少女は悪魔だった。
彼女はとある堕天使に憧れていた。

そんなお話。

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堕天使ヨハネとリトルデーモンのお話

『感じます。精霊結界の損壊により、魔力構造が変化していくのが』

 画面に映る、右側に団子がある黒髪の少女。画面には他に、彼女を讃えるコメントが並んでいる。

 少女の頭には黒い輪っが(針金で)浮いていて、翼が生えた黒い衣装を身に付けていた。

 

 その姿はまるで───

 

 

『世界の趨勢が天界議決により決していくのが……。かの約束の地に降臨した堕天使ヨハネの魔眼が、その全てを見通すのです! 全てのリトルデーモンに授ける───』

 彼女は、右手の指の間で閉じていた鋭い瞳を開く。

 

『───堕天の力を!』

 ───その姿はまるで、本物の堕天使様。

 

 

 次の瞬間、生放送が終わって目の前のモニターには『放送終了いたしました。』の文字が。

 

 直前に()が送信した『ありがとうーーーーーーーーーーーー』のコメントは彼女にしっかり届いただろうか?

 目立つように黄色の文字で長々と伸ばし棒を書いて邪魔だと思われてないだろうか?

 

 

 そんな心配をするけれども、私は毎回彼女への挨拶を怠った事はない。

 

 

 

 今さっき画面に映っていたのは、某動画サイトで偶に生放送を配信している堕天使ヨハネという配信者様だ。

 彼女は私と同じ(・・・・)で、所謂──厨二病──という不治の病を患った同い年くらいの女の子である。

 

 

「ヨハネ様……」

 彼女と私の違いはなんだろうか?

 

 それは明確だ。ヨハネ様は私と違って芯が通っている。設定を押し通せる、強い心をお持ちなのだ。

 何よりきっと、自分に───堕天使ヨハネという存在に自信を持っている筈。

 

 

 なよなよして、自分の芯を通せなかった私とは違う。

 

 私が堕天使ヨハネに惹かれるのは、そんな理由だった。

 

 

 

真黄乃(まきの)! まだ学校サボって引きこもってるの? 将来困るのはあんたなんだからね?!」

 配信を見終わった直後に、部屋の向こうから聞こえてくるそんな声。聞き慣れた母親の怒鳴り声。

 耳障りな怒鳴り声を聞きたくなくて、私は耳を塞ぐ。こんな時に私も彼女のように強くあれたら……。

 

 ……いや、私だって。

 

 

「……ぅ、ぅる、うるさ……ゎ、ゎたしは今……っ! 忙───」

「まだ入学式で変な事したの気にしてるの?! だからそんな趣味辞めなさいって言ってるのよ。そんな暇があったら勉強しなさい。将来困るのはあんただって言ってるでしょ。母さんまた出掛けるからね!」

「ぇ、ぁ、ちょ、待───」

 私が部屋から出る前に、家の玄関が強く締められる音がした。

 

 

「───ご飯は?」

 テーブルには一万円札が一枚。

 

 私の事なんて気にする事もなく、お母さんは出掛けて行ってしまったらしい。

 再婚相手でも見つかったのだろうか。私の事なんてどうでも良いのだろうか。

 

 

「……はぁ」

 一万円を握って自分の部屋から窓の外を眺める。

 

 十メートルくらい下にコンビニか見えた。人が何人も出入りしてて───ここから飛び降りたらどうなるかな? なんて思いもした。

 ただ、バカらしくなって窓を閉める。ご飯はコンビニで良い。一日中家に居たんだからお腹も減っていなかった。

 

 

 

「……何してるんだろう、私」

 高校一年から引き篭もり。理由は単純、高校デビューを失敗したから。

 

 私は中学を卒業しても厨二病が治らなかった。

 そして高校デビューを失敗した。自己紹介で自分は悪魔の末裔だとか言ったら、クラスメイト全員に笑われ───私は恥ずかしくなって不登校。

 

 

「ヨハネ様は凄いな……」

 彼女はきっと、学校でも堕天使ヨハネとして生活している。

 それが確信出来るのは、私と彼女が同類だから。そして彼女の自信のある眼をずっと見ていたから。

 

 

 彼女と一度で良いから話してみたい。

 

 

 彼女のようになるにはどうしたら良いのか、知りたい。

 

「ヨハネ様とお話がしたいな……」

 そんな私の願いは、思わぬ所で直ぐに叶う事になった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

『あ、もうこれ映───こほん。……全てのリトルデーモンよ、目覚めの刻です』

 翌日朝早く始まったヨハネ様の生放送。

 

 

 ヨハネ様が放送を始めると自動的に映像が映るようにしたパソコンが起動して、彼女の姿が映る。

 いつもの衣装にいつもの背景。

 

 でもなんでだろう?

 いつもの彼女じゃない気がする。

 

 

『今日はこの堕天使ヨハネが直々に、リトルデーモンの悩みを聞きましょう。その対価として……その、えーと、わた───この堕天使ヨハネの話を聞くのです』

「え、何これ……?」

 ヨハネ様に悩みを聞いて貰える……?

 

 

『迷えるリトルデーモンよ悩みを聞いて下さいとコメントするのです。その中から、この魔眼に止まった者に……堕天使ヨハネが直々にコンタクトを取りましょう』

 私は何も考えずに『悩みを聞いて下さい』とコメントを打ち込んだ。いつもの黄色い文字で。

 

「話したい……」

 ヨハネ様と話したい。

 

 

『───時は来ました。あなたにメッセージを送ります』

 次の瞬間放送が終わり、パソコンはいつもの画面に戻った。

 

 

 放心状態で数分。

 

 

「流石にないか」

 朝早くだったのに、動画の訪問者は百人を超えている。

 その中から選ばれる確率なんて、相当な運の持ち主だ。

 

 何せ私は運が悪い。悪魔の末裔だから。───なんちって。

 

 

 そもそもヨハネ様はどうメッセージを送るつもりだったのだろう?

 まさか……テレパシー? いや、そんなバカな。

 

 

「……っん?!」

 諦めて、そろそろ布団で寝ようと思った次の瞬間。私の携帯端末が久方振りに音を鳴らした。

 緊急サイレン───と、同じ音にしておいたメールの着信音。こんな時間に誰から?

 

 

 ……まさかね?

 

 

 私はゆっくりと端末を持ち上げるとホームボタンを押して画面を確認した。

 

 

 

 メッセージが一件。

 

 

「……ふ、神の悪戯か悪魔の罠か」

 無意識にヨハネ様と同じ格好をしながら───というか、眼を閉じてメッセージを開く。

 いや、でも、もしそうだとしても、私のメールアドレスを知っている訳がない。

 

 なら、ヨハネ様は本当に───

 

 

「───って、動画サイトのダイレクトメッセージかーい!!」

 ゆっくりと眼を開けると、メッセージの内容はこう。

 

 某動画サイトより。

 イエローリトルデーモン(私のハンドルネーム)様に新着メッセージが一件。

 

 

 と、いった感じの物。

 私はベッドに携帯を投げ付けた。

 

 

 って、いやいや! 違う!! 違う違う!!

 

 

「き、来た?! ヨハネ様からメッセージ来た?!」

 急いで端末を拾い上げて、恐る恐る某動画サイトのマイページを開く。

 新着メッセージが一件。私はゆっくりと画面にタッチしてページを移動した。

 

 

 

 メッセージ内容。

 

 件名:初めましてリトルデーモン。

 イエローリトルデーモンさん。初めまして、堕天使ヨハネと申します。

 この度はコメント頂きありがとうございました。つきましては悩みをお伺いしたいと思います。

 

 そして、どうか私の悩みを聞いて下さい。

 

 

 

 

「……ヨハネ様?」

 え? 何これ? 夢?

 

 私の悩みを聞いてくれる……? ヨハネ様が?

 そしてヨハネ様の悩みを聞く……? 私が?!

 

 

 震える手で端末の画面を押す。

 返信しなきゃ。ヨハネ様とせっかくお話が出来るんだ。

 

 

 悩み───私の悩み?

 

 私の悩みって何?

 

 

 厨二病を克服出来なくて、それが原因で学校に通えないって相談するの? ヨハネ様に?

 そんな事出来る訳がない。ならどうする? 母親に軽視されてるとか相談する? 死にたいとか言う?

 

「……ないない」

 ほぼ見ず知らずの女の子に、そんな重い愚痴を言ってどうする。

 

 

 なら、こうかな?

 

 

 

 

 返信内容。

 

 件名:初めまして堕天使ヨハネ様。

 初めまして。ハンドルネーム、イエローリトルデーモンと申します。

 この度はコンタクトありがとうございました。

 

 私の悩みは小さな悩みです。今年高校に入学したのですが、始めにやらかした所為で馴染めなくて不登校になってしまいました。

 不登校も続いてしまい、どうも顔が出し辛いです。何か良い方法はありませんか?

 

 私の悩みは小さな物なので、ヨハネ様のお悩みを是非聞かせて下さい。

 

 

 

 送信。

 

 

 

「しかし、ヨハネ様の悩みとはなんだろう?」

 動画を見る限り悩みがあるようには見えない。いや、今日は少し様子が変だったかも。

 

 

「……まさかラグナロクの日が近いか。……いやいや」

 我ながら頭がおかしいと思う。

 

 

 なんて一人でボケている間に返事が。こんな事をしてるから虐められるんだぞ、イエローリトルデーモン。

 

 

「えーと……」

 冷蔵庫からお茶を取り出して、そのまま口に運びながら画面を触る。

 今日はお母さん帰って来なかったんだ……。ふーん。

 

 

 

 メッセージ内容。

 

 件名:Re:初めまして堕天使ヨハネ様。

 話は聞いたわ! どうやら私とあなたは同じ穴の狢みたいね。

 そう、何を隠そう私も入学早々『やらかした』の。

 

 でも私は諦めない。普通の女子高生に戻るの。リア充に私はなる!

 

 と、言う訳でお互いに協力をしませんか?

 相談相手をあなたに決めて良かった。これも魔眼の力……。

 

 

 

「ヨハネ様ぁ?!」

 思わず飲んでいたお茶を吹き出した。

 

 一応私あなたのファンだよ?! リスナーだよ?! リトルデーモンだよ?!

 いや、良いけど。良いんだけどね?! そのくせに魔眼の力とか言っちゃってる所大好きですぅ!!

 

 

「……ヨハネ様も大変なんだなぁ」

 まさか憧れの人がそんな事で悩んでいたなんて、なんだか親近感が湧いてしまう。

 堕天使ヨハネを辞めて普通の女子高生に戻ってしまうのは寂しいけれど。

 

 それでも私は彼女のファンだ。リトルデーモンだ。

 

 

 彼女が天使に戻る決意をしたのなら、止める理由はない。

 

 

 

 返信内容。

 

 件名:Re:Re:初めまして堕天使ヨハネ様。

 そうなんですね、ビックリしました。堕天使ヨハネは辞めてしまうんですか?

 私はヨハネ様が配信を開始したらパソコンが自動的に起動するようにするくらいのファンなので、ちょっと寂しいです。あ、でも応援しますよ!

 

 私も、そのですね。拗らせてまして。

 やっぱり高校生になるんだから、こういう事は卒業した方が良いんですかね?

 

 

 

「リア充……か」

 私は悪魔の末裔。黄金を司る悪魔。

 なんて設定を考えたのは中学二年生の頃だったと思う。

 

 当初、母と父が離婚して。父からは多額の賠償金が支払われて私は何不自由なく裕福に過ごしていた。

 中学二年生で大量のお小遣いを貰えた私は、凄く調子に乗った。自分に買えないものはない、私はそのお金を自分の力だと勘違いした。

 

 

 その結果が今の私だ。

 

 

 母は今でも金遣いが荒いが、流石にもう我が家にそんなに余裕はない。

 黄金を司る悪魔だなんて、もう卒業なんだ。

 

 

 

 その後、私とヨハネ様は何度かメッセージで、今後どうすれば学校に馴染めるかを相談し合った。

 

 

 彼女には学校に昔馴染みが居るらしくて、ならばその人にストッパーになって貰うなんてどうだろう。

 そんな提案をしたら、彼女はとても嬉しそうにお礼を言ってくれた。

 

 ヨハネ様が頑張るのなら私も頑張ろう。

 そう思って、クローゼットにあるほぼ新品の制服を取り出す。

 

 

「……私も、卒業だね。……この血に流れる悪魔の血よ───浄化されよ!」

 いや、こんな事言ってる時点で卒業出来てない……。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 結果だけ述べよう。

 

 

 卒業なんて出来る訳がなかった。

 そもそも不登校がいきなり登校してきたら、視線が集まるのは当然。

 焦って固まった私が何をしたかなんて言うまでもないだろう。

 

 

「何が……下々の民よ私は帰って来た! だ! アホか!! お前はアホか真黄乃!! もうこれはクラスの皆に虐められる! 変な子だとか、面白い事言うねとか、悪魔だってぷぷーとか言われるんだぁ!!」

 家で悶絶して転げ回る私。もう無理だ終わった。ラグナロク!

 

 

 

「……怠」

 うん、冷めた。

 

 別にバカにされるのが嫌だとか、虐められるのが怖いとか、そういう事じゃなくて。

 自分が嫌いなんだと思う。自信がなくてなよなよしてる自分が嫌なんだと思う。

 

 

「ヨハネ様はどうなったかな……?」

 自分がダメだったから、私は彼女の事も心配になった。

 一応ヨハネ様にはストッパーが居る筈だから、大丈夫だとは思うけれども。

 

 私はメッセージが来ていないか確認する為に端末を手に取る。新着メッセージが一件。

 開いてみると、送り主は某動画サイトじゃなくて母からだった。少しがっかりだ。

 

 

 

 件名:

 明日の朝帰る。昨日渡した金でご飯を食べなさい。

 

 

 

「……朝帰りか」

 そりゃ、どうも、めでたい。

 

 私は嫌になって携帯を投げ捨てた。この母親にすら何も言えない自分が嫌い。

 

 

 

 数日後の事。

 

 ヨハネ様からメッセージが届いた。

 あの日から生放送なかったし、メッセージもなかったから寂しかったんだけど、どうやら忙しかっただけらしい。

 

 

 

 件名:Re:Re:Re:初めまして堕天使ヨハネ様。

 

 久しぶり、イエローリトルデーモン。

 色々あったんだけど、堕天使ヨハネは卒業出来そう。

 

 あの後、何故か流れで今流行りのスクールアイドルってのに誘われて。

 そこで高校生にもなって堕天使なんて通じないって分かった。

 

 おかげさまですっきり。これで普通の高校生になれそう。

 

 これまで応援ありがとね。あなたも頑張って!イエローリトルデーモン。

 

 

 

「…………なにそれ」

 そんな簡単に卒業出来ちゃう物なんだ。

 

 あなたは凄いですね、ヨハネ様。いや、普通の高校生さん。

 

 

 

 

 

 つまらない。

 

 

 

 この世界は悪意で満ちている。

 私は悪魔の末裔。黄金を司る者。名前はマモンとかにすると格好良い。私に手に入れられない物はない。

 

 そう思っていた。

 

 

 

「ただいま、あんた学校は?」

 夕方。妙に女々しい姿で帰って来た母親の第一声。

 お茶を飲む為に部屋から出ていた私は、久しぶりに母親と顔を合わせる。

 

 

「……ぃ、ぃ───」

「どうせ行ってないんでしょ。良い加減にしないと退学になるわよ」

 いや、一回行ったんだ。そんなのどうでも良いかもしれないけど、なんで私の話を聞いてくれない。

 

 

「まだ気持ち悪い魔法だとか、占いだとかやってる訳? 良い加減にそんなの卒業しなさい」

「……っ。き、気持ち悪ぃ、とか……っ!」

「何? 大体部屋も汚いし気味の悪い置物まで置いて」

「ぁ、ちょ……っ!」

 私の部屋を開けて中に入っていくお母さん。

 手当たり次第に置物を掴んでは、それをゴミ箱に投げて行く。

 

 

「ちょ、辞め……っ!」

「辞めるのはあんたよ。高校生にもなってこんな気持ち悪い。……もう少しで新しいお父さんも来るんですからね! こんな物全部捨てなさい!!」

 机の上のタロットカードを捨てながらそういうお母さん。

 

 何枚かが地面に落ちて、死神のカードが表になった。

 

 

 

「本当に気持ち悪いわね。こんな物の何が良いんだか。占いなら他にもあるでしょ、手相とか星座とか。そういう女の子っぽい物にしなさい。黒魔術? 何それ気持ち悪いわね。明日の朝、家に人を呼んでくるから。あんたこれ片付けなさい。全部! 良いわね?!」

「……は、ちょ、待───」

「良いから捨てなさい!!」

 言いながら部屋を散らかして、お母さんは身支度を整え始める。

 

 

 新しい男の所にまた行くんだろうか。私を置いて。私の事なんてどうでも良いの?

 

 

 なんなの。

 

 

 なんだっていうの。

 

 

 

「気持ち悪い物は捨てて、部屋の掃除してなさい。良いわね!」

 そう言って強く扉を閉めるお母さん。

 

 机の上には一万円。

 

 

 私は一人。

 

 

 

 一人で散らかった部屋を片付ける。大切なタロットカード。決められた方角に配置した置物。元に戻さないと……。

 

 

 捨てる……?

 

 

 高校生なんだから、こういう物は卒業……?

 

 

 ふと脳裏に浮かぶそんな言葉。

 

 

 私の憧れていたあの人は、あの堕天使はもうこの世に存在しない。

 

 

 

 堕天使だった普通の高校生の顔が脳裏に浮かぶ。

 

 彼女は今頃普通に学校に通ってて、普通の女の子みたいに生活してるんだろうか。

 

 

 

 私は独りだ。

 

 

 

 

「普通の高校生になれそう? あなたも頑張って? 無理だよ……そんなの!」

 なんとなく開いた端末のページ。ヨハネ様───いや、普通の高校生からのメッセージ。

 

 私はおもむろに返信をするページを開く。悪い事考えてしまった。だって私は───悪魔だから。

 

 

 

 窓を開ける。風が部屋に吹いて、整えたタロットカードがまた散らばった。あぁ、やっぱり私は悪魔だわ。

 窓の外の下界を除く。母親と知らない男がそこで何やら談笑しているようだった。アレが新しい男だろうか?

 

 ここから飛び降りたらどうなるかな。

 

 

 目の前に娘が降って来てグチャグチャになったら、流石のお母さんも私を見てくれるだろうか?

 私を一人にした事を後悔してくれるだろうか? 私の事を見てくれるだろうか?

 

 ふふ……。私は、悪い悪魔だな。

 

 

 

 件名:Re:Re:Re:Re:初めまして堕天使ヨハネ様。

 

 お久しぶり。いえ、初めましてでしょうか。普通の高校生さん。

 私はね、堕天使ヨハネが大好きでした。悪魔とか黒魔術とか大好きでした。

 

 でも、全部否定されてしまった。大好きだった堕天使も居なくなって、母親には気持ち悪いと言われた。

 もうこんな世界には居られない。私は悪魔の世界に帰ります。

 

 あの母親に悪魔の力を見せてやるんだ。

 

 

 

 

「送信、と」

 我ながら悪趣味だと思う。見ず知らずの普通の高校生の女の子に、自殺しますとか。

 きっと彼女は後味の悪い人生を送るに違いない。ニュースで私の事を知るかもしれない。彼女の人生を狂わせるかもしれない。

 

 あぁ、でも、それって本当に悪魔みたい。

 

 

 

「私は悪魔。黄金を司る悪魔の末裔マモン。死ぬのなんて怖くない。怖くない怖くない怖くない!」

 私は一人なんだ。何もないんだ。誰も私を見てくれない。

 

 私を見てよ。私を認めてよ。その為にこんな事までして、何してるんだ私は。

 

 

 

「……し、死んでやる。私は悪魔、私を見てくれない母親を後悔させ───」

『ちょーーーっと待ったーーー!!』

 当然聞こえる、聞こえる筈のない声。

 

 

 もうこの世界には居ない筈の、私の憧れの堕天使の声。

 

 

「───っ?! よ、ヨハネ様?!」

 驚いて声のした方に振り向く。当たり前だが、そこには誰もいない。私は独りなんだから。

 

 なら、今の声は?

 ついに寂し過ぎて幻聴が聞こえたか。

 

 

『聞いてるんでしょ?! 分かってるから。あなたが私のファンだって。いや───この堕天使ヨハネのリトルデーモンだって!!』

 いや、やっぱり聞こえる。でも、なんで?

 

 

 部屋の周りを見渡す。ふと視界に映る、憧れの堕天使の姿。そこには、必死な顔で声を上げる普通の女子高生の姿があった。

 

 

「生放送……?」

 それは某動画サイトの生放送。私のパソコンの画面である。

 彼女が放送を開始すると、自動的に立ち上がるようにしておいた私のパソコンだ。

 

 

「……そうか、私ヨハネ様にパソコンの話ししてた」

 だから焦って、態々生放送をしたのだろう。普通の女子高生さんは優しいんだ。

 私みたいな悪魔とは違う。普通の優しい女の子なんだ。

 

 ふふ、私は最低だな。

 

 

『誰もあなたを否定なんてしてない! 私も堕天使は辞めない!』

 胸を手に置いて必死な表情でそう言う普通の女子高生さん。

 

「何を今更……」

 あの後生放送もやらなくなった癖に。

 

 

『あの後結局、私は堕天使を辞められなかった。言われたのよ……皆に。……良いんだよ、堕天使でって。自分が好きならそれでいいんだよって。……凄く無責任な事をいう先輩がいた』

 自分が好きならそれでいい……?

 

 

『バカみたいよね。一回生徒会長に怒られたのに、それでも私は悪くないって。私は良いんだって、私はそのままで良いんだって言ってくれた。……誰かにどう思われるかとか、人気がどうだとか、そんなのは気にせずに、自分が一番好きな姿で、輝いてる姿で居るのが大切なんだって教えてくれた!』

「ヨハネ様……?」

 自分が一番……輝いてる姿。

 

 

 想像する。

 自分が一番輝いてる姿ってどんな姿か。

 

 輝いてるってなんだろう。

 

 

 笑顔でいる事? 楽しむ事?

 

 私が一番楽しんでた物って何?

 

 

 ───悪魔だ。自分が悪魔の末裔だと、馬鹿げた事を言っている事だ。

 馬鹿げてるって分かってるのに、そんな事をしてる時が一番楽しい。私の一番好きな事だ。

 

 

 でも、それはお母さんに否定されてしまった。

 

 私は独りだ。もう、生きていられない。

 

 

 

『だから……辞めないで!』

 そんな必至に死ぬのを止められても、あなたが堕天使に戻ったとしても、私の孤独は変わらない。

 私が独りなのは変わらない。誰も私を見てくれない。死ぬしかない。

 

 

『悪魔で居ることを、私のリトルデーモンで居ることを辞めないで!』

「───んぇ?」

 ───ん、待って。この人何言ってる?

 

 私は別に厨二病を辞めるっていう訳じゃ───いや、待てよ?

 送ったメッセージを読み返す。……ぁ、どこにも死ぬなんて書いてないわ。

 

 

 ──もうこんな世界には居られない。私は悪魔の世界に帰ります。──

 

 これはそう(・・)受け止められても仕方ない。あ、そういう事ね?! あっはぁっ!! そうかぁ!! ───この人本物だわぁ!!

 

 

『私、あなたが卒業したいと思ってるって勘違いしてたの。でも違ったのね、あなたは悪魔が好きだった』

 普段とは全く違う格好で、彼女は───ヨハネ様は必死に言葉を繋ぐ。

 皆が見ている場所で。きっと、私一人に向けて言葉を発している。

 

 悪魔が好き。そうだ、私は悪魔が好き。

 

 

『違うなら、捨てちゃダメ!!』

 大きな声が、なりふり構わない声がスピーカーから伝わってきた。

 

 まるで脳裏に直接話しかけられているかのような、心に響く声。私の大好きな堕天使の声。

 

 

 捨てちゃダメ。

 

 でも、私にはその力がない。あなたのような、芯がない。

 私には無───

 

 

『ギラリン! 深淵の深き闇から……ヨハネ───堕天!!』

 画面に映る、堕天使ヨハネ。いつの間に着替えた。黒い輪っかと翼の生えた黒装束。

 

 

 

『イエローリトルデーモン、良く聞くのです。あなたは優秀な使い魔。私の原初にして最大の力を持つリトルデーモン零号』

「私が……リトルデーモン零号?」

 なにそれ、格好良い。

 

 

『自信を持つのです。あなたなら私と同じ高みに立てる。さぁ、リトルデーモンを統べて高みへ、そして堕天しましょう!』

 そこで動画の配信はストップした。

 

 コメント欄は「ヨハネちゃんどうしたの?」とか「ついに悪魔と交信しだした」とか「久しぶりにヤバいのを見たw w w」とか、良くも悪くもいつものようなコメントが流れてる。

 

 

 私はヨハネ様のリトルデーモン零号。

 

 

 

 私がヨハネ様のリトルデーモン零号。

 

 

 

 唐突にメッセージが届く。

 

 不思議と誰からかは分かった。

 

 

 

 

 

 今の配信見た?!

 勘違いしててごめんね。私も堕天使ヨハネは続ける。

 

 さっきの好きだからうんぬんは、人の言葉。先輩からの受け売り。

 私はね、その先輩にある意味救われちゃったのかもしれない。

 

 今ね、その先輩達とスクールアイドルっていうのやってるのよ!

 イエローリトルデーモンさんも良かったら見てみてね。

 

 

 

 

 

 その動画で彼女は一人だけ、少し浮いて居た。

 

 真っ暗な衣装。輝く真っ直ぐな瞳。格好良い堕天使。

 

 

 あぁ……これが、私の憧れ。そして私は、そんな憧れのリトルデーモン。

 

 

 

 こんな所で引きこもってる場合じゃない。

 

 

 私は悪魔。黄金を司る悪魔の末裔。マモン。よし。

 

 

 

「ぉか───ぉ、お母さん……っ」

 窓から勢い良く頭を出して声を出す。

 

 違う。こんなんじゃない。私の憧れはこんなんじゃない。

 

 

 

 登るんだ───

 

 

「───すぅ……。……聞けぇ!! 愚かな愚民共、私は……私は悪魔だぁぁあああ!!!」

 

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「あー、学校来たのー?」

「心配したんだよー!」

「えーと、どうしたの? 真黄乃さ───」

 登るんだ。

 

 

「聞きなさい、小悪魔達。私と一緒に!」

「一緒に……?」

 

 

 

「スクールアイドルをやるのよ!!!」

 ───登るんだ、彼女と同じ高みに。




とある少女がスクールアイドルを始めるお話。



どうも初めまして。ラブライブの短編は初めてになります。
いや、こんなのラブライブじゃ無いとか言われそうな気がしますが……。

えーと、何が書きたかったかというとラブライブサンシャイン五話の千歌ちゃんの台詞ってとっても大切だしとっても素敵だよねって事です。ただそれだけのために一万文字近く書きました。ほとんど蛇足ですね。


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