それでは続きをどうぞ。
「ごめんね、もう大丈夫」
泣き止んだ佐倉さんは立ち上がり、恥ずかしそうに笑う。誰だって人前で泣くのは恥ずかしいものだ。
「佐倉さんは溜め込むタイプみたいだから、少しはスッキリできたんじゃないかな?」
「うん……スッキリした。そのおかげで落ち着いて考えることもできたよ。……やっぱり私は弱いんだね」
「そんなことは……」
「ううん、弱いよ。また倉持君の優しさに逃げようとした。それじゃあダメなんだよね。受け入れないとダメなの。悪いのは私。信じてもらうことが出来なかった私の力不足」
まだ少しだけ涙が残っていたのか、目を拭った佐倉さんが落ち着いた声色で話す。自虐しているわけではなく、自分の弱さを受け入れようとしている。
ああ、なんだ、そうだったのか。佐倉さんは
坂上先生に責められ、生徒会長に責められた彼女を見て、僕は佐倉さんが壊れてしまうと思った。昔の僕みたいになってほしくなかった。
だから、僕は
そんなことをしたのも、僕が佐倉さんを信じていなかったからだ。彼女では現実を受け止めるのは無理だと決めつけていたのだろう。実際に佐倉さんは僕が作った逃げ道に行こうとした。
だが、引き返した。自分が進むべき道は、この道ではないのだと自分で気づき、引き返してきたのだ。
「坂上先生も生徒会長さんも言っていることは正しかったんだよね。私は『真実を話すこと』に固執しすぎて、『真実と認めてもらうこと』を考えていなかった。それが私の悪かったところ……」
「そこまで佐倉さんは受け入れることができたんだね。信じてあげれなくてごめん」
「あ、謝らないで。あのとき倉持君にも否定されていたら私は立ち直る事が出来なかったよ。倉持君の優しさのおかげで、こうやって受け入れることができたの。だから、ありがとう。勇気を出して、良かった」
笑顔でそう言う佐倉さんを見て、自分の愚かさを改めて痛感する。なんで彼女を信じてあげれなかったんだろう。
いや、僕は信じたくなかったのかもしれない。僕を必要としてくれる友人がいなくなってしまうことを恐れたのかもしれないな。彼女が成長してしまえば僕のことなんて必要じゃなくなる可能性があったからだ。
「あ、あのね……実は……私、今……ううん、何でもない。今言うことじゃないよね。……私、頑張ってみるね。勇気を出して。それじゃあまたね」
「え?ちょっと、佐倉さん?」
佐倉さんが何かを言おうとしてすぐに止めた。そしてそのまま小走りで帰ってしまった。何か無理をしなければいいのだが……。
佐倉さんが去った後、僕は綾小路君と並んで玄関まで歩き出す。すると、玄関に見知った顔が見えた。
「やっほ。随分遅かったね」
「一之瀬に神崎君か。結果を聞きに来たのかな?」
「ああ、聞かせてもらえるか?」
玄関に立っていたのはBクラスの二人だった。協力関係にある二人は結果がどうなったか気になって、わざわざ待っていてくれたみたいだ。
そして、綾小路君が生徒会室であった一連の出来事を話した。
「そっか。坂上先生の提案蹴っちゃったか。Dクラスはあくまでも無罪を主張するんだね」
「提案を飲んでしまえば、うちの負けだからね」
「それはどうなんだ?須藤が相手を殴ったのは事実だ。相手に譲歩をさせたんだから、そのタイミングで受け入れ妥協すべきだった」
神崎君は受け入れないことを選択したのは間違いだったと主張する。確かに彼の言うことは正しい。でもそれでは意味が無いのだ。
「そうだな。オレもそう思う」
「そう思うなら、お前が止めるべきだったんじゃないか?」
「再度話し合いに持ち込まれたらこっちの負けは必至だ。神崎の言うように完全無罪を勝ち取ることは
神崎君の主張に同意する綾小路君。彼の言う通り『完全無罪』は不可能だろう。それでも戦うのは何らかの手が残っているのということか。
その後、Dクラスの勝ち目はなくなったと言っているようなものであったが、一之瀬と神崎君は協力の継続を申し出てくれた。
しかし、その申し出を断る声が聞こえた。先に帰ったと思われた堀北さんであった。
「一之瀬たちの協力が必要ないってどういうこと?」
「話し合いの場では無罪は勝ち取れないからよ。けどその代わりと言っちゃなんだけれど……あなたたちに用意してもらいたいあるものがあるの。唯一の解決策のために」
「あるものって?」
一之瀬の返答に堀北さんは欲しいものの名前を口にする。唯一の解決策のために必要な物を。
それを聞いて一之瀬は硬い表情を見せる。それほどに用意してもらいたいものは予想外であり、難しそうなものだった。考え込む二人。決定打に欠けるのだろう。理由もなしにそんなものを用意するのは許容できないはずだ。
「堀北さん、それは何に使うのかな?それを聞かない限りは二人も返事が出来ないと思うんだけど」
「確かに倉持君の言う通りだわ。じゃあ、今から私が話すことに納得がいったなら協力して」
堀北さんは唯一の解決策だと言った詳細を僕たちに聞かせる。なるほど、そういうことか。
説明が終わり、少しの間沈黙が続く。考え込むしぐさを見せた後、一之瀬が口を開いた。
「それ……いつから考えてたの?」
「話し合いが終わる寸前よ。偶然の思い付き」
「凄い手だね。現場に足を運んだ私自身そのことは全く意識してなかった。というより想像の範疇になかったなぁ」
一之瀬が言う通り、あまり思いつかないようなものだった。素直にこれを考えついたのは凄いと思う。ただ、本当に堀北さんが偶然思いついたのだろうか。誰かにそこまで誘導されたのではないだろうか。
一之瀬たちには、しっかりと狙いと効果が伝わった。しかし、それでもまだ考えているようだ。
「想定外の発想。効果も、多分見込めると思う。だけど、そんなのってあり?」
「一之瀬の性格的に厳しいかもな。どうしてもこの作戦には『嘘』が絡むからね」
「あはは、だよねぇ……。好ましくは無いけど……確かにたった一つの方法かも」
「嘘から始まったこの事件に終止符を打てるのはやはり嘘だけ。私はそう思う」
目には目を、嘘には嘘を。堀北さんの作戦はそういったものだった。
また少し考え込んだ一之瀬がため息を漏らしながら口を開いた。
「はぁ、参ったなぁ。Dクラスに勇人君や高円寺君以外にも君みたいな子がいるなんて。ひょっとして今私たちがしようとしてることは、後々自分たちを追い込むことになるんじゃないかな」
「かもしれんな」
「うん、決めた。これは貸しだからね。いつか返してもらうよ」
「ええ、約束するわ」
一之瀬の了承を得て、堀北さんが安堵する。彼女の協力なくして、今回の作戦は実行に移すことができなかった。いい返事が聞けて良かった。
「それから、綾小路君、倉持君、あなた達にも手伝ってもらいたいことがあるの」
「うん、構わないよ」
「面倒なことでなければ手伝うぞ。じゃあ行ぐっ!?」
綾小路君が返事をして歩き出そうとした瞬間、その体が横に吹き飛ぶ。突然のことに皆啞然とする。一人を除いて。
「あなたが私の脇を触った件、これで許してあげる。だけど次は倍返しよ」
堀北さんが綾小路君の脇腹を蹴ったのだ。いったい、綾小路君は何をしてしまったんだよ。この一件で堀北さんの容赦のなさを再確認したのだった。
僕たちは、作戦の確認をしてから解散した。僕はそのまま寮に帰らず、ある人物に電話をかけた。呼び出し音が数回なった後、相手が電話に出た。
「もしもし、話があるんだけど今から会えないかな?」
僕は僕で佐倉さんが嘘をついていない証明をするために動く。たとえそれが堀北さんの意向に背くことになっても……。
次の日の放課後、あと30分で再審が始まる。僕は綾小路君と共に、教室を後にする。しかし、向かう先は生徒会室ではなく、特別棟だ。
「やっぱりここは暑いね」
「そうだな。早く終わらしたいとこだ」
「手筈通りなら、もうすぐだね」
そんな話をしていると、3人組の男子が暑い暑いと不満を漏らしながらもやって来た。僕らが待っていた人たちだ。
「……どういうことだ。なんでお前がここにいる。そっちのもDクラスの生徒だな」
「初めまして、Dクラスの倉持です」
「てめぇの名前なんてどうでもいいんだよ。何の真似だ?」
「お前らと話し合いがしたいんだよ」
「話し合いだと?そんなもの俺たちには必要ねぇよ。どう足掻いても真実は隠せねーんだよ。俺たちは須藤に呼び出されて殴られたんだ。暑いんだから面倒くさいことをするんじゃねぇよ」
露骨に嫌な顔をして、暑そうにシャツを掴み、パタパタと仰ぐ。だが、あいにく僕たちはそんな話をしに来たんじゃない。
「大人しく諦めることだな。じゃあな」
あまりの暑さに早々に引き返そうとする3人だが、もう一人の存在がそれを邪魔した。
「観念した方が良いと思うよ、君たち」
「い、一之瀬!?どうしてお前がここにいるんだよ!」
「どうしてって、私もこの件に一枚噛んでいるからかな?ね、勇人君」
「僕に振るな。それにしてもお前は有名人みたいだな」
「そんなことはないよー。Cクラスとは何度か色々あっただけ」
僕らが知らないところでやり合っていたのか。おそらくCクラスの連中からちょっかいを出されていたのだろう。
Cクラスの生徒は一之瀬の登場に明らかに取り乱していた。必死に一之瀬を追い払おうとしていた。そんなことはどこ吹く風、一之瀬はバッと右手を広げ、高らかに宣言する。
「えーい、そろそろ年貢の納め時だよ!今回の事件、君たちが嘘をついたこと。最初に暴力を振るったこと、全部お見通しなんだよね。それを明るみにされたくなかったら今すぐ訴えを取り下げるべし」
「は? 訴えを取り下げろ? 笑わせんなよ。何寝ぼけたこと言ってんだ。俺たちは須藤に一方的に殴られたんだよ」
「はぁ、もう少し頭を使った方がいいんじゃない?この学校が日本でも有数の進学校で、政府公認だってことは分かってるんだよね?」
「当たり前だろーが。それが狙いで入学してんだからよ」
相手を煽るように話す。Cクラスの3人がイライラしてきているのが手に取るようにわかる。
「だったらさ、今回の事件を知った学校側の対応、随分とおかしいと感じなかった?」
「あ?どういうことだ」
「君たちが訴えを学校側に出したとき、どうしてすぐに須藤君を罰しなかったのか。猶予を与えて、挽回するチャンスを与えたのか。その理由は何だろう?」
「そりゃ須藤が学校側に泣きついたからだろ」
「本当にそうなのかな? 本当は別の狙い、目的があったんじゃないかな」
「わけわかんねぇ。あーくそ暑ぃ」
窓を閉め切った廊下は、太陽に照らされ蒸し暑くなっていく。それに伴い、集中力が低下していく。さらに苛立ちも加わり、冷静な判断ができなくなる。
それを分かってかどうか、3人はこの場を離れようとする。
「もう行こうぜ。こんなところに居ても意味はない」
「いいのかな? もし君たちがここを離れたら、一生後悔するかもよ?」
「さっきから何なんだよ、お前ら!」
「分からないなら教えてあげるよ。学校側はね、知っているんだよ。君たちが嘘をついていることを。それも初めから」
Cクラスの面々が僕の言葉に固まる。予想だにしていない言葉に理解が及んでいないのだろう。それでも何とか正気を取り戻したリーダー格の石崎君が反論する。
「俺たちが嘘をついてる?それを学校側が知ってるだと?笑わせんじゃねーよ」
「あはははは。ホント、笑わせないでほしいよね。君たちはずっと手の平で踊らされてるんだから」
「そんな嘘は通用しねえ!」
「そう?でも確実な証拠があるんだよね」
「はっ。だったら見せてくれよ、その証拠とやらをよ」
食いついた。証拠がないと確信しているからこそ乗ってきたのだろう。でもそれが敗北につながる。ここまできたらもう、終わりだ。
「君たちにはアレ、見えないかな?」
僕が指をさした先。そこにCクラスの面々も視線を向ける。そこを見て、あるものを発見した瞬間、顔は青ざめ間抜けな声を出す。
「……へ?ば、な、何で
僕が指をさした場所には特別棟の廊下を、隅から隅へと監視するように、時折左右に首を振る監視カメラがあった。
「ダメじゃない。誰かを罠にハメるならカメラのないところでやらなきゃ」
「俺たちをハメようったってそうはいかないぜ。アレはお前らが取り付けたんだろ!」
「後ろ見てみたら?カメラは一台だけじゃないよ?もし私たちが取り付けたんだとして、あっち側まで用意するかな? と言うか、そもそも監視カメラなんて学校から出られない状況でどうやって用意するの?」
「そんなはずはねぇ。廊下にはカメラはないはずだ!」
「知らないのか?職員室と理科室の前には例外的に設置されているんだぞ」
逃げ道を少しずつ潰され、石崎君たちは反論する言葉を失う。あと少しだ。
「そ、そんな馬鹿な……そんな、俺たちはあの時確認した……はず」
「本当に3階だったのかな?別の階を調べたんじゃない?だってここにはカメラがあるんだから」
「それに君たち、自分自身でボロを出してるって分かってる?監視カメラがあるかないかなんて普通の人は気にしないし確認なんてしないよ。自分たちが犯人だって認めてるようなものだよ」
一之瀬のとどめの一言に3人は頭を抱えるようにしてふらついた。体中に大量の汗をかきながら。
「じゃ、じゃあ……あの時のも、まさか……」
「音声はないにしても、君たちが殴りかかった瞬間は写っているだろうね」
「本当は、学校も待ってるんじゃないか?お前らが本当のことを話してくれるのを。だから生徒会長自ら審議に参加してたんだろ。今思い返したら、全て見抜かれていたと思わないか?」
綾小路君の言葉を聞いて、3人は昨日のことを思い返しているだろう。もちろん、嘘を見抜かれていたなんて事実はない。しかし、生徒会は中立の立場として、C,Dどちらも疑っていたはずだ。それが自分たちだけに向けられていたと思い込むには十分だろう。
「何でオレ達がわざわざお前らに教えると思う?それはな、この事件は起こった時点で、双方が痛みを負うことが確定しているからだ。どちらが先に仕掛けたにしても、結局は罰を受けるんだ。それじゃ、うちも困るんだよ。悪い噂が一つでも残ればレギュラーの座は危ない。大会にだって簡単には出られないだろう」
「何だよそれ。じゃあお前らだってカメラの映像は困るんじゃねえか。だったら俺たちはこのまま何もしなくていいんだ。須藤を停学にできればそれでいいんだからよ」
「へぇー、君たちは退学が怖くないんだ」
「は?退学……?」
頭が回り切ってないようだな。そんな簡単なことも分からないのか。
「君たちは3人がかりで嘘の供述をしたんだ。停学なんかで済まされるとは思えないよ」
「じゃ、じゃあ、何で学校は俺たちに何も言ってこないんだよ!」
「学校側は試してるんだよ。私たち生徒間で問題を解決できるのか、どんな結論を導き出すのかを試してるだね。この学校らしいね」
逃げ場がなくなった3人は慌てだす。それほど退学と言う二文字は大きなものなのだ。
「お前らに最後のチャンスを与えてやる。両方を救う方法だ。それは訴えそのものを取り下げるんだ。訴えが無くなれば誰も処罰を受けることはない」
堀北さんの唯一の解決策。それが訴えそのものを取り下げさせることだ。Dクラスが無傷で終わることは事件が存在している以上、ありえない。それなら、事件そのものが存在しなければいい。
「……一本、電話をさせてくれ」
石崎君が最後の悪あがきをする。龍園くんに電話をして指示を仰ぎたいのだろうが、そんなことはさせない。ここで考える時間は与えない。勝負を決着させる。
「残念だよ。交渉は決裂したみたいだね」
「そうみたいだな。今すぐ学校側に映像の確認をしてもらって、こいつらを退学にしてもらおう」
僕たちはもう話すことはない、といった感じで踵を返す。これでチェックメイトだ。
「まっ、待ってくれ!わかった……取り下げる……取り下げれば、いいんだろ……!」
「分かってもらえてよかった」
これで堀北さんの作戦は成功した。あとは生徒会室で彼らが取り下げる旨を申告すれば、取り敢えずは終わりだ。
連絡を取られないように注意しながら、僕たちは生徒会室へ向かった。
生徒会室の前につくと、もうすでに堀北さんと須藤君は来ていた。そして、2人だけでなく、他にもDクラスの生徒がそこにはいた。
「あ!倉持君っ、言われた通り佐倉さんを連れてきたよ」
「ありがと、軽井沢さん。ごめんね佐倉さん、呼び出しちゃって」
「ううん、大丈夫。だけど、私はなんで呼ばれたの?もう、証言は必要ないんだよね?」
「そうなんだけどね……っと、来た来た。生徒会長!」
2人と話していると、生徒会長が現れた。まずはこの人に了承を得ないとな。
「何か用か?」
「お願いがあるんですが、再審に僕と佐倉さんも同席して構いませんでしょうか?あと、これを」
僕は同席のお願いをするとともに、一枚の紙を生徒会長に渡す。それを見た生徒会長の眉がかすかに動いた。
「別に構わん。今更2人増えても変らんからな。それと、これは受理しておこう」
「ありがとうございます」
「どうなるのか見させてもらおう」
そういって生徒会長は生徒会室へ入って行った。もうすぐ再審が始まるし、僕たちも入っておこう。
「それじゃあ、行こうか佐倉さん」
「え?え?どういうこと?」
理解が全くできていない佐倉さんの手を引っ張り、入室する。そのまま堀北さんの横に座った。僕の姿を見た堀北さんと茶柱先生が何か言いたそうだったが、すぐに再審が始まったため、口を開くことはなかった。
「ではこれより昨日に引き続き審議の方を執り行いたいと思います。着席してください」
生徒会の生徒、橘先輩が着席を促す。しかし、Cクラスの生徒は一歩も動くことなく、坂上先生の前で立ちすくんでいた。
「あの……坂上先生。この話し合い、無かったことにしていただけませんか」
約束通り、石崎君が訴えの取り下げを申し出る。坂上先生が説得を試みるも、石崎君たちが考えを変えることはなかった。審議取り下げにはある程度諸経費としてポイントを収めることになることを生徒会長に聞いて、少し動揺するが、直ぐにそれを受け入れた。
「では話し合いは終わりだ。これでこの審議を終わりにさせて貰おう」
何とも呆気ない幕切れだった。これで終わりだと席を立つ面々だったが、生徒会長の次の言葉で動きを止めた。
「それでは
「もう一つの審議だと?どういうことだ?」
坂上先生が生徒会長に問う。それはここにいた全員の疑問だろう。僕を除いて。
「先程、新たな訴えを受理した。今回の件と関係が深いのでこのままそちらに移らせて貰う」
「新たな訴えだと?なんだそれは」
「佐倉愛里に対する坂上先生の不適切な発言についてだ」
「なっ!?」
生徒会長が発表した議題に生徒会室が騒然とする。坂上先生は予想だにしていないものに驚きながらも生徒会長に詰め寄る。
「堀北、どういうことだ。誰がそんなふざけたことを……」
「坂上先生、着席を。審議は始まっています」
「くっ……」
もう既に始まっているとあれば、全ての行動や発言が不利になりかねない。それを理解した坂上先生は渋々席に座った。
「では始めるとする。まずは訴えを説明してもらおう」
「はい、分かりました」
全員が驚いた顔で僕に注目する。さぁ、ここからが僕の戦いだ。
「訴えの内容は先ほど会長が言った通りです。前回の審議会での佐倉さんに対する坂上先生の発言は教師として、あるまじきものでした。その言葉に佐倉さんは精神的に痛めつけられました。それに伴い、坂上先生に何らかの罰則を求めるものであります」
「ちょっと待ちなさい!私はそのような発言はしていない」
「そうでしょうか。かなり執拗に責めていたと聞きました。それに審議終了後にも『君の嘘が、大勢の生徒を巻き込む結果になったことは反省してもらいたい。それと、泣けば許されると思っているのなら君の策略は実に愚かしいことだよ。恥を知りなさい』と仰っていましたよね?」
「そ、それは、彼女が嘘をついていたから教師として注意をしただけです」
それだ。坂上先生は佐倉さんが嘘をついている前提で発言していた。だから、それを崩せばいい。
「佐倉さんが嘘をついていた確証はあるのですか?もし、彼女が全て本当の事を話していた場合、坂上先生の発言は問題なのではないでしょうか?」
「確証?そんなもの彼女の態度を見ていれば分かる。そもそも、彼女が本当のことを言っていた確証もないでしょう。時間の無駄です。もう終わりにしましょう」
「嘘をついていないと証明すればいいんですよね?」
「そんなものできるわけがないでしょう。前回にそう結論がでたはずです」
確かに前回は佐倉さんの証言が真実だと認められることはなかった。だけど今回は違う。そこを認めさせればいい。
「生徒会長、新しく証人を呼んでもよろしいでしょうか?」
「証人だと?」
「入室を許可する」
「では、お願いします」
僕の言葉に生徒会室のドアが開かれ、生徒が入室してくる。その生徒はゆっくりとした足取りで、生徒会室の中央へ来る。
「皆さんごきげんよう。1-Aの坂柳有栖です」
杖をつきながら綺麗にお辞儀をした坂柳さんは不敵に笑った。
最近、執筆意欲が湧かなくなってきてしまっています。
もしかしたら今まで以上に更新の頻度が下がるかもしれません。
次回で2巻の内容が終わると思います。