魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~   作:あららどろ

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#19 地獄の兵器

「もう終わったのか?」

「そんなわけあるか。別の侵入者がいたらしい」

 

 情報局の敷地では、あちこちで煙が上がっていた。警備兵と思しき悪魔たちが倒れている。手に持った装備はそれなりにしっかりしたものだ。

 

 状況から見るに、つい先ほどここで戦闘があったことは間違いない。だが、その争いを起こした本人はいないらしい。

 

 そこら中に空いた巨大な穴は、その戦闘のすさまじさを物語っている。警備兵たちと争いを繰り広げた侵入者は、かなりの強力な悪魔のようだ。

 強敵との闘いの予感に、ラハールが低く笑う。

 

「一体何の目的だ? まさか閣下以外に世直しを考える悪魔がいるとも思えん……」

 

「悪魔なんだし、暇つぶしにこれくらいのことはするでしょ」

 

 悪魔とは例外こそあれ、そのほとんどが破壊と争いを好む。大した理由もなく情報局を襲うことがあってもおかしくはない。だが、そうならないように情報局は凶悪なセキュリティで守られている。

 破壊の具合からして、侵入者は1人だけのようだが、上層区の悪魔ですら突破不可能と言われた難攻不落の要塞のセキュリティを、単体で突破するほどの悪魔がただ破壊を求めて情報局を襲うとは思えないのだ。

 

 第一、そこまで破壊を好む悪魔がいれば、少なからず他の場所でも暴れているはずだ。

 それがフェンリッヒの耳に届いていないということは、その悪魔に何か目的があったか、あるいは――つい最近、動き出したかのどちらかだ。

 

 

「うわわわーーっ! な、なんでお前らが!?」

 

 フェンリッヒの思考は、叫び声で中断させられた。

 集まる視線に、声を出した悪魔は大慌てで瓦礫に身を隠したが、時すでに遅し。ラハールがマフラーで瓦礫をどかすと、小柄な緑色のそれがぶるぶると震えていた。

 エミーゼルだ。

 

「まさか、お前がやったとも思えんが……」

 

 フェンリッヒは訝しげに見る。確かに、エミーゼルには情報局を襲う理由がある。

 しかしながら、単体の戦闘力はお世辞にも高いとは言えないこの悪魔がここまでできるとは思えない。この死神にできることと言ったら、自分の権力を傘にしての脅しくらいだ。 

 

「奇遇だな小僧。死んだと聞いていたが」

 

 ヴァルバトーゼがエミーゼルに近寄る。エミーゼルはしりもちをついたが、すぐに立ち上がり、自分を強く見せようと胸を張る。

 

「フン! なんだよ、お前らも情報局に文句があるのか!?」

「と、するとなんだ。やはりお前もあの情報操作に文句をつけに来たというわけか」

 

 フェンリッヒがいやらしい笑みを浮かべる。

 目的が一緒ならば利用できると踏んだのだ。

 

 このエミーゼル自身には大した力は無い。だが、死亡扱いになったとは言え大統領の息子という肩書は使える。この情報局のセキュリティも、エミーゼルなら解除できるだろう。

 

 フェンリッヒの悪い笑みにエミーゼルは気付かない。

 

「当然だ! ボクが死んだなんて誤報を流しやがって! それを教えに来てやったのに、なんだよこのありさまは!」

「それが、俺たちにもわからんのだ。誰がこんなことを……」

「待て」

 

 ヴァルバトーゼを遮るように、ラハールが前に出た。その視線は、情報局の2階へ注がれている。

 一行が、固唾を呑んでラハールの視線を辿る。視線の先にあるのはただの小窓。だが、厚い壁を1つ挟んだ先に、何かがいるのはわかる。

 

「げっ。へ、変なプリニー……! なんだよ、何かあるのか!?」

「……お出ましか」

 

 ラハールが笑ったのが先か、爆発が先か。爆炎と共にその壁をぶち破り、そいつは姿を現した。

 

 砕け散った壁がラハールたちに降り注ぐ。ヴァルバトーゼやフェンリッヒはいともたやすくそれをかわす。

 エトナとフロンはラハールを盾にするようにその背後に隠れ、ラハールはそれを咎めもせず悠々とマフラーを広げて瓦礫を受け止めた。

 

 うずくまっていたエミーゼルが、自分もラハールのマフラーに護られていることに気が付いて、顔を上げる。

 

「お、お前、なんでボクを……」

 

 ラハールは答えなかった。その視線は、こちらを見下ろす1匹の悪魔に注がれている。

 

「まだ生き残りがいたデスか……」

 

 爆炎の中から、巨大な瞳がこちらを覗いていた。

 無数の触手がうねり、ぬらぬらと光るその体からは、禍々しいオーラを放っている。

 

 触れそうなほどに高密度でおぞましい魔力に、エミーゼルは思わず悲鳴を上げる。

 

「面白い……その実力、俺様が試してやる!」

 ラハールが魔力を解放し、威圧する。

 それに答えるように、その悪魔はゆっくりとこちらを振り向いた。

「デスコを試そうなんて身の程知らずデス……」

 

 触手生物かと思ったその悪魔の本体は、少女のような見た目だった。デスコと名乗った小柄な少女は額にある第三の目を光らせ、ラハールを睨みつける。

 

「自らの愚かさを悔いて死ぬがいいデス!」

 

 見た目こそ少女だが、肌を痺れさせるような魔力の持ち主であることは確かだ。

 なるほど、少しは歯ごたえがありそうだとラハールは笑う。

 競うように、ラハールが魔力を増大させ、殺気と共にデスコにぶつける。デスコもさらに魔力を増幅させ、宙へと浮かび上がった。

 

「ククク……我こそは全世界を獄炎の海に沈めたもう混沌の根源、最悪最強の帝王、最終兵器DESCO……!」

 

 高濃度の魔力が空を切り裂き、雷を引き起こし、暴風を巻き起こす。

 巻き上げられた砂で視界がふさがれるが、デスコの魔力は見えずとも手に取るようにわかる。

 

 皆が暴風に飛ばされないように身を屈める中、ラハールただ1人が何事も無いように腕を組み、不敵な笑みを浮かべている。

 

「ていうかあたしなんかあの子に見覚えがあるような……」

 飛ばされないようにフロンに捕まったフーカが言う。

 だが、フロンは風圧に耐えるので精いっぱいでフーカの言葉は耳に届いていなかった。

 

 

「ふはははははっ! さあ、かかってこい勇者よ!」

 それを聞いたラハールが眉をひそめた。

「……勇者だと?」

「ふっふっふっ……デスコはラスボス、つまり、デスコの前に立ちはだかるのは勇者なのデス!」

「ラスボス……? 笑わせるな!! 俺様はまおうぉぉぉっ!?」

 デスコの背負った触手のうち、肩の部分の2本が前方へ伸びてラハールへと向けてビームを放った。

 顔を伏せていたのが災いし、気付くのが遅れたラハールは、直撃こそ免れたものの、その触角からはプスプスと黒煙が上がっている。

 

 デスコのビームは地面を焼きながら突き進み、やがて遥か彼方の岩山を消し飛ばして消滅した。

 跡形もなくなったどでかい岩山を見て、エミーゼルが目を見開く。

 

「ひ、人が話をしている最中に……!」

「あーーっ!! 思い出した! あの子、あたしを襲った奴だ!」

 ラハールの言葉を遮るように、フーカが叫ぶ。

 

「襲った? あんた、あいつに殺されてここに堕ちてきたの?」

「あたしは死んでないって!」

 エトナが言うと、フーカは首を振って否定した。ここまで来てもなお、これが夢だと信じているらしい。

 

 そんな声に引かれてフーカに視線を向けたデスコが、何かに気が付いたように目を見開いた。

 

「あの人は……!? よ、よし、デスコのいいとこ見せなくちゃ……!」

 

 デスコは自信を励ますように、小さなガッツポーズをすると、その瞳に魔力を集中させた。

 

「ぜーいん……皆殺しなのデス!」

 

 デスコの瞳が鈍く輝く。

 

「む、いかん!」

 

 その光が高エネルギー体だと気が付いたヴァルバトーゼが、エミーゼルを突き飛ばす。

 ほぼ同時に、デスコの瞳からビームが放たれ、視線に沿うように横なぎにあたりを焼いていく。

 

 あのまま立っていたら、今頃自分は真っ二つだったと、エミーゼルが胸をなでおろす。

 

「た、助かった……!」

「小僧は下がっていろ……! おい! デスコとやら!」

 

 ヴァルバトーゼの声はデスコには届いていない。返事の代わりに返ってきたのは光線だ。ヴァルバトーゼは大きく右に飛んでそれをかわす。

 細い光は、地面に直線の焼け跡を残しながら、彼方へと消えていった。

 そこへ、ラハールが魔王剣を構えて斬りかかる。デスコも、触手でそれを迎え撃った。

 

「ハァーッハッハッハッ!!」

 

 激しい衝撃が、辺りを襲った。

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