【回想シーン】
★ 森の外れ・草原のほとり
曇天の空。冷たい風が吹いている。
向き合って立っている、デスとハイエロファント。
ハイエロファント、少し驚いたような表情を彼女に向ける。
ハイエロファント「君は・・・」
デス「へぇ・・・あたしのこと、知ってるのか?」
大鎌を肩に掛けたまま、不敵な笑みを浮かべるデス。
ハイエロファント「デス、だね」
デス「(頷いて)ああ、その通り。あたしが死神だ。(据えるような目線を投げ)お前がハイエロファントか、法王の」
ハイエロファント「そうだよ。よく判ったね」
デスは、ハイエロファントの目を真っ直ぐに見る。
ハイエロファントは、デスの瞳に真っ直ぐに視線を注ぐ。
無言。
無言。
風が、凪ぐ。
ハイエロファント、唇を、ぐっ、と引き締める。
目線は、揺るぎなくデスに固定したまま。
対して、僅かだけ顔を伏せ、両目を閉じるデス。
デス「(フッ、と口角を上げ)・・・お前には、あたしを救う力なんて、ないからな」
途端。
右手を、バッ、と前方から真横に振り抜くハイエロファント。
ハイエロファント「(芯の通った、張りのある声で)そんなのやってみなくちゃ判らないよ!」
ハッ、と思わず顔を上げて、ハイエロファントを見詰めるデス。
真摯で、真剣そのものの表情を全面に表すハイエロファント。
デス、微かに唇を開き、意外そうな雰囲気を表に出す。
【回想シーン終了】
★ 神殿・ハイエロファントの寝室
ハイエロファント「あの時は、つい大声を出しちゃって・・・ごめんね、びっくりしたよね」
デス「(首を振り)いや、いいんだ。むしろ・・・あの一言が効いた感じがする」
ふう、と深く息を継ぎ、ハイエロファントを見詰めるデス。
デス「しかし決定的だったのは・・・(染み込むような声で)“仕事”の後に逢った時、だ」
【回想シーン】
★ 街はずれ・森の入り口に近い橋のたもと
満月の夜。雲ひとつない。蒼白い風景。
欄干の端に寄り掛かっているデス。影が、長く伸びる。
大鎌を右肩に立て、左手には大きめの布袋をぶら下げる。人の頭ほどの、何かが入っている様子。
その袋と、大鎌と、彼女の右半身を染めている、大量の血。
デス、ぼーっ、とした定まりのない視線を宙に泳がせている。
デス《(漠然とした様子で)・・・帰らなければ・・・》
ゆら、と身体を立てようと動かすデス。
突然。
ハイエロファント(やや離れたところから)「・・・デス?」
ハッ、と声の方向を見るデス。
橋の向こう側から近付いてくる、ランタンの橙色の灯り。
満月の明かりの下、程なく目視出来る距離まで歩み寄ってくるハイエロファント。
ハイエロファント「(微笑んで)こんばんは。今夜はランタン要らないくらい明るいから、すぐ判ったよ。こんな夜更けに逢うなんて、奇遇だね」
ランタンを左手に下げ、デスのすぐ目の前まで来るハイエロファント。
バッ、と顔を斜め下に向け、目線を橋の石畳に投げるデス。
唇を、ギュッ、と噛み、目を伏せる。
ハイエロファント「どうしたの?」
尚も言葉を発しないデス。
ハイエロファント、視線を上下させ、彼女の全身を瞳に映す。
ハイエロファント「あ、そうか。“仕事”帰りなんだね」
平然とした口調に、思わず彼を見るデス。
彼女の瞳をしっかりと見詰め返すハイエロファント。
ハイエロファント「(深く、優しい声で)大変だったね、お疲れ様」
両目を見開き、口を半開きにするデス。そのまま停止。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
デスの左目から、すーっ、と一筋の涙。
慌てて顔を伏せて、右腕で涙を拭う。
止まらない、落涙。
突然の出来事に、冷や汗を飛ばして右掌を向けるハイエロファント。
ハイエロファント「(焦って)だ、大丈夫!? ごめん、何か気に障ったかな!?」
デス「(頭を振り、涙声で)違う・・・違う・・・そうじゃない・・・(絞るような声で)いいから、行け・・・構うな・・・あたしに構うな・・・」
ふっ、と静かに微笑み、手を戻すハイエロファント。
そして、くるり、とデスに背を向けて、後ろ手に組んで立つ。
ハイエロファント「じゃあ・・・せめて君が落ち着くまで、ここにいさせて。気になるんだったら、僕は見ないようにするから・・・(両瞼を閉じ)君をこのままひとりには出来ないよ。だから・・・落ち着いたら、声を掛けて、ね」
ハイエロファントの背中を、見詰めるデス。微かに震えている。
暫くの、間。
くるっ、と踵を返し、ギュッ、と大鎌を右腕と肩で抱え込み、顔を真下に向けるデス。
右手の甲を目に当て、込み上げる嗚咽に耐えている。それでも流れ続ける、涙。
声を押し殺し、しゃくり上げているデス。
目を閉じたまま顔を上げ、瞼越しに蒼白い光を感じているハイエロファント。
背中合わせで、月光の中に浮かび上がる、ふたりの姿。
【回想シーン終了】
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