魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
#4 魔王、その力
「くそっ、エトナめ……」
宙に浮かんだ次元の裂け目から落ちたラハールが、上体を起こして下打ちをする。
空を飛べるラハールだったが、とっさのことで反応が遅れてしまった。
さらに油断していたラハールの上に、エトナとフロンが落ちてくる。
「むおっ!?」
「あいた~……何ここ、地獄?」
「へぇ~……地獄ってこんなところなんですねぇ」
ラハールの上に乗ったまま、エトナとフロンが言う。
「ええい、重いぞ! お前たち!」
「あ、すみません殿下~」
「ごめんなさい……ラハールさんがあんまりにも座り心地がいいものですから……」
フロンがプリニーとなったラハールの体をつついて言った。
「くそっ……やはりプリニーの体ではロクなことにならん! とっととプリニー教育係を見つけ出して元に戻る方法を聞き出してやる!!」
エトナとフロンを押しのけて立ち上がったラハールが吼えた。その声を聞きつけて、数名の悪魔がこちらにやってきた。
「あそこにもいたぞ! 捕まえろ!」
「……ん?」
ラハールが首を上げて周囲を見渡す。気付けば、数体の悪魔たちがラハールを取り囲んでいた。悪魔たちは武器を構え、確かな殺気をラハールへと向けている。
「そのプリニーを渡してもらおうか。大統領の命により、プリニーには処分命令が出ているのだ」
「いやだというなら、この場で死んでもらうだけだがな……そうですよね? エミーゼル様」
悪魔たちに呼ばれ、上司らしき悪魔が奥から歩いてきた。
エミーゼルと呼ばれたのは髑髏の描かれたフードを被った少年だ。見た目の年齢はラハールと同じか、それよりも幼い印象を受ける。
「ふん! 当然だ! 抵抗しなければ楽に処刑してやるぞ、プリニーめ!」
部下にエミーゼルと呼ばれたその少年は、腕を組んで偉そうに言い放った。
「うわ~……殿下と同じくらい偉そうなガキですね~……」
「俺様をこんな奴と一緒にするな!」
エトナが笑いながら言うと、ラハールが怒鳴った。
全く恐れていないどころか相手にもされていないことに腹を立てたエミーゼルがさらに声を荒げて叫ぶ。
「おい! お前たち! 今すぐそのプリニーを差し出せ!」
「まあ、いいけど」
「おい!」
さらっと言うエトナにラハールが怒鳴る。
エトナが冗談半分で言った言葉を間違って解釈したエミーゼルは、気をよくしたのか満足げな顔で頷いた。
「当然だ。所詮プリニーと下級悪魔。束になったってこの大統領府直属特殺任務部隊「アバドン」に勝てるわけないんだからな」
「下級悪魔……?」
エトナの目が鋭く光る。
ラハールにその座を勝手に取られたとはいえ仮にもエトナは魔王を名乗っていた悪魔だ。その実力は軽く見積もっても魔神クラスはある。
そんなエトナのプライドは、下級悪魔と呼ばれることを許さなかった。
「……おい、ガキ。もういっぺん言ってみな。ただじゃすまさな……」
「おーーっ! カッコイイです! だいとーりょーふ「特撮」任務部隊「アバドン」だなんて!」
エトナの鋭い殺気を押しのけて、何か勘違いした特撮オタクのフロンが前に出る。
「うわっ。相変わらずね、フロンちゃんは……おーいフロンちゃん。特撮じゃなくて特殺。フロンちゃんの好きな方じゃないよ~」
フロンのノー天気っぷりに毒気を抜かれたエトナが、殺気を飲み込んでフロンをなだめる。
「ええい! うるさいぞフロン! 貴様ら、調子に乗るのもほどほどにしておけよ! 俺様がただのプリニーだと思ったら大間違いだ!」
だが、ラハールの怒りは収まっていない。
「……たかがプリニーが、馬鹿にして。馬鹿なお前に恐ろしい事実を教えてやるぞ!」
「恐ろしい事実だと? フン、面白い。言ってみろ」
ラハールが腕を組んで不敵に笑う。
「もう謝ったって許さないからな! 俺様はな、大統領の一人息子なんだぞ! ははははは、どうだ参ったか!」
エミーゼルは勝ち誇ったように笑う。だが、ラハールとエトナ、そしてフロンはぽかんと口を開けている。
「はははははっ。恐怖のあまり口もきけないか? 当然だな。自分たちがしたことがどれだけ愚かで恐ろしいことかようやく理解したんだからな!」
まるで勝利が確定したかのような言い草に、エトナが呆れてため息をつく。
「親の力にすがるとは……悪魔失格だな」
「なっ、なんだとっ!?」
「悪魔たるもの常に頂点を目指すものだ! たとえ相手が親だろうと、押しのけて頂点の座につくのが悪魔というものだ! 強いものの陰に隠れてその力の恩恵にあやかろうとしている貴様が、この魔王ラハールに勝てるつもりでいるとは滑稽だな!」
馬鹿にされたと察したエミーゼルの顔が赤くなる。
「お前、たかがプリニーのクセにそんなことを言って許されると思っているのか! 父上が怖くないのか!? 大統領だぞ!?」
「大統領がどうした! 俺様は宇宙最強の魔王ラハール様だぞ!!」
「くっ……プリニーの癖に魔王だって!? ふざけるのもたいがいにしろよな! そんなに死にたいのか!?」
「そもそもあんたらプリニーを処分するって言ってたじゃん。なら、なにをしようとどうせ消されるんでしょ?」
見学に飽きてきたエトナが明後日の方角を向いて言う。
「ああ言えばこう言う……もう面倒だ! お前たち、こいつらにアバドンの恐ろしさを教えてやれ!」
エミーゼルの言葉を合図に、悪魔たちが武器を構える。
「ようやく面白いことになってきたじゃないの」
エトナが笑みを浮かべて武器を構える。
エトナが踏み出そうとすると、赤いマフラーが伸びてそれを遮った。
「待て。俺様がやる」
「えーっ……」
「主君を立たせるのも家来の務めだ!」
「ちぇ~っ……」
エトナは仕方なく1歩下がった。
「ねえねえフロンちゃん。このままだと殿下大暴れしちゃうけど、止めなくていいの?」
悔しいので、ラハールに嫌がらせしてやろうとまずは手始めにフロンに声をかける。愛マニアで平和を愛するフロンは争いが起きそうになればそれを止めるために愛を語るはずだと踏んだのだ。
しかし……
「むむっ! 悪者は一度懲らしめるべきですっ! 私も戦いますよ! とう! ジャスティス・フロン! たあっ!」
「あ~、だめだこりゃ。完全にスイッチ入っちゃってるよ……」
虚空に向けてパンチを繰り出し、謎のポーズを決めるフロンを見てエトナはあきらめたように空を見上げた。
「はあああああああ!」
悪魔が次々とラハールに斬りかかる。ラハールはマフラーを翼に変化させて空へ飛んで斬撃をかわす。
「ハーッハッハッハッ! 身の程知らずめ! 魔王の恐ろしさをその身で味わうがいい!」
高笑いとともに、ラハールの拳に魔力が集まる。
「獄炎ナックル!!」
拳に集まった魔力を炎に変え、拳を突き出してラハールが急降下する。燃え盛る流星となったラハールが悪魔たちへと突っ込む。
ある者は背を向け、ある者は空へ逃げようとしたが間に合わない。
1匹の悪魔に直撃したラハールの獄炎ナックルは周りの悪魔数匹を巻き込んで爆発した。
「な、なんて威力だ……」
爆風の余波で吹き飛ばされていく部下たちを見て、エミーゼルが呟いた。
「ハァーッハッハッハッハッ!」
爆炎の中で赤い目を光らせるプリニーが高笑いを放った。