唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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お久しぶりです。
約2か月ぶりの投稿となりました。
一応、区切りの良い所までは連載を続けたいと思っています。それからはまだ分かりません。

感想、評価、お気に入りありがとうございます。
とても励みになります。


綻び

 

 

 

 修羅場とは元々、インドの神話で阿修羅と帝釈天との争いが行われたとされる場所である。それが転じて激しい闘争の行われている場所や、それを連想させる状況を指す。日本では痴情のもつれが原因の争いに対して使われることが多い。

 

 いやいや、僕はこの状況で何を考えているんだ。別に痴情のもつれとかじゃないし。そもそも陽は僕に恋愛感情はないだろうし、軽井沢さんも僕と恋人のふりをしているだけなのだからもつれようがない。

 

 だけど間違いなく変な誤解をされているのは確かだ。軽井沢さんの冷ややかな声と目がそう語っている。佐倉さんに至っては顔を真っ赤にしてあたふたしている。何で君が慌ててるんだよ。

 

 兎にも角にも誤解を解いておかなければ後々面倒だ。そう思い事情を説明しようとした僕より先に声を発したのは陽だった。

 

「何をしてるかって、見ての通りっすよ?……にひっ」

 

 陽は軽井沢さんを挑発するかのように僕に抱き着きながら言う。ちょっと待て、何でそんな事態がややこしくなるような事を言うんだよ。軽井沢さんの表情が更に険しくなったじゃないか。後ろにいる佐倉さんは更に顔を赤くしている。

 

「誤解されるようなことを言わないの」

 

「あいたっ」

 

 僕に抱き着いている陽の頭に軽くチョップを入れる。陽が頭を抑えたことにより拘束が外れたので起き上がって体勢を変える。

 

「意外とこの子は冗談が好きなんだよ。実際はそこの木の根っこに躓いて転んだだけだよ」

 

「ふーん。ホントにー?」

 

 ジト目でこちらを見てくる。あれ?僕って意外と信用されてない?ちょっと悲しくなってくるぞ。

 

「えっと、信じてもらえると嬉しいかな」

 

「……ぷっ。冗談だよっ。倉持くんのことだからそんな事だろーと思った」

 

「信用されているようで安心したよ」

 

「まぁ、倉持くんに女の子を襲う度胸があるとも思えないしね」

 

 その信用のされ方はいかがなものだろうか。なんにせよ簡単に誤解が解けてよかった。

 

「あうー。痛いっすよ、勇人君」

 

「ややこしくなるような事を言った陽が悪い」

 

「自分、嘘はついてないっすよ」

 

「嘘はついてなくても言い方があるでしょ」

 

「日本語って難しいっすねー」

 

 陽は顎に手を当てて首を傾げる。しかし、口元はにやけたままだった。

 

「今ので確信した。絶対わざとだね」

 

「そ、そそ、そんなことないっすよ?」

 

「動揺が分かり易すぎ」

 

「自分の動揺を見抜くとはさすが勇人君っすねー」

 

「それ、僕のことバカにしてない?」

 

「そ、そそ、そんなことないっすよ?」

 

「そこは動揺しないでよ」

 

 そこで動揺されるとバカだと言っているようなものじゃないか。

 

「ちょっと待って」

 

 そんな他愛のない会話をしていると、軽井沢さんが僕の腕を引いた。振り向いてみると、その表情には先程までの笑顔は消えていた。ただ、怒りの表情でもなかった。

 

「なんで御影さんと名前で呼び合ってるわけ?御影さんと仲良かった?」

 

「へ?あー、陽が下の名前で呼んで欲しいって言うからさ。御影さんとまともに話したのは今日が初めて、かな」

 

「それにしては仲良さげじゃん」

 

「そうかな?普通だと思うけど……どうしたの?」

 

 先程から軽井沢さんの様子がおかしい。別に怒っているわけではない。今の軽井沢さんの感情を言葉にするなら……

 

「軽井沢さんは、何を『焦って』いるんすか?」

 

「っ!」

 

 陽が発した質問に軽井沢さんが目を見開く。陽が言った通り、軽井沢さんには『焦り』がみえる。『怒り』や『嫉妬』などではなく『焦り』なのだ。何故このタイミングで、何に対して『焦って』いるのだろうか。

 

「べ、別に焦ってなんかないし!意味わかんないんだけど!」

 

「す、すいませんっす!変なこと言ってしまって……」

 

 急に大きな声を出した軽井沢さんに陽が萎縮してしまう。

 

「軽井沢さん、何かあったのなら教えて欲しい。僕にできることがあるかもしれないし」

 

「べ、別に焦ってないって言ってんじゃん!倉持くんは御影さんのかた持つんだ」

 

「そういうわけじゃない。ただ、僕にもそう見えただけで……」

 

「もういいから。あたしのことは放っといて。いこ、愛里」

 

「え、あ、あの、し、失礼しましゅ」

 

「ちょっと待ってよ軽井沢さん!」

 

 僕の制止の声は届かず、二人は森の奥へと行ってしまった。

 

「いったいどうしたって言うんだよ」

 

「……やっぱり、勇人君には相応しくないっすね」

 

「ん?なんか言った?」

 

「いやいや、何でもないっすよ。まぁ、乙女には色々あるってことっすよ。……にひっ」

 

 いわゆる女心というものなのだろうか。そうだとしたら僕には手に追えそうにないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々と気になることはあるが、とりあえずは探索を再開した。高円寺と綾小路君を追いかけようにもどっちに行ったのか分からないので僕と陽の二人で探索を続けることにした。あの二人なら何かあっても大丈夫だろう。気がかりなのは高円寺が問題を起こしてないかだけだが、考えないようにしよう。

 

「どうしたんすか、難しい顔をして」

 

「男の子にも色々とあるんだよ」

 

「それは、大変っすね」

 

「うん、お互いにね」

 

 しかし、森の中を歩きながら見ていると何個か気になることがでてくる。一番の疑問はここが本当に無人島なのかだ。それは人が住んでいるかいないという話ではなく、自然にできたものなのかどうかだ。そもそもこれだけ森の中に居て野生の動物を全く見ていないし、植物も毒性のあるようなものが全く生えていない。もし試験のためだけにこの無人島を作り上げたのだとしたら、すごいことだ。

 

「勇人君はどういうスポットを拠点にするのがいいと思うっすか?」

 

「そうだなー、取り敢えずは雨風がしのげる場所かな。それから周りから見えないような場所がベストだろうね」

 

「拠点となるスポットを占有し続けるためにはカードキーを使う必要があるっすもんね」

 

 8時間に一度、占有権はリセットされる。その度にリーダーがカードキーを使って占有しなければならない。拠点となれば占有をし続けなくてはならないだろう。そうなると自然と他クラスにリーダーがばれるリスクが高まるのだ。つまり、周りから見えないようなところ、例えば洞窟などがベストな場所だと言える。

 

「あとはポイント消費を抑えることができる水辺付近だね」

 

「飲み水なんかを代用できれば節約につながるっすね」

 

「もっとも、クラスの皆が川の水を飲むことを許容すればの話だけどね」

 

「あー、それはまぁ、あはは」

 

 陽が苦笑いするのも無理はない。先程のトイレの一件をみていれば嫌でも想像がつく。協調性の無さは学年一だろうな。

 

「ん?ここだけ道ができてるっすね」

 

「本当だ。これが学校側が作ったんだとしたら」

 

「スポットがあるかもっすね」

 

 森を進んでいると、人が切り開いたと思われる道が姿を現した。ここだけ整備してあるのだとしたら何かがあるのは間違いないだろう。陽と二人で早歩きで道を進む。

 

「あったっすねベストな場所」

 

 程なくして見えてきた場所を陽が指をさす。その指の先には山の一部に大穴が開いた空間があった。そう、洞窟だ。

 

「さっそく中をみてみましょうっす」

 

「うん……いや、ちょっと待って」

 

 洞窟手前の茂みに視線を向けると綾小路君が身を隠していた。それをみてすぐにその意図に気付く。

 

「陽、しゃがんで」

 

「ほえ?」

 

 僕の言葉に疑問を覚えながらも、陽は僕に続いてその場にしゃがみ込む。

 

「どうしたんすか?」

 

「洞窟の入り口から誰か出てくる」

 

「あ、本当っすね」

 

 洞窟の中から出てきたのは男子生徒だった。入口から出てきた男子生徒はその場で立ち止まり佇んでいた。

 

「あれは葛城君か」

 

「葛城?勇人君の知り合いっすか?」

 

「いや、直接話したことはないよ。Aクラスのリーダー的存在ってことぐらいしか知らないかな」

 

 坂柳さんとAクラスを2分するのが葛城君だ。聞いた話によるとかなり頭がいいそうだ。

 

「は、勇人君。あの人が持ってるのって」

 

「ここからじゃよく見えないけどカードキーの可能性はあると思う」

 

 葛城君はカードキーのようなものを持っていた。すると葛城君に続いてもう一人男子生徒が洞窟から姿を現した。おそらくAクラスの生徒だろう。

 

「ここからじゃ聞こえないっすね。もう少し近づいてみるっすか?」

 

「いや、聞こえる位置に動くのもリスクが高いからね。このままやり過ごすのが得策かな」

 

「了解っす」

 

 二人の話が聞こえなくても問題はない。聞こえる位置に綾小路君が隠れているからだ。葛城君たちは少し話した後、どこかに行ってしまった。完全に居なくなったのを確認してから綾小路君の所へ向かった。

 

「やっほー綾小路君」

 

「ああ、倉持と御影か」

 

「どうもっす。それで綾小路さん、さっきのハゲの人が持ってたのってカードキーっすか?」

 

 ハゲの人って、せめてスキンヘッドと言ってあげて欲しい。

 

「恐らくそうだろうな。会話を聞く限り、葛城ってやつがそこの洞窟を占有したみたいだ」

 

「占有したんだとしたら見張りが立っていないのは変だよね。他のクラスに横取りされるかもしれないのにさ」

 

「それはオレも思った。中に入れば何かわかるかもな」

 

「それでは行ってみましょうっす」

 

「……御影ってこんなキャラだったか?」

 

「すぐに慣れるよ」

 

 中に入ると葛城君たちが放置していった理由が分かった。壁に端末装置のようなものが埋め込まれていたからだ。

 

「7時間50分、Aクラス……これってスポットの所有の証明みたいなものっすかね」

 

「その通りだろうな。カウントが0になるまではオレたちは手出しができない。強引な手段も取れないって訳だ」

 

「それじゃあやっぱりハゲの人がリーダーってことっすかねー」

 

 この洞窟には他に人は見当たらない。僕たちが洞窟に到着したのはスポットが占有された時間とほぼ同時だ。その後に洞窟から出てきたのは葛城君と綾小路君が教えてくれた弥彦と呼ばれていた生徒だけだ。となると自然と葛城君がリーダーだということになる。

 

「二人ともこの事は取り敢えず誰にも言わずに留めておいて欲しい。いまは余計に混乱するだけだと思うから」

 

「もちろんっす。それに心配しなくても話すような友達はいないっすから」

 

「オレも同じだ。友達がいたら今頃こんなところにはいない」

 

「その反応に困る理由は止めてくれないかな」

 

 説得力があるという面では安心できるんだけどね。

 

「そろそろ集合の時間だね」

 

「ああ、戻ろうか」

 

「目に見える成果はなしって感じっすね」

 

「まぁ他のグループに期待しよう」

 

 僕たちは洞窟を後にし、集合場所と決めていた場所に向かった。

 

「そういえば、高円寺は?」

 

「ああ、あいつなら木の枝を飛び移りながらどっかいったぞ」

 

「高円寺さんは実はターザンだったりするんすか?」

 

「いや、高円寺は高円寺だよ」

 

「よく分からないっすけど、分かった気がするっす」

 

「あいつのことは深く考えたら負けだからね」

 

 常識では決して語れないのが高円寺なのだ。

 


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