★ 岩山・谷底
吊り橋の落ちた場所に通じる、谷底の道。
ガオガオ、背中にストレングスを乗せ、疾走している。
痛い程に顔に当たる雨粒を物ともせず、水溜まりに怯むことなく、飛ぶように走る。
両手両脚でしっかりと、ガオガオにしがみ付くストレングス。
やがて、行く先の上方、左右の崖に、吊り橋の残骸がぶら下がっているのが見える。
ストレングスとガオガオ、先ほど上から見付けた、倒れているライオンの姿を確認する。
身体左を下にして、力なく横たわったキング。
ストレングス「(大声で)キングっ!」
ガオガオから飛び降り、勢いよく駆け寄るストレングス。
遅れずにガオガオも、速度そのままで走る寄る。
ストレングス、キングの状態を目にして、ハッ、と息を飲む。
キングの頭部から、大量の流血。周囲にも飛び散っている。
ふたりの見ている前で夥しく流れ出て、近くの水溜まりをも朱に染める。
容赦なく叩き付ける雨。止まる気配のない血。
屈み込んで、キングの顔の手前に両掌を着くストレングス。
ストレングス「キング! アタイだよ! 判る!?」
ガオガオ「ガウッ! ガウッ!」
ゼエ、ゼエ、と苦しそうな喘ぎを繰り返すキング。
薄っすらと瞼を開け、緩慢な動きで視線をストレングスとガオガオに向ける。
ストレングス「気付いた!? しっかりっ! すぐ誰か呼んで・・・」
身体を起こすストレングス。振り返る。
直後。
カッ、と一瞬だけ稲光で満たされる谷底の空間。
白色化した周囲、先ほど走ってきた道の向こう十数メートルに、浮かび上がった影。
フードを被った蒼いマント姿。右肩には大鎌を掛けている。
追って、ゴロゴロゴロ・・・と聞こえてくる雷の音。
ストレングス「(茫然と)あ・・・」
降りしきる雨の中、ザッ、ザッ、と近付いてくるマント姿の人物。
血の気が引いていくのを感じるストレングス。目を丸く見開き、凝視する。
再度の稲光。フードの奥に、デスの顔。
尚も歩みを止めないデス。フード越しに、鋭い眼光を飛ばしてくる。
雷鳴が轟く中、2メートルほどの距離で立ち止まるデス。しゃがんだまま向かい合うストレングス。
デス「(奥底から響く重い声で)退け。そのライオンに用がある」
ガオガオ「(キッ、と睨み)ガオゥッ!」
デス「お前じゃない。その、倒れてるライオンだ」
ストレングス「(声を震わせ)・・・ちょっと待ってよ・・・お願い・・・」
ザッ、と再び脚を進め始めるデス。
大鎌を肩から下ろし、両手に握り直して距離を縮めてくる。
前に立ちはだかろうと、一歩前に出るガオガオ。
ハッ、と何かに気が付くストレングス。
ザッ、バシャッ、と水飛沫を上げるデスの足。
ストレングス「(腹の底からの声で)エロファントの兄ちゃんなら治せるかも知れない!」
途端。
ピタ、と停まるデス。ふたりの目の前。
訝しそうな目線を投げてくるデス。口元を固く結んでいる。
立ち上がって、両足でしっかりと地面を踏み締めるストレングス。
キッ、と凛々しい眼差しを、揺らぐことなくデスに放つ。
ストレングス「アタイとガオガオでエロファントの兄ちゃんを連れてくる! だからお願い! それまで待って!」
ストレングスの視線を受け、彼女の瞳を真っ直ぐに見詰めるデス。
ザアアア・・・と、雨の音が大きく響く。
暫くの、間。
更に、間。
デス、身体の前で持っていた大鎌を左手に持ち替え、刃を下にして、ダラ、と垂らす。
向かって右側に数歩歩き、ストレングスとガオガオに背中を向ける。
デス「(静かな声色で)・・・長くは待てんぞ」
一気に、パアアッ、と明るい表情になるストレングス。
大きく息を継ぎ、コクン、と頷いて、ガオガオを顔を合わせる。
ストレングス「行こう! ガオガオ!」
ガオガオ「(張りのある声で)ガウァッ!」
ガオガオに飛び乗るストレングス。
ダッ!と力強く、ぬかるんだ地面を蹴って、谷底の道を走り始めるガオガオ。
遠ざかっていくふたりの姿。あっという間に小さくなっていく。
それが見えなくなったを確認して、倒れているキングに近寄っていくデス。
すぐ近くで屈み込み、片膝を着き、キングの頭部の出血と傷を、じっ、と見る。
痛みで乱れた呼吸を繰り返すキング。眉間に皺を寄せ、両目は固く閉じたまま。
それから、大鎌を地面に横にして置き、マントの裾をキングの頭に、そっ、と被せるデス。
デス「(穏やかな口調で)・・・苦しいだろうが、少し待て」
雨がマントで弾かれ、それに気付いたキングが、目線を向けてくる。
焦点は定まっていないが、デスの顔を視界に映している様子。
★ (半時後)岩山・谷底
雨は小降りになっているが、止まず。
雷鳴は遥か彼方に遠ざかり、黒い雲が少し切れ始める。
屈んだ体勢で、マントの裾でキングの頭を覆ったまま、身動ぎもしないデス。
やがて、タタッ、タタッ、と谷底の道の向こうから、何者かが走ってくる音。
デス、顔を上げて、音のする方向に目線を投げる。
こちらに大股で、急ぎ走り寄ってくるストレングス。
隣に、飛ぶように走るガオガオと、背中にしっかりと跨っているハイエロファントの姿。
普段の法衣の上に、雨具のマントを着用している。フード越しに、彼の眼差しがこちらに向けられる。
それを瞳に映し、フッ、と口元に笑みを湛えるデス。
ストレングス(離れたところから)「連れてきたよーっ!」
ザシュッ、と停まるストレングスとガオガオ。
反動で大きく前に身体が振られるハイエロファント。慌てて、ガオガオにしがみ付いて堪える。
ガオガオが四足を踏み締めて立ってから、ゆっくりとした動きで降りるハイエロファント。
デス、彼の動作を、じっ、と見詰めながら、大鎌を持って立ち上がり、フードを外す。
ハイエロファント、フードを下ろし、持参したミトラ(司教冠)を被る。
ハイエロファント「お待たせ。ストレングスちゃんから、来る途中で話は聞いたよ」
デス「(ふう、と息を継ぎ)すまない、世話を掛ける。(キングに目をやり)どうやらあの吊り橋が落ちて、そのままここに叩き付けられたらしい。頭を強く打ってる。出血がかなり酷い。(声を落とし)正直、厳しいな」
ハイエロファント「判ったよ、ありがとう、デス」
ニコッ、と笑顔をデスに向けるハイエロファント。
薄く頬を紅に染め、艶やかな眼差しをハイエロファントに返すデス。
そして、ハイエロファント、キングに近付き、片膝を着いて、流血の続く彼の頭部を見る。
デス、入れ替わりに数歩距離を置き、大鎌を右肩に掛けてハイエロファントの背中を見詰める。
瞼を閉じ、真剣な表情で両掌をキングの頭部に翳すハイエロファント。
ハイエロファント「(凛とした声で)・・・聖なる力!」
途端、パアッ・・・と黄白色の光を放ち始めるハイエロファントの両掌。
その光がキングに降り注ぎ、頭部から身体全体を覆っていく。
ストレングスとガオガオ、じっ、とその様子を目にしながら、デスに歩み寄る。
ストレングス「待っててくれたんだ。ありがとうね、デス」
デス「(眉を顰め)・・・礼を言われる筋交いはない」
ストレングス「ええー、お礼くらい言わせてよ。エロファント兄ちゃんのお礼は素直に受け取ったくせに」
デス「(顔を赤くして、上ずった声で)なっ! 何を言ってる!」
ストレングス「(驚いて、目を開いて)・・・へぇっ! アンタのテレ顔、初めて見たよ! (ニッ、と笑い)なーるほど、エロファント兄ちゃんから言われるのって、そんなに嬉しいんだ?」
デス「(真っ赤になり)うっ! うるさい! 子供は黙ってろ!」
ハイエロファント「(重苦しい声で)・・・血が・・・止まらない・・・」
ハッ、とハイエロファントの背中に目線を移すデス、ストレングス、ガオガオ。
ふう、と短めに息を吐くデス。それから口を結ぶ。
ストレングス、ハイエロファントの傍らに近付き、キングを視界に映す。
雨粒が今もキングの顔に当たり、頭部、大きく開いた傷口からの流血が止まらない。
尚も治癒の術を施し続けるハイエロファント。表情は蒼褪め、眉を寄せている。
ハイエロファントの真横に屈み込んで、彼の左肩に右手を掛けるストレングス。
ストレングス「(虚ろな口調で)どういうこと・・・ねぇ、兄ちゃん、ねぇ、どういうことさ・・・」
段々と、ハイエロファントの肩を揺さぶり始めるストレングス。
ストレングス「ねぇったら・・・何で・・・何で・・・何で止めてくれないのさ・・・(悲鳴に近い声で)何で治せないんだよ! アンタ傷でも何でも治せるんじゃなかったのかよっ!」
デス「(怒声)いい加減にしろっ!!!」
突然、バッ、とストレングスの右腕を取り、グイッ、と引き寄せるデス。
そのまま彼女の胸倉を、ガッ、と右手で掴み、自分に向き合わせる。
憤怒の色を瞳から溢れさせ、ストレングスを睨むデス。
デス「例えハイエロファントの聖なる力でも! 生命力が残り少ない場合は治せないんだ!」
途端、大きく目を見開き、唖然とした表情に変わるストレングス。
デス「(怒りの表情を向け)お前の都合でハイエロファントをここまで引っ張り出しておいて、挙句に文句か! (声を一段と低く)ならば、お前が治せ。こいつの血を止めてみせろ。傷を塞いでみせろ。それとも他に何か出来るのか? 苦しみ続けるこいつの為に、出来ることがあるのか? (腹の底からの声で)答えろ! ストレングス!」
そっ、とデスの肩に手を置くハイエロファント。横に立っている。
それに気付いて、振り返るデス。ハイエロファントと眼差しが絡む。
ハイエロファント、悲し気な顔で、首をゆっくりと左右に振る。
すぐさま、パ、と右手を開いて離すデス。一気に落ち着いた表情を取り戻す。
短く数歩よろめくも、両脚に力を入れて立つストレングス。
ただし、目を開いて茫然としたままの顔で、蒼白になって俯いている。
ふう、と聞こえないくらい小さな溜め息をつき、ストレングスを見るデス。
デス「・・・下がっていろ。後は、あたしの“仕事”だ」
ザッ、ザッ、と足音を立て、キングに近寄っていくデス。
ストレングスの目の前に片膝を着いて屈み込み、申し訳なさそうな表情を向けるハイエロファント。
ハイエロファント「ごめんね、僕の力が及ばなくて・・・」
ストレングス「(ハッ、と顔を上げ、首を左右に振り)・・・謝るのはアタイさ。言い過ぎちゃって・・・(頭を下げ、声を震わせ)本当にごめんなさい・・・」
ハイエロファント「大丈夫、気にしないで。それに、ストレングスちゃんは、彼の為に出来たことがあるよ」
顔を上げて、ハイエロファントに視線を送るストレングス。
ハイエロファント「(優しい声で)僕を、ここまで連れてきてくれたこと」
直後、ストレングスの瞳が、潤いで煌く。
キングの傍らに立っていたデス、振り向いてストレングスに目線を投げる。
デス「ストレングス、こいつが呼んでいるぞ。来い」
ビクッ、と身体を跳ねさせて、おずおず、と身体を返すストレングス。
そして、一歩一歩、確かめるように足を運んでいく。
入れ替わりに離れて、ハイエロファントの傍に並ぶデス。
身体を起こして立ち上がるハイエロファント。
ストレングス、キングの顔の目の前に、両膝を着けて腰を下ろし、前屈みになってキングを見詰める。
間を置かず、ガオガオもストレングスの横に並ぶ。
ストレングスの両目に、薄っすらと涙が浮かぶ。
キング「(か細く、苦しそうに)・・・グ・・・ァ・・・」
すかさず、デスの横顔に目を向けるハイエロファント。
ハイエロファント「何て、言ったの?」
デス「・・・『泣くな』と言った」
キング、力のない小さな声で、尚も語り続けている。
自分の両膝に着いた手と腕が、微かに震えているストレングス。
デス「・・・『私は、サバンナで皆に嫌われた。この地まで来て、お前たちに出逢った。お前たちは私を恐れなかった。生まれて初めて、嬉しさで泣いた。濡れた頬の温かさを、お前たちは教えてくれたんだ』・・・」
深く息を吸い、静かに吐き、彼方を見るような視線でキングを見ているデス。
デス「(目を伏せ)・・・『もし今、お前たちが私の為に泣こうとしてるのなら、頼む、泣かないでほしい。お前たちは私の太陽だった。だから最後も、泣かずに見送ってくれ』・・・」
デスとハイエロファント、深く穏やかな眼差しをキングに向ける。
ストレングス、右拳で、グイッ、と両目を拭い、凛とした表情になる。
ストレングス「(グッ、と一度息を飲み)・・・解った・・・泣かないよ、キング」
キング「(ほとんど聞き取れない声で)グ・・・グァ・・・」
ストレングス「(大きく頷き)うん! またいつか逢おうね!」
ガオガオ「(大きく頷き)ガウァッ!」
ニィ・・・と口角を上げて、目を細めて笑顔を見せるキング。
それが合図のように、再びデスがキングに近付いていく。
名残惜しそうに立ち上がり、入れ替わりにハイエロファントの横に並ぶストレングスとガオガオ。
デス、キングの目の前に立ち、フードを被り、懐から髑髏の面を取り出す。
デス「(静かな口調で)待たせたな。すぐ、楽にしてやる」
傍らのストレングスに目をやり、心配げな顔で彼女を見るハイエロファント。
ハイエロファント「君は、目を瞑っててもいいんだよ」
ストレングス「(首を左右に振り)大丈夫、見てるよ・・・ちゃんと見届けてあげなきゃ・・・」
デス、髑髏の面を装着し、大鎌を身体の前で両手で持つ。
途端、クワァッ・・・と、全体が蒼白い光を放ち始める大鎌。
マントが、ふわっ、とデスの身体の前を覆う。
大鎌を両手でしっかりと握り、頭上まで大きく振り上げるデス。
ストレングスの目線とキングの首元の間の視界が、一瞬デスの身体で隠される。
直後。
渾身の力で、キングの首めがけて振り下ろされる大鎌。
ザッ! シュゥゥゥッ・・・と、余韻を後に引いて、刃がキングの首を通過する。
クルッ、と鮮やかな回転で弧を描き、奥から手前に振り抜かれる刃の軌道。
後を追うように、雨水と血が混ざった紅の飛沫が、半月の形を空間に成す。
間髪を入れず、キングの身体全体が、大鎌と同じ蒼白い光を発する。
光は一度大きく膨らみ、急激に渦を巻いて集まり、キングの身体の上で玉状になる。
大鎌とキングの身体から出た光は、両掌ほどの球体になって浮かんでいる。
光球体の下に、スッ、と右手を差し入れるデス。
デス[面の奥から]「(凛とした声で)・・・行け!」
デスの右掌が、瞬きの間、ポウッ、と黄白色に光る。
蒼白い光球は、スーッ・・・とゆっくりと、静かに上昇を始める。
ストレングス、ガオガオ、ハイエロファントの見ている眼前で、空に昇っていく光の玉。
段々と速度を増し、流星のように一気に天に駆け上がる。
黒雲が切れた隙間に、点となって吸い込まれていく光球。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
いつの間にか止んでいる、雨。
髑髏の面を外し、マントの内側に仕舞うデス。
フードを外し、大鎌を左肩に掛け、ふうう、と長く大きく息を継ぐ。
今度は、懐から布袋を取り出し、キングの亡骸の前にしゃがみ込む。
宝物を扱うように丁寧な動作で、布袋にキングの頭部を収める。
それを左手に持って立ち上がり、周囲の地面に目を凝らすデス。
数歩離れた崖寄りの、石の少ない黒土の場所まで近付く。
デス、大鎌の柄の先で地面を押してみて、先端が土にめり込むのを確認してハイエロファントを振り返る。
デス「身体はここに埋める。土もそれほど固くなさそうだ」
ハイエロファント「(袖を捲りながら、デスに歩み寄り)僕も手伝うよ」
ストレングス「(大声で)待って!」
思わずストレングスの方を向く、ハイエロファントとデス。
ストレングス「・・・それ、アタイにやらせて。(キッ、と目線を投げ)アタイひとりにやらせて!」
奥歯を噛み締め、遣る瀬無い表情になるストレングス。
ストレングス「(俯いて)結局、アタイは何も出来なかった・・・苦しんでたキングの為に、何もしてあげられなかった・・・」
すかさず、何かを言おうとするハイエロファント。
途端、スッ、と右手で彼を制するデス。
振り向き、ハイエロファントに目配せをして、一度小さく頷く。
ハイエロファント、口を結び、デスを見詰め返す。
ストレングス「(バッ、と顔を上げ)だからせめて! お墓くらいはアタイひとりで造らせて!」
デス「・・・判った。やってみろ」
コク、と一度頷き、すぐにデスの示した地面に駆け寄り、素手で掘り始めるストレングス。
続いてガオガオ、両前足でストレングスと同様に土を掻き、掘り進める。
ストレングス、ガオガオに目をやり、僅かに動きを止めるが、再び地面を掻いていく。
一掻きで、ガッ、と大量の土や泥、石を横に盛っていくストレングス。
数歩離れた位置で、並んでそれを見ているデスとハイエロファント。
デス「(少し遠い目をして)このキングというライオンは、あたしと同じだった」
デスの横顔を見詰めるハイエロファント。
デス「キングにとってのストレングスは、あたしにとってのお前と同じだったんだな。(ハイエロファントを見詰め返し)お前は初めからあたしを恐れなかった。目を背けなかった。それどころか、あたしを見ていてくれた。あの月夜の晩の“仕事”の後ですら、お前はあたしを見てくれた。だから・・・(左手に下げた布袋を見て)キングが流したと言ってた涙の理由は、理解出来る。今のあたしには・・・いや、今のあたしだからこそ、そう思えるんだ」
優しく、温かい眼差しをデスに向けるハイエロファント。
デス「お前には正直に話すが・・・(切なげに)今日、初めて切っ先が鈍った。僅かだったと思うが、自分で判った。迷うほどではなかったにせよ、こんなことは今までなかった。(自嘲気味に)情けない話だがな」
ハイエロファント「そうだったんだ・・・(微笑んで)でも、いつも通りちゃんと送ってあげられたね、お疲れ様」
スッ、と立ち上がるストレングス。
足元には、横幅2メートルほど、奥行1メートルほど、深さ1メートルほどの穴が出来ている。
何も言葉を発さず、キングの亡骸に歩み寄るストレングス。
グッ、と奥歯を固く噛み、キングの身体を持ち上げ、掘った穴の縁まで移動する。
そのまま穴に飛び降り、そっ、と穏やかな動きで、底にキングを横たえる。
飛び上って穴から出て、間を置かず、掘り出した土や石をキングに被せ始めるストレングス。
あっと言う間にキングの亡骸は埋まっていき、見えなくなる。
ストレングスとガオガオ、周りから土や石を掻き集めて、小さな塚を造る。
それを、ポン、ポン、と手でしっかりと固めるふたり。
ストレングス、少し離れた崖下にある、一抱えもありそうな岩を見付ける。
すぐに駆け寄り、ひょいっ、と軽々と持ち上げて戻って、慎重な動作で塚に乗せる。
ふう・・・と深い呼吸を、一度するストレングス。
ストレングス「(振り向いて)これで・・・いいかな?」
ハイエロファント「(頷いて)立派なお墓だよ。ありがとう、お疲れ様」
出来上がった墓の近くにある水溜まりで、バシャバシャ、と両手を洗うストレングスとガオガオ。
ふと、吊り橋の落下した付近に目をやるハイエロファント。
キラ、と何かの金色の輝きを見付け、近付いてみる。
橋板が焦げて散らばっているのに混じって、掌の半分ほどの大きさの琥珀を発見する。
ハイエロファント、それを持って戻ってくる。
ストレングスとガオガオ、墓の前で身体を返し、ハイエロファントの持つ琥珀を凝視する。
デス、一瞥してから、キングの墓に歩み寄り、じっ、と墓全体を見ている。
ハイエロファント「(琥珀を提示して)変わった石だね。この辺の石じゃない。何だろう?」
ストレングス「多分・・・キングが持ってきたんだと思う」
少し驚いたような顔になるハイエロファント。
ストレングス「キングってば、アタイんトコに来る度に、お土産を持ってきてくれてたんだ。『めのう』って石とか、『びゃくだん』って木の枝とか、アタイの知らない物ばっかで・・・とーちゃんも驚いてた。珍しい物ばっかりだ、って」
ハイエロファント「(感心した声で)そうだったんだ」
ストレングス「それ・・・お墓に、お供えした方が、いい?」
ハイエロファント「(首を左右に振り)君が持って帰った方がいいよ。その方が、キングもきっと喜ぶ」
琥珀を、ストレングスに手渡すハイエロファント。
右手に持ったそれを、改めて見詰めるストレングス。隣で目線を固定しているガオガオ。
透明度の高い、金色の琥珀。鮮やかな輝き。
ふたりの瞳に、同色が投影される。
それまで墓を見ていたデス、ザッ、と音を立て踵を返す。
ビクッ!と反応し、デスを振り返り、身体を正対させるストレングス。
ふたりの目線が、宙で結ばれる。
デスは、冷静な表情。
ストレングスは、僅かに沈んだ表情。
チラ、とキングの墓に目線を投げ、すぐにストレングスに視界を戻すデス。
左手に大鎌と布袋を一緒に持ち、下げる。
一度自分の右掌を見て、何も付着していないのを確認する。
そして足を前に進め、すれ違う寸前の位置で、ストレングスの横に一度立ち止まる。
直後。
デス、柔らかい動作で、彼女の頭に右手を置き、髪を軽く撫でる。
デス「(フッ、と口元に笑みを湛え)・・・上出来だ」
途端。
大きく、丸く見開かれるストレングスの両目。
正面に真っ直ぐ向かれ、停止する彼女の目線。
デス、大鎌を右手に持ち直して肩に掛ける。
それから、再び歩を進め、ハイエロファントの前に立つ。
眼差しを絡める、ふたり。
ハイエロファント「(笑顔で)後で行くからね」
デス「(頷いて、笑顔で)待ってるぞ」
ザッ、とブーツの音を響かせ、谷底の道を戻り始めるデス。
彼女の背中を、ずっと見詰めているハイエロファント。
デスの後ろ姿が見えなくなるまで、そのまま。
やがて、静寂が訪れる。
暫くの、間。
ストレングス「(震える声で)ねぇ・・・今なら・・・泣いていいかなぁ・・・」
身体を返して、ストレングスの背後まで近付くハイエロファント。
肩を震わせて立ち尽くすストレングス。隣で切なげに彼女に目線を送るガオガオ。
ストレングス「・・・キングとお別れしたのと・・・デスに褒められたのと・・・もう・・・ごっちゃになって・・・」
ハイエロファント「(静かで、優しい声で)うん。きっとキングも、いいよ、って言ってくれるよ。もちろん、デスもそう言ってくれるよ」
沈黙。
沈黙。
沈黙。
更に、間。
ぶわっ、と両目から涙を溢れさせるストレングス。
止めどなく流れ出る、涙。
顔を伏せ、両掌を目に当てて顔を覆い、しゃくり上げ始める。
ガオガオ、墓石に視線を移し、両前足で互い違いに自分の頬に流れた涙を拭う。
キングの墓の前、項垂れて泣き続ける、ふたり。
静かで穏やかな表情と視線を向けている、ハイエロファント。
黒雲が切れ、陽射しが谷底に降り注ぎ、キングの墓所を鮮やかに照らす。
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