デスとハイエロファントの物語:REBOOT   作:桁石スミオ

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目覚めよと、呼ぶ声が聞こえ 【第4話】

【スローモーション】

 

 白色の透過光になる、背景。

 デス、10本の剣を身体に貫通させたまま、目を正円に開いている。

 背中から胸、腹、脚、様々な角度から、鍔の付近まで刺さっているものもある。

 両眼をこれ以上ないほどに開き、デスを見るハイエロファント。

 息を飲んだまま、凍て付いたふたり。

 同様に両目を見開き、地面を蹴って近付こうとするジャスティス。驚愕の表情。

 デスの唇の端から、一本の血の流れ。

 それまで右手に握って下げていた大鎌が、重力に従って落下する。

 一方、土煙の流れ切った向こう側、タワーの頭頂部付近に人影。

 片膝を立てて、こちらに何かを投げ終わった姿勢のまま、屈んでいるエンペラー。

 顔には、悪鬼のような嗤いがへばり付く。

 霞のように消滅を始める10本の剣。

 完全に消え去った直後、デスの胸部、腹部から、噴出する大量の血。

 デスの瞳が仄暗くなり、大きな咳き込む動作と共に、血の塊を吐き出す。

 力が抜け、膝から崩れ落ちるデス。

 前のめりに倒れ始めたデスを、抱き止めるハイエロファント。

 

【スローモーション終了】

 

ハイエロファント「(叫ぶように)デスぅっ!」

 

 デスを抱きかかえたまま、両膝を着くハイエロファント。

 ぬる、と彼女の背中に回した掌に血の感覚。

 両方の瞳孔が開き切り、瞼を半分閉じているデス。顔色は恐ろしい程、蒼い。

 彼女の流血は激しく、脈の動きに合わせて噴き出し、ハイエロファントの法衣を真っ赤に染める。

 衝撃の余り、全身を、ガタガタガタ・・・と震わせているハイエロファント。

 近くまで来て、茫然としたまま立ち尽くすジャスティス。

 勢いよく立ち上がり、腰を両手を当てて踏ん反り返るエンペラー。

 

エンペラー「(顔をこれ以上ないほど歪め、嗤い)やっぱ切り札は最後までとっとくものよね! 10本の『ソード』のお味はどーかしら! ざっまあみなさい! 死神の分際でアタシのエロファントちゃんに手ェ出すからこんな目に遭うのよッ!」

 

 直後。

 凄まじい怒りの形相で、ダッダッダッ!とエンペラーに駆け寄るジャスティス。

 右側に脇構えで大剣を持ち、両目にいっぱいの涙を溜めている。

 ギリッ!と奥歯を強く噛み締め、大剣を、ブォン!と振り上げ、ダンッ!と飛び上がる。

 

ジャスティス「(絶叫)うあああああっ!!!」

エンペラー「(ボソッ、と)・・・『ワンド』の9・・・」

 

 ヒュン、と1枚のカードを、ジャスティスに投げるエンペラー。

 カードに小さな風の渦が巻き上がり、中から9本の棍棒が出現。

 猛烈な回転で、宙のジャスティスに襲い掛かる。

 ドガッ! ズン! ドゴッ!と、数発の打撃を加えられ、体勢を大きく崩すジャスティス。

 

ジャスティス「がはっ!」

 

 8本の棍棒に連続で殴打され、最後の1本がジャスティスの背中を思い切り強打する。

 ボゴン!と、凄まじい勢いで地面に叩き付けられるジャスティス。

 反動で一瞬身体が浮き上がり、そして落下、パタ・・・と地にうつ伏せで倒れる。

 棍棒が、すべて霧のように消失する。

 

エンペラー「(フン、と嘲るように鼻で嗤い)あンたもしつっこい。大人しく寝てなさい」

 

 その一部始終を目の当たりにして、画面蒼白となるハイエロファント。

 左腕でデスをしっかりと抱え、右手を掲げて、彼女の胸元に掌を翳す。

 

ハイエロファント「聖なる力・・・」

 

 何も起こらない。

 ハイエロファント、息を飲み、一度右の掌を見詰め、再びデスに向ける。

 

ハイエロファント「(震える声で)聖なる力! 聖なる力!・・・(愕然として)どうして・・力が・・・」

エンペラー「(高嗤い)オーホッホッホ! エロファントちゃんの力もね! こんなこともあろうかと『カップ』のカードで吸い取っちゃったのよん! 力は使えないわよ!」

 

 途端。

 デスの左腕が、緩慢な動きで、挙がろうとする。

 ピク、ピク、と痙攣を繰り返し、それでも左手を掲げようとするデス。

 半分閉じられた瞼の奥、両の瞳には光がなく、何も見えてない様子。

 

デス「(消え入りそうな声で)・・・だ・・・い・・・じょう・・・ぶ・・・だ・・・」

ハイエロファント「デスっ! しっかりしてっ!」

デス「(更に弱く)あ・・・たし・・・は・・・死な・・・ない・・・だか・・・ら・・・」

ハイエロファント「(嗚咽を堪えて)・・・デスっ・・・」

 

 デスの左手を、ギュッ、と右手で握り、奥歯を噛み締めるハイエロファント。

 

エンペラー「(ニイヤァ、と口角を歪め切って)アタシの勝ちよ! エロファントちゃんはアタシのモノよぉ!」

ハイエロファント「・・・どうして・・・」

エンペラー「(嗤いを引っ込め)・・・は?」

ハイエロファント「・・・どうして、デスがこんな目に遭わなきゃならないの?・・・」

 

 デスを両腕の中に抱き締めて両膝を地面に着けたまま、顔を伏せるハイエロファント。

 ジャスティス、意識を取り戻し、うつ伏せの体勢から上半身を少し起こす。

 全身に及ぶ打撲の痛みに、歯を食い縛って、目線をハイエロファントとデスに向ける。

 

ハイエロファント「(深い声色で)・・・デスは・・・この世界の・・・マジカルランドの生命の、大きな一端をずっと担ってきた・・・ひたすらに、ただ純粋に、与えられた使命を全うしてきた・・・命を終わらせ、転生をへと導く、余りにも重い定めを、余りにも過酷な運命を、ずっと背負ってきた・・・ひとりで、誰にも押し付けず、誰も頼らず、ずっとずっと頑張ってきたんだ・・・それがどれ程のものか、考えてみたことがある?」

エンペラー「考えるワケないじゃない! なーんで死神のコトなんか考えなきゃならないのよ!」

ハイエロファント「僕は考えたよ、僕なりに、ね・・・そして、それ以来、デスのことが気になって仕方なくなった・・・そして、決めたんだ・・・デスの為なら、降り懸かる火の粉の盾になっても構わない・・・デスが癒されるなら、僕の時間も惜しみなく使ってほしい・・・そう思うようになったんだよ」

ジャスティス「(痛みを堪えた声で)・・・エロファント・・・」

 

 タラ、と冷や汗を垂らし、信じ難いという表情をしているエンペラー。

 

エンペラー「(震える声で)ちょっと・・・何言い出すの、エロファントちゃん・・・」

ハイエロファント「君には、はっきり言わなきゃならない。(きっ、と目線を投げ)僕の中心には、デスがいるんだ」

エンペラー「(悲鳴)イヤァァァァッ! 聞きたくないわァ!」

 

 エンペラー、耳を手で塞いで、顔を、ブン、ブン、と左右に全力で振り、引き攣った顔となる。

 視線を正面、エンペラーに固定したまま、包み込むように再度デスを抱き締めるハイエロファント。

 

ハイエロファント「デスは、一番大切な女性だ。デスのことを想わない日はない。(凛とした声で)僕はデスを愛しているんだ!!!」

 

 途端。

 エンペラーが白色化、背景は暗転。

 白目を剥き、口を、あんぐり、と全開にする。

 パッキィィィィィン・・・と全身にひびが入る。

 そのまま、凍結。

 きりっ、と眉を寄せ、目線に真剣さを凛々と溢れさせるハイエロファント。

 

ハイエロファント「・・・この先、何があろうと・・・誰に何と言われようと・・・(天にも届くような声で)僕は絶対に! デスを離さないっ!!!」

 

 ぴくっ、と身体を反応させるデス。

 光を宿していない両方の瞳が、潤いで輝く。

 

デス「(掠れる声で、感嘆に震え)・・・ハイエロファン・・・ト・・・」

 

 つぅ、とデスの目頭から、涙が筋を成す。

 暫くの、間。

 更に、間。

 パッ、と凍結を解き、元の色を取り戻し、急速に憤怒の顔に変化させるエンペラー。

 

エンペラー「(怒り心頭で)あっ! そうッ! ハーン! 判ったわよ!」

 

 エンペラー、猛烈な憎しみを込めた目で、デスを睨む。

 

エンペラー「(歪に嗤い)そう言えば、死神って不死身なんですってね? じゃあ! (懐からカードを取り出し)試してみましょうよ、ネェ・・・(1枚のカードを翳し)『ソード』のクイーン!」

 

 1枚のカードを一瞬宙に投げる。ボッ、とカードから湧き上がる炎。

 大きめの諸刃の剣が現れ、それを、パシッ、と薙ぎ取るエンペラー。

 

エンペラー「この剣で手足バラバラに斬られても、首落とされても生きてるかしらん?」

ジャスティス「(絶叫)やめろぉぉぉぉぉっ!!!」

エンペラー「エロファントちゃぁん、どきなさぁい。あンたの目、覚ましてあげるわぁ」

 

 エンペラー、剣を正眼に構え、一歩、また一歩と、ふたりに近付いていく。

 対して、先ほどからと同じ、揺るぎない視線をエンペラーに向けるハイエロファント。

 デスを両腕で抱き締めた状態で、瞬きひとつしない。

 ビクッ、と澄んだ瞳に気圧されたように、立ち止まるエンペラー。

 

エンペラー「(狼狽えて)何よその目・・・やめて・・・どいてよ・・・どきなさいエロファントちゃん!」

 

 ハイエロファント、更に、ぐっ、とデスを抱く腕に力を込める。

 直後。

 プチン!と何かが切れた音が、エンペラーの頭部より聞こえる。

 ブワッ、と剣を右腕で、頭上に高々と振り被る。

 

エンペラー「(激高して)どけっつっとんだろがァァァァッッッ!!!」

 

 次の、瞬間。

 エンペラーの身体のすぐ前方に、直径2メートルほどの、黒い空気の縦方向の渦が出現。

 ゴオオオオッ!という、強烈な回転を成し、エンペラーに襲い掛かる。

 竜巻を横にしたような、凄まじい突風の渦。

 それがエンペラーを飲み込み、ズガガガガッ!と、彼の足元の地面を抉って巻き上げる。

 驚きの顔をへばり付け、剣を正眼に構えたまま、ガアーッ!と後方に押し戻されるエンペラー。

 黒い渦が四散し、消滅して、5メートルほど吹き飛ばされた場所で、漸く止まる。

 

エンペラー「ウヒョオッ! 何よ! 何! 今のッ!」

 

 途端。

 ハイエロファントの眼前に、ビュオッ!と一陣の黒い疾風が吹く。

 それが人型となり、風が散り、中からフォーチュンが現れる。

 

フォーチュン「(ふう、と息をつき)やーれやれ、ギリギリだったのう」

ハイエロファント「(驚いて)フォーチュン!」

フォーチュン「『ペンタクル』の護符は術者に結界を張る。じゃが、その周囲などには及ばん。足元の地面ごと吹き飛ばすことは出来る筈じゃった・・・ちっとばっかし効果はあるかのう?」

エンペラー「(驚愕の顔で)嘘ッ! あンた! もう回復したの?」

フォーチュン「わらわを舐めるでないぞ。仮にも『運命の輪』たる存在・・・時間を置けば、魔力など自然に回復するわ・・・(自嘲気味に笑い)まあ、今回はワールドに借りを作ってしまったが、のう」

エンペラー「何しに来たのッ!?」

フォーチュン「・・・そなたは阿呆か? タワーを取り戻しに来たんじゃ。自分で強奪しておいて、もう忘れたのか?」

 

 更に、すぐ後。

 天空の高いところより、浮遊し、スーッ・・・と垂直に降りてくるワールド。

 フォーチュンと背中合わせの位置に、浮かんで立つ。

 

ハイエロファント「(再度、驚いて)ワールド様っ!」

ワールド「エロファント、よく無事で・・・(ジャスティスを見て)ジャスティスも、よく頑張ってくれました」

ジャスティス「(痛みを覚えつつ、少し安堵した表情で)ボクは、大丈夫・・・でも・・・デスが・・・」

 

 ワールド、ハイエロファントの前に、スッ、と片膝を着くように屈み込む。

 苦痛の喘ぎを漏らすデス。瞳の光は、未だ戻らず。

 そっ、と右手でデスの髪を撫で、深い悲しみに溢れた目線を送る。

 

ワールド「(憐憫に満ちた声で)デス・・・もう少し、辛抱して下さい・・・」

 

 そして、バッ、と立ち上がり、凛とした視線をハイエロファントに向ける。

 

ワールド「エロファント、よく聞きなさい! 今から、マジカルドロップを創りますワ! それを使って、あなたの“聖なる力”を取り戻し、デスを回復させなさい!」

エンペラー「(剣を振り翳し)そんなコトさせるもんですか!」

ワールド「フォーチュン! 手筈通りに! 1分で結構ですワ! 時間を稼いで下さい!」

フォーチュン「わらわを誰と思うておる! 任せておけ! (エンペラーを睨み)さあて、そなたの相手はわらわじゃぞ、エンペラー・・・ようも散々コケにしてくれたのう・・・万倍にして返してくれようぞ!」

エンペラー「邪魔しないでスッ込んでなさい! この年増コンビッ!」

フォーチュン「(白目を剥いて、怒り)何じゃとぉぉぉぉぉッッ!!!」

ワールド「挑発に乗らないで! 時間がありませんワ!」

フォーチュン「そなたも言われとるんじゃ! コンビじゃぞコンビ!」

ワールド「(すうぅ、と深呼吸して)・・・後でお返ししますワ。今は・・・(はあぁ、と息を吐く)」

 

 カッッッ!と、ワールドの額の中央の『第三の目』が見開かれる。

 3つの瞳で天を見上げ、掌を上向きにして両手を左右いっぱいに広げるワールド。

 

ワールド「集まりなさい! 虹の輝き!」

 

 直後。

 天に敷き詰められた厚い雲の隙間をぬって、ポゥ・・・と小さな光の粒が顔を出す。

 広い空の各方向から、次々と、雨のように降り始める。

 それらすべてが、一直線にワールドに向かって、流星のように空から地上へ走っていく。

 虹を構成する七つの色が、それぞれ粒子となって移動し、光の筋を織り成す。

 

エンペラー「させるもんですかッ! (カードを投げ)『ワンド』の7!」

フォーチュン「ダークホイール!」

 

 エンペラーの投げた1枚のカードが、小さな風の渦を巻き上げ、中から7本の棍棒が出現。

 同時に、フォーチュン、左腕を前方に振り抜く。

 ゴオオオオッ!と、縦回転の黒い風の渦が、フォーチュンの左掌から発生する。

 7本の棍棒が動き出すより速く、一瞬にしてエンペラーとの距離を詰める。

 黒い渦に飲み込まれ、あっという間に四方に散ばり、霧のように消滅する全部の棍棒。

 

エンペラー「(カードを投げ)『ソード』の3! 『ワンド』のナイト!」

 

 2枚のカード、片方は小さな炎、片方は空気の渦を発声させる。

 炎からは3本の細身の剣、風の渦からは一際大きな棍棒が姿を現す。

 それらは先端をフォーチュンに向け、ギュオッ!と空を裂いて飛来していく。

 

フォーチュン「まだまだじゃ! ダークホイール! もうひとつ!」

 

 フォーチュン、左手を翳し、縦回転の黒い突風の渦を生み出す。

 続けて右手を前方に向け、ほぼ同じ大きさの風の渦を出現させる。

 ふたつの縦の竜巻が、ブオオオッ!と唸りを上げて、競い合うように前方に突撃する。

 3本の剣と大きな棍棒、一瞬風圧に耐えるも、押し戻されて外に弾き飛ばされ、消滅。

 勢いよくエンペラーにも襲い掛かる黒い突風。

 しかし、結界に妨げられ、エンペラーには何の効果もない。

 

フォーチュン「どうしたエンペラー! 『カップ』のカードは使わんのか? 魔力を奪えば勝てるかも知れんぞ!」

エンペラー「(怒声)うっさいわね! もう使い切っちゃったわよ! エロファントちゃんの力吸い取ってオシマイよ! あンたが魔力持ち過ぎだったのよ!」

フォーチュン「詰めが甘いのう・・・残りのカードでわらわに勝てるとでも思うとるのか?」

 

 途端、僅かに顔を伏せ、顔の上半分に陰を落とすフォーチュン。

 覚られないほどに、奥歯を噛む。

 

フォーチュン《急げ、ワールド・・・長くは持たんぞ・・・》

 

 一方、ワールド、両方の掌を上にして、スーッ・・・と真上に掲げる。

 両手首を合わせ、双方の五指を杯の形のようにして、それを3つの目で凝視するワールド。

 天空から飛翔してきた様々な色の光の粒が、一気に加速し、ワールドの掌に目掛けて集まり出す。

 凄まじい勢いで、ワールドの手の中に流れ込んでくる、光の粒子。

 集合して、段々と膨らんでいき、遂に30センチほどの光の玉と化す。

 

ワールド「我が名はワールド! 天空の女神の名に於いて命じます! (張りのある声で、高らかに)出でよ! マジカルドロップ!」

 

 直後。

 キュイイイイイイイ―――ンッ!!!と、高周波の音が周囲に響く。

 一旦、1メートルほどに巨大化した光の玉が、一瞬で小さくなり、ワールドの両手の中に縮まる。

 片や、それを目の当たりにして、驚きと焦りを混ぜた表情を表すエンペラー。

 

エンペラー「早くどきなさいってば! 『ワンド』の10!」

フォーチュン「そなたこそ下がれ! しつこいオカマは嫌われるぞよ! (バッ、と両手を挙げ)ダークウェーブ!」

 

 1枚のカードを投げるエンペラー。挙げた両手を振り下ろすフォーチュン。

 カードが風の渦を上げた中から、10本の棍棒が回転しながら登場。

 フォーチュンの正面に、ズオオオッ!と、横に寝せた黒い竜巻が出現。

 大木が転がるように、ドドドド・・・と波を打ちながら向かっていく横の竜巻。

 棍棒は数本消滅したが、数本は黒い空気の波を越え、フォーチュンに接近する。

 しかしそれらも、途中で力尽きて落下、霧のように消える。

 竜巻が通り過ぎた後のエンペラー、無傷。

 チッ、と舌打ちをしてフォーチュンを睨み付ける。

 一方、ワールド、完全に光の放出が治まるのを確認し、掌を上にしたまま両手を下ろす。

 水を掬うような形にした掌の上を、コロン・・・と転がる一粒のマジカルドロップ。

 七色の輝き、生命の息吹のように鮮やかな光彩を放っている。

 片膝立ちで屈み、柔らかい笑顔を湛え、右手でドロップをハイエロファントに差し出すワールド。

 

ワールド「(優しい声で)さあ・・・受け取りなさい」

ハイエロファント「(頷いて)ありがとうございます!」

 

 微笑んで、右掌を上にしてドロップを受け取るハイエロファント。

 

エンペラー「ぬおおおおッ! 使っちゃダメェ! 『ソード』の9! 『ソード』のペイジ! 『ソード』の4!」

 

 矢継ぎ早に3枚のカードを、矢のように投げるエンペラー。

 いずれからも、小さな炎が湧き上がり、9本の細身の剣、大きめの諸刃の剣、4本の細身の剣が現れる。

 フォーチュン、両掌を、バッ、と向ける。

 しかし、胸元に、ズキン!とした痛みが走り、思わず両腕を下げる。

 グオッ!と宙を裂き、あっという間に襲い掛かってくる、全14本の剣。

 ハッ、と気付いて、両手に黒い空気の渦を作り、バシン! バシン!と、何本かを叩き落すフォーチュン。

 だが数本は弾き飛ばせず、1本がフォーチュンの死角から顔を目掛けて向かう。

 身体を捻り、間一髪で躱す。しかし別方向からも、剣の襲撃。

 スパッ!と、右頬を斬られるフォーチュン。

 愕然として、目を見開く。頬の傷から、タラ・・・と血が流れ、筋を成す。

 全部の剣は、方々で四散して消える。

 

フォーチュン「(痛みに顔を顰め)クッ・・・」

エンペラー「(歪んだ嗤いで)ヒャアッハッハッ! どーしたのよ! もう魔力切れ!? あンたやっぱロクに回復してなかったんじゃないの!」

フォーチュン「ほざけ・・・わらわは・・・負けぬ!」

エンペラー「もうとっくに負けてんのよッ! (カードを振り翳し)トドメよ! 『ソード』のナイトッ!」

 

 1枚のカードを、ビュッ!と投げるエンペラー。

 ボフ!と大きめの炎の塊が出現し、その中から大剣が姿を現す。

 先端をフォーチュンに向けて、ギュオオオッ!と飛来していく大剣。

 途端。

 ブイン・・・と大剣の飛翔が、停止する。

 驚くエンペラーの眼前、フォーチュンをかばう位置に、ワールドが、スゥッ・・・と移動してくる。

 両手を正面に真っ直ぐ突き出し、開いていた手で、グッ、と一度拳を握る。

 そして、バッ!と、勢いよく水平方向の左右に腕を広げる。

 次の瞬間、ガキッ!と、宙の大剣にひびが入り、パリィィィン・・・と砕け散る。

 

フォーチュン「(ニッ、と笑い)・・・遅いぞよ、ワールド」

ワールド「(ニコッ、と笑い)申し訳ありません。1分と3秒も掛かってしまいましたワ」

エンペラー「何なのよォォォッ! どいつもこいつもアタシとエロファントちゃんの・・・」

ワールド「(怒髪天を衝く声で)誰が年増ですってぇぇぇっ!!!」

エンペラー「(驚愕)ヒャアッ!!!」

フォーチュン「ワールド・・・ここで言い返すか・・・(呆れたように)溜め込むタイプなのじゃな、そなた」

 

 一方、ハイエロファント、胸元のデスの顔を見詰める。

 優しく、穏やかで、慈愛に満ち溢れた眼差し。

 それから、右掌のマジカルドロップを、じっ、と見る。

 ぎゅっ、とそれを握り締め、右拳を自分の胸に押し当てて、両瞼を閉じる。

 

ハイエロファント「(祈るように)ドロップよ、願いを聞いてほしい・・・」

 

 片や、ワールドとフォーチュン、ギンッ!とエンペラーを睨む。

 歌舞伎の見栄を切る格好のように、バッ!と右手を斜め下前方に掲げる。

 

ワールド「さあフォーチュン、行きますワよ! 400歳の婦人を年増呼ばわりした罪を思い知らせてあげましょう!」

フォーチュン「同感じゃ! 1万と14歳の女子を年増呼ばわりしおった、このすくたれ者に罰を与えねばのう!」

エンペラー「ちょ! 言ってることメチャメチャよッ!」

 

 そのすぐ後。

 ハイエロファント、ドロップを握った右手を、真上に垂直に伸ばす。

 そして天空の一番高い頂点に視線を向け、きっ!と、凛々しい表情となる。

 

ハイエロファント「(天に届くように、凛とした声で)僕の力をっ! 復活させてっ!」

 

 直後。

 天頂が、雷光の如き凄まじい光を発する。

 カアアアアアアアッッッ!!!と、雲を突き破って、純白の光の柱が降りてくる。

 瞬時に地上へと注ぎ、ハイエロファントとデスを飲み込む光。

 バアアアアァァァッッッ!!!と、天空と大地を結ぶ巨大な白色の光柱が登場。

 

エンペラー「(愕然として)何よアレェッ!」

フォーチュン「(振り向き、目を見開いて)まさか! あの力は!」

 

【 第5話へ 】

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