魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~   作:あららどろ

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#16 突撃女の子

「え~っ。じゃあ、デンちゃんじゃないの?」

 フーカはラハールの腹部に顔をうずめながら、僅かに視線だけをラハールの顔に向けて言った。ラハールはフーカの頭を掴んで引っぺがそうとするが、信じられない力でラハールに抱き着くフーカは中々離れない。

 

「俺様はラハールだ! いい加減に離れろうっとおしい!」

「じゃあ、ラハっち!」

「ラ、ラハっち?」

「そう! ラハールだから、ラハっち」

「なんだかとても舐められている気がするぞ……」

「いや、実際舐められてますって」

 

 エトナが呆れた顔で言う。

 

「ラハっちって、プリニーが本来の姿じゃないんでしょう? 本来の姿に戻れば、その昔のヴァルっちよりも強いよね?」

 

 ラハールが答えるより早く、フェンリッヒがフーカの肩を掴んだ。

 

「おい待て。今、さらっと言ったが、我が主をとてつもなく馴れ馴れしく呼ばなかったか?」

 

 青筋を浮かべたフェンリッヒは確かな殺意を込めていた。その鋭い殺意には普段ぼけっとしているフロンすら冷や汗をかいたが、そんな殺意に微塵も気が付かないフーカは気に留める様子もない。

 

「そう。悪魔の友達ってのも悪くないかなって。いい経験じゃん? 夢だけど。だから、とりあえずあだ名で呼ぼうかなって」

「な……ふざけたことを……いいか小娘!!」

「あー、わかった。あんたも仲間になりたいんでしょう? しょうがないわね。じゃあ、フェンリッヒだから……フェンリっちね」

 

 これだとばかりにフーカが指を立てる。数秒の時間の凍結のあと、フェンリッヒが大声で叫んだ。

 

「フェ、フェンリっちぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

 頭を抱えて崩れ落ちるフェンリッヒを見て、ヴァルバトーゼは軽く笑いながらマントを翻した。

 

「フッ……お前がやり込められる姿を久しぶりに見たな」

「か、閣下……いいのですか、人間の小娘にここまで好き勝手やらせておいて……」

 

 よほどプライドが傷ついたのか、フェンリッヒは地面に座り込んだまま立ち上がらない。後一撃喰らえば、倒れてしまいそうなほどに弱っていた。

 

「いいではないか。そこまで怒るようなことでもない」

 

「で、ラハっちの本当の姿って強いんでしょ!?」

「ん、まあ、当然だ。俺様は魔王なのだからな!」

 

 気をよくしたのか、高笑いをするラハール。それを見ていたフェンリッヒがおぼつかない足取りで立ち上がり反論する。

 

「ふ、ふざけるな小娘! お前は暴君時代のヴァル様を知らんからそんなことが言えるのだ。それはもう、そこの魔王プリニーなんか比べ物にならんほどで……」

「あんただってラハっちの本来の姿知らないくせに大きな口をたたいてるじゃない。ラハっちだって、元の姿に戻れば今よりもっともっとすごいよね~」

 

 聞く耳持たずといった反応のフーカに、フェンリッヒは再度膝をつく。おだてあげられたラハールはさらに大きな高笑いをした。

 

「当然だ! クールさとキュートさを併せ持つ本来の俺様は、見た目だけでなく戦闘力すら今の姿とは比べ物にならん!」

「さっすがあたしの王子様! ラハっちの右に出る悪魔なしね!」

「ハァーッハッハッハッハッ!! 人間のくせになかなか見る目のあるやつだ! 特別に俺様の家来にしてやろう!!」

 

 終わらぬ高笑いを続けるプリニーを見て、エトナは大きなため息をついた。隣にいたフロンも、あきれ顔だ。

 

「殿下落城しちゃったよ」

「ラハールさん、おだてに弱いから……」

 

 ああなってしまえばもはや何を言ったところで仕方がないだろう。2人はラハールを完全に放置すると決め込み、倒れている囚人たちへと視線を移した。

 

「ところで、どうして私たちに襲い掛かってきたんですか? 恩赦がどうとか言っていましたけど」

 

 モスマンは一瞬躊躇うように顔を伏せたが、この状況で隠しごとをしては命にかかわると感じたのだろう。舌打ちを1つ飛ばすとぼそぼそとつぶやくように話し始めた。

 

「獄長が、お前らを倒せば政腐から恩赦が出て自由になれるって言ったのさ……」

 

「ふーん。で、あんたら何をやらかしたわけ?」

 エトナが槍を構えて聞く。その瞳は、適当なことを言えば殺す、と言っていた。

 

「俺たちは何もやってない!」

「そうだ! 俺たちはただ人間共を恐怖のどん底に突き落としただけだ!」

「それなのに政腐の奴らが……」

 

 呼応するように、あちこちで声が上がる。

 エトナは囚人どものさっきまでの見事な狸寝入りに感心しつつも、顔には出さない。

 

「それって悪いことじゃないんですか?」

 

 はてなマークを浮かべるフロン。そこに、フーカとの言い争いを終えたフェンリッヒが戻ってきた。

 

「悪魔の仕事は人間を恐怖で戒めることだ。そうすることで、人間は謙虚さを覚え、世界の秩序が保たれるというわけだ」

「へぇ~。そうなんですか」

 

 両手を合わせ、感心するように頷くフロン。それを見ていたヴァルバトーゼが首を傾げる。

 

「……お前、元天使のくせにそんなことも知らないのか?」

「えへへ。私、見習いでしたから……」

 

 人差し指をからませながら、恥ずかしそうにフロンは笑った。

 

 

「それにしたって、一体政腐は何もご……おい、俺様のくちばしで遊ぶな!」

 

 マフラーに加えてフーカを首からぶら下げたラハールが、フーカの体重に引っ張られて前傾姿勢になりながらのっちらのっちらと歩いてくる。

 話に混ざろうとする意志はあるのだが、ことあるごとにフーカが邪魔をして会話に入れないようだ。

 

「政腐の考えていることはわからん。が、調べてみる必要はありそうだな。フェンリッヒよ」

 地面に押し倒されたラハールを一瞥してから、ヴァルバトーゼがフェンリッヒに目配せをする。

 フェンリッヒは軽く頭を下げると、口元に僅かな笑みを浮かべて頷いた。

「そう言うと思って、既に手は打ってあります」

 

「流石だな、フェンリッヒよ。仕事が早い」

 

 ヴァルバトーゼも、口元に笑みを浮かべて頷く。フェンリッヒと笑みをかわした後、ヴァルバトーゼは地面に倒れる囚人たちへ向けて言い放つ。

 

「お前たち、俺の元につくつもりはないか?」

 

「な、なに?」

 

 それを聞いた悪魔たちがぴくりと体を震わせる。

 囚人たちの反応を見て脈ありと判断したのだろう。フェンリッヒはここぞとばかりに前に躍り出た。

 

「……どうせ戻っても無実の罪での牢獄生活だろう? 我が主、暴君ヴァルバトーゼ様の政拳奪取の為に働けば、現行政腐への復讐もその過程で果たせるはずだ」

 

「えっ、政拳奪取するの!?」

 

 初耳だとばかりにフーカが飛び上がる。フーカの力が弱まった今がチャンスだとばかり、ラハールがフーカを押しのけて距離を取る。

 

「そう、我が主は政拳奪取の為に立ち上がったのだ」

「そ、そうなのか!? 初めて知った……」

 

「いや、本人も知らないのかよ!」

「俺の一存で決めたのだから閣下は知らなくて当然だ。最終目標である政腐の性根を叩き直すことへの最短距離がこれだと俺が判断し、俺の独断で決定したことだ。俺と閣下は一心同体。すなわち、俺が決めたことは閣下の意思でもある」

 

 エトナが小さく突っ込みを入れたが、フェンリッヒはさも当然のように言い返す。

 それを聞いたエトナは、ああこいつヤバい奴だな、と、フェンリッヒから距離を置くことを決意した。

 

「なるほど。政拳奪取か……気が利くではないか、フェンリッヒよ」

 

 だが、付き人が付き人なら主も主らしい。ヴァルバトーゼはフェンリッヒの身勝手極まりない言い分に疑問を抱く素振りすら見せないどころか、笑ってすらいる。

 

「すべては我が主の為に……」

 

「え? こいつら、馬鹿なの?」

 ヴァルバトーゼに礼をするフェンリッヒを見て、流石のフーカも理解を超えたらしい。目を丸にして、フロンに聞いた。

 それに対して、フロンは困ったような顔をして首をひねる。

「さあ……」

 

 魔界は今日も殺伐としていた。

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