デスとハイエロファントの物語:REBOOT   作:桁石スミオ

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目覚めよと、呼ぶ声が聞こえ 【第3話】

★ 荒野

 

 両手を、ブン! ブォン!と交互に、前方を掻くように振るタワー。

 その合間を軽やかに跳ねて、まるで踊るようにそれを躱しているジャスティス。

 その度、タワーの掌は虚しく宙を切る。

 

ジャスティス「おおっと! 当ったらないよ!」

エンペラー「(地団駄を踏んで)キィーッ! この下手くそッ! さっさと倒しなさいよ!」

ジャスティス「(ニッ、と笑い)あーらら、フォーチュンだったらそこまで言わないケドなぁ。キミはタワーの主に相応しくないよ、エンペラー。タワーへの気持ちがないもの」

エンペラー「そんなんあるワケないじゃない! たかが煉瓦の人形なのに!」

ジャスティス「そこまで言うの?・・・(真顔になり)これ以上の問答は無用だね・・・」

 

 一方、腹部バルコニーの扉を、大鎌の柄を槍のように、ガツン! ガン!と何度も突き立てるデス。

 扉の板が僅かに木っ端を散らすも、壊れる気配がまるでない。

 

デス「(大声で)ハイエロファント! あたしだ!」

 

 デス、大鎌を左手に下げ、右の拳を、肘を支点にして、ダンッ!と叩き付ける。

 内側からの反応は、ない。

 

デス「(更に大声で)ハイエロファント! 返事をしてくれ!」

エンペラー「聞こえないわよ! エロファントちゃんには、ちょーっとオネンネしてもらってるんだから!」

デス「(エンペラーを見上げて、ギンッ、と睨んで)何だと!」

エンペラー「連れてくのに抵抗されても困るから、『ワンド』で、ゴン!ってね」

 

 途端、目を正円に近い程に開くデス。

 右の拳を痛いくらい握り締め、エンペラーに、これ以上ないほどの殺気を込めた視線を向ける。

 タワーの真正面で、その会話を耳にしたジャスティス。デスと同様に両眼を見開く。

 ブルッ、と全身を震わせて、ギリッ、と奥歯を思い切り噛み締める。

 

ジャスティス「(怒りを滾らせた声で)この・・・悪党っ!」

 

 デス、再び、ダン! ダンッ! ダンッッ!と、握った右手で扉を殴打する。

 

デス「目を覚ませ! あたしの声が届いてるか! 一緒に帰るぞ!」

 

 尚も、返事はない。

 デス、大鎌を手放す。カラン・・・とバルコニーの床に転がる大鎌。

 両方の掌を、閉ざされた扉に当て、全部の指を開いて力を込める。

 両腕を伸ばし、足を肩幅に広げ、項垂れて両目を閉じる。

 デスの脳裏に、ハイエロファントの姿が浮かぶ。

 ハイエロファントの声が心の裡に響き、ハイエロファントの笑顔が鮮明に映される。

 すうぅぅぅっ・・・と、胸いっぱいに息を吸い込むデス。

 ピタ、と呼吸を一瞬停めた、直後。

 

デス「(天を劈くような声で)目覚めろっ!!! ハイエロファントっ!!!」

 

 

★ タワーの内部

 

 ビクンッ!と身体が跳ねるように反応し、ハッ!と瞼を開くハイエロファント。

 途端、ガバッ、と上半身を起こし、宙に視線を投げる。

 

ハイエロファント「デスっ!」

 

 視界に映るのは、煉瓦造りの壁と床。

 ハイエロファント、暫く目を丸くしていたが、段々と落ち着いた目線へと変化する。

 脚を投げ出した格好で床に座り、周りを、ぐるり、と見回す。

 

ハイエロファント《(少しぼんやりとして)ここは・・・何処? 見覚えがあるけど・・・》

 

 右手の人差し指を曲げて口元に当て、考えるような仕草をするハイエロファント。

 

ハイエロファント《さっき・・・デスの声が聞こえた・・・デスは何処?》

 

 ハイエロファント、きょろ、きょろ、と左右に視線を飛ばす。

 床に触れた左掌から、振動が伝わってくるのを感じる。

 

ハイエロファント《動いている・・・それにこの煉瓦の造り・・・まさか、タワー?》

デス(扉の向こうから)[ハイエロファント! あたしだ!]

ハイエロファント「(一瞬で笑顔になり)デスっ!」

 

 バッ!と身体を即座に起こし、デスの声が聞こえた扉に跳び付くハイエロファント。

 

ハイエロファント「デス! そこにいるの?」

デス(扉の向こうから)[(安堵したような声で)気が付いたかっ! 今お前はタワーの中だ! エンペラーに襲われて、気を失ったところを連れ去られてた! タワーが奴に操られてる!]

ハイエロファント「そうだったんだ・・・」

デス(扉の向こうから)[この扉、外から開けようとしてるが、開かない。そっちからはどうだ?]

 

 ハイエロファント、扉のハンドルレバーを握り、動かそうとする。

 ガチャ、ガチャッ、と音はするが、固定されているように下げられない。

 瞬時、他の鍵や閂がないのを確認するハイエロファント。

 レバー近くには、鍵穴すらも見当たらない。

 

ハイエロファント「開かない! 鍵も掛かってないのに!」

デス(扉の向こうから)[判った! 何とか破ってみる! 下がっててくれ!]

ハイエロファント「待ってデス! 今、僕は、タワーの中、なんだよね?」

デス(扉の向こうから)[そうだ!]

ハイエロファント「(少し考えて)だったらここからの声は届く筈・・・僕がタワーを説得してみるよ!」

デス(扉の向こうから)[(少し間を置いて)・・・判った! だが外からも何とかしてみる!」

ハイエロファント「(微笑んで)判ったよ!」

 

 扉から数歩、後退して、小部屋の中央付近に立つハイエロファント。

 一旦両目を閉じ、それから、キリッ、とした雄々しい視線を真上に向ける。

 

ハイエロファント「(大声で)タワー! 聞こえる? 僕だよ! ハイエロファントだよ!」

 

 

★ 荒野

 

 ズゥン・・・と、急にすべての動きを停止するタワー。

 

タワー「(惑った様子で)・・・エロファント・・・ワタシノ・・・ナカニ、イル・・・ノカ?」

 

 それに気付いたジャスティス、構えていた大剣を下げる。

 

ジャスティス「動きが止まった!(タワーに向かい)タワー! キミの中に、エロファントがいるんだ! 出してあげて!」

エンペラー「(半ば恐慌気味で)何! 何! 何なの! 何があったの? どーして止まってんの? (タワーの顔を見下ろし)何してんのよッ! アタシの言うことを聞きなさいッ!」

 

 一方、デス、腹部バルコニーからタワーの両腕を交互に見る。

 そして、フッ、と不敵な笑みを口元に湛える。

 

デス《効果あった! タワーはハイエロファントに一度“命”を救われてる。それを忘れてなかった!》

エンペラー「(怒声)この木偶の坊ッ! 命令よ! ジャス子と死神を叩きのめしなさいッ!」

 

 エンペラー、左脇に抱えていた水晶玉を両手で持ち直して、眼前に掲げる。

 途端、ボォッ・・・と赤黒い光を、僅かの間だけ放つ水晶玉。

 その様子を、据えた目線で見上げているデス。

 

デス《あの水晶玉か! よし!》

 

 

★ タワーの内部

 

 右手を握り締め、胸に当てて、小部屋の天井を見詰めているハイエロファント。

 

ハイエロファント「タワー、君は今、意に沿わない命令を受けていると思う・・・フォーチュンではなく、エンペラーから命令されて、僕をここまで連れてきたんだよね・・・今、君はフォーチュンの指示で行動しているんじゃない・・・ そして君は、フォーチュン以外からの指示は望んでない・・・そうだよね?」

タワー(頭上から)[・・・フォーチュンサマト、チガウ・・・オカシイ・・・フォーチュンサマ・・・ドコ?]

ハイエロファント「フォーチュンはまだお城だと思う。だから帰ろう! 君が戻る場所はフォーチュンのところだよ!」

タワー(頭上から)[カエル・・・タタカウ・・・メイレイ・・・ワタシ・・・ワカラナイ!]

 

 

★ 荒野

 

 突然。

 ガクガクガク・・・と、全身を震わせ始めるタワー。

 

タワー「(両手で頭を抱え)ウ・・・ガアアアアッ!」

ジャスティス「タワー! 落ち着いてっ!」

エンペラー「(怒りの形相で)この役立たず! いいわ、アタシにはまだ・・・(懐からカードの束を取り出し)こいつらがあるわ! 喰らいなさい! (1枚のカードを真下に投げ)『ワンド』の3!」

 

 エンペラーが投げたカードが、小さな風の渦を巻き、3本の棍棒が出現する。

 ハッ!と気付いたデスに向け、猛烈な回転で迫っていく。

 

デス「くっ!」

 

 1本目を大鎌で、ガキン!と叩き落し、足元を狙って飛んできた2本目を飛び上がって避けるデス。

 一瞬見失った3本目が真横から襲い掛かって、身体を錐揉みさせて、辛うじて躱す。

 バルコニーより外に飛び出し、大鎌で平衡を取って体勢を立て直し、そのままタワー前方に着地する。

 デス、背後方向に、タンッ! タンッ!と、地面を蹴って距離を取る。

 間髪を入れず駆け寄ってくるジャスティス。デスと並ぶ。

 

ジャスティス「大丈夫!? デス!」

デス「ああ。今、ハイエロファントがタワーに呼び掛けてる。効果覿面だ」

ジャスティス「(安心したように)そっか!」

デス「(エンペラーを睨み)エンペラーが水晶玉を持っていて、それでタワーに命令してる。恐らくフォーチュンの魔力を入れた物・・・それを叩き壊せば、タワーは沈黙する筈だ。(ジャスティスを見て)もう一度、足元を狙ってくれ。タワーのバランスを崩すように・・・次で決める!」

ジャスティス「(ニコッ、と笑顔で頷いて)了解っ! まっかせといてっ!」

 

 即座に、大剣を脇構えで持ち、ダッダッダッ・・・と前進していくジャスティス。

 タワーに接近し、大剣を頭上、大上段に振り翳す。

 

ジャスティス「(腹の底からの声で)ジャスティス・クラッシュッッッ!!!」

 

 タワーの爪先付近に、ブオン!と、大剣を叩き付けるように振り下ろす。

 剣先の軌道をなぞって、カアアッッッ!!!と、迸る閃光。

 半球形を成して光が膨れ上がり、ガボグォンッッ!!!と、爆発する地面。

 タワーの足よりも広い穴が穿たれる。その縁に、左足の土踏まずあたりを掛けるタワー。

 グラァ・・・と左斜め前方に、平衡を崩して前のめりになる。

 タワー頭頂部のエンペラー、大きく前に振られる。思わず欄干を両手で掴む。

 途端。

 左手に抱えていた筈の水晶玉が、ポーン・・・と空中に投げ出される。

 

エンペラー「(慌てて)あららららッ! 水晶玉ッ!」

 

 両手を伸ばし、わしゃわしゃ、と自分に掻き寄せる動作をするエンペラー。

 しかし届かず、水晶玉は、重力に従って落下を始める。

 ヒュッ!と、瞬間移動の如く、水晶玉の真横に姿を現すデス。

 大鎌を両手で後方に思い切り翳し、ニッ、と勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

デス「(凛とした声で)貰ったぁっ!!!」

 

 直後、デスの大鎌が、唸る。

 シュインッ!と、水晶玉に対して水平に光の帯を成し、空間を薙ぐ刃。

 僅かの、後。

 パッキィィィィィンッ・・・・と、細かく砕け、四散する水晶玉。

 

エンペラー「(絶叫)うっそォォォォーん!!!」

 

 割れた水晶玉の内側から、パアァァァッ・・・と、流れ出て拡散していく赤黒い光。

 同時に、タワーの左眼に宿っていた光も、失せる。

 ダラ、と両腕を垂らし、ズン・・・と、左足を、ジャスティスの開けた穴に踏み込ませる。

 斜め左前方に傾いでいた全身が、糸が切れたように、ゆっくりと前方に重心を移し始める。

 デス、タワーの身体を、タン! タンッ!と鮮やかに蹴って、腹部バルコニーに飛び移る。

 扉のハンドルレバーに右手を掛け、下に力を込める。

 カチャリ、と下がり切り、内側に扉が開く。

 笑顔を浮かべるデス。すぐさま、扉を押す。

 内側の小部屋の中央、傾いた床に脚を踏ん張り、天井を見詰めて片膝を着いているハイエロファント。

 ハッ、とデスに気付く。立ち上がって、見る見る満面の笑みを浮かべる。 

 ダッ、と迷うことなく駆け寄るデス。はち切れそうな満面の笑み。

 

デス「(歓喜の表情で)ハイエロファントっ!」

ハイエロファント「(歓喜の表情で)デスっ!」

 

 ガバッ!と思い切り密着し、抱き締め合うふたり。

 デスはハイエロファントの首に両腕を回し、ハイエロファントはデスの腰に手を回す。

 互いの温もりを噛み締めてから、一旦離れて向かい合う。

 

デス「脱出するぞ!」

ハイエロファント「うん! 行こう!」

 

 並んで扉を抜け、腹部バルコニーに飛び出すふたり。

 その間にも、タワーは平衡制御を失い、傾きを増している。

 ハイエロファント、デスの腰に左手を回し、抱き寄せる。

 デス、ハイエロファントの腰に右手を回し、ギュッ、と力を入れる。

 眼差しを絡めて、一度大きく頷き合うふたり。

 前方に目をやり、タッ、タッ、と煉瓦の床を同じ歩幅で蹴り、右前方の欄干に足を掛ける。

 途端。

 まったく同じ呼吸の間で、渾身の力で欄干を蹴り飛ばし、バッ!と身体を浮かせるデスとハイエロファント。

 放物線を描いたふたりの姿が、タワーから右方向に離れていく。

 次の瞬間。

 グラアァァァ・・・と、一気に前方に倒れていくタワー。

 未だ頭頂部の欄干にしがみ付いて、怯えの表情を貼り付けているエンペラー。

 

エンペラー「(悲鳴)あぁぁぁぁれぇぇぇぇーッ!!!」

 

 タワー、猛烈な空気の流れを後方に造り、速度を増して身体を投げ出す。

 一方、デスとハイエロファント、緩やかな軌道で大地に向かっていく。

 そして足が着く瞬間、それぞれ両膝を曲げ、バネのように、ダーンッ!と地面を蹴る。

 落下の衝撃を前方に飛ばし、クルン、と見事に同調した動作で前転をして、ザッ、と着地するふたり。

 直後。

 ドオオオオオオォォォンッ!!!と、大音響を荒野全体に轟かせ、大地に倒れたタワー。

 ブオワッ!と、大量の土煙が、爆発したように辺り一面に拡がる。

 襲い来る砂と土が混じった突風に、ガバッ、とデスを懐に抱え込み、身を挺するハイエロファント。

 ハイエロファントの胸元に顔を埋め、ギュッ、と両瞼を閉じるデス。

 片や、ジャスティス、両腕で顔の前面を覆い、砂埃を防いでいる。

 ゴオォォォ・・・と、3人を飲み込んで流れを成す、土煙。

 段々と治まっていき、やがて、細かい砂の粒子が空間に漂うだけとなる。

 静寂。

 静寂。

 静寂。

 ゆっくりと顔を上げるハイエロファント。デスも続けて、目線をタワーに向ける。

 うつ伏せで荒野に横になったタワー。動かない。

 両腕を下ろし、タワーの姿を目に映すジャスティス。

 ハイエロファント、デスを抱えて立ち上がる。

 デス、ハイエロファントに抱えられ、両脚に力を込めて身体を起こす。

 それから向かい合わせで立ち、艶やかな表情で眼差しを絡め合う、ふたり。

 ふたりの姿を目の当たりにして、嬉しそうな笑顔を浮かべ、歩み寄るジャスティス。

 

ジャスティス「デス! エロファント! 無事かい!?」

 

 途端。

 デスの背後の空間に、突如、ボワッ!と炎の塊が出現。

 その中から、ジャキジャキジャキッ!!!と、何かが宙に現れる。

 10本の、細身の剣。

 先端がすべて、デスに向けられている。

 デスの背中越しにそれを目に留め、ハッ、と気付いて声を出そうとするハイエロファント。

 次の、瞬間。

 ザクゥゥゥゥゥッ!!!と、すべての剣がデスに突き刺さる。

 

【 第4話へ 】

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