魔界戦記ディスガイア~魔界の王子とプリニー教育係~ 作:あららどろ
「なんだ、なんだなんだなんだっ!?」
着弾したタライが生み出した爆風が悪魔たちを巻き上げ、吹き飛ばす。ちりのように宙を舞う悪魔を見ながら、エミーゼルは顔を青くした。
煙の中で、ゆらりと影が蠢いた。
「ごほっ、ごほっ! ちょ、ちょっと殿下! こんな爆発するなら最初に言ってくださいよ! あー、もー、埃だらけじゃない……」
「あいたたた……ラ、ラハールさぁん……起こしてください……」
咳き込み、すすだらけになった2人の悪魔が煙の中から姿を現す。見覚えのあるその顔に、エミーゼルの顔はさらに青くなった。
「メシはどこだあああああああっ!!」
煙の中から、地獄の底から響くような凄まじい怒声が響いた。その凄まじい殺気にアバドンとヴァルバトーゼたち両方の動きが止まり、一斉にその声の主を見た。
「メシをよこせええええええええっ!!!」
それは1匹のプリニーだった。
そのプリニーがエミーゼルめがけて高速で飛翔してきた。
「うっ、うわああああっ!?」
エミーゼルを護ろうと何匹かの悪魔がそのプリニーの前に立ち塞がったが、腕の一振りで吹き飛ばされる。足止めにもならなかった。
プリニーは翼をマフラーに戻すと、腰を抜かしたエミーゼルの前に舞い降りた。
「メシィィィッ……」
ギラギラと目を光らせ、くちばしから煙を放つそのプリニーはもはや野獣だ。言葉など通じそうにない。それでもエミーゼルは口で虚勢をはるしかなかった。
「な、なななな、なんなんだよ、お前っ! オレ様に何の用だ!」
「メシをよこせぇぇぇぇっ!!」
プリニーが叫び、そのマフラーがエミーゼルに伸びる。
「ひいっ!?」
思わずエミーゼルは両手で顔を覆う。
が、マフラーはエミーゼルを通り越し、その背後に置いてあったエミーゼルの弁当を掴んだ。
ラハールはその弁当を掴むと、蓋を投げ捨てて弁当箱ごと口の中に放り込んだ。
「ああ……僕のお弁当が……」
もごもごと口を動かし、ぺっと唾にまみれた空の弁当箱を吐き出す。なおも食事を求めるラハールは赤い瞳をギラギラと輝かせながらエミーゼルをにらみつけた。
「もっと……よこせ……」
「ひいいいいいっ!?」
ラハールは怒りに任せて魔力を開放させた。放たれた凄まじい魔力の波動にエミーゼルの小さな体が吹き飛ばされる。ラハールの放った魔力は周辺の瓦礫や悪魔を巻き込んだ竜巻となって一体を吹き飛ばした。
「閣下ッ!」
ヴァルバトーゼへと飛んできた石礫を、フェンリッヒが前に出て叩き落す。ヴァルバトーゼは荒れ狂うラハールプリニーを見て頷いた。
「フェンリッヒよ。あのプリニーはなんだ?」
「これほどの魔力を持つプリニーなど聞いたことがありません。あれは一体……」
「あいつはプリニーとしての自覚が足りん!!」
「……はい?」
予想にしない言葉に、一瞬フェンリッヒが固まる。だが、この程度のことなど今に始まったことではない。フェンリッヒはすぐに姿勢を整えた。
「俺が再教育してやろう!!」
ヴァルバトーゼはそう叫ぶと、翼を広げて飛翔した。突如襲来したラハールにより大混乱に陥ったアバドンはもはや烏合の衆。ヴァルバトーゼの接近に気付いて魔法を放つ悪魔もいたが、先ほどのまでの統率力は見る影もない。
ヴァルバトーゼは容易くそれをかわすと歯牙にもかけずラハールへと突っ込んだ。
一方、エトナとフロンはアバドン兵に襲われていた。
だが、魔神級の力を持つエトナの前に統率力の崩れた悪魔たちはなすすべなく返り討ちに合う。
「食事はあれだけしかないの!?」
エトナに地面に叩きつけられ、首元に槍の刃を当てられた僧侶が降参の意を示しながら答える。
「は、はい……エミーゼル様の昼食以外の食事は持ってきていません……」
「あー腹が立つ!!」
空腹で苛立ちがマックスになったエトナはその僧侶を空高く投げ飛ばすと呪文を唱えた。
「パパイヤ・ファイヤー・パパリスク!」
エトナの前に深紅の魔法陣が浮かび上がる。
「ちょいなっ!」
エトナが指を鳴らすと魔法陣から無数の火炎が飛び出し、僧侶と周辺の悪魔へ向かって飛んでいく。僧侶が爆炎に包まれると、エトナは背を向けて不機嫌そうに舌打ちをした。
「チッ……殿下の鼻もアテになるんだかならないんだか…………ん?」
エトナの視界に飛翔する黒い影が映った。ヴァルバトーゼだ。高速で飛翔するそれはラハールへ向かって一直線に飛んでいく。
その魔力はこの場にいる悪魔たちとは比べ物にならない。エトナは八重歯をきらりと光らせた。
「へぇ、骨のありそうな悪魔もいるじゃん……殿下~!」
エトナが手を振ってラハールを呼ぶ。
「なんだ!?」
ラハールが、怒りながら振りむく。
「ほら! あれあれ! 面白そうな相手が来ましたよ!」
「何……? うおおおおおっ!?」
ラハールがエトナの指を視線で追うと、ヴァルバトーゼは眼前に迫っていた。咄嗟に魔王剣を呼び出して切り払うが、ヴァルバトーゼはそれを回避しすれ違いざまにラハールへ拳を放つ。ラハールもそれを何とかマフラーで受け流すと、ヴァルバトーゼの腕を踏み台に大きく跳んで5メートルほど離れた位置に着地した。
「俺様の一撃をかわすとは……何者だ!」
「俺様……だと!? やはり、貴様はプリニーとしての教育が足りんようだな!!」
ヴァルバトーゼはマントに身を包んで言う。
「なんだと!? おい、お前! 何をわけのわからんことを言っている!」
ラハールの言葉に耳を貸さず、ヴァルバトーゼは続ける。
「プリニーの心得その1を言ってみろ!」
「わけのわからんことを……! 俺様は今、空腹で腹が立っているのだ! いい加減にしないとその口を開けないようにしてやるぞ!!」
ラハールの強大な魔力に怯みもせずヴァルバトーゼは叫んだ。
「プリニーの心得その1! 語尾には必ず「ッス」をつけること!! それすら忘れたプリニーに俺が直接指導してやろう! 誇り高きプリニー教育係として!!」