魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
「やけにあっさり片付いたな」
ラハールは、マフラーについた埃を払って言った。
待ち伏せしていた悪魔の数は軽く30を超えていたが、手ごたえを感じる間もなく全滅してしまった。
これではとても最高峰のセキュリティーを謳えるとは思えない。
「下っ端とはいえ弱すぎる。情報局に割く人員が足りんのか?」
ヴァルバトーゼの言葉に、エミーゼルが顔を上げる。
「そ、そうだ! あいつらは下っ端だから真実を知らされていないんだ! 局長に……局長に会えさえすれば!」
「でもさ、情報局って政腐の施設なんでしょ? だったら死神くんが死んだってことは嘘って知ってると思うんだけど」
エミーゼルの希望を打ち砕くように、フーカが言った。
「ほう。流石は俺様の家来だ。それくらいは気付いたか」
「えへへ……」
「流石デス、お姉さま!」
頬を僅かにピンクに染め、嬉しそうに身体をくねくねさせているフーカに対し、エミーゼルの顔は真っ青だった。
それでも、エミーゼルは認めなかった。
「ふ、ふざけるな! 父上がボクを捨てるはずがないだろう!?」
エミーゼルは今にも泣きだしそうだった。普通ならここで気の利いた言葉の1つでも投げてやるところだが、冷徹な悪魔どもがそんなことをするはずもなく、逆に傷を岩塩でえぐるような言葉をぶつけていく。
「でも、アンタ失敗続きじゃん」
「普通の悪魔なら息子だろうと使えない奴は捨てるからな」
「弱いから捨てられたデスか? デスコも似たようなものデスから……同情するデス」
「……あたしも捨てられたようなものだから、気持ちはわからないでもないわ。でもま、捨てられるくらいの方が子供は逞しく育つのよ」
「さらっと言ったが、小娘。お前も捨てられたのか?」
「あれは捨てられたも同然よ。ホント、最低の父親よ」
四方からの言葉攻めに、何とか涙を流さず耐えたエミーゼルが、反撃に出る。
「お、お前らと一緒にするな! これは何かの間違いだ! 真実がはっきりとしたら、お前らなんか父上に言って処刑にしてもらうんだからな!」
「フン。なんでもかんでも父親だよりか。お前のような面汚しは捨てられて当然だ。ゴミめ」
ラハールが呆れた声で呟いた。
「なっ……だ、大統領の一人息子に向かってゴミだと……ふ、ふん! お前なんかにはわからないだろうよ! お前なんかと違って、ボクは父上に愛されているんだ!!」
その言葉を聞いたラハールの表情が僅かに曇った。
「どうせお前の両親は役立たずだったら自分の息子も平気で捨てるようなクズだったんだろう!? フン! 親に愛されたことなさそうだもんな。お前。お前なんかと違って……」
「黙りなクソガキ。それ以上言ったら殺すよ」
そう言ったのはエトナだった。
いつもの様子からは信じられないほどの真剣な声色で、確かな殺気を込めて、エトナはエミーゼルにナイフの刃を当てていた。
その鋭い殺気にあてられ、エミーゼルは息をすることもできない。
「ひっ……ひぃっ……!?」
怒りを抑えることができなかったのだろう。エトナはナイフをエミーゼルの肩に突き刺した。
「ぎゃあああああっ!?」
血が飛び散り、エミーゼルが悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと! やりすぎよ!?」
それを見たフーカとフロンが、エトナを止めに入る。だが、エトナは2人を振り払うと、倒れたエミーゼルにさらに蹴りを入れた。
「エトナさん! やりすぎです! 大丈夫ですか、エミーゼルさん! すぐに治療を……!」
フロンがエトナを突き飛ばす勢いでエトナを引きはがし、ようやくエミーゼルはエトナの猛攻から解放された。
「やりすぎ!? やり足りないくらいよ! 何も知らないクセに、このクソガキ!! 本当に殺してやろうかと思ったわ!! クリチェフスコイ様が……! 王妃様が!! 殿下が!!! 一体、どんな気持ちで!!!」
そこまで言って、エトナは、はっとなって首を振る。
「……なーんて。冗談よ。ま、これに懲りたら口を慎むことね」
頭の後ろで手を組んで、平気な顔をしていたエトナだったが、内心エトナは動揺していた。自分でもどうしてあそこまで怒りを感じたのかわからなかった。自分が自分じゃなくなったみたいだった。
そして、フェンリッヒは不安な表情を浮かべていた。
「冗談には見えなかったぞ」
「別に。殿下の父親――前魔王様は私がこの世で一番尊敬する人だから、それを悪く言われてついカッとなっただけよ。アンタだって、ヴァルバトーゼのことを悪く言われたら怒るでしょう?」
「……本当に前の魔王のことを悪く言われて怒ったのか? 俺はそうは思えなかったが」
「そう思うならそう思えば?」
やはり本当のことを教えてはくれない。だが、フェンリッヒはどうしてもエトナの怒りの理由を知りたかった。
納得のいく理由を知りたかった。
もし、彼女の怒りがフェンリッヒの想像通りだとしたら、それはラハールが上に立つ素質のある存在という裏付けになってしまう。
それは、ヴァルバトーゼの覇道の大きな障害になる。ヴァルバトーゼに惹かれるのではなく、ラハールに惹かれる悪魔がでる可能性が出てくる。
ヴァルバトーゼがトップとなることに、不満を抱く者が出てくる恐れがある。
あのプリニーこそ真の王に相応しいという声が1つでも出てくるのは、フェンリッヒには我慢ならないことだった。
だからフェンリッヒは焦っていた。
「おい、堕天使。説明しろ」
「……すみません、私の口からは言えません。でも、ラハールさんのお父さんとお母さんは、彼に深い愛情を注いでいました。それこそ、命を捧げる程に。そしてラハールさんも……だから、私も、エトナさんの気持ち、わからなくはないんです。それでもちょっとやりすぎとは思いますけど……許してあげてください」
その答えは、フェンリッヒの想像していた中で最悪の可能性だった。