ワールド、倒れているジャスティス、茫然とその光景を見ている。
光の柱が、天空の方から徐々に消えていき、吸い込まれるように地上に移動する。
やがて、ハイエロファントとデスを中心にした、半球形の、純白光のドームを形成する。
真っ白な空間の中、見る見る塞がっていく、デスの傷。
出血がすべて止まり、瞳に光が戻ってくる。
それを見詰めながら、段々と笑みを浮かべていくハイエロファント。
暫くの、間。
顔色も、全身の血色も、通常となったデス。
パチ、パチ、と瞬きをして、ハイエロファントに眼差しを向ける。
デス「(ハイエロファントを見詰め)・・・あたし・・・今・・・」
ハイエロファント「(瞳を潤ませて)・・・デスっ・・・良かったっ・・・」
改めて、ぎゅっ、とデスを抱きすくめるハイエロファント。
頬を彼女に摺り寄せ、一粒の涙を、ぽろ、と零す。
デス「(嬉しそうに、声を震わせ)ハイエロファント・・・」
力の入るようになった両腕を彼の背中に回し、ぎゅっ、と抱き返すデス。
直後。
純白の光のドームが形を崩し、パアアァァァッ・・・と地面に拡がる。
その光は、ハイエロファントを中心として、波紋のように一気に流れ始める。
放射線状の方向、円を成して急激に拡散していく、白い光の粒子。
伏しているジャスティスを飲み込む。たった一瞬で、全身の打撲の痛みが消散する。
ハッ、と身体を起こし、即座に立ち上がり、両手を互い違いに見詰めるジャスティス。
ジャスティス「(唖然として)傷が・・・痛みも、なくなった・・・治ってる・・・(足元を流れる波動を見詰め)こんなに凄い力だったっけ、エロファント?・・・」
光の波紋は、フォーチュンとワールドの足元にも届く。
途端、ポワッ、と全身が白色の光に包まれ、思わず顔を見合わせるふたり。
ワールド「(驚いて)フォーチュン! 傷が塞がってますワ!」
フォーチュン「何と!・・・(目を見開き)おおお、魔力も、体力も漲ってきておる!」
エンペラーの足元をも飲み込み、更に流れ拡がっていく光の粒子。
皆と同様、白色の光で覆われるエンペラーの身体。
エンペラー「(恐慌気味に)何ッ? 何何ッ? 何が起きてるのッ!?」
尚も、勢いよく拡散を続ける白色光の波。
タワーの全身を飲み込んで、巨大な光のベールで包んでいく。
僅かの、後。
タワーの左眼が、キュインッ!と、緑色に輝く。
両手を、ズン!と大地に押し当て、ズオオ・・・と上半身を起こしていくタワー。
タワー「(重厚な声で)ター・・・ワー・・・」
エンペラー「(タワーを振り向いて、驚愕)ウッソでしょおぉぉぉぉッッ!」
フォーチュン「タワーまで! 真かっ! (嬉しそうに)目覚めおったか! わらわじゃ! 迎えに来たぞよ!」
タワー「(安心したような声で)フォーチュン、サマ・・・ワタシ・・・」
フォーチュン「(笑顔で)良い、話は後じゃ。暫し控えておれ。今、ケリを着けるでな」
ワールド、足元を流れる光の奔流を暫く眺め、フォーチュンに顔を向ける。
ワールド「この力・・・今までのエロファントの力とは違う気がしますワ・・・」
フォーチュン「気付きおったか・・・その通りじゃ、今までの“聖なる力”ではない・・・」
ワールドに目線を返し、一度口元を結び、真剣な表情を向けるフォーチュン。
フォーチュン「わらわたちの魔力の根源は、四大元素から力を得ておるのは知っとるじゃろう? わらわが『風』で、ワールド、そなたが『風』と『大地』の属性を持つ。エロファントが持つ“聖なる力”とは、それとは別の異質な力と思っておった。じゃがエンペラーの仕業により、『小アルカナ』の『カップ』のカードで、その力が干されてしまった・・・考えるに、エロファントの“聖なる力”も何らかの四大元素の属性を含んでおって、『カップ』の効果があったんじゃろう・・・」
ハイエロファントとデスを振り向くフォーチュン。
ワールドも続いて、ふたりに目線を飛ばす。
フォーチュン「そしてその空の器に、ドロップが叶えた“力”が宿った・・・(重厚な声で)あれは、第五元素・・・エーテルの力じゃ」
息を飲み、驚きを全面に表すワールド。
フォーチュン「『小アルカナ』のカードは、すべて四大元素の力を元に具現化される・・・じゃが、エーテルの力の前では、すべてが効果を失う・・・最早、エンペラーに勝ち目はないぞよ・・・」
再び、エンペラーに顔を向けるフォーチュン、ワールド。
エンペラーは恐慌状態となっており、怯えたように足を、ジタバタ、とさせている。
フォーチュン「エーテルは・・・父なる神の力じゃから、のう・・・」
一方の、ハイエロファントとデス。
見詰め合っている状態のまま、穏やかな表情で口元を和らげるハイエロファント。
ハイエロファント「デス、少しここで待ってて・・・今、終わらせてくるよ」
デス「いいのか? 任せても・・・」
ハイエロファント「(目を細めて、微笑んで)大丈夫、任せて」
デス、懐に仕舞っていたハイエロファントのミトラ(司教冠)を取り出し、手渡す。
笑顔で受け取るハイエロファント。そしてしっかりと、地面にデスの腰を落ち着ける。
一度大きく頷いて、ハイエロファントが立ち上がり、ミトラをしっかりと被る。
横座りとなり、未だ彼に眼差しを固定しているデス。
ハイエロファント、惜しむように身体を返し、一歩前に出て、エンペラーと距離を空けて正対する。
きっ!と、眉を寄せて、雄々しい眼光を真っ直ぐに投げる。
次の、瞬間。
それまで波紋状に拡散し続けていた白い光の粒子が、シュウゥゥゥゥゥッ・・・と収縮する。
光の波が、瞬く間に、ハイエロファントを中心として一気に集まる。
暫く、大きな光の帯が彼に纏わり付き、吸収されるように小さくなっていく。
やがて、キィィィーン!と、高周波音を鳴らし、すべての光が消える。
エンペラー「(引き攣った悲鳴)ヒィィィィッッッ!!!」
凄まじい畏怖の感情を覚え、大剣を正眼に構えたまま、数歩後ずさりするエンペラー。
フォーチュン「タワー! 奴を逃がすでない! 捕らえてしまえ!」
ハイエロファント「(張りのある大声で)大丈夫! これ以上、誰も何もしなくとも!」
途端。
キュイ・・・・ンッ・・・!と、空気が凍て付くように、震える。
ハイエロファント以外の全員が、ビクッ!と身体を跳ねさせ、彼に視線を繋ぎ止める。
エンペラーは怯え切って、剣を左手に下げた状態で、全身から汗を、ダラアッ・・・と流しまくる。
フォーチュン、ワールド、ジャスティスは振り返って、目を丸くして動きを停める。
タワーは、片膝を着いた姿勢で、手をエンペラーに出そうとして止まる。
デスは、少し潤んだ眼差しで、頬を微かに染めてハイエロファントの背中を見詰める。
暫くの、間。
ハイエロファント、フォーチュンとワールドに顔を向ける。
ハイエロファント「(一転して優しい声で)フォーチュン、ワールド様・・・ありがとうございました。後は、僕が終わらせます。危ないので、下がって頂けますか? (タワーに向き直り)タワーも大丈夫だよ。避けていてね」
タワー、頷いて、ゴウン・・・と身体を起こして、ドスン、ドスン、と横に避ける。
ジャスティス、慌てたようにデスの横に駆け寄り、片膝を着いて屈んで並ぶ。
フォーチュンとワールド、それぞれ左右に展開し、数歩分下がる。
その間を、目線を正面に固定したまま、真っ直ぐ歩いていくハイエロファント。
彼が通過した後、再び肩を並べて立つフォーチュンとワールド。
フォーチュン「(冷や汗を拭い)何たる気迫・・・法王たる所以じゃな」
ワールド「(ふう、と息を継ぎ)本当に・・・」
フォーチュン「あれぞ“代行者”じゃ・・・哀れ、エンペラー・・・奴に神罰が下る、ぞよ・・・」
ざっ、ざっ、と足音を立て、エンペラーとの距離を詰めるハイエロファント。
ブン! ブン!と、目鼻がずれるほど顔を左右に振り、恐怖に慄くエンペラー。
エンペラー「嫌ッ! ちょ! 待ってエロファントちゃん! (慌てふためいて、カードを振り翳し)来ないでッ! 『ソード』のエースッ!」
1枚のカードを、鋭い動作で投げるエンペラー。
カードが非常に大きな火球と変化し、中から巨大な剣が飛び出す。
グオォッ!と、凄まじい速度でハイエロファントに飛翔する剣。
刹那の、後。
ハイエロファントの1メートルほど手前で、パンッ!と、風船が割れるように弾けて消滅する大剣。
沈黙。
沈黙。
エンペラーの顔が、衝撃と驚愕と恐怖が混じり合った、歪んだものとなる。
絶句して、立ち竦むエンペラー。
ハイエロファント「残念だけど、エンペラー・・・どうやら君のカードは、僕には効果がないみたいだね・・・」
尚も、ざっ、ざっ、と脚を前に進めているハイエロファント。
ハイエロファント「それと、君の結界も効かないみたいだ。さっき、僕の力の波が、足元に届いたよね。結界の内側まで入り込んでいた筈・・・その証拠に、君の体力も、回復しているんじゃないかな?」
エンペラー「(ブルブルと震えながら)そんな・・・そんなァ・・・」
ざすっ!と、エンペラーと2メートルほど離れて、立ち止まるハイエロファント。
両方の掌を、すっ、と正面に向けて、両腕を真っ直ぐ伸ばす。
ハイエロファント「(高らかな声で)聖なる力!」
キュイィィィ・・・と、鮮やかな白色の光を放ち出す、ハイエロファントの両掌。
左右に手を広げる。すると、掌と掌の間に棒状の光が繋がる。
その中から、ハイエロファントのバクルス(司教杖)が出現する。
杖の端部に備わっている青い石が、純白の光と蒼白い放電を帯びる。
バクルスを頭上に、両手で大上段に振り翳し、一際眉を寄せて表情を引き締めるハイエロファント。
エンペラー「(恐慌に陥り)待って! ネェ! ちょっと! お願い! 話せば解るわよ!」
ハイエロファント「・・・デスを二度と傷付けないと約束して!」
エンペラー「(強烈に歪んだ顔で)ハァ? んなコト出来るワケないじゃない! 死神は存在価値なんて・・・」
ハイエロファント「(掻き消すほどの大声で)ミラクルビームっ!!!」
渾身の力で振り下ろされる、ハイエロファントのバクルス。
直後。
クワアァァッッッ!!!と、直径1メートルほどの光球が前方に湧き上がる。
即座に、ズドムッッッ!!!と爆音を放ち、光線が射出される。
瞬時に、光線に飲み込まれるエンペラー。
左手に持った剣が、蒸発して消え去る。
全身を腹部から『くの字』に曲げ、ボンッ!と吹き飛ばされる。
バリバリバリッ!と、凄まじい電撃がエンペラーを襲う。
同時に、ゴオオォッ!と、爆炎も容赦なく浴びせらせる。
猛烈な光線は、エンペラーを飲み込んだまま、荒野を吹っ飛んでいく。
まるで石で水切りをするように、ダンッ! ダンッ!と、地面を弾け跳んでいくエンペラー。
身体が錐揉みし、後転し、側転し、翻弄され続け、遥かの距離を開いていく。
そして、ハイエロファントから300メートルほどの場所で、漸く止まる。
エンペラー、全身真っ黒焦げで、ピク・・・ピク・・・と痙攣して、仰向けで倒れ、白目を剥いている。
完全に気を失っている模様。
静寂。
静寂。
静寂。
前方に構えていたバクスルを下ろし、ふうう、と長い溜め息をつくハイエロファント。
右手に持ったバクルスが、フシュン・・・と姿を消す。
ハイエロファント「(清らかな声で)争いは、終わった・・・」
ゆっくりと踵を返して、デスに歩み寄っていくハイエロファント。
デスは、ジャスティスに肩を貸してもらい、慎重な動作で立ち上がっている最中。
ハイエロファント、それを目を細めて見詰め、尚も歩を進める。
一方、フォーチュン、タワーを見上げて、ニッ、と笑顔を見せる。
フォーチュン「あのボロ雑巾になった奴を閉じ込めておけ、タワー。連れて帰るでな」
タワー「(頷いて)ター・・・ワー・・・」
ワールド「どうなさるんです?」
フォーチュン「コケにされっ放しな上に、年増呼ばわりされたんじゃ。タダでは済まさん。わらわが“再教育”して、根性を叩き直してくれるわ。それと『小アルカナ』を解放しよった手段を聞きださねば。エンペラーに古代魔術の心得があったとは思えん。もし黒幕がおるのなら、そやつの名も吐かせてくれる。(残酷そうな笑いで)必要とあらば、多少の拷問はよかろう? まあ、生きているのが嫌になるかも知れんが、のう・・・それが駄目なら、魔術の実験体にでもしておこうぞ」
ワールド「(溜め息をつき)・・・気持ちは解りますが、ほどほどでよろしいですワ」
黒焦げのエンペラーの足を摘まんで持ち上げるタワー。
腹部バルコニーの扉を開き、ポーイ、と放り込む。即座に、ガチャン!と閉まる扉。
フォーチュン、それを見て満足そうに二度頷いて、クルッ、と身体を返す。
つかつか、と、ハイエロファントとデス、ジャスティスに近寄る。
後に続いて、宙を浮いて移動するワールド。
デスを真ん中にして立っている3人の前で、腕組みをするフォーチュン。
フォーチュン「わらわに勝ったこともあるというに・・・まったく無様じゃのう、死神」
ハイエロファント「(息を飲んで)そんなっ!・・・」
デス「(自嘲気味に)いや、その通りだ。情けないことこの上ない」
ジャスティス「そんなことないってば! あんなの誰だって避けられなかったよ!」
フォーチュン「まあ、そうは言っても・・・(フッ、と笑い)無様なのは、わらわも同じじゃが、な。1万と14年生きようと、まだまだ未熟じゃった。修行が足りんな、わらわも」
自嘲気味に、ふう、と溜め息を吐くフォーチュン。
フォーチュン「エロファント、ひとつ問うが・・・ドロップに“新しい力”を望んだか?」
ハイエロファント「(首を左右に振り)僕が望んだのは『力の復活』だったんだけど・・・(右掌を見詰めて)自分でも判る。今までとは、違う、って・・・まるで内側から突き上げるような・・・溢れるような力なんだ」
フォーチュン「『復活』か・・・なるほど、のう」
ワールド「つまりこの力が、本来エロファントが持つべき“聖なる力”なのですワね。それが『復活』したと」
フォーチュン「(頷いて)納得したぞよ・・・器を一度空にせねば『復活』も叶わぬからのう。エンペラーめ、墓穴を掘りおったな。(ニイ、と口元で笑い)まあ、自業自得を絵に描いたという訳じゃ! 愉快愉快!」
少しの、間。
フォーチュン、じっ、と改めてデスに目線を送り続ける。
フォーチュン「のう、デス、わらわに勝って得たドロップ、使いおったな」
デス「(意外そうに)判るか?」
フォーチュン「『運命の輪』じゃぞ、判らいでか。運命を変えおったろう。死神の運命をそのままに、新たなる運命の道・・・厳密に言うなれば、変えた、のではなく、道幅を拡げた、といったところか・・・見事にしてやったり、じゃな。そして・・・(ハイエロファントとデスを交互に見て)そなたらふたりの運命が、強く絡み合っとる。しかし、未来は荒れておるぞ。先はまだ見通せん」
ハイエロファント「例え荒れていようと、僕は受け入れるよ。(デスを見詰め)デスと一緒に、歩いていきたい」
デス「(ハイエロファントを見詰め返し)あたしも、ハイエロファントと進む。未来が荒れようが、一緒なら、何も怖いものなどない」
フォーチュン「(フッ、と笑い)・・・その意気や良し!」
ザッ、と軽やかに踵を返し、タワーに走り寄っていくフォーチュン。
嬉しそうに、子供のような笑顔で、タワーのすぐ前に立つ。
フォーチュン「待たせたのう、タワー! 帰るぞよ!」
タワー、片膝を大地に着け、右腕を伸ばし、掌を上にして差し出す。
スタッ、とタワーの右手に飛び乗るフォーチュン。
ズズズズ・・・と右腕を上げていくタワー。頭頂部の高さまで掲げる。
フォーチュン、ぴょんっ、とタワーに飛び移り、欄干に手を掛ける。
それから俯いて、愛おしげに欄干を撫で、視線に陰を落とす。
フォーチュン「すまぬ・・・わらわの油断で、つらい目に遭わせたのう・・・」
タワー「(深い響きの声で)ワタシ・・・ダイジョウブ・・・フォーチュンサマ、イッショ・・・」
明るく柔らかい微笑みを浮かべ、目を細めるフォーチュン。
直後、くるり、と身体を回して、4人を見下ろす。
フォーチュン「(笑顔で)さらばじゃ! ドロップが欲しゅうなったら、いつでも挑んでくるとよい!」
ハイエロファント「フォーチュン! マジシャンとプリエステスのところには帰らないの!?」
途端。
ビクリ、と肩を跳ねさせ、顔を伏せて目線を外すフォーチュン。
ハイエロファント「ふたりは、ずっと待ってるんだ。君の帰りを」
フォーチュン、両手を欄干に置いたまま、曇った表情となる。
暫くの、間。
暫くの、間。
更に、間。
フォーチュン「(沈んだ声で)・・・元気でおる、とだけ伝えよ・・・」
俯いた状態で、右手で、トン、と欄干を叩くフォーチュン。
それが合図のように、ズオッ、と身体を起こして大地に立つタワー。
そして、ドスン、ドスン、と大きな足音を響かせ、荒野を岩山の方向に戻っていく。
頭頂部の欄干を、ギュッ、と握り締めて、未だ顔を伏せたままのフォーチュン。
4人が、後方に遥か小さい姿になってから、ギリッ、と奥歯を噛み締める。
フォーチュン「・・・今更・・・どの面下げて帰れというのじゃ・・・」
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