デスとハイエロファントの物語:REBOOT   作:桁石スミオ

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しりぞけ、もの悲しき影 【第5話】

★ 神殿・拝殿第二列柱室

 

 左右の壁はなく、風が抜けられる構造の第二列柱室。

 柱が数多く均等にそびえ立ち、屋根を支えている。天井までが、他の建屋より一際高い。

 外側を囲むように、回廊が設置してある。ランプが均等に並ぶ。

 回廊沿いには丸く太い柱が両側に並び、片面が祭壇室側の柱、もう片面は庭に通じており、外部に出られる。

 居住殿から渡り廊下を進み、歩いていくハイエロファントとデス。

 デスは大鎌を左肩に掛け、ハイエロファントは右手にマジカルドロップ入りの壜を持つ。

 ぐるり、と回廊を周り込み、半周し、祭壇室入り口と第一列柱室の境に立つ、ふたり。

 踵を返し、目の前、祭壇室内の中央通路に目線を投げる。

 

ハイエロファント「祭壇室に入るのは、初めて?」

デス「(頷いて)ああ。この回廊はよく通ったが・・・至聖所は死神が立ち入っていい場所じゃないだろう」

ハイエロファント「そんなことないよ。じゃあ今後は、遠慮なく入ってね」

 

 ハイエロファントがやや前を先導する状態で、デスと並んで通路に踏み込んでいく。

 

 

★ 神殿・列柱室奥の祭壇室『至聖所』

 

 第二列柱室中央通路を進んでいく、ハイエロファントとデス。

 左右に3列に連なる丸い石柱、その柱の間から、中庭を望むことが出来る。

 石柱に備えられたランプが、橙色で明るく照らす。夜の涼しい風が、微かに流れてくる。

 中央通路突き当りに、三方を巨大な大理石の壁で囲まれた区画。大きなランプが数個設置されている。

 頑丈な白色の石で組み上げられた祭壇がある。祭壇の棚は3段。

 祭壇の奥、最上段中央に屹立している、等身大の人型の像。御神体と思われる。

 通路から一段高くなった壇に昇るハイエロファント。

 壇を上がらずに、手前で踏み止まり躊躇するデス。

 ハイエロファント、すぐに振り向いて、彼女に左手を差し出す。

 デス、少し戸惑うが、思い切って彼の手を右手で掴み、壇を踏み上がる。

 奥の神体像に向かい、身体を正対させる、ふたり。

 手にしたマジカルドロップの壜を、祭壇一段目の奥側に供えるハイエロファント。

 

ハイエロファント「大鎌、貸してくれる?」

デス「(大鎌に目を遣り)あ、ああ」

 

 左手に持った大鎌を差し出すデス。

 それを両手でしっかりと受け取り、同じ祭壇に横にして置くハイエロファント。

 その後、左右の掌を胸の前で真上に向け、目を閉じる。

 

ハイエロファント「(静かな口調で)聖なる力・・・」

 

 ハイエロファントの掌と掌の間に純白の光が繋がれ、棒状の形を成す。

 光が瞬時に拡散し、中からバクルス(司教杖)が現れる。

 両手で握って、祭壇の同じ段に横にして並べる。

 祭壇一段目奥から、ドロップの壜、デスの大鎌、ハイエロファントのバクルス。

 

ハイエロファント「これで良し、と」

 

 確認して大きく頷き、デスを振り返るハイエロファント。

 

ハイエロファント「これから、ドロップを使おう。将来、僕の命を終わらせたのと同時に、君の死神の運命と使命を完了として、君と僕の魂は、転生の輪に入る・・・それを、願いを叶える前に、父なる神に申告しようと思う。いいかな?」

デス「(頷いて)任せる。本当はあたしが言うべきなんだろうが、創造神の怒りを買っても何だ・・・お前が言った方が許しを請えるからな」

ハイエロファント「お怒りは買わないけど・・・それじゃあ、少し待っててね」

 

 ハイエロファント、祭壇に正対し、両膝を床に着け、膝立ちの体勢になる。

 それから両掌を胸の前で合わせて組み、瞼を閉じて顔を少し伏せる。

 一歩後ろに下がり、ハイエロファントを見詰めるデス。

 

ハイエロファント「(透明感のある声で)我ら、父なる神の御前に・・・申し上げます」

 

 途端、デス、ハイエロファントの隣に屈み込み、彼と同じ体勢を取る。

 思わず目を開けて、彼女を見るハイエロファント。 

 

デス「祈祷などしたことがないが・・・あたしの使命のことだ。やり方を教えてくれ」

ハイエロファント「(微笑んで)じゃあ、僕と同じように・・・そう、両膝を揃えて・・・うん、それでいいよ。後は、胸の前で手を組んで、少し頭を下げて・・・目を閉じて・・・お祈りの言葉は、全部僕が言うから、君はそのままで・・・僕たちのこれからを、心に描いてくれていれば、大丈夫だよ」

 

 ハイエロファント、再び正面を向いて、両目を閉じる。

 まったく同じ姿勢で、神体像に低頭している、ふたり。

 

ハイエロファント「死神、デス・・・彼女に給わされた御使命を、法王、ハイエロファントの命の終わりをもってして解き放ち、デスとハイエロファント、両名の魂を幽世への旅路に就かせることを、只今からマジカルドロップにて祈願いたします・・・デスに課せられた、背負ってきました重き定めを鑑みまして、何卒、御許し賜りますよう・・・(深く頭を垂れ)御願い奉ります」

 

 次の、瞬間。

 ハイエロファントのバクルスの青い石が、パアアァッ・・・と純白に発光する。

 圧さえ感じる光量に、ハッ、と両瞼を見開くデスとハイエロファント。

 光は、数秒間、続く。

 やがて、静かに治まり、静寂が訪れる。

 暫く沈黙して、眼差しを絡ませ合う、ふたり。

 

デス「(驚いた表情で)今・・・光った、か?」

ハイエロファント「うん・・・僕の杖が、光った、ね・・・」

 

 微笑みを湛え、デスを優しい視線で見詰めるハイエロファント。

 

ハイエロファント「認めて下さったんだ・・・願いを叶えてもいい、と・・・」

 

 少しの間、やや茫然とした様子で視線を返すデス。

 ハイエロファント、立ち上がって、祭壇奥に置いたドロップの壜を持ち、手元に戻す。

 続けて腰を上げて、ハイエロファントを注視しているデス。

 彼女と向かい合い、キュッ、と壜の蓋を開け、デスに差し出すハイエロファント。

 

ハイエロファント「どうぞ」

デス「ああ・・・」

 

 右手で壜の中から、一粒だけマジカルドロップを摘まみ出すデス。

 それを指で持ったまま、ふたりの間の眼前で掲げる。

 ハイエロファント、壜の蓋を閉め、左手に持って下げる。

 

デス「(ゴクリ、と唾を飲み込み)・・・言うぞ」

 

 頷くハイエロファント。少し、緊張した面持ち。

 

デス「あたしの願い・・・あたしは・・・あたしの運命を変える・・・」

 

 途端、ドロップを持ったデスの右手に、ハイエロファントの右手が添えられる。

 驚くデス。ハイエロファントと、眼差しが絡む。

 

ハイエロファント「僕も、願うよ。一緒に、願おう」

 

 僅かの後、コクン、と微笑んで頷くデス。

 ふたりの目線が、マジカルドロップに繋ぎ止められ、一本となる。

 

デス「(芯の通った声で)あたしの命を、ハイエロファントと同じ日、同じ時、同じ瞬間に終わりにする! そして! あたしとハイエロファントで! 共に来世に旅立ちたい!」

 

 直後。

 パアアアアァァァッッッ!!!と鮮烈な輝きを放つドロップ。

 凄まじい虹色の光の奔流。それが、デスとハイエロファントを覆う。

 七色の光の帯が、ふたりを包み込んで渦を巻く。

 同時に、身体全体が白色光を放ち始める、ふたり。

 デスとハイエロファント、驚きの表情のまま、声も上げずに、ただ見詰め合う。

 暫く続いた発光現象は、緩やかに収束し、やがて、クルン、とふたりを囲むように一周して消える。

 既に、ふたりが持っていた一粒のドロップは、ない。

 静寂。

 静寂。

 何度も瞼を瞬かせる、デスとハイエロファント。

 

デス「(茫然として)・・・叶った、のか?」

ハイエロファント「(頷いて)うん、叶ったと思うよ」

 

 微笑みを浮かべるハイエロファント。

 ほぉっ、と安堵の溜め息を漏らすデス。表情を緩める。

 ハイエロファント、左手に持ったドロップの壜を、胸の前に掲げる。

 

ハイエロファント「じゃあ今度は・・・僕が願いを掛ける番だ」

デス「(驚いて)え?・・・お前の、願い?」

ハイエロファント「直前まで黙ってて、ごめんね。でも、君の願いを叶えてからでないと、僕の願いは叶わないんだ」

デス「あたしの願いの後、でしか叶わない・・・(顔を上げ、ハイエロファントを見詰め)言ってくれ、どんな願いだ」

 

 一度大きく深呼吸をして、デスに真剣な視線を向けるハイエロファント。

 

ハイエロファント「君と僕は、同じ日、同じ時、同じ瞬間に輪廻に入れることになった。一緒に旅立ち、一緒に彼岸へ渡れることまでは、決まった・・・そこから先なんだけど・・・(重めの声で)新しい世に生まれ変わったら、僕たちは違う生を歩むことになることになる、よね・・・今、こんなにも愛しい君への想いも、生まれ変わったら・・・なくなってしまうかも知れない・・・そうなるのが転生の常、なのだろうけど・・・(一層重厚な声色で)忘れたくないんだ・・・デス・・・君のことも、君への気持ちも、君が愛しくてたまらな想いも、全部・・・ひとつ残らず・・・」

 

 ただひたすら、ハイエロファントの言葉を沁み込ませるように聞き入るデス。

 やや俯いて、切なげな目線を彼女の口元に向けるハイエロファント。

 

ハイエロファント「(自嘲気味に)本当に、何て欲深いんだろう、って思うけど・・・もう・・・抑えようがない気持ちなんだ・・・」

 

 途端。

 バッ、と顔を上げ、きり、と眉を寄せ、実直な表情となるハイエロファント。

 

ハイエロファント「(真摯で凛とした声で)デス、僕は! 次の世も! その次の世も! 何度転生しても君と出逢って! 何度生まれ変わっても君と一緒にいたい! ずっと、ずっと、ずっと一緒にいたいんだ!」

 

 直後。

 正円に近い程に目を丸く見開き、すべての動きを停止させるデス。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 堅く、しっかりと結ばれている、互いの眼差し。

 

ハイエロファント「(深遠な響きの声で)それが・・・僕の願い、なんだよ・・・」

 

 暫くの、間。

 更に、間。

 デスの目頭から、ぽろ、と落涙。

 続けざまに、ぽろ、ぽろ、つぅ・・・と次々と流れ出す、涙の滴。

 デスの唇が、感嘆の余り震え出し、そして緩やかな微笑みへと変化していく。

 

デス「ハイエロファントぉ・・・」

 

 尚もデスの頬を伝う、煌く涙の筋。

 ひくっ、ひくっ、と喉元を鳴らし、嬉しそうに目を細め、温かさを醸し出す泣き笑いの表情を見せるデス。

 一歩近付き、彼女の両肩に左右の掌を、そっ、と添えるハイエロファント。

 

デス「(しゃくり上げて、笑顔で)本当に・・・どれだけ嬉しがらせれば気が済むんだ・・・」

ハイエロファント「ごめんね、デス・・・何度も泣かせちゃって・・・」

デス「駄目だな、あたし・・・泣いてばかりだ・・・すまない・・・」

ハイエロファント「大丈夫だよ。僕の前では、どんな顔をしたって」

デス「(ハイエロファントに眼差しを向け)それと・・・本当に、いいのか? 転生してからも、あたしと、なんて・・・」

ハイエロファント「(デスと眼差しを絡め)君でなくては、いけないんだ。君だからこそ、永遠を願いたい」

 

 緩やかに、落ち着いた微笑みになっていくデス。

 涙も、自然に止まっている。

 

デス「・・・来世までも、楽しみになりそうだ」

ハイエロファント「その前に、今の僕たちの生を、いっぱい満喫しよう」

 

 しっかりと頷き合う、ふたり。

 ハイエロファントの左手から、壜を両手で受け取るデス。

 キュッ、と壜の蓋を開け、ハイエロファントに差し出す。

 右手で壜の中から、一粒だけマジカルドロップを摘まみ出すハイエロファント。

 それを指で持ったまま、ふたりの間の眼前で掲げる。

 デス、壜の蓋を閉め、左手に持って下げる。

 

ハイエロファント「ドロップよ・・・願いを叶えてほしい・・・」

 

 途端、ドロップを持ったハイエロファントの右手に、デスの右手が添えられる。

 デスとハイエロファントの眼差しが絡む。

 

デス「あたしも、願う。共に、願おう」

 

 僅かの後、コクン、と微笑んで頷くハイエロファント。

 ふたりの目線が、マジカルドロップに繋ぎ止められ、一本となる。

 

ハイエロファント「(芯の通った声で)デスと僕は、何度生まれ変わってもまた巡り逢って! また想いを交わし合い! いつまでも、いつまでも、いつまでも! 遥か悠久の時を! ずっと一緒にいたい!」

 

 直後。

 パアアアアァァァッッッ!!!と鮮烈な輝きを放つドロップ。

 先ほど同様、凄まじい虹色の光の奔流。それが、デスとハイエロファントを覆う。

 七色の光の帯が、ふたりを包み込んで渦を巻く。

 同時に、身体全体が白色光を放ち始める、ふたり。

 デスとハイエロファント、にこやかな表情で声を出さずに、ただ見詰め合う。

 暫く続いた発光現象は、緩やかに収束し、やがて、クルン、とふたりを囲むように一周して消える。

 既に、ふたりが持っていた一粒のドロップは、ない。

 静寂。

 静寂。

 同時に、コクン、と大きく頷くデスとハイエロファント。

 

デス「(柔らかく微笑んで)叶った、んだな・・・」

ハイエロファント「(柔らかく微笑んで)うん・・・叶った、よ・・・」

 

 溢れんばかりの愛しさを込めた眼差しを絡ませ合う、ふたり。

 

ハイエロファント「このまま、結婚式を挙げて、いいかな?」

デス「(大きく頷いて)ああ・・・頼む」

 

 まだ幾つかのドロップの入った壜を、ハイエロファントに手渡すデス。

 受け取り、祭壇の奥に改めて供えるハイエロファント。

 再び、祭壇と神体像に正対して、並んで立つふたり。

 途端。

 クル、と右側後方を振り返って、数本後ろの柱の方向に顔を向けるデス。

 暫く、じっ、と目線を投げ、訝し気な表情を浮かべる。

 それに気付き、デスと同じ付近に視線を送るハイエロファント。

 デス、首を傾げながら、祭壇に向き直る。

 ハイエロファント、彼女の横顔に視界を移す。

 

ハイエロファント「どうしたの?」

デス「(怪訝そうに)いや・・・(改めてハイエロファントを見て)誰かがいたような気配がしたんだが・・・気のせい、か・・・」

 

 同時に、すぅ、ふう、と一度大きく息をする、ふたり。

 神体像を見上げる。やや緊張した面持ち。

 

ハイエロファント「(よく通る声で)只今より、デスとハイエロファント、両名の『婚姻の儀』を執り行います。始めに、この婚姻が祝福の許に結ばれることをここに宣言し、祈りをもって父なる神への言葉に代えさせて頂きます」

 

 すっ、と両手を胸の前で組み合わせるハイエロファント。目を閉じ、頭を下げる。

 すぐさま同じ動作と姿勢を取るデス。

 暫く、そのまま。

 ハイエロファント、瞼を開き、手を解いて元に戻す。デスも続けて同じ動き。

 

ハイエロファント「では、『言問の儀』を行います。父なる神の御前で、婚姻を結びし互いの名を宣言し、この婚礼に偽りなきことを問います。新郎、ハイエロファントよ、おのれの妻となりし者の名を答えよ」

 

 一呼吸、置くハイエロファント。

 

ハイエロファント「デス」

 

 きゅっ、と口元を結ぶデス。

 

ハイエロファント「続いて、新婦、デスよ、おのれの夫となりし者の名を答えよ」

 

 すぅ、と空気を吸い込み、きり、と神体像に視線を固定するデス。

 

デス「ハイエロファント!」

 

 柔らかく、満足気な微笑みを湛えるハイエロファント。

 

ハイエロファント「よろしい。互いに口にせし名の者を、これからの人生に於ける良き連れ合いとし、永き道程を励まし合い、慈しみ、共に歩んで行くのです」

 

 ふう、と安心したような息を継ぎ、目線を下ろすデス。

 

ハイエロファント「では・・・『誓いの儀』を執り行います。接吻をもってして婚姻の誓いとし、今後共に生きる上でのすべての憂い、すべての物悲しき影を退け、並び往く道程に光あらんことを、願います」

 

 ハイエロファント、身体をデスに向ける。

 デス、身体をハイエロファントに向ける。

 より一層深く絡み合う、ふたりの眼差し。

 デスの両肩に、ハイエロファントの両掌が乗る。

 両瞼を閉じ、くい、と顎を上げるデス。

 両瞼を閉じ、顔を近付けていくハイエロファント。

 合わせられる、唇。

 一際深く、密度も濃く、すべての想いを互いの唇に伝えるように、重なる。

 長く、そのまま。

 尚も長く、そのまま。

 す・・・と、極めてゆっくりと、戻されていく唇。

 緩やかに開かれる、瞼。

 

ハイエロファント「(艶やかな声で)誓いは、成された・・・」

 

 僅かな距離で、互いの瞳の裡に視線を注ぎ合う、デスとハイエロファント。

 直後。

 

一同「「「(大音量で)結婚おめでとうーーーーーーっっっ!!!」」」

デス・ハイエロファント「「(驚愕)うわあっ!!!」」

 

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