デスとハイエロファントの物語:REBOOT   作:桁石スミオ

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主よ、人の望みの喜びよ 【第2話】

【回想シーン】

 

★ 森の外れ・草原のほとり

 

 曇天の空。冷たい風が吹いている。

 向き合って立っている、デスとハイエロファント。

 ハイエロファント、少し驚いたような表情を彼女に向ける。

 

ハイエロファント「君は・・・」

デス「へぇ・・・あたしのこと、知ってるのか?」

 

 大鎌を肩に掛けたまま、不敵な笑みを浮かべるデス。

 

ハイエロファント「デス、だね」

デス「(頷いて)ああ、その通り。あたしが死神だ。(据えるような目線を投げ)お前がハイエロファントか、法王の」

ハイエロファント「そうだよ。よく判ったね」

 

 デスは、ハイエロファントの目を真っ直ぐに見る。

 ハイエロファントは、デスの瞳に真っ直ぐに視線を注ぐ。

 無言。

 無言。

 風が、凪ぐ。

 ハイエロファント、唇を、ぐっ、と引き締める。

 目線は、揺るぎなくデスに固定したまま。

 対して、僅かだけ顔を伏せ、両目を閉じるデス。

 

デス「(フッ、と口角を上げ)・・・お前には、あたしを救う力なんて、ないからな」

 

 途端。

 右手を、バッ、と前方から真横に振り抜くハイエロファント。

 

ハイエロファント「(芯の通った、張りのある声で)そんなのやってみなくちゃ判らないよ!」

 

 ハッ、と思わず顔を上げて、ハイエロファントを見詰めるデス。

 真摯で、真剣そのものの表情を全面に表すハイエロファント。

 デス、微かに唇を開き、意外そうな雰囲気を表に出す。

 

【回想シーン終了】

 

 

★ 神殿・ハイエロファントの寝室

 

ハイエロファント「あの時は、つい大声を出しちゃって・・・ごめんね、びっくりしたよね」

デス「(首を振り)いや、いいんだ。むしろ・・・あの一言が効いた感じがする」

 

 ふう、と深く息を継ぎ、ハイエロファントを見詰めるデス。

 

デス「しかし決定的だったのは・・・(染み込むような声で)“仕事”の後に逢った時、だ」

 

 

【回想シーン】

 

★ 街はずれ・森の入り口に近い橋のたもと

 

 満月の夜。雲ひとつない。蒼白い風景。

 欄干の端に寄り掛かっているデス。影が、長く伸びる。

 大鎌を右肩に立て、左手には大きめの布袋をぶら下げる。人の頭ほどの、何かが入っている様子。

 その袋と、大鎌と、彼女の右半身を染めている、大量の血。

 デス、ぼーっ、とした定まりのない視線を宙に泳がせている。

 

デス《(漠然とした様子で)・・・帰らなければ・・・》

 

 ゆら、と身体を立てようと動かすデス。

 突然。

 

ハイエロファント(やや離れたところから)「・・・デス?」

 

 ハッ、と声の方向を見るデス。

 橋の向こう側から近付いてくる、ランタンの橙色の灯り。

 満月の明かりの下、程なく目視出来る距離まで歩み寄ってくるハイエロファント。

 

ハイエロファント「(微笑んで)こんばんは。今夜はランタン要らないくらい明るいから、すぐ判ったよ。こんな夜更けに逢うなんて、奇遇だね」

 

 ランタンを左手に下げ、デスのすぐ目の前まで来るハイエロファント。

 バッ、と顔を斜め下に向け、目線を橋の石畳に投げるデス。

 唇を、ギュッ、と噛み、目を伏せる。

 

ハイエロファント「どうしたの?」

 

 尚も言葉を発しないデス。

 ハイエロファント、視線を上下させ、彼女の全身を瞳に映す。

 

ハイエロファント「あ、そうか。“仕事”帰りなんだね」

 

 平然とした口調に、思わず彼を見るデス。

 彼女の瞳をしっかりと見詰め返すハイエロファント。

 

ハイエロファント「(深く、優しい声で)大変だったね、お疲れ様」

 

 両目を見開き、口を半開きにするデス。そのまま停止。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 デスの左目から、すーっ、と一筋の涙。

 慌てて顔を伏せて、右腕で涙を拭う。

 止まらない、落涙。

 突然の出来事に、冷や汗を飛ばして右掌を向けるハイエロファント。

 

ハイエロファント「(焦って)だ、大丈夫!? ごめん、何か気に障ったかな!?」

デス「(頭を振り、涙声で)違う・・・違う・・・そうじゃない・・・(絞るような声で)いいから、行け・・・構うな・・・あたしに構うな・・・」

 

 ふっ、と静かに微笑み、手を戻すハイエロファント。

 そして、くるり、とデスに背を向けて、後ろ手に組んで立つ。

 

ハイエロファント「じゃあ・・・せめて君が落ち着くまで、ここにいさせて。気になるんだったら、僕は見ないようにするから・・・(両瞼を閉じ)君をこのままひとりには出来ないよ。だから・・・落ち着いたら、声を掛けて、ね」

 

 ハイエロファントの背中を、見詰めるデス。微かに震えている。

 暫くの、間。

 くるっ、と踵を返し、ギュッ、と大鎌を右腕と肩で抱え込み、顔を真下に向けるデス。

 右手の甲を目に当て、込み上げる嗚咽に耐えている。それでも流れ続ける、涙。

 声を押し殺し、しゃくり上げているデス。

 目を閉じたまま顔を上げ、瞼越しに蒼白い光を感じているハイエロファント。

 背中合わせで、月光の中に浮かび上がる、ふたりの姿。

 

【回想シーン終了】

 

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