★ (数時間後)神殿・ハイエロファントとデスの寝室
深い夜の帳が降りている。星の煌きだけが、瞬いている窓の外。
サイドテーブルに灯るランタンの橙色の光が、ベッド上のふたりを浮かび上がらせる。
白い寝間着姿で、向き合って寝ているデスとハイエロファント。
並べた枕に頭を沈め、刹那げに眼差しを絡め合う。
すっ、とデスが左手を伸ばす。ハイエロファントの襟足から首の前に掛けて、指でなぞる。
喉仏の近くで、撫でた手を停めるデス。
デス「いつかは・・・この首に・・・刃を立てなければならない、のか・・・」
ハイエロファント「そうだね・・・」
デス「(自嘲気味に)キングの時ですら、切っ先が鈍ったんだ・・・お前の時は・・・」
直後、グッ、と奥歯を噛み締めるデス。
あっという間に涙腺が緩み、両目が潤いで満たされる。
デス、涙が零れそうになる寸でのところで堪え、左手を戻して口元に当てる。
デス「(声を震わせ)すまん・・・考えただけで・・・」
すぐさま、右掌でデスの髪を優しく撫で、そのまま彼女の頬に指を伝わせるハイエロファント。
ハイエロファント「せめて、僕の時は自分で逝ければいいんだけど、ね」
デス「それは、あたしが止める。いや・・・止めてしまう、だろうな・・・(フッ、と笑い)矛盾の極み、だな」
ハイエロファント、デスの左頬に右掌を当てた状態で、寂莫さを視線に込める。
ハイエロファント「むしろ・・・君を遺して逝けるのかな、って思うよ・・・」
デス、ハイエロファントの瞳に、物悲しき影を感じ取る。
脈が、ドキリ、と跳ねる。
ハイエロファント「(不安げに)魂となった後、君に送ってもらっても、戻ってきてしまうかも知れない・・・君と離れたくなくて、転生の輪に入らず、君の傍に、また・・・」
デス「ハイエロファント・・・」
ハイエロファント「(自嘲気味に)ごめんね、情けないこと言っちゃって・・・」
デス「いや・・・(少し嬉しそうに)そこまで言ってくれるとは、思わなかった・・・」
ず・・・とシーツの上で身体を動かし、ハイエロファントに擦り寄るデス。
彼女の頬に右手を触れたまま、至近距離でデスを見詰めるハイエロファント。
デス「考える時間も、覚悟を決めるまでの時間も、ある。心構えはしておく」
ハイエロファント「そうだね、時間はまだある。今日は、眠っておこうか?」
小さく頷くデス。
ハイエロファント、少し身体を起こして、デスに顔を近付けて被さる。
しっかりと重なる、ふたりの唇。
濃厚に密着させ、両瞼を閉じているハイエロファントとデス。
ゆっくりと、惜しむように唇を離す、ふたり。
ハイエロファント「おやすみ、デス・・・」
デス「おやすみ、ハイエロファント・・・」
腕を伸ばして、ベッドサイドテーブルのランタンの灯りを落とすハイエロファント。
足元の掛け布団を引き寄せ、デスと自分の肩まで覆ってから、再び横になる。
★ (更に数時間後)神殿・ハイエロファントとデスの寝室
深夜。
ふっ、と目を覚ますデス。寝室の天井が目に飛び込む。
暗い室内、細やかな星明りだけが窓から差し込んでいる。
急速に明瞭になっていく意識。パチ、パチ、と数回瞬きをする。
隣に顔を向け、寝ているハイエロファントを見詰める。
規則正しい静かな寝息。熟睡している様子。
デス、柔らかい微笑みを浮かべ、愛しさを包括した眼差しを注ぐ。
暫くの、間。
暫くの、間。
何かを思い出したような顔で、そっ、と掛け布団を剥いで身体を起こすデス。
ベッドから降り、サンダルを履き、雑音を出すことなく寝室の扉に手を掛ける。
音を殺し、隣室の小部屋に身体を滑り込ませ、慎重に扉を閉める。
★ 神殿・ハイエロファントの居室
居室の書斎机、ハイエロファントの座席後ろにある書棚。
そこに片膝を着いて屈み込み、下方にある引き出しに右手を掛けるデス。
スッ、と手前に引き、中にあるマジカルドロップが詰まった壜を取り出して持つ。
灯りのない居室に、虹色の輝きが放たれ、空間を鮮やかに染める。
じっ、と壜の中のドロップを見詰め続けるデス。
デス《すべては、ドロップで願いを叶えてから、始まった・・・ハイエロファントと、こうして暮らせるようになったのも、ドロップがきっかけだった・・・》
デス、懐かしむような顔をする。
しかしすぐに、表情を硬くして真剣な目線へと転化させる。
デス《結婚をしようが、しまいが、あたしはいつか、ハイエロファントの命も終わらせければならないのに変わりはない・・・自分が死ねない身体なのに、一番大切なあいつの命にも手を掛けねばならない・・・》
途端。
ギリッ、と奥歯を痛いくらい噛み締め、顔を深く伏せるデス。
ドロップの壜を両手で握り、両の瞼をきつく閉じて、口元を強く結ぶ。
デス《出来ない! どう考えても出来ない! 絶対に! 鎌を上げることすら出来ない!》
首を左右に振り、壜を祈るように掲げて持ち上げ、更に頭を下げて額を壜に押し当てる。
ジャラ、と壜の中のドロップが、動く。
その音を耳にして、ハッ、と何かに気付いたように顔を上げるデス。
視点をドロップに固定したまま、停止する。
長い、間。
更に、間。
デス《死ねない、身体・・・》
壜越しにドロップの輝きを、じっ・・・と凝視し続けるデス。
段々と目を丸くし始め、最終的に、答えを見出したような明るい表情を浮かべる。
デス《マジカルドロップなら!》
デスの心境に呼応した如く、キラ・・・と彩りを揺らめかせるドロップ。
★ (翌日の朝)神殿・食事の間
晴れた早朝。鳥の鳴き声が窓の外に聴こえる。
居間と台所を兼ね備えた、食事をする部屋。中央に小振りな食卓。
ハイエロファント、法衣に着替えており、台所に立っている。ミトラ(司教冠)は被らず。
小さなパンを10個ほど籠に盛り、テーブルの上に置く。
カチャリ、と廊下側の扉が開き、デスが入室してくる。
顔を上げて、笑顔を浮かべるハイエロファント。
ハイエロファント「おはよう、デス」
デス「おはよう、ハイエロファント」
柔らかく微笑みを返すデス。マントを装着していない以外は、普段の服。
既に食卓の上に並んだ、料理の乗った皿を確認してから、椅子に腰を下ろす。
デス「今日の夜、時間を作ってくれないか?」
ハイエロファント「もちろん、構わないけど・・・どうしたの? 改まって」
デス「相談が、ある。話に時間が掛かるから、余裕のある時にしたい」
ハイエロファント「(頷いて)解ったよ、じゃあ、夕食後でいいかな?」
デス「ああ。よろしく頼む」
ふたつのカップに牛乳を注ぎ、ひとつをデスの目の前に置くハイエロファント。
もう片方を自分の席の卓上に据え、ゆっくりと椅子に座る。
ハイエロファント「今日は、どの辺を廻るの?」
デス「サバンナの近くまで行ってみようと思う。過去に数回しか行ってない。帰りは、夕方になる予定だ」
ハイエロファント「気を付けてね。じゃあ、朝食にしようか?」
コク、と頷いて、ハイエロファントを見詰めるデス。
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