魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
#27 会議する悪魔たち
結局あの後、強欲の天使に逃げられた一行は仕方なく地獄へ帰還。今後の方針を決めるための作戦会議を開いていた。
とはいえ、作戦会議とは名ばかりで、話す内容は99%が雑談だった。
「ブルカノさんにあってからというもの、ヴァルバトーゼさん、なんだか考え事が多くなりましたね」
「あいつが考え事? ナイナイあり得ない。あいつが考えることと言ったら精々イワシのことよ」
フロンは強欲の天使に出会ったから何やら様子がおかしいヴァルバトーゼとフェンリッヒのことが気になって仕方がないらしい。
エトナも否定こそしたものの、ヴァルバトーゼの様子がおかしいのは確かだ。
「業欲の天使を取り逃がしたことでも考えてるんじゃないのか? ほら、情報局のお金もまんまと盗まれちゃったわけだし」
エミーゼルが言うと、デスコとフーカが呆れたもんだと大きなため息をついた。
「わかってないわねー。あんたら」
「わかってないデス」
「あれはラヴよLOVE。名前を知っていたんだから間違いないわ」
「ラブ~? ないない、だってあの暴君ヴァルバトーゼだぜ?」
信じられない、とエミーゼルは首をふった。
「おこちゃまね~。もう間違いなくラヴよ。それも、かなり複雑なね」
「名前を知っていたらラブなのか?」
「LOVEなのデス」
「そ、そう言われるとそんな気が……」
「死んだはずではってセリフから察するに、あれは生き別れたラヴね。天使と悪魔となって再開した2人……物語は禁断の愛ヘ……」
「禁断の愛……ああ、なんて素晴らしい響きなんでしょう!」
「デスコもラスボス的にもうドキドキデス! ドストライクデス! 会心の一撃デス!」
妄想を膨らませていく3人を、エトナとエミーゼルは諦めた目で見ていた。こいつらの妄想が始めれば止められるものは誰もいない。自分たちにできるのはその妄想に取り込まれぬよう距離を置くことだけだ。
エトナが席をはずそうとした時、フェンリッヒが鬼のような形相で飛んできてフーカの首根っこを捕まえた。
「勝手なことを言うなクソ女子共。閣下が恋だと……? 舌を切り落としてスライムの餌にするぞ」
「ちょ、アンタが言うと冗談に聞こえないんだけど……」
「当然だ。冗談じゃないんだからな」
そう言って、フェンリッヒは爪をギラリと光らせた。それを見たデスコが、慌てて口を押えて首をぶるぶる振る。
「舌を切られたらごはんが食べ辛くなるデス……デスコ、そんなの嫌デス……」
「そこまでにしておけ」
フェンリッヒの背後から、ラハールが大きなあくびと共に登場した。
それを見たフーカ、デスコ、フロンは、フェンリッヒから逃げるようにラハールの背後へ移動した。
「魔王……! 何のつもりだ」
「俺様の家来だ。俺様に許可なく手を出すことは許さん」
その言葉を聞いたフェンリッヒは、敵意を隠そうともせず表情を曇らせた。
フェンリッヒとしては、ヴァルバトーゼ以外の悪魔が慕われるのが我慢ならないのだ。王の器はヴァルバトーゼだけでいい。その強すぎる思いが、敵意にのってラハールにぶつけられる。
ラハールは、殺気とも呼べるそれを一笑して跳ねのけると、戦意も見せずにどかりと椅子に腰を下ろした。
「それよりエトナ。次はどこに行くか決まったのか? いい加減にそろそろぐーたら生活も飽きてきたぞ」
「それもそうなんだけど、ヴァルバトーゼがどうもエンジンかかってないみたいで……」
「おい……貴様もそんなふざけたことを抜かすのか?」
「いや、事実じゃん」
「閣下にそんな浮ついた話があると思うなよ、スイーツ脳め」
「別にそんな意味で……」
「おお! エトナさんがスイーツ大好きって、どうしてわかったんですか!? すごいです、フェンリッヒさん!」
ピリピリした場の空気を吹き飛ばすギガウィンドのようなフロンの発言に、思わずエミーゼルが噴き出す。
フェンリッヒもこれに毒気を抜かれたようで、大きく肩を落としてため息をついた。
そこに、ある意味で話の中心人物であったヴァルバトーゼがひょっこりと顔を出した。
「む。もう集まっていたか」
「はい。閣下。次の目標が決まりました」
「む、そうか……」
「閣下。我々の政拳奪取の邪魔にならない以上、現状あの天使は無視しましょう。もうガン無視で」
「いや、しかし……」
「言うほど邪魔になってなかった?」
「黙れ小娘!!!」
「ひぃっ!」
不用意なフーカの一言を、恐ろしい剣幕で咎めるフェンリッヒ。フーカは恐怖のあまりひっくり返ってしまった。それを見たデスコが、よしよしとフーカの頭を撫でる。
「天使の方は完璧に放置でいいです。もう目もくれず」
「お前が言うならそうなのだろう……で、次の目標は?」
「……おい!」
フェンリッヒが指を鳴らすと、どこからともなくプリニーたちが現れて全員に資料を渡していく。位置や敵の戦力、地図や理由などが事細かに記されていたが、まともに呼んでいるのはヴァルバトーゼとフェンリッヒだけだ。
後のメンバーは読むつもりがないか、理解できないかのどちらかだ。
「お手元の資料をご覧になって頂きたいッスが、次は中ボスクラスの悪魔が居住する中層区をおすすめするッス!」
「ほう、何故だ?」
「あの地区を制圧できれば、中級以下の悪魔を中心とした無党派層はほぼ閣下に従うことになるッス。そうすれば、魔界の半数近い悪魔の支持を得たも同然ッス」
「なるほど……中ボスクラスか。手ごたえはありそうだな」
ヴァルバトーゼがちらりとラハールに視線をやる。
が、意外なことに一番食いつきそうなラハールは複雑そうな顔をしていた。
「中ボスか……」
「どうした?」
「いや……少し知り合いを思い出しただけだ。気にするな」
そう言って、ラハールは上を見上げた。
地獄から、空は見えなかった。