魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
「に、しても……どこにいるんだ、そのプリニー教育係とやらは」
「いやー、完全に迷いましたね~殿下。悪魔の子1匹いやしない」
アバドンを払いのけ、地獄を探索するラハールたちだったが、あるけどあるけど悪魔とすれ違うことすらない。歩き続けること数時間。ラハールたちはまだまだ余裕だったが、日ごろから運動もせずアニメや特撮に見入っていたフロンの体力は限界を迎えていた。
「ラ、ラハールさーん……待ってくださーい……」
「殿下~。フロンちゃんがまた倒れましたよ~」
「放っておけ」
「え~。ほっとくんですか殿下~悪魔~。地獄なんて場所にか弱いフロンちゃん1人残していくなんて……きっとフロンちゃんはこわ~い悪魔のおじさんに捕まってあんなことやこんなことを……」
エトナが茶化すように言うとフロンの顔が青ざめた。
「わわわわわ私、まだ歩けますよ!」
それからじたばたと起き上がった。その様子を見てエトナは笑う。
「しかし、俺様も腹が減ってきたぞ」
「も~……殿下まで~。こんなとこのどこで食事ができるって言うんですか」
そう言ったエトナのお腹がグウ、となる。エトナは慌ててお腹を押さえて恥ずかしさを隠すように笑った。
「くそっ……弁当でも持ってくるんだったな……ん?」
ラハールの鼻がぴくりと動く。
「飯のにおいだ」
「本当ですか!?」
「マジ!? どこどこどこどこ!?」
エトナとフロンがそれに食いつく。
「俺様の鼻に間違いはない!」
「さっすが殿下! 食い意地だけは天下一品ですね!」
「ふっ……そう褒めるな」
「よし、行くぞエトナ! 俺様の昼食を奪いに!」
「時間的にはたぶん夕食ですけどね~」
「どっちでもいい!」
駆け出すラハールとそれに続くエトナ。
「ああ、待ってください~!」
置いて行かれたフロンはのったらのったらと2人の背を追いかけた。
「くっそ~……今日はなんて日だ。反逆者共だけじゃなく、よくわからないプリニーにまでボコボコにされて……け、けど、本隊と合流したんだ。もう僕は負けないぞ!」
エミーゼルはラハールから敗走した後、ヴァルバトーゼと鉢合わせた。だが、ラハールによってほぼ壊滅状態に追い込まれていたアバドンは満足に戦うこともできず2連敗。
負け惜しみを言って逃げ、死に物狂いでようやく本隊と合流できたのだ。
アバドン本隊は100を超える血の気の多い悪魔の軍勢。プリニーもプリニー教育係も敵ではない。
エミーゼルは昼食の弁当を食べながらほくそえんだ。
腹ごしらえが済んだらいよいよ反逆者共の抹殺だ。
エミーゼルが好物のドラゴンステーキにフォークを突き刺した時、アバドンの偵察部隊の1人が戻ってきた。
「エミーゼル様、反逆者共が姿を見せました!」
「来たか……!」
エミーゼルはフォークを置いて、弁当の蓋をしめた。
これは勝利の祝いに取っておこう。命知らずの反逆者共め、これでおしまいにしてやる。
エミーゼルが立ち上がる。
遥か彼方より、3人の男がやってくるのが見えた。
1人は黒いマントの黒髪の吸血鬼。
1人は銀の髪の狼男。
そしてもう1人は白いロングコートを着た獄長。
「逃げずによく来たな!」
エミーゼルは胸を張って叫んだ。
その言葉を聞いた銀髪の狼男――フェンリッヒが挑戦的に笑う。
「フッ。ついさっき我々に瞬殺されて泣き言を言っていたお前が、やけに強気だな」
「バッ、バカにするな! いいか、お前たちはもう終わりだ!! みろ、これがアバドンの本隊だ!」
エミーゼルが叫ぶと、隠れていたアバドンの悪魔たちが一斉に立ち上がった。100を超える悪魔の軍勢の前には流石の反逆者共も恐れをなすだろう。
エミーゼルの読みは外れた。
ただ1人を除いて。
「いや~~~! オレ様、まだ死にたくな~い!! お坊ちゃま! お助けを~~っ!」
悪魔の軍勢の前に恐れをなし、エミーゼルに駆け寄ったのは獄長アクターレ。権力に尻尾を振り続けて今の地位を手に入れたアクターレにしてみれば当然の反応だろう。
だが、それを予測していたフェンリッヒが手を打つ。
「おおっ! アクターレ獄長が単身で敵将・死神エミーゼルの首を打ち取りに向かったぞ!!」
「なにっ!? アクターレ獄長……! そこまでプリニーのことを想って……! もはや何も言うまい。熱きホワイトタイガーよ! 敵将を首を打ち取り、その手に勝利をつかみ取れ、アクターレよ!!」
フェンリッヒが高々に叫ぶ。人を疑うことを知らない吸血鬼――ヴァルバトーゼは衝撃の事実に感激し、アクターレに勝算の言葉を贈る。
それを見たアバドンたちがアクターレに向けて一斉に武器を向けた。
「えっ、いや、ちがっ……」
「この卑怯者めが!!」
「違う、違うの、これはね、いやあああああああああああ!!」
ファイアやウインド等の無数の下級魔法がアクターレに放たれた。アクターレは雨のように降り注ぐ魔法をゴキブリのような動きでかわし、ヴァルバトーゼたちの元へと戻ってきた。
顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにし、地面に手をついておんおんと泣くアクターレの手をとりヴァルバトーゼは言った。
「アクターレよ、成功こそしなかったが俺は貴様のそのプリニーたちへの想いに大きく感動した。共に戦おう、アクターレよ!!」
「お、お前……って、よくもやってくれたなこんちくしょー! お前たちの所為でエミーゼルお坊ちゃまに取り入る最後のチャンスが!!」
フェンリッヒはアクターレを見て満足げに頷く。
ヴァルバトーゼは立ち上がり、両手を広げた。
「覚悟しろ、エミーゼル! アクターレの熱き魂を受け継いだ俺たちが! 今、貴様を倒し、プリニーたちを開放して見せる!!」
100体を超える悪魔たちへ、ヴァルバトーゼはそう宣言した。