デスとハイエロファントの物語:REBOOT   作:桁石スミオ

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「マジカルドロップⅢ」「マジカルドロップポケット」「マジカルドロップV」デスとハイエロファント主役。「V」のデスのエンディングからの物語。
 登場人物:デスとハイエロファント、ジャスティス
 注:台本形式読み物です。

 pixivにも、同一内容を投稿しております。
 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8347564


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恋せよ死神 ―コイセヨヲトメ― 【第1話】

デスとハイエロファントの物語:REBOOT

【 恋せよ死神 ―コイセヨヲトメ― 】

 

★ 森の奥・デスの住居

 

 薄暗い洞窟の奥。開けた空間。

 ランタンのオレンジ色の光が満ちる。

 小振りな岩に腰を掛け、左手にマジカルドロップが詰まった壜を持つデス。

 暫く感慨深げに見詰め、それから、キュッ、と蓋を外す。

 一粒だけ取り出し、再度蓋を閉め、壜を横に置く。

 じっ、とドロップを凝視するデス。

 

デス《あたしの願い・・・あたしは・・・あたしの運命を変える!》

 

 瞳を閉じるデス。

 脳裏に浮かぶ、ある男性の姿。

 目を開け、右手でドロップを高々と掲げる。

 

デス「あたしは・・・(凛とした声で)恋に生きたい!」

 

 途端。

 パアアアッッッ!と大きく光を放つドロップ。

 驚く顔のデス。光は更に膨れ上がり、デスを飲み込んで空間全体に広がる。

 そして瞬時に小さくなり、デスの身体に纏わり付くように覆う。

 少しの時間、ぼんやりと光を放つデスの身体。

 やがて、フッ、と輝きが消え、通常の状態となる。

 沈黙。

 沈黙。

 立ち上がり、身体のあちこちに目線を投げ、二、三度両手を握り開くデス。

 

デス《・・・何も変わった感じがしないが・・・》

 

 再び、デスの脳裏に同じ男性の姿が浮かぶ。

 直後、ドクン!と跳ね上がる心臓。そのまま鼓動が速まる。

 

デス《ハイエロファント・・・》

 

 頬に赤みが差し、熱を帯びるデス。

 より明確に、鮮やかに、ハイエロファントの顔を思い浮かべる。

 

デス《ハイエロファントは・・・今、何をしてるんだろう・・・》

 

 右手の人差し指を口元に当て、少し俯くデス。

 艶やかな眼差しを前方に向ける。

 

デス《(切なげに)神殿に行けば逢える・・・かなぁ・・・》

 

 考え込むような仕草で腕を組み、瞼を閉じるデス。

 暫くの間、そのまま立っている。

 

デス《行ってみるか・・・いや・・・着替えようかな・・・んー・・・どうしよう・・・》

 

 デス、眉を寄せ、辺りを歩き回り始める。止まることなく何度も何度も行ったり来たりする。

 突然。

 くらぁ、と眩暈を覚えて立ち止まり、ガクッ、と膝を着くデス。

 はああぁ、と盛大に息を吐き、すぐにゼエゼエと荒い呼吸を繰り返す。

 

デス「(息が上がって)・・・あ、頭が痛い・・・『恋に生きる』のがこんなに難しいとは・・・」

 

 

★ 神殿・ハイエロファントの居室

 

ハイエロファント「よく来てくれたね。今、お茶淹れるから、座っててよ」

デス「(薄く頬を染め)あ・・・ああ」

 

 笑顔をデスに向けて、椅子から立ち上がり、横の机に載ったティーポットを手にするハイエロファント。

 その仕草を、じっ、と見詰めながら、大鎌を扉の横に立て掛け、書斎机の前にある背凭れのある椅子に座るデス。

 それから、右手側にある大きな窓越しに外の景色に目をやる。

 

デス《結局逢いたいから来ちまった・・・》

 

 手際よくハーブティーを淹れるハイエロファント。

 程なくして、二客のティーカップに茶を注ぎ、トレーに乗せる。

 ゆったりとした動作でトレーを運び、一客をデスの前、書斎机の上に置く。

 

ハイエロファント「どうぞ」

デス「ああ・・・」

ハイエロファント「それで、相談って?」

デス「その前に、これを見てくれ」

 

 懐から、マジカルドロップの入った壜を取り出し、コト、と書斎机に乗せるデス。

 もう一客のカップを自分の椅子側に置き、トレーを横の机に戻すハイエロファント。

 ドロップの壜を目にして、驚いたような表情となる。

 

ハイエロファント「これって・・・マジカルドロップ?」

デス「(頷いてから)そうだ」

ハイエロファント「凄いね。手に入ったんだ」

デス「この間、フォーチュンに対戦を挑んだ。(右手を一度握り、すぐに広げ)辛勝だったがな」

ハイエロファント「フォーチュンか・・・暫く会ってないなぁ」

 

 一度目を閉じ、懐かしむような顔になるハイエロファント。

 

ハイエロファント「お願いは、したの?」

デス「(頬を染め)一応、した・・・」

ハイエロファント「何て? 差し支えなかったら聞かせてくれるかな?」

 

 一瞬、ぐっ、と息を飲み、何かを言い淀んだようなデス。

 少しの、間。

 デスが、ふうう、と長めに呼吸をして、決意を漲らせた視線をハイエロファントに向ける。

 

デス「あたしは・・・(一呼吸置き、弾みをつけて)恋に生きることにした!」

 

 ビクッ、と僅かに反応したハイエロファント。

 すぐに笑みが消え去り、無表情となる。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 

ハイエロファント「(抑揚のない声で)・・・そう・・・」

 

 未だ表情が固まったままのハイエロファント。

 沈黙。

 長い、沈黙。

 

デス《・・・流石に意外過ぎたんだな・・・無理もない。死神が恋、だからな》

 

 ハーブティーの注がれたカップを口元に運び、香りを嗅ぐデス。

 茶を一口含み、飲み込み、受け皿に戻す。

 尚も動かないハイエロファント。

 更に、沈黙。

 デス、軽く頬を掻き、ハイエロファントの瞳を覗き込むように、少し前に屈む。

 

デス「話、続けても大丈夫か?」

ハイエロファント「(ハッ、と我に返り、慌てたように)あ、う、うん、いいよ。ごめんね」

 

 一度視線を泳がせ、姿勢を正してからデスに視線を送るハイエロファント。

 

ハイエロファント「それで・・・ドロップにはどう言ってお願いしたの?」

デス「(再度、頬を染め)・・・嗤うなよ」

ハイエロファント「嗤う訳ないよ(静かに微笑む)」

デス「(ふう、と息を継ぎ)『あたしは、恋に生きたい』と・・・言った」

ハイエロファント「なるほど(二度、頷く)」

デス「願いをした時、ドロップは一度大きく光ってから消えた。だが・・・自分に変化が起きた感じがしない。本当に願いが叶ったのかどうか、判らなくなってな」

ハイエロファント「ひとつ、質問していいかな?」

デス「何だ?」

ハイエロファント「君が『恋に生きたい』って願ったのは・・・好きな人がいるからなの?」

デス「(ボフン!と一気に顔を上気させ)そ! そそそそそそれは! その! 何だ! あの・・・」

 

 口をパクパクさせて、固まるデス。

 暫くの、間。

 段々と顔を伏せ、赤くなったままで、コクン、と大きく頷くデス。

 それを見て、口元に柔らかな笑みを浮かべ、優しい眼差しを彼女に向けるハイエロファント。

 

ハイエロファント「(見詰めたまま)願いを掛ける前から、好きだったの?」

デス「(赤面して顔を伏せた状態で)ま・・・まあ・・・な・・・」

ハイエロファント「願いを叶えてから、気持ちで大きく変わった感じとか、ある?」

デス「うーん・・・(目を閉じ)無性に逢いたくなったとか、何着ていくかとか、考え過ぎて頭痛くなったとか・・・そんな感じには、なった」

 

 再度、頷くハイエロファント。それから僅かに首を傾げる。

 

ハイエロファント「その人に、気持ちは伝えないの?」

デス「(バッ、と思い切り顔を上げ、真剣な表情で)そんなの出来るか!」

ハイエロファント「え? どうして?」

デス「お前な、考えたらすぐ解るだろ・・・あたしは死神だぞ。死神に想われてる、と知らされて、悪感情を持たない奴がこの世にいると思うか? 厄介者と呼ばれ、忌み嫌われ、誰からも恐れられ、腕のある者には斃すべき対象として扱われる・・・それがあたしだろ?」

ハイエロファント「(首を左右に振り)それは、違うと思うけどね」

 

 ふう、と息を継いで、真剣な眼差しをハイエロファントに向けるデス。

 

デス「お前は、ちゃんとあたしの話を聞いてくれる。だから話した。だが他の奴には言えない」

ハイエロファント「それでいいの? 気持ちを伝えると、もっと良い関係になれるかも知れないよ」

 

 デス、少しの間、眉を寄せて目線を落とす。

 そして顔を上げ、一度大きく頭を振る。

 

デス「(静かで、重めの口調で)・・・どう考えても、お前の言う良好な関係になどなりそうもない。煙たがられ、嫌悪されて終わりだ。だったら何も伝えない。あたしが勝手に想っている方がマシだ。この世界の誰から疎ましいと思われても構わないが、そいつにそう思われたら・・・(目を伏せ)流石に応えそうだ」

ハイエロファント「そう・・・」

 

 ハイエロファント、自分のカップを持ち上げ、茶を啜る。

 カチリ、と受け皿に戻し、穏やかな表情をデスに向ける。

 

ハイエロファント「確かに、ドロップは願いを叶えてくれたみたいだね」

デス「(思わず顔を上げ)えっ?」

ハイエロファント「君は、その人のことを最優先に考えてる。逢いたくて仕方ないとか、逢う時の服で悩んだりとか、考え過ぎると自分で思うくらい考えてる。その上、君自身の気持ちを引いてでも、大事に思ってる。これはもう充分に『恋に生きてる』んじゃないかな?」

デス「そうか・・・(一度頷き)確かに以前は、こうまで考えてなかった。これが『恋に生きてる』ことか・・・」

 

 宙に目線を投げ、落ち着いたような顔を見せるデス。

 

デス「(顔を上げ、ハイエロファントを見詰め)納得した。お前の言う通り、どうやら願いは叶っていたらしい」

ハイエロファント「(遠くを見るような眼差しで、微笑んで)良かったね、デス」

 

 フッ、と少し笑みを浮かべるデス。

 右手側にある窓の外を一度見て、再びハイエロファントに目を向ける。

 

デス「そろそろ戻るとする。邪魔したな」

ハイエロファント「ううん、大丈夫。また来てよ」

 

 デス、椅子から立ち上がり、踵を返す。

 扉の近くに立てていた大鎌を持ち、柄を肩に掛ける。

 ハイエロファントも立ち上がり、ふと机の上を見て、ハッ、と気付き、ドロップ入りの壜を持つ。

 

ハイエロファント「デス、忘れ物だよ」

デス「(振り返って)それはお前にやる。あたしの話をちゃんと聞いてくれた、せめてもの礼だ」

ハイエロファント「え? そんな、受け取れないよ。(壜を差し出し)まだ他の願いも叶えられるよ」

デス「(口元に笑みを浮かべ)・・・もう充分叶った。それに、お前ならもっと有意義に使えるだろう」

ハイエロファント「でも・・・」

 

 向き直り、右腕を伸ばし、掌をハイエロファントに掲げ、ゆっくりと首を左右に振るデス。

 ハイエロファント、それを目にして、大きく息を継いでから小さく頷く。

 

ハイエロファント「それじゃ・・・預かる、ってことにしておくよ。ドロップを使いたくなったら、いつでも来てね」

デス「使うことはないだろうが、また来る」

 

 居室の扉を開け、廊下に出ようとするデス。

 小走りに彼女に近寄り、背中を見詰めるハイエロファント。

 扉から出た途端、急にデスが立ち止まる。 

 

デス「(振り返りながら)ひとつ、聞いていいか」

ハイエロファント「何?」

デス「お前は・・・『恋に生きた』ことがあるか?」

 

 チラ、と一瞬手にした壜の中のドロップを見るハイエロファント。

 すぐに視線を外し、目を伏せる。

 

ハイエロファント「(少し沈んだ声で)まだ・・・かな」

デス「そうか・・・」

 

 

★ 森の道

 

 陽が傾き始めた森の道を、大鎌を肩に掛け、歩くデス。

 寂し気な笑みを、口元に湛えている。

 

デス《これでいい・・・気持ちを伝えなくとも・・・逢ってくれればいい・・・ハイエロファントが逢ってくれて、話を聞いてくれて、笑顔をみせてくれれば・・・それでいい》

 

 顔を伏せ、切なげな眼差しを前方に向ける。

 

デス《(自嘲気味に)滑稽なひとり芝居だ・・・でも・・・それでも・・・このひと時を失うより、百万倍マシだ》

 

 そして、何かを振り切るように、バッ、と顔を上げる。

 

デス《あたしごとき死神が、これ以上高望みしてはいけない》

 

 

★ 神殿・ハイエロファントの居室

 

 夕陽が差し込む中、扉に背を向け、書斎机の前に立つハイエロファント。

 顔を伏せ、デスが使ったカップを、焦点の合わない目で見ている。

 

ハイエロファント《デス・・・好きな人・・・いるんだ・・・》

 

 そのまま、何もせず立ち竦む。

 暫く経って、緩慢な動作でトレーを引き寄せ、受け皿とカップを乗せるハイエロファント。

 皿から手を離さずに再度動きを止め、両眼を閉じ、手に、ぐっ、と力を込める。

 

ハイエロファント《・・・幸せになってもらわなきゃ・・・ね・・・》

 

【 第2話へ 】

 

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