空間が歪み、ラハールの姿が陽炎のように揺れた。
何かがまずい。そう気付いた悪魔たちがありの子を散らすように散開する。
「無双斬!!」
空間を切り裂きながら、ラハールが悪魔たちめがけて急降下する。魔力の弾丸となったラハールは空中で体を捻ると、おぞましいほどの魔力を内包したその剣を振りぬいた。
触れるだけで消滅するほどの魔力が、斬撃に乗せられて拡散しながら悪魔たちを飲み込む。
「見慣れん剣技だな」
一連の動作を見ていたヴァルバトーゼが、ガーゴイルと剣を交えながら呟く。
「我々とは別の次元の悪魔ですから……向こうの魔界特有の剣技なのでしょう」
モスマンの胴体を手刀で貫いたフェンリッヒが言う。
フェンリッヒは力を無くして倒れ込むモスマンの胴から腕を引き抜くと、迫りくる囚人どもを目にも止まらぬ速さで切り裂いた。
ヴァルバトーゼはフェンリッヒの作った屍と血のレッドカーペットを悠々と歩き、アクターレとの距離を徐々に詰めていく。
頭を下げてヴァルバトーゼを見送るフェンリッヒの背後で、囚人の放ったウィンドに煽られたフーカがひっくり返った。
エトナは地面を転がるフーカを飛び越えると、ウィンドを放ったモスマンを手に持った槍でひと突きにした。
そのまま、槍を振り回してフーカへ襲い掛かかろうとするゾンビへモスマンを投げつける。
2匹の悪魔が重なったところをファイアの魔法で丸焼きにする。
瀕死になったモスマンとゾンビを、大量のプリニーが囲んでとどめを刺した。
「閣下の為に俺たちも戦うッス!」
1匹のプリニーが小さな剣を掲げて言う。
この積極性はエトナの部下のプリニーには見られないものだ。プリニーたちは弱った悪魔を取り囲んでボコボコにしては、また別の弱った悪魔を探して取り囲むという悪魔極まりない行為を繰り返し、ヴァルバトーゼ軍に貢献する。
「さあ、お前たちを倒せば残すはアクターレのみだ!」
マントの中に身を隠したヴァルバトーゼに、悪魔たちが一斉に襲い掛かる。
「イワシの力を教えてやろう……!」
ヴァルバトーゼの瞳が妖しく光り、その体を中心にブラックホールのような闇の球体が広がって悪魔たちを飲み込んだ。
悪魔たちを飲み込んだ黒い球体からは、絶え間なく悲鳴が聞こえてくる。
やがて、闇を振り払うようにヴァルバトーゼが姿を現すと、ボロボロになった悪魔たちが彼の足元に転がっていた。
「これがイワシの力だ……!」
立つ者が誰もいなくなったことを確認したヴァルバトーゼは、最後の敵対勢力であるアクターレへと視線を戻す。
が、既にそこにアクターレの姿はなかった。
「……逃げ足の速い奴だ」
フェンリッヒが舌打ちを漏らす。
「ち、畜生……どうしてだ……俺たちは力を制限されているとはいえ、元・魔神だぞ……!? なぜ、なぜプリニー教育係や、プリニーごときに手も足も出んのだ……」
地面に倒れたガーゴイルが、かすれるような声で言う。
「フン。聞いて驚け、俺様こそ全宇宙最強の……」
「このお方をどなたと心得る。プリニー教育係とは世を忍ぶ仮の姿……」
フェンリッヒが自慢げに前に出る。
名乗りを邪魔されて不機嫌そうな表情を見せたものの、ラハールはそれ以上何も言わずに1歩下がった。
「その正体は、かつて人間どもを恐怖のどん底に陥れ、最強の名を欲しいがままにした暴君ヴァルバトーゼ閣下、その人であらせられるぞ!」
「ぼ、暴君ヴァルバトーゼだって!?」
「そんな、まさか……生きていたのか!?」
悪魔たちが次々と起き上がり、驚きの声を上げる。ヴァルバトーゼはは少し照れ臭そうに鼻の頭をかいている。
ヴァルバトーゼの異名やその英雄譚を呟く悪魔たちを見て、ラハールが不機嫌そうに眉をひそめる。
「俺様だってそれくらいの1つや2つ……」
「まあまあ殿下、次元が違うからしょうがないですってば。あたしたちの魔界じゃ、殿下も(悪い意味で)有名人ですって」
「そ、そうか?」
「そうそう。だからここは聞きに徹しましょ。いちいちこんなことで目くじらを立ててたら話が進みませんよ」
エトナにそう言われて機嫌をよくしたのか、ラハールは満足そうに頷いた。
「へぇ。あんた、そんなに有名な悪魔だったんだ」
フーカもヴァルバトーゼの知名度に驚いたのかつぶやいた。それにいち早く反応したのはフェンリッヒだった。
「そうだ。ヴァル様がどれだけ偉大か、その愚かな頭でも理解できただろう。わかったら態度を改めろ小娘!」
「んべーだ! なんであんたなんかに命令されなきゃならないのよ! 大体、偉大さならデンちゃんも負けてないよね! ね~、デンちゃん?」
フェンリッヒに舌を出して挑発すると、くるりと踵を返してラハールに飛びついた。そのまま、満面の笑みを浮かべて目つきの悪いプリニーに頬ずりをする。
「な、なんだこいつは……? ええい、うっとおしい!」
「ちょ、ちょ、話の流れが読めないんだけど……え、何? デンちゃん? 誰が?」
目を丸くしたエトナがフーカの肩を叩く。フーカはラハールを抱きしめたまま離さない。
「そう。デンカだからデンちゃん」
「あ、あ~。そう、そういうことか……あのね、殿下ってのは、簡単に言えば王子って意味で……」
「デンちゃんやっぱり王子様なの!?」
「あー。ダメだコイツ。フロンちゃんとは別のベクトルで話が通じない人だ」
「一緒にしないでください。失礼ですよエトナさん」
「…………フロンちゃん、最近ナチュラルにひどいこと言うようになったよね」