魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
中層区にやってきたラハールたちは、その有様に言葉を失っていた。最も、目をキラキラさせている者もいたが。
何しろ危険な悪魔が集まる地域と聞いてやってきたら、そこはどこからどうみてもただの遊園地なのだ。キラキラ光るジェットコースターに、愉快な音を鳴らすメリーゴーランド。
魔界らしからぬ華やかさと賑やかさだ。殺気にあふれた殺伐とした空間を予想していたのだから、言葉を失うのも無理はない。
「ここが中層区だと……」
ラハールは明らかにやる気がそがれた声で言った。その顔はこんなところにいる悪魔が中ボスクラスの実力を持っているはずがないと言っている。
「まるで遊園地ね。フロンちゃ……あれ? フロンちゃん?」
「うわーーっ! すごいですよエトナさん! アレ! アレ、乗りましょう!」
一方で、ノリノリのフロンはアトラクションに向かって一目散にかけていく。
それを見たエミーゼルが鼻で笑う。
「バーカ。あれは遊園地に見えるけど立派なトレーニング施設なんだぜ。油断してるとえらい目に……」
「わーい! きゃーっ! たのしーーーっ! きゃーっ!!」
「へー。トレーニング施設ねー」
「……あれ?」
「大方、政腐の腐敗に伴い修練地区であるはずの中層区もただの娯楽施設と化したのだろう」
「みたいだな。なんだここの悪魔どもは。準備運動にもならん」
ラハールはいつの間にかボコボコにした悪魔を蹴り飛ばして、つまらなそうにあくびをした。
「これではやる気もでん。俺様はそこの店で飯を食ってるから、帰るときにでも呼んでくれ」
また大きなあくびをすると、ラハールは移動式の販売車の並ぶ休憩所へと歩いて行った。
「店までフツーにあるし……完全に娯楽施設になってるわね」
ラハールは最高級ゾンビ肉ホットドッグやドラゴンチーズのピザなどなど、目についたものをかたっぱしから買うと、椅子にどっかりと腰かけてもそもそと口に運んでいく。
その様子を見ていた他の悪魔は「美味そう」などとつぶやいて販売車の方へ歩いていく。
普段のラハールであれば「悪魔なら奪うくらいして見せろ」と言ってやるところだが、あまりの腑抜けっぷりにそんなことを言う気力すら湧いてこない。
中層区の悪魔たちの悪魔らしからぬ態度に、フェンリッヒも苦言を漏らす。
「……やはり、魔界を支える畏れエネルギーに何らかの問題があるとしか考えられんな。閣下、一刻も早く政拳奪取を果たさねば、この魔界は滅びます」
「うむ……」
「ヴァルっちさん、やっぱり元気ないデスね……」
やや力の入っていないヴァルバトーゼの返事に、デスコが心配そうに呟いた。
「あー、もう面倒くさい! こうなったら、話させればいいのよ! 話せば楽になるだろうし!」
「で、本音は?」
「当然、あたしが聞きたいから!」
「流石お姉さま! その自分勝手さ、ラスボス学の参考になるデス!」
言うが早く、フーカはずかずかとヴァルバトーゼに歩み寄っていく。
「何かようか? 小娘」
「で、ヴァルっち! あの天使のことを教えてよ!」
その言葉を口にした瞬間、フェンリッヒが物凄い形相でフーカを睨みつけた。だが、フーカの負けじとフェンリッヒを睨み返す。両者の視線がぶつかり合う中、ヴァルバトーゼは小さくため息を漏らした。
「…………俺は何も知らん。そもそも、天使に知り合いはいないからな」
「ええっ! 私、ヴァルバトーゼさんと知り合いじゃなかったんですか!?」
「フロンちゃんは堕天使でしょ?」
「あ、そうでした」
フロンのボケはそれ以上突っ込まれず、エミーゼルがそろそろと、フェンリッヒに怯えながらヴァルバトーゼによっていく。
「けど……名前を言っていたじゃないか」
「ちょっとした知り合いに似ていたのでな。間違えただけだ」
「ちょっとしたって雰囲気じゃなかったけど……その知り合いは今どうしてるの?」
「殺された。愚かでくだらん人間共の戦争に巻き込まれてな……」
そう言ったヴァルバトーゼの表情は、ひどく悲しそうなものだった。まずいものに触れてしまった。フーカが口元を押さえておろおろする。
「で、でも、清らかな心を持つ人間は天使になることもあるって言いますし……」
「万が一……万が一あいつが天使になっていたとしてもだ。あいつは盗みなどしない。絶対にだ」
そう言って、ヴァルバトーゼは空を見上げた。
「なんせあいつときたら、暴君時代の俺すら手を焼くほどの超清らかな心の持ち主だったからな……」