デスとハイエロファントの物語:REBOOT   作:桁石スミオ

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しりぞけ、もの悲しき影 【第4話】

★ (その日の夜)神殿・ハイエロファントの居室

 

 陽が完全に隠れ、夜のしじまの中にある、窓の外。

 窓の柱と、反対の壁の柱にあるランプが、橙色で部屋全体を照らしている。

 ハイエロファント、窓際に置いてある背凭れのある椅子を、移動して書斎机の近くに置く。

 続いて、書斎机の自分の椅子を、先ほど動かした椅子と向かい合わせにする。

 それを確認してから、窓を背にして座るデス。同時に自分の椅子に腰を下ろすハイエロファント。

 膝頭同士が、拳2つ分くらいの距離。

 服装は、ふたりとも普段と同じ。ハイエロファントはミトラ(司教冠)を被り、デスは大鎌を傍らに置く。

 

デス「すまんな、わざわざ時間を取ってもらって」

ハイエロファント「(笑顔で)どういたしまして。それじゃ、話してくれる?」

 

 揺らがない眼差しを合わせる、ふたり。

 

デス「相談、だが・・・(意を決したように)あたしは、ドロップで叶えたい願いが、出来た」

ハイエロファント「(感心した表情で)じゃあ、あのドロップ、使うんだ?」

デス「お前に譲ると言っておきながら、勝手な話なんだが・・・」

ハイエロファント「(首を振って)ううん、もともと君が手に入れたんだもの、君が使うのが当然だよ。それで・・・願いは、何? 聞かせてくれる?」

デス「(頷いて)ああ」

 

 すぅ、ふうう、と一度深呼吸をするデス。

 ゴクリ、と一度唾を飲み込んで、真っ直ぐハイエロファントに眼差しを注ぐ。

 少しの、間。

 更に、間。

 

デス「(真剣な眼差しで)あたしは・・・限りある命を、持ちたい」

ハイエロファント「え・・・」

 

 僅かに驚いた表情で、目を少し見開くハイエロファント。

 

デス「昨日、来たるべき最後の時の話をしたろ? あたしが死神である以上、最愛のお前ですら送らねばならないのは、揺るぎない運命だと思う。しかし・・・例えどんな覚悟でお前を送ったとしても、その後、この死なない身体で悠久の時を生きねばならないのは・・・(目を伏せ、重苦しい声で)煉獄すらも生温い日々・・・お前のいないこの世界を、ひとりで永らえるのは、生きながら地獄を彷徨うようなものだ。それを考えると・・・ハイエロファント、お前に大鎌を振り上げることなど、躊躇うどころか、不可能なんだ・・・」

ハイエロファント「デス・・・」

デス「だから・・・(顔を上げ)あたしは、自分にも『死』が欲しい。それも・・・(キュッ、と口元を結んでから、凛とした声で)ハイエロファントと同じ日、同じ時、同じ瞬間に! あたしの命を終わらせたいんだ!」

 

 一瞬、空気が張り詰める。

 ハイエロファント、口を半開きにして、ただひたすらデスを見詰め続ける。

 

デス「お前のいない時を、一分一秒足りとも過ごすことなく、お前を送ったその瞬間、あたしも逝く! そうなれるようになりたい! マジカルドロップで叶えたいんだ!」

 

 ハイエロファントの耳に、余韻をふんだんに含んで流れ込む、デスの言葉。

 真摯で実直な視線を、ぶれることなくハイエロファントに向けるデス。

 少しの、間の後。

 デス、顔を伏せて、瞼を半分閉じる。

 

デス「(重苦しい声で)だが、それは死神の使命も、役目も、運命もすべて放棄することになる。創造神の理に背くことになるだろう。許されないことなのは重々承知だ。でも・・・(再度、顔を上げ、切なげな声で)もしも叶えられるのなら・・・ハイエロファント、お前と、共に次の世に、旅立ちたい・・・」

 

 真正面から互いの目線を、互いの瞳の奥に向けている、ふたり。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 更に、長い間。

 小さく息を継ぎ、柔らかい微笑みを浮かべるハイエロファント。

 

ハイエロファント「・・・僕のことで、いっぱい考えてくれたんだね」

デス「(僅かに口元に笑みを浮かべ)お前が普段から思ってることに比べれば・・・(深い口調で)ただ、これはあたしの勝手な考えだ。お前の思ったことを聞かせてくれ・・・急に重い話をしてすまないが・・・」

 

 ハイエロファント、左腕を腹部辺りに横にして、右腕の肘を乗せる。

 そして右手の人差し指を鍵型に曲げ、自分の顎に当てる。

 目線を一旦外し、デスの首元に視界を落とす。

 そのまま、考える仕草を維持。

 

ハイエロファント「世の中のすべてには、終わりがあるよね。楽しいことも、つらいことも、悲しいことも、苦しいことも、全部・・・命も、当然終わりがある。生まれた以上、必ず死ぬ。それが父なる神の創られた真実だからね。そして、終わりがあるからこそ、今を乗り越えられる。どんなに苦しくったって、終わりがあると解っていれば、どんな艱難辛苦にも立ち向かっていける、と考えているんだ」

 

 眉を寄せ、難題を覚えたような顔を見せるハイエロファント。

 

ハイエロファント「でも、何故デスにだけ、それが与えられてないのかな、って・・・実は、ずっと思ってたんだよ」

 

 デス、微かに明るい表情となる。

 ハイエロファント、仕草を戻し、両手を膝の上に置く。

 

ハイエロファント「僕は、父なる神に仕える聖職者なんだけど、たったひとつ、君に関してだけ・・・君の命に限りがないのは、理不尽じゃないかな、とも思ってた。多くの悲しみや苦しみを背負っても尚、いつまでも終わらないのは・・・(目を伏せ、重い声で)余りにも、酷過ぎると感じてたんだ・・・」

デス「ハイエロファント・・・」

ハイエロファント「とは言っても・・・(顔を上げて)デス、君を失いたいわけじゃない。あれだけの、遺される怖さを思い知ったんだ・・・(顔を伏せ)同じ思いは、君に味わってほしくない・・・これこそ、僕の我儘なんだけどね・・・」

デス「大丈夫だ。我儘なんかじゃない。ハイエロファント、あたしもお前を失いたくない・・・死神の定めに反すると思うが、最早、この気持ちは抑えようがないんだ・・・」

 

 一呼吸置き、再度顔を上げて、デスと視線を結び合うハイエロファント。

 

ハイエロファント「(真摯な声で)君も、望んで構わないと思うよ。すべての生命は、等しく終わりを迎えるのが摂理だからね。それに・・・」

デス「(首を傾げ)それに?」

ハイエロファント「君を遺して逝くのじゃなく、後でもなく、先でもなく・・・(柔らかく微笑んで)一緒に旅立てるのは、至上の喜びだと思う。最後にして、最高の幸せとも言えるね」

 

 途端。

 白目を大きくして、両方の目を開いて輝かせるデス。

 深く大きく頷き、満面の笑みを惜しみなく見せるハイエロファント。

 

ハイエロファント「だから・・・(凛とした声で)叶えよう、君の願いを」

 

 暫くの、間。

 暫くの、間。

 じわ、とデスの瞳に、潤いの膜が張る。

 この上なく嬉しそうに、可愛らしい微笑みを浮かべるデス。

 

デス「ありがとう、ハイエロファント・・・何度も言うが、本当にお前で良かった」

ハイエロファント「こちらこそ、ありがとう、デス・・・僕も、本当に君で良かったよ」

 

 喜びを隠すことなく、交わす眼差しと笑顔に溢れさせる、ふたり。

 デス、短く息をつき、背筋を伸ばす。

 

デス「それと・・・遅くなったが、昨日の返事をしたい」

 

 同時に、居住まいを正して座り直す、ふたり。

 ゴク、と一度唾を飲み込むデス。

 

デス「・・・あたしで、いいんだな?」

 

 表情を窺うように、若干抑え気味の目線になるデス。

 まったく変わらない微笑みを維持しているハイエロファント。

 

デス「本当に、死神のあたしで、いいんだな?」

ハイエロファント「(大きく深く頷き)君でなくてはいけないんだ。死神の君だからこそ、妻になってほしい」

 

 パアァァァ・・・と、弾けるように笑顔を取り戻すデス。

 優しく穏やかに目を細めるハイエロファント。

 

デス「今後とも・・・(深々と頭を下げ)よろしく頼む」

ハイエロファント「(満面の笑みで、頭を下げ)よろしくお願いします」

 

 礼をし合う、ふたり。

 暫くその体勢を保ってから、ほぼ同じように頭を上げて戻す。

 

ハイエロファント「それじゃあ、ドロップで願いを叶えるのと・・・式も今から挙げようか?」

デス「式?・・・(ハッ、と気付き)結婚式、か!?」

ハイエロファント「そう、結婚式。僕たちふたりだけで」

デス「(頬を朱に染め)あたしたち、ふたりで・・・今から!?」

ハイエロファント「ここは神殿だよ。そして、僕は式典を司る、法王。何の不足もないよ」

デス「(慌てたように)待ってくれ! ちょっと急過ぎて、その・・・心の準備が・・・」

 

 デスを見詰めたまま、ニコニコ、と笑顔を向けているハイエロファント。

 目を何度も瞬かせ、赤くなったままのデス。

 少しの、間。

 デス、自然と落ち着きを取り戻し、ふーっ、と息を吐いて口元に笑みを湛える。

 

デス「・・・判った、待たなくていい。了解だ、お前の言う通りにしよう」

ハイエロファント「(一際、ニコッ、と笑顔を浮かべ)じゃあ、行こうか」

 

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