魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
「ふむ……抵抗するのですか。苦しみを増すだけの愚かな選択だというのに……」
「ボクはもう決めたんだ。父上を超える。お前なんかに躓いていられるか!」
エミーゼルが大鎌を構える。
それを見たヴァルバトーゼが大きく笑った。
「小僧! その覚悟に偽りはないな! 約束できるのか!?」
「……約束か。お前はその為だけに政腐に逆らったんだったな」
「そうだとも。約束を果たせぬ者は激痛と共にその重みを知ることになる。故に、約束は命を賭けてでも果たさなくてはならん。お前にその覚悟はあるか?」
胸の痛み――約束の重み。
これまでさっぱりわからなかったヴァルバトーゼの主張が、ほんの少しだけわかった気がした。
そしてエミーゼルは、その重みを背負ってでもやり遂げてやるという覚悟を決めていた。
「ああ! 約束してやるさ!! ボクは自分だけの力で一人前の悪魔になってやる!!」
「よくぞ言った!! これで貴様は正式に俺たちの仲間だ。政拳奪取のため、共に戦おうではないか!」
ヴァルバトーゼがマントを翻し、高らかに叫ぶ。
「行くぞ! 小僧!」
「ああ!」
ヴァルバトーゼとエミーゼルが、同時に駆け出す。
「愚かな。あなたたちはこの場で処刑されるというのに」
局長が腕で合図を送ると、それまで待機していた忍者たちが一斉に手裏剣を投げた。
ヴァルバトーゼは、それらを剣で叩き落しながら、雄叫びを上げて突き進む。
「ええええい! メガウィンド!!」
エミーゼルは、やけくそ気味に鎌をふるって、自分が使える中で最強の魔法を放った。
放たれた風の塊は迫る手裏剣を弾き飛ばしながら進み、忍者のうち1体を捉えて吹き飛ばした。
「あ、当たった……」
「フン。やるな。少しはいい面構えになったぞ」
ラハールがエミーゼルの肩を叩いた。
エミーゼルが顔を上げると、ラハールは既にマフラーを広げて敵陣へと飛翔していた。
「プリニーの分際で命知らずめ!」
「覚悟しろ!」
武器を構えた忍者たちがラハールを迎え撃つが、彼らは一瞬でラハールに切り伏せられる。足止めにもならなかった。勝利の雄叫びとばかりに、ラハールの高笑いがあたりに響きわたる。
局長の護衛はラハールとヴァルバトーゼの猛撃により、次々に数を減らしていく。
彼らが切り開いた道を、エミーゼルが突き進んだ進む。
「お。おい!」
局長が合図をすると、エミーゼルの進む道をふさぐように2体の忍者が立ちはだかった。局長の顔には、先ほどまではなかった焦りがある。
いける。
その想いが、エミーゼルを前へと押し出す。
「どけぇ!」
エミーゼルが大鎌を振るう。忍者たちはそれを最小限の動きでかわす。隙だらけになったエミーゼルに、忍者の放った手裏剣が迫る。
しまった――。
エミーゼルが迫る痛みに備えて歯を食いしばった時、ラハールの声が静かに響いた。
「やれ」
「「あいあいさー!」」
ラハールの言葉に従うように、2つの影がエミーゼルの前に飛び出し、手裏剣を打ち落とす。
フロンとエトナだ。
「ギガファイア!」
「ギガウィンド!」
2人の放った風の魔法と炎の魔法が、2体の忍者を弾き飛ばした。
「ほーらクソガキ、あたしが道を作ってやるから行ってきな!」
エトナはそう言って笑うと、腕を天に突き出して指を鳴らした。
「ぶっとばしな、プリニー共!」
エトナの合図と共に、天から無数のプリニーが降り注ぎ当たりを焼き払う。
「秘儀・プリニー落とし!」
エトナはかわいらしいポーズを決めて、大きく叫んだ。
投げたら爆発するというプリニーの特性を最大限利用した鬼畜極まりない技だ。
「ううむ……改めて見てみると恐ろしい技だな」
降り注ぐプリニーたちを見て、ラハールが複雑な表情で呟いた。
「く、くそう、なんだ、これは!」
プリニー爆弾の爆煙が視界を悪くする。局長は手あたり次第に銃を乱射するが、その弾は虚空へ消えるだけだった。
その音と光は、エミーゼルに爆炎の中でも局長の位置を知らせていた。
「焦ったな、局長!」
「なっ!?」
爆炎をかき分けて、エミーゼルが局長へと切りかかった。
その刃は局長の肌を傷つけるには至らなかったが、局長の体勢を大きく崩すことはできた。
「くっ……」
局長はエミーゼルへと銃口を向ける。だが、エミーゼルの詠唱の方がはやかった。
「終わりだ! メガファイア!」
「きゃあああああああっ!」
至近距離でメガファイアが炸裂し、爆炎が局長とエミーゼルを飲み込んだ。
煙が晴れると、立っていたのはエミーゼルだった。
局長は地面に膝をつき、荒い呼吸でエミーゼルを見上げている。もはや戦う力は残っていないようだ。
「そんな……あり得ない! 私が……政腐が負けるなんて……!」
「だがこれが現実だ」
フェンリッヒが口元をゆがませ、勝ち誇った。
「私は負けていない! この魔界では、私の発信する情報こそが全てであり真実! すなわち、私が負けていないと言えばそれは負けていないことになるのです!」
狂ったように叫ぶ局長に、エミーゼルが肩を落とした。
「めちゃくちゃだな、コイツ……」
「あー、もう殿下と同じくらい聞き分けの無い悪魔ですねー。面倒なんで、ちゃっちゃとやっちゃいますか?」
「ひっ……!?」
喉元に槍を突き付けられた局長は、怯えた声で小さく叫んだ。
「待て。情報局を効率よく使う為にはこいつには生きていてもらわねばならん」
フェンリッヒが言うと、エトナは面倒くさそうにその槍をひっこめた。
「ならどうするんだ?」
ラハールが言うと、ヴァルバトーゼがマントを翻して叫んだ。
「決まっている。こいつの情報こそ真実だというのなら、こいつが負けを認めるまで、何度でも叩きのめしてやる!!」
「えっ……?」
その言葉の意味を理解できなかったのか――いや、理解したくなかったのか。
局長はひきつった笑みを浮かべた。
「さあ、覚悟はいいか?」
ヴァルバトーゼが目を光らせて言う。その言葉に嘘偽りはなさそうだ。
「お、初めて悪魔っぽい発言を聞いたかも」
「流石元・暴君ヴァルバトーゼね」
「フン! 何が暴君だ! なら、俺様が一撃で葬ってどれほど俺様が偉大かを……」
「はいはい張り合わないの。大体、話聞いてたんですか? 殺しちゃダメなんですよ」
「暴君ヴァルバトーゼ……!? 噂は本当だったんですか……!? 伝説の暴君が、今更何の目的で……」
「フッ……言うまでもない。ホラ、ここだここ。ここのプリニーがプソニーになっている」
「あら本当……」
「わたくしが代弁いたしましょう、閣下はおさがりになってください」
ヴァルバトーゼを押しのけて、フェンリッヒが前に出た。
このままヴァルバトーゼに任せていては情報局を制圧した意味がなくなってしまう。
「閣下がおっしゃりたいことはこうだ。「俺たちは政拳奪取の為に立ち上がった地獄の反逆者だ。世界を再教育するため、堕落した政腐と大統領を打倒し、世界を地獄に変えてやる」以上だ」
「い、急いでこの事実を……大統領にお伝えせねば……!」
局長が逃げ出そうとしたその瞬間、透き通った声が、あたりに響き渡った。
「お待ちなさい!」
声の主に、この場にいた全員が視線を向ける。
そこにいたのは、プリニーだった。
やや大きいサイズのプリニーは、懐から電卓を取り出すと、何やら計算を始めた。
「情報局の職務怠慢により発生したお金、情報捏造・偽造・歪曲によって発生した天界への損害、その他諸々……しめて1,192,296ヘル。この場で全額回収させていただきますわ……ッス」
そう言ってプリニーは、局長に請求書を叩きつけた。