★ (数日後)街はずれ・森の入り口に近い橋の上
少し雲が多いが、たまに陽が差す天気。
街並みを抜け、小さな川の近くを歩くジャスティス。
笑みを湛えた表情で、鼻歌混じりに、石造りのアーチ型の橋を歩いて渡り始める。
橋の中ほどを越えたところで、先に見える森の入り口から出てきたデスの姿が目に飛び込む。
ジャスティス「あ! デス!」
デス「(露骨に、聞こえるように)・・・チッ」
途端、一瞬で彼女を睨み付け、背中の大剣を、スラッ、と抜くジャスティス。
それを正眼で構え、両足を踏ん張り、奥歯を食い縛る。
ジャスティス「何処に行く!」
デス「(低音の声色で)・・・邪魔だ。道を開けろ」
ジャスティス「(活力を込め)逃げるのか! 勝負しろ! 首刈りなんかさせるか!」
デス「お前と喋っている暇はない。時間の無駄だ。そこを退け」
ジャスティス「時間? 誰かと待ち合わせてる訳でもないだろ!」
直後。
ビクッ、と一度肩を上げ、目線を逸らし、両頬を鮮やかな紅に染めるデス。
デス「(口籠った声で)お、お前には関係ない、ことだろ・・・(小声で)確かに待ち合わせてはいないが・・・」
背景が暗転し、白色化して硬直するジャスティス。
沈黙。
沈黙。
ジャスティス《・・・へ?》
未だ頬を赤らめているデスをしっかりと目に映し、思考を停止するジャスティス。
更に、間。
突然、猛烈な衝撃と昂ぶりが競り上がってきたような、驚愕の顔となる。
ジャスティス《(目を見開いて)ええっ? 何? 何で? 何で赤くなってるの? 何でテレてんの?》
口を、あんぐり、と開けたまま、デスの姿を真剣に見詰めるジャスティス。
ジャスティス《て、ゆうか・・・こんなデス初めて見るんだけどー!》
頬に熱を帯びたまま、キッ、とジャスティスに視線を投げるデス。
それを目にしながら、段々と冷静さを取り戻すジャスティス。通常の状態に戻る。
やがて、正眼の構えを解き、大剣を右手に持って下げる。
ジャスティス「(ふう、と息を継ぎ)首刈りに行く雰囲気じゃなさそうだね。じゃあ、誰かに逢いにいくのかい?」
デス「(一層頬を染め、冷や汗を飛ばし)だからっ! お前には関係ないと言ってる!」
ジャスティス「関係はないけどね、ちょっと気になる。だーって今までそんな顔、見せたコトないだろ?」
デス「(赤みを増し、いらついた雰囲気で)・・・そんなことはどうだっていい!」
ジャスティス「ふぅん・・・そのカンジだと、よっぽど急いでる、っていうか、よっぽどその人に逢いたがってそうだねー。(ニッ、と口元に笑みを浮かべ)何しろ、ボクが邪魔してる、ってみたいだからねー」
デス「(完全に赤くなって、呟くような声で)・・・頼むから・・・勘弁してくれ・・・」
左手の人差し指を顎に当て、斜め上に目を向け、考えるような仕草をするジャスティス。
ジャスティス「うーん・・・(後方を振り返り)この道って、確か神殿に行く道だよねぇ・・・神殿と言えば・・・」
途端、ビクウッッ!と激しい調子で全身を反応させるデス。
サーッ、と血の気が引き、どっ、と冷や汗が出て顔を伝う。
目を丸く見開き、小刻みに震えてジャスティスを見ている。
ジャスティス「ひょっとして行くトコって・・・(デスに向き直り)エロファントのトコだったりして!」
突然。
バヒュゥゥゥゥゥッ!と疾風のように走り去って、一瞬で米粒ほどに見える距離まで離れるデス。
遥か遠くのデスの背中が尚も小さくなっていくのを目にして、再び驚くジャスティス。
ジャスティス「(驚愕)速っ!!!」
茫然としたまま、立ち竦むジャスティス。
ジャスティス《もしかして、図星? ホントにエロファントに逢いに行こうとしてたんだ。しかもあの極端な反応ってば、ただ逢いに行きますってだけじゃなく・・・どう考えても・・・(ハッ!として)やっぱそうだよ! きっと! まんま『恋する乙女』じゃないか!》
最早見えなくなったデスの、走り去った方向を凝視し、一層の驚いた表情をしているジャスティス。
暫くの、間。
ふっ、と微笑みを浮かべ、身体を起こし、大剣を背中の鞘に、カシュッ、と収める。
ジャスティス《しっかし、そうかぁ。デスが、エロファントを、ねぇ・・・》
★ 森の道
道の途中で立ち止まり、ハアハア、と肩で息をしているデス。
道端の樹の幹に左掌を、バン!と叩き付け、思い切り項垂れ、一度大きく頭を振る。
デス「(腹の底からの大声で)あたしはそんっっっなに判りやすいのかぁ!!!」
それから、ふううう、と長い吐息をつく。
暫くして。
落ち着いた様子で身体を起こし、走ってきた道を振り返るデス。
デス《この道からは行けないな・・・仕方ない、遠回りするか》
★ 神殿・ハイエロファントの居室
書斎机に座っているハイエロファント。広げていた本を、パタン、と閉じる。
その向かいで、腰に手を当てて立っているジャスティス。
ハイエロファント「(顔を上げて)デス? 今日はまだ来てないけど?」
ジャスティス「最近、よく来るの?」
ハイエロファント「そうだね、最近よく相談に来てくれるんだ」
ジャスティス「そっか・・・」
一度扉の方を振り返り、再びハイエロファントを見るジャスティス。
ジャスティス「実はさっき、街はずれの、ホラ、森の入り口に掛かる橋んトコで逢ったんだよ、デスに」
ハイエロファント「(ピクッ、と反応し)へぇ、近くに来てたんだ」
ジャスティス「それがさぁ、ちょっと様子が変だったんだよね」
ハイエロファント「え? (心配気に)どうしたんだろ・・・どんな様子だったの?」
ジャスティス「何処に行くのかって聞いても答えてくれなかったし、誰かに逢うのかなって聞いてもはぐらかされるし、君の名前を出した途端、急に逃げちゃってさぁ」
途端。
ハイエロファントの頭上が、どよ~ん、と暗くなる。
顔の上部に影が落ち、縦線が何本も入る。虚ろで焦点の合わない目。
ジャスティス「(驚いて)ちょっとエロファント! 何落ち込んでんだい!」
ハイエロファント「(沈み切った声色で)・・・な・・・何でもないよ・・・大丈夫だよ、落ち込んでないよ・・・」
ジャスティス、はあぁぁ、と長い溜め息を漏らし、腕組みをして肩を一度上下させる。
ジャスティス「(眉を寄せて)うーん・・・ちょっと言い方が間違ってたかもね。逃げたっていうか、ボクがしつこく食い下がったから話を打ち切ったっていうか、そんなカンジ。それにさ・・・(ハッ、と気付いて)あ、そうだ。ねねね、聞いてよエロファント、デスったら今まで見たことない表情してたよ。何だかものすごーく赤くなったり、焦ってるみたいだったし、何か楽しみを邪魔されたような・・・デスのあんな顔、初めて見たから驚いたよ」
ハイエロファント「(一瞬で元の顔に戻り)えっ?」
ジャスティス「ボクが思うに、多分・・・多分だけどね、デスはキミんトコに来るつもりなんじゃないかな?」
ハイエロファント「だったら・・・(残念そうに)真っ直ぐ来てくれればいいのに・・・」
ジャスティス「ボクと偶然会っちゃったからね。そのまま来るワケにはいかなかったんだと思うよ。今までそんなトコ見せたことないしさ、まずテレ臭いんだろうし・・・それに・・・」
ハイエロファント「それに?」
直後。
扉の外からの音。こちらに近付いてくる、タン、タン、という足音がジャスティスの耳に届く。
ピク、と反応し、扉を振り返り、すぐに向き直ってハイエロファントに目線を送る。
ジャスティス「(ニッ、と笑い)後は本人に聞いた方が早いよ」
怪訝そうに首を傾げ、ジャスティスを見るハイエロファント。
その後、すぐ。
トン、トン、と扉が二度、ノックされる。
ハイエロファント「はい、どなた?」
デス(扉の向こうから)[あたしだ、ハイエロファント]
ハイエロファント「(パアァァァッ!と明るい笑顔になり)どうぞ! 入ってよ!」
デス(扉の向こうから)[邪魔するぞ]
ハイエロファントに視線を固定し、扉の延長線上から一歩、窓側に避けるジャスティス。
感心したような、また興味津々といった表情を向ける。
ジャスティス《おやぁ・・・急にテンション上がってる。これはひょっとしてエロファントも・・・》
ニッ、と楽しそうな笑みを口元に湛えるジャスティス。
扉が開かれ、デスが姿を現す。こちらを視界に映す。
途端。
大きく息を飲み、とてつもなく驚いた顔になるデス。目を見開く。
すぐさま、ジャスティスに怒りの表情を向ける。
そして、ダン!ダン!ダン!と荒々しく居室に踏み込んできて、ジャスティスの目の前に来るデス。
デス「(怒声)お前! 何故ここにいる!」
ジャスティス「あー、やーっと来たー。遅かったね?」
怒りの雰囲気を解かず、ジャスティスの耳元に顔を近付けるデス。
デス「(押し殺した声で)・・・ハイエロファントに何を喋った?」
ジャスティス「(意味あり気な含み笑いで)いーやーべーつーにーなーにーもー? 何もそーんな怖い顔することないじゃない? 折角来たってのに、雰囲気台無しだろ?」
ぐっ、と息を飲み込み、押し黙るデス。
今度はジャスティスが、デスの耳元に顔を近付け、内緒話をするように手を被せる仕草をする。
ジャスティス「(芯の通った小声で)安心しなよ。君とエロファントとの仲を邪魔するような野暮な真似はしないからさ」
デス「(ボッ、と赤面し)んなっ!」
ジャスティス「(顔を離し、やや声高に)頑張れっ!」
そして、ポンッ!とデスの肩を掌で一度軽やかに叩くジャスティス。
顔を赤くして、口を開いたまま覚束ない表情のデス。
ジャスティス、大股で扉の方に歩いて行き、くるり、と書斎机に身体を向ける。
ジャスティス「んじゃっ! お邪魔虫は消えまーす。バイバイ! エロファント」
ハイエロファント「あ、またね、ジャスティス」
ハイエロファントに向け、軽く右手を振るジャスティス。
開け放たれたままの扉から一歩出て、再度振り返り、ハイエロファントとデスを見る。
右手で扉の取っ手を引きつつ、左手をふたりに向けて何度か振る。
ジャスティス「(ニコッ、と満面の笑みで)おふたりさん、ごゆっくりー」
デス「(真っ赤になったまま)おまっ! 何を!」
パタン、と閉じられる扉。
赤面して汗を飛ばしながら、その扉とハイエロファントを交互に見るデス。
ハイエロファントは、じっ、とデスを見詰めている。
暫く、そのまま。
やがて、ふわっ、とした柔らかく温かい笑顔を満面に浮かべ、目を細めるハイエロファント。
ハイエロファント「(穏やかで優しい声で)よく来てくれたね。お茶淹れるから、座ってて」
デス「(一層赤くなって)あ・・・いつも・・・すまない・・・」
立ち上がり、窓際に寄せてあった背凭れのある椅子を、書斎机の前に移動するハイエロファント。
すぐ近くにハイエロファントが来たのを、目で追うデス。瞳が、微かに潤む。
茶の準備を始めたハイエロファントを見てから、やや緩慢な動作で、大鎌を扉の近くに立て掛ける。
それから、用意された椅子に腰を下ろすデス。
デス《まずいな・・・ジャスティスには完全に覚られた・・・いくら、邪魔しない、とか言われても、何かの拍子でハイエロファントにも伝わる可能性がある・・・(こめかみに手を当て)はぁぁ・・・まさかこんな展開になろうとは・・・何しろ未知の経験だ。どうすればいいのか判らん!》
ハイエロファント「大丈夫? もしかして、頭が痛いの?」
デス「(ビクッ、として、ひっくり返った声で)だ! 大丈夫だ! 別に頭痛な訳じゃない!」
ハイエロファント「ホント? 無理してない? もし体調が悪いんだったら、奥の部屋にベッドがあるから、休んでもらっても構わないよ」
デス「(上気して)ベッ! ベッドぉ!?」
ハイエロファント「僕はここにいて、誰も通さないし、様子も見に行くから、心配しないで」
デス「(焦って)・・・いや! 本当に大丈夫だ! 起きていられる!」
右掌を前に突き出し、プルプル、と首を何度も降るデス。
ハイエロファント、尚も心配げな視線を送っている。
しかし、やや落ち着いたようなデスの瞳を目にして、小さくはっきりと頷く。
ハイエロファント「解ったよ。(柔らかく微笑み)じゃあ、折角だから・・・」
ハーブティーを、トプトプ、とポットからカップに注ぐハイエロファント。
いつも通り、二客のカップをトレーに乗せ、一客をデスの前に置く。
ハイエロファント「どうぞ。いつものお茶だけど、飲んでよ」
デス「(口元に少し笑みを浮かべ)・・・頂こう」
もう一客を自分側の机に乗せ、椅子に座るハイエロファント。
それから、デスとハイエロファント、同時にカップを手に取って持つ。
視線を合わせ、一瞬掲げるような仕草をしてから茶を飲むふたり。
そして、ほぼ同時に受け皿にカップを戻す。
ふう、と短い息をつくハイエロファント。
ハイエロファント「それにしても、いつの間にジャスティスと仲良くなったの?」
デス「(顔を上げ、冷静な声で)あたしは仲良くなってないし、しているつもりもない」
ハイエロファント「でも肩、ポンッ、って叩かれて『頑張れ』って言われてたよね? ジャスティスはとても親し気に話してたし・・・友達同士みたいだった。君たちはよく以前、何かにつけては闘ってたからね、仲良くなるのはいいことだよ」
デス「(憮然と)あたしは奴と馴れ合うつもりはない。奴だけじゃない、他の誰ともだ。(頬を染め、呟くように)・・・お前さえ・・・いやその・・・」
ハイエロファント「何?」
デス「(慌てて)いや! 何でもない!」
きょとん、とした表情のハイエロファントの前で、急いでカップの茶を口に含むデス。
少し首を傾げて、微笑みを浮かべているハイエロファント。
デス、受け皿にカップを置き、覚れらない程度に奥歯を噛む。
デス《いかん!・・・流れで思わず本音を言いそうになる・・・》
暫くの、間。
ゆっくりと表情を変え、真顔になったハイエロファント。
眼差しは、ずっとデスに向けたまま。
ハイエロファント「・・・ちょっと、変な質問するけど・・・いいかな?」
デス「何だ?(ティーカップを口元に運ぶ)」
ハイエロファント「ジャスティスは、君の好きな相手を知ってるのかな?」
軽く、ブホッ、と口に含んだ茶をカップの中に噴くデス。
デス「(瞬時に赤くなり)や! それは!・・・(僅かに俯き)そんなこと、あたしが判るか!」
ハイエロファント「彼女には、話してないの?」
デス「(首を振り)話してない。話すつもりもない。前にも言ったろ、こんな相談出来るのはお前だけだ」
改めて茶を啜り、カップを受け皿に戻すデス。
それを目にして、少し俯くハイエロファント。何かを考えている様子。
暫くの、間が空く。
沈黙。
沈黙。
ハイエロファント、スッ、と顔を上げ、一度小さく頷き、ふう、と息を漏らす。
そして、何かを決意した眼差しをデスに向ける。
ハイエロファント「差し支えなければ、でいいんだけど・・・君の好きな相手の、名前・・・教えてもらっていいかな?(微かに声を震わせ)・・・ほら、誰か判れば、その・・・アドバイスもしやすいし、ね・・・」
ハイエロファントを見詰め返し、一瞬表情を固めるデス。
直後、軽く首を振って、再び視線を送る。
デス「いや・・・それは矛盾しているから出来んな」
ハイエロファント「矛盾?」
デス「だってそうだろ、そいつに気持ちは伝えないことにしている。ここで名前を口にするのは、告白するのと同じだ」
再度、ティーカップを手にして、茶を口に含むデス。
ハイエロファント、目線をデスに固定したまま、動きを止める。
沈黙。
沈黙。
デスがカップを皿に戻す。カチン、という音。
ハイエロファント「・・・君が好きな相手のことって・・・僕以外に話してないんだよ・・・ね?」
デス「何度も言うが、お前だから話したんだ。お前にしか話してない」
ハイエロファント「・・・これからも、誰かに話すつもりは、ないの?」
デス「(きっぱりとした口調で)ない。話せるのはお前だけだ」
ハイエロファント「・・・ここで、僕に、相手の名前を言うのって・・・気持ちを伝えることなの?」
ハッ!と何かに気が付くデス。
思わず顔を上げて、そのまま凍て付く。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
見る見る目を丸く開き、表情が衝撃を受けたものへと変化する。
デスの顔から、一気に血の気が引く。全身が徐々に震え始める。
対して、少し頬に紅が差すハイエロファント。驚いたような表情。
ハイエロファント「それってもしかして・・・君が好きな相手って・・・」
デス「(小刻みに震えた声で)・・・あ・・・あ・・・」
突然。
ガタッ!と椅子を荒々しく除け、顔を伏せ、立ち上がりながら踵を返すデス。
そのまま一気に扉に走る。立て掛けてある大鎌を掴んで、扉を、バタン!と激しく開けて飛び出す。
それを見て、慌てて立ち上がるハイエロファント。
ハイエロファント「(大声で)デス! 待って!」
振り返らず、扉を開け放ったままで廊下を走り出すデス。
速い足音が遠ざかる。
ほとんど間を置かず、扉から走り出るハイエロファント。
【 第3話へ 】