魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~   作:あららどろ

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第3章 新党結成~最終兵器登場~
#17 地獄の一日


 ヴァルバトーゼが政拳奪取を掲げて数日。

 反逆者の噂は魔界全土に広がり、魔界には小さな混乱が訪れていた。

 

 地獄にいた囚人のおよそ9割がヴァルバトーゼの配下に加わり、大きな戦力の増加となった。

 彼らは今では政拳奪取の野望に向けて暗躍している。

 大きく勢力を増したヴァルバトーゼらを無視できなくなった政腐が何か仕掛けてくるかと構えていたが、未だに政腐の動きは無かった。

 

 そんな緊張がほぐれかけたある日の地獄――

 

「ねえ、アンタんとこのプリニーを雇いたいんだけど」

 

 地獄の底――ヴァルバトーゼらの拠点であるそこは血と悲鳴と業火に溢れた場所だ。

 悪魔たちがほとんど通らないような地獄の辺境で、エトナとヴァルバトーゼが話していた。

 

「ほう。プリニー教育係の俺から直接買い付けるというのか……面白い」

 

 長い間プリニー教育係をしてきたヴァルバトーゼであったが、こうして直接プリニーを買いたいと言われるのは初めてだった。

 自分のプリニー教育係としての腕を認められたに等しいのだから、気分はいい。

 

「俺の腕に目をつけてくれたのは嬉しいが……悪いが今は在庫が無い」

「えーっ。なんでよ。処分するほど余ってるんでしょう?」

 エトナが地獄で働く大量のプリニーを指さして言う。

 確かに、魔界には処分するほどプリニーが余っている。地獄にもまだ教育中のプリニーは山ほどいる。

 しかし、プリニー教育係としてその要望に応えるわけにはいかない。

 

「すまんな。教育が終了していない中途半端なプリニーを消費者に渡すことはできんのだ」

「あー、この際いいわよ、そんなの」

 

 悪魔の中にこだわりを持つ者なんてそうはいない。なんせ元々責任感の乏しい奴らなのだ。だから、品質のばらつきなんてしょっちゅうだ。エトナもそれをわかったうえでヴァルバトーゼに交渉しているが、この悪魔らしからぬ吸血鬼には「こだわり」があるらしい。

 

「この俺のプリニー教育者としてのプライドがそれを許さんのだッ!」

「ええー、いいじゃん。気にしないって」

「そうはいかん。俺のところから不良プリニーを出すわけにはいかんのだ。すまんが他を当たってくれ」

「えーっ。ケチ……」

 

 交渉が決裂してうなだれるエトナ。

 

 こっちに来てから家事雑用はヴァルバトーゼ配下のプリニーがやってくれるから、自分の部下になるプリニーの仕事なんてプリニー爆弾くらいなのだから、この際不良品でも何でも構わないのだが。

 

 何としてもヴァルバトーゼからプリニーを雇ってやろうとするエトナを、岩陰から見つめる影があった。

 

 

「むむむっ。怪しいですよラハールさん! エトナさんがヴァルバトーゼさんと秘密のミッカイをしています!」

「ええい、引っ張るなフロン! なんだというのだ、こんなところまで連れてきて……」

 

 影の正体はフロンだった。彼女はラハールのマフラーを掴んだまま、岩陰に身を潜めてエトナの様子を伺っている。

 

 彼女の視線はエトナに全力で注がれており、マフラーに首を絞められてもがいているラハールのことなど気にも留めていない。

 

「うーん……ここからではちょっと遠くて声が聞こえませんねえ。仕方がありません! ここは危険ですが、もう少し近付くことにしましょう。天使探偵フロンは必ず謎を解き明かすのです。行きますよ、助手ラハールさん!」

「誰が助手だ! ええい、くだらん! 俺様は帰る!」

 

 フロンの腕を振りほどいたラハールだったが、すぐにフロンに抱きかかえられる。

 

「なっ……ええい! 離さんか!」

 

「気になりませんかラハールさん。この次元を跨ぐ2つの愛の行方が……」

「き、貴様……ゼロ距離で愛を叫ぶとはずいぶんと俺様に死んでほしいみたいだな……!」

 

 気分が悪そうに口元を押さえるラハール。それを見たフロンが、慌てて手を放す。

 ラハールは頭から地面に落ちて、そのまま地面にへばりつくように倒れた。

 

「大体、あのエトナだぞ? 大方、くだらんことを話しているに……」

 

 膝に手をついて起き上がろうとしたラハールを、1つの影が飛びついて押し倒した。

 うつ伏せになったラハールは、何事かともがく。

 

 

「探したよ、ラハっち~!」

「げっ!? フーカ!?」

 

 先日の一件からやけにラハールに懐いたフーカは、過剰ともいえるスキンシップを取ろうと連日ラハールに迫っている。

 いい加減にうっとおしくなり、フーカから身を隠していたラハールだったが、彼女の乙女レーダーにかかれば愛するプリニーを見つけ出すことは容易かったようだ。

 

「くっ……このっ! 離れろ!」

「いやだ!」

ラハールがマフラーと腕を使ってフーカを引きはがそうと試みるが、フーカはラハールにしがみついて離れない。それどころか、無理に引きはがそうとすればフーカの腕がラハールの首に食い込んで気道をふさぐ有様だ。

 

「主の言うことが聞けんのか!!」

「それでも嫌だーっ!」

 

 フーカと格闘しているラハールを見て、フロンがニコニコと笑う。

 

「懐かれてますねえラハールさん。やっぱり、その愛くるしい見た目が好感度をアップしてるんじゃないですか?」

「そんなわけが……ないよな? おい、フーカ。いい加減に離れんか!」

 

 ラハールの首から右腕に移動したフーカが、ラハールを掴む力を一層強くする。

 

「あたしはラハっちの右腕なの! つまり、この位置はあたしの位置! これがほんとの右手が恋人……キャッ! 言っちゃった!」

「ぶはっ!?」

 

 知っている単語を適当に繋ぎ合わせただけのフーカの発言は、不幸なことに爆弾発言となりその場に炸裂した。

 そしてこれまた不運なことに、その場には冗談に疎いフロンしかいなかったのだ。

 明らかに殺意のこもった笑顔を浮かべたフロンがラハールに迫る。

 

「ラララララハールさん、ど、どどどどういうことですか……?」

「フ、フロン……? 何故100tと書かれたハンマーを笑顔で掲げているのだ?」

「フ、フーカさんは中学三年生ですよ……? 立派な犯罪なんですよ?」

 

 ラハールが1歩下がると、フロンが前に出る。

 

「ちょ、ちょっと待て、言いたいことは山ほどあるがとりあえずそいつを……」

「天誅!」

 

 凄まじい速度で振り下ろされたハンマーが、確かな殺意を持ってラハールを襲う。直前でフーカを突き飛ばし、ハンマーを回避したラハールが空へ逃げようとマフラーを広げる。

 

「天誅!」

 

 だが、フロンは普段の彼女からは想像もできないスピードでラハールに追いつき、そのハンマーでラハールを地面に叩き落す。

 

「どぅわはっ!? 待て! 待てフロン!」

 ラハールが体勢を立て直すより早く、ラハールへハンマーが襲い掛かる。

「天誅! 天誅! かにみそっ!」

 

 3連続の攻撃をかわしたラハールだったが、最後の1撃が地面に当たった時、明らかに質量武器としてはありえない大きな爆発が起こった。

 地面をえぐり取るその威力に、ラハールの頬が引きつる。

 

「おい、待て! お前今、魔力込めただろう!?」

「天誅アロー!」

 

 ラハールの言葉に耳もかさず、フロンの突き出したハンマーに魔法陣が浮き上がる。

 天界式の魔術印で描かれたその魔法陣が回転し、集められた魔力が1つの矢となりラハールに襲い掛かる。

 

「おい、それどうみてもフォーリンアロー……! うおおおおおあああああっ!?」

 

 爆風に煽られたラハールが大きく吹き飛ぶ。

 

「何、何々何なの!?」

 

 突然の爆音に驚いたエトナがそちらに目を移す。

 そこには、大慌てでフロンから逃げるラハールと、笑顔で魔法をぶっ放すフロンの姿があった。

 

「ちょっと何やってんですか殿下~。恥ずかしいからこんなところで鬼ごっこしないでくださいよ。ガキじゃあるまいし……」

「これが鬼ごっこに見えるのか!? それよりフロンを何とかしろ! 暴走した!」

「えーっ。いつものことじゃないですかぁ」

 

 背後から放たれる無数のウィンドを、まるで背中に目が付いているかのように器用にかわすラハール。フロンの魔法は時間の経過とともに徐々に数と正確性を増していく。

 

「ラハールさん! 待ってください! あなたの罪を浄化します! 天誅!」

 

 目を光らせたフロンが100tハンマーを振り回しながら呪文を唱える。

 ラハールは咄嗟に地面を蹴って射線から逃れる。ラハールの腕をかすめた巨大な風の塊は遥か彼方の岩山にぶち当たると、粉々に消し飛ばした。

 

 それを見たラハールが大きな汗を流した。

 

「おい!! 今のウィンド、どう少なく見積もってもギガ級ではないか!!」

 

 明らかに冗談の域を越えた殺意のこもった魔法に、いよいよラハールがまずいと身構える。

 

「次は外しませんよ……」

 

 フロンは尚も目を光らせながら、ラハールに狙いを定める。

 

「待て待て待て待て!!」

「殿下……骨は拾います……」

 

 目をつぶり、両手を合わせるエトナと、死んでたまるかと魔力を集め始めるラハール。フロンが強力な魔法を放とうとしたその瞬間――

 

「あいたっ!?」

 

 フロンの頭部に炸裂した手刀が、ギガウィンドの詠唱を中断させた。

 

「やめろアホ天使。閣下の政拳奪取の拠点を消し飛ばすつもりか」

 

 フェンリッヒだ。何やら新聞のようなものを手にしたフェンリッヒは、あきれた顔でフロンを睨む。

 

「あいたたた……何するんですか、フェンリッヒさん」

「考えてみろ。そこの小娘はアホなのだ。意味も分からずにどこかで聞いた単語を適当に繋ぎ合わせて言っていたに決まっているだろう」

「はっ! 言われてみれば!」

 

 気付かなかった、と、口と目を見開くフロン。その反応を見たフーカが、納得のいかない表情でフロンとフェンリッヒを睨む。

 

「何それ、失礼じゃない?」

 

「ま、それはそれとして……閣下。新党の結成は順調です。地獄に囚われていた囚人も無事仲間に引き入れることができました」

「うむ。ご苦労だった。フェンリッヒよ」

「すべては我が主の為。それより閣下、これを」

 

 フェンリッヒはヴァルバトーゼに新聞を差し出した。

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