魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
デスコを抱えたラハールが砂煙の中から姿を現すと、エトナは両手で頬を押さえて叫んだ。
「で、殿下! 一体全体どうしちゃったんです!?」
「やめた。フロン、こいつを治療してやってくれ」
それを聞いたエトナとフロンが固まる。
「やばい! 雷が! 槍が! メテオが降る!!」
「ああ……大天使様……ついにラハールさんが愛に目覚めました!!」
満面の笑みと地獄を見るような表情という真逆の反応をする2人。ラハールは居心地が悪そうにデスコをフロンに押し付けると、逃げるように距離を取った。
「何が目的だ? あの悪魔に恩を売ろうというのか?」
フェンリッヒのその問いは、純粋な疑問からだった。
まず第一に、悪魔が自分に敵対した悪魔のことを気遣うことなど、あり得ないと言ってもいい。
もしも、それがあるとしたら相手を生かすことで自分に何らかの利益がある時だけだ。そう言った理由で相手を見逃すことは、フェンリッヒもよくする。
だが、短い付き合いではあるがラハールがそう言ったことをするタイプではないことはわかっている。もっと単純で、シンプルで、自分勝手で傲慢なわかりやすい悪魔。それでいて、おだてに弱い扱いやすい悪魔というのがフェンリッヒのラハールに対する評価だ。
だが、今回のこの行動はその悪魔像から大きく離れている。
フーカを助けた時も、変なプライドからの行動だと思っていたが、もしかするとそれは後から考えついた言い訳なのかもしれない。
見定めるようなフェンリッヒの視線に、ラハールは自分自身を鼻で笑い飛ばして答えた。
「……別に」
ラハールは答えなかった。それが逆に、フェンリッヒの不安を煽る。
このプリニーはヴァルバトーゼの覇道の前に立つただのお邪魔虫ではない。本当に、閣下の最大の障害となり得るのかもしれないのだと。
――王の素質を持つ悪魔である可能性を持つものだと。
「あたたた……デスコ、負けちゃったデスか……?」
フロンの回復魔法で意識を取り戻したデスコが、頭をぷるぷると振って積もった砂を振り落とした。
どうやらあれだけの猛攻を受けたにも関わらず生きていたらしい。それを見たラハールがフンと笑った。
「俺様が殺すつもりであれだけやってまだ生きてるのだ。誇っていいぞ」
一瞬きょとんとしたデスコだったが、自分が褒められたことを理解すると照れくさそうに頬を染めて頭をかいた。
「えへへ……褒められちゃったデス。ところで、プリニーさんは何者なのデスか? ラスボスより強いプリニーなんて信じられないデス!」
「ふっふっふっ……聞いて驚け。俺様は魔王ラハール様だ!」
「ええーーっ! ま、魔王さんなのデスか!?」
憧れを含んだその眼差しに、気分を良くしたラハールは誇らしげに胸を張り、高笑いをする。
「ハァーッハッハッハッハッ!! そう! 俺様は魔王ラハール! 悪魔の中の悪魔にして、ラスボスの中のラスボス!」
「まさしく「THE・ラスボス」! キング・オブ・ラスボスじゃないデスか!」
「そう! しかもただのラスボスではない! 俺様は勇者を返り討ちにし、従えたこともあるとてつもないラスボスなのだ!」
「そ、そんな! この世で唯一ラスボスに勝てる存在であるはずの勇者を返り討ちにするなんて!?」
ラハールが自らの功績を騙る中、エトナが思い出したように腕を叩いた。
「あー……ゴードンのことか。一瞬なんのことだか全然わかんなかったわ」
「というか、そこまで行くとラスボスというよりむしろ主人公だな」
そう言って、ヴァルバトーゼもデスコに近付く。
「デスコとやら。俺も1つアドバイスだ」
「むむっ……なんデスか? まだデスコに何か悪いところがあるデスか?」
「ラスボスの基本は専守防衛だ。威風堂々とした態度で相手の主張、そして、攻撃を受け止め、その上で自らの圧倒的な力を見せてこそラスボスというもの」
「そ、そうなんデスか!? デスコ、ちっとも知らなかったデス!」
「第一、話の途中で一撃必殺技を放つ奴があるか!! そこで死んだらまたイベントを見直さなければいかんのか!? 誰がやるかそんなクソゲー!!」
アドバイスが、主観的な感想に切り替わったことにもデスコは気が付かない。
呆れた顔でヴァルバトーゼを見ているのはフェンリッヒとデスコを除く全員だ。
「そう!! ラスボスとはゲームの最後の敵にしてゲームの評価を決めるまさにバランス調整が物を言う……」
「し、質問デス!」
「どうした!! 言えッ!」
「パパがくれた教科書には、ラスボスは1人残らず皆殺しって書いてあったデス!」
「違うな」
ラハールが首を振る。
「ラスボスの作法は「傲慢、腕組み、高笑い」だ!! 皆殺しなど大間違いだ!」
「殿下、それも間違ってると思いますよ」
「ううっ……教科書と魔王さん、どっちが正しいのか、全然わかんないデス……」
デスコが頭を抱えて呻った。
「ラスボスの中のラスボスである俺様が言うことと、ラスボスでもない者が書いた教科書……どちらの言うことが正しいかは明白!」
「うっ……す、すごい説得力デス! で、でも、だったらデスコが今まで学んだことは無意味だったんデスか……?」
「そうなるな」
ラハールが満足げに頷く。
ふと、デスコを見ると、その瞳には大粒の涙が浮かんでいた。
「お、おい、何をそんなに涙ぐんで……」
「ひぐっ……そ、そんな……じゃ、じゃあデスコは……ま、また無能だって……捨てられるんデスか……?」
涙をのみ込もうとデスコは何度も必死に頬を上げるが、ついに決壊し滝のような涙が流れだした。
「うええええーーーん! 嫌デス! 捨てないでくださいぃぃーーー!」
「あーあー、殿下泣かしちゃったー」
「だめですよラハールさん。謝ってください」
「え!? いや、俺様のせいか!?」
逃げようとするラハールの行く手をふさぐように、エトナとフロンが立ちはだかる。納得がいかないラハールだったが、こうなってしまえばもう逃げ道は無いと薄々察していた。
「謝ってください」
「うむ、しかしだな、俺様は……」
「謝・っ・て・く・だ・さ・い」
詰め寄るようなフロンに押し負けたラハールが、ばつが悪そうに頭をかきながら、大泣きするデスコへ近寄る。
「く、くそ。なんで俺様が……あー、おい。なんだ。すまんかった。話くらいは聞いてやるから言え」
「うぐっ……ひぐっ……」
デスコが涙をぬぐいながら、頷く。
「なんだ、お前、捨てられたのか?」
「ひぐっ……そうデス……デスコ、人間界から捨てられたんデス……も、もう必要ないって……きっとデスコがラスボスにふさわしくないから……だ、だから必死に勉強して……で、でも……無意味って……」
「人間界だと……? お前、人間に創られたのか?」
「は、はい。そうデス。デスコのパパは人間の科学者なのデス」
「ふ、ふざけるなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何が逆鱗に触れたのか。大声をあげたのはヴァルバトーゼだ。
「悪魔を……しかも最高ランクのラスボスを創り出そうとはなんたる傲慢!! 人間はイワシの研究だけしていればいいのだ!!」
「それもそれで偏見だと思いますが……」
フェンリッヒの言葉に、ヴァルバトーゼは耳を貸さない。
「政腐も政腐だ! そんな愚行を働く人間を放置しておくとは信じられん! やはり、俺が政腐も、人間もまとめて再教育してやらねばならんようだ!」
そう叫ぶと、ヴァルバトーゼはデスコの開けた穴へと飛び込み、そのまま情報局の内部へと突っ込んでいった。やや呆れた顔をしたフェンリッヒも、すぐにヴァルバトーゼの後を追う。
ラハールはふと、デスコへと視線を落とした。デスコはいまだにあふれ出る涙を必死に両手を使って拭っている。
「……おい、デスコとやら。お前もついてこい」
「え……?」
「え~っ。殿下、正気ですか?」
「俺様が決めたことだ。文句は言わせん。来い、デスコ。俺様が鍛え上げてやる」
「ほ、本当デスか!? おねがいしますデス!」
ぱあ、と、笑顔を浮かべ、デスコがラハールへとお辞儀をした。