列柱室全体に轟き渡る歓声に、激しく驚くデスとハイエロファント。
ガバッ!と、とっさに抱き締め合う、ふたり。
互いの背中に、ギュウッ、と両腕を回したまま、目を正円に開いて周囲を見渡す。
その、すぐ後。
列柱室の左右に立ち並ぶ柱の陰から、スッ、スッ、と現れる人影。
見る見る人数を増やしていき、ランプの灯りが各自の顔を浮かび上がらせる。
祭壇前に歩み寄っていく、ジャスティス、エンプレス、マジシャン、ハイプリエステス。
別の方向から、ストレングス親子、ガオガオ、他の子供たちが続く。
ス・・・と浮遊して、通路の向こうから距離を詰めてくるワールド。
総勢19名が、デスとハイエロファントのいる祭壇の前に集結する。
全員が、温かい笑顔を湛えて、こちらを見詰めている。
ハイエロファント「(茫然として)ちょっと・・・皆さん、どうしたんですかっ?」
ジャスティス「(ニッ、と笑顔で)もっちろん! 君たちふたりの結婚式に参列させてもらうんだよ!」
ワールド「ワタクシの『第三の目』に、あなた方が神殿の祭壇に向かうのが映りまして、何かの儀式を始められた様子・・・これはきっと結婚式、お祝いに駆け付けるしかない、と思いまして、皆さんにお声掛けして集まってもらったのですワ」
エンプレス「(一歩前に進み出て、ニヤ、と笑い)いやね、前っからさ、ジャス子とワールドの奴が『デスとエロファントが結婚する時は呼ぶ』って、ずっと言ってたのさ。しかもその日の為に、ひとりひとつ、マジカルドロップを渡しておいて『ドロップで一堂に会しましょう』とまで準備してたんだ。まーったく、虹のエキスの大量消費もいいトコだけど・・・お祝い事なら、別に悪かぁないねぇ」
ハイプリエステス「それもざますね、ワールド様ったらご自分のドロップで、先ほど『おふたりの挙式が終わるまでに集まれる方は神殿前庭に集合!』なーんて通信までなさって・・・折角ざますので、マジシャンさんとふたり、取るものも取り敢えず駆け付けた次第ざますのよ」
マジシャン「しかもまあ、私とワールドの魔力で、全員の気配を消して隠れ、誓いを成した時点で現れるという・・・なかなかのサプライズ計画、だったのであーる」
ストレングス(父)「途中でオレが気付かれかけたけど、ドッキリ成功だズォ!」
ストレングス「(満面の笑みで)ねぇねぇ! びっくりした?」
直後。
デス、わなわな、と震え出す。怯えた表情。
両目にいっぱいに涙を溜め、眉を寄せ、唇を固く結ぶ。
項垂れて顔を伏せ、瞼をきつく閉じる。
ぽろ・・・ぽろ・・・と、止めどなく溢れ落ちる、涙。
祭壇の足元に、落涙の跡が次々と広がる。
ハイエロファントにしがみ付き、小刻みに震え続けるデス。
一同「「「(息を飲んで)あ・・・」」」
茫然自失となる、参列者たち。
猫のように身体を縮ませるデスを、両腕でしっかと抱き締め、心配げに見詰めるハイエロファント。
ストレングス「(大慌てで)と、ととととととーちゃん、どうしようッ!」
ストレングス(父)「(大慌てで)ど、どどどどどどーしていいか判らんズォ!」
ハイエロファント、左腕でデスを包むように抱え、右手で、そっ、と彼女の頬の涙を拭う。
ハイエロファント「(優しい声で、囁き)びっくりしちゃったね・・・でも大丈夫だよ、デス・・・僕がいるから・・・」
そして顔を参列者に向け、きっ、ときつめの目線を投げるハイエロファント。
ハイエロファント「(諭すように)皆さん、お気持ちは嬉しいですが、あまり驚かさないで下さい。デスは、こういうことに慣れてませんから」
近くの者と顔を互いに見合わせ、気まずい雰囲気を感じ取る参列者たち。
空気が、重めに圧し掛かる。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
エンプレス、突然、バッ、と顔を上げて、ジャスティスを指差す。
エンプレス「ジャス子が悪いんだよッ!」
ジャスティス「(素っ頓狂な声で)はあっ!? 何でボクなのさっ! 確かに言い出しっぺはボクで、みんなで集まろうって言ったよ! だけど! 隠れてビックリさせようって言い始めたのはエンプレスじゃないか!?」
エンプレス「(目線だけを思い切り外し)・・・さーてねー何の話かねー解らないねー」
ジャスティス「(怒声)とぼける気かっ! 自分だけ責任逃れしようったってそうはいくかっ!」
右の拳を握り、怒りの表情で眼前に掲げるジャスティス。
途端。
両者の間に、スッ・・・と割り込み、両手を広げて掌を左右に向けるワールド。
ワールド「はい、そこまで。おやめなさい、ふたりとも。お祝いの儀式の最中ですワ」
ワールド、それからふたりの間を通り抜け、祭壇に向けて浮遊して近寄っていく。
ジャスティスとエンプレス、落ち着きを取り戻して、申し訳なさそうに少し俯く。
移動しながら、自分の身体を纏う一枚布の端を持ち上げ、指で、サッ、となぞる。
すると、ピッ、と布が裂かれ、ハンカチほどを大きさに分離される。
デスとハイエロファントのすぐ目の前まで到着し、切った布を四つ折りにして、デスに差し出すワールド。
ワールド「(穏やかな声で)デス、花嫁さんに涙は似合いませんワ。お拭きなさい」
一度、大きく瞬きをして、ワールドを視界に映すデス。
泣き濡れた顔のまま、おずおず、と右手を伸ばし、折られた布を受け取る。
それを確認し、慈愛に満ちた視線をデスに注ぐワールド。
ワールド「まずは、謝罪いたしますワ。(深々と頭を下げ)びっくりさせてしまい、本当にごめんなさい。勝手に儀式を『第三の目』で見てしまったのも、集まるように声掛けしたのも、隠れて驚かせてしまったのも、すべてはワタクシの仕組んだこと・・・責任はワタクシにあります。後ほど、如何なる苦言もお受けしますワ。ですから今は・・・どうか、婚礼の良き時間に、立ち会わせては頂けませんか?」
頭を垂れた状態のワールドを、茫然として見詰めるデスとハイエロファント。
ワールド「それと・・・(顔を上げ)どうか皆さんを大目に見てあげて下さい。ワタクシの声掛けに賛同して下さっただけでなく、あなた方の挙式の際にはお祝いに駆け付けたい、とおっしゃって下さった皆さんばかりですワ」
ワールド、右手、続いて左手を、大きく振って、参列者全員を示す。
その手の動きを目で追い、改めて全員を見渡すデスとハイエロファント。
緩やかに、ひとりひとりが微笑みを浮かべ始める。
全員が、慶びを込めた目線と、祝福の雰囲気をふたりに向けている。
暫しの、間。
段々と、静かに、普段の表情を取り戻していくデス。
ワールドから渡された布で、左右の頬を拭き、右手に握って腕を下ろす。
デスを見詰めて、安堵したように柔らかい微笑みとなるハイエロファント。
デス「(ふうう、と長い溜め息を吐き)・・・いや・・・醜態を見せちまった・・・」
ストレングス「(笑顔で)そんなコトないよ、デス! ちょっと可愛かったよっ!」
デス「(フッ、と微笑んで)そんなことは、ない」
ジャスティス「(笑みを浮かべ)いやホント! ボクも・・・(少し頬を染め)綺麗な涙だなぁ、って思った・・・」
デスとハイエロファント、眼差しを絡め合う。
ハイエロファント「(静かで、和らいだ声で)デス、大丈夫?」
デス「(落ち着いた声で)ああ・・・ハイエロファント、もう大丈夫だ」
祭壇を背に、参列者に身体を返すハイエロファント。
続いて、彼と肩を並べて立つデス。
デスの左手、ハイエロファントの右手は、しっかりと繋がれている。
ハイエロファント、微笑みを惜しみなく表情に出す。
ハイエロファント「皆さん! ありがとうございます! 今日、僕はここに、デスと婚姻を成しました。これからの長い道を、彼女とふたり、手を取り合いながら歩いて行きます。その旅立ちの日にこれだけ大勢の方々にお見送りを頂き、幸福と感謝の念に堪えません」
全身を耳にしたように聞き入り、静まり返る参列者一同。
ハイエロファント「皆さんご存知の通り、彼女は死神です。死神とは、生命環の一端を担う重要な役目です。すべての生命は誕生してから、成長し、生き、そして終焉を迎えます。現世での終わりを迎えた魂は、次なる世代への転生を待つことになりますが、その橋渡しをするのが死神なのです。それだけ重く大変な役目を背負い、また誰にも負担を押し付けることなく続けるということは、並大抵のことでは不可能です。苦痛を感じることもあったでしょうし、あるいは誰かに代わってほしい日があったかも知れません。しかしデスはそのようなことは一切せず、簡単には出来ない、しかしなくてはならない役目を担ってきたのです。 それが、どれほどの決意と意志であったか、皆さん想像してみて下さい・・・」
参列者全員の視線が、デスとハイエロファントを交互に見ている。
ハイエロファント「このマジカルランドに於いて、幼少からその役目を続けてきたデスは、僕が尊敬する素晴らしい女性です。僕は彼女を最高の女性と感じ、妻になってほしいとお願いしました。そしてデスは、僕を人生の連れ合いとして選んでくれました。今日、この日を迎えることが出来て、心の底から嬉しく思っています。最良の挙式を行えたことと、多くの方々が集まって下さったことに感謝し、最後に僕の、デスへの想いをここに表して挨拶とさせて頂きます」
ぎゅっ、とデスの左手を強く握り締めるハイエロファント。
ハイエロファント「(透き通った声で)デスは、僕の命、僕の愛そのものです」
僅かの間の、後。
一斉に、参列者たちが拍手。
笑顔で両掌を叩き、ひとりひとりが目を細めてふたりを見ている。
傍らで、頬を鮮やかに染め上げ、ハイエロファントの横顔を見詰めているデス。
この上なく嬉しく、蕩けるような表情。
拍手が、緩やかに収まる。
一旦、静けさが訪れる。
暫くの、間。
突然、ハッ、と気付いて、参列者たちを見渡すデス。
全員の目線が、自分に集中している。
デス、状況が理解出来ず、きょろ、きょろ、と左右に視線を飛ばす。
徐々に、周囲の無言の要求を感じ取る。
隣で、少し心配そうにデスに眼差しを固定しているハイエロファント。
デス「(赤くなって)もしかして・・・あたしも? あたしも何か言わなきゃならんのか?」
エンプレス「(ニコ、と笑って)折角だ! 何か喋りな!」
ハイプリエステス「(笑顔で)聞きたいざます! デスさん!」
デス「(ハイエロファントを見詰め)ど・・・どうしたらいい?」
ハイエロファント「(デスを見詰め返し)無理はしなくていいよ。僕の挨拶で充分だと思うから」
ゴクリ、と唾を飲み込むデス。
やや目を伏せて、それから何かを決意したような意志を漲らせ、ハイエロファントを瞳に映す。
デス「お前みたいに上手く喋れない、が・・・」
改めて、参加者たちに顔を向けるデス。
一瞬、口端が覚束なく震える。しかし、引き締めるように一度結び、口を開く。
デス「・・・あ、あたし・・・正直言って、こんなに大勢が集まるなんて夢にも思ってなかった」
参加者全員の意識が、デスに繋ぎ止められる。
デス「(顔を伏せて)あたしは、死神だからな・・・疎ましく思われ、忌み嫌われ、存在すら拒まれるのが普通だ。『死』は避けて通りたいのが、生ある者の当たり前の感情だと考えてる。だから・・・(顔を上げ、穏やかな顔で)今、とても不思議な気持ちだ。信じ難い、と感じてる一方、嬉しい、と思っている自分がいるんだ」
段々と口元を緩め、目元も和ませているデス。
デス「ハイエロファントは、あたしの人生そのものだ。あたしの最愛だ。生きていく上で、ハイエロファントとなら上手くやっていけそうな気がする。いや、あたしはハイエロファントと一緒でなければ、永らえるつもりはない。他の何人でもない、ハイエロファントでなければならない・・・だからこれから先は・・・ハイエロファントと共に、残る生を歩いていく。例え脅かす者があろうと、何も恐れない。あたしの隣に、ハイエロファントがいてくれるからな」
ハイエロファントを見詰めるデス。
微笑みを浮かべてデスを見詰めるハイエロファント。
デス、再度、参列者側に目線を投げる。
デス「(真剣な表情で)あと・・・これは、どうしても言わければならない・・・」
きり、と眉を寄せ、崇高な雰囲気を全身に漂わせるデス。
デス「あたしは、お前たちの命に終わりを告げに行くことも、ある筈だ。それが死神だからな・・・あたしは、お前たちに『死』を与えねばならん瞬間が必ず来る・・・それを、無理に受け入れろとは言わない。あたしを拒絶しても構わない。だがもし、現世での終わりをあたしに委ねてもいいのなら・・・その時は・・・」
バッ!と、ワールドから受け取った布を握り締めたまま、右腕を高々と挙げるデス。
全員の視線が、デスに結ばれる。
デス「(凛とした声で、高らかに)お前たちの来世への旅立ちは、あたしが責任を持って保障する!」
沈黙。
沈黙。
沈黙。
そして。
万雷の、拍手。
強く、大きく、怒涛のように打ち鳴らされる、拍手。
沸き起こる、歓声。
いつまでも、いつまでも続く。
轟く拍手と歓喜の声を全身に浴びている、デスとハイエロファント。
デス、右腕を下ろして、ハイエロファントに眼差しを注ぐ。
ハイエロファント、はち切れんばかりの満面の笑みを湛えて、デスに眼差しを注ぐ。
直後。
突然、祭壇に向けて駆け寄るジャスティス。
ハッ、として身体を向けたデスに、飛び込むように、ガバッ!と抱き着く。
驚くデス。思わず息を停める。
両腕をデスの背中に回し、ギュッ、と抱き締め、彼女の肩に顔を埋める。
ジャスティス、両目から涙を流し、優しい笑顔を浮かべている。
ジャスティス「(艶やかな声で)ホントに・・・良かった・・・(喜びに溢れた声で)おめでとう! デス! 今までつらかった分! 苦しかった分! 絶対にエロファントと幸せになるんだよっ!」
デス「(鮮やかに頬を染め)お・・・お前に言われるまでも、ない・・・」
身体を離し、泣き笑いの顔で、コクン、と大きく頷くジャスティス。
デスの隣で、温かな微笑みで目線を向けているハイエロファント。
続いて、ストレングスとガオガオ、デスに走り寄ってくる。
ジャスティス、一歩引いて離れる。
タッ、と床を蹴って、デスの胸元に飛び込むストレングス。
デスのすぐ手前で止まり、『待て』の姿勢で尻尾を振るガオガオ。
ストレングス「(はち切れんばかりの笑顔で)おめでとっ! デスっ! 家族が出来たねっ!」
ガオガオ「(はち切れんばかりの笑顔で)ガウッ! ガアオオッ!」
デス「(優しい微笑みで)お前たち・・・ありがとう、な・・・」
布を左手に持ち替え、右掌でストレングスの頭を撫でるデス。
ガオガオの頭も、続けて撫でる。
ジャスティス「(大声で)あーっ! ずっるーい! ボクは撫でてくれなかったのにっ!」
ストレングス「(振り向いて、勝ち誇ったように、ニッ、と笑い)嫉妬しないでよ、ジャスティス?」
ジャスティス「(カアッ、と赤面して)だっ・・・誰が嫉妬してるって!?」
次を見計らったように、マジシャンとハイプリエステスが歩み寄ってくる。
入れ違いに参列者の方に下がる、ジャスティス、ストレングスとガオガオ。
ハイエロファントの前にはマジシャン、デスの前にはハイプリエステスが立つ。
マジシャン「改めて、おめでとう、エロファント、デス。本当はレディに花束のひとつも持ってくるべきなのだが、急だったものでな、後日、持ってくるとしよう」
ハイプリエステス「おめでとうざます、エロファントさん、デスさん。あたくし達に続いて、やっと次の夫婦が誕生したざますね。デスさんとは、久し振りにお会いしたざますが・・・(微笑んで)本当に嬉しそうで、幸せそうで何よりざます」
デス「ああ・・・実感してる。ハイエロファントと一緒にいる幸せとか、喜びとかを」
ハイエロファント「ふたりとも、ありがとう。デスと僕は、これから夫婦として歩んでいくよ。後輩夫婦として、いろいろ教えてもらうこともあるから、よろしくお願いしますね、先輩」
マジシャン「(フッ、と笑い)いつでも訪ねてくるといい。歓迎するであーる」
同時に会釈をして、踵を返すマジシャンとハイプリエステス。
今度は、ワールドとエンプレスが、ふたりの眼前に進み出てくる。
握っていた布をワールドに返すデス。笑顔で受け取るワールド。
ワールド「改めまして・・・デス、エロファント、無事に結婚式を迎えられたこと、お慶び申し上げますワ。勝手なことを仕出かしましたが、ワタクシとしては、嬉しい限りです。お騒がせして、本当にごめんなさいね(頭を下げる)」
デス「(はにかんで)いや・・・もう、いいんだ。正直かなり驚いたが、悪気があった訳ではないんだろうから」
エンプレス「(感心したように)ほぉ・・・心が広くなったねぇ。以前のあんたとは、見違えるようだわ」
デス「(フッ、と笑い)だとしたら、すべてハイエロファントのお陰だ」
ハイエロファント「(笑顔で)僕は、何もしてません。むしろ、僕がデスから受けた恩恵が、大きいです」
エンプレス「(楽しそうに、高笑い)おーっほっほっほ! いいねぇ! 最高の夫婦じゃないか! (しみじみと)あたしもいつか、素敵な旦那様を貰いたいもんだねぇ・・・」
ワールド「あら? 候補者はいらっしゃいますワよね?」
エンプレス「(驚きの表情で)は? 誰だい? 誰のことを言ってるんだい?」
ワールド「(クスッ、と笑い)・・・ご自分で考えてごらんなさい」
訝し気にワールドに目をやるエンプレス。
ふと、何かを思い出したように、振り返って参列者全員を見回す。
エンプレス「そう言や、フォーチュンとタワー、エンペラーは来てないのかい? まあエンペラーはともかくとして・・・ワールド、ちゃんとフォーチュンにもドロップ渡したんだろうねぇ?」
ワールド「ええ、真っ先に渡しましたワ。式が行われることは、お知らせもしましたし・・・」
その、僅かの後。
列柱室右手側に見える中庭に、キュイイイインッ!と虹色の光が湧く。
参列者たち、デスとハイエロファントが注視する目の前で、巨大な姿になっていく光の塊。
ブワン、と輝きが四散し、そこにはタワーと、頭頂部に乗ったフォーチュンが現れる。
目を丸くする参列者全員。
一際、驚いた顔をしているマジシャンとハイプリエステス。
タワー「(重厚な声で)ター・・・ワー・・・」
フォーチュン「すまんのう! 遅れてしもうて! ちょいと準備に手間取ったものでな!」
タワー、右掌を頭の近くに持ってくる。
それに、ぴょんっ、と飛び乗るフォーチュン。
ズズズズ・・・と腕をゆっくりと動かし、掌を回廊近くまで下ろすタワー。
フォーチュン、ひらっ、スタン!と、華麗な動作で回廊に飛び降り、すたすた、と祭壇に歩み寄る。
フォーチュン「皆、集まっておるか・・・わらわ達が一番遅れてしもうたのう」
ワールド「丁度、あなた方の話をしていたところですワ、フォーチュン。如何なさったのです?」
フォーチュン「まあ、理由は後に判るでな・・・(明るい声で)デス! エロファント! わらわからの祝辞はしばし待て! 先に、会わせたい奴がおるでな。(タワーを振り返り)タワー! 出してやれ!」
タワー「(頷いて)ター・・・ワー・・・」
タワー、腹部バルコニーの扉を、ガチャリ、と開く。
中から出てきた人物を、フォーチュンと同じように右掌を乗せ、回廊に移動させる。
タッ、カシャン!と見事に着地し、カツン、カツン・・・と足音を響かせて進む人物。
ランプの灯りに浮かび上がる、エンペラーの姿。
フォーチュン以外の全員の表情が、一変する。
エンペラー「これはこれは・・・皆様お揃いで・・・」
意に介さぬ様子で、後ろ手に手を組んで、祭壇方向に歩くエンペラー。
途端。
ズアッ!と派手に摺り足で、デスとハイエロファントを庇う位置に踏み出す数名の影。
ジャスティス「(キッ、と睨んで)エンペラー! 何しに来たッ!?」
ストレングス「(ギンッ!と睨み付けて)デスに手ぇ出すんなら! アタイが相手になってやるっ!」
ストレングス(父)「(気迫を込めて)ウオオッ! オレも闘うズォ!」
ワールド「(スッ、と切れるような視線で)結婚に異議がおあり? 邪魔は許しませんワ!」
マジシャン「僭越ながら、このマジシャンも戦列に加わろう。それでも尚、良き門出に茶々を入れるであーるか?」
フォーチュン「(両手を左右に広げ)まあまあ、待て、皆・・・今のエンペラーは、大丈夫じゃ。安心せい」
少しの、間。
静かに人垣が左右に分かれ、その間を悠然と進むエンペラー。
手を繋いだまま並んで立っている、デスとハイエロファントの眼前まで来る。
エンペラー、バサッ!とマントを優雅に靡かせ、片膝を床に着いて、右手を握って胸に当てる。
そして、深々と低頭し、両目を閉じる。
エンペラー「(威厳のある、澄んだ声で)法王猊下に於かれましては、本日の婚姻の儀、誠におめでとうございます。そして、法王夫人となられた死神、デス様に於かれましても、本日の良き日を迎えられたこと、このエンペラー、心よりお慶びを申し上げます」
目が点になる、参列者たち。
誰もが、これ以上ないほど意外そうな表情。
ジャスティス「(唖然として)嘘・・・あれがエンペラー? 別人じゃない?」
エンプレス「おいおい、何か悪いモンでも食ったのかい? 性格良くなってっけどねぇ」
ワールド「あれは・・・かつてのエンペラー、ですワ。まだ皇帝の自覚があった頃の・・・(フォーチュンを見て)何をなさったのですか?」
フォーチュン「前にも言ったであろう、“再教育”じゃ。いやー、なかなか苦労したぞえ。あんだけひん曲がった性格と根性を立て直すのは骨が折れたわ。まあ、でなければ婚礼の席になど連れては来ん」
デスとハイエロファント、何と言っていいか判らない様子で、顔を向き合わせる。
デス「(ハイエロファントを見詰め)・・・大丈夫なのか?」
ハイエロファント「(デスを見詰め返し)だと思うけど・・・もしもの時は、僕がいるから、心配しないで」
ハイエロファントとデス、エンペラーに目線を投げる。
ハイエロファント「ありがとう、エンペラー。お祝いの言葉、確かに受け取ったよ」
エンペラー「(頭を下げたまま)もったいなき御言葉・・・不肖、エンペラー、我が身を粉にしようと、今後とも猊下と御夫人の為に身命を賭す所存・・・しょぞ・・・(声が震え出し、ひっくり返り)しょ・・・しょ?」
フォーチュン「(ボソッ、と呟き)あ・・・電池切れじゃ・・・」
ジャスティス「(思わずフォーチュンに目をやり)はあッ!?」
頭を下げた状態で、動きを停止させるエンペラー。
暫くの、間。
更に、間。
エンペラー、急に目が覚めたように、グワバッ!といきなり顔を上げる。
エンペラー「(きょろきょろ、と辺りを見回し)あら? 何? 何処、ここ? アタシ、何してたのかしら?」
目線を祭壇側に戻すエンペラー。
ハイエロファントの姿を目に映し、突如、壊れたように表情を崩して笑う。
ビヨン!と、バネで弾かれたように飛び掛かっていくエンペラー。
バッ!とデスを胸元に抱きかかえて、きっ!と雄々しい視線を向けるハイエロファント。
エンペラー「(奇声混じりの声で)エロファントちゃぁぁぁぁん!!!」
フォーチュン「(懐からカードを1枚取り出し)『ワンド』のエース・・・」
フォーチュン、『小アルカナ』のカードを1枚、ヒュッ、と投げる。
大きな風の渦が湧き起こり、中から巨大な棍棒が出現。
凄まじい回転をしながら、エンペラーの頭上に向かう棍棒。
途端。
ズドゴンッ!!!と、全身を石の床に叩き付けられるエンペラー。
霧のように消散していく、大きな棍棒。
唖然とそれを見詰める、ハイエロファントとデス。
エンペラー、蛙のような恰好でうつ伏せになり、プクウゥ・・・と巨大なたんこぶを頭に作る。
白目を剥いて、完璧に気絶している。
フォーチュン、エンペラーの足を両手で掴んで、ずる、ずる、と回廊に引き摺っていく。
回廊真横に控えているタワーの目の前に、ドサ、と投げ捨てる。
腹部バルコニーの扉を開いて、右手でエンペラーの足を摘まんでぶら下げるタワー。
ポーイ、と腹部小部屋内に放り込む。ガシュン、と閉まる扉。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
ふううう・・・と、一仕事終えたような、満足げな顔をするフォーチュン。
フォーチュン「(振り向いて)さて」
ジャスティス「さて・・・(とんでもなく大きい声で)じゃなぁぁぁぁぁいっっっ!!! 何なんだよ! 結局治ってないじゃないか! ちゃんと教育してから連れてこないと危なっかしくて仕方ないよっ! あと『電池』って何ッ!? 何か仕込んだだけだったの!? 手抜きしないでやっといてよねっ!」
フォーチュン「(苦笑いで)すまぬすまぬ、取り敢えず祝典に間に合わそうとして、ちょこっと、のう・・・」
ワールド「(はあ、と溜め息を吐き)やはりエンペラーの修正は、一筋縄ではいかないのですワね・・・(デスとハイエロファントに目をやり)おふたりとも、大丈夫でした?」
デス「(未だ驚いた表情で)身体は無事だが・・・これは心臓に良くないな・・・」
ハイエロファント「(未だ驚いた表情で)僕も・・・さっきよりびっくりしたかも知れないよ、いろんな意味で」
フォーチュン「まあ驚かせてしもうたが、余興のひとつだと思うてくれ」
ジャスティス「(物凄く呆れた顔で)・・・そんな余興いらないよ・・・」
身体を返して、祭壇に正対し、デスとハイエロファントの前に立つフォーチュン。
真剣な表情と、澄み切った瞳をふたりに注いでいる。
デスとハイエロファント、改めて手を繋ぎ合い、フォーチュンに向き合う。
フォーチュン「挨拶が遅れた。デス、エロファント・・・(ニッ、と笑い)ようやっと結ばれたのう。目出度いことよ。そなたらがこのマジカルランドに生を受け、それぞれが使命を授かり、運命の荒波を越えて巡り逢い・・・そして、心身すべてを互いに結び付けたのじゃ。わらわはかつて、そなたらの未来は荒れておる、と言うたが・・・(目を細めて)今のわらわの目には、荒れた未来どころか、たった一本の道しか映っておらん。デス、エロファント、そなたらふたりの運命の道は、太く広く、わらわの見えん遥か彼方の時空まで繋がる、果てしない一本道となっておる!」
バッ、と右手を下方から振り上げ、腕を真っ直ぐにして、ふたりに翳すフォーチュン。
表情を緩ませ、微笑みを浮かべ始めるデスとハイエロファント。
フォーチュン、口元に、ニッ、と笑みを湛え、右腕を静かに下ろす。
フォーチュン「何故そうなったのか・・・(チラ、と祭壇奥のドロップの壜に目をやり)言わずとも良い。すべてお見通しじゃ。この『運命の輪』であるわらわの力も、父なる神の使命ですら越えよった。そなたらの結合は、最早何人たりとも脅かすことは出来ん・・・この良き門出に、わらわから、そなたらに言葉を贈ろうぞ・・・(真摯な表情で)共に行け! 決して互いの手を離すでないぞよ!」
ハイエロファント「(満面の笑みで)ありがとう! フォーチュン!」
デス「(満面の笑みで)いろいろと世話になった! 感謝する!」
呼応したように、満ち足りた笑顔となるフォーチュン。
ひとりひとりが頷き、微笑みを向けている参列者たち。
エンプレス「(ワールドを見て)どうするのさ? 宴はこれからやるのかい?」
ワールド「(エンプレスに目をやり)そうですワね・・・今宵はもう、遅い時間。明日以降でもよろしくて?」
エンプレス「そんじゃあ・・・大体の食材は城にあるから・・・(全員を見回し)あんたら! 明日の昼からウチの城で、ふたりの披露宴をしたいんだが! 都合はどうだい?」
ジャスティス「ボクらは大丈夫だけど・・・(デスとハイエロファントに視線を向け)主賓のふたりは、どう?」
ハイエロファント「そうだね・・・(デスを見詰め)折角だから、ご招待に与ろうか?」
デス「(ハイエロファントを見詰め)お前がいいのなら、あたしは問題ない」
エンプレス「(ニカッ、と笑い)決まりだねぇ! じゃっ、明日は正午から全員で宴会! 遅れたら鞭で打つよ!」
ストレングス(父)「(嬉しそうに)ウオオオッ! 遅れなくても打って欲しいズォ!」
自然と笑い声が上がる。
和んだ雰囲気の中、フォーチュン、再びデスとハイエロファントを視界に映す。
フォーチュン「実はな、デス、エロファント・・・そなたらに、祝いの品があるのじゃ」
ハイエロファント「(驚いたように)お祝いの品?」
フォーチュン「それを準備するので、駆け付けるのがちっとばっかし遅れた。今から、見せるでな。タワーの近くに、来い。(全員を見回し)そなたらも並べ! 面白い物を見せようぞ!」
タタタタタ・・・と回廊に走り寄るフォーチュン。
フォーチュン「(タワーを見上げ)タワー! 良いぞ! 始めよ!」
タワーの左眼が、キュイン!と綺麗な緑色を放つ。
そして、屈んで祭壇の方向に視線を送る。
デスとハイエロファントを中心として、全員が回廊に歩みを進め、集まる。
中庭に面して、タワーを見上げる一同。
タワー「(重厚だが、少し嬉し気に)エロファント・・・デス・・・ケッコン、オメデトウ・・・コレ、フォーチュンサマト、ワタシデ、ヨウイシタ・・・オイワイ・・・ハジメル・・・ミテイテ、クレ・・・」
ズオオオ・・・と身体を起こして立ち上がるタワー。
庭の芝生を踏み締め、ズン、ズン、と二歩下がって、両脚を据えてしっかり立つ。
ズ・・・と、両腕を肩の高さまで水平に挙げ、左右に広げて、掌を真上に向ける。
ピタ、とその状態で停止。
タワーの頭頂部、左右の腕の数ヶ所、掌の真ん中が、カパッ、と口を開ける。
その内側から、スウッ、と迫り出してくる、筒。
途端。
ドン!と大きな音。ヒュウウウウウ・・・と、筒から垂直に、何かが煙を引いて天高く昇っていく。
直後。
カアアアアッッッ!!!と、花火が宙に広がる。
すぐに、ドオオオオオンッッッ!!!と、足元までも震わせる破裂音。
神殿の遥か上空、いっぱいに次々と打ち上げられる、花火。
空間全部を極彩色に染め上げていく、花火の大輪。
瞳にその光を満遍なく映している、デスとハイエロファント、参列者たち。
誰もが、感嘆を顔に表している。
ドン! ヒュウウ・・・カアッ! ドオオン!・・・と、何発も何発も放たれる、打ち上げ花火。
その度に宙を乱舞する、七色の光。
ストレングス「(目を輝かせ)うわあーっ! すっごーいっ! きっれーい!」
ジャスティス「(興奮気味に)ホントきっれーい! こんな凄いの見たコトないよっ!」
ストレングス(父)「(興奮しまくって)ウオオオッ! 美しいズォッ!」
エンプレス「(笑顔で)いやぁ、参った・・・いいトコ持ってかれたね、こりゃ・・・」
ワールド「(微笑んで)素晴しいですワ・・・ふたりの門出に相応しい大輪の花、ですワ・・・」
目線を花火に釘付けにして微笑んでいる、デスとハイエロファント。
それを見て、ふっ、と満足そうに笑顔を浮かべて踵を返すフォーチュン。
静かに、その場を離れようとする。
マジシャン「フォーチュン!」
背後から声が飛んできて、ビクッ!と肩を跳ねさせ、立ち止まるフォーチュン。
フォーチュンのすぐ後ろまで駆け寄る、マジシャンとハイプリエステス。
彼女の背中に、真剣な視線を向ける、ふたり。
マジシャン「おまえに、謝らなくてはならない・・・過去を秘密にしていたこと、を・・・(奥歯を噛んでから)今更言い訳でしかないが、おまえがもっと成長し、落ち着いた頃に全部話すつもりだったのだ、フォーチュン。決して軽い話ではないからな」
ハイプリエステス「確かにあなたは、あたくしが産んだ子ではありません。でも、マジシャンさんとあたくしで、本当の娘と何ら変わることなく接してきたつもりざます・・・そしてあなたは、あたくしたちの想像する以上に、素晴らしい子に成長したざます。それは今も・・・本気でそう思っているざますよ・・・」
マジシャン「(俯いて)許してくれ、とは言わない。話も聞きたくないのなら、聞かなくても構わない。だが・・・(顔を上げ、凛々しい視線で)フォーチュン、私たちは、おまえの父であり、母であることには、何も変わりがない・・・だから・・・(優しい声で)いつでも、帰ってくるといい。おまえの家は、私たちのところであーるぞ」
ハイプリエステス「(柔らかく微笑んで)待っているざますよ・・・」
俯く、フォーチュン。
沈黙。
沈黙。
花火の音と光が、3人に降り注いでいる。
暫くの、間。
更に、間。
突然。
くるっ、と身体を返して、マジシャンとハイプリエステスと向かい合うフォーチュン。
目線は伏せたまま、口元を、きゅっ、と引き締めている。
ひたすら、彼女に視界を固定するマジシャンとハイプリエステス。
フォーチュン「(口籠って)・・・明日・・・城での宴が終わったら・・・」
フォーチュン、バッ、と顔を上げて、覚束ない視線を投げる。
何かを言い淀んだように、微かに唇を震わせる。
そして、決意を瞳いっぱいに表し、マジシャンとハイプリエステスを見る。
フォーチュン「(思い切ったような声で)だからっ! そのっ!・・・(一転して、頬を染め、言いずらそうに)夕餉を馳走になりに・・・行くぞよ・・・用意して、待っておれ・・・」
途端。
タッ・・・と走り寄り、ガバッ!とフォーチュンを抱き締め、そのまま屈むハイプリエステス。
両腕を回し、ぎゅっ、と力を込める。
ハッ、と驚いてハイプリエステスの襟足を見詰めるフォーチュン。
ハイプリエステスの両目から、つぅ・・・と綺麗な涙の滴が筋を成す。
ハイプリエステス「(嬉しそうに、震えて)腕に縒りを掛けてく作るざますねっ・・・」
フォーチュン「(潤んだ瞳で)・・・母上・・・」
ゆっくりとふたりに近付き、フッ、と微笑みを見せるマジシャン。
フォーチュンの頭に右掌を置き、そ・・・と優しく撫でる。
マジシャン「(穏やかな表情で)タワーも一緒に来るといい・・・共に酒を酌み交わしたいのでな・・・」
フォーチュン「(つぅ、と涙を一筋零し)・・・父上・・・(瞼を閉じ)すまぬっ・・・」
ハイプリエステスの肩に顔を埋め、泣き始めるフォーチュン。
子供のように、一切の邪気のない、可愛らしい泣き顔。
今も続く、華麗な花火の饗宴。
いつの間にか、デスとハイエロファント、振り返ってフォーチュンたち3人を見ている。
安堵したように顔を戻し、互いに顔を向ける。
深く絡み合う、眼差し。
同時に、陽溜まりのような満面の笑みを交わし合う、ふたり。
そして、改めて、光と音の乱舞を見上げ始める。
いつまでも止まない、歓喜の雰囲気。
天空遥か高みの星々が、祝福を贈るように、煌いている。
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