唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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感想、評価、お気に入りありがとうございます!

最近かなり寒くなってきましたね。こたつを出そうか悩んでおります。
皆さんも風邪には気を付けてくださいね。

それでは続きをどうぞ。


審議

 

 

 

「来るよね?」

 

「うん、大丈夫。必ず来るよ」

 

 翌日の朝。軽井沢さんと登校するためにロビーにいた。しかし、今日は軽井沢さんだけでなく、もう一人と一緒に登校する予定だ。それは、軽井沢さんが昨日の夜に提案してきたものだった。

 

 目の前のエレベーターが1階に止まる。そこから降りてきた生徒を見て、軽井沢さんは安堵のため息を漏らした。

 

「おはよっ、佐倉さん」

 

「お、おはよう、軽井沢さん、倉持君」

 

 現れたもう一人の人物である佐倉さんは少しぎこちない感じではあったが、笑顔で挨拶を返した。

 

 昨日の夜に軽井沢さんから電話で『佐倉さんは不安だろうから一緒に登校して少しでも和らげてあげたい』という旨を聞いて、僕が佐倉さんに電話をして誘った。そのときの佐倉さんの声色は、どこか嬉しそうなものだった。他人に気遣ってもらえることは嬉しいものなのだろう。

 

「おはよう、それじゃあ行こうか」

 

「う、うん」

 

「まだ緊張するのは早いよっ。話し合いは放課後じゃん」

 

「そ、そうだよね」

 

 緊張した面持ちの佐倉さんに、軽井沢さんが笑いながら話しかける。それで幾分かましにはなったが、未だに緊張は拭えない様子だ。

 

 

「あっ、そうだ。夏休みの噂って聞いた?」

 

「うん、昨日の帰りに高円寺君から」

 

「高円寺君?変なとこから聞いてんだね」

 

 登校の途中に軽井沢さんが佐倉さんに話を振った。おそらくは放課後のことを気にしないようにさせようとしているのだろう。それにしても変なとこって……。あながち間違いでもないか。

 

「楽しみだよね、バカンス!いっぱい遊んで、いっぱい美味しいもの食べたいっ」

 

「この学校のことだし、そんな楽しいことばっかりじゃないと思うけどね」

 

「もう、夢がないなー。そんな事言ってたら女の子に嫌われるよ。ねぇ佐倉さん」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 佐倉さんがハニカミながら同意する。楽しそうな2人をよそに、軽くダメージを食らう。そうか、女の子は夢があることが好きなのか。確かに、白馬の王子様とかに憧れると聞くし、某夢の国が好きと聞く。

 そんなしょうもないことを考えていると、軽井沢さんが立ち止まり、佐倉さんの方へ向く。

 

「だからさ……こんな面倒くさいことなんかさっさと終わらして、バカンスのこととか楽しいこと考えよっ」

 

「うん、ありがとう」

 

 これは軽井沢さんなりのエールなのだろう。それを分かってか、佐倉さんがお礼を言う。その表情は会ったときと比べてかなり柔らかくなっていた。やっぱりこの二人は……。

 

 

 

 

 

 放課後を告げるチャイムが鳴り、いよいよ審議会が始まる。僕は参加はできないが直前まで佐倉さんと一緒にいることにした。それは佐倉さんがいつ止めたいと言ってもいいようにだ。僕だけは彼女の味方をしよう。

 

 参加する4人と僕を含めた5人で職員室へ向かい、茶柱先生と合流する。しかし、審議会が行われるのは職員室ではないらしい。今回のようなケースでは問題のあったクラスの担任と、その当事者、そして生徒会との間で決着がつけられる。とのことで、生徒会室に向かうことになった。生徒会、と聞いた時の堀北さんの様子が少し気になった。

 

 

 生徒会室の前につき、僕と佐倉さんを抜いた3人と先生がその中へと入って行った。佐倉さんは目撃者の話になってから中に入ることになっている。その佐倉さんを見てみると少し震えていた。直前になり、かなり緊張しているようだ。

 

「佐倉さん、落ち着いて」

 

「う、うん、大丈夫」

 

「はぁ、全然大丈夫じゃないだろ。震えてるし」

 

「ははは、やっぱりダメだね。口では頑張るとか言って、結局直前で怖くなって逃げたくなってる」

 

 佐倉さんは自らを蔑むように笑う。もうやめてもいい。そんな言葉をかけたくなる。でも、それは違う。前に進もうとしている今の彼女にかける言葉じゃない。僕が掛けるべき言葉は、彼女の背中を押す言葉だ。

 

「ダメなんかじゃない。佐倉さんは頑張ったじゃないか」

 

「私は、まだ何もしてない。できてない」

 

「君はここに立っている。怖かった、逃げたかった。でもここに立っている。頑張ったんだよ佐倉さんは。だから、もう少し。もう少しだけ頑張ってみない?ここまで頑張ってきたんだから。それで失敗してもいいんだよ。頑張った君に文句を言う奴は僕が懲らしめてやる」

 

「懲らしめてやるって……ふふ、ありがとう。そうだよね、ここまで来たんだもん。最後まで頑張らないとね」

 

 決意を固めた佐倉さんの震えは止まっていた。少しは背中を押せたみたいだ。ここからは僕は何もできない。佐倉さんだけの戦いだ。全ては佐倉さん次第だ。

 

 そして、いよいよ中から佐倉さんを呼ぶ声が聞こえた。その声を聴いて、また少し緊張した面持ちになったが、それでも前を向き歩き出す。その背中には迷いがないように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室から名前を呼ばれ、また緊張してしまう。不安や恐怖が黒いものが襲ってくる。でも、その中に光が見える。私が勇気を出そうと決めたきっかけになった、高円寺君。私を何度も励ましてくれた軽井沢さん。そして、こんな私と友達になってくれて、支えてくれて、背中を押してくれた倉持君。皆の顔を思い出せば、不思議と黒いものが引いて行った。

 気付けば私は一人じゃなかった。支えてくれる人がいる。それだけでこんなにも違うものなのか。皆のおかげだ。だから私は恩返しをしなくちゃいけない。今度は私が支えてあげれるように頑張らなくちゃ。そのためにはまずは頑張って証言をしよう。

 

 私は扉を開け、中に入る。その場にいた生徒と先生に注目される。それでも前に進む。そして、真ん中で立ち止まる。堀北さんが私の紹介をする。それを聞いてCクラスの先生が訝し気な視線を送ってきたが気にしないように努める。

 

「では証言をお願いしてもよろしいでしょうか。佐倉さん」

 

「は、はい……。あの、私は……」

 

 堀北さんに促されて話し出そうとする。でもうまく言葉が出ない。皆が私を見ている。それが怖い。その視線から逃げようと顔を伏せてしまう。それでも私はもう一度前を向く。息を吸い込み、言葉を放つ。

 

「私は確かに見ました……!!」

 

 予想以上に声が出てしまった。生徒会室に居る人たちのほとんどが呆気に取られていた。凄く恥ずかしい。でも、この勢いで続けなくては。

 

「最初にCクラスの生徒が須藤君に殴り掛かったんです。間違いありませんっ!」

 

 私が見たことを言えた。これでいいのかな。もっと詳しく言った方が良かったのかな。

 不安になっていると、声を発したのはCクラスの先生だった。確か坂上先生だったと思う。発言していいかを生徒会長さんに聞いて許可を得た坂上先生が私を見て口を開いた。

 

「佐倉くんと言ったね。私は君を疑っているわけではないんだが、それでも一つ聞かせてくれ。君は目撃者として名乗りを上げたのが随分遅かったようだが、それはどうしてかな? 本当に見たのなら、もっと早く名乗り出るべきだった」

 

「それは……巻き込まれたくなかったから、です……私は人と話すのが苦手で、それで……」

 

 坂上先生の視線に思わず怯んでしまう。発言がしどろもどろになってしまった。

 

「なるほど。良く分かりました。ではもう一つ。人と話すのが得意ではないあなたが、週が明けた途端目撃者として名乗りを上げたのは不自然じゃありませんか?これではDクラスが口裏を合わせてあなたに嘘の目撃証言をさせようとしている風にしか見えない」

 

「そんなことはありません!私はただ、本当のことを……」

 

 坂上先生の質問は以前に茶柱先生にも言われたことだった。嘘じゃない。それでも坂上先生の勢いにおされて声が小さくなってしまう。

 

「私には君が自信を持って証言しているようには思えない。それは本当は嘘をついているから、罪悪感に苛まれているからではないのかな?」

 

「ち、違います!」

 

「私は君を責めているわけではないよ。恐らくクラスのため、須藤君を救うために嘘を強いられているのだろう。可哀そうに。君みたいな大人しい子に誰かが近づいて来たんではないかな?それで君を利用しようと甘い言葉をかけてきたのではないかな?ひどい生徒だよ」

 

 坂上先生の発言を聞いて、堀北さんが口を挟もうと手を挙げる。しかし、堀北さんが口を開く前に私が口を開いた。それはどうしても許せない事があったからだ。

 

「倉持君はそんな人じゃありません!私は自分で考えてここに来たんです」

 

 私が急に大きな声を発したことにより、またもや呆気にとられる面々。坂上先生は別に倉持君のことを言っていたわけではない。それでも私には倉持君のことを言われているように感じた。だから否定せずにはいられなかった。でも、それが良くなかった。

 

「な、なるほど。倉持と言う生徒が君に証言を強要したんだね」

 

「ち、違います!倉持君は関係ありません」

 

「その慌てようから察するに倉持君から脅迫でもされているのではないかね?そうであれば、倉持君も罰則の対象にする必要がありそうだね」

 

「待ってください!私は脅されてなんか……」

 

「少しいいでしょうか。坂上先生、話の論点が多少ずれているように思えるのですが?佐倉さんも落ち着きなさい」

 

 堀北さんの言葉で少し冷静になる。ホントにダメだな、私。余計なことを言って倉持君が悪者にされた。しかもそれを訂正できなかった。最低だ。

 

「そうですね。少し話がそれましたか。しかし、これで終わりでいいでしょう。他に証拠もないようですし」

 

「証拠なら……あります」

 

「もうこれ以上無理はよしたまえ。本当に証拠があるなら、もっと早い段階で……」

 

 坂上先生が言い終わる前に、バン、と私は机に手のひらを叩きつけた。手がジンジンする。それだけ私はイライラしていたのかな。この先生にも、私自身にも。

 それでも、私にできることを最後までやろう。そう思って、机の上に写真を置いたんだ。

 

「私が、あの日特別棟にいた証拠です……!」

 

 私の言葉を聞いて、生徒会長の横に座っていた女生徒が確認に来た。生徒会の一員なのかな。

 写真を確認した女生徒は、それを生徒会長の元へ提出した。暫くの間その写真を見ていた会長は、それを机の上に並べ、他の人にも見えるようにした。それをその場にいる人が見ているのを見て恥ずかしい気持ちになる。だって、その写真には『雫』としての私が写っているから。

 恥ずかしい。だけどそれ以上に証言を信じてもらえるようにしたい気持ちでいっぱいだった。

 

「私は……あの日、自分を撮るために人のいない場所を探してました。その時に撮った証拠として日付も入っていますっ」

 

 私はあの事件の日、特別棟でブログに乗せるための写真を撮っていた。その際に偶々、須藤君たちの騒動に出くわした。

 

 写真を見て、周りの空気が変わる。Cクラスの生徒も動揺しているように見えた。これで私の証言が本当だと信じてもらえるはず。その写真の中には須藤君が石崎君を殴った直後が写っているのだから。

 

「これが……私がそこにいたことの証拠です」

 

「ありがとう、佐倉さん」

 

 堀北さんにお礼を言われた。嬉しかった。私がしたことでお礼を言われたのが嬉しかった。これで須藤君も助かるんじゃないかな。

 

 でも、そんなに甘いものじゃなかった。

 

「なるほど。どうやらあなたが現場にいたという話は本当のようだ。その点は素直に認めるしかありません。ですが、この写真ではどちらが仕掛けたものかは分かりません。あなたが最初から一部始終を見ていた確証にもいたりませんし」

 

「そ、そんな……」

 

 頭が真っ白になる。これでやっと信じてもらえると思ったのに。結局私は何もできなかった。信じてもらうことはおろか、倉持君に余計な疑いをかけてしまった。

 

 その後どうなったかは覚えていない。気付いたら話し合いは終わっていた。退室を促され、私は生徒会室を逃げるように後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐倉さんが生徒会室に入って15分くらい経っただろうか。そろそろ審議会が終わってもおかしくはない。生徒会室の前の廊下で僕は終わるのを待っていた。佐倉さんはうまく言えただろうか。そんな不安が浮かんでくる。

 

 廊下をうろうろとしていると、生徒会室の扉が開いた。そこから出てきたのは佐倉さんだった。

 

「あ、佐倉さん。審議会はどうだっ……」

 

 極めて明るく出迎えてあげようと思っていた僕だったが、途中で口を閉ざす。それは佐倉さんの表情を見たからだ。その表情は今にも泣きだしそうなものだった。

 

「ごめんね、倉持君……私、うまく出来なかった。私のせいで全部……」

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 大粒の涙を零して泣き出した佐倉さんを優しく抱きしめる。何があったかは分からないが、落ち着くまで背中をさすってあげよう。

 

 そうしていると、次はCクラスの面々が生徒会室から出てきた。その中の坂上先生がこちらを見て近づいてきた。

 

「君の嘘が、大勢の生徒を巻き込む結果になったことは反省してもらいたい。それと、泣けば許されると思っているのなら君の策略は実に愚かしいことだよ。恥を知りなさい」

 

 そう言って、踵を返しCクラスの生徒と去ろうとする。僕はそれを止めた。

 

「ちょっと待ってください。訂正してください。佐倉さんは嘘なんてついていません」

 

「君はもしや倉持君かな?」

 

「そうですけど、だから何ですか?」

 

「君がそうか。残念だが君の策も崩れたよ。その子を利用して我々を悪者にしようとしていたのだろうがね。君の処分も決めておかないとね。それでは失礼するよ」

 

 そう言い残し、去って行った。何のことを言っているのか分からないが、佐倉さんを傷つけたのはあの先生で間違いないようだな。

 

 その後、Dクラスの面々も生徒会室から出てくる。堀北さんは確かめることがある、と言い足早に去って行った。須藤君もそのままどこかへ行ってしまった。残っていた綾小路君に何があったかを聞く。

 

 佐倉さんの証言は信用されなかったらしい。それはおろか、僕が佐倉さんを脅したことにされたみたいだ。だから佐倉さんがここまで泣いているのか。自分の非力さを痛感したのだろう。

 

「佐倉さん、よく頑張ったね。ありがとう」

 

「な、なんで、お礼を、言う、の?」

 

「だって僕のために坂上先生に怒鳴ってくれたんだろ?」

 

「それは……私が、余計な、こと、言ったから」

 

「それでも嬉しいよ。だからありがと」

 

 またもや佐倉さんは泣き出してしまう。もう僕のシャツは佐倉さんの涙と鼻水でビチョビチョだ。それでも嫌とは思わなかった。

 

「綾小路君、審議自体はどうなったのかな?」

 

 佐倉さんの背中をさすりながら、綾小路君に状況を説明してもらう。なんでも、明日の4時にもう一度再審の席を設けることになったらしい。坂上先生が須藤君に2週間の、Cクラスの生徒に1週間の停学を申し出たのだが、堀北さんがそれを断ったらしい。泣き寝入りするつもりは毛頭ないと啖呵を切ったそうだ。

 堀北さんの判断は正しい。例え、喧嘩両成敗であっても、僕たちDクラスが少しでも重い罰を受けてしまっては意味が無いのだ。一見引き分けに見えても、実質は僕たちの敗戦を意味する。

 

「再審はいいけど、策はあるの?」

 

「さぁな、俺にはさっぱりだ。堀北に託すしかないだろうな」

 

 綾小路君はこう言っているが、堀北さんだけでこの問題を解決できるとは思えない。カギを握っているのはこの男だ。

 

 佐倉さんが動けるようになるのを待っていると、生徒会室から生徒会長たちが出てきた。もう一人の女子生徒が鍵を手に戸締りをする。その間に生徒会長が綾小路君に話しかける。

 

「まだいたのか。どうするつもりだ?」

 

「どうする、とは?」

 

 短いやり取りが二人の間で交わされる。お互いに様子を窺っているようだった。

 

「今日この場に鈴音と共に現れた時には、何か策を見せると思っていたが」

 

「俺は諸葛亮孔明でもないんで策なんてありません」

 

「完全無罪と言い放ったのは、鈴音の暴走というわけか」

 

「絵空事ですね。そう思いませんか」

 

「そうだな」

 

 綾小路君と生徒会長のやり取りを見て、完全に蚊帳の外だな、と思う。短いやり取りの中でも、けん制し合っているのが、ひしひしと伝わる。

 

「それから佐倉と言ったな」

 

 綾小路君と話していた生徒会長が突然佐倉さんに声をかける。急に声をかけられた佐倉さんは、びくびくしていた。

 

「目撃証言と写真の証拠は、審議に出すだけの証拠能力は確かにあった。しかし覚えておくことだ。その証拠をどう評価しどこまで信用するかは証明力で決まる。それはDクラスの生徒であることでどうしても下がってしまうものだ。どれだけ事件当時のことを克明に語っても、100%を受け入れることは出来ない。今回、お前の証言が『真実』として認識されることは無いだろう」

 

「わ、私は……ただ、本当のことを……」

 

「証明しきれなければ、ただの戯言だ」

 

「戯言なんかじゃない。僕は佐倉さんを信じている」

 

 生徒会長と佐倉さんの会話に口を挟む。さすがにこれ以上は我慢の限界だ。生徒会長は僕に初めて視線を移す。

 

「お前はDクラスの生徒か。それならば、信じたいと思うのは当然のことだ」

 

「信じたいんじゃない。佐倉さんを信じると言っているんです。生徒会長ともあろう方が、その意味の違いすら分からないのですか?」

 

 僕の挑発的な言葉に生徒会長は眉をひそめる。その眼光は普通の人なら怯んでしまうものであったが、僕は怯まない。この程度の睨みなど怖くはない。

 

「ならば証明できるのか?佐倉が嘘をついていないと」

 

「証明して見せますよ。佐倉さんと約束しましたから。頑張った君に文句を言う奴は僕が懲らしめてやるってね」

 

「それは楽しみにしておこう」

 

 微かに笑いながら、生徒会長は去って行った。その笑みは出来るはずがない、という意味だったのだろう。

 

 去って行く二人を見送った後、未だに動けないでいる佐倉さんの顔を無理やり上げる。

 

「そろそろ顔を上げなさい。佐倉さんはよくやったじゃないか」

 

「だって……私のせいで……倉持君がっ……」

 

「佐倉さんは何も悪くないだろ。悪いのは嘘だと決めつけるやつだ。君は本当のことを言っただけ」

 

「……でも……っ……」

 

 それでも自分を責める佐倉さん。もう一度、佐倉さんの目を見て、僕は言う。

 

「君は何も悪くない。だから自分を責める必要はない。胸を張るんだ」

 

「だけど……私……何の役にも立たなかったよ……?」

 

「そんなことはない。佐倉さんのおかげで再審まで持ってこれた。道を繋げれたんだ。君が証言しなければ、須藤君は停学になっていたよ。だから、よく頑張った」

 

「……うん……ありがとう」

 

 頭を撫でながらそう言ってやると、またもや佐倉さんは泣き出してしまった。でも、その涙は先ほどまで流していた悔し涙とは違ったものに僕には見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「オレのこと忘れてないか」

 

 完全に蚊帳の外になっていた綾小路君が困ったような顔でこちらを見ていた。

 

 




ようやく、原作7巻を読みました。面白かったです。龍園くんが意外に良い奴で驚きました。
軽井沢さんの話をどうするか。でも、そもそもこの小説では倉持君と付き合っている
(仮)なので原作のような展開にならない気が……。
これからどうするか考えないといけませんね。


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