魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~   作:あららどろ

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#20 地獄の葛藤

 ラハールの剣と、デスコの触手がぶつかり合い、激しい衝撃波が辺りを襲う。

 殴りつけるような衝撃に、フーカが弾き飛ばされる。慌ててフロンがそれを受け止めるが、当の本人も衝撃波に耐え切れず、絡み合うように砂の上を転がった。

 

「ほう……! なるほど、俺様の剣を受け止めるとは大したものだ。だが、こいつを受け止められるか!?」

 ラハールの返しの刃を、デスコが迎え撃つ。轟音と共に衝撃波がはじけ、直後にデスコの触手が鮮血をまき散らした。

 

「あ、あれ……!? 痛いデス!」

 

 ざっくりと深い傷を負った触手が、怯えるように縮んでいく。

 警備兵たちの猛攻でも傷一つつかなかった触手は、ラハールの斬撃にひれ伏したのだ。

 

 デスコが恐怖を感じた時点で、ラハールの勝利はほぼ確定している。ここから先は消化試合。余裕で相手を打ちのめせばよいだけだが、ラハールの表情は暗い。

 

 それはデスコの傷の浅さにあった。

 

 あの一撃、ラハールの感覚ではデスコの触手を切り落とし、その余波で本体にもダメージを与えられたはずだ。だが、実際は触手を大きく傷つけるだけにとどまり、その機能すら奪えていない。

 

「チッ……!」

 

 プリニーとなっているため魔力が落ちたのか、それとも剣を使うのに適していない身体で無理やり魔王剣を振るったためにその剣技が著しく低下しているのか、どちらかはわからない。ただ、確実に言えるのは自分が今、大きく弱体化しているということだけだ。

 

 思うようにいかない自分への怒りに、ラハールは拳を震わせる。

 

「うぐぐっ……ゆ、許さないデス!」

 

 デスコの背負っていた触手生物が、デスコを離れてラハールへと襲い掛かる。

 それぞれの触手が伸び、先端の牙を噛み鳴らしながら、それぞれが蛇のようにしなってラハールを食いちぎろうと迫る。

 

「フン!」

 軽く笑ってマフラーを翻すと、宙を泳ぐようにして、ラハールはそれをかわした。

 ギガファイアを詠唱しながら、無数の触手の中にある細い隙間を縫うように飛んでかわす。

 触手生物の懐に飛び込んだラハールは手の平に作り上げたギガファイアを、押し付けるように叩き込んだ。

 

 空を焼き尽くすような豪炎が広がり、炎に包まれた触手生物が落下する。その炎の中から、ラハールが身を燃やしながら火炎弾となってデスコへ突撃する。

 

「あわわわわ……!」

 

 背中の触手切り離した今、デスコがそれを迎撃する方法は無いに等しい。魔法の詠唱に入る間もなく、凶弾と化したラハールがデスコへと突っ込んだ。

 

「ぷぎゃっ!?」

 

 ラハールの凄まじい蹴りが炸裂し、デスコは地面へと叩きつけられた。

 前と後ろからの衝撃がほぼ同時にデスコを襲い、視界を白く染める。

 

 

 デスコの姿が土煙に隠れて消える。勝負はあった。しばらくは立ち上がることもできないだろう。

 だが、ラハールの猛攻は止まらない。手のひらに作り出したドッジボールほどの大きさの魔王玉を掴み、投げつけた。

 両腕を使い、何度も何度も。

 ラハールの姿も相まって、その一連の動作はプリニー連射を連想させる。だが、放たれる球体の威力はプリニー連射の比ではない。

 

 巻き上げられた砂が入道雲のように積み重なっていく。

 

「あーあー……殿下、完全に我を忘れちゃってるよ」

「おい! 何とかできないのか!? このままじゃ、情報局が砂の中に埋もれちゃうぞ!」

「そんなこと言っても~……って、アレ!?」

 

 エミーゼルの言葉を聞き流していたエトナだったが、拳を空に突き上げるラハールの動作を見て顔色が変わった。

 

「ま、まさか……」

 エトナの不安は的中した。ラハールの腕から放たれた光の輪が天へと向かう。天に落ちた光は、水面の波紋のように広がって巨大な魔法陣を展開した。

 それはメテオインパクトの魔法陣だった。

 

「何をするつもりだ……?」

 

 情報局全体を飲み込みそうな巨大な魔法陣を見て、フェンリッヒは冷や汗を流した。

 

 複数の魔法陣が幾重にも重なったその陣は、その術の強力さを物語っている。

 魔法陣がくるくると回転し、まるで厳重にロックされた金庫が開くように、内側の魔法陣から解除されていく。

 1つ目の魔法陣の封印が解けると、おぞましいまでの魔力が流れ出してチリチリと肌を刺した。

 

「これは……まずいな」

 ヴァルバトーゼがラハールを見上げる。

 肌に触れる魔力の感覚からするに、この技の威力は情報局を消し飛ばすどころかここら一帯を滅ぼしかねない。もちろん、ここにいるヴァルバトーゼらもただではすまないだろう。

 

 

 ラハールは苛立っていた。

 強敵との闘いが――今の自分の弱さと不自由さを自分自身に知らしめる。どれほど敵を痛めつけても苛立ちは晴れない。そればかりか、逆に募っていく。

 自分は強い、自分はこんなに弱いはずがない。弱い自分を否定するように拳に力を込める。

 

 ――弱い。

 

 脳裏に反復したその言葉に、ラハールの手が止まる。

 

 

「殿下……?」

 

 ラハールの様子がおかしいことにいち早く気が付いたエトナが目を細める。ラハールは思いつめたような表情をしたまま固まって動かない。

 

 

 圧倒的な暴力こそが魔王の全てではない。それを知ったのはいつだったか。

 

 自らの心の弱さが招いた最悪の結果。

 彼らの期待に応えられなかった自分の不甲斐無さ。

 自分への怒りが、本来ラハールならば考えないであろう贖罪という選択肢を選んだ。

 自らの罪を償う為に――否、自分の命よりも大切な誰かの命の為に、魔王のプライドを捨て、天に願いまでしたのだ。

 

 そう――すべては弱い自分が招いた結果。ならばこれは自分が背負うべき咎。真の強さを得るために。真の魔王になるために。こんな自分を信じてくれた彼らに正面から堂々と胸を張るために。

 

「……やめだ」

 

 掲げた手の平を、引っこ抜くように降ろす。本来発動の中断はできないはずのメテオインパクトを、魔力で無理やりメテオを魔法陣の中に押し込んで強制中断する。

 

「殿下……一体……」

 

 様子のおかしい主を見て、エトナはぽつりと心配そうな声を漏らした。

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